エアロ全盛期にあえて問う「ローハイトリムの価値」。ROVAL Alpinist CLX IIIホイールだけが持つ、軽さ以上の武器

4.0
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Alpinist CLX IIIは、現代ロードバイクにおける「軽量性」の再定義だ。

ハイエンドのロードバイク市場は、かつてない技術的転換期を迎えている。ディスクブレーキの標準化、チューブレスタイヤの普及、そしてエアロダイナミクスの至上命題化により、ホイールセットに求められる要件は複雑さを極めている。

かつて「軽量ホイール」といえば、リムハイトを極限まで低くし、リム重量を削ぎ落とすことが正義とされた。しかし、現代のプロトンにおけるレーススピードの高速化は、純粋なヒルクライムステージであっても空力効率を無視することを許さない。

Rovalが投入した「Alpinist CLX III」は、この矛盾する要素――極限の軽量性と実戦的な剛性・空力性能――の統合を試みた、Specializedの技術的回答である。

前作Alpinist CLX IIから134gもの重量削減を達成し、総重量1,131g(バルブ・テープ込)という驚異的な数値を叩き出したこのホイールについて、その技術的背景、製造プロセス、および力学的特性を網羅的に分析していく。

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Roval Alpinistシリーズの進化論

Rovalのホイールラインナップにおいて、Alpinistは常に「山岳」を制するために存在してきた。初代Alpinist CLXは、ディスクブレーキ専用設計として登場し、その軽さで市場を驚かせたが、チューブレス非対応という制約があった。

続くAlpinist CLX IIでは、フックドリムによるチューブレス対応を果たし、汎用性を高めたものの、重量面では若干の増加を余儀なくされた。

そして登場した第3世代、Alpinist CLX IIIは、シリーズの正統進化でありながら、構造的には「非連続的な飛躍」を遂げている。その核心は、従来のステンレススチールスポークからの脱却と、ハブ構造の根本的な刷新にある。

1,131gという数値は、単なるカタログスペックの勝利ではなく、回転体としての慣性モーメントの大幅な低減を意味しており、これはライダーがペダルを踏み込んだ瞬間の「スナッピーさ(反応の鋭さ)」に直結する物理的特性の変容を示唆している。

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構造工学的分析:リムアーキテクチャ

フックドリムの堅持と安全性

近年のホイール業界における最大の論争点の一つが、「フックド(Hooked)」対「フックレス(Hookless)」である。

ENVE、Zipp、Cadexといった主要な競合他社が、製造コストの削減、軽量化、そしてリムとタイヤの空力的な一体化を理由にフックレスリムへの移行を進める中、RovalはAlpinist CLX IIIにおいて、頑なにフックドリムを採用し続けている。

リムハイト

33mm 

リム内幅 (Internal Width)

21mm 

リム外幅 (External Width)

26.5mm 

ビードフック幅

2.75mm 

最大空気圧

110psi (チューブレス) / 130psi (チューブド) 

衝撃テスト基準

業界標準の2倍 

  Roval Alpinist CLX III データ

Rovalがフックドリムを選択した理由は、主に「安全性」と「運用の柔軟性」にある。フックレスリムは、ETRTOの規格により、最大空気圧が5barに制限されることが一般的である。

これは、転がり抵抗の低減や振動吸収性を重視する現代のワイドタイヤトレンドには合致するが、一方で、細めのタイヤを高圧で運用したいプロレーサーや、大柄なライダー、あるいはタイヤ脱落のリスクを極限まで排除したい保守的な層にとっては不安要素となる。

Alpinist CLX IIIは、フックドリムを採用することで、最大7.5bar(チューブレス時)という高圧許容値を維持している。

さらに、タイヤのビードを物理的にフックが保持する構造は、ダウンヒル中の激しいコーナリングや、路面の凹凸による衝撃を受けた際のビード保持力において、依然として構造的な優位性を持つ。

Rovalは、リムの耐衝撃性能において業界標準の2倍の基準をクリアしていると主張しており 、軽量ホイールでありながら耐久性を犠牲にしていない点が際立つ。

リムプロファイルと空力・質量のバランス

33mmというリムハイトは、純粋なエアロダイナミクスを追求したRapideシリーズ(フロント51mm/リア60mmなど)とは対照的に、重量削減と横風安定性の最適解として導き出された数値である。

現代のロードホイールでは内幅23mmや25mmといったワイド化が進んでいるが、Alpinist CLX IIIは21mmに留まっている。

これは、24mmから38mmまでのタイヤをサポートしつつ、最もパフォーマンスを発揮する26mm~28mm幅のタイヤとの形状マッチングを最適化し、かつリム自体の重量増を抑えるための判断だ。

外幅26.5mmはタイヤ幅に対してわずかに狭いか同等であり、これは「105%ルール(リム幅はタイヤ幅の105%が空力的に理想とされる)」には完全には従っていない。

33mmハイトという低めのプロファイルでは、リム側面での気流剥離の影響がディープリムほど顕著ではないため、重量メリットが優先されたと推測される。

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革新技術:Arris Composites製エアロスポーク

異業種技術の導入とAdditive Molding

Alpinist CLX IIIにおける最大の技術的飛躍は、Arris Composites社との共同開発によるカーボンコンポジットスポークの採用である。Arris社はカリフォルニア州バークレーに拠点を置き、航空宇宙、自動車、コンシューマーエレクトロニクス向けの高性能熱可塑性コンポジット部品を製造する企業だ。

従来のカーボン製品の多くが「熱硬化性(Thermoset)」樹脂を使用するのに対し、Arrisの技術は「熱可塑性(Thermoplastic)」樹脂と連続炭素繊維を組み合わせた「Additive Molding」プロセスを特徴としている。

熱可塑性コンポジットの優位性:

  • 靭性: 衝撃に対する耐性が高く、脆性破壊を起こしにくい。
  • リサイクル性: 熱を加えることで再成形が可能であり、環境負荷が低い。
  • 振動減衰性: 樹脂マトリックスの特性により、高周波振動を効果的に減衰させる。

スポークの機械的特性と構造

この新型スポークは、従来のステンレススチール製スポーク(例:DT Swiss AeroliteやSapim CX-Ray)と比較して、以下の顕著な特性を持つ。

  • 重量削減: スポーク1本あたり約1.9gの軽量化を実現している。ホイール全体(前後合計45本と仮定した場合)では、スポーク単体で約85g、ニップルやハブとのシステム全体で103.5gの軽量化に寄与している。
  • 引張強度: スチールスポーク比で20%高い強度を持つ。これにより、より高いスポークテンションでのホイール組みが可能となり、横剛性と駆動剛性の向上に直結する。
  • T-headデザイン: スポークの両端にはチタン製のT-headエンドピースが接合されている。これにより、ハブやリムへの固定方法は従来のスチールスポーク(ストレートプル)に近い形態をとり、メンテナンス性(交換可能性)を維持している。CadexやMavicの一体成型スポークが破損時の修理を困難にしているのに対し、Alpinist CLX IIIは4本の予備スポークを同梱するなど、長期使用を見据えた設計となっている。

振動減衰とライドクオリティ

Arrisのコンポジットスポークは、単に「硬い」だけではない。

炭素繊維と熱可塑性樹脂の複合構造は、路面からの微細な振動(ロードノイズ)を減衰させる能力に長けている。スチールスポークが振動をそのままハブへと伝達する傾向があるのに対し、コンポジットスポークはフィルターのように機能し、ライダーの疲労蓄積を軽減する。

これは、ツール・ド・フランスのような長期間のステージレースにおいて、選手のパフォーマンス維持に貢献する隠れた要素である。

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駆動系の心臓部:ハブエンジニアリングと回転性能

DT Swiss 180 EXPインターナルの採用

Rovalは独自設計のハブシェルを採用しているが、その回転性能を司る内部機構には、スイスの精密部品メーカーDT Swissの最上位モデル「180 EXP」のシステムを移植している。

Ratchet EXPシステム: 従来のラチェットシステムでは2つのスプリングを使用していたが、EXP(EXPerience)システムではインボード側のラチェットをハブシェルにねじ込み固定し、スプリングを1つに減らしている。

これにより部品点数が削減され、軽量化されるとともに、ベアリング間距離(ベアリングスタンス)を広げることが可能となり、車軸の剛性が約15%向上している。

36Tラチェット: 標準で36歯のスターラチェットが採用されており、エンゲージメント角は10度である。これは即座のペダル掛かり(ピックアップ)と、空走時の抵抗低減のバランスを考慮した設定である。

54Tへのアップグレードも物理的には可能だが、歯が細かくなることによる耐久性への懸念から、ロードレース用としては36Tが最適解とされることが多い。

SINCセラミックベアリング:究極の低抵抗

Alpinist CLX IIIには、DT Swiss製の「SINC Ceramic」ベアリングが標準装備されている。ボールには極めて硬度が高く、熱膨張の少ない窒化ケイ素(Si3N4)セラミックが使用されている。

レース(軌道輪)は最適化されている。セラミックボールはスチールよりも硬いため、通常のステンレスレースではボールがレースを削ってしまう(ピッティング)リスクがある。

SINCベアリングでは、専用に開発された合金鋼レースを使用し、極限まで研磨することで、セラミックボールの性能を最大限に引き出している。

シール構造は抵抗を極限まで減らすため、接触圧の低いシールが採用されている。これにより、空転時の回転持続時間が飛躍的に伸び、実走行における数ワットの節約(1.5~2.5ワット程度)に寄与する。

Roval Low Flangeハブシェルデザイン

ハブの外形、特にフランジ(スポークを固定する部分)の形状は、ホイール全体の空力性能に影響を与える。Rovalは「Low Flange(低フランジ)」設計を採用しており、センターロック台座とスポーク穴を可能な限り中心軸に近づけている。

これは、スポーク長を長くすることで乗り心地を確保しつつ、ハブ本体の前面投影面積を減らし、風の乱れを抑制する効果を狙ったものである。特にフロントハブ(LF21-F)とリアハブ(LF19-R)は、それぞれの役割(操舵と駆動)に合わせて最適化されており、無駄な肉厚が徹底的に削ぎ落とされている。

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“Not Tucked”レーシングパターンの真意

「Not Tucked」とは何か?

Alpinist CLX IIIの仕様において特筆すべき点は、スポークの組み方(レーシングパターン)に「Not Tucked」という記述があることだ。

通常の手組みホイールや従来のスチールスポークホイールでは、スポークが交差する点(クロス部分)で、互いのスポークを編み込む(綾取りする)手法が一般的である。これを「Interlaced」や「Tucked」と呼ぶ。

この手法の歴史的な目的は、スポークが緩んだ際の脱落防止や、応力の分散、さらには横剛性の微調整にあった。

しかし、RovalはAlpinist CLX IIIにおいて、スポークを交差させつつも接触させない「Not Tucked」を採用した。

コンポジットスポークにおける非接触の重要性

なぜ編み込まないのか? その理由はカーボンコンポジットスポークの材料特性にある。

まず、摩耗とせん断応力の回避の目的がある。カーボン繊維は引張方向(繊維方向)の力には極めて強いが、側面からの摩擦やせん断力には比較的弱い。

走行中、ホイールは常に変形を繰り返しており、交差部分でスポーク同士が接触していると、微細な擦れが発生する。これが長期間続くと、コンポジットの樹脂層を傷つけ、繊維破断の原因となりうる。

Not Tuckedパターンは、スポーク同士を物理的に離すことでこのリスクを完全に排除している。スポークを曲げずにハブからリムへ直線的に配置することで、引張強度を100%駆動や支持のために利用できる。

カーボン同士が擦れ合う際に発生する特有の異音(きしみ音)を防ぐことができる。

2:1レーシングパターンの採用

スポーク数はフロント21本、リア24本であり、配置は「2:1」の比率で構成されている。

  • フロント(21本): ディスクブレーキ側(左)に14本(2クロス)、反ディスク側(右)に7本(ラジアル)。
  • ※ディスクブレーキの強力な制動トルクを受け止めるため、ローター側に2倍のスポークを配置し、交差させることでねじれ剛性を確保している。
  • リア(24本): ドライブ側(右)に16本(3クロス)、反ドライブ側(左)に8本(1クロス)。
  • ※ペダリングによる駆動トルクを伝達するドライブ側に重点を置き、3クロスという多めの交差数で接線方向の角度を稼ぎ、効率的なトルク伝達を実現している。

この2:1パターンは、左右のスポークテンションの不均衡を是正し、ホイールの耐久性と横剛性のバランスを保つための現代的な定石であるが、Rovalはこれを高剛性なカーボンスポークで行うことで、その効果をさらに高めている。

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数値が証明する実力

デミ・フォレリングの「5秒」

マーケティング資料において、SD Worxのデミ・フォレリングがツール・ド・フランスの象徴的な登坂「トゥールマレー(Col du Tourmalet)」において、前作比で5秒短縮できると謳われている。

トゥールマレーは距離約17km、平均勾配7.3%の超級山岳である。トッププロが約50分~60分で登坂すると仮定した場合、5秒の短縮は約0.15%のパフォーマンス向上に相当する。

この微差を生み出す要因は何か。

  • 静的重量 (-134g): 重力に抗する仕事量の純粋な減少。勾配がきついほど効果は増大する。
  • 回転慣性の低減: スポークとハブによる103.5gの軽量化は、加減速が繰り返されるレース展開(アタック、ヘアピンカーブの立ち上がり)において、エネルギー消費を抑える。
  • 剛性向上による伝達効率: 20%強度を増したスポークが、ライダーの入力したパワーをたわみとして逃がさず、推進力に変換する。特にダンシング時のウィップ(横たわみ)が抑制されることで、リズムを崩さずに登坂を継続できる。

乗り心地とハンドリング

軽量ホイールは時として「神経質」な挙動を示すことがあるが、Alpinist CLX IIIは「スムーズ、バランスが良い、そこそこ速い」と評すことができる。これは、ハイトを抑えたリムによる横風の影響の少なさと、カーボンスポークの振動減衰性が寄与している。

特にフロント周りのハンドリングにおいて、軽量化によるジャイロ効果の減少は、下り坂での切り返しを軽快にする一方、直進安定性が低下する懸念がある。しかし、Rovalはハブのベアリング間隔やスポークテンションのチューニングにより、不安感のないスタビリティを確保している。

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競合比較:ハイエンド・クライミングホイール市場の勢力図

Alpinist CLX IIIの立ち位置を明確にするため、同価格帯・同カテゴリーの主要競合モデルと比較分析を行った。

7.1 比較対象モデル仕様一覧

重量  1,131g 1,249g 1,255g 1,197g
リムハイト 33mm 40mm 45mm F:28mm / R:32mm
リム内幅 21mm 22.4mm 19mm 21mm
リム形式 フックド フックレス) フックド フックレス
スポーク素材 Arris コンポジット Super Aero カーボン 一体成型カーボン (R2R) スチール (Jベンド/ストレート)
スポーク構造 交換可能 (T-head) フランジ一体型 リム・ハブ一体 (R2R) 従来型
ハブ内部 DT Swiss 180 EXP Cadex R3 (48T) Mavic ID360 ENVE Innerdrive
価格 (日本税込)

¥451,000 

¥594,000 

¥559,240~ 

¥499,950 

特徴 Roval Alpinist CLX III

Cadex Max 40 

Mavic Cosmic Ultimate 45 

ENVE SES 2.3 

vs Cadex Max 40 (Giant/Cadex)

Cadex Max 40は、ハブフランジとスポークを一体成型するという極めてアグレッシブな設計を採用している。

  • Cadexの強み: 40mmハイトと22.4mm内幅によるエアロダイナミクスとタイヤプロファイルの良さ。一体構造による究極の剛性。
  • Alpinistの優位性: 重量(-118g)。Cadexはフックレスリムであり、最大空気圧が72.5psiに制限されるため、高圧運用ができない。また、Cadexのスポークは破損時の修理が極めて困難(実質的にホイール交換)であるのに対し、Alpinistはスポーク交換が可能である。

vs Mavic Cosmic Ultimate 45 (Mavic)

MAVIC COSMIC ULTIMATE インプレッション。「究極」になりきれなかったホイール。
カーボンスポーク、カーボンハブボディ、45mmで重量はわずか1,255g。MAVICのホイールで最高の称号である「ULTIMATE」。現代のディスクロード用に開発された「COSMIC ULTIMATE 45 ディスク」は3年の歳月をかけて開発が行われた。ひとつひとつフランスでハンドメイドされる新しいホイールは、「重量」、「剛性」、「空力」の3つのバランスをとるために、最先端の技術が投入されている。...

Mavicの「究極」を冠するこのモデルは、リムからリムへスポークが貫通するR2R構造を持つ。

  • Mavicの強み: 45mmハイトによる高速巡航性能。リムテープ不要のFOREカーボンによる完全気密性。
  • Alpinistの優位性: 重量(-124g)。Cosmic Ultimateはリム内幅が19mmと現代の基準では狭く、28mm以上のタイヤを使用した場合のエアロ効率や安定性で劣る可能性がある。価格もAlpinistより10万円以上高価である。

vs ENVE SES 2.3 (ENVE Composites)

ポガチャルとツールを制した ENVE SES 4.5 新型 ENVEハブ インプレッション!
ポガチャルが使い、ツールドフランスを制したホイール。この、だれもが理解しやすくありふれた表現だけでは、ENVE4.5を説明するには不十分だ。ENVEの機材パフォーマンスが高いことは、EDGE時代からのホイールが証明している。最近になってポガチャルが使っているだとか、ツールを勝ったというのはENVE4.5を語る上で些末な話に過ぎない。EDGE時代からリムは優れており、ENVE以上に優れたリムを見つけ...
新型 ENVE SES 6.7ホイールインプレッション!クラス世界最速のエアロホイール!
新型ENVE SESは「現実世界で最速」を目指したホイールだ。4種類のモデルは全て前後異型リムを採用している。グラベル、ヒルクライム、ロードレース、トライアスロンとあらゆるカテゴリに対応するシリーズだ。ディスクブレーキ専用、かつフックレスでチューブレス対応になっている。また、推奨タイヤ幅はSES6.7以外は27mm以上だ。価格は50万円近いが、作り込みをみると「これぞENVE」といえる仕上がりだ。...

ENVEのヒルクライム特化モデル。

  • ENVEの強み: フックレスリムによるリム外周の軽さ。ENVEブランドの信頼性と保証。
  • Alpinistの優位性: 重量(-66g)。ENVEはスチールスポークを使用しているため、システム全体の剛性や反応性において、カーボンスポークを採用したAlpinistに分がある可能性がある。また、ENVEもフックレスであるためタイヤ選択に制限がある。
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インプレッション

「軽いホイールは走らない」

とよく言われるが、その傾向はホイールの構造と重量バランスによると思う。特にLightWeightやCosmicCarboneULTIMATEがそうだった。R2R(Rim to Rim:1本のスポークがハブを横断する構造)のような完全剛体のホイールは剛性が高く、軽く作れるが一切の遊びが無い。

Photo: MAVIC

例えるなら、木の車輪を回しているようにゴトゴトする。そして、減衰スピードが異様に早いため、常にエネルギーを与え続けていないと回らないのだ。まるで、蒸気機関車のように、石炭を投入し続けないと走り続けないことと似ている。

この手のホイールを回そうとすると、常にトルクをかけ続けて「回す」動作が常に要求される。結果的に常に気を張って”意識的に”回さねばならず疲れる。レーシングカーでミリ単位の操作を常にし続ける感覚とよく似ている。

使いやすいのは大衆車だ。ハンドルを切っても遊びがあるほうが逆に操作しやすかったりする。Roval Alpinist CLX IIIに限って言えば大衆車に属する。数値的には圧倒的に軽いのだが「軽いホイールだが走らせやすい」部類に属している。

「軽いホイールは走らない」というステレオタイプの考え方は、このホイールには当てはまらない。

いくつか理由が考えられる。最も影響を与えている可能性があるのはホイールの重量バランスだ。リムは大きく変わっていないが、スポークとハブが軽量化された。リムよりも内側の中心部に向かって重量が削減されている。

前作のAlpinist CLX “II”と比べると、ホイール全体に占める重量が外周に集中している。重量分布が外周寄りになると、加速感は鈍くなるが、慣性がその分働きやすくなる。この動きを簡単な実験で示したものがあるので一度見てほしい。

このように、重量は同じだが、重量分布により加速感は大きく変わる。話が長くなったが、Alpinist CLX IIIは軽いホイールにありがちな「スカスカ系」ではない。重量バランスのチューニングが、意図的に行われているのではないかと思う程踏みごたえがある。

軽量性とそのネーミングから「クライミングホイール」というカテゴリに確かに属するのだが、「登り専用」という縛りにとらわれず、単に走りに軽快さを求めるのならばAlpinistは最高のパートナーになる。

スタイルの良さ

Alpinist CLX IIIはスタイリングもよい。

リムブレーキ全盛期、細身のフレームにローハイトのリムを組み合わせた”シュッとした”トラディショナルなバイクが数多くあった。ロードバイクの源流にある美しさ、スタイルの良さを引き立てていたのはローハイトのリムであった。

現在のファットなディープリムや、不規則に波打ったリムでは到底到達できない正反対の美しさがあった。そのトラディショナルなスタイリングを求める場合にもAlpinist CLX IIIは最適な1本になる。

この”見た目”は性能とは何ら関係のない世界かもしれない。しかし、性能だけを追い求めず、スタイリング、バイクへの哲学、こだわりは性能だけでは測れないものがある。そこに必要なのは、見た目や受け側の印象が大きく影響する。

Alpinist CLX IIIがAethos 2と共に発表されたのもそのあたりに意図があるのではないか。Aethos 2にROVAL RAPIDE SPRINTを使用しても良いと思うが、スタイリング的には無理がある。いや、性能を求めれば「速くはなる」のだが、その要素は求められていないだろう。

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スタイリングの良さを重視するライダーにも、トラディショナルながら優れた性能を併せ持つ(もちろんよく走る)ホイールである。

適したライドスタイル

Alpinist CLX IIIは、軽量ホイールながら比較的扱いやすいホイールだと思う。少なくとも「スカスカ系」ではない。むしろ、軽さとは似つかない慣性が働いていることがよくわかる。。

その理由の一つは、ARRISのカーボンスポークを使っていることも影響しているだろう。VONOA 第四世代と同じく、非常にしなやかなスポークは振動吸収と踏み込んだ時にやさしさ、しなやかさがある。ローハイトリムでスポーク長が長いことも影響している。

速く走るというよりも、長距離を走る際に、快適かつ身体への負担を最小限にとどめたいと考えている場合もこのホイールは最適な1本になる。ディープリムを使う程でもない速度域で、快適に走りたい場合には都合がいい。ディープリムは硬めの傾向になってしまうからだ。

ジャンル的には登りに特化したレーシングクライミングホイールであるが、グループライド、走りを楽しみたい、楽に走りたいというシチュエーションにもマッチしている。

適したレース

単純に考えて、ロードレースやエンデューロなどには使わない。ROVAL RAPIDE CLX IIIが1,300gになったことからも、クリテリウムですらディープリムを使うのが合理的だ。では、ALPINIST CLX IIIが適したレースは何だろう。

適したレースジャンルは「ヒルクライム」と言ってしまえば、「確かにそうだよね」となる。しかし、現実的な話をすると、タイムを追及するのならばある勾配まではエアロ効果を高めたほうが速く走れることは、シミュレーションや実験で明らかになっている。

ヒルクライムであっても、RAPIDE CLX IIIのほうが優れている場合もあるのだ。その閾値を明確に定義することは難しい。難しい話を抜きにして、富士ヒルクライムのような高速域のヒルクライムならばAlpinist CLX IIIではなく、RAPIDE CLX IIIのほうがアドバンテージがある。

これがホイールの「終着駅」か。ROVAL RAPIDE CLX III インプレッション
「ROVAL RAPIDE CLX III」は、現代のホイールエンジニアリングにおける一つの到達点だ。同時に設計哲学の大きな転換点を示唆するプロダクトでもある。RAPIDE CLX IIIの最大の特徴は、従来の「フロント・シャロー(浅)/リア・ディープ(深)」というエアロホイールの定石を覆し、「フロント・ディープ(51mm)/リア・シャロー(48mm)」という逆説的なリムプロファイルを採用した点に...

レースでAlpinist CLX IIIが最も輝くのは、ヒルクライムで登りの勾配が特にキツく、速度域が低い場合だ。国内であれば、富士あざみラインが該当する。速度域、勾配を考えると、RAPIDE IIIよりも確実にアドバンテージを稼げるはずだ。

Alpinist CLX IIIは何かに特化しすぎたホイールのように思えるが、それはそれで良い。曖昧な方向性ではなく、レースなら「激坂のコース」に問答無用で引っ張り出してこれる。そこに迷いはない。ただし、富士ヒルクライムならRAPIDE IIIのほうが良いとは思う。

Tarmac SL8とAethos 2の差

不思議なのは、Tarmac CL8とAethos 2にAlpinist CLX IIIを取り付けた際の違いだ。特徴やバランスが異なるように感じた。具体的には以下の違いが感じられた。

  • Aethos 2:わずかな溜めの後に「ポンッ」と放出されるようなテンポの良いホイールに感じる。ややまったりしており、バイクの振りもゆったりとしている。
  • Tarmac SL8:かかりが良く、俊敏なホイールに感じる。「加速感」があり、バイクの振りも軽く感じられる。

それぞれ同じホイールを使用しているのだが、バイクの運動性能がもろに反映された形になる。したがって、Alpinist CLX IIIのホイールを「何のバイクで試したか」で評価は変わってしまう可能性がある。

少なくとも、振動吸収性や物質的な重量は変わらないだろうが、特にバイクを振った時の俊敏性は「Tarmac SL8 > Aethos 2」であり、加速性も「Tarmac SL8 > Aethos 2」である。ただし、コンフォート的な性能は「Aethos2 > Tarmac SL8」だった。

これまで数多くの機材をレビューして感じていることなのだが、「ホイールだけ」「フレームだけ」「タイヤだけ」に特化したインプレッションは実質的に不可能ということである。

「バイクシステム」全体から、ある要素(ホイール等)だけを切り出して評価することは無理だ。今回、バイクを変えたことによって感じたホイールの変化は「ホイールの変化」だけではないのだ。バイクにホイールを組み込むことで生じた全体的な変化が生じる。

自身が求める感覚や走りの特徴が明確ならば、Alpinist CLX IIIに何を組み合わせるのが適しているのかが見えてくる。50万円近いホイールを購入するのだから、方向性と求める乗り味を明確にしなければならない。

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日本市場における展開と独自価値

価格戦略とコストパフォーマンス

日本国内におけるRoval Alpinist CLX IIIのセット価格は\451,000(税込)である。

絶対的な金額としては高額だが、競合他社のフラッグシップモデルが50万円~60万円台に突入している現状を鑑みると、相対的に「割安」に見える戦略的なプライシングである。

Specializedの完成車(S-Works Tarmac SL8など)に標準装備されることによる量産効果が、この価格設定を可能にしていると推測される。

サポート体制の充実

国内正規販売ルートで購入した場合、以下の厚いサポートが受けられる点は、並行輸入品や海外通販に対する大きなアドバンテージである。

  • Roval無償交換プログラム: 購入から2年以内に走行中の破損が発生した場合、無償で修理または交換が行われる。これは落車リスクの伴うレース機材として非常に心強い。
  • 生涯保証(Lifetime Warranty): 製造上の欠陥に対しては、最初の購入者に限り生涯保証が適用される。
  • 36回無金利キャンペーン: 高額商品であるため、分割手数料をSpecializedが負担するキャンペーンが頻繁に実施されており、購入のハードルを下げている。
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まとめ:クライミングホイールの新たなベンチマーク

Roval Alpinist CLX IIIは、単に「軽いホイール」を作ったのではない。

「Arris Composites製スポーク」というマテリアル・イノベーションを核として、安全性(フックドリム)、メンテナンス性(交換可能スポーク)、そして走行性能(剛性と振動減衰)を極めて高い次元でバランスさせた、エンジニアリングの傑作である。

特に、「Not Tucked」レーシングパターンや「フックドリムの維持」といった設計思想は、一見すると地味あるいは保守的に見えるかもしれないが、その裏にはカーボン素材の特性を熟知した上での論理的な工学的判断が存在する。

流行のフックレスや一体成型に安易に流されず、実用性と性能を両立させた点は、プロフェッショナルなライダーやメカニックから高く評価され、わたし自身も安心できるポイントである。

本ホイールは、以下の特性を持つライダーにとって、現在市場に存在する最良の選択肢の一つとなるだろう。

  • シリアスなヒルクライマー: 1秒でも速く山頂に到達したいライダー。1,131gの軽さは絶対的な武器となる。
  • 体重の軽いライダー: パワーウェイトレシオが重要なライダーにとって、バイク重量の削減効果は大きい。
  • 高圧タイヤ派・保守派: フックレスリムの安全性や空気圧制限に懐疑的なライダーにとって、フックドリムの安心感は代えがたい。
  • 長期運用を考えるホビーレーサー: 万が一のスポーク切れでも修理が可能であり、補修部品が入手しやすいSpecializedのネットワークは大きな魅力である。

Roval Alpinist CLX IIIは、2025年のロードバイクシーンにおいて、クライミングホイールの性能基準(ベンチマーク)を一段階引き上げたと言っても過言ではない。その軽さと速さは、ライダーを新たな高みへと導く”翼”となるだろう。

Roval Alpinist CLX III
Roval Alpinist CLX IIIは、山岳賞を狙うライダーや、ハイペースで山岳を駆け上がりたいライダーに向けた、スペシャライズド史上最軽量のロードホイールセット。重量は驚異の1,131gで、前作から134gの軽量化を実現しました。新設計の軽量ハブとARRIS社製Rovalエアロコンポジットスポ...
これがホイールの「終着駅」か。ROVAL RAPIDE CLX III インプレッション
「ROVAL RAPIDE CLX III」は、現代のホイールエンジニアリングにおける一つの到達点だ。同時に設計哲学の大きな転換点を示唆するプロダクトでもある。RAPIDE CLX IIIの最大の特徴は、従来の「フロント・シャロー(浅)/リア・ディープ(深)」というエアロホイールの定石を覆し、「フロント・ディープ(51mm)/リア・シャロー(48mm)」という逆説的なリムプロファイルを採用した点に...
Aethos 2 インプレッション:魂は、乗り心地に宿る。
Aethos 2とは、何者なのか。それは、世界最軽量のプロダクションフレームという称号を持つ、高性能な工業製品である 。しかし、その本質はスペックシートの中にはない。Aethos 2は、我々を「速さ」という呪縛から解き放ってくれる。
Aethos 2はなぜ軽いのか?|595gのフレームに、1gへの執念を見た
Specialized Aethos 2が実現した5.9kgという驚異的な完成車重量は、単一の技術革新によるものではない。それは、フレームの構造設計から、カーボンファイバーの積層、そして通常は見過ごされがちな微細なパーツ一つひとつに至るまで、グラム単位での軽量化を徹底的に追求した、執念とも言えるエンジニアリングの結晶である。フレーム構造とカーボン積層の進化Aethos 2の核心には、初代から受け継...
595gの衝撃、再び。Specialized Aethos 2が切り拓く「スーパーライト・オールロード」という新境地
Specializedが発表した新型Aethos 2を徹底解剖。595gの超軽量フレームはそのままに、ジオメトリー刷新と35mmタイヤ対応で「純粋なライドの歓び」を再定義。技術的進化から市場戦略まで、次世代オールロードバイクの全貌に迫る技術・市場分析レポート。
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