最も摩擦抵抗が小さい潤滑油は、Molten Speed Waxだ。
Molten Speed Wax (MSW) は米国ミネソタ州に拠点を置き、2013年に自転車チェーン用ワックスの製造を開始した。MSWはこれまでに世界選手権15回とオリンピック金メダル6個の獲得に使用されている。
第三者機関のテストでもその性能は明らかだ。
Zero Friction FactsやVelo Magazineのテストにおいて、ずば抜けた潤滑性能の結果が出ている。Molten以外にもSilcaやAbsolute Black、Finish Lineがワックス系の潤滑剤をリリースしているが、MSWは摩擦抵抗が最も小さい結果が出ている。
今回の記事は、MSWのNew Formulaの性能と実際の施工方法についてまとめた。
MSW New Formula
MSWはOriginal Formula(旧)、New Formula(新)の2つがある。粒子が細かいタイプは初代のOriginal Formulaだ。固形の円柱でMoltenのロゴが型取られているのがNew Formulaだ。
Zero Friction Factsの実験によれば、New Formulaの方が抵抗が小さく、過酷なコンディションでも潤滑性能が落ちにくい結果が出ている。
ワックスが潤滑材として優れている理由は、液体でもなく、油っぽくもないので、路面から土や砂などのゴミを寄せ付けない。汚れたりぬれたりする状況下でも、効率的な状態を保ち続けるのだ。
MSWは、精製パラフィン、二硫化タングステン、二硫化モリブデンを配合し、チェーンのスムーズな回転を維持する。少なくとも24本のチェーンを処理できる。これにより、ドライブトレインは8000キロメートル以上使うことができる。
快適かつスムーズに回転し続けるだけでなく、ドライブトレインを構成する部品の寿命も延ばす効果もある。
Velo Magazineのテストでは、砂利、土、水をチェーンにかけた後、250ワットの負荷で1時間チェーンを走らせている。驚くべきことに、MSWを塗ったチェーンは、水、砂、汚れに全く動じず、1時間走らせたところ初期状態より0.5ワット以上も抵抗が改善したという。
ワックスが優れているのは、チェーンリング、スプロケット、プーリー、チェーンの寿命を延ばす。従来のスプレー式や滴下式の潤滑油を使っている場合は、工業用の優れた研磨ペーストを作っていることになる。 ワックスは逆に、汚れをはじき、摩擦係数が驚くほど低いのだ。
ワックスを塗ったチェーンは、1回の施工で800km以上走ることができるという。Zero Friction FactsやVeloのテストによれば、1300km以上走ってもチェーン音鳴りがしなかった。これらは、ワックスがいかに強く金属表面に付着しているかを証明している。
MSWは、トレーニング用チェーンの場合は約480kmごと、レース用チェーンの場合は約290kmごとにワックスを塗り直すことを推奨している。これにより、チェーンの効率を最大限に高めることができるという。
通常のチェーンルブの場合は、チェーンチェッカーで摩耗マークの0.5に達するまでおおよそ3,000~6,000km走行を要する。一方で、MSW処理チェーンは10,000~25,000kmと摩耗が極端に少ない。
カセットとチェーンリングの寿命も同様に延びるため、ワックスを塗ることで長期的に大きな節約になる。ほこりや汚れの粒子を一切吸着せず、常に非常にクリーンな状態を保ち、摩擦も極めて低く抑えるのだ。
レース用チェーンを購入する予算がない場合は、ワックスをかけるだけで摩擦を大幅に低減できる。
施工方法
MSWをチェーンに施工する方法は簡単だ。
- チェーンを洗浄する。
- スロークッカーでワックスを溶かす
- チェーンを浸して撹拌する
- つるして冷やす
まず、チェーンを洗浄する。推奨は超音波洗浄機を用いてチェーンの中の汚れまでかき出す方法だ。この作業を行わないと、チェーン内部に汚れが入り込んだまま、汚れごとワックスが固めてしまう。必ずチェーンは洗浄しよう。

次に、スロークッカーでワックスを溶かす。温度は96℃が推奨だ。この温度にちょうど良いスロークッカーが安く売っている。おすすめなのが、『マリン商事 煮込み料理器スロークッカー』だ1900円ほどで購入できる。AUTOが98.6~90℃、HIGHが98.6℃、LOWが90度℃でちょうど良い温度で固定される。
初めて使う際は、固形のMoltenが解けるまでおおよそ60分ほどかかる。固形物が溶けるまでの時間をあらかじめ測定し記録しておこう。
次回の施工の際に、タイマーをセットしてワックスが溶けるのを待つ間、チェーンを洗ったり別の作業を行う余裕が生まれる。
溶けたワックス内にチェーンを浸す際は、針金やバーベキュー用の鉄の串を使う。ダイソーにステンレスの串が売っているので、まげて使うといい。
MSWから専用のチェーンをつるす工具も販売されているのでこちらを使う方が無難だ。1分ほどかくはんして完了だ。
そのあとは冷やして固まるまで待つ。スロークッカーから鍋を取り出して、ふたを閉めて固まるまで待とう。
これで完成だ。
インプレッション
決戦用にMSWを何度も施工してきたが、使用する前に20分ほど慣らし運転が必要だ。液体から固体化したワックスはチェーンに張り付いてカチカチになっている。チェーンをドライブトレインに取り付ける前に、チェーンを動かして固まった部分を慣らしておく必要がある。
取り付けて走ると、踏み込んだときにヌルっと滑るような感じがある。ワックス系特有の感触だが、チェーンの干渉音もほとんどなくなる。チェーンオイルを変えても、それほど駆動の抵抗を感じないのだが、ワックス系を使うとチェーンが滑るような感じがすぐわかる。
実際にデータにある通り、摩擦抵抗が小さいことは確かだ。そして、雨や泥でも性能が落ちない実験結果をふまえるとロードのみならず、CXやMTBにも使えるだろう。
MSWが良いところは、あらゆる天候でも最大のパフォーマンスを引き出せる点にある。それは、晴れでも、雨でも、マッドコンディションもだ。
どんな条件下でも、最高のパフォーマンスを出す潤滑剤は非常に少ない。MSWを選んでおけば、あらゆるシチュエーションでも対応できる。レース用のみならず、長距離を走る方や掃除の手間を減らしたい方にもMSWが良い選択になる。
施工の手間はかかるが、慣れしまえばなんてことはない。施工頻度も少なくて良い。汚れをほとんど寄せ付けないため、400kmを目安に施工しなおせばよい。ワックスの持ちは良いため、チェーンオイルを使って何回も洗浄とオイルを塗布するトータルの時間を考えると、ワックスの方が時間の節約になるだろう。
まとめ:世界最速の潤滑を
いま、世界で最も摩擦抵抗が小さい潤滑剤はMSW New Formulaだ。レースからロングライド、掃除の手間を減らしたいライダーまでワックス系の持ちの良さはライディングを確実に助けてくれる。
これから大事なレースに参加される方、結果を出したい方は最後の一押しでMSWをチェーンに施工するとよい。
その効果は絶大だ。チェーンにワックスを塗布することで、リンクプレート、ローラー、ブッシング、ピンといったチェーンの金属面すべてが硬質ワックスの層で覆われる。これにより、金属同士の接触や摩耗が最小限に抑えられる。
すでに多くの人がチェーンにワックスをかけているが、「めんどすぎる」という声をきく。ワックスがけに切り替えるには、新しい手順を習得するための初期投資と労力が多少必要になるかもしれない。
それでも、最高のドライブトレイン性能を実現し、お金とワットを節約したいのであれば、MSWを使用する価値がある。
日本での販売はzetatradingが行っている。

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