「現実世界で速く」
ENVEのSES(スマート・エンヴィ・システム)が5年ぶりにリニューアルした。SESを手掛けているのは、元F1のエンジニアであり、エアロダイナミクススペシャリストのサイモン・スマート氏だ。
リニューアルしたSESは3世代目にあたる。数々の新機能と時代の数歩先を見すえた新型SESは、エアロ性能の向上、軽量化、効率性、そして「Real-World Fast (現実世界での速さ)」を掲げたホイールだ。
新型SESシリーズはいくつかのアップデートが施されている。
- フックレスリム
- 最新ビードシート径規格ETRTO
- リムの軽量化
- ディスクブレーキオンリー
- チューブレスタイヤオンリー
- 最小タイヤ幅25mm
リムプロファイルや仕様に大幅な変更が施されているが、ENVEのリムといえば優れた空力性能だ。ENVEの哲学である「Real-World Fast」は3世代目でどこまで高められたのだろうか。今回のインプレッションは、ENVEの新型SES 6.7を実際に用いて実走テストを行った結果をお伝えする。
エアロダイナミクス

早速だが、ホイールのエアロダイナミクス性能はリムハイトに依存”しない”。リムハイトが高くなれば高くなるほど、空力性能が向上するかと思いきやそれは間違いだ。実際はそう簡単な話ではない。空力性能は、リムのみならず、タイヤ銘柄、タイヤ幅、そして空気圧(タイヤの膨張度合い)も影響する。
前から向かってくる風が、はじめに衝突する機材はタイヤだ。そのため、開発力あるメーカーはリムとタイヤをセットでデザインする。スペシャライズドのROVAL、GIANTのCADEX、そしてENVEがタイヤをインテグレートした状態で空力の改善を行っている。
新型SESは指定のタイヤ(ENVE SES 27)を使用することで空力性能が最大になるという。その性能は、世界最速のバイクにこぞって採用されているSWISS SIDEが開発した世界最速のホイールDT SWISS ARC 1100 DICUT 62を凌ぐ(ENVE6.7の場合)。
同一カテゴリーのリムハイトであれば、新型ENVE SESはどのライバルよりも空力性能が良いデータが出ている。ただ、ENVEが公開している風洞実験の結果はライバルメーカーのホイールに、同社のENVE SES 27タイヤを取り付けた場合の結果であることを指摘おかねばならない。
前述したとおり、ホイールの空力性能は「リム形状」と「タイヤ」と「タイヤ空気圧」によって決定される。そのため、ENVE SES 27タイヤに特化してチューニングされた新型SESの結果が良いのは当然の結果といえる。
実際には、Continental GP5000や、MICHELIN POWER CUPといったベンチマークになっているタイヤで風洞実験を行うことが望ましい。しかしながら、メーカーのプロモーション目的もあるため、実施は難しい。
新型SESには4種類のモデル(2.3, 3.4, 4.5, 6.7)が存在している。どのモデルも基本的なリムプロファイルは同一だ。しかし、リムハイト、リム内幅、リム外幅が異なっている。空力性能が最も良いのがENVE SES 6.7だ。クラス世界最速の座を守ってきたDT SWISS ARC 1100 DICUT 62を凌ぐ空力性能を備えている。
上図はTARMAC SL7を用いたSES各種の加重平均計算結果(32km/h)だ。新型SES 6.7SES 7.8の空力性能を上回っている。SES 4.5も7.8に迫る空力性能を備えておりその差は0.2W以内だ。
48km/hの場合はSES 7.8が最も高い空力性能を示している。次いで6.7、4.5という結果だ。6.7と4.5の間には1Wに満たない差が生じているが重量やリムハイトを考えると4.5の性能の高さがうかがえる結果だ。
使用するシチュエーションに応じて、重量と空力性能のバランスを考慮する必要がある。ENVEの新型SESは、様々なリムハイト(前後の高さも異なる)を用意し、トライアスロン、ロード、ヒルクライム、グラベルまで幅広い対応の幅を持たしていることがわかる。
リムハイトの使い分け
開発力と資金力のあるメーカーは1つのモデルであっても、前後で異なるリムハイトを設定している場合が多い。ROVALのRAPIDEやENVEのSESがそうだ。
ホイールの役目は、フロントとリアで大きく異なっている。風が真っ先にあたるフロント側は空力性能や横風にあおられにくい(横力が生じにくい)性能が求められる。リア側ホイールは、後方に流れていく空気をできるだけスムーズにすること、そして駆動剛性が求められる。
ROVALのRAPIDEはこの特徴が最も顕著なホイールの1つだ。フロントリムの幅は35mmという極太でリムハイトが51mm、リアリム幅は30.7㎜で高さ60㎜だ。
前後異なる設計は、その分だけ金型が必要になるためメーカーはあまりやりたがらない。開発力があり、かつホイールに対するこだわりと飽くなき追求ができるメーカーだけが「本当に考えた」ホイールを結果として生み出していることがわかる。
TTバイクで前後に異なるホイール(ディープリム&ディスク)を使用する考え方と同じだ。
前置きが長くなってしまったが、新型SESも前後で異なるリムハイトとリムプロファイルの設計が行われている。より正確に言うと、SESシリーズはこれまでずっと前後異型を採用してきた。それがSESシリーズに掲げられた妥協のない開発思想であり、ホイールの最適解といえる。
その上で、新型SESシリーズの各リムハイト別の特徴や、使い分けを改めて確認する意味も込めて使用用途をまとめた(メーカーのキャッチコピーも添えて)。
- SES 2.3:山岳を極める新王者
- SES 3.4:驚異の守備範囲の広さ
- SES 4.5:エアロロードホイールの真髄
- SES 6.7:科学の力が可能にしたその性能は、実世界で実証済み
SES 2.3 山岳を極める新王者

ENVE SES (c)ダイアテック
ENVE SES 2.3は、前後セットで1,197g(SRAM XDR仕様)と非常に軽量なホイールだ。リム実測重量はフロント291g、リア296gだ。実測数値で300gアンダーという驚異の軽量リムに仕上がっている。1gでも軽量化したいヒルクライマーに適したホイールだ。

ENVE SES (c)ダイアテック
軽量なリムである一方で、リムプロファイルは最新設計に仕上げられている。内幅は21mm、外幅は25mmだ。フロントリムハイトは28mmで、リアは32mmだ。前後異なる異型リムはロープロファイルのSES 2.3でも踏襲されている。

ENVE SES (c)ダイアテック
SES 2.3は軽さに全振りしたホイールだ。お世辞にも空力性能が良いとは言えない。それと引き換えにクラス最高の軽さを手に入れている。用途としては、完全に山岳設定になっているがエアロを無視して振りの軽さを手に入れていサイクリストにはSES 2.3が合うかもしれない。
SES 3.4 驚異の守備範囲の広さ

ENVE SES (c)ダイアテック
幅広い用途で使用できるのがSES 3.4だ。グラベルからロードまで様々なシチュエーションで使用することができる。ENVEのホイールが優れているのは、「本当に」グラベルとロードを走れる設計になっていることだ。

ENVE SES (c)ダイアテック
具体的にはアンバウンド・グラベル(旧名ダーティー・カンザ)の過酷な地形でも実績がある。SES 3.4の万能さはホイール版の、「スイスアーミーナイフ」とメーカーは表現している。気になる重量は前後セットで1,390g(エンヴィハブ、XDRドライバー仕様)だ。

ENVE SES (c)ダイアテック
ホイールとしては必ずしも軽いとは言えないが、ENVEのグラベル系サポートライダーのほとんどがSES 3.4を使用しており堅牢性が高い設計に仕上がっている。
SES 4.5 エアロロードホイールの真髄

ENVE SES (c)ダイアテック
一般的なロードバイク愛好家に最も適したモデルがSES 4.5だ。重量と空力性能のバランスが最もとれたモデルと言える。重量はSES 3.4の1,390gに対して、SES 4.5は1,452gだ。この重量差は60gほどあるが、注目したいのはSES 4.5のリムハイトだ。

ENVE SES (c)ダイアテック
フロントリムは50mm、リアリムは56mmとハイプロファイルにカテゴライズされるリム設計になっている。実測重量もフロント420g、リア436gと他社の50mmリムハイトリムよりも軽量に仕上がっている。参考までにROVALのCLX50のリム重量は440g前後だ。

ENVE SES (c)ダイアテック
内幅は、25mmであるため27mm幅以上のタイヤが推奨されている。25mmタイヤの使用は実質的に使用不可だ。それと引き換えに、ハイボリュームのロードタイヤは転がり抵抗が低い。ENVEの社員が最も気に入っているモデルということもあり、タイヤとリムプロファイルの設計も絶妙に仕上がっている。
SES 6.7 科学の力が可能にしたその性能

ENVE SES (c)ダイアテック
わたしが選んだSES 6.7は、クラス最速のエアロホイールだ。軽さ、安定性、空力的特性、転がり抵抗を優れたバランスで実現している。実世界の環境での速さを限りなく追求している。SES 6.7を選んだ理由はいくつかある。
重量がギリギリ1400g台(このクラスでは最軽量)で25mmのタイヤが使用できるからだ。エアロ性能を追求したい場合はSES 6.7が適している。わたし自身フロントタイヤに25mmタイヤを使用し、リアに28mmを入れることが多い。

ENVE SES (c)ダイアテック
SWISS SIDEが提唱したいわゆる「AEROAD最速セットアップ」だ。28mmに完全移行しない場合や、重量を若干目をつぶってでもエアロ性能を追求したい場合はSES 6.7が適している。

ENVE SES (c)ダイアテック
SES 6.7は1400g台ながら、世界トップ3のバイクに搭載されているDT SWISS ARC 1100 DICUT 62よりも空力性能が優れている。バイクのトータル性能(重量と空力)を考えると、SES 6.7を使用することでさらにバイクの性能が向上するだろう。
SES 6.7のインプレッションは別の章でまとめた。
リム実測重量
リムの実測重量は以下のとおりだ。
- SES 2.3:F 291g, R 296g
- SES 3.4:F 382g, R 393g
- SES 4.5:F 420g, R 436g
- SES 6.7:F 448g, R 469g

ENVE SES (c)ダイアテック

ENVE SES (c)ダイアテック

ENVE SES (c)ダイアテック

ENVE SES (c)ダイアテック
ENVE ハブ
ENVEのハブはフランジの形状をリム側の設計に合わせて最適化している。リム側のスポークホールは斜め方向に角度を持たしている。何も考えていないメーカーの場合、垂直な穴を空けるだけの設計をすることもある。
当然、ENVEは組み上がったときにニップルの向きとハブ側スポークホールの位置が適正になるようにハブ側の設計も変えているこだわりようだ。このリムとハブを最適化することにより、スポークの張り具合や適切な駆動剛性を確保することができる。
ニップルとスポーク

ENVE SES専用ニップル (c)ダイアテック
どのメーカーであれ、ニップルとスポークは社外品を使用する場合が多い。ROVALは、DTSWISSのニップルとスポークを使用している。ENVEはスポークこそSAPIM CX-RAYを使用しているが、ニップルはENVEが開発したものだ。

ENVE SESのスポークCX-RAY(c)ダイアテック
ENVEが特許を取得の独自のニップルで、リムに優しく、正しい角度で最大のスポークテンションへ導ける構造に仕上がっている。
インプレッション
SES 6.7は、これまでクラス世界最速のホイールであったDT SWISS ARC 1100 DICUT 62を凌ぐ実験結果が出ている。したがって、非常に注目していた。重量は1,497gと1500gに届きそうな重量だ(シーラントが必須なので40gの増加は考慮しておく必要がある)。
しかし、フロント60mm、リア67mmというリムハイトを考えると軽い部類に入るホイールと言えるだろう。
SES6.7の比較対象としてわたしが現在愛用しているのが、イネオスが愛用してきたPRINCETON CARBON WORKSのWAKE6560だ。60mmと65mmの高さが交互に構成された断面変動リムだ。この形状は空力性能が高まることがしられておりZIPP NSWなどにも搭載されている。

また、応力が分散するためリムを薄くしてもスポークテンションに負けない剛性感が見込める。そのため、WAKE6550のTUNEハブで1,530g、TACTIC RACINGハブで1400gジャストという軽さを備えている。
今回のインプレッションでは、わたしがベンチマークとして使用しているWAKE6560、DTSWISS ARC 62と50それぞれ比較した結果と、SES6.7を選んだ経緯、そして使用に適したシチュエーションなどをまとめた。
軽さ
まず、60mmオーバーのホイールに対して軽さの話をすることは酷だ。もともとSES 6.7は軽量性をアピールするホイールではなく、空力性能がとことん追求されたホイールだ。それでも、昨今のロード機材界隈で「軽さに速さを」というTARMAC SL7のような開発思想が人気を呼んでいる。
SES 6.7は空力性能を備えつつも、軽さも申し分ないと考えていた。リム重量も1世代前の50mmハイトリムに匹敵するフロント448g、リア469gという重量を備えている。したがって、はROVAL CLX50やDTSWISS ARC 1100 50相当のホイールを使う気分だ。
外周重量の概念は、タイヤとシーラント量によって大きく左右される。実際には、SES 27のタイヤとMac-Offのシーラントを使っているため、純粋には相対比較できない。それでも、SES 6.7には60mmオーバーらしからぬ振りの軽さがあった。
登りというシチュエーションにおいても、ROVAL CLX50や、DTSWISS ARC 50と遜色ない振り回しだ。引きずるような感覚もない。しかし、明らかにリムハイトと重量が若干重いため、若干ではあるが踏み込んだときの加速感、反応速度は遅く感じた。
PRINCETON CARBON WORKSのWAKE 6560と比較するとどうだろうか。登りの軽さや、低速からの反応の良はWAKE 6560のほうが優れていると感じた。WAKE 6560のリム重量は440g~450gと軽い。SES 6.7と比較すると前後で合計30gの違いがある。
ホイールシステムとして考えたときに、WAKE6560に取り付けているタイヤ重量が1本あたり40g軽いためその影響も出たと思う。登りに関しては、特別得意ではないがロードレースや10分程度の登りであれば気にするほどの重さではないと感じた。
エアロ性能
慣性が働いているのか、本当に空力性能が高すぎるのかは断定できないのだが、本当に減速しないホイールだ。WAKE6560やARC 1100 62よりも減速感が小さく感じた。ただし、減速感が小さく感じただけで、速さはWAKE6560やARC 1100 62と比べても遜色ない。
それほど、現代のエアロホイールの性能は高止まりしている証拠だ。世界最速級のCANYON AEROADとあわせて、空力性能が小数点第一位の世界でせめぎ合っている最新のエアロホイールを比べてみても明らかに「速い」と感じるのは当然だ。
「50km/hの壁を超えるときに楽に感じた」
と具体的に空力性能が体感できれば一番良い。しかし、SES 6.7を使ったからと言って明確に最高速度に到達するまでの道のりで、なにか明確な違いが発生するかといえばそんなことはなかった。
それでも、SES 6.7は最高速度に到達してからの減速感が非常に小さいと感じるホイールだ。その理由の根幹に、リアホイールの67mmという特大のハイトと重量が及ぼすものなのかそれともタイヤとリムが最適化された結果なのかは判別がつかない。
ただ、体感として減速感がなく、明らかに脚を休められるというメリットはある。トライアスリートや長距離を淡々とペースを刻む(脚へのダメージを最小限に抑える)ような走り方をするような場合はSES 6.7が良いと感じた。
それゆえ、空力性能を突き詰めるのではなく、リムハイトがもう少し低いSES 5.6のほうが一般的であると感じた。
レース用途
登りに関して言えば、広島森林公園や、群馬CSC程度の登りであれば差がわからない。むしろ、惰性で登れてしまうような走力がSES 6.7にはある。しかし、長いニセコの登りのようなシチュエーションや、高速で登りを駆け上がる場合がある沖縄などは6.7よりも5.6のほうが適していると思う。
ヒルクライムにはSES 6.7は合わない。もう少し別の選択がある。SES 6.7をロード用にと考えたが、登りで勝負が行われるレースや、アタックを繰り返しながら長距離のレースを走るにはSES 5.6のほうが良いだろう。
では、SES 6.7が得意なレースはなんだろうか。鈴鹿や、スピードが落ちない高速巡航が求められる各種エンデューロには間違いなくSES 6.7だとおもう。登りも惰性で進むことができると感じた。この特徴はトライアスリートやタイムトライアルの機材としても生きてくると思う。
かといって、クリテリウムに使用したいかと言われると回答が悩ましい。理由の一つとして、加速感が鈍いということが挙げられる。これは、「速度が落ちにくい」というメリットとトレード・オフの関係にある。
自然界の法則に縛られ、慣性の法則を忠実に再現した結果とも言える。クリテリウムで加減速を繰り返すパターンが生じる場合は、もう少しリムハイトをが低いホイール5.6か3.4が望ましい。確かに高速巡航中は脚が休められるとは思うが、これも自身の脚質との相談になる。
まとめ:用途を突き詰めたクラス最速の空力性能
SES 6.7は、とにかく現実世界でとことん速く走ることを優先したホイールだ。それゆえ、最高速度域でラクに走れることが体感できるホイールだった。また、他のホイールと比べて速度減衰の少なさが目立った。したがって、高速巡航を要求される競技でしようすればアドバンテージになる。
対して、加減速が激しいシチュエーションに対しては、他の60mmハイトリムと同じく特異というわけではない。用途が先鋭化されているため、減速しにくい高速巡航性能とのトレード・オフの関係にある。
これらの特徴を理解してSES 6.7を使用すれば、平地のみならず、多少のアップダウンがあったとしても様々に対応できるだろう。
最後に価格だが、ほぼ50万円だ。昨今の自転車機材は円安の影響で値上げが止まらない。さららにENVEは値引きがほとんどされないため実質50万円という価格で販売される。ただ、現状50万であるだけで、来年にはさらなる値上げも予想される。
そんな中で、どうしてもENVE SESがほしいと思うのならば今が一番安い(価格は高い)といえる。あとは、SESに求める条件がユーザーと合致すればそのときが買いだと思う。
ENVEのSESは当面モデルチェンジしないこと、現状クラス世界最速級であること、そして先行きがわからない昨今の世界情勢を加味すると、SESシリーズは買って満足度の高いホイールだ。


¥1,045