CeramicSpeedオーバーサイズプーリーホイールは、ケージテンションを最も低く設定した場合で0.83ワット、最も高く設定した場合で1.43ワットの抵抗が発生した。ノーマルのDURA-ACEは低速で3.25ワット、高速で3.80ワットであることと比較するとその抵抗差は歴然で、ケージテンションと摩擦の直線的な相関関係があり、ケージテンションが増すと摩擦抵抗も増える傾向にある。しかし、ビッグサイズのプーリーホイールシステムは、プーリーホイールが大きいからといって、必ずしもそのビッグシステムが摩擦を減少させるとは限らない。ビッグサイズのプーリーホイールシステムは、交換する純正ケージよりも多くの摩擦を発生させる可能性が大いにある。
今回の記事は、Fricton Factsが実施したビッグプーリーの摩擦損失実験結果から、ビッグプーリーシステムの抵抗減は何によってもたらされているのか、そして純正プーリーからどれくらい抵抗を減らせるのかをまとめた。
オーバーサイズプーリーホイールシステムは、どのようにドライブトレインの摩擦を減らすのか
オーバーサイズプーリーホイールシステムは、4つの異なる要素からドライブトレインの摩擦を減少させている。
- プーリーの大きさ:
プーリーホイールが大きくなると、チェーンがプーリーホイールと噛み合ったり外れたりする際に、各チェーンリンクの咬合(こうごう)レベルが下がる。例えば、11Tのプーリーホイールは、各チェーンリンクが各プーリーホイールに入ったり出たりする際に33°関節運動する。一方、19Tのプーリーホイールは、各チェーンリンクが19°咬合するようになる。チェーンに対して、ある程度のテンションがかかっている状態でチェーンリンクが咬合するようになると(詳細は後述)、リンク内の摺動面によって回転軸に摩擦が生じる。リンクの咬合角度が小さくなると、摩擦も小さくなる。 - 回転速度:
プーリーホイールが大きくなると回転数が下がり、それに伴いプーリーホイールの軸受も同じように低回転数で回転する。ベアリングの摩擦は、回転速度に直接関係しているため、ベアリングの回転を「遅くする」ことで摩擦を減らすことができる。 - ベアリングの摩擦:
ベアリングの摩擦は、レース、ボール、ケージの品質、これらの寸法設計、シールの種類、潤滑油の種類と充填量に依存する。また、オーバーサイズのプーリーホイールシステムでは、プーリーホイールが大きいため、一般的な小型プーリーホイールに比べて、ベアリングにかかる回転軸外荷重(モーメント荷重)が若干大きくなる可能性がある。高効率で優れた設計のベアリングは、摩擦を減らすことができる。 - リアディレイラーのケージテンション:
ケージのテンションを下げると、チェーンテンションが下がる。チェーンのテンションはフリクションに正比例する。前述のとおり、チェーンリンクがプーリーホイールに連結したり外れたりするとき、チェーンテンションが低いと、各リンクによって生じる摩擦が減少する。したがって、ケージのテンションが低ければ低いほど、システムの摩擦は減少する。
このセクションの説明の中に、オーバーサイズのシステムは摩擦を減少させる”ことができる”という記述に注目してほしい。
まず、これから当記事を読み進めて行く前に、頭の片隅で覚えておきたいことは、オーバーサイズのプーリーホイールシステムによる摩擦の低減は、絶対的なものではないという事実だ。
オーバーサイズプーリーシステムの設計において上記の要素を「どの程度取り入れるか」によって、摩擦の低減はいかようにも変動するからだ。
ビッグサイズのプーリーホイールシステムは必ずしも摩擦抵抗を低減”しない”
ビッグサイズのプーリーホイールシステムは、プーリーホイールが大きいからと言って、必ずしもそのビッグシステムが摩擦を減少させるとは限らない。ビッグサイズのプーリーホイールシステムは、交換する純正ケージよりも多くの摩擦を発生させる可能性が大いにある。
例えば、ビッグプーリーホイールシステムは、確かにプーリーが大きいが、非常に効率の悪いベアリングやブッシング(純正ケージのベアリングよりも効率が悪い)を使っている場合がある。ビッグプーリーホイール自体から得られる効率の向上よりも、ベアリングの効率低下が上まわる可能性もある。
同様に例えば、オーバーサイズシステムのケージテンションが高すぎる場合、同じ損失が発生する。損失はビッグプーリーホイールからの利益を上回る。このように、オーバーサイズのプーリーホイール製品に対しては必ずしも、
「ドライブトレインの摩擦抵抗が低下すると決めつけないこと」が重要である。
そして、ビッグプーリー、ビッグチェーンリングといった製品に対して疑いの目を持ち続けることは、メーカーのプロモーションやメディアの広告に対して盲信的にならずにすむ良い考え方である。
前述のとおり、すべてのビッグプーリーホイールシステムの構造や仕様は同じではないからだ。
ドライブトレインの効率を向上させることを望む賢明な消費者は、ビッグプーリーホイール、特大のシステムで本当に高速化できるのか、それぞれの要因を全て調査する必要がある。
そのうえで、ビッグプーリーで常に考慮すべきことは以下だ。
- プーリーのサイズ(歯数):
チェーンの咬合による摩擦を考えた場合、プーリーのサイズは大きいほうが良い結果が得られる場合が多い。また、プーリーが大きければ大きいほど、ベアリングの回転数は下がる。例えば、以降で紹介する他のすべての要因や要素が同一であれば、19-13Tは15T-13Tより摩擦抵抗が小さい。 - プーリーホイールの形状:
歯の形状、プロファイル、カット、低摩擦のプーリーホイールは、サイズに関係なく、特徴的な歯形とエッジングを持っている。これにより、効率が上がり、また、変速特性も良くなる。クロスチェーンが下側プーリーホイールに入っていくことを想像すると、チェーンは、角ばった歯よりも、丸みを帯び、面取りされた歯の上を滑ったほうが摩擦が小さくなる。 - ベアリングの状態:
前述したように、ビッグプーリーホイールに状態の悪いベアリングが装着されていると、せっかくのメリットが台無しになる。高品質で効率の良いベアリングが望ましい。また、大きなプーリーのモーメント荷重に耐えられるよう設計されたベアリングが望ましい。 - ベアリングシールの種類:
厚みのある接触シールは安価に製造できるが、レースとシールの擦れによって摩擦が大きくなる。摩擦が小さく、汚れ防止効果の高い軽接触型シールが望ましい。 - ベアリングに使用されているグリースの種類と充填量:
グリースを100%充填することや、低品質で厚いグリースを使用すると摩擦が大きくなる。ベアリングの回転数や荷重に最適なグリースを選択し、グリースの充填量を小さくすることで効率を最大限に高めることができる。 - ケージテンションの大小:
ケージテンションは低い方が抵抗が小さい。しかし、チェーンのテンションを最小にし(チェーンの摩擦を減らすため)、かつチェーンがプーリーホイールから飛び出さないようにするために、ケージテンションのバランスをとる必要がある。一部のオーバーサイズシステムでは、劣悪な変速性能を補うためにケージテンションを高くしている。これでは、せっかくの効率アップが台無しになる。ケージテンションが低い、あるいはユーザーがテンションの大小を選択できるビッグシステムが望ましい。 - 摩擦のテスト有無:
実験データが報告されているかは、購入前に真っ先に確認すべき重要な情報だ。本記事で示されているとおり、抵抗が小さいビッグプーリーシステムを作るためには複数の要素を必要とするが、すべて組み合わさった時に本来意図したとおりに摩擦を減少できているのか、実験と試験が実施されていれば「摩擦抵抗が低減したビッグプーリー」だと安易に結論付けてはならない。
オーバーサイズプーリーホイールの実験結果
Friction Factsはオーバーサイズプーリーホイールシステムテストを実施した。このテストでは、オーバーサイズプーリーの先駆けBERNER社のプーリーシステム、CeramicSpeed オーバーサイズプーリーホイールシステム、RAL社のプーリーシステム、純正の小型プーリーシステムを比較した。
Figure 1の縦軸はゲージテンション、横軸は消費電力ワットを示している。大きな丸は、クリーンな状態と汚れが付着した状態を示している。
- DA=DURA-ACE純正、DA11Tプーリーホイール、DAケージ
- BERNER=BERNERビッグシステム、BERNERビッグプーリーホイールとBERNERケージ
- CeramicSpeed= CeramicSpeed オーバーサイズプーリーホイール、CeramicSpeedラージプーリーホイール+CeramicSpeedケージ
- CeramicSpeed 11-11=CeramicSpeed製11T プーリーホイールをDAケージに装着。
結果のポイントとしては、 CeramicSpeed オーバーサイズプーリーホイールは、ケージテンションを最も低く設定した場合で0.83ワット、最も高く設定した場合で1.43ワットの抵抗が発生した。
ノーマルのDURA-ACEは低速で3.25ワット、高速で3.80ワットであることと比較するとその抵抗差は歴然で、ケージテンションと摩擦の直線的な相関関係があり、ケージテンションが増すと摩擦抵抗も増える傾向にある。
CeramicSpeedとDURA-ACEシステムそれぞれで、チェーンの汚れ具合の違いによって摩擦抵抗の差が発生している。CeramicSpeedはクリーンな状態と汚れた状態の差は0.71ワットだった。DURA-ACEは、クリーンな状態と汚れた状態の差は1.37ワットだった。
これは、CeramicSpeedのオーバーサイズプーリーホイールよりも、純正のDURA-ACEの方がチェーンの汚れによる摩擦の増加率が大きいことを示している。同じ汚れたチェーンでも、ビッグプーリーホイールが咬合するよりも、小さなプーリーホイールが汚れたチェーンをより大きく咬合させるため、より多くの摩擦が発生することを示唆している。
そのため、CeramicSpeed オーバーサイズプーリーホイールは、きれいなチェーンのDURA-ACEより速いだけでなく、チェーンが路面の汚れを拾ってもDURA-ACEほど摩擦抵抗が増加しないことがわかる。
以下に各社プーリーとテンション別の抵抗測定結果を示す。
プーリーサイズ別の摩擦抵抗実験結果
チェーンテンションとベアリングの変数を一定にした場合、10T-10Tプーリーの組み合わせと、15T-15Tプーリーの組み合わせの間には0.49ワットの効率差が生じる。このデータは、他のすべての変数を除外して、プーリー直径が大きくなると摩擦が減少するという一般的な理論を肯定的に立証している。
ケージテンションとベアリングの変数を考慮した場合、ディレイラーの「システム」(「システム」には、メーカーのケージ、プーリー、プーリー内のベアリングを含む)において、最も効率の良いBERNER 13T-15Tプーリー/ケージと最も効率の悪いDURA-ACE 11T-11Tプーリー/ケージを比較すると、1.76ワットの効率差が測定された。
検証のため、一般的なプラスチック製プーリーホイールのテストを実施した。チェーンのテンションは1スパンあたり2.4ポンドで一定とした。8つのプーリーの組み合わせには、それぞれ同じ2つのセラミック製ベアリングが使用された。
横軸は上下のプーリーの咬合角と離脱角の合計を表している。縦軸は摩擦損失(ワット)を示している。
チェーンテンションとベアリングは一定に保たれている。チェーン咬合角は、上下のプーリーの咬合角と離脱角の合計を表している。例えば、Graph3の最も右上にある10T-10Tの組み合わせは、噛み合い36°+外れ36°×10Tプーリー2個で144°になる。
以下は、市販のプーリーをメーカー付属のベアリングでテストした結果だ。チェーンテンションはPart1と同様に一定とした(メーカー製ケージは使用せず)。Part 2の試験順序にベアリングの変数を導入した。結果は以下の通り。
以下は、市販のプーリーをメーカー付属のベアリングとディレイラーケージでテストした結果だ。Part 3では、「チェーンテンション」と「ベアリング」の変動要素の両方が存在している。
ディレイラーには、チェーンがディレイラープーリーを通過する際に摩擦が発生する。この摩擦は、いくつかの要因に起因している。冒頭でも記載したが、ディレイラーシステムの摩擦損失の主な要因は以下の通りである。
- チェーンがプーリーに噛み合うとき、噛み合わないときのチェーンの咬合角度によるもの。咬合角が大きいと摩擦が大きくなる。
- 単位時間当たりの咬合回数。つまり、単位時間あたりに何個のチェーンリンクがプーリーに噛み合うか(または噛み合わないか)。単位時間当たりの咬合回数が多いほど摩擦は大きくなる。
- バネ仕掛けのディレイラーケージが作るボトムスパンでのチェーンのテンション。チェーンのテンションが大きいと摩擦が大きくなる。
- プーリーのベアリングの一般的な効率(ベアリングの速度に関係なく)。ベアリングの効率が悪いと摩擦が大きくなる。
- プーリーのベアリングの回転数。ベアリングの回転数が高いと摩擦が大きくなる。
プーリーを大きくした場合の摩擦効果を理論的に分析すると、上記(1)と(5)により、プーリーを大きくすれば摩擦は減少する。プーリーが大きくなると、本質的に咬合角が小さくなり、摩擦が減少する。
さらに、大きなプーリーは一定のケイデンスとリングに対して回転が遅く、ベアリングの回転速度が低下するため摩擦が減少する。次の章では、Part 1の要因(1)と(5)の効果を分析する。
さらに、ディレイラープーリーの「システム」の摩擦は、上記(3)と(4)の要因によって影響を受ける可能性がある。「システム」とは、プーリー、プーリーベアリング、ディレイラーケージを指している。
オーバーサイズのプーリーを使用した場合、非効率なベアリングによる摩擦損失やケージによるチェーンテンションの増加により、効率向上が相殺される可能性があるため、これらの要因を考慮しなければならない。
これらの要因から以降の章では、Part 2ではベアリングの影響を、Part 3ではディレイラーケージが総フリクションに与える影響を分析した。各要因の摩擦の得失を分別することで、プーリーシステム全体としての理解を深めるねらいがある。
このテストでは53Tのフロントチェーンリングを使用し、95RPMのケイデンスで、咬合・レートをすべての部分で一定に保っている。ライダーのケイデンスが一定であれば(リングサイズも一定)、大プーリーでも小プーリーでも咬合レート(チェーンスピード)は変わらない。
したがって、このテストでは、ディレイラーの摩擦に及ぼすケイデンスの影響は調査していない。
Part 1の考察: 大は小を兼ねる
テストのPart 1では、チェーン咬合角とベアリングスピードが総摩擦に及ぼす影響、つまりビッグプーリーを使用した場合の利益を分析した。チェーンテンションの変動を排除するため、各プーリーの組み合わせで同一のチェーンテンションが得られるよう装置をセットアップし、2.4ポンドを印加している。
2つのセラミックベアリングを使用し、Part 1の各組み合わせの異なるサイズのプーリーホイールに入れ替えている。それぞれのプーリーホイールの内径は、2つのベアリングの外径と同じになるようにフライス加工されている。
実験では10Tから15Tまでの一般的なプラスチック製のホイールを使用し、この試験のすべてのパートで、個々の試験の組み合わせに対して3本のチェーンを使用している。
結果はワット対全関節角でプロットした場合、プーリー径が大きくなるにつれて摩擦が直線的に減少した。この実験結果は、プーリーの直径が大きくなると効率が上がる、というオーバーサイズプーリーの理論と一致している。
データは、ベアリングとチェーンのテンションを一定にした状態で、最小径のプーリーの組み合わせ(10T-10T)と最大径のプーリーの組み合わせ(15T-15T)の間に0.49ワットの差があることを示している。
Part 2の考察:ベアリングの影響
Part 1と同じ一定テンション(2.4ポンド)の装置をセットアップし、Part 2では、同じベアリングを搭載した「汎用」ホイールの代わりに、メーカー純正のベアリングを搭載した市販のプーリー3種を分析した。
DURA-ACE 13T-13T、BERNER 13T-15T(セラミックモデル)、RALTech15T-15Tのプーリーをテストした。この試験方法は、Part 2の各プーリーの組み合わせの結果をPart 1の線形傾向線と比較することで、ベアリングの影響を効果的に分析することができる。
さらに、Part 2では比較のためにDURA-ACE 11T-11T(RD-9000)、CeramicSpeed 11T-11Tのノン・オーバーサイズ・プーリーを2個用意した。DURA-ACE 11T-11Tは一般的な組み合わせであり、CeramicSpeedは以前実施した効率テストで、11T-11Tプーリーとして最も性能が高かったことから、この組み合わせとした。
結果 グラフ5は、5種類のプーリーを、対応する一般的なプーリーと直線的なトレンドラインと比較したものである。5つのモデルは青いマーカードットで示されている。
グラフの左から右へ(大きいプーリーから小さいプーリーへ)、RALTech 15T-15Tプーリーは、セラミックベアリングを使用した一般的な15T-15Tよりも高い摩擦を表している。これは、RALTech社のプーリーに付属するベアリングの効率が悪いことを示唆している。
BERNER社の13T-15Tは、一般的な13T-15Tよりも低い摩擦を示している。これは、メーカーがプーリーとともに提供する高効率セラミックベアリングであり、BERNERの仕様によれば、CeramicSpeedセラミックベアリングによるものと思われる。
興味深いのは、BERNER 13T-15Tは、全関節角度を考慮すると不利ではあるものの、RALTech15T-15Tよりも摩擦が少ないことを実証している点にある。これは、Berner 13T-15TとRALTech 15T-15Tを比較した場合、より大きな咬合角の利点を、より低い効率のベアリングが相殺していることを示唆している。
つまり、最大のプーリー(この場合は15T-15Tの組み合わせ)は、特大の設計という利点はあるものの、必ずしも最も効率的な「プーリーシステム一式」と同じとは限らないことを示唆している。
DURA-ACE 13T-13Tは、一般的な13T-13Tと0.01ワット以内のフリクションレベルを示した。これは、DURA-ACE 13Tのセラミックベアリングが、一般的なプーリーに使用されているセラミックベアリングと同様の効率であることが原因であると示唆している。
この結果を裏付けるように、以前実施した別のディレイラープーリー効率測定実験では、単列のDURA-ACE 11Tとセラミック製の11Tのプーリーは、互いに0.01ワット以内の摩擦を示している。
CeramicSpeed 11T-11Tプーリーは、一般的な11T-11Tよりも低摩擦を示した。逆にDURA-ACE 11T-11Tは汎用の11T-11Tよりも高いフリクションを示した。また、この2組のプーリーは、汎用プーリーと比較した場合、5組中最も差が大きく(CeramicSpeedが低く、DURA-ACEが高い)、比較すると0.35ワットの差があることがわかった。
これらは、各モデルのベアリングの効率によるものと思われる。
Part 3 プーリーケージによるチェーンテンションの影響
この試験のPart 3では、チェーンのテンションという変数を導入する。Part 1とPart 2では、2.4 ポンドの一定テンションを適用した。Part 3では、2つのスプリング付きプーリーケージ、BERNERケージとDURA-ACE RD-9000ケージのそれぞれの効果によってテンションが制御された。
上述したように、ケージによってチェーンにかかるテンションは、システムの摩擦に影響を与える可能性がある。テンションが高いほど、摩擦レベルも高くなる。Part 3では、DURA-ACE 11T-11Tプーリーを使ったDURA-ACEケージ、CeramicSpeed 11T-11Tプーリーを使ったDURA-ACEケージ、そしてBERNER 13T-15Tプーリーを使ったBERNERケージをテストした。
結果はグラフ5に見られるように、BERNERケージとBERNERプーリーのシステムは、3つのパートすべてにおいて、テストしたどの組み合わせよりも低い摩擦を示した。逆に、DURA-ACEケージ/DURA-ACEプーリーシステムは、3つのパートでテストされたどの組み合わせよりも、最も高い摩擦抵抗を示した。
上記の各システムは、Part 2の同じシステムのプーリーの摩擦レベルと比較すると、突出した摩擦レベルを示している。これは、ケージの違いによるチェーンのテンションの違いによるものだ。
BERNERケージは、1.54ポンドのチェーンテンションを発生させる。DURA-ACEケージは3.19ポンドのチェーンテンションを発生させる。
BERNERケージは、幾何学的なレバーアームの基本原理を利用し、さらにユニークなデザイン上の特徴を利用して、より低いチェーンテンションを生み出している。幾何学的な利点は、ケージ自体の長さ(DURA-ACEケージのように標準的な短いケージの長さと比較した場合)と、15Tロア側プーリーの追加半径に基づくものである。
この2つの延長により、ケージはより長いレバーアームとなり、チェーンにかかる有効テンションを減少させることができる。
さらに、BERNERケージはディレイラーケージのテンションスプリングの取り付け位置を約60°オフセットさせるという設計を採用している(写真3)。このオフセットは、テンションスプリングがケージに加えるトルクを減少させ、チェーンにかかる有効テンションを減少させるとともに、レバーアームの長さによるテンションの減少を助長する。
Part 3のディレイラー・システムの結果は、市販のケージ/プーリー/ベアリング・システムに見られるすべての変数を含んでいるため、最も価値のある “実世界”のデータであると考えられる。
本テストは、クリーンな実験室の条件下で、純粋なテストチェーンと潤滑油を使って行われた。現実の世界では、チェーンと潤滑油がある程度汚染されている可能性が高く、チェーンの摩擦の寄与が増加する。
したがって、「現実世界」では実験室で確認した結果よりもさらに大きなワット数削減が期待できる。クリーンなロードレース条件下では、2ワット以上の節約が可能であると推測される。
ビッグプーリーシステムの欠点としては、ビッグプーリーに対応するために必要なチェーンリンクの重量が増えることと、ケージが大きくなることによる空気力学的抵抗の増加が考えられる。
試験方法の補足
- 各プーリーの組み合わせの摩擦を試験するために3本のチェーンを使用している。チェーンは、シマノデュラエース、SRAM RED、カンパニョーロレコードウルトラを使用した。これは、特定のモデルのチェーンによる変動要因を排除し、データの統計的な有意性を高めるために行ったものである。
- それぞれのチェーンは、フルロードテスターで250ワットの出力で6時間慣らし、超音波洗浄を行い、AGSライトベアリングオイルで超音波再潤滑を行った。このように全荷重で慣らし運転を行うことで、低テンションでの試験中にチェーンが摩擦変数に寄与するのを最小限に抑えることができる。
- 各チェーンは、試験中ずっと同じ面を表にして試験を実施した。
- サイズの異なる2つのプーリーを組み合わせてテストしたところ、2つのプーリーのうち小さい方を常に上の位置に配置した。
- 一般的なプーリーホイールは、シマノ105とアルテグラホイールを使用した。これらのホイールは、加工が容易であることと、(テストの予算に対して)低コストであることから選ばれた。
- このテストは、プーリー、リング、スプロケットを純粋に同一平面上に配置した状態で実施した(クロスチェーンはなし)。各組合せを試験する前に、プーリーは適切なポジションを確保するためにアライメントされた。
- Part 1とPart 2では、11T のロワープーリーを備えたロングタイプのケージの平均テンションを基に、2.4lbs という一定のチェーンテンションを印加した。
- Part 1と2では、2.4ポンドを一定に保ちつつ、チェーンスパンの長さを調整できるように装置をセットアップした。つまり、異なるプーリーサイズに対応するためにチェーンスパンの長さを調整しても、チェーンテンションには影響しないためである。
- Part 3では、トップチェーンの長さを固定し(装置をロック)、ケージを浮かせてチェーンテンションを与えた。しかし、2つのケージをそれぞれ垂直方向に配置するため、ロックする前にトップスパン長を調整した。
- 折れ線グラフのX軸には、歯数ではなく、プーリー径の線形依存因子であるチェーン咬合角を使用した。歯数は咬合角の逆数と対応しない。例えば、11-15 の組み合わせと 13-13 の組み合わせを比較した場合、歯数の合計は同じになり、歯数とワット数をプロットした折れ線グラフの X 軸に沿って各プーリーが同じ位置になるはずだが、これは正確ではない。11-15の組み合わせの総咬合角は113.45°であるのに対して、13-13の組み合わせの総咬合角は110.77°になる。この関係から、総咬合角は歯数対ワット数ではなく、ワット数に対してプロットする必要がある。
- オーバーサイズプーリーシステムは、チェーン重量の増加や空力的な影響に加え、クロスチェーン時に発生するロアプーリーへの横方向モーメントの増加による摩擦で、効率が低下する可能性がある。この摩擦の増加はクロスチェーンが最大の状態で0.01ワット以下、ストレートチェーンの状態で0.0ワットまで減少することがわかっている。最悪の場合 10°の角度で2.4ポンドとすると、0.4ポンドの横荷重がロアプーリーの端にかかることになる。大小どちらのプーリーも同じ0.4ポンドの横荷重を受けるが、15Tと11Tのモーメントは36%増加する。ほとんどのセラミック製プーリーベアリングの摩擦は、4.4ポンドのラジアル荷重でプーリーあたり最大0.05ワットであり、0.4ポンドの横荷重を加えても摩擦は0.02ワットを超えない可能性が高いことがわかっている。クロスチェーンの横荷重による大小のプーリーの摩擦の差は、0.02ワット×36%、つまり0.072ワットとなる。
- ケイデンスは95RPM
- フロントチェーンリング53T、リアスプロケット12Tを使用。
- 測定にはテンションテスト法を使用した。このテスターの精度は+/-0.02ワット。
- 機器のシステムロスを除去した。
- データは、指定されたプーリーの組み合わせで、各チェーンの5分間の走行が終了した時点で記録している。
大手メーカーがビッグプーリーを採用しない理由
ここまで、様々なビッグプーリーの優位性を確認してきた。しかし、シマノやスラム、カンパニョーロといった大手3大メーカーはビッグプーリーを採用していない。以前、サイクルイベントで開発者の方に「ビッグプーリーを採用しないのか」と伺ったところ「変速へのメリットが無いため」という解答があった。
これは各社の設計思想によるものだと思われる。
リアディレイラーの開発目標において、「1%でも摩擦抵抗を削減する」という方向性なのか、それとも「正確無比な変速性能を極限まで高める」といった方向性なのか、それぞれの開発目標に応じて到達地点に大きな差が生じる。シマノは後者なのだろう。
仮に摩擦損失を削減することを最大目標とした場合、ビッグプーリーを使うことが理にかなっている。しかし、ビッグプーリーシステムは変速はある程度するものの変速性能は劣る。対して、変速性能を高めた場合、たどり着いたのがシマノやSRAMが採用している11Tという歯数なのだろう。
いわば、ビッグプーリーによる抵抗を削減と、純正プーリーの優れた変速性能は対極関係にあり、それぞれの性能はトレード・オフの関係にある。実際にこれまで各社のビッグプーリーを使ってきたが、高トルク域での登坂、スプリントというシチュエーションは純正には遠く及ばない。
さらにシマノの場合はプーリーにシールドベアリングを使用し防塵性能が非常に高いことが知られている。しかし、プーリーの回転はセラミックスピード社などのセラミックベアリングや、グリースの量を減らしたベアリングには到底及ばない。
しかし、シマノのプーリーベアリングは雨やシクロクロスでの泥にもある程度強く耐久性で圧倒的な信頼性がある。これらも、摩擦損失を減らすことを目的とした回転を優先するのか、それとも長く安定的に使用できる耐久性を追求した設計思想の結果なのかが見て取れる。
以上の状況から各社の設計思想を整理すると、
変速性能と耐久性を重視したプーリーシステム設計を採用しているメーカー。
- シマノ
- スラム
- カンパニョーロ(耐久性は微妙だが)
摩擦抵抗の削減を重視したプーリーシステム設計を採用しているメーカー。
- セラミックスピード
- カーボンドライジャパン
- KOGEL
- BERNER
- RIDEA
以上のような分類になる。シマノが耐久性、安定性、堅実な変速性能を求めることは何ら疑うような話ではない。そして、数ワットの摩擦抵抗のマージナルゲインを得ようと、変速性能の低下を容認することなどシマノとしてはありえないだろう。
ビッグプーリーを実際に使ってみると、場合によってはライダーがはっきりと分かるほどの変速性能の低下がある。しかし、純正システムのR9250では気持ち悪いほどの変速性能を備えている。
決してセラミックスピード社のオーバーサイズプーリーのような小さい摩擦抵抗に純正プーリーシステムは及ばないが、重要な「変速する」という性能に関しては他社のサードパーティ製品が到達できないレベルに達している。
したがって、堅実かつ安定した正確無比なディレイラー性能を追求するシマノは今後もビッグプーリーを採用しないだろう。それは、各社が「何を優先するか」によって明確に製品に現れている。
まとめ:ビッグプーリーの抵抗低減は要素次第
ここまでビッグプーリーにおける摩擦を減らす要素や、摩擦抵抗試験からビッグプーリーに関する情報を確認してきた。
ビッグプーリーシステムはメーカーによって性能差がある。必ずしも、”ビッグ”だからといってドライブトレインの摩擦抵抗が低下するとは限らない。むしろ、純正部品のほうが優れた回転性能を備えていることも十分有り得る。
そして、ビッグプーリー、ビッグチェーンリングといった製品に対して疑いの目を持ち続けることは、メーカーのプロモーションやメディアの広告に対して盲信的にならずにすむ良い考え方である。前述のとおり、すべてのビッグプーリーホイールシステムの構造や仕様は同じではないからだ。
ビッグプーリーを使うのか、それとも純正プーリーを使うのか、これから先の考え方、優先度はあなた次第だ。セラミックスピード、BERNER、カーボンドライのビッグプーリーは確実に純正のプーリーシステムよりも「摩擦抵抗」は減少する。しかし、確実に「変速性能」は劣る。
それらはトレード・オフの関係だ。
純正のプーリーシステムはメーカーの検証と実験がやりつくされ、確実な変更を保証している。しかし、摩擦抵抗はビッグプーリーシステムには及ばない可能性がある。何を機材で優先するのか―――。その答えは、ライダー1人1人の中にある。
ビッグプーリーについてのご意見をお待ちしております↓