マウンテンバイクの進化の歴史において、ハードテールは長らくエントリーレベルの象徴、少し前まではクロスカントリーレース専用の機材(現代はフルサスが主流)と見なされてきた。しかし、近年、市場では顕著な変化が起きている。
ジオメトリ設計、サスペンション技術、コンポーネントの進化を背景に、ハードテール自体のカテゴリーが確立され、かつてはフルサスペンションバイクの独壇場であったテクニカルなトレイルにおいても、その存在感を増している。
この潮流は、複雑化するフルサスペンションシステムからの脱却、よりダイレクトなライディングフィールへの回帰、あるいはスキルアップのための最適なツールを求める経験豊富なライダー層の需要に応える形で加速している。
今回レビューするCannondale Habit HT 2は、まさにこの現代的なハードテールの復権を体現する一台として市場に投入されたモデルだ。
Cannondaleの提案:「BlingよりBangを」
CannondaleはHabit HT 2の設計思想を「Bling than Bang(見栄えより乗り味を)」という言葉で明確に表現している。これは、高価で華美なコンポーネント(Bling)を追求するのではなく、純粋なライディングの楽しさと性能(Bang)を最大化することにリソースを集中させるという戦略である。
メーカーはこのバイクの用途を「フルスロットルのトレイルライディングとダートでの最高の時間」と定義しており、その設計のすべてがこの目的に向かって最適化されている。
本レビューでは、この「Bang than Bling」という思想を分析の基軸とし、Habit HT 2がその理念をいかに具現化しているか、また、その過程でどのようなトレードオフが生じているかを多角的に検証していく。
その前に、MTBレビューは難しい。

話は少々ズレるが、MTBバイクのレビューは難しい。
ライダーのスキルや嗜好性、タイヤアッセンブルや走るトレイル毎にサスペンションセッティングが大きく影響するからだ。私はXCレースやエンデュランス系のMTBライディングをメインとしている。そのため、ラップタイムが速い遅い、登る登らない、といったようなレース向きの考え方である。
しかし、MTBはトレイルを走る楽しみがある。実際にMTBライダーの中で競技者は5%ぐらいで、大多数のMTBライダーはライディングを楽しむ方向性が強い。どれだけ楽しめるバイクなのかが、一つの判断材料になる。
そこで本レビューは、まずCannondale Habit HT 2の技術的特性と性能を客観的かつ詳細に分析していく。
まずはフレームの技術に焦点を当て、その革新的なジオメトリ設計の意図を解き明かす。次に、アッセンブルされる各コンポーネントを価格帯などメーカーの戦略的観点から評価し、性能、信頼性、コストの均衡点を探る。
これらの分析を統合し、実際のトレイルにおける総合的な走行性能を評価する。さらに、同価格帯の主要競合モデルとの比較分析を通じて、市場におけるHabit HT 2の独自の立ち位置を明確にする。
最後に、これらの分析結果を基に、本モデルの理想的なライダー像を定義し、将来的なアップグレード戦略について提言を行う。
という流れで進めていく。何度も言うように、MTBの機材のレビューはとても難しいのだ。
フレーム技術:ジオメトリと構造の設計思想
フレーム素材と構造
Habit HT 2の骨格を成すのは、Cannondaleが長年のアルミ加工技術の粋を集めて開発したSmartForm C2 Alloyフレームである。このフレームは、過酷なトレイルライディングに耐えうる堅牢性と、俊敏なハンドリングに貢献する軽量性の両立を高度なレベルで実現している。
メーカーが提供する生涯保証は、その耐久性に対する自信の表れであり、ユーザーにとって大きな価値となる。
構造的な特徴として、ステアリング剛性を高めるテーパーヘッドチューブ、確実な制動力を支えるポストマウント式ディスクブレーキ台座、そしてクリーンな外観とケーブル保護を両立するStraightShotインターナルケーブルルーティングが挙げられる。
これらの仕様は、現代のトレイルバイクとして求められる基本性能を堅実に満たしている。
Habitの核心:プログレッシブ・トレイル・ジオメトリ
Habit HT 2の最大の価値、すなわち「Bang」の源泉は、その極めて先進的なジオメトリ設計にある。各部の数値は、単なるトレンドの追随ではなく、明確な設計思想に基づいている。
ヘッドチューブアングル(HTA)
特筆すべきは、64°という極めて寝たヘッドチューブアングルである。この数値は、多くのエンデューロ向けフルサスペンションバイクに匹敵、あるいはそれを凌駕するものであり、ハードテールとしては異例の設定と言える。
この寝た角度は、高速域での直進安定性を劇的に向上させ、急峻な下りにおいてもライダーに絶大な自信を与える。ホイールベースを効果的に延長し、ステアリング応答を穏やかにすることで、荒れた路面での車体の暴れを抑制する効果がある。
シートチューブアングル(STA)
HTAとは対照的に、シートチューブアングルは76°と非常に立った数値を採用している。これは現代のクライミングパフォーマンス理論の核心を突く設計であり、ライダーの重心を前方に配置することで、ペダリング効率を最大化する。
特に急な登坂路において、フロントホイールの浮き上がりを効果的に防ぎ、トラクションを維持し続けることを可能にする。
リーチとスタック
長いリーチとフロントセンターは、高速走行時の安定性に寄与すると同時に、ライダーが下りで体を動かすための十分なスペース(コックピット)を確保する。これにより、ダイナミックな体重移動が可能となり、バイクコントロールの自由度が高まる。
チェーンステー長
比較的短く設定された440mmのチェーンステー長は、長いフロントエンドがもたらす安定性に対する絶妙なカウンターバランスとして機能する。これにより、バイクの取り回しの良さ、すなわち俊敏性や「遊び心」が確保され、タイトなコーナーや細かい切り返しにおいても機敏な反応を示す。
このジオメトリの組み合わせこそが、下りでの安定性と登りでの効率性、そして平地での楽しさという、一見すると相反する要素を一台のハードテールに共存させるための工学的解答である。
構造的特徴と将来性
Universal Derailleur Hanger (UDH)
UDHの採用は、単なる利便性を超えた戦略的な選択である。
実用面では、破損しやすいディレイラーハンガーが世界共通規格となることで、交換部品の入手が極めて容易になる。さらに重要なのは将来性であり、SRAMのT-Typeトランスミッションをはじめとする次世代ドライブトレインへの互換性が保証される。
これは、長期的な所有とアップグレードを視野に入れるユーザーにとって、計り知れない価値を持つ。
BSAスレッド式ボトムブラケット
圧入式(プレスフィット)が主流となる中で、あえて信頼性の高いJIS/BSA規格のネジ切り式ボトムブラケット(73mm)を採用している点も評価できる。
これは、異音の発生リスクを低減し、メンテナンス性を大幅に向上させるための賢明な判断であり、特に自身で整備を行う専門知識のあるユーザー層に強く訴求する。
拡張性を考慮したマウント
メインフレームに設けられた5つのボトルケージマウントは、このバイクの多用途性を示唆している。
これにより、複数のボトルやツール、あるいはフレームバッグの装着が容易になり、長距離のトレイルライドからバイクパッキングといった冒険的な用途にも対応可能なプラットフォームとなっている。
表1:Cannondale Habit HT 2 ジオメトリ一覧
| ジオメトリ | S | M | L | XL |
| リーチ (mm) | 415 | 440 | 465 | 500 |
| スタック (mm) | 634 | 643 | 653 | 662 |
| 有効トップチューブ長 (mm) | 573 | 600 | 628 | 665 |
| ヘッドチューブアングル | 64.0° | 64.0° | 64.0° | 64.0° |
| 実効シートチューブアングル | 76.0° | 76.0° | 76.0° | 76.0° |
| ヘッドチューブ長 (mm) | 110 | 110 | 120 | 130 |
| BBドロップ (mm) | 55 | 55 | 55 | 55 |
| BBハイト (mm) | 325 | 325 | 325 | 325 |
| チェーンステー長 (mm) | 440 | 440 | 440 | 440 |
| ホイールベース (mm) | 1177 | 1177 | 1206 | 1235 |
| スタンドオーバーハイト (mm) | 710 | 730 | 740 | 760 |
コンポーネント:性能、信頼性、コストの均衡点
Habit HT 2のコンポーネント構成は、「Bang than Bling」の思想を色濃く反映している。ライダーが直接触れ、バイクの挙動に即時的な影響を与える部分には投資を惜しまず、一方で内部の機械的性能に関わる部分ではコストを意識した選択が見られる。
この戦略的なアッセンブルは、バイクの価格を抑えつつ、箱出しの状態でも高い楽しさを提供するための、計算されたトレードオフである。
サスペンション:RockShox Judy TK
サスペンションはRockShox Judy TKは、エアスプリングによる体重に合わせた調整が可能な、信頼性の高いエントリーレベルのフォークだ。Solo Airスプリング、トラベル量130 mm、TurnKeyダンパーを搭載している。
しかし、Habit HT 2の優れたジオメトリに対しては、いくつかの性能的限界を露呈している。
第一に、30mm径のインナーチューブは、フレームが許容するような高速コーナリングやハードブレーキング時に剛性不足からくるヨレを生じさせ、ステアリング精度を損なう可能性がある。
第二に、搭載されるTurnKeyダンパーは、単純なロックアウト機能は提供するものの、上位モデルに見られるような洗練されたコンプレッションおよびリバウンド回路を持たない。これにより、連続した衝撃に対して追従性が低下し、路面からのフィードバックが荒々しくなる傾向がある。
Judy TKは、この価格帯の完成車としては妥当な選択であるが、フレームが持つ本来の下り性能を完全に引き出す上での最大のボトルネックとなっている。将来的なアップグレードの最有力候補と言えるだろう。
ドライブトレイン:microSHIFT Advent X Pro
ドライブトレインはmicroSHIFT Advent X Proだ。ShimanoやSRAMの12速システムと比較して、より低いコストでワイドレンジな1xドライブトレインを実現するための戦略的な選択である。
Advent Xは、12速システムほどセッティングが繊細でなく、堅牢で信頼性が高い。
変速動作は、Shimanoのような滑らかさには劣るものの、確実で力強い。11-48Tというギアレンジは、急な登りから高速な平坦路まで、トレイルライディングで遭遇するほとんどの状況をカバーするのに十分な能力を持つ。
まさに「Bang than Bling」を象徴するコンポーネント選定である。現代のトレイルライディングに不可欠な機能(広いギア比、クラッチによるチェーンの安定性)を、コストを抑えながら高いレベルで提供しており、非常に合理的かつ賢明なアッセンブルと言える。
ブレーキシステム:SRAM Level
SRAM Level油圧式ディスクブレーキを搭載している。前後180mmのCenterLineローターだ。SRAM Levelは、主にクロスカントリー用途を想定した2ピストン式のブレーキである。
一般的なトレイルライディングにおいては十分な制動力を発揮するが、Habit HT 2のジオメトリがライダーを誘うような、長く急な下りやアグレッシブなライディングにおいては、絶対的なパワー不足や耐フェード性の限界が懸念される。
4ピストンブレーキと比較した場合、特に高速域からのブレーキングや、体重のあるライダーが使用する際にその差は顕著となる。180mmローターの採用は評価できるが、キャリパー自体の能力が性能の上限を決定づけている。
ここもコストとの兼ね合いによる妥協点である。通常のライドでは問題ないものの、フレームのポテンシャルを最大限に引き出そうとする際には、制動力の不足がライダーの自信を削ぐ要因となりうる。
ホイールセットとタイヤ:対照的な構成
リム内幅30mmのWTB STX i30 TCSは、チューブレスに対応し、現代的なワイドタイヤを装着するための理想的なプラットフォームを提供する。
そして、タイヤの選択はこのバイクのハイライトである。
フロントにMaxxis Minion DHF 2.5インチ、
リアにMaxxis High Roller II 2.5インチという組み合わせは、この価格帯では異例とも言えるプレミアムな仕様であり、グリップ、コントロール、信頼性のすべてにおいて最高の性能を提供する。
これはバイクの「Bang」に直接貢献する、極めて重要な投資である。
一方で、ハブにはブランド名のないFormula社製のものが採用されており、これは明確なコスト削減策である。そして、ここにHabit HT 2の明確な弱点が存在する。リアハブのエンゲージメント(ペダルを漕いだ際にかかり始めるまでの遊び)のラグが大きい。
テクニカルな登りでペダルを細かく踏み直す「ラチェット」操作を行う際、ペダルが大きく空転してから駆動がかかるため、精密なバイクコントロールが著しく困難になる。
ホイールセットは、戦略的な投資と妥協が同居する部分である。
Cannondaleは、ライディングフィールに最も影響を与えるタイヤに最大限の投資を行った。しかし、その一方でリアハブの性能を犠牲にした結果、フレームが持つ優れた登坂性能(急なシートアングルによる)と、コンポーネントの性能との間に深刻なミスマッチを生じさせてしまった。
実走行レビュー
フレームジオメトリの理論的優位性と、コンポーネントパッケージの現実的な制約を統合すると、Habit HT 2のトレイルにおける具体的な走行性能が浮かび上がってくる。
登坂性能
理論上、Habit HT 2は優れたクライマーであるはずだ。76°の急なシートチューブアングルは、ライダーを効率的なペダリングポジションに導き、フロントのトラクションを確保する。また、11-48Tのワイドなギア比は、どんな急勾配にも対応する能力を持つ。
しかし、この理論上の優位性は、リアハブのエンゲージメントの遅さという一点によって大きく損なわれる。
一定のペースで登り続けるようなスムーズなクライムでは問題は少ないが、木の根や岩が連続するテクニカルなセクションでは、瞬時のパワー伝達ができないため、失速やバランスを崩す原因となりうる。バイクの設計思想とコンポーネントの性能が、登坂という特定の局面で矛盾をきたしている。
下りおよびコーナリング性能
下りにおいては、Habit HT 2はその真価を発揮する。64°のヘッドアングル、長いリーチ、そして卓越したMaxxisタイヤの組み合わせは、ハードテールとは思えないほどの安定性と安心感をライダーにもたらす。
高速で荒れたセクションを駆け抜ける能力は、同価格帯の多くのバイクを凌駕するだろう。しかし、そのポテンシャルは常にサスペンションフォークとブレーキによって制限される。
RockShox Judy TKは、連続した大きな衝撃を受け止めきれず、また剛性不足からラインの自由度を奪う可能性がある。同様に、SRAM Levelブレーキは、高速域からの減速や長い下りでの熱ダレによって、ライダーが求める制動力を提供しきれない場面が想定される。
結果として、フレームがライダーに「もっと速く走れる」と語りかける一方で、コンポーネントが「これ以上は危険だ」と警告を発するという、ジレンマを抱えた走行フィールとなっている。
ハンドリングと俊敏性
長いフロントセンターによる安定性と、短いチェーンステーによる俊敏性の融合は、このバイクのハンドリング特性を決定づける。高速域ではどっしりとした安定感を見せる一方、低速域やタイトなコーナーでは驚くほど軽快に向きを変えることができる。
これにより、トレイルの起伏を利用してジャンプしたり、コーナーでバイクを積極的に倒し込んだりといった「遊び心のある」ライディングが可能となり、メーカーが謳うコンセプトを忠実に再現している。
多用途性
Habit HT 2は、極めて多用途なプラットフォームである。日常的なトレイルライドから、ハードテール特有のダイレクトな挙動を活かしたスキルアップトレーニングまで、幅広い目的に対応する。
また、その堅牢なフレームと豊富なマウントポイントは、装備を積載してのバイクパッキングにも適性を示す。一方で、その重量と寝たジオメトリはクロスカントリーレースには不向きであり、またハードテールという構造上、本格的なエンデューロレースでの使用にも限界がある。
このバイクは、特定の競技に特化するのではなく、「マウンテンバイキング」の楽しさそのものを追求するための万能なツールとして設計されている。
同価格帯におけるHabit HT 2の優位性と劣位性
Habit HT 2の真価を評価するためには、市場における同カテゴリーの主要な競合モデルとの比較が不可欠である。ここでは、Trek Roscoe 7、Specialized Fuse Comp 29、Giant Fathom 29 2を比較対象とし、各モデルの技術的特徴と設計思想を分析する。
主要競合モデル
- Trek Roscoe 7: より長い140mmトラベルのフォークとShimano Deore 12速ドライブトレインを装備し、オールラウンドな性能を重視するモデル。
- Specialized Fuse Comp 29: より保守的なジオメトリを持つが、SRAM NX Eagle 12速ドライブトレインやフロント4ピストンブレーキなど、バランスの取れたパーツ構成が特徴。
- Giant Fathom 29 2: 上記2モデルの中間的なジオメトリを持ち、自社開発のCrest 34フォークを搭載することでコストパフォーマンスを追求するモデル。
競合バイクの比較
以下の表は、各モデルの主要な仕様とジオメトリ(Mサイズ)を一覧にしたものである。
表2:競合モデル比較分析マトリクス(Mサイズ基準)
| 項目 | Cannondale Habit HT 2 | Trek Roscoe 7 | Specialized Fuse Comp 29 | Giant Fathom 29 2 |
| フォーク (モデル) | RockShox Judy TK | RockShox Recon Silver RL | RockShox Recon RL | Giant Crest 34 RCL |
| フォーク (トラベル) | 130mm | 140mm | 130mm | 130mm |
| ドライブトレイン | microSHIFT Advent X (10速) | Shimano Deore M6100 (12速) | SRAM NX Eagle (12速) | Shimano Deore (10速) |
| ブレーキ (F/Rピストン) | SRAM Level (2/2) | Shimano MT200 (2/2) | SRAM Level TRL (4/2) | Tektro HDM 275 (2/2) |
| ヘッドチューブアングル | 64.0° | 65.0° | 66.5° | 66.0° |
| 実効シートチューブアングル | 76.0° | 74.7° | 74.0° | 75.0° |
| リーチ (mm) | 440 | 440 | 440 | 445 |
| チェーンステー長 (mm) | 440 | 430 | 420-435 | 438 |
直接比較
vs. Trek Roscoe 7
Roscoe 7は、Habit HT 2より1°立った65°のヘッドアングルを持つが、10mm長い140mmトラベルのフォークと、より多段でスムーズなShimano Deore 12速ドライブトレインを装備する。
どちらのバイクを選択するかは、ライダーの優先順位に依存する。下りでの絶対的な安定性を最優先するならばHabit HT 2のジオメトリが優位であるが、より幅広い状況に対応できるサスペンション性能と洗練された変速性能を求めるならばRoscoe 7に軍配が上がる。
vs. Specialized Fuse Comp 29
Fuse Comp 29は、66.5°のヘッドアングルと74°のシートアングルを持ち、Habit HT 2と比較してジオメトリはかなり保守的である。しかし、SRAM NX Eagle 12速ドライブトレインや、フロントに4ピストンキャリパーを採用したブレーキなど、コンポーネントのグレードは一段高い。
Fuseはバランスの取れた万能型トレイルバイクであり、Habit HT 2はより下り性能に特化したスペシャリティバイクと位置づけることができる。
vs. Giant Fathom 29 2

Fathom 29 2は、66°のヘッドアングルと75°のシートアングルで、Habit HT 2とFuseの中間に位置するジオメトリを持つ。Giant自社製のCrest 34フォークは、同価格帯のRockShox Reconなどと比較して遜色ない性能を持つとされ、コストパフォーマンスに優れる。
しかし、ジオメトリの先進性においては、Habit HT 2が明確なアドバンテージを持つ。
Cannondaleの独自の価値提案
競合分析の結果、Cannondale Habit HT 2の市場における独自の価値提案は、そのクラスで最もアグレッシブなジオメトリにあることは明らかだ。
他のどの競合モデルよりも寝たヘッドアングルと立ったシートアングルを組み合わせることで、登坂効率を犠牲にすることなく、最大限の下り性能を追求している。
このバイクは、コンポーネントのグレードよりも、フレームがもたらす根源的な走行性能とキャラクターを最優先するライダーにとって、他に代えがたい魅力を持つ。
理想的なライダー像とアップグレード戦略
「BlingよりBangを」
Cannondaleは、Habit HT 2において「Bling than Bang」という約束を見事に果たしたと言える。その「Bang」は、卓越したフレームジオメトリと、価格に見合わない高性能なタイヤからもたらされる、スリリングで懐の深いライディング体験に凝縮されている。
一方で、「Blingの欠如」は、フォークのダンパー性能、ブレーキの絶対的な制動力、そしてリアハブのエンゲージメントという、コストのために妥協された点に明確に現れている。このバイクは、完璧な完成品ではなく、明確な意図をもって設計された、ポテンシャルの塊である。
Habit HT 2の理想的なライダー像
ここまでの分析に基づき、Habit HT 2の理想的なオーナー像は以下のように定義できる。
- 下りでの安定性と遊び心のあるハンドリングを最優先するライダー。
- スキルアップや全天候型ライディングのために、堅牢で楽しいセカンドバイクを求める経験豊富なライダー。
- コンポーネントのヒエラルキーを理解し、このバイクを将来的なアップグレードのための優れた「プラットフォーム」として捉えることができるライダー。
- フレームの耐久性と豊富なマウントポイントを評価し、バイクパッキングへの応用を視野に入れるライダー。
戦略的アップグレードパス
Habit HT 2のフレームが持つポテンシャルを完全に解放するためには、以下の段階的なアップグレードが推奨される。
- リアハブの交換:テクニカルな登坂性能をフレームジオメトリに見合うレベルまで引き上げるため、エンゲージメントの速い高品質なリアハブへの交換、あるいは完組ホイールセットへのアップグレードが最も効果的である。これは、バイクの弱点を直接的に解消する最も重要な投資となる。
- サスペンションフォークのアップグレード:バイクの下り性能を劇的に向上させるには、34mmや35mm径のより剛性の高いインナーチューブと、洗練されたダンパー(例:RockShox Pike, Fox 34)を備えたフォークへの交換が不可欠である。これにより、フレームのジオメトリが真に活かされることになる。
- ブレーキシステムの強化:より高い制動力と耐フェード性を確保するため、4ピストンキャリパーを持つブレーキシステム(例:SRAM G2, Shimano Deore 4ピストン)へのアップグレードが推奨される。これにより、ライダーはより自信を持ってバイクの限界に挑むことができる。
まとめ:Habit HTをベースに
Cannondale Habit HT 2は、箱から出した状態で完璧なバイクではない。むしろ、そうであることを意図していない。その本質は、戦略的に選択されたコンポーネントをまとった、驚くほど優れた設計のフレームにある。
そのアグレッシブなジオメトリがもたらすライディングキャラクターは、同価格帯では比類がない。
このバイクを単なる完成品としてではなく、究極のトレイルハードテールを構築するための「礎」と見なすことができる、見識あるライダーにとって、傑出した価値を持つ一台である。
価格は17万円と、非常にお求めやすい価格設定だ。






































