「上手くなったかもしれない」
最新設計の機材、ヘッドを寝かせたジオメトリ、マレットの旋回性、凶暴なMAVENブレーキ、DH並みのタイヤを使ったが故の錯覚だった。残念ながら、ライダーのテクニックは何一つ変わっていない。しかし、このバイクに乗ると自信が持てるようになる。
その安定感と速さに、「もう少しだけ攻めてみよう」と走りに欲が出た。
いつも使用しているフォークがFOX 34の120mmであるため、Levo SLに付属しているFOX 36の160mmトラベルは、トレイルの凹凸が何もなかったかのように走り抜ける。そしてモーターが後押し、体力を温存しながら下りを集中して楽しめた。
eMTBに乗る前は重くて扱いにくいというネガティブなイメージを持っていたが、LEVO SLによって簡単に覆された。
今回は、スペシャライズドLevo SLのGENIE搭載モデルを実際に試した。新型リアショックやモーター性能など、トレイルの登りや下りで多角的に検証する。
サスペンションセッティング
サスペンションのセッティングは、どのサスペンションであってもメーカーの指示通り、基本に忠実な調整を行っている。どんなに優れたMTBでも、サスペンションのチューニングひとつでダメなバイクに様変わりする。
マイナーチェンジしたLEVO SLには新型GENIEリアショックが搭載されている。スペシャライズドが開発しFOXが製造する独自のリアショックだ。エアチャンバーを2つ備え、トラベルの量に応じて内側と外側のエアチャンバーを使い分ける仕組みだ。
トラベルの70%までは内側と外側の両方のエアチャンバーを使って直線的なレバレッジカーブになる。71~100%は内側のエアチャンバーだけを使うことで後半はよりプログレッシブになり、ボトムアウトを防ぐ仕組みだ。詳しい仕組みの話は先般の記事に譲る。
GENIEリアショックのサグ推奨値は30%で、60kgの体重を支えるためにおおむね120psi前後の空気が必要になる。デジタルノギスで30%になるように調整した。
FOX 36フォークも規定通りの60psiに設定したが、最終的にはサグを25%に設定した。基本的なセッティングで走り込んでから、リバウンド等をチューニングしていくほうが良いが今回は全て推奨値で設定した。
タイヤの空気圧はフロント1.1Bar、リア1.15Barに設定している。
重量19kgの軽い走り
LEVO SLの重量はおよそ19kg前後だ。eMTBのほとんどが20kg以上の重さで構成されていることを考えると、タイヤをチューブレスにセットした状態でこの重量は十分な競争力がある。
上位モデルのS-WORKSになるとさらに軽量だ。カーボンホイールとカーボンハンドルに加えEAGLE XXの軽量コンポで18kgの重量になる。初代LevoよりもGen2は若干重量が増している。
確かにバイクは軽いほうが良いが、マイナーチェンジでブレーキをCODEからMAVENに変更したことと、太いGENIEリアショックの搭載など、スペシャライズドはeMTB市場で最軽量のバイクを目指しているわけではなさそうだ。丈夫で実用的かつ賢明なパーツアッセンブルがその意思を表している。
タイヤはフロントが29インチ、リアが27.5インチのマレット仕様だ。29インチの走破性と、27.5の旋回性の良いところ取りとした構成で、eMTBの定番仕様になっている。タイヤはフロントにGRID Trailケーシングタイヤ、リアにGRID Gravityケーシングタイヤが標準装備されている。トレイルとダウンヒル系の間のような構成になっている。
可能であれば、インサートを入れてさらに低圧で運用するのが良いだろう。
スムーズすぎるサスペンション
「心配になるほどリアショックが動く」
GENIEリアショックを初めて使用したとき、初動が動きすぎて心配になった。空気圧を低くし過ぎたと勘違いするほど、初動の動きが軽やかだ。サグを推奨の30%に設定していてた先入観から、余計にそう感じた可能性もある。
やや大きめのドロップオフを処理できず、モロに着地した際にボトムアウトするかと思ったことがあった。その瞬間、リアショックが目を覚ましたかのように最後に粘り始めた。序盤に動きすぎるリアショックは、トラベルの残り30%から外部に配置されたエアチャンバーを切り離し、一気に粘りだす。
普段XC用に使用しているFOX FLOATや、トレイルバイクに使用しているFLOAT Xとは異なるGENIEの独特な動きに感心した。本当にMTBの機材は複雑だが、技術の深みがあり面白い。初動は滑らかに、ボトムアウトに向かって粘る。最後の受け皿の器が大きさを感じられるのがGENIEリアショックだ。
eMTBといえばモーターのパワーやトルクや静穏性に目が行ってしまうが、Levo SLはサスペンションやハンドリングの良さなど、快適性操作性の良さに気を惹かれた。
LEVOの動作はeMTBの重さを感じさせないトレイルバイクそのものだ。実に親しみやすいバイクといえる。トレイルの下りではその重さがプラスに作用して、タイヤが地面に張りつく良い効果がある。
荒れた路面や木の根っこがある区間でも、重量に似合わず浮遊感がある乗り心地だった。足元がゴツゴツした地形を走っても、ライダーが上下に揺さぶられることから守ってくれる。急な下り坂で躊躇しがちな区間も、前後のサスペンションに助けられながら走ることができた。
リアホイールが27.5であるため走破性が気になっていたが、マレット専用設計のS2サイズは前後のバランスもよく地面をぴったりと追従して旋回性も高い。本来ライダーが行うべき仕事を、バイクが肩代わりしてくれる。
下りの1本目は、Levo SLの挙動を探りながら恐る恐る走った。2本目はやや攻めながら走った。面白いのは、今まで怖かった下り区間を何の気なしに下れるようになったことだ。心のリミッターが外れ、スピードが上がる。性能が高い機材の下駄をはいてしまうと、不意に強い衝撃を受けるが、リアショックはその衝撃を貪欲に吸収してくれた。
GENIEは初動が動き過ぎる感じがするのだが、設計思想的には狙い通りでトラベルの70%までは敏感に反応する。リアショックの動きを見ていてもトラベルをかなり使っているにもかかわらず、何度走っても厳しいボトムアウトはしない。
フロントサスペンションの36 Rhythmは、FOXのラインナップの中でエントリーレベルの位置づけだ。FOX FACTORYと比べると初動のわずかな詰まり感や摺動の抵抗を感じたが、それでも十分すぎるほど滑らかでコントロール性に優れていた。
これまでFOX FACTORYしか使ったことが無く、初めてRhythmを使用したのだが必要十分なサスペンション性能といえる。レースに出なければRhythmでも十分すぎるだろう。さすがはFOXだ。FACTORYと比べると重量も重いが、それ以外の全体的な滑らかさは満足できると思う。
マレットの違和感
マレットは使うまで懐疑的だった。LEVO SLで初めて使ったが、食わず嫌いだったというのが結論だ。
前後の優れたサスペンション、フレームジオメトリが相まってマレットの良さを引き出している。LEVO SLに手持ちの29リアホイールをはかせてみたが、マレットで使うほうが旋回性が明らかに良い。リアを29にして引き出せる走りの軽さと走破性の向上は、モーターを考慮するとわずかだろう。
マレットでネガティブだと思っていた走破性の面は、SL1.2モーターが全て帳消しにしてくれているとおもう。
eMTBは走行効率や登坂性能を最大化することが求められる。そうなると、前後29インチを使用するほうが合理的で理にかなっていることは明白だ。しかし、ひとたびトレイルを走れば、LEVO SLが選択したマレットの利点を理解するのに時間はかからなかった。
コーナーを曲がり始める時に、バイクの旋回動作が簡単に感じられる。理由は単純で、小径リアホイールと短いチェーンステー、この2つだろう。良く曲がり、敏捷性がある。コーナーが多いシングルトラックを次々に曲がっていくとき、LEVO SLは軽やかに走り抜けeMTBであることを忘れてしまう。
マレットはリアが小さくフロントが高いため反りあがったような感覚があるが、前後29では引き出せないバイクの振り回しやすさがある。
タイヤトラクション
あえて、タイヤトラクションの話をするのには理由がある。
MTBにおいてタイヤの重要性を改めて認識したからだ。トレイル用のタイヤは本当に安心感がある。タイヤの影響は大きいと再認識した。
ノブが低いXC用タイヤは、一気に滑りだすので恐る恐る走ることが多い。一方で、トレイル用とグラビティ用のタイヤ構成はグリップを引き出し、トレイルを走る時に自信を持たせてくれる。
LEVO SL COMP CARBONに付属のタイヤは以下のとおり、グリップ力に優れたタイヤが付属している。
- 前:Butcher, GRID TRAIL GRIPTON T9 29×2.3″
- 後:Eliminator, GRID GRAVITY GRIPTON T9/T7 27.5×2.3″
フロントは粘りのあるButcher T9タイヤがトラクションを発揮し安心感と自信を持たせてくれる。
リアには転がりが小さいEliminator T9/7タイヤが付属している。リアは滑りやすいと感じたが、滑りだす時の挙動が読みやすく、粘り続けるのであえてリアにセッティングしているのだろう。
LEVO SLの登りのトラクションの良さと下りでのグリップ感は、しなやかな前後のサスペンションとグリップ力の高いタイヤが組み合わさった結果だ。それぞれの特徴が合わさることで、相乗効果を生み出している。軽快ながらトレイルを走りやすい一方で、恐怖感が無い理由もここにある。
トレイルの直線を一気に下って、90°ターンするような場面でもフロントタイヤが張り着くためステアリングの操作を落ち着いてできる。36という太めのフォークや、比較的緩めのヘッドアングルも影響しているだろう。
恥ずかしい話だが、これまで急斜面やテクニカルな地形を下車して下っていたのだが、LEVO SLなら乗り越えようという気になって、あっさりとクリアできた。ドロッパーを落として、腰を引いてもお尻がリアタイヤに当たらないため、余白が増えたのも影響している。
マレットは見た目や異形セッティングのため、あきらかに食わず嫌いだった。モーターによるサポート、下りでバイクの後ろに体を移動してもリアホイールとの余裕がある安心感は29erバイクでは味わえない。
自然なモーター
eMTBはモーターの話がメインになってしまう場合が多い。わたしも、モーターの話をしたい。
しかし、LEVO SLはモーターが自己主張しないので、本記事では後回しになった。というのもeMTBながら、走行中はモーターについて考えることがほとんどなかった。モーターレスのトレイルバイクで走っているのと変わらないのだ。
いじわるな言い方をすると、モーターの存在感が無い。しかし、最高の誉め言葉になると思う。人間に考えさせないというのは、自然であること、静かであること、必要な時にアシストできること、このバランスが重要になってくる。
SL1.2モーターはどの速度域でも十分にサポートしてくれる。ペダリングを止めてもモーターが後を追うようにパワーを少し出し続けるので、惰性で後押しするような動き方をする。この独特のモーターの動作は、重量のあるeMTBで岩を乗り越える時に有効だと思う。
岩を乗り越えた時にモーターの惰性が無い場合は、ペダルを下まで回すか、途中まで逆転させてから踏みなおす必要がある。前者の場合はクランクが岩にヒットする確率が高まる。しかし、モーターの惰性アシストがあるので、ペダルを12時から3時まで踏み込めばあとの4時から6時はモーターが後押ししてくれるイメージだ。
逆にクセがあるのが急斜面だ。一度急斜面で足を着いて、ゼロスタートから重いギアを踏み込むとモーターが反応しない。急斜面ではギアを軽くしてクランクを回転させないとモーターがサポートしてくれなかった。慣れればなんてことはないが、初めて使ったときは動かなくて戸惑ってしまった。
モーターの役割は、走ることを全てサポートしているわけではない。ライダーの入力動作を補助する脇役のような立場にある。この点を勘違いしていた。トレイルにアプローチする舗装路の登りでは、20km/hほどのスピードが出て一般的なロードバイクよりも速かったが、トレイルでは入力の出し入れが自然なのだ。
SL1.2モーターはライダーが行う様々な入力をうまく解釈して、リアホイールが滑らかに回るように、うまく伝達してくれる。その動作はフィジカルのパワーが増したと錯覚するような、自然な動きかたをする。
eMTBとGENIE
LEVO SLに追加されたリアショックのGENIEは、先にスタンプジャンパー15の目玉として搭載された。このリアショックの目的は、リアタイヤのグリップを引き出し、垂直方向の柔軟性を優先している。
先ほどのサスペンションの章でもふれたが、推奨サグ量が30%でバイクの重さと初動の動きの良さからボトムアウトが心配だった。しかし、そこはGENIEのメリットである2つのエアチャンバーが良い仕事をする。
ボトムアウトが心配で、ボリュームスペーサーを追加したほうが良いと初めは考えていたが、デフォルトのセッティングでも何ら問題はなかった。
サスペンションの設定にこだわる方は、GENIEバンド(ボリュームスペーサー)を追加して、より硬めの設定にすることも可能だ。
前後のサスペンションが積極的に仕事をするため、ただ乗っているだけである程度の衝撃を吸収してくれる。テクニック不足を補ってくれるわけだが、身体や肩に余計な力がかからないので手首や脚が疲れることが無い。モーターのアシストも相まって、さまざまな地形を楽しめた。
バッテリーの持ち
トレイルモードメインで舗装路とトレイルヘッドまで合わせて250m程登ると、20%弱バッテリーを消費した。気温やライダーの体重、走行スタイルにもよるが1000m登るとバッテリーはほとんどゼロになると思う。
エコモードであれば最長5時間の航続可能だが、トレイルモードで使用する事が多くなると思う。追加で160Whのレンジエクステンダーバッテリーをボトルケージに搭載するとさらに航続可能距離を伸ばすことができる。
バッテリーの減り方は傾向が読みやすいため、MasterMind TCUディスプレイで都度バッテリーの減りと残量を確認しながら走ればエコになる走行スタイルが見つけられるはずだ。
まとめ:eMTBは迷わずLevo SL
スペシャライズドの新型LEVO SLは、軽量性、快適性、操作性などeMTBに抱いていたマイナスイメージを根底から覆すバイクだ。
SL1.2モーターは十分なトルクとパワーを提供し、自然かつ静かに動作する。しかし、このモーターは補助的なものだ。LEVO SLの本当の魅力は、トレイルバイクと遜色ないハンドリングと、優れたサスペンションの動作だ。
私のようにスキル不足でも、自信をもって下れるだけでなく乗っていて楽しいバイクだ。体力に自信が無い方ならなおさらで、下手なトレイルバイクを買うよりもトレイルを楽しめるだろう。
1000m程の獲得標高でバッテリーが尽きてしまうのは、心もとないと感じるかもしれない。その場合は、レンジエクステンダーバッテリーを追加すれば人間のほうが先に疲れてしまうだろう。
価格についても触れておく。カーボンの最も安いモデルでも99万円だ。決して、安いとは言えない。
しかし、日本価格は1ドル130円計算であり、かなり戦略的な価格設定になっている。スペックも十分で、SRAMトランスミッションS1000、SRAM MAVENブレーキ、最新ジオメトリのフレーム、改良したSL1.2モーターを考えれば、コストバリューに優れたバイクであることがわかる。
したがって、eMTBをお探しの方には非常に魅力的な選択肢になる。フィジカルに自信が無い場合や、体力を温存しながら下りを楽しみたい場合など、モーターレスのトレイルバイクを使うよりも楽しみの幅が広がるだろう。とにかく下る本数は飛躍的に増えるはずだ。
LEVO SLは優れたSL1.2モーター、軽量性、新型リアショックGENIE、マレットのセットアップで、走り慣れたトレイルを別の世界に変えるバイクに仕上がっている。