HUNTがクラス世界最速のホイールSUB50 LIMITLESS UD CARBON SPOKE DISCをリリースした。
現時点で海外メディアも報じていないが、HUNTの新型SUB50の情報を得たので第一弾は速報ベースで、第二弾は35ページにも及ぶホワイトペーパーをまとめた内容を紹介する。
SUB50の空力性能の検証はGST風洞実験施設において行われた。最新の30mm幅タイヤを装着した50mmリムハイト以下のホイールカテゴリにおいて、SUB50は競合他社を凌駕する圧倒的な空力性能を備えていることが判明した。
SUB50の次に速い競合ホイールに対しても、1.8ワットのアドバンテージがある。SUB50は、エアロ効率対重量およびエアロ効率対深さの指標では、競合ホイールよりもさらに優れている結果が出ている。
これらは、実際にROVAL RAPIDE、Princeton Carbon Works PEAK 4550、ENVE SES 4.5 G2、DTSWISS ARC 1100など、並み居る競合製品のホイールを風洞実験にかけて比較検証した結果だ。
SUB50は、現代のタイヤ幅(28mmと30mm)に最適化して設計が行われた。それぞれ役割が異なる前後異幅リムプロファイルで構成されており、強度と耐久性を考慮しつつ可能な限り重量を削減することに成功したという。
重量は1,380g、フロント外幅34.2mm、リア外幅30mm、内幅23mmでフックレスリムだ。
競合他社をしのぐ風洞実験結果
これまで50mmアンダーの世界最速ホイールは、SWISSSIDEが開発したDT Swiss ARC 50だった。SUB50は、30mmタイヤを装着したDT Swiss ARC 50と比較して1.85W空力が優れている。SUB50はリムワイド化にともない、転がり抵抗の低減、グリップ、快適性がさらに向上している。
Zipp 454 NSW(55/58mm、1428g)に30mmタイヤを装着した場合とSUB50を比べてみても3.07ワット優れており、28mmタイヤを装着してテストした場合で0.99ワット優れている結果だった。
従来のスチール・スポーク採用モデルでは1428g、UDカーボン・スポーク・テクノロジーで1380gという軽量化を実現しながらも、30mmタイヤを装着したSUB50は、28mmタイヤを装着した48リミットレスと比較して1.40ワットの空力性能が向上している。
空力的安定性の向上
HUNTのエンジニアは、プロライダーからのフィードバックから「安定性」と「予測性」をホイールの性能として持たせることに成功した。安定性は横風にあおられにくい性能、予測性はあおられたときにホイールの動きや挙動を読みやすくなる性能だ。
ホイールが風をただ受け流すだけでなく、刻々と変化していく風の中でもローハイトホイールのようにあおられにくい安定性と、あおられたとしても予測が可能な動きをする事がSUB50に求められた。
この特性を実現することはSUB50の開発において不可欠だったという。なぜなら、風の状態が変化しても予測可能な特性があれば、ライダーは長い間、快適に安心してエアロポジションをとることができる。
結果的に、長時間のステージやクラシックレースにおいて、エアロ効率の向上と消費エネルギーを最小限に留めながらレースを走ることができる。この安定性を生み出す根源には、リムの内側に広さを持たせた樽のようなリムプロファイルが寄与している。
空力6分力と座標系の補足
Dragのイメージはなかなか付きづらいが、例えば背中にパラシュートを着けて走ることを想像してみてほしい。パラシュートは抵抗となって進行方向とは逆方向に引っ張る力が発生する。この進行方向とは逆方向に働く力がDragだ。風洞実験で用いる測定では6分力測定を行うセンサーを用いる。後方に引っ張るDragの他にも横力、揚力、捻る力(X,Y,Z軸)といった合計6つの力を測定できる。
空気抵抗の補足として、空気は粘性流体であるため、流体の中を動く物体(例えば、空気中のホイールやバイク)には圧力抵抗と摩擦抵抗が発生する。これら2つの力の組み合わせを空気抵抗と呼んでいる。摩擦抵抗と圧力抵抗はそれぞれ以下のように定義されている。
- 摩擦抵抗:流体と物体表面の間の摩擦による空気抵抗。
- 圧力抵抗:流れの剥離によって生じる空気抵抗。
摩擦抵抗は、流体の粘性によって生じる物体表面の摩擦だ。流体と物体が接する面積が広いほど摩擦抵抗が大きくなる。また摩擦抵抗は物体境界面の速度勾配に比例して大きくなる(ニュートンの粘性法則)。
圧力抵抗は、物体の正面と背面の圧力差によって生じる抵抗だ。一般に、物体から境界層が剥離することによって物体の背面は負圧になり圧力抵抗が発生する。形状を流線型し境界層を剥離しにくい乱流境界層に遷移させることで圧力抵抗を低減できる。
「エアロダイナミクスを突き詰める」ということは、(全てではないものの)これら2つの抵抗をいかに削減できるかが鍵を握っている。圧力抵抗をへらすためには、タイヤとリムを統合した状態でCd値を下げる必要がある。今回のSUB50の開発思想のとおりだ。ホイールのエアロダイナミクスの良し悪しはリムの設計だけで決定しない。タイヤの形状(幅、高さ、表面のあらさ)によってエアロダイナミクスは大きく変化する。
圧力抵抗をへらすためには、リム側面を通過する空気の流れをできるだけ乱さず剥離するタイミングを滑らかにする必要がある。したがって、円柱よりもより流線型の形状のほうが圧力抵抗は小さくなる。円柱からNACA翼型(NACA airfoil)に近づけることで圧力抵抗は減る。
摩擦抵抗は物体表面の摩擦であるため、流体と物体が接する面積が広いほど摩擦抵抗が大きくなる。空気抵抗は物体の形状にも大きく左右される。円柱の場合は圧力抵抗が支配的になる。対してNACA翼型の場合は表面積が増えた分摩擦抵抗が増加する。しかし、剥離がほぼ発生しないため圧力抵抗が大幅に減少する。
SUB50のような最新型リムは、タイヤとリムをインテグレートした状態でエアロダイナミクス性能を高めている。そのため、圧力抵抗に関してはタイヤ幅、リムハイト、リム幅が同じであれば大きな差は生じにくい。しかし、リムプロファイルが昔ながらのV字もしくは現行主流になっているU字にするなど、シェイプの設計をどのように定義するかで空気の剥離ポイントに違いが生じる。
開発プロセスとCFD解析
HUNTのエンジニアたちは、3つの主要技術を駆使しSUB50を開発した。CFD解析、3Dプロトタイピング、風洞試験だ。CFD(数値流体力学)解析には約2500時間を費やし、38タイプものフロントリム、18タイプものリアリムを評価した。
数多くのリムプロファイルが生み出されたが、最終的に最も空力性能が優れたリムプロファイルを選定するために、これら3つの主要技術を用いて迅速に開発、テスト、検証、再テストを行った結果、フロントリムが3種類、リアリムが4種類にまで絞り込まれた。
これら最適なリムプロファイルは3Dプリントされ、ホイールとして組み立てられた。その後、カーボンファイバー製のプロトタイプが製作され、競合他社のホイールと風洞で比較試験が行われた。結果は先程の風洞実験データーのとおりだ。
前後異”幅”
SUB50が特徴的なのは前後で異なるリム幅だ。ROVAL RAPIDEやENVE SESは前後で異なるリムハイトを採用しているのと対象的だ。SUB50は前後とも49.5mmのリムハイトを有しながらも、リム幅をフロント側で34.2mm、リア側で30mmと前後で異幅の設計になっている。
効率的なプロファイルの選択には、前章で解説したCFD解析を用いた評価で行われた。最も優れた形状を3Dプリントで作成し風洞実験施設でテストした結果、フロントリムのプロファイルには、リムハイト49.5mm、幅34.2mmの設計リム形状が選ばれた。
リアホイールは、バイクのフロント側で大きく乱された気流に対応する性能が追求された。そして、ホイールシステムの空力特性に悪影響を与えることなく、リアホイールの重量を最小限に抑えるアプローチも同時に行われた。
CFD解析と風洞試験を駆使して18種類のリアプロファイルを評価し、最終的にはリムハイト49.5mm、幅30mmのわずかに幅が狭く軽量なリアリムプロファイルが選定された。他社では、フロントとリアに異なるリムハイトを組み合わせ、コントロール性を維持しながら空力的な利点を高めている製品がある。
HUNTが特許を取得したリミットレス・ワイド・エアロ・テクノロジーには2つの利点がある。リム質量が最小限に抑えられること、そして幅広なリムを作れることだ。
このテクノロジーは、リムのサイドウォール内の成型溝に低密度構造ポリマーのストリップを挿入している。その上からカーボンを成型するため、材料の使用量を最小限に抑えつつも幅広を実現している。
その結果、風洞実験データが証明するように、フロント側のエアロ効果を最大化しつつ、ハンドリング特性に妥協することなく、より速いホイールシステムを実現した。
カーボンスポーク
HUNTのテーパーロックUDカーボンスポークは、プロレースで4シーズン以上実戦投入されてきた実績がある実用性にも富んだスポークだ。
SUB50もテーパーロックUDカーボンスポークを採用している。通常のスチールスポークに比べ、横方向の反応性が最大30%向上した。スポーク1本あたりの重量はわずか2.7gでありながら、スポークテンションは最大450kgfに対応している。強度が高まった結果、スポーク本数を減らすことに成功した。
テーパーロック・テクノロジーにより、カーボンスポークながらスポークテンションの調整や交換も行うことが可能になった。カーボンスポークは振動吸収にも効果がある。荒れた舗装路でも振動をいなしながら、静かな走行感が得られるため、ライダーの疲労を軽減することができる。
新しい幅広のリム形状とカーボンスポークの組み合わせは軽量化を達成し、これまで到達できなかった強度対重量比を達成している。
新設計のハブ
新しいH_Ratchetデュアルサイド40Tラチェット・ハブ・システムは、より少ない材料で信頼性の高い9度のかみ合わせを実現し高いトルク負荷にも対応した。1ペアあたりの重量はわずか332gだ。
ホイールシステム全体の軽量化をさらに追求するため、HUNTの開発チームは信頼のおける業界トップクラスのハブサプライヤーと協力し、40Tのドライブリングを備えたダブルラチェットハブシステムを開発した。
フローティングラチェットリングはカセットとして収納されているため、ハブをバラしてメンテナンスを行う際でも、部品が飛び出してバラバラになることはない。エンドキャップの取り外す際の工具も不要になっている。
二重シールされたメインハブ・ベアリングは、簡単に整備できるように設計されている。ハブシェルには6066アルミニウム合金を使用し、高い強度対重量比を実現している。
アクスルとフリーハブボディは7075-T6合金で強度が高く、H_Ceramik強化コーティングが施されている。HUNTがサポートするボル・マッカラーは、このシステムを試すため、世界一周の旅に出発し25,000kmを走破しその耐久性の高さを実証した。
2023年ETRTO規格に対応
SUB50のリムプロファイルは2023年のETRTO規格に完全対応した。25mm幅のタイヤは排除され、28と30mm幅のタイヤでエアロ効果が最大限に発揮できるように最適化されている。
フロント、リアともにリム内幅23mmのフックレス/TSS(チューブレス・ストレート・サイド)ビードを採用している。フックレスリムテクノロジーにより、リム重量を軽減することにも成功した。
タイヤとリムの界面におけるエアロダイナミクスを改善することができる。幅広のフックレス・ビード・プロファイルは、鈍く扁平なプロファイルのため、リム打ちパンクの可能性を減らすのにも役立っている。
タイヤ幅は28mmから47mmまで正式に対応している。28mmの最大空気圧は5.0Barで47mmにいたっては、わずか3.0Barだ。
SUB50の仕様
ここまでの紹介にもあるとおり、フロントとリアは同一リムハイト、フロント外径34.2MM幅、リア外径30MM幅のフックレス・リム・プロファイルだ。スポークはUDカーボン、ラチェット・ハブ・デザインを採用している。
- リミットレス・ワイド・エアロ・テクノロジー|HUNTが特許を取得した製造方法で、リムサイドウォール内の成形溝に低密度構造ポリマーのストリップを挿入し、その上にカーボンを成形する。
- リム|34.2mm幅のフロント・リム・プロファイルは、バイク前部のエアロ効果を最大化。30mm幅のリアリムプロファイルは、システム全体のエアロダイナミクスに大きな悪影響を与えることなく軽量化を実現。
- タイヤ|28~30cのチューブレスタイヤで優れた空力性能を発揮するよう最適化された23mmリムベッド。チューブレス、フックレス/TSS対応タイヤサイズ28cから58cまでのETRTO適合。クリンチャータイヤは使用不可。
- ハブ|H_ラチェットDBL– 40Tドライブリングを採用したデュアルサイドラチェットシステム。6066アルミニウム合金製ハブシェルと7075-T6合金製アクスル、フリーハブボディ。H_Ceramik強化コーティング。
- セラミックスピードベアリング |CeramicSpeedベアリングは、CeramicSpeedファクトリーにてHUNT H_Ratchetハブセットにカスタムフィットされ、1000分の1ミリ単位で測定される極限の公差。
- スポーク|テーパーロックUDカーボンスポークは、同等のスチールスポークに比べ、横方向の反応性が最大30%向上。スポーク1本あたりわずか2.7gでありながら、450kgfの締め付け力に対応。スポーク数フロント18本、リア20本。
- ハンドビルド|ホイールはすべて、完全な品質管理検査を含め、手作業で製造され、仕上げ。
- 付属品|チューブレステープ&バルブ、アクスルアダプター
- 重量|1380g