ツール・ド・おきなわ市民210km。日本のロードレースシーンの一年を締めくくる戦いと位置づけられ、事実上「ホビーレーサーの頂点」を決定する大会である。ホビーのレースとしては国内最長の210kmを有し、上り区間や海の風といった様々な気象条件と戦う非常に難しいレースだ。
実際に沖縄の市街地を封鎖し、実際の道を走る。ホビーレーサーにとってはとても貴重なレースとして位置づけられている。当然そのレースで優勝することは1つのステイタスであり、むしろアマチュアの我々にとってはプロの国際レースよりも気になるレースだ。
事前に私が行った調査でもおよそ77%の人がプロのレースよりもアマチュアの市民210kmの勝敗を気にしている。
ツール・ド・おきなわ2016で、一番勝敗が気になっているカテゴリは?
— ITさん (@FJT_TKS) 2016年11月10日
今回はそのツール・ド・おきなわ市民210kmで5位入賞した松木選手のレポートを紹介したい。松木選手は2009年に同レースで3位、その際の優勝は武井選手、2位高岡選手、3位松木選手だった。名実共にトップアマの松木氏である。
ツール・ド・おきなわ市民210kmのレースで、最後に残った5名の選手たちの間にはどのようなドラマが有ったのだろうか。実際に210kmを駆け抜けた松木選手が綴るレース展開を紹介しよう。
2016ツール・ド・おきなわ市民210km 5位
今回は実業団のレースを9月で切り上げて準備に入った。10月はシクロクロスも出ていたのでちょっと練習不十分感はあったけども久々に月間2000キロ位走ってたのかな。関西プロジェクトポンポコ(※1)の練習会に参加頂いた皆さんには心から感謝したい。
当日現地で補給食を調達するアクシデントがあったが補給食は以下のとおり。
- カロリーメイト1箱
- スポーツ羊羮3本
- 梅丹3袋
- アミノバイタルゼリー2本
- 2RUN1袋
- ボトル:マグオン1、CCD1
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7時47分レース開始。序盤は安全第一での走行。本部過ぎたあたりのアップダウンで後ろに下がったところ、目の前で道路中に広がる大落車祭り。ここはシクロクロス的に歩道に上がり回避。この落車で高橋さんなどの有力選手が何名か、走行不能になってしまったのが本当に残念。
海岸線は有力どころは誰も動かずに平和に進む。一度目の普久川ダム。ここも大きな動きははなく通過し、辺戸岬方面も誰も仕掛けずに平和に通過する。二度目の普久川ダムの後半からレースが動き出す。集団からやや井上さんが先行し、高岡さんがブリッジ。それを逃すまいと森本さんが追走。そこに私も乗る。
下りに入り森本さんが前の二人からやや離れているのでLightweightの性能をフル発揮して井上さんと高岡さんに追い付く。二人ともGOKISOを使っているし相当に下りが早い。後ろは開いたかと思ったが、補給所の辺りで武井さんが数名を引き連れて追いかけてくる。
一気に下り、高江の登りに入る頃には人数は20名くらいになっていたのか。小学校前から始まる高江の登りは、井上さんが単独先行し、ふるい落とすモードだ。高岡さんがすかさず追って詰める。私はその後ろでいかなる動きにも対応できるように息をひそめる。井上さんに代わって森本さんが牽く。
ピーク直前に武井さんが集団を軽く抜け出すアタックで実力の違いを見せる。しかし、これは敢えて追わない。ジリジリ集団で詰める。再び武井さんが行く。高岡さんが追う。
清宮さん(竹芝)、森本さん(イナーメ)と詰める。ここで森本さんがかなりきつそうだ。高岡さんが武井さんとは違うやり方でジリジリペースを上げてふるいにかける。そんな中、武井さんのアタックに高岡さんが反応し、井上さんが追いかけたが高岡さんにハスって井上さんが落車。
そして森本さんも脱落してしまい、集団の人数は10名以下に。そうこうしているうちに短い登りで武井さんがアタックし、高岡さんが単独でジワジワと追いかけて二人の逃げができてしまう。この時、いける足はまだあったが日本を代表する怪物二人に挑みに行くことに躊躇した。
おそらく、青木さんもそうではないだろうか。この時点で追走できるメンバーは6名しかいない。竹芝の清宮さん、原さん(ジャージが違うのでまったくわからなかった)、ウォークライドの青木さん、オッティモの河合さん、SHIDOの中尾さん。ここにイナーメの中村龍太郎さんや、なるしまの小畑さんといった有力選手が複数いる事を想定をしていたのだが、完全に想定外のレース展開になっている。
フォルツァの新井さんもいたが、当然武井さんが前にいる状況では回らない。昨年2位の青木さんが、まだ追いつくと声かけて頂き、強烈に引いていく。しかしその差は10秒に始まり、14秒、17秒と微妙に広がっていく。やがて武井さんが前からおりてきて、
高岡さんヤバイわ
と一言。武井さんと、新井さんが気づいたらいなくなり、登りを登る度に脱落者を出し、高岡さんとの差が1分に広がり、一つの登りを越えると2分に広がる。後で出力をみると登りで260wくらいしか出ていない。高岡さんは300wを越える出力で越えているのだろう。
慶佐次の補給所で全員が補給をしている間に、清宮さんが単独で抜けていく。しかししばらくしてかなりフラフラになって戻ってきた。全員が踏む足がなくなり暑さも重なり苦しんでいる。高岡さんとのタイム差は3分を越えてあまりの強さに笑うしかない状況。
まずは表彰台を確定させるべく登りは私がペースを作り下りは青木さんがペースを作るような感じで進む。青木さんに「ゴールまで協力していきましょうか」と声かける。最後の羽地ダムの登りでは、両足が痙攣。色々な筋肉を総動員するが痙攣が止まらない。気合いで痛みを誤魔化す。250wくらいしかでない。
トンネル抜けて右に曲がった斜度のきつい坂でダンシングをしたら、「産まれたての小鹿状態」。足が極限に来ている。羽地ダムを青木さんとオッティモの河井さんと三人で越える。あとのメンバーは私と青木さんで牽いているうちに気づかない間にいなくなってしまっていた。
ダムを下って最後のゴールまでの平坦。
足がいっぱいなのもあるが、2位、3位の表彰台を誰が取るかでお互いに牽制気味でいまいちペースか上がらない。それでも後ろもちぎれた面々は「足がいっぱいだから追い付いて来ないだろう」と、たかをくくっていた。イオン坂もゆっくり越えて、ラスト1キロ。三人が完全に牽制に入り、時速20キロくらいになってしまう。
しかし・・・、ここで衝撃的なことが起こる。
突然、一人の選手が我々を凄いスピード差で抜いていく。他のカテゴリーも混走しているため一瞬事態が飲み込めなかったが、井上さんだ。この事態を把握する数秒間が完全に命取りになった。三人がお見合い状態になり、慌てて追走するも50メートルくらい離れてしまった。
なんとか追い付こうと試みるも私の足は残っておらず、最後はまったく力が入らずにスプリントを発揮することなくゴールとなった。
優勝の高岡さんは完全にレベルが違った。前回2009年戦った時よりも遥かに高いレベルだった。最後ぶち抜いて2位に入った井上さんも落車しながらも最後の単独で追い付いてきたあのパフォーマンスは驚異的。途中の力も2位にふさわしい走りだったと思う。素直に力負け。
ずっと一緒に走った青木さんも下りと平地のパワーが強烈だった。最後は展開のあやもあり、結果は水物なのでなんとも言えんが、実力的にも今回は5位だったのだろう。しかし、サラリーマンとして落車なく怪我なく無事にゴールできて現状の自分の力は出しきったことが一番大きい。
そしてこの最高レベルのメンバーでやりあえたことが最高の楽しい時間だった。生きてるということはこういうことを言うんだなと。トレーニング、補給、体調管理の反省点は来年また活かすとしよう。
2016ツール・ド・おきなわ 市民レース210kmリザルト
1位 高岡亮寛(イナーメ信濃山形) 5:20:20.546
2位 井上亮(Magellan Systems Japan)+5:40.578
3位 河合宏樹(オッティモ) +5:41.933
4位 青木峻二(ウォークライド) +5:42.499
5位 松木健治(有限会社村上建具工房ハイランダー)+5:43.537
6位 中尾峻(Team SHIDO) +6:15.326
使用機材
フレーム:スコット FOIL
パワーメーター:パイオニアペダリングモニター
ホイール:Lightweight G3 TU
メカニック:村上大輔(工房ハイランダー)
寄稿:松木健治「最強のアマチュアレーサーを決めるツールド沖縄210キロ」