AEROAD開発責任者スヴェンさんと昼飯食べてきた。

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AEROADの発表とあわせて、ドイツ本国からAEROADの開発責任者スヴェンさんが来日した。ご縁があって、スヴェンさんに直接インタビューをする機会を得た。AEROADに関して様々な質問をしてきたので、記事としてまとめた。

インタビューの前に、通訳のマサトがスヴェンと昼飯に行くというのでご一緒させていただいた。新型AEROADの話は一切せず、本国ドイツのCANYON内部の話だったり、世間話をしたりと貴重な時間を過ごした。

スヴェンがお箸を上手に使うのに驚いたが、マサトに聞くとどうやら海外の人は普通にお箸を使える人が多いらしい。和食定食もおいしいとお替りしていた。

休憩をはさんで、新型AEROADの話を伺った。

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SWISS SIDEの影

IT:前作AEROADの開発では、SWISS SIDEとタッグを組んで大々的な空力開発を行っていた。それが一つの目玉で、AEROADを最速のバイクに押し上げた理由だった。しかし、今回はSWISS SIDEの影が見えない。新型の空力開発はSWISS SIDEが今回も行ったのか。
スヴェン:新型の空力開発はCANYONの内部で行った。前作でSWISS SIDEと共同開発を行ったことで、CANYON内部に空力開発の知見が増えたのも理由だ。前作はSWISS SIDEと近い開発者が居たこともあり協業している。風洞実験は、TOUR誌で用いられているGST風洞で行った。

前作でSWISS SIDEとの協業を大々的にアピールしていたが、新型AEROADのホワイトペーパーにはSWISS SIDEの名が一切出てこなかった。餅は餅屋なので、今回の空力開発は、だれが、どのように行っているのか確認したかった。

CANYONは、スペシャライズドのように自社の風洞実験室が無い。しかし、同国ドイツにはイメンシュタットにGST風洞実験施設がある。戦闘機やF1のみならず、TOUR誌の風洞実験でも用いられている世界で最も有名な風洞実験施設だ。

前作のAEROADでSWISS SIDEが空力開発を行った手法は2段階で行われた。はじめにCFD解析を行った後、フレームの各部位ごとに複数の形状を用意して組み合わせる。実際の風洞実験で空力が良い形状を突き詰めていく方式だ。TOUR誌でも当時世界最速のバイクになった。

既に完成の域に達していたAEROADのバランスを崩すことなく、1%の改善を追及した。スルーアクスルホールを無くし、フレーム全体のチューブ形状を1mm単位で薄くチューニングしていった。しかし、積層を減らし薄くなることのデメリットは剛性が落ちることだ。

CANYONは期待する剛性を満たせるように、剛性と空力のバランスを取りながらAEROADをシェイプアップしていったという。そして、新型AEROADは前作よりも軽量化を果たしつつも、空力性能が向上するという偉業を成し遂げた。

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TOUR紙とCANYONの風洞データー差異について

Photo: CANYON

IT:TOUR誌とCANYONの風洞実験結果が異なる。差が生じたのにはなにか理由があるのか。
スヴェン:試験プロトコルが違うからだ。CANYONとTOUR紙とでは(GST風洞を使っているが)試験の方法や手順が異なる。そのため、結果が必ずしも同一だとは限らない。

回答がわかっていたからこそ、言わせたかった。わたし自身も風洞実験を行ったことがあるが、得られたデータをメーカーが有利になるように扱うことはいくらでもできるのだ。

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風洞実験には一貫した試験プロトコルがない。各社が自由に風速、Yaw角などを決められる。さらに気温、気圧、湿度で計測値は大きく異なってしまう。たとえばYaw角5°に固定し40km/h相当の風で10回試験を行ったとしても、10個のデータが一致することはほぼ無い。Yaw角が同一にもかかわらずだ。

風洞実験では、ひとつのYaw各に対して60秒間ほど同じ風速をあて続ける。60秒間の平均値を結果として取るのだが、風洞施設によっては風速0mから既定の風速域に立ち上がるまでにも差が生じる。この風の立ち上がりも平均値に含まれるため、風洞実験室のファンの性能が変われば結果も微妙に変わってしまうのだ。

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実際の測定では、風の速度が一定になり安定してからデータを取得し始める。それでも、同一Yaw角で繰り返しデータを取得しても同じ値になる事はまずない。

そして、風洞実験の最大の課題は実験後にある。得られたDragの測定データをどう扱うかで値が全く変わってくる。最大の問題は加重平均計算の重み付けの方法にある。どのYaw角に重みづけをするのかは規定がない。各社、エンジニアよって方法がバラバラだ。

加重平均計算は、「解釈の影響」を非常に受けやすい。「重み付け」は各社バラバラであって「都合の良い重み付け」がまかり通っている。例えば、得られた測定データが芳しくない場合ヨー角の重み付けを減らす、といった内部操作もメーカーが自由に行える(行っている)という背景がある。

「ヨー角の重み付け」の采配は各社バラバラであり、さらに厄介なのが移動するスピードに応じてヨー角が発生する頻度は変わってくる。速度が速ければより0°に近い値の出現確率が増える。速度が遅ければ徐々に出現確率が均されていく。

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重み付けは「解釈」次第であり、どのような配分で重み付けが行われているかはどこのメーカーも公開していない。「風向きの出現率の論文もあるが、普及には至っていない。

論文になるほど、現実世界において「どの風向き」が「どれくらい発生するか」がまったく予測不能な点にある。どの風向きの出現率が高いとするかは、結局はメーカのさじ加減で決まる。

したがって、空力性能が「200W」とTOUR紙で書かれていても、何をどのように計算した結果なのかは実験者しかわからない。

もちろんバイクは直進することがほとんどなので、Yaw角0°~5°付近がライダーが最も遭遇する風向きだ。しかし、風向きは刻々と変化し無限に変化し続けること、相対的に出現率が低いのが20°~30°という傾向がみられるものの、規則性は一切ない。

得られたYaw角毎のデータに対して、それぞれにどれくらい重みづけをし加重平均計算をするのかは無法地帯だ。「新型はYaw角0°~5°のDrag(kgf)が小さいからめちゃくちゃ重みづけして数値結果を良く見せてやろう」ということもできるのだ。

CANYONがどのような方法で算出したのかは定かではない。しかし、確実に言えることは、新型AEROADはフレーム単体で空力性能は向上している。その事実だけで十分ではあるが、風洞実験の結果を鵜呑みにせず、測定方法や計算方法などを把握したうえで数字と向き合う必要がある。

次回はAEROADの作り込みや、形状についてインタビューした内容を掲載します。

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サイクル・サイエンス ---自転車を科学する
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マックス・グラスキン(著), 黒輪 篤嗣(翻訳), 作場 知生(翻訳)
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