Madone Gen8 SLRのインプレは、ハードルが上がってしまった。
真っ先に、ミドルグレードのSLモデルからテストをしたのが理由だ。SLグレードながら、やけに完成度が高かった。性能はもとより、塗装や仕上げなどSLとは思えぬバイクだった。もう、これでええじゃないか。それが結論だった。
スペックや性能を文字や数値だけで判断すると、SLRとSLの間にはOCLVの番号、使用しているカーボン、フレーム重量差258g、フォーク重量差15gという違いしか見当たらなかった。SLRに乗る前は、だ。
それでも、Madone Gen8 SLRは最高の性能を期待されるバイクだ。実際、そうでなければならない。他社製品を含めたハイエンドモデルとして、TREKのハイエンドモデルとして、どの切り口においてもだ。しかし、それらは本当にライダーが理解できる領域に達しているのか。
もしかしたら、SLRはSLとの差50万円以上の価値など存在しない、名ばかりのバイクかもしれない。そんな、一抹の不安を抱きながらMadone Gen8 SLRで走り出した。
Madoneでも、Emondaでもなく。
Madoneの軽量化か、Emondaのエアロ化か。その答えはどちらでもない。
それが、Madone Gen8 SLRに乗った直後の印象だ。このあたりはSLグレードと変わらない。Madoneという冠がついていながらも、空力を追い求めすぎず、行き過ぎた軽さを求めたわけでもない。空力性能を落とさずに、できるだけフレーム重量を削り、性能とのバランスをとった。
Madone Gen7とEmondaのちょうど真ん中に開発の目標を打つ。まったく新しい基準で作られたのがMadone Gen8だ。
記事が長くなるので、先にSLRの結論を。
Madone Gen8のSLとSLRはグレードを問わず、動きや振りの軽快さはまるでEmondaのようだ。しかし、踏み込んだ時にしっかりと受け止めて、逃がさない剛性感の高さはMadoneを思いだす。
SLもそうだったが、BB周りでガッシリと受け止める圧の強さがある。Madoneのようでいて、これまでのTREKのバイクとはどれとも違う。まるで、ケンタウルスのように上半身は人間で脚は馬。上部分と下部分で全く異なる構造と特徴を維持しながら、破綻しない独特の立ち振る舞いがある。
いままでのTREKバイクにはない仕上がりだ。
そして、SLよりもSLRを踏み込んだ時の感覚のほうが、「しっかりと受け止めて走ってます」という解像度が高かった。入力が行われ、出力の走りに変換されたとき、SLRのほうがワンテンポ早く出力が行われるように感じた。
SLRは踏み込んで行くときに硬さを感じつつも、バイクが進むための力を継ぎ目なく注ぎ込んでくれるような感覚がある。別の言い方をするとSLRはパワーを拾う粒度が細かい。対してSLは粒度が荒い。
Madone Gen8 SLRの乗り心地は、表現することに苦労する。通じる人にしか通じない言い方で申し訳ないのだが、SLRはサンプリング周波数が高く、SLは低い。根本的な性格はSLRとSL同じだが、Madone Gen8に似てるバイクがない。これは初めての走行感覚だった。
どっしりと受け止めつつ、走ってくれる正体不明の感覚をTREK社の方に話した。
ひとつの理由としては、エアロ系ロードバイクらしからぬダウンチューブの設計かもしれないという。フルシステムフォイルの開発思想によって、ダウンチューブはKVF形状ではなく、ほとんど四角い形状になり、見た目はドマーネのようになった。
空力開発を進めた結果、ホイールの直後に位置するダウンチューブには、空力が良い形状をそれほど必要としていないことがわかった。それならば、パワーの受け止めやライドフィーリングをしっかりと高め、構造を優先した「柱」のような立ち位置にしたという。
たしかに、ダウンチューブは家を建てる時に使う頑丈な角材のようだ。
思い返せば、8年以上前のVENGE時代から、ダウンチューブが細く奥行きがあるカムテール形状をちりばめたエアロフレームが主流になった。最近のAEROADは特に顕著で、まさに「エアロロード」だった。
EVOはすこしばかり大人しくなったが、シートポスト部分の細さは折れそうなほどに薄い。Tarmac SL8のダウンチューブはMadone Gen8の親戚のような形状で角材ではなく丸パイプに近い。ダウンチューブのエアロダイナミクスはそこまで要求されないようだ。
薄くて奥行きがある設計から、MadoneGen8のように全方位的にパワーを受け止める角材のようなダウンチューブに突然シフトしていくと、乗り味が180°変化するのも納得できる。エアロよりも構造を優先し、乗り味のチューニングにこだわったというTREKの味付けは確かに体感できる。
空力がわるそう
Madone Gen8は、空力性能が悪そうに見える。
数値的な空力性能に関しては、Madone Gen7と大差がない。しかし、ダウンチューブの角材はどうみても空力性能が良いとは思えない。
実際に乗ってみても空力性能の良さ、悪さも感じられない。SLと比べてもそうだし、SUPER SIX EVOやAEROADと比べてもそうだ。人間は測定器ではないから空力性能の善し悪しを明確に判別することは不可能に近い。
そうなると、やはり「見た目」に目が行く。例えば、夏の海でスタイルが良いと直感的に感じ人達は、身体が引き締まってメリハリがある(男女問わず)。見た目で空力が良いと思うのは、たいてい薄くて翼形状のフレームだ。
その点、Madone Gen8 SLRのダウンチューブは、角をとった角材のようで不格好だ。しかし、システムフォイルの考え方が正しければ、ホイールやダウンチューブ、ボトルなどひっくるめて1つの翼形状を作る。
したがって、ダウンチューブ単体だけでは空力の全てを語れない。TREKはきっとそう言いたいはずだ。
という理解をしたうえで走らせてみた。
低速域ではよくわからないが、高速域になるとまずまず伸びてくれる感覚はある。平坦でスピードが乗らないと感じるバイクは多いが、Madoneにそんなことは感じない。しかし、CANYON AEROADに初めて乗ったときに感じた「空気の壁を抜ける」あの感じがない。
空力性能は、バイク単体ではなくライダーの乗車姿勢や身に着けるウェアなどのほうが抵抗の影響が大きい。そのため、AEROADの場合は短いトップチューブや狭いハンドルが影響していそうではある。
Madone Gen8の風洞実験結果や、Yaw角度が増加したあとのデーターを見ていても、加重平均計算次第ではMadone Gen7とGen8の差はほとんど無いと考えられる。ダウンチューブの「空力が悪そう」という印象はフルシステムフォイルの設計概念からすると、単なる思い込みになりそうだ。
参考までにドイツのTOUR MAGAZINEの空力性能テストの結果を紹介する。日本で購入できるバイクのみ掲載している。
- CANYON AEROAD CFR:202W
- Cervelo S5:202W
- Cannondale SystemSix:203W
- FACTOR ONE:206W
- SCOTT FOIL RC ULT:206W
- TREK Madone Gen7:207W
- Cannondal Super Six EVO GEN4:207W
- PINARELLO DOGMA F:208W
- SPECIALIZED VENGE:208W
- SPECIALIZED TARMAC SL8:209W
- GIANT PROPEL:210W
- SPECIALIZED TARMAC SL7:210W
- TREK EMONDA SLR:224W
この中でダークホースなのが、Cannondale Super SIX EVOでMOMOハンドルではなく、丸パイプのノーマルハンドルをしての結果だ。TARMAC SL8、VENGE、Madone Gen7、Systemsixがエアロハンドルを使っていることを考えると、さらに空力改善の余地が残されている。
実測重量
リドルトレックカラーのMadone Gen8 SLR実測重量は以下の通りだ。
- フレーム:880g
- フォーク:389g
- シートポスト&金具一式:154g
- コラムスペーサー、ヘッドベアリング上下、コラムトップカバー:142g
- スルーアクスル前後:59g
- UDH、ダウンチューブカバー、FD台座:56.5g
- RSLエアロボトルx2、ケージx2:270g
- 一体型ハンドルバー:324.5g
- サイコンマウント:22g
参考までにTARMAC SL8の実測はフレーム685g、フォーク386gであるためフレームセットで考えるとMadone Gen8 SLRは198g重い。
また、LAB71 Super SIX EVOのフレーム 49サイズは、前後ハンガー込、ボルト5本込で751gだ。フォークは408gである。Madone Gen8 SLRは110g重い。
他社のハイエンドモデルで比較した場合、軽さに関しては一歩及ばない。軽量性を追求した完成車をアッセンブルする場合は、Madone Gen8 SLRは合理的な選択とはいえない。
振動吸収性は本当
振動吸収性を売りにしているレースバイクで、吸収性能を体感できた試しがない。今回のMadone Gen8を除いては。スライダー式ISOSPEEDを搭載したMadoneで、かろうじて「変化したかな?」とわかる程度だった。
Madone Gen8 SLとSLRに共通していたのは、本当にわかるほど振動吸収性が高いということだった。これは文章や又聞きでは絶対にわからない。ぜひとも試乗して、段差や路面が悪い区間をあえて走っていただきたい。身をもって理解するためにはそれが一番だ。
バイクの振動吸収性や垂直方向のコンプライアンスに関しては、本来タイヤと空気圧が支配的だ。何度も当ブログでお伝えしてきたが、Madone Gen8はバイク全体というよりも、ISOFLOWのシートポストだけで物体の変形(コンプライアンス)を生み出している。
Madone Gen8は、受け止めるような剛性感の高さをBB周りに備えながらも、シートポストの独特な形状によって、局所的に振動吸収を高める分業をしている。それぞれが、それぞれの箇所で役割分担をしているのだ。
TARMAC SL8はコンプライアンスが改善したらしいが、正直なところ人間がわかるレベルではなかった。Madone Gen8ははっきりとわかる。何度も言うが、このためだけに試乗するのも面白いと思う。ぜひ、悪路やひび割れたアスファルトを走ってほしい。
例えるなら、MTBのようにリアサスがついているかのようだ(超ショートストロークだけど)。完全な想像の世界なので正確ではないが、柔軟にしなって、振動や突き上げをいなしてくれる。レース機材も変わったと思う瞬間だった。
レース機材ながら、プロはステージレースを何日も走る。路面状況も日本よりはるかに過酷だ。ほとんどグラベルのような状況もあるため、ハードすぎる乗り心地のバイクはライダーにダメージを与え疲労感を増やす原因にもなる。
Madone Gen8はその心配がない。
SLとSLRとの間には、振動吸収性の大きな違いはない。どちらも単純に走らせるとレースバイクとは思えぬほど、振動や突き上げをいなしてくれる。
ミドルグレードSLのレビューでも記したが、次回のパリルーベは特別な理由(例えば新型ドマーネ発表とか)がなければ、間違いなくMadone Gen8 SLRが使われるだろう。それほど縦方向、乗っているときの突き上げ感が解消される感じがある。
SLRシチュエーション別の走り
ここまで、空力性能や重量面、振動吸収性など様々な角度からMadone Gen8 SLRを見てきた。SLRとSLの間には、それほど大きな差が生じていないと思うだろう。そこで、シチュエーション別にMadone Gen8 SLRの特徴や気づきをまとめていく。
平坦は伸びるが
これまでのMadoneといえば、平坦を得意とするバイクだったように思う。空力性能にほぼ全振りしていたのも理由のひとつだ。平坦を走っている時のMadoneはどの世代も生き生きとしていた。ジオメトリはH1.5相当で攻撃的なプロ用H1.0ポジションよりも乗りやすい。
平坦はH1.5のジオメトリのほうが、下ハンドルをもってペダルを回す動作が楽だと思う。ハンドルバーの狭さと相まって、人間の空力も向上するのがMadone Gen7からの空力改善のポイントだった。
Madone Gen8 SLRは現行のエアロ系ロードバイクと同じように走ってくれるが、ハイエンドモデルを乗りつくしていた場合「普通だな」としか感じないと思う。最近のエアロ系ロードバイクはどれもよく走る。劇的な空力性能の差はない。それで終わりだ。
VENGEやAEROADがそうであったように、突然変異的に性能の壁を2~3個飛び級しないと、他社製品よりも秀でた性能を感じにくくなった。VENGEはあの時代、リムブレーキの時代だったからこそ、ゲームチェンジャーになれた。
話は戻り、出せる限界の速度域にスピードに達し、さらにその一歩先を突き破ろうとしたときにMadone Gen8がどうこうというよりも、ライダーの空気抵抗やパワーの限界のほうを感じる。AEROADは空気の壁を抜けるような空力性能を備えていたが、Madone Gen8はそこには達していない。
MadoneやTREKのバイクに共通しているのは、ヘッドチューブが比較的長く設計されている。小さなサイズの場合特にそうで、大きなサイズの場合は適正だ。そして、ヘッドカバーが分厚い。49,52のTARMACでベタ底ステムにしている場合は、ハンドルバーの位置を下げようにも同じ位置まで下げ切れない。
すなわち、アップライトになってしまう。スプリントや、下ハンドルをもって腹に力を入れてペダリングを行う際に違和感を感じるかもしれない。その場合は、角度が急なステムを使う必要がある。
平坦でのMadone SLRは凡庸だ。Gen7から大きな進化を感じない。ただ、エアロ系ロードバイクとして考えると、十分に満足のいく平坦の能力を備えていると思う。
下りの安心感
TREKのバイクは、どれも下りの安心感がある。
EmondaだろうとMadoneだろうとBOONEだろうと、TREKのバイクは下りが好みだ。理由のひとつにステアリング周りの純粋さがある。約10kmの峠を登り、同じ道を引き返して下るときに、ヘアピンカーブや、逆バンクになっているコーナーが登場するが、Madoneは安心できる。
自分がイメージしている狙い通りのラインを通せるし、バイクを傾けて曲がることができる。峠を走るとたいてい道が悪いが、ISOFLOWが振動や縦方向の衝撃を和らげる仕事をしてくれる。
SLとSLRには下りでわずかな違いがある。重いSLのほうが、フロントタイヤとリアタイヤがしっかりと地面に張り付く印象がある。SLのほうが安定していると感じた。SLRは軽さが仇となり、ISOFLOWの振動吸収が飽和して、上方向に持ち上げられることが度々あった。
路面状況にもよるが、重量があるSLのほうが安定して下るのが得意だった。この違いは収穫だった。
TARMACと比べると、下りのコーナーリング中にやや外側に膨らんでいく特徴がある。SUPER SIX EVOでもそうだったが、これは慣れていけばライダーが側が補正できる範疇だ。しっかりと乗り込めば、安心感の中で速さを追求できると思う。
SLRとSLに共通しているのは、ステアリングも急に切れ込んだりしない。下りが苦手な人はTREKのバイクに一度乗ってほしい。下り性能と振動吸収性能はSLだろうが、SLRだろうが共通だ。安心感はSLのほうが高い。どちらを選んでもいい。
登りはそこまでか
登りについてはほとんど触れてこなかった。というのも、Madone Gen8 SLRはEmondaのごとく、登りとの相性が良いとばかり思っていた。しかし、実際はそうでなかった。確かにバイクの重量は軽いのだが、軽さのわりには登りの軽快さがない。
Madone Gen8なら、登りと相性の良い瞬間も見つけられると思っていた。しかし、山頂を過ぎてもその出会いは訪れなかった。
SLは、SLにしては非常に優れた運動性能を持っていると思う。しかし、SLRは他社ハイエンドバイクや、これまでクライミングエアロとして名を売ってきたEmondaと真向勝負しなければならない。一本化したが故の宿命だ。
Madone Gen8 SLRはEmonda SLRのように、一定リズムを刻みながら、ゆったりとした余裕のある登り方をするかと思っていた。しかし、まったくそんなそぶりも見せない。
では、どうやったら進むのか。
常にパワーを与え続けながら、しっかりと身体をサドルに乗せて、体幹で踏み込むようなパワ-系の回し方のほうが良く進むと感じた。AEROADもそうだったが、ダンシングで登るよりもシッティングでハンドルを引きながら腹圧をかけて、踏み込むようにすると良く進む感じがある。
「Madone Gen8の登らせ方はこうかな・・・」と、試行錯誤の末に山頂までたどりついた時には疲れていた。バイクへの慣れの問題もあると思うが、正直なところ、登りの印象はSUPER SIX EVOのほうがいい。なんなら、AETHOSのほうがもっといい。
上り坂において、Madone Gen8 SLRは振ったときの動きは、Emondaと非常に近い振る舞いを再現すると思う。しかし、回した時のしなやかさや、心地よい圧の返り、つかれたときでも何度も返事を返してくれるあの優しさはない。
登りや、平坦でのスプリントは特にそうで、Emondaの女性のような反応はMadone Gen8で完全に消え去った。
Emondaはもう、いないのだ。
Madone Gen7とEmondaからの乗り替えは?
TREK愛好家ならば、おおいに推奨したい。
MadoneとEmonda別々に章を分けて書こうと思ったが、どちらのバイクであっても乗り換えるメリットが多く、同じような方向性だ。そのため、章をひとつにした。
ここまでくるとTREKの回し者に思えてくるが、Emondaの空力面やMadone Gen7の重量面など不満に思っていた部分が間違いなく解消されている。そのため、Madone Gen8は双方のアップデート先としてを考えると、妥当であり他に代替案がみつからない。
TREK愛好家ならなおさらだ。
Madone Gen7ユーザーよりも、Emondaユーザーの乗り換えのほうがインパクトが大きそうだ。軽さはEmondaに匹敵しながらも、空力性能がMadone Gen7並みになっている。実際、Emondaの空力性能はとても悪く224Wだ。それに対してMadone Gen7は210W程なので14Wの空力改善が確実に見込める。
EmondaにはTREKの古き良き遺産である「シートマスト」が採用されている。TREKの一時代を象徴するこのシートマストは、シートポスト付近を意図的にしならせて乗り心地を向上させる狙いがあった。円柱のため360度自在に動けるメリットはあるものの、空力的に最悪な構造でもあった。
Madone Gen8ではISOFLOWを搭載したことにより、コンプライアンス面で大きな進化をした。実際、Emondaよりも垂直方向のコンプライアンスは改善しているのではないだろうか。実際の測定数値が出てくるまではわからないが、Emondaの身体にやさしい乗り心地は、座っているときだけ味わえる。
ただし、Emondaと大きく異なる部分もある。踏み込んだ時のしっかり感だ。Emondaは数値上でも他社製品を含めたレースバイクの中で特にしなやかだ。Madone Gen8はEmondaのようにはいかない。ダウンチューブの角材とBBまわりが相まって、レースバイクとして大容量のパワーを受け止める設計が行われている。
踏み込んだ時に「あ、硬いな」と思うのと同時に、力を抑え込んで進む力に変えてくれるような素晴らしい反応をする。Emondaは力を受け流して、良い意味で力を逃がしながら進む。まるで、ムチのような走りをするバイクだったが、Madone Gen8は明確にここが違っている。
Emondaを基準にして、もう少し平坦で速く剛性が高いレースバイクが欲しい方はMadone Gen8がうってつけだ。しかし、やさしい乗り心地、やさしい反応、やさしい走りが好みであればMadone Gen8 SLRは合わないと思う。
Madone Gen7からの乗り換えも軽量性や、バイクの扱いやすさがEmonda寄りになったことでオールラウンド感が増すと思う。Emondaは好きだったが、Madone Gen7の1枚板を股下で揺らすような動きが慣れなかった。振動吸収性もGen8ほど感じられなかった。
動きやすく、扱いやすいMadone Gen8は、Gen7からの乗り換えにとても良い選択だと思う。
個人的な見解だが、TREKのバイクに乗っている方はTREK一筋な方が多い印象だ。次のバイクもTREKを買う信者的なライダーを多く見てきた。その方たちに向かって伝えたいのは、Madone Gen8に乗り換えて損や後悔はしないと思う。
背中を押します、ドンッ。
得意なレースは
Madone Gen8 SLRのようにグランツールに投入できる性能領域になると、バイクの性能は十分に高められている。むしろ、ライダーの能力ほうが足かせになる。コースシチュエーションなんてものは意味をなさず、最後はライダーのフィジカル勝負のほうに重きが置かれる。
おきなわやニセコ、国内のホビーレースでMadone Gen8 SLRは十分に活躍できる。例えばニセコの序盤の登りは30分弱、あとは単発で5~10分、これぐらいの時間ならGen8 SLRでいい。ドラフティングも期待できるようなシチュエーションならなおさらだ。
広島、群馬、修善寺、播磨どこのサーキットコースでもMadone Gen8 SLRで十分すぎる。最適解ではないコースもあるが、何度も言うようにこのレベルの機材になると、あとはライダーの能力次第だ。機材が足かせになる事はない。むしろ、自分の練習不足を疑うべきだ。
純粋なヒルクライムにおいては、他のバイクがいいとおもう。峠を走り込んでみると、Emondaのような登りの軽快さやリズムの取りやすさがなかった。短時間ならいいが、長時間なら登りは別のバイクで登りたいと思った。60分以上の登りなら、他に選択肢があると思う。
OCLV900とM40X
OCLVについてはもう説明不要だと思う。詳細に関してはMadone Gen8の技術紹介記事を参考にしてほしい。
Madone Gen8はTREK史上初のOCLV900になった。使用しているカーボンは非公開ながらTREKの方と雑談ベースで得た情報が正しければ、M40Xだという。使用しているカーボンはEmonda SLRやMadone Gen7 SLRから変わっていないことになる。
では、何が変わったのか。変化としては、カーボンフレームを成形する際に内部から圧を加える手法が変わった。
カーボンフレームを作る際、金型にカーボンを敷き詰めて張り巡らせる必要がある。この際、フレーム内部側からも圧をかける必要もあるのだが、Madone Gen8からはフレームの形そっくりのバルーンのような物を内部で膨らませて、圧をかける方式に変わった。
この製造方式により、フレーム内部全体に均一な圧がかかりカーボンのシワなどがほとんど発生しない仕上がりになったという。この製造方法によって、フレームの軽量化にもつながったという。
具体的にこのバルーンがどのような作用をし、軽量化に寄与したかまではわからないが、見た目ではわからない内部の製造方法の変化が行われたことは確かなようだ。
ジョーダン・ロージン氏がEmondaローンチ時に語ったOCLV800の話。
フレーム重量を増やさずにエアロを獲得するためには、フレームに使用する素材の見直しが必要でした。重量、反応性、そして強度。この3つをフレームに最適化していきました。OCVL 800カーボンは700に比べて引っ張り強度が30%増した結果、カーボン素材の使用量を減らすことに成功しました。
例えば、OCLV 700でEmondaのフレームを再現した場合、60gほど重量が増加しターゲット重量の700g以下は達成できませんでした。Emondaはもともと軽いバイクですので、この重量域で60gを減らすということは非常に大きな数字なのです。
また、新しい素材の開発に成功したからといって、すぐにフレームの金型に使用することはできません。新しいカーボン素材に着手する際は、およそ2年をかけてさまざまなカーボンレイアップを試します。
スクラップ&ビルドを繰り返し、250ものフレーム形状を試しました。OCLV 800カーボンはトレックだけが所有権を持っており、他のブランドが使うことはできないのです。
OCLVはTREKの特許技術のため、他社はおろか個人レベルで内容を知ることは不可能な製造技術だ。その中ではっきりとわかっているのは、冒頭でも紹介した通りMadone Gen8 SLRに使用されているカーボン素材が東レのM40Xという最先端の素材であるということだ。
東レのM40Xは、2025年モデルのピナレロ新型DOGMAやBOLIDE TT、CANYON CFRグレードのバイクに使用されている。これまでのカーボン繊維よりも強度が高いため、使用する素材の量を減らしても剛性や強度を高めやすい。
M40Xを使うことは結果的に、重量剛性比が高いバイクが作れることを示しており、軽量ながらも剛性が高いバイクに仕上げられるというメリットがある。先ほど記したSLとSLRの解像度の違いは、製造方法の違いや使用しているカーボンの違いによる可能性も考えられる。
SLよりもSLRのほうが踏み込んだ際に、明確に反応が返ってくるような感じを受けた。SLは踏んでからのバイクから返ってくる反応がやや遅く感じる。SLだけ乗っていたときは、これが当たり前だと思っていたから変化がわからなかった。
「反応の良いバイク」なんて言葉があるが、相対的にSLRのほうがしっかりとパワーを受け止めて走りに変換してくれるような感触を受けた。
この違いは、カーボンの違いなのかと想像した。ホイールの足回りを揃えても結構違うので、現段階ではM40X系、T700/T800系の違いと整理している。
サイズ毎の調整
Madone Gen8はサイズ毎の設計方法も大幅に変更された。
以前は、56サイズのフレームを基準として各サイズ毎に落とし込んでフレーム設計を行っていた。基本となるベースのフレームサイズから大きくしたり、小さくしたりしながらサイズ毎にチューブの設計を行っていたという。
Gen8から新たに取り入れられた手法としては、SならSとしてサイズ毎に想定しているライダーの身長や体重、パワーを基準にチューブのレイアップや形状を細かくチューニングしているという。設計の基準が、別のサイズからではなく、純粋に人間をベースにしている。
スペシャライズドのライダーファーストエンジニアードとよく似ている開発手法だ。44サイズに乗るライダーが、56サイズに乗るライダーと同じパワーが出せるわけではない。サイズ毎の剛性チューニングは必須と言えるだろう。
そのため、フレームの金型の使いまわしなどができずコストメリットはない。しかし、ユーザの使い勝手を優先した形といえよう。
RSLエアロボトル
フルシステムフォイルで、忘れてはならないのがRSLエアロボトルだ。
空力改善の大部分をこのRSLエアロボトルが占めている。昨今のエアロロードバイクのトレンドになりつつある分野で、空力が悪い円柱のボトルから、ダウンチューブ側面に沿うように左右が切り落とされたボトル構造で、空気の流れを曲げずに真っすぐ流れるように工夫がされている。
TREKからは、空力性能が最大限に発揮されるボトルケージの取り付け位置も図解でわかりやすく公開されている。RSLエアロボトルは、Madone Gen8以外のバイクにも取り付けることが可能で、同様の空力改善も見込めるという。
同じくSUPER SIX EVOのエアロボトルも所有しているが、この類のボトルは使い慣れるまで苦労する。レース中にボトルの抜き差しで気を使いたくないので、常用することは無いだろう。
インプレッション時のテスト走行では、ダウンチューブ側に円柱タイプのボトルを、シートチューブ側にRSLエアロボトルを使用した。通常のボトルを差し込んだ感じはいたって自然で、エアロボトル用のケージということは一切気づかなかった。
プロチームからのフィードバックをふんだんに取り入れているため、エアロボトル以外の使い心地も研究したのだろう。プロはプロモーションの必要がなければ円柱のボトルを使っているようだ。空力よりも、ボトルを刺す向きに気を遣うストレスが減るほうがいい。
普通のボトルを使った時に空力性能が悪化するはずだが、今回のテストではわからなかった。風洞実験にかければ1ワットや2ワット悪化するかもしれないが、実際に走ると誤差の範囲であり空力悪化に気づくことは不可能だろう。
SLRグレードには、はじめからRSLエアロボトルが2つ付属する。単体でもケージとボトルがセットで販売されているため、今お使いのバイクの空力性能を上げたい場合は使用してみると面白いかもしれない。
一体型ハンドル
SLRに標準付属しているハンドルバーは、レバーを固定する上側が狭く、ドロップの下側が広いフレア設計になっている。ブラケットを握るときは空力性能を高める狙いがあり、スプリント時に下ハンドルをもってもがくときは、ワイドスタンスのポジションをとることができる。
一体型ハンドルのため、ポジションが出せない場合はハンドルとステムごと交換する必要がある。初期付属しているハンドルは、フレームサイズによってあらかじめ決められており、選択の自由が無いのは残念である。
しかし、CANYONのAEROADのように、ハンドルを交換できないというわけでもなく、特殊規格でもないので、ポジションが出るハンドルに付け替えればいい。
そのほかのデメリットとしては、TREKの一体型ハンドルはリーチが長い。いや、これでも短くなったほうなのだ。
Emondaと同時期に登場したハンドルのリーチは100mmだった。ショートリーチでステムを伸ばすのがトレンドの時代に、リーチ100mmは長すぎると思った。Madone Gen8のハンドルリーチは前作と同じ80mmになっている。
リーチは70mmや73mm程を好んで使っているため、これでも長すぎるのだ。さらに新型SRAM RED E1のレバーも長い。現行のシマノ系STIと比べても長く感じる。Madone Gen8 SLRの完成車は、RED E1と新型の一体型ハンドルが相まってレバーが遠く感じた。
合う人には合うと思うが、長めのステムを使いたい人はハンドルを一度使ってポジションが出せるか必ず確認したほうがいだろう。
ハンドル単体購入も可能だ。ラインナップは非常に多く、他社製品ではあまり見かけない、尖ったハンドルジオメトリになっている。Madoneと合わせて一体型ハンドルも純正で固めたい方は、標準付属のハンドルを売って自分自身に合うサイズに替えたほうがいいだろう。
UDHをどう使うか
各社の新型が登場するたびに、UDHの搭載はまだか、まだかと待ち望んでいた。TREKのMTBがそうであったように、大手メーカーのハイエンドロードバイクで初めてUDHを採用した。TREKとSRAMは会社がご近所だからこの流れは当然だろう。UDHの搭載が一番早かったのもTREKのMTBバイクだ。
UDH対応のフレームが何が素晴らしいか。実は現時点では、素晴らしいことは何もない。UDHが入手しやすいぐらいだ。あとは、他社製のサードパーティーUDHダイレクトマウントハンガーが使えることぐらいだ。
実際、UDHなんてものはどうでもいいのだ。UDHに対応したフレームにリアディレイラーをフルマウントできるか否かが重要なのだ。その時、UDHなんてものは存在そのものが否定され、無くても何ら問題のない存在になる。
当のSRAMもかませ犬のUDHなんてどうでもいいとおもっている。SRAMが喉から手が出るほどほしいのは、「UDH対応のフレーム形状」がほしいのだ。フルマウントさえできれば、UDHは捨てられる運命にある。Madone Gen8はその準備ができている。
UDH、ダイレクトマウント、フルマウント、T-TYPE、トランスミッション、ロードバイク乗りにはわけのわからない言葉が並んでいるが、Madone Gen8の登場とともにこの言葉も理解する必要が出てくる。ゴールはUDH対応のフレームにフルマウントのリアディレイラーだ。
あとは、SRAMからフルマウントのロード用コンポーネントが登場するのを待つだけだけである。
大幅改良のスルーアクスル
2014年頃、TREKのディスクブレーキを搭載したバイクのアクスル規格は終わっていた。いや、過渡期と表現したほうが適切だろうか。フロントが12mmでリアがリムブレーキで使うクイックリリース式の細いシャフトでディスクロードが登場した。
悪魔的な前後シャフト構成は、さらに悪夢になり翌年には15mmのフロントスルーアクスル、リアクイックリリースという異常な組み合わせをTREKは採用した。スルーアクスルに関しては、本当に迷走していた。
各社のバイクがスルーアクスルのピッチや、スルーアクスルの作りをどんどん改良していったが、TREKだけはスルーアクスルの設計や、スルーアクスルまわりのフレーム造形がイマイチだった。それはEmondaのインプレッションで散々指摘している。
Madone Gen8は過去のスルーアクスル規格とおさらばした。これまでのTREKバイクと一切互換性がなく、全く別物のスルーアクスルに仕上がった。
このアップデートは、TREKのディスクロードに乗っていた方にとって長年の悲願が叶ったと勝手に思っている。TREKのバイクなのに「スルーアクスルまわりがかっこいい」というのは、TREKのバイクの出来が良いだけに、どうしても突きたくなる最後のポイントが無くなったことを意味する。
TREKがスルーアクスルの改良に本腰を入れた結果、なんとフレームカラーに合わせてシャフトとシャフトヘッドのカラーまで変更しているではないか。これは素晴らしい企業努力だ。賛辞を贈りたい。
シャフトヘッド周りのフレーム造形も問題ない。Madone Gen8で長年抱えてきたスルーアクスル問題は終わったのだ。
ホイールの相性
現代のエアロ系ロードバイクのどれもが、ローハイトのホイールと相性が悪いと感じる。ローハイトは空力が悪いばかりではなく、フレーム側の動きと合わない動きをするためアンバランスなバイクに感じてしまう。
Madoneもそうで、初めから付属している30mm前後のホイールはどこか好きになれなかった。最近では45mm~50mm程のリムが最も汎用的かつ重量のバランスがいい。30mm弱のホイールを外せばMadoneに合うホイールは多いと思う。
それでも、RSL37系を取り付けるならRSL51が相性が良いと思う。重量差もそこまでない。他社製品のROVAL RAPIDE CLXでもいい。ただ、COSMIC ULTIMATE 45のような軽すぎるホイールはMadoneのようなバイクには合うとはあまり思えない。
どんなホイールでも、フレームとフォークにしっかりと固定されていれば走るのだが、バイクシステムとして集合体として考えたときに、バランスとまとまりが良い組み合わせは存在する。
CADEX ULTRA 50や、PCW PEAK5550でもいい。PCW WAKE6550は少しリムハイトが高すぎるので汎用的に使用することを考えるとお勧めできない。ただ、TREKユーザーなら完成車に付属しているAEOLUS RSL51がベストセレクトだ。
SLRとSLどちらがいい?
Madone SLRとSLどちらがいいのか。
Madone Gen8のインプレッションは変化球だった。SLを先に乗った時点では、SLで十分だと思った。1台だけメインバイクとして所有するなら、妥協はしたくないのでSLRを買うと思う。それでも、フレーム重量258gと50万円以上の差が納得できるかというと、納得できない。
完成車の重量が6.8kgにしたいのは誰しも同じだ。レースの為に1%を積み上げてくると、機材のありとあらゆる重量が気になってくる。絞りつくした後に、髪の毛や体毛すら減らしたくなってくる。そうなってくるとSLRとSLの重量差258gは大きい。
7.0kgのバイクが6.74kgのバイクになるのなら、今の競技への取り組みを考えて喜んでお金を払える。SLRは合理的な判断ではなく、理性的な判断で購入するバイクだ。価格と重量に迷ってはいけない。何が何でもハイエンドだ。そういう人が選べばいい。
それら合理的ではない思考のもと、SLグレードに目を向けると「いや、これでも十分なんだけどな」と我に返る。それぐらい、心を揺らすバイクをTREKは作ってきた。珍しいことだ。SLグレードでもSLRと遜色がない。満足が行くと思う。
SLRかSLか。自分が買うならSLRだ。ただ、レースに出なければSLRはいらない。競技を辞めて、それでもMadoneが買いたいときはSLにする。だから、身近なライダーにはSLの良さを伝え、コストパフォーマンスに優れたバイクだとお勧めする。そこには裏はないし、事実だ。
これらをふまえ、何を選ぶかはあなた自身が決めていい。
途絶えたEmonda
Emondaはめちゃくちゃ売れたらしい。
当時はまだ為替も安定していて、販売価格も手ごろだったのも影響している。TREKの元販売店の方と数年ぶりお会いして、Emondaの事を話していたら「めちゃくちゃ売れました」と当時を懐かしそうに語っていた。
わたしもEmondaを気に入って、メインバイクで2台買った。乗り心地と身体への負担の少なさから「おじさん向けバイク」とYouTubeのインプレで紹介した。これは怒られるかな、と思っていたがほとんどの方が納得され、購入理由はそれだという方も多かった。
Emondaの人気を例えると、スペシャライズドのVENGEのような熱狂があったようにおもう。
VENGEのように、ディスクエアロロード時代の幕開けになるゲームチェンジャー的なインパクトはなかったが、当時のMadone Gen 5や6が不格好なマンボウ化にひた走るのと対照的に、Emondaはあでやかで、上品、もの柔らかで誘うような優美さがあった。
それでいて、空力もよく軽い、そして乗り心地が良いという三拍子そろったバイクだった。私が気に入っていたのもこれらが理由で、さらに造形が「エロい」という珍しいバイクだった。だからエロの教祖、ゴローさんもEmondaに惚れたのだろう。
今でも愛車として使い続けている方も多く、練習コースで頻繁に見かける。長く使い続けるだけの魅力があるバイクはそれほど多くないが、Emondaにはそれだけの価値があるということなのだろうか。
しかし、Emondaの系譜は、Madone Gen8の登場とともに途絶えた。
EmondaはMadoneに吸収される形になった。空力のMadoneが軽さを求め、軽さのEmondaが空力を求め続けた結果、両社の境界線は曖昧になった。最後に登場したEmondaは空力性能を求めるあまり、当初のような尖った軽さではなくなった。
MadoneはEmondaに、
EmondaはMadoneに近づいて行ったのだろう。
「集中と選択」という言葉が以前流行ったが、TREKもレースバイクのMadoneかEmondaどちらかを残すのか選択し、ひとつのバイクに開発リソースや開発能力を集中すした。北米ブランドのどれもが、「ひとつですべてを」のテーマでレースバイクを作り上げるアレだ。
ファウスト・ピナレロ氏にしてみれば、「何をいまさら」と言われかねないが。
TREKはMadoneを残すか、Emondaを残すのか選択を迫られた。実際、TREKとしては思い出したくないかもしれないが、ランス・アームストロングが勝利を量産し、ネームバリューと伝統あるMadoneを残す決断は迫られなくとも必然だった。
Emondaは確かに人気だったが、Madoneという誰しもが知るロードバイクの冠をTREKはかぶり続けることを選択した。それは、英断だったと思う。Madone Gen8 SLRに実際に乗ってそう思った。
まとめ:Madone Gen8はケンタウロスに
Madoneはケンタウロスだ。
半人半獣のように、脚は馬、首から上は人間の上半身。そんな姿をしている。単純に踏み込めばMadoneの名残を、バイクを振ればEmondaの残影が見える。TREKはケンタウロスを生み出したのだ。
いま、この話を真に受けたあなたは、TREKがMadone Gen8で行いたかったプロモーションに、まんまとやられているかもしれない。
Madoneの名は、フランスを代表する峠の一つ「コル・ド・ラ・マドーヌ」にちなんで名付けられた。当時、TREKのラインアップ中もっとも「エアロ」で「軽い」ロードレースバイクとして開発された。
TREK好きなら誰でも知っていることだ。
ただ、時代とラインナップの拡大、開発テクノロジーの進化に伴ってMadoneはその後、2つのモデルに枝分かれすることになった。軽量ヒルクライムバイクのÉmondaと、ピュアスピードのMadoneだ。もともと1つだったバイクが2つに別れたのだ。
そしていま、時代が求めるものがまた変化した。世界情勢、世界規模の自転車販売不振など、TREKはラインナップを減らすことを求められたのではないか。当初Madone Gen 8はEmondaとして売り出したかったのかもしれない。
一見すると、Emondaが消えたことにより不幸な話に聞こえてしまうかもしれないが、ÉmondaとMadoneが再び一つとなり、究極のレースバイクMadone Gen 8が新たに誕生した。初代の「エアロ」で「軽い」ロードレースバイクである。
TREKのレースバイクを選ぶときに、もう何も迷わなくていい。TREKで唯一のロードレースバイクだ。
人間万事塞翁が馬のことわざのように、不運に思えたことが幸運につながったり、もしくはその逆だったりする。TREKにとって今回の統合が不運か幸運かは、Madone Gen 8が証明してくれる。