SRAM Red XPLR AXS E1は、13速のトランスミッション化した次世代グラベルコンポーネントだ。UDH対応のフレームに直接リアディレイラーを取り付けるフルマウント方式を採用した革新的なコンポーネントに仕上がっている。
Red XPLR AXS E1には、SRAMのロード用とMTB用コンポーネントから数多くの技術が合流している。ドライブトレインからトランスミッションになり、全く新しいコンセプトの変速システムになった。これまで必須だったディレイラーハンガーが不要になったのは大きな変化だ。
Red AXS E1で大幅に改良が行われたブレーキシステムも採用している。フロントシングルに特化しており、13速のスプロケットは大口径の10-46Tになりワイドレシオ化した。パワーメーターのチェーンリングも交換可能なスレッドマウント方式を採用している。
SRAMのAXSワイヤレスシステムは、ロード、グラベル、MTBとカテゴリを横断した互換性が確保されている。下位グレードとの互換性もあるため、異なるグレードを組み合わせてもうまく動作するのが他社製品にはない強みだ。
今回は、SRAM Red XPLR AXS E1を試した。SRAMのロード用やMTB用コンポーネントも実際に使うことで、それぞれの方向から見たグラベル用の新型Red XPLR AXS E1のレビューをお届けする。
Eagleトランスミッションをベースに
自転車用コンポーネントの技術の多くは、MTB用の機材から誕生することが多い。それはSRAMやシマノであっても同じだ。SRAM Red XPLR E1に投入された技術において、最も革新的なのはトランスミッション化し、フルマウント方式を採用したことだろう。
それ以外にも、AXS バッテリー、マジック ホイール、調整ボルトの排除、UDHなどはトランスミッションの世界から引き継がれている。メンテナンス、取り付け方法もまったく同じだ。SRAMのチェーン長計算機を使用してチェーンのサイズを決める方法も踏襲されている。
Red XPLR E1がEagleトランスミッションと異なっているのは変速スピードだ。Eagleトランスミッションは意図的に変速スピードが遅く設計されていた。しかし、Red XPLR E1はロード用のRed E1と同じくらい速く変速する。
元々、MTB用のEagleトランスミッションは高トルク時の変速を最優先して設計されている。それに対して、Red XPLR E1は変速のスピードを優先している。実際に両方のコンポーネントを使い比べると、はっきりと体感できるほど速度に違いが生じている。
MTB用のトランスミッションの変速が遅い理由は、eMTBやMTB特有の高トルク時における変速を想定しているからだ。eMTBの場合、モーターのパワーにライダーのパワーが上乗せされることで、チェーンに高負荷がかる。この状況下でも、確実に変速する必要がある。
そのため、トランスミッションは動作が遅いながらも力強い動作をする。しかも1枚1枚丁寧にだ。複数段の飛ばしを行わない理由は、高負荷で複数のギアを変速するとチェーンやスプロケットの歯がすぐに摩耗し、破損する可能性が高まることが理由だという。
これを避けるため、MTB用のEagleスプロケットの歯は幅の狭い構造を設けることで、ギア間を変速する際にチェーンが強く噛み合うようにしている。そして、変速を安全かつ確実に行えるタイミングをリアディレイラーが把握している。
MTB用のリアディレイラーは、変速が完全に完了するのを待ってから次の変速を行う。トランスミッションは正確かつ高トルクの状況下でも、なめるように変速するが複数のギアチェンジが行えないという極端な仕組みになってしまった。
一方でRed XPLR AXS E1は、ギアの歯に幅の狭い構造が施されていない。変速のタイミングもボタンを押した直後に変速する。モーターの動力と速度が許す限り、複数のギアを素早く変速できるように進化している。
変速スピードはRed AXS E1のフロントシングル構成とほぼ同じだ。フロントダブルのRed AXS E1よりもわずかに速い。サイエンスオブスピードのシマノDi2ほど速くはないが、それでも十分に速いと感じるだろう。
ロード機材の軽さと快適性を
ロード機材からは、軽量化とエルゴノミクスデザインが盛り込まれた。
レバーまわりの変化としては、レバーのリーチが長くなった。ブレーキをかける時に必要なパワーも少なくて済むようになった。グラベルを走行する場合、ブレーキングパワーを何度も必要とする機会が多い。
指先の疲労やコントール性を考えても、小さな力でブレーキをかけられるメリットは大きい。ブラケットを握っていても、わずかな力でブレーキングできる。レバーの中ほどにある出っ張りを中指1本だけで引くだけだ。
この動作ができるようになった理由は、MTB用のLevelやCodeブレーキと同じように効率的に動作するよう、内部構造を全面的に見直したためだ。ブレーキマスターシリンダーのピストンを従来の垂直位置から、レバー本体と水平になるように配置変更した。
その結果、レバーを引いた時のストッピングパワーは、より平準化し継ぎ目がなく安定するようになった。
レバー自体も人間工学に基づいて設計されている。ブラケットを握ると、自分の手を知っているかのようなフィット感だ。現行のドロップバーに適した内側に入り込んだレバー角度や、レバーのリーチを簡単に調整できる構造など全体的に改良が行われている。
ブラケット上部には、親指で操作できるボーナスボタンが追加されている。ブレーキオイルはDOT-5.1ブレーキフルードに対応している。CR2032バッテリーで駆動し、これまでのロード、XPLR、MTB用など全てのSRAM AXSワイヤレスコンポーネントと互換性がある。MTB用Eagleコンポーネントも動かせるのだ。
すべては定数化する
Red XPLR E1はチェーンラインが拡大した。これまではSRAMロード用の45mmだったが、47.5mmに広がっている。クランクシャフト幅も広がった結果、クランクのQファクターがロード用の145mmから、XPLRは150mmに拡大している。
Red XPLR E1を動かすためには、UDH付きのフレームが必要になる。UDHはあらゆる規格が定数化されている。グラベル用フレームのチェーンステー長は最低415mm、チェーンラインは47.5mmになるよう定められている。
チェーンラインの変更だけで、既存の12速用Flat Topチェーンを用いながら13速化している。現行チェーンは12と13速の互換性があることだ。11速から12速化した際はチェーンの設計変更が行われたが、13速ではそれがない。
Eagleトランスミッションの13速化も時間の問題だろう。
垣根なき互換性
MTB用トランスミッションのディレイラーとスプロケットをUDH搭載のグラベルバイクに使用することは可能だ。しかし、その逆はできない。理由は、Red XPLR E1のフルマウントディレイラーは、ロードやグラベル用の142mmのアクスル幅、と狭いチェーンラインを基本としている。
MTBのBOOST規格や、リアサスペンションが着いていることを考慮した設計は行われていないのだ。また、チェーンの暴れを抑え保持するスプリング式のクラッチ機構がMTB用よりも軽量化している。それでも、これまでのどのロードやXPLRモデルよりもチェーン保持力が向上した。
バッテリーは他のすべてのSRAMワイヤレスディレイラーと同じだ。バッテリーマウント方式も、最新のGXトランスミッションのディレイラーと同様の方式になっている。バッテリーは水平に配置されており、頑丈な檻に囲われて保護されている。
オーバーサイズの16Tプーリーは、XXSLディレイラーと同じマジックプーリーを採用している。万が一、遺物などがプーリーに挟まった場合でも、チェーンと外側のプーリーが動き続ける。
スレッドマウント式クランク
Red XPLR E1のパワーメーターは、チェーンリングを交換できる。当然のように聞こえる話かもしれないが、ロード用新型Red AXS E1はパワーメーターとチェーンリングが一体化しており、使い捨てのパワーメーターのままだった。
Red XPLR AXSはMTB用と同じスレッドマウント方式が採用されている。シングルチェーンリングがパワーメーターと一体化されておらず、パワーメーターにチェーンリングをねじ込むことですっきりと確実に接続することができる。
このスレッドマウント方式のデザインはSRAM独自のものだ。38、40、42、44、46Tのチェーンリングサイズが用意されている。46Tより大きなチェーンリングが必要な場合は、XPLRクランクに8つのボルトで取り付けられるRed AXS用のSRAM AEROチェーンリングが適している。
付属のチェーンが12速グループと共用であることを考えると、このパワーメーターとチェーンリングは、以前のXPLRドライブトレインでも使える可能性がある。
グラベルとしての新機能
13速は新しい。SRAMのMTBコンポーネントでも到達できていない歯数だ。スプロケットも大口径化して10-46Tになった。トータルのギアレンジは前作の440%から460%に拡大している。ギアの構成は、10/11/12/13/15/17/19/21/24/28/32/38/46Tだ。
このギアの組み合わせは、フロントダブルの利点を忠実に再現する狙いがある。
SRAMがRedグレードのXPLRスプロケットを開発したのは今回が初めてだ。以前のD1はFORCEグレードのスプロケットだった。Red化に伴って、重量が大幅に軽量になっている。 スプロケットの構造はEAGLE XXSLトランスミッションとよく似ている。
最も大きな3つのギアはアルミニウムの削り出しだ。残りはスチール製ギアの削り出しで、双方がボルトで固定されて1つのスプロケットを構成している。SRAMのロード用X-Domeスプロケットと比較すると、材料の無駄が少なく、中空でないためギアチェンジ時や走行中の干渉音も生じにくく静かだ。
SRAM XDRフリーハブの寸法は、ロードバイクで初めて12段変速を採用した当時から変わっていない。MTB用のXDシステムと比べると、スプロケットのスペースを確保するためにフリー幅が1.85mm広くなっている。
下位互換性
ロード用の新型SRAM Red AXS E1が発表された際、前世代のAXSコンポーネントと完全な互換性が保たれた。これは、新型Red XPLR AXS E1にもあてはまる。SRAMは、AXSコンポーネント間を横断的に組み合わせられるシステムを構築した。ほぼ完全に相互の互換性を持たせることに成功している。
既存のAXSシフターやブレーキを、新型Red XPLR ディレイラーと13速スプロケットで使うこともできる。新型のRed AXSシフターとブレーキを、MTBのトランスミッション用ディレイラーと12速10-52Tスプロケットにも使うことができる。
とにかく、AXSと名がつくコンポーネントであれば、ほとんど相互通信して動作することが可能だ、
UDH対応フレームを持っていない人は、新型Red XPLR フルマウントディレイラーや13速スプロケットを使うことはできない。しかし、既存の1×12速XPLRディレイラーと付属の10-44Tを使うことはできる。
あるいは、Eagle AXS MTB用ディレイラー(非トランスミッション)と12速用の10-52Tスプロケットをセットアップすることができる。
重量
前世代のRed XPLR D1と比べて新型Red XPLR E1は102gの軽量化している。フロントディレイラー無しの状態では、新型Red AXS E1のフロントダブル仕様よりも軽い。SRAMによれば、Red XPLR AXSグループセットの重量は2,476gだという。
新型フルマウントのディレイラーの重量は実測379g(バッテリー含まず)だ。一世代前のSRAM Red XPLR D1ディレイラーは323gだ。新型Red XPLRディレイラーは、Eagle XXSLトランスミッションよりも32g軽い。
スプロケットは13速ながら288gと非常に軽い。12速の10-44 XPLRが379g、10-52T XX SL スプロケットは347gだ。Red XPLRは13枚ながら最軽量に仕上がっている。
- ディレイラー:379g
- XG-1391スプロケット:288g
- クランクセット:506 g
- シフター左:205 g
- シフター右:204g
- ブレーキキャリパー&ホース、フロント:150g
- ブレーキキャリパーとホース、リア:164g
- ローター160mm:133g
- チェーン:250g
取り付けは簡単、だが
Red XPLRはMTB用トランスミッションと取り付け方法の違いはない。ただし、トランスミッションを機能させるためには様々な定数を守る必要がある。使用するためには必ず規定通りに作られた機材を選ぶことが必須になっている。
自分で対応機材を見つけることは現実的ではない。SRAMはUDH対応のバイク検索システムを用意しているため、システムを使って探すのが最も確実で早い方法だ。
まず、新型Red XPLR AXS E1にはUDH対応のフレームが必要になる。リアのスルーアクスル幅が142mmのフレームで、XDRフリーハブボディのホイールが必要になる。チェーンステー長415mm以上のバイクには、チェーンラインが47.5mmのXPLRクランクが必要になる。
新型トレックマドンのように、チェーンステー長が415mm以下のロードバイクも適合するが、その場合は45mmチェーンラインのロード用1xクランクを使用する必要があるので注意が必要だ。
トランスミッションと同様に、Red XPLR E1ディレイラーにはリミットスクリューやBテンションボルトがない。 Bテンションに相当するセットアップ方法としては、スプロケットの赤い線にチェーンを合わせた後、既定のチェーン長に切り、取り付け手順を行うことで半自動的に調整できるようになっている。
SRAMはUDH対応のフレームに対して、適切なチェーンのコマ長を公開している。UDH対応のバイク検索システムから適切な長さを調べることが可能だ。
取付方法の詳細については、トランスミッションの別記事で取り上げている。
手順はわずか3つのステップを踏むだけの簡素な工程になっている。整備に必要な新しい工具はなく、六角レンチ数本とT25、トルクレンチがあればいいだけだ。
ただし、スレッドマウントのチェーンリングを外す際には、特別なチェーンリング取り外し専用工具が必要になっている。
細かな手順については、SRAM AXSスマホアプリが便利だ。アマチュアのホームメカニックにはありがたい。チェーンのサイズ調整、ディレイラーのセットアップ、ワイヤレスコンポーネントの同期方法などわかりやすく動画でまとめられている。
基本的に変速調整は不要だが、チェーンがスプロケットに擦れて干渉音が発生する場合は、位置をマイクロトリム機能で調整することができる。
インプレッション
2023年12月から10カ月程、MTB用トランスミッションのEagle XXSLを使用してきた。レースの過酷なコンディションで幾度となく使ったが、最も性能が引き出せた瞬間でもあった。泥や雨、ロックセクションでのヒットなどもあったが今でも修理することなく使い続けている。
そして同じ時期にロード用の新型Red AXS E1もテストした。クランク、シフター、ブレーキ、パワーメーターまで一通りこの数ヶ月でよく知ることができた。
ロード用、MTB用の基礎となる機能が、Red XPLRコンポーネントに詰め込まれている。RED XPLR E1の結論は、これら最新コンポーネントの良いところ取りをした集大成だ。
手になじむブラケット
すぐに変化が感じられたのは、手に触れる部分だ。ブラケットフードは私の手を既に知っていたかのように馴染んでくる。手のなじみ方も機械的ではなく、受け入れられるような自然なフィーリングで、上から体重をかけてもブラケットの横から手が逃げることもない。
グローブなしで乗っても十分にグリップする。ブレーキレバー形状は、グラベル用のフレアバーのトレンドにぴったりだと思う。マスタシリンダーが水平に変更され、フードが長くなった分、リーチが約5mm長くなった。ブラケット位置は遠くに感じると思う。
フート部分はシマノ Di2のように全体を隠すほど握れるわけではない。中指と親指でレバーをつかむとXPLRはやや太いと感じた。シマノ Di2よりもリーチが長いぶん、厳密にポジションを出す場合はステム長を変更する必要があるだろう。
軽いレバー操作
新型Red AXSレバーは本当に人差し指1本で操作できる。ブラケットを握っている場合も同様で、中指一本だけでいい。レバーを動かすのに必要な力と、キャリパーがローターを挟むストッピングパワーにはアンバランスなほど違いがある。指で引くわずかな力は何倍にも増幅されていくかのようだ。
レバーを引くと特徴的な動き方をする、パッドがかみ合うまでのレバーの遊びが比較的大きい。これは、SRAMのMTB用ブレーキのCODEやLEVELでも同様の特徴で、パッドに触れるまでのレバーの遊びが多い。パッドがローターに噛み合っているかどうかの感覚が掴みにくいのだ。
シマノのブレーキはパッドが噛み合う感覚が、直接的かつ明瞭に感じられる。使い慣れていたため当然のことだと思っていたが、この感覚を基準にしてしまうとRed E1のレバーはいつ触れているのかわかりづらい。
とはいえ、この違いはほとんど好みの問題だ。RED E1のブレーキは軽快かつよく効く事には変わりがない。レバーを引いて、キャリパーがローターをつかむまでの物語が異なっているだけだ。
素早い変速性能
Eagleトランスミッションは、高トルクの変速を優先したため変速が遅かった。同じく、Red XPLR E1の変速は遅いと思っていた。実際に使用してみると良い意味で裏切られた。ロード用SRAM Red E1とほとんど同じ変速スピードだった。確実に、フロントダブルのSRAM Redよりも速い。
変速スピードは、残念ながら現行のシマノDi2には及んでいない。
ロード用SRAM REDの中空スプロケットに比べると変速音も静かだ。カラの缶を叩いたような、あの音がしない。高負荷時の変速はスムーズに行われるが、変速性能もSRAM Eagleトランスミッションやシマノのハイパーグライドプラスのほうが確実に上回っている。
ギアレシオ460%
スプロケットは10-46Tになった。トータルのギアレンジは前作の440%から460%に拡大している。ギアの構成は、10/11/12/13/15/17/19/21/24/28/32/38/46Tだ。このギアの組み合わせは、フロントダブルの構成を忠実に再現する狙いがある。
10-46Tのギアレンジは確かにグラベルに適した構成かもしれない。しかし、急勾配の登りがあるトレイルがある場合は、より大きなギアが必要になる場合もあると感じた。これは個人的な話で、登りが少ないダートや河川敷を走るぐらいであれば11-46Tで十分だ。
どのグラベルを走るかによってギアの選択肢は変わってくると思う。ギアレンジはライダーの能力、コースプロファイルなどによって最適値が変わってくる。11-46Tというワイドなスプロケットならば、フロントチェーンリングh42Tでも問題ないと思う。
普段使っているロードの最小ギア比率は1.2だ。MTBの最小ギア比率は0.65、グラベル用は0.91だ。ただし、グラベル用のギア比はもう少し軽くても良いと思う。理想的には40Tのチェーンリングを取り付けて0.86でも良いと思う。
舗装路がメインであれば42T,44Tがいい。
バッテリーの持ち
Eagleトランスミッションと同様に、バッテリーの持ちはそこまで長くない。野外での実走を6~7回するごとに充電している。フル充電の場合は気温と変速回数によって大幅にばらつくが、おおむね40~60時間程持つようだ。レバー側はCR2032で最長2年持つ。
シマノのDi2と比べてしまうと、相対的にバッテリーの持ちが短いと感じてしまう。実際に使ってみると、休日に5時間乗ったとしても6~7回のライドで充電を気にするイメージだ。極端な話、毎週土日にライドしても1カ月に1回充電すればいい。
バッテリー自体も取り外せるため交換は簡単だ。予備バッテリーを持っていればすぐに交換できる。重量も28gしかないため携帯しても重くはない。予備バッテリーはできれば持っておきたい。バッテリーはヘタるため、2つを定期的にローテーションして延命するのが効果的だ。
予備バッテリーを持っておくと安心なのは、ライド前にバッテリー残量不足を知らせる赤いLEDが光った時にも活躍してくれる。充電済みのバッテリーを備えておけばライドを無駄にしなくて済む。
パワーメーターもCR2032コイン電池で動作する。QUARQからSRAMに名前は変わってしまったが、スパイダー型のパワーメーターはセンサーを格納するスペースが広いため測定精度も1.5%と良好だ。寒い時期も測定は安定している。QUARQ SATURN時代から使用しているがこなれたパワーメーターだと思う。
そして、RED E1のクランクはこれまでのクランクで最も軽い。剛性もさることながらQ-Factorも狭い。別の記事で解説しているので参照してほしい。
フルマウントは怖い?
ディレイラーハンガーという、身代わり地蔵がいなくなった。
フルマウントリアディレイラー方式を採用したことにより、厄介者のハンガーが無くなったわけだ。しかし、ディレイラーハンガーは外からの衝撃に対して、自らが犠牲になって曲がることに意味がある。フレームやディレイラーにかかる力を受け流し、ダメージを最小限に抑えるのが本来の目的だ。
それらをふまえても、フルマウントにはメリットがある。ディレイラーはスルーアクスル自体に接続されている。万が一、ディレイラーが何かと衝突しても、ディレイラー自体が衝撃を受け流すように後方に回転する仕組みが盛り込まれている。
トランスミッションがリリースされた当初は、フルマウントによってフレーム側に問題が発生する可能性が懸念されていた。実際にMTBでハードな走り方をして幾度となくディレイラーに衝撃を与えてきたが、トランスミッションは本当に堅牢で丈夫なシステムであることを証明し続けている。
もちろん、完璧ではない。ショップで聞いた情報によると、体重が90kg近いライダーがMTBのダウンヒルでハードな転倒をしてしまいRDを破損した。この時も壊れたのはディレイラーの側面とケージだけでフレームへのダメージは一切無かった。
フルマウントを使ってから、ディレイラー、フレーム、スルーアクスルの故障に出くわしたことはない。 フルマウントは、ハンガーそのものの曲がりを無くす革新的な技術進歩だと考えている。
まとめ:Red XPLR 13速の先に
残念ながら、この革新的なコンポーネントを使ったからといって、グラベルを速く走れるようになったり、いきなり表彰台に上がれたりするわけではない。
しかし、新型Red XPLR AXS E1にはこれまでにない革新的な技術が盛り込まれている。製品として素晴らしいと思う。コンポーネントの中で特に故障が生じやすい部分に手を加え、故障しにくく堅牢性を持たせた。部品交換の手間も少なくなった。
Red XPLR E1は、12速のシステムを用いながら何も変えず13速化を成し遂げた。この事実は、いまだ12速のRed E1やEagleで今後何が起こるのかを暗示している。すでに準備は整っているのだ。これほどまでにわかりやすい伏線はないだろう。
問題は価格だ。海外の価格もぶっ飛んでいるが、国内の価格も安いとは言えない。一般的に誰もが購入できる価格とはいいがたい。異論はないだろう。 ただ、最近のSRAMの製品リリースのスピード感を見ていると、ハイエンドモデルだけを何年も市場に流通させておくような、愚かなことはしていない。
1年も経たないうちに、ミドルグレードやエントリグレードを発表し技術を伝搬させていく。SRAMは下位グレードの展開を素早く行ってきた歴史がある。フルマウントの普及のためには、高価格帯の機材だけに頼るのは合理的ではない。
今後、何年か後には廉価版コンポーネントの機械式や、フロントディレイラー付きのコンポーネントにフルマウントが搭載される可能性がある。これらのシステムはどれもある程度手頃な価格で普及していくだろう。それはSRAMの良心だ。
しかし、その時に問題なのはUDH対応のバイクしかコンポーネントが対応していないという事実だ。状況はポジティブに変化しており、TREKの新型Madoneのように大手メーカーの看板バイクがUDHに移行しはじめている。TREKに至っては、UDHを全てのモデルに採用していくだろう。
Red XPLR E1の登場はコンポーネントの未来に何をもたらすのか。UDHという旗を振りながら先頭を走るSRAMの姿を、誰もが追いかけていくのかもしれない。
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