ポガチャルが使い、ツールドフランスを制したホイール。
この、だれもが理解しやすくありふれた表現だけでは、ENVE4.5を説明するには不十分だ。
ENVEの機材パフォーマンスが高いことは、EDGE時代からのホイールが証明している。最近になってポガチャルが使っているだとか、ツールを勝ったというのはENVE4.5を語る上で些末な話に過ぎない。
EDGE時代からリムは優れており、ENVE以上に優れたリムを見つけるのは困難だった。手組するならENVEのリム。それが定石だった。
この投稿をInstagramで見る
古くはEDGE45のチューブラーリムやEDGE25の軽量リム、ロード用SES Gen1,2,3、MTB用M50、M60、M525、ENVE CX TUと数々のENVE手組ホイールを組んで使ってきたが、どれも素晴らしい設計と仕上がりだった。
今ではあたり前になった前後で異なるリムプロファイル設計もENVEが走りだった。MTBで主流になったフックレスリムも他社に先駆けて製造を開始した。そのノウハウは現代のロード用フックレスリムにも生かされている。
この投稿をInstagramで見る
今回インプレッションするENVE SES Gen4 4.5は、これまでENVEが培ってきた技術がふんだんに盛り込まれたホイールだ。新型ENVEハブはリムに最適化しており、実質的にはGen4.1と言っていいだろう。
今回の記事は、ポガチャルと共にツールドフランスを制したENVE SES 4.5(Gen4.1)をインプレッションしていく。
あらゆる条件で最速
ENVEはリアルワールドにおける空力性能を追求するため、SPECIALIZED S-WORKS TARMAC SL7とENVE CUSTOM ROADを用いて、SESシリーズの風洞実験を行っている。
- 風洞実験施設:シルバーストーン・スポーツ・エンジニアリング・ハブ
- 速度域:時速32km、時速48km
- 使用タイヤ:ENVE SES
- バイク1:ENVEカスタムロード、56cm、Di2、SES ARハンドル
- バイク2:S-WORKS TARMAC SL7、56cm、Di2、RAPIDEハンドル
ENVEカスタムロードとSES各シリーズの実験結果(32km/h)は以下の通りだ。
ENVEカスタムロードを用いた場合、ENVE SES 6.7が最も良い空力性能であることがわかる。旧型SES 7.8よりも空力性能が良い。32km/hの速度域の場合はSES 4.5とSES 6.7の空力性能は同等であり、厳密に言うとYaw角10°の場合はSES 4.5のほうが空力性能が高い結果が出ている。
加重平均計算を行った場合結果は以下のとおりだ。
SES4.5(49mm/55mm)と旧型SES7.8(71mm/78mm)の差は0.2Wほどしかない。いかにGen4のSESが優れているのかがわかる。速度域が48km/hの場合においてENVEカスタムロードと各SESシリーズの実験結果は以下の通りだ。
速度域が上がるとSES 7.8の空力性能の高さが目立つ。しかし、SES 6.8の空力性能の差は1W以下にとどまっている。SES 4.5の空力性能は速度が上がっても6.7や7.8に肉薄する性能を備えているのは驚きだ。
ロープロファイルのSES 2.3は速度域が上がるとDragが増加し遅くなる結果が出ている。また、Yaw角15°になるとSES 7.8の25mmタイヤが最も優れた空力性能を示している。
次はお待ちかねのTARMAC SL7と各種ホイールの実験結果(32km/h)だ。
ENVE SES 4.5と6.7はほとんど同じ空力性能を示している。Yaw角によってはENVE 6.7のほうが高い性能を示しているがその差はわずかだ。SES 4.5の空力性能もSES 6.7に劣らないばかりか場合によってはDT SWISS ARC 1100 DICUT 62よりも高い空力性能を発揮しているのには驚きだ。
高速域48km/hの場合だ。高速域になると、DT SWISS ARC 1100 DICUT 62やSES 7.8、SES 6.7、SES4.5の空力が高く他社ホイールとの間に大きな差が生じている。現行世界最速といわれているDICUT 62の空力性能が特に優れている結果となった。
ただし、これらの結果は現実世界の風を表しているわけではない。そこで加重平均計算が必要になってくる。
加重平均計算の重要性に関しては、以前実施した風洞実験の際に触れているので記事を参照していただきたい。
上図はTARMAC SL7を用いたSES各種の加重平均計算結果(32km/h)だ。新型SES 6.7SES 7.8の空力性能を上回っている。SES 4.5も7.8に迫る空力性能を備えておりその差は0.2W以内だ。この結果からわかるとおり、SES 4.5は非常に優れたパフォーマンスを備えている。
48km/hの場合はSES 7.8が最も高い空力性能を示す。次いで6.7、4.5という結果だ。6.7と4.5の間には1Wに満たない差が生じているが重量やリムハイトを考えると、ここでも4.5の性能の高さがうかがえる結果だ。
TARMAC SL7と各社の最新ホイールの加重平均計算結果(32km/h)だ。加重平均計算の結果、これまで世界最速だったDT SWISS ARC 1100 DICUT 62を超える性能をSES 6.7が叩き出した。
高速域になると性能差が顕著だ。SES 7.8がトップの性能、SES 6.7と続く。DT SWISS ARC 1100 DICUT 62は3位に陥落した。高速域に行けば行くほどディープリムの効果は高まるが、リムハイトが高ければ良いというわけではなく、リムシェイプやタイヤ選定も影響している。
それでもリムハイトと重量を考えるとSES4.5の性能は異様に優れている。
現実世界で最速を
ENVEによればSES Gen4は「現実世界最速ホイール」だという。それは風洞実験、実走、グランツールでポガチャルが2024年のツールドフランスで勝利したことでも証明されている。とはいえ、明らかにホイール自体の性能よりもライダーの力によるところが大きいとは思うが。
2023年、UAEエミレーツはホイールの性能調査を行った末にENVEと提携した。ENVEのホイールやエアロハンドルを採用したという事実は、彼らが走るトップレベルのレースに適していることを示している。
世界最高のライダーが使う最適なホイールであると判断しなければ、ENVEホイールを使う選択肢は無かっただろう。
ENVE SESで行われた空力開発は風洞実験だけでなく現実世界に主眼が置かれた。実際にライダーが走る公道、実際のバイク、ライダーが乗る速度域で最も性能が発揮できるホイールが開発された。
前段階で行われた風洞試験は、SESのエアロダイナミクス設計の柱になっている。風洞はENVEが求める「現実の世界」とは異なるが、プロトタイプのコンセプトをテストし、進捗状況を確認するためのコントロールされた環境を提供する貴重な場といえる。
SESの各ホイールは、同セグメントの「世界最速のホイール」になるようバイクに取り付け複数の速度域や、風向きで徹底的に風洞試験が行われた。ENVEのSESは第三者機関のテストで常に上位に食い込む空力性能を持っていることが明らかになっている。
なぜSESは違うのか。SESが他社のホイールと大きく異なっているのはシンプルな理由だ。SESは、他社がやらないような小さなことにこだわり、わずかな利益を追求することに全力を注いでいる。
SESはフレームの開発やライディングテストを行った結果、前輪と後輪の間に独自のリム形状と構造を採用することで、効率と空力性能を最適化できることを突き止めた。現在ではROVAL RAPIDE CLXが前後異なるリムハイトを用いているが、SESは2018年の時点で既に前後異なるリムハイトの設計に行き着いている。
前輪は横風の安定性を最大化するように設計されている。ライダーのバイク上での安定性は、特にタイムトライアルやトライアスロンにおいて、エアロ効率と全体的なパフォーマンスにとって非常に重要な鍵を握っている。
後輪は、バイクの前方から後方に抜ける気流をもう一度捕捉するように設計されており、空気抵抗を最大限に低減する役割がある。
また、空力性能はリムプロファイルだけでは決まらない。ENVEは最新のハイボリュームチューブレスタイヤENVE SES 27mmを中心にエアロダイナミクスを最適化した。リムよりも先に空気に接触するタイヤは、エアロダイナミクスに大きな影響を及ぼす。
AeroCoachの実験にもある通り、タイヤ銘柄の違いによって以下の空力性能の差が生じる。
- GP5000:318.7W
- GP5000 TL:318.7W
- Pro ONE TT:317.2W
- Power TT:319.2W
- Corsa Speed:320.1W
ENVE SESは自社開発のチューブレスタイヤENVE SES 27mmとの組み合わせが、最も空力性能を発揮できるようにリムシェイプをチューニングした。また、速度域によってもエアロダイナミクスに違いが生じる。そのため時速32キロ、48キロで最速になるようにチューニングが施された。
そして、現実世界ではすべての風向きが同じではない。風速計のデータによると、ライディング時間のほとんどは、ヨー角12度以下の風が生じるという。そこで加重平均抗力計算を行い、実際の風とライディングの条件におけるホイールセットのエアロ効率が高まるように計算された。
風洞実験と加重平均計算に関しては、筆者自身も実際に行った経験がある。その模様は以下の記事を参照して頂きたい。
見逃せない軽量化
新型SESで見逃せないのがリム重量だ。正直な話、リムハイトを考えると新型SESはどれもとんでもなく軽い。並み居る競合ホイールの中でダントツの軽さと言っていい。この重量には驚いた。SESは素材最適化設計が行われており、余分な素材はすべて排除されている。
リムとして必要なものだけが残っている。チューブレス対応とフックレス化によって、フック部分の素材は不要になった。そして、ディスクブレーキ専用設計でカーボンの積層は薄くなっていると推察できる。SES各シリーズのリム重量は以下の通り。不安になるほど軽い。
リムの実測重量は以下のとおりだ。
- SES 2.3:F 291g, R 296g
- SES 3.4:F 382g, R 393g
- SES 4.5:F 420g, R 436g
- SES 6.7:F 448g, R 469g
49mmで420gというのは圧倒的な軽さだ。ROVAL CLX50のリム重量が450g前後という事を考えると恐ろしいほどの軽さである。クラス最軽量のリムということもまんざら嘘ではない。ROVAL ALPINIST CLXのリム重量が330gである事を考えてもSES 2.3の291gは異常な軽さだ。
特にSES 2.3の完成重量は1197gで1200アンダーを達成している。新型SESは重量、エアロ共に兼ね備えた最高レベルのホイールと言えるだろう。
革新的なリム
SES 4.5のリム設計は特徴的だ。
- リムハイト:前49mm, 後55mm
- リム外幅:32mm
- リム内幅:25mm
- フックレス
この先進的な設計は、空力性能と現代のタイヤに照準を合わせた結果だ。厳密には、使用するタイヤ設計を基準にして、内側と外側のリムプロファイルを設計している。空力性能はタイヤ幅の影響を受けるため、タイヤ幅を考慮したリム幅に設計されている。
また、ワイドタイヤの性能を引き出すため内幅も拡大された。内幅を拡大することによって得られるメリットはいくつかある。
- タイヤ実寸幅の増加
- 空気の体積増加
- 転がり抵抗減
リム内幅が増えることによって、タイヤに記載のサイズ(幅)よりも実寸の幅は広がる。幅が広がることによって前方投影面積が増えてしまうが、空力性能が単純に悪化するわけではない。増えた幅を考慮して、リムプロファイルを最適化することによって空力性能が向上するのだ。
リム内幅が増加することによって、タイヤ内部のスペースも増加する。同一の空気圧であっても、空気の体積量が増える。結果的に低圧であっても転がり抵抗が小さくなるメリットが生まれる。
フックレスかフックドの違いは転がり抵抗に差が無いデーターが出ている。安全性の観点からも、大手メーカーはフックドに回帰していく可能性があるというが、ENVEはMTBリムで培ってきた技術があるため、自信をもってフックレスリムをSES Gen4で採用した。
SES Gen4シリーズには、リムハイトが浅く軽量なSES 2.3 から、リムハイトが深く空力性能に優れたSES 6.7まで、4種類のホイールが用意されている
その中でもSES 4.5は中間に位置し、ENVEによると最もオールラウンドで空力性能、重量、安定性、走行におけるバランスが最も取れているという。
「現実世界最速」が表す通り、実際にライダーがバイクを走らせる速度の48km/hと32km/hに合わせてホイールの空力性能をテストし最適化している。
リムはリアが55mm、フロントが49mmで異なるリムハイトが組み合わされている。フロントは横風耐性を高めるため浅くし、横風の影響を受けにくいリアは空力性能を高めるためリムハイトを高く設計している。
特異なリム設計は、タイヤセッティングも適切に行う必要がある。SES 4.5には27~29cのタイヤに最適化されている。最も性能を引き出せるセッティングはENVE SES 27cタイヤだ。
最大50cのタイヤも使用することが可能だが、ENVEによると33c以上のタイヤを使用すると空力性能が損なわれるという。グラベル用途で使用する場合はENVE Gシリーズが適している
SES 4.5はリムが軽量になっているが剛性も確保されている。SES Gen4はカーボンのレイアップを改良して剛性を落とさずに重量を削減した。独自のリムプロファイルは、リムに衝撃を受けても負荷を分散させる構造になっている。
空力性能を限界まで高めるため、スポークニップルは内部に収納されている。
2.3 | 3.4 | 4.5 | 6.7 | |
F高さ(mm) | 28 | 39 | 50 | 60 |
R高さ(mm) | 32 | 43 | 56 | 67 |
F内幅(mm) | 21 | 25 | 25 | 23 |
R内幅(mm) | 21 | 25 | 25 | 30 |
F外幅(mm) | 25 | 32 | 32 | 30 |
R外幅(mm) | 25 | 32 | 32 | 28 |
最適タイヤ幅(mm) | 27 | 29 | 27 | 28 |
最小タイヤ幅(mm) | 25 | 27 | 27 | 25 |
最大空気圧 (bar) | 6.2 | 5.5 | 5.5 | 6.2 |
タイヤ種別 | TL | TL | TL | TL |
TLテープ幅(mm) | 25 | 29 | 29 | 26.5 |
Fリム重量(g) | 275 | 370 | 411 | 430 |
Rリム重量(g) | 280 | 378 | 415 | 449 |
新型ENVEハブ
ポガチャルらUAEの選手たちがツール・ド・フランスでテストし、度々目撃されてきたENVEの新型ハブがGen4にも搭載された。
第一世代のENVEロードバブが登場してから4年、新型のENVEロードハブは新しいドライブメカニズム、ストレートプル対応、4つのラチェット歯数オプション、シェル構造の精密化、そして軽さと全方位的にアップデートされている。
ENVEが100%設計開発し、新型のインナードライブシステムによりさらに性能がアップしている。
インナードライブシステム
ENVEハブに搭載されているインナードライブシステムは、自転車用ハブとして最高レベルにまで性能が高められており、ハブ内部にENVEが考案した技術が注ぎ込まれた。
非常に大きなスチール製ラチェットがベアリングの内側に配置されており、ハブシャフトとベアリングへの負荷を軽減している。同時に、確実な噛み合わせを実現できるようになった。
42mmの大口径ラチェットドライブシステムは、ENVEが全て設計を行っている。アクスル自体への負荷が低減され、通常のベアリングよりも高耐久なものを使用しているため、プロが使用するシビアコンディションでも長寿命かつ耐久性が実現した。
パーフェクト・プリロードは 自動プリロード調整によりメンテナンスが容易になっている。
4つのラチェットシステムと性能
ENVEが新たにラチェット式を採用したのには理由がある。
- トルク伝達を分離し、アクスル負荷を低減する
- 歯の噛み合わせを変更できる
- 大口径ラチェットはラチェット歯へのストレスを与えにくい
- ベアリングの寿命が伸びる
- 耐久性が高まる
- 部品点数が少ない
- メンテナンスが容易
これらのメリットの中で特徴的なのは、交換可能な4つのラチェットが用意されていることだ。ライダーはライディングの目的に合わせてチューニングすることができる。効率、反応性、信頼性を最大化する事が可能になった。
- 40T:9°
- 60T:6°
- 80T:4.5°
- 100T:3.6°
角度が小さければ小さいほど、ペダルを踏み込んでからラチェットが噛み合うまでの時間が短くなる。100Tは遊びがほとんどなく、かかりが良い。
ラチェットの噛み合いについてENVEは面白い話をしている。ドライブのかみ合いと歯数に関しては トレードオフの関係があるという。かみ合わせが高ければ高いほど、パフォーマンスが向上するわけではない、とはっきりと断言している。
競技の条件が変われば、要求されるラチェット数も変わるということだ。ENVEはラチェット数と競技スタイルの関係性を例として以下のようにまとめている。
- 40T:ロード用、抵抗が少なくメンテナンスが最小限
- 60T:ロード用、グラベル用、バランスの取れた性能
- 80T:マウンテン用、バランスの取れた性能
- 100T:ダウンヒル、最高レベルのかみあい、 最低レベルのペダルの動き、最もメンテナンスが必要
それぞれのラチェットで生じる負荷は以下の通りだ。グラフは右に行いくほど負荷が高くなることがわかる。ホイールを回して空転させた際に最も抵抗が少ないのは40Tだ。
ラチェット数が多くなるとそれだけ噛み合うタイミングと頻度が増加する。その分だけ抵抗が増えるのは想像のとおりだが、足を止めたときに影響が及ぶ一方で、踏み出したときに噛み合うまでのタイムラグは100Tが最も短くなる。
パーフェクトプリロード
ENVEハブには「パーフェクトプリロード」というベアリングのプリロード(与圧)調整を不要にするシステムが搭載されている。チューニングされたウェーブワッシャーを使用することで、ベアリングの予圧は工場出荷時から最適化される仕組みだ。
第一世代にもパーフェクトプリロードが搭載されていたが、ウェーブワッシャーを保持するためにアクスル上にサークリップが必要だった。改良型システムではこの繊細な部品が不要になったため、システムの信頼性がさらに向上している。
ハブの寿命が尽きるまで与圧が調整され続ける、文字通りパーフェクトプリロードだ。
あたらしいハブシェル設計
全く新しいストレートスポーク専用のハブシェルデザインは、リムのERDが等しい場合はドライブ側とノンドライブ側のスポーク長が等しくなる設計になっている。ディスクロード用ハブは左右のスポーク長が異なる宿命があったが、同限りなく均一なテンションで組み立てられる。
ドライブ側、ノンドライブ側ともに同じ長さで組むため予備スポークのストックも一つで済むメリットが有る。
- ENVE 2.3 (28mm):300mm
- ENVE 2.3 (32mm):296mm
- ENVE 3.4 (39mm):287mm
- ENVE 3.4 (43mm):284mm
ホイール組み上げ時のメリットとしては、走行振動によってスポークがねじれる事を防止したねじれ防止スポークホールを搭載している。
また、スポークとスポークが干渉しない非接触型スポーククロスになるように計算されているため、スポークからの異音問題とは無縁になった。そればかりか、スポークがまっすぐにハブとリムをつなぐことができるようになり、前作のハブよりも横剛性が10%向上している。
参考までに、以前使用していた旧型ハブについてもおさらいしておこう。
旧型のENVEのハブも、フランジの形状をリム側の設計に合わせて最適化していたがJベンドスポークを使用していた。
当然、ENVEは組み上がったときにニップルの向きとハブ側スポークホールの位置が適正になるようにハブ側の設計も変えているこだわりようだ。このリムとハブを最適化することにより、スポークの張り具合や適切な駆動剛性を確保することができる。
旧型のハブも優れていたが、新型のハブはSESリム用に専用設計したハブとストレートスポークを使用しているため、横剛性と駆動剛性が向上している。
ベアリング
ハイエンドモデルのどれもがセラミックベアリングを採用するなか、ENVEはあえてステンレス鋼のベアリングを採用している。高性能フルステンレススチールベアリングとレースから構成されたベアリングは、高速回転と耐腐食性に優れた長寿命を実現している。
一発性能のセラミックベアリングではなく、長期間持続する優れた回転性能と耐久性を両立するためにあえてステンレススチールが選ばれた。ベアリング自体は非接触型インナーベアリングシール方式で転がり抵抗を低減している。
対してアウターシールは接触型で、ゴミの侵入や性能の劣化を防ぎベアリングの寿命を保証している。ベアリング構成も非常に簡素だ。汎用的な6902が使用されている。
ハブ仕様
フロント | リア | |
---|---|---|
シェル素材 | アルミニウム | アルミニウム |
重量(XDRボディ) | 109g | 217g |
ホール数 | 24ホール | 24ホール |
スポークタイプ | ストレートスポーク | ストレートスポーク |
クロスパターン | 2クロス | 2クロス |
ドライブ側 フランジ/センター距離 | 33.6mm | 18.3mm |
ドライブ側 フランジ径 | 37.25mm | 50.75mm |
非ドライブ側 フランジ/センター距離 | 24.5mm | 35.9mm |
非ドライブ側 フランジ径 | 38.45mm | 38.15mm |
スポーク長 | ERD/2-2mm | ERD/2-2mm |
エンドキャップ | アルミニウム | アルミニウム |
アクスル | 12x 100mm | 12x 142mm |
ドライブメカニズム | – | インナードライブラチェット |
ベアリング | プレミアムステンレススチール | プレミアムステンレススチール |
実測重量
メーカー(国内代理店はダイヤテック)から新型ハブを搭載した実測重量が公表されている。
- SES 2.3 F:528.1g
- SES 2.3 R:649.7g
- SES 3.4 F:631.7g
- SES 3.4 R:747.3g
- SES 4.5 F:662.5g
- SES 4.5 R:777.7g
- SES 6.7 F:664.7g
- SES 6.7 R:789.3g
インプレッション
ホイール重量とリムハイトからは、想像できない軽快さがある。
SES Gen4 4.5の結論だ。走らせてみると、45mmハイトのホイールを使っているかのような錯覚におちいる。速度があがっていくときに、リムハイトには似つかない回転の軽さがある。踏み込んで加速していくと、速度があげやすいため高速域にまで達しやすい。
その後に訪れるのは速度維持のしやすさだ。49mmと55mmの組み合わせ通りの高速巡行性能を感じられる。この相反する性能を体感してしまうと、SES 4.5が最も「汎用的」であるというENVEの主張が間違っていないと納得できる。
ホイール市場には、SES 4.5よりも軽量でリムハイトが高いホイールがたくさんある。例えばROVAL RAPIDE CLX、Princeton Carbon Works Wake6560、CRW CS5060などだ。実際は違いがわからないほど似たような乗り心地に感じられるが、SES 4.5は軽さと速さが際立っていた。
CRW CS5060はリムハイトが50mm/60mmで重量が1290gの優れたホイールだと思っていたが、ENVE SES 4.5のほうが加速感と軽快さが勝っているのは明らかだった。走らせたときの軽さと重量は必ずしも比例しないという新しい発見があった。
これまで使ってきた「オールラウンドホイール」の中で最高レベルと言っていいだろう。
SES 4.5はホイールの重量が1,492g or 1,432gと比較的重いホイールにも関わらず、走らせたときの軽さを生み出している要因は一体何が理由なのだろうか。
ひとつは、リムを含めた外周重量が単純に軽い。リム内幅25mmが現代のタイヤ性能を十分に引き出せている。SES Gen4リムに合わせて新型ハブを設計しており、ストレートスポークを採用して駆動剛性と効率性が向上している。
何か一つの性能変化が原因ではなく、複合的な要因が組み合わさってSES 4.5の走りの軽快さを生み出しているのではないだろうか。他の要因も走りの結果に影響を与えるかもしれないが、SES 4.5は全てが上手く組み合わさった結果、速く感じたのだろう。
速さや走りの軽快さ以外にも特徴がある。SES 4.5は全般的に快適で乗りやすいホイールだ。ホイールの影響というよりも、使用しているタイヤがフロント28cでリア30cであるため、比較的太めのタイヤというのも影響していそうだ。
タイヤ実際の幅を計測すると28cが31mm、30cは33mmほどに膨らんでいる。33mmといえばシクロクロスタイヤと同じ太さだ。
空気圧はフロント4.0bar、リア4.3barに設定した。路面状況が悪い舗装路を走る場合でも、路面から離れず張り付いてくれる。パワーの入力加減に気を使わなくても、踏み続けていれば縦方向の振動処理に気を使うことがない。路面を問わず走破性の高さを感じられる。
登りも進む感じがよい。1290gのCRW CS5060と比べてみても、明らかにSES 4.5のほうが軽快に登ってくれる。結局ホイールの外側、内側どちらに重量が集中しているのかが重要だ。重量分布のバランスが優れているのはSES 4.5で、結果的に登りでも軽快さが際立っている。
SES 4.5の加速感を例えるなら、MAVIC COSMIC ULTIMATEのような鋭さがある。しかしCOSMIC ULTIMATEは後が続かない。減衰する速度が早いのだ。SES 4.5はそれとは異なり、30km/h以上で加速していくとWAKE6560のようなディープリムを使っているかのような走りをしてくれる。
とにかくバランスがいい。
ENVE 4.5と六甲山を楽しく登ったあと、標高差900mmの下りでテストを行った。まずタイヤのグリップ感が優れており、振動が少ないことに気づく。リム内幅25mmによって幅広になったタイヤが確実にグリップし、エアボリュームと低圧がひび割れた路面の振動を消してくれたのだろう。
CRW CS5060も内幅が25mmだが、下りの安定感と安定感、タイヤのグリップはENVE SES4.5のほうが勝る。一つの要因としては、CRW5060のカーボンスポーク特有の硬さがある。鉄スポークのほうがしなやかに感じられるのは、スポークの剛性も影響していそうだ。
厳密に考えていくと、使用しているタイヤの違いが乗り心地に影響を及ぼしたと考えるのが適切かもしれない。SES 4.5にはVittoria Corsa Control TLRを、CRW CS5060にはMICHELIN Power CUP Latexを使用したが、タイヤの接地感やグリップの良さ、倒し込める量はSES 4.5のほうが優れていた。
リムとタイヤのワイド化に伴い、フロントホイールの横風耐性についても触れておく必要がある。ちょうど台風が接近している風の強い日にSES 4.5を使用した。フロントの横風耐性は数あるホイールの中でも特に優れていた。フロントホイールがほとんどあおられない。
ROVAL RAPIDE CLXも横風耐性に優れたホイールだ。SES 4.5は同等かそれ以上だ。CRW CS5060はやや横風耐性が弱いホイールで、フロントホイールが風で持っていかれやすい印象がある。CS5060のフロントリムハイトは50mmであり、僅か1mmの差ではあるのだがリムプロファイルが違うことで横風への耐性に違いが生じている。
普段からあらゆる速度域で走っているライダーこそ、SES 4.5が適していると思う。その理由は、私のような「普通」のライダーが走行する速度域においてSES 4.5が最適化されていることにある。プロが出すスピードよりももう少し遅い速度域で空力性能が最適化されているのだ。
ハブについても、むやみやたらにセラミックベアリングを使っていないのも良い。セラミックベアリングを使っていると気分は良いが、長期間様々な環境条件で使っていくと購入当初ような性能を出せなくなってくる場合がある。
新型ハブは効率性と耐久性のバランスを取るように設計されている。ステンレス製ながら、ベアリングの回転性能に不満を覚えることは無いだろう。
最後に価格に関しては安いとは言えない。非常に高価なホイールだ。しかし、新型ハブを搭載し剛性向上や軽量化を果たしたことにより、このスペックと走りならば、50万円でも仕方がないと思う。価格に目をつぶれる性能を備えているホイールだからだ。
お財布に余裕があるなら、SES 4.5を購入したほうがいい。練習からレースまで全てを1つでこなせる数少ないホイールだ。
ENVEというブランドは品質、性能、所有欲も満たしてくれる。わたしは近頃、初めて中華ブランドのホイールを使ってみたが、ENVEはそれらとは一線を画すホイールだった。ENVEはモノも品質も見た目もいい。自転車に付けっぱなしにしておきたいぐらいだ。
そしてSES 4.5の速さ、軽さ、乗り心地に慣れてしまうと、使うことをやめるのはかなり難しいと思う。
4.5 vs 6.5
性能、用途、価格を考えると4.5を選択するのが合理的だ。
価格は一緒だが、4.5と6.5の空力性能差はわずかでありながら重量は大きく違う。SES6.5は平坦を止まらずに走るような、エンデューロやトライアスロンにはもってこいだろう。しかし、生かせる用途はそれだけだ。汎用的に走るならSES 4.5が断然いい。
6.5も使ったが、1本だけ持つなら4.5だ。加速感や軽快さに雲泥の差がある。回り始めてからもSES 6.5が特別に良いとは思わない。SES 4.5でも同じくらい高速巡行がしやすい。それでいて登ってくれる。
6.5は用途と使用するシチュエーションが限定的すぎる。6.5はリムハイトの割には軽いホイールかもしれないが、4.5と相対比較して空力性能が劇的に優れているわけでもない。空力性能を見ても1W以下の世界での差しかないのが実情だ。
ENVEはSES 4.5という立ち位置が面倒なホイールを作った。他のSESを食ってしまう性能がある。4.5はリムハイトに対して性能が良すぎる。優等生過ぎるのだ。
4.5を使わなければ、6.5が素晴らしいホイールだと思い続けていたはずだ。6.5しか使ったことのない頃の私は、迷いなくそう思っていただろう。何本もホイールを所有できないのならばなおさらだ。1本だけホイールを持つのなら、迷わず4.5をお勧めする。
本質的ではないが、見た目重視、アルファードやヴェルファイアのような威圧感や、押しの強さをご自身のバイクで出していきたいのなら、6.5でも良いと思う。ただし、本質的な部分である、走りの良さや汎用的に高い次元で走りたいなら4.5だ。
総合的なアップダウンのあるコースならもはや迷いなど無い。SES 4.5以外を選択する合理的な理由が見当たらない。それゆえENVEは4.5を「最高のオールラウンドホイール」と主張しているわけだが、文言そのまま真に受けても問題ないだろう。
何か特別な理由が無い限り、使うならSES 4.5だ。
まとめ:オールラウンドホイールの最高到達点
最近のホイールはどれも似たり寄ったりで、違いがほとんどわからないものが多くなった。しかし、SES 4.5は走らせたときの立ち上がりの軽さ、その後の高速巡行のしやすさ、登りに突入してからの軽快さなど、どれをとっても八方美人なホイールに仕上がっている。
とはいえ、価格は50万とコストパフォーマンスに優れているとは言えない。半額以下で同じくらい走るホイールは存在する。30万以上のホイールは性能が高止まりして劇的な性能差が生じにくくなる。そのうえで、どうせ同じお金を出すならENVEがいい。
SES 4.5は普段の練習からレース域など実用面において最高レベルだと思う。それは、ツールドフランスを走る選手や、アマチュア選手であっても同じことだ。
優れたリムプロファイル、優れた乗り心地、高速巡行性能、安定性とENVE SES 4.5は、スピードと軽さを追求してほとんど妥協のない設計に仕上がっていた。現段階で、SES 4.5よりも優れたオールラウンドホイールを思い描くことは難しいだろう。