Specialized Aethos 2が実現した5.9kgという驚異的な完成車重量は、単一の技術革新によるものではない。
それは、フレームの構造設計から、カーボンファイバーの積層、そして通常は見過ごされがちな微細なパーツ一つひとつに至るまで、グラム単位での軽量化を徹底的に追求した、執念とも言えるエンジニアリングの結晶である。
フレーム構造とカーボン積層の進化
Aethos 2の核心には、初代から受け継がれ、さらに洗練された設計思想「フローステートデザイン」が存在する。これは、剛性を高めるためにカーボン層を追加する従来の設計手法とは一線を画す。
スーパーコンピュータが導き出した最適形状
開発の原点は、「荷重がかかった際にフレームが呼吸するように微細に変形する」という人間的な気づきであった。
このデータをプロンプトとしてスーパーコンピュータに入力し、膨大な実走データと照合・解析することで、応力がフレーム全体をスムーズに伝播する、伝統的でありながら構造的に最適化されたラウンドチューブ形状が導き出された。
形状そのものを最適化することで、従来のカーボンバイクに不可欠とされた補強レイヤーが不要となり、結果としてライドクオリティと剛性を高めながら、より軽量なフレームが実現したのである。
新次元のカーボンレイアップ
Aethos 2は、ジオメトリーの変更と最大35mmまでのタイヤクリアランス拡大という、本来であれば重量増につながる要素を取り込みながら、S-Works FACT 12rフレームで595gという重量を維持している。
これを可能にしたのが、新次元のカーボンレイアップである。エンジニアたちは製造工場に何度も足を運び、文字通りミリ単位でカーボン積層を改善したとされている。
これは単なる数値目標の達成ではなく、チューブのプロファイルを微調整し、剛性対重量比を向上させながら、初代が持つバターのように滑らかな乗り心地を維持するための、緻密なチューニングの結果である。
この徹底した最適化により、S-WorksモデルにはFACT 12rカーボン（フレーム重量595g）が、ProおよびExpertモデルにはFACT 10rカーボン（フレーム重量705g）が採用され、異なる価格帯でワールドクラスの軽量性を提供している。
「グラム単位の戦争」— 徹底的なパーツの軽量化
シートクランプは9g軽量化した。Aethos 2の開発において、エンジニアの執念はフレームだけに留まらなかった。
「No gram was safe（1グラムたりとも見逃さない）」という思想のもと、通常はアッセンブリーの構成要素として見過ごされる細部のパーツに至るまで、徹底的な軽量化が図られている。
- シートクランプ：9gの削減
- ボトムブラケットシェル：6gの削減
- フロントブレーキマウント：2gの削減
- UDH（ユニバーサルディレイラーハンガー）：2gの削減
UDHはSRAMとSPECIALIZEDが協力してAethos専用の軽量UDHが制作された。特筆すべきはUDHである。Aethos 2は、補修部品の入手性と将来の互換性を確保するため、SRAMが提唱するUDH規格を採用した。
しかし、Specializedは標準のSRAM製ハンガーをそのまま採用するのではなく、より軽量でクリーンな外観を持つ独自のカスタムUDHハンガーを設計し、さらなる2gの軽量化を達成した。
もちろん、フレームはSRAMの標準的なUDHハンガーとも完全な互換性を保っている。
Tarmac SL8のエクスパンダープラグは46.2gだ。
Aethos 2は26.4gのエクスパンダープラグに改良が行われた。
“つば”の部分も減らされており、極限まで軽量化されていることがわかる。さらに、フォークコラム内に収められるエクスパンダープラグといった細部に至るまで、スタイル、重量、耐久性を考慮した専用の軽量設計がなされている。これらの地道な積み重ねが、完成車全体の驚異的な軽さに貢献しているのである。
システムとしてのアッセンブリー — Roval Alpinistコンポーネント
Aethos 2の卓越した性能は、フレーム単体ではなく、一体で開発されたRoval Alpinistコンポーネントとの相乗効果によって完成する。
Roval Alpinist Cockpit II
10万回以上のRetülフィットデータを基に設計された新しい一体型コックピットは、わずか270g（400x100mmサイズ）という軽量性を誇る。
ボルトを含めたハンドル重量は、公称重量よりも軽い。トップ部の楕円形状は手の圧迫を軽減し、4度のフレア角は自然な手首の角度を維持する。さらに、エアロ性能を追求したRapideコックピットと比較して振動吸収性が28.3%向上しており、コントロール性を高め、長距離での疲労を軽減する。
ケーブルの完全内装化を実現し、クリーンな外観にも貢献している。
Roval Alpinist CLX III ホイール
S-Worksモデルにアッセンブルされる新型ホイールは、ペアで1,131gという驚異的な重量を達成した。
Photo: SPECIALIZEDこの軽量化の鍵は、ARRIS社と共同開発したRovalエアロコンポジットスポークにある。このスポークはスチールよりも高強度でありながら、ホイールシステム全体から103.5gもの重量を削減している。
ハブもDT Swiss 180のインターナルを採用した新型軽量ハブへとアップデートされた。
これらのコンポーネントは、単に個々のパーツが軽量であるだけでなく、Aethos 2が目指す「軽量で、反応性に優れ、快適なライドフィール」というバイク全体のキャラクターを形成するために、システムとして統合設計されているのである。
まとめ：細部の集合体が生み出す完璧なライド
Aethos 2の構造とアッセンブリーを分析すると、その卓越した性能が、一つの魔法のような技術によってではなく、無数の地道で執拗なまでの最適化の積み重ねによって成り立っていることがわかる。
「フローステートデザイン」という革新的な設計思想を核としながら、カーボン積層のミリ単位の調整、そしてディレイラーハンガーやブレーキマウントといった細部に至るまでの徹底的な軽量化、さらにはシステムとして統合されたコンポーネント群。
これらすべてが完璧に調和することで、Aethos 2は単なる「軽いバイク」を超え、乗り手の存在を忘れさせるほどの「完璧なライド」を提供する、一つの完成された生命体へと昇華しているのである。
