Cannondale SuperSix EVO Gen 5は728gという極めて軽量なフレーム重量を実現し、空力性能と剛性の両立を図ったロードバイクである。Delta Steererによる空力向上やInnegra繊維の採用といった技術的革新を特徴とし、完成車重量6.4kgを達成。プロのフィードバックを反映したジオメトリやハンドリング性能を備え、登坂から平坦まで高い走行性能を発揮する。
- ➕️728gの軽量なフレーム重量
- ➕️Delta Steererによる空力性能の向上
- ➕️Innegra繊維の採用による安全性への配慮
- ➕️プロの知見に基づく優れたハンドリング性能
- ➕️完成車重量6.4kgの実現
- ➖️デルタステアラーの専用エキスパンダープラグが必要。
- ➖️テールライトが取り付けできない薄さ
- ➖️FDマウントがリベット止めで外せない
Cannondale SuperSix EVO 第5世代は、フレーム単体42g、システム総重量148gの軽量化と、ヨー角荷重平均で0.003m²のCdA削減(45km/hで約4W節約)を同時達成した完全な新モデルである。
前世代の劇的進化と比べれば派手さに欠けるものの、TOUR Magazin実測でBB剛性63N/mm(最高評価1.0)を記録し、サイズ56でスタック565mm・リーチ393mmという完全なレーシングジオメトリへ回帰した。
SystemSixが正式に廃番となり、SuperSix EVOがCannondaleの単一フラッグシップとして君臨する戦略的な転換点だ。
Specialized Tarmac SL8(685g)、Cervélo R5(657g)には絶対重量で及ばないが、Tour Magazinの総合グレード1.5という「世界最高峰級」の評価が示すとおり、軽量・空力・剛性・快適性のバランス最適化において他を凌ぐ完成度を見せつけた。
今回は、実際にSuperSix EVO 5 LAB71を購入し、実走行、Series 0カーボン、Delta Steerer、Innegra繊維、プロポーショナルレスポンスという4つの技術を解剖しインプレッションした。
本記事は、1.6万文字とボリュームがあるためSuperSix EVO Gen.5の基本的な設計や構造をご存じの方は、後半のインプレッションから読んで頂きたい。
Series 0カーボンが切り開いた728gの世界
第5世代LAB71のフレーム単体重量は、サイズ56・塗装込みで728g、フォークが392g、フレームセット合計1,120gである。第4世代LAB71の770gから42g、フォーク込みで実に72gの軽量化を達成した。
これはアドバンスト・カーボン繊維と「ナノ・レジン」と呼ばれる微粒子充填樹脂システムの組み合わせによるもので、繊維間の空隙にナノ粒子を充填硬化させることで引張・圧縮強度を高め、より少ない積層で同等の剛性を確保する技術である。
Cannondaleは具体的な繊維グレード(東レT1100やM40Xといった他社が公表する銘柄相当)を明示していないが、超高弾性率カーボンと表現している。
Series 0の革新
Series 0は前世代のBallisTec Nano(2014年頃から続く最上位グレード)の正統進化版である。Cannondale road bikeプロダクトマネージャーSam Ebertは「複雑性とコスト故に業界では稀な素材・工程を使う」と語っている。
注目すべきは、Cannondaleが3階層(Series 0/Hi-MOD/Carbon)すべてで剛性ターゲットとライドフィールを統一し、違いは重量とコストのみと明言している点だ。Hi-MODが781g、標準Carbonが910g、それぞれGen 4比で29g・20gの軽量化を遂げている。
製造は全て台湾の工場で、初代EVO開発時には300回以上のレイアップ反復が行われたという逸話がある。Gen 5以降はCFDと有限要素計算による最適化が主軸になった。
競合との重量差
絶対重量では中位、しかしバランスでは最上位、という結論になる。競合各社のフレーム重量を整理すると以下のとおりである。
| モデル | フレーム重量 |
|---|---|
| Specialized S-Works Aethos(2025) | 595g |
| Cervélo R5(最新世代) | 657g |
| Specialized S-Works Tarmac SL8 | 685g |
| Giant TCR Advanced SL(第10世代) | 690g |
| Scott Addict RC Ultimate | 720g |
| Factor O2 VAM(第4世代) | 730g |
| Cannondale SuperSix EVO Gen 5 LAB71 | 728g(実測 677g) |
| Trek Madone SLR Gen 8 | 796g |
| BMC Teammachine SLR 01(Gen 4) | 820g |
| Pinarello Dogma F(最新Disc) | 実測941g |
Aethos、R5、Tarmac SL8、TCR ASLが「軽量系」、Madone SLR・Teammachine R・Dogma Fが「エアロ系」とすれば、SuperSix Gen 5は両陣営の中間に位置取りする戦略である。
Gen 5 SuperSixは筆者が所有しているTarmac SL8より43g重いが、両者は概ね同等の総合性能だ。LAB71実測は50サイズで675gを達成しており、公称値とのズレは塗装ロット差程度に収まっている。

4W削減の空力哲学
Cannondaleが公式に主張するGen 4比の空力改善は、「ヨー加重評価でCdA -0.003 m²、45km/hで4W節約」という極めて控えめな数値である。Gen 4発表時に「Trek Emonda SLR比-12W、Tarmac SL7比-4W」と大胆に掲げたプロモーションから比べれば、明らかに方針転換である。
ホワイトペーパーには「我々はGen 4で高い水準を設定した。レース規則と物理学の制約内で、根本的改良の余地はもう残っていない」とまで書かれている。
第三者風洞テスト
空力性能に関しては、ほぼ裏付け通り、だが絶対王者ではない。
Silverstone Sports Engineering Hubで実施した2026年2月の独立風洞テスト(40km/h、ヨー±15°を5°刻み、ENVE 4.5ホイール統一)では、Gen 5 LAB71は2015年Trek Emonda ALRベースライン比でバイクのみ-34.79W、ライダー込み-20.75Wを記録した。
Gen 4比ではバイクのみで1.46Wの改善(誤差マージン±0.85W)と、Cannondale公式主張の4W@45km/hを40km/h換算した値とほぼ整合する。
| 競合バイク | vs Gen 5 SuperSix EVO(ライダー込み@40km/h) |
|---|---|
| Cervélo S5(2025) | 約6.5W速い |
| Factor ONE | 約6.8W速い |
| Trek Madone SLR Gen 8 | 約3.5W速い |
| Specialized Tarmac SL8 | 約3.7W速い |
| Pinarello Dogma F | 約0.5W速い |
Gen 5はTarmac SL8やSeka Spearなどの軽量オールラウンダー勢にはまだ及ばず、Factor ONEのような専用エアロには5.5W程度劣る結果だった。この結果だけを見れば、辛辣な言い方になってしまうが、Gen 5ではなくEvo 4.5と表現したほうが適切かもしれない。
低速域での優位性
Cannondaleは第5世代では低速域優位性を明示的に主張していない。ヨー角荷重平均計算の統計的手法(実走でのヨー角はガウス分布で±20°内に95%収まる、Nathan Barry博士2018年論文)を採用し、「ヨー範囲全域で速い」という総合主張に切り替えている。
ただしGen 3時代にBarry博士が「15km/hでも空気抵抗が出力の50%を占める」と発言しており、低速域でもエアロは無関係ではない、という哲学は通底している。
チューブシェイプは第5世代で大幅刷新された。Cannondaleは「シートポスト断面以外、すべての形状が変更された」と述べている。
各チューブはNACA翼形をベースに後縁・前縁を切断(truncated airfoil=カムテール)し、新たな曲率に置き換えた低アスペクト比形状である。同等剛性の円形チューブと比較すれば最大30%のドラッグ削減を主張する。
フォーククラウンの余分な材料を除去し脚部をわずかに深く、ヘッドチューブをスリム・深底化、ダウンチューブをエアロボトルとライン整合させ、シートポストは「剃刀のように薄い」前縁形状へ進化した。
CarbonGrip Aeroケージは26%軽量化を達成している。
プロポーショナルレスポンス
Cannondale独自のプロポーショナルレスポンスとは、サイズごとにカーボンレイアップ・チューブ径・肉厚・断面プロファイルを個別最適化する設計思想である。Cannondaleによれば、すべてのチューブ形状とカーボン積層パターンは、各フレームサイズに合わせて特別に設計されているという。
第5世代では従来のサイズ51を50・52の2サイズに分割し、合計8サイズ(44, 48, 50, 52, 54, 56, 58, 61)展開することで、小柄なライダーが使用するサイズの幅を広げた点が新しい。
実測剛性値は何を語る
第5世代LAB71はBB剛性で「世界最高峰級」に到達した。ドイツ権威誌TOUR Magazin(2026年3月7日号、GST Immenstaad風洞およびTOUR独自剛性試験)によるGen 5 LAB71サイズ56の実測は以下のとおりだ。
| 測定項目 | 実測値 | TOURグレード(1.0が最高) |
|---|---|---|
| BB剛性 | 63 N/mm | 1.0(Top) |
| 走行安定性/フロント剛性 | 8.2 N/mm | 1.7 |
| 快適性 リア(サドル沈み) | 135 N/mm | 2.0 |
| 快適性 フロント(ハンドル沈み) | 103 N/mm | 3.0 |
| 風洞(45km/h、ダミー込) | 205W | 1.3 |
| 完成車重量(LAB71 + Reserve57/64) | 6,890g | 1.7 |
| 総合グレード | 1.5 | 「世界最高ロードバイクのひとつ」と評した |
Gen 4 LAB71はTOUR測定でフロント剛性がやや控えめで「重量級ライダーの限界域でやや物足りない」と評されていた。第5世代でフロント剛性が改善されていることが数値からわかる。
実走フィーリング
初めはリーチが長く感じる。10mm低スタック、4mm長リーチ、15mmセットバックポストで、初めから前傾し収まった姿勢になるように感じる。Gen4はコラムスペーサー無しで乗っていたが、Gen5は15mmのスペーサーを入れて丁度良い操作感だった。
フロントとリアの繋がりがよくなった。特にフロントエンドが格段に剛性が向上しながら、リアは柔らかい。下りでのコーナリングがより滑らかでコントローラブル。EFプロが第5世代の前傾ジオメトリを後押ししたことが伺える。
余談だが、プロポーショナルレスポンスの「ジオメトリ側の表れ」として、フォークレイクを44–54サイズで55mm、56–61サイズで45mmと2段階に切り替え、 トレイル値を全サイズ58mm前後に揃えている点も興味深い。
小サイズはBBドロップを74mmと深くして安定感を確保し、大サイズは69mmと浅めで重心を高めにしてコーナリングを軽快にする、という細やかな調律が施されている。
レーシングポジションへの「正統回帰」
第5世代ジオメトリの最大の変化は、サイズ56でスタック10mm低下(575→565mm)、リーチ4mm増加(389→393mm)という、明確なレーシングポジションへの回帰である。これによりGen 4が抱えていた「Tarmac SL8比でアップライト」というディスアドバンテージは消滅した。
| サイズ | 44 | 48 | 50 | 52 | 54 | 56 | 58 | 61 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| スタック (mm) | 495 | 508 | 520 | 532 | 545 | 565 | 585 | 615 |
| リーチ (mm) | 373 | 376 | 379 | 383 | 387 | 393 | 398 | 406 |
| HT角 (°) | 70.9 | 71.2 | 71.2 | 71.2 | 71.2 | 73.0 | 73.0 | 73.0 |
| ST角 (°) | 74.5 | 74.0 | 74.0 | 74.0 | 74.0 | 73.5 | 73.0 | 72.5 |
| フォークレイク (mm) | 55 | 55 | 55 | 55 | 55 | 45 | 45 | 45 |
| チェーンステー (mm) | 410(全サイズ共通) | |||||||
| BBドロップ (mm) | 74 | 74 | 74 | 72 | 72 | 72 | 69 | 69 |
なぜプロは「ハンドリングは変えるな」と言ったのか
ハンドリング特性に変化は加えていないという。
Cannondaleのロードバイク・エンジニアリングマネージャーSteve Smithは「Synapseがレーシーな性能を取り込んだので、SuperSixはより純粋なレーサー方向に振れる余地が生まれた。」と語っている。
そして、EFからのフィードバックがアグレッシブな前傾化を後押ししたという。一方でヘッドアングル73.0°、トレイル58mmといったステアリング系数値はそのまま温存された。プロが「変えるな」と明言したからだという。
サイズ51廃止と50/52追加には、従来「上のサイズに合わせるためダウンサイジングする」という小柄ライダーの不満を解消する狙いがあった。
競合とのジオメトリ序列
サイズ56でスタック565mm・リーチ393mmという数値は、Tarmac SL8(565/395)、Cervélo R5/S5(565/392)と完全に同レンジである。一方Trek Madone Gen 8(562/389)、Pinarello Dogma F(562/389)はリーチがやや短い。
第5世代SuperSixはTarmac SL8と並ぶ「フルレーシング」位置づけに昇格したと言える。Aethosは旧Tarmac SL7と同ジオメトリ(563/386)で最もアップライト、というポジショニング差も明確だ。
孤高のデルタステアラー
Delta Steererは、上1-1/8インチから下1-1/4インチへテーパーする三角形(ピザスライス形)断面のステアラーチューブで、第4世代から導入されている。実測寸法は深さ28.6mm(標準1-1/8″と同じ)、幅23.4mm。
最大の差別化は、Pinarello Dogma F、Specialized Tarmac SL8、Trek Madoneなどが採用する「オーバーサイズ・ベアリング」を使わずに、標準サイズベアリングのままフル内装ケーブルルーティングと狭いヘッドチューブ前面投影面積を両立した点にある。
Delta Steererの空力寄与
Cannondaleは公式にDelta Steererを用いることで改善した空力を開示していない。Gen 3→Gen 4のシステム合算で12W節約、Gen 4→Gen 5で4W節約という値はあるが、Delta Steerer単独の寄与は不明である。
Delta単体ではなく、結果として狭くできるヘッドチューブが恩恵をもたらしていると解釈したほうが適切だろう。
整備性で重要なのは、Gen 3にあったフォーククラウン埋込み式ステアラーストップ(過剰回転でダウンチューブ上部にクラックを起こした悪名高い構造)が完全廃止されたことだ。
フォークは360°回転可能になった。一方で課題も残る。専用エキスパンダープラグ(SystemBar用とConceal Stem用で別部品)が必要で、Conceal用は黒、SystemBar用はピンクのフィラー、各4Nm締結という独自仕様である。
サードパーティのステムは付く?
付属の専用ウェッジ・フィラー2個を装着すれば1-1/8インチ標準ステムは使用可能である。筆者自身が愛用しEVO5に取り付けているEXS Aerover、Extralite、Vision Trimax Aero Carbon、Deda Superbox DCRなどの装着実績がある。
Pinarello Dogma F MY25のオバール形ステアラー(MOST Talon Ultra Fast専用)と比べれば、Cannondaleのアプローチは遥かに開放的である。
Innegra繊維、ステアラーに編み込まれた保険
Innegraは高弾性率ポリプロピレン(ポリオレフィン系)繊維で、密度0.84g/ccで市販合成繊維で最軽量だ。カーボンステアラーの最上層に織り込むことで、ケーブル摩擦による段階的摩耗の防止と、衝撃時の破壊回避という二重の保険を提供する。
学術的なInnegra-カーボンハイブリッド
Nature Scientific Reports 2023掲載論文「Performance of hybrid Innegra-carbon fiber composites」によれば、カーボン繊維との11種ハイブリッド積層板試験で、ひずみ(延性)が18%以上向上し、カーボン単独の脆性破壊が排除された。

主な破壊モードはInnegra-カーボン界面での剥離で、低速衝撃エネルギー(15-60J)でInnegra層を多用した変種が優れたエネルギー吸収を発揮した。Cannondaleが「最上層」をInnegraにした設計判断は、複合材セオリーに合致する妥当な選択である。
Cannondaleロードバイクプロダクトマネージャー Sam Ebertは「ISO規格を超える社内試験と任意のZedlerテストを実施。試験中にステム10本が破壊されたがステアラーは破壊しなかった」と語っている。
システム軽量化、完成車6.4kg
第5世代の軽量化幅148g(フレーム42g+フォーク18g+新SystemBar165g減+小物36g)の中核を担うのは、新コックピットの圧倒的軽量化である。SystemBar SL(265g)はGen 4のSystemBar R-One(375g、一部資料430g)から165gの大幅削減を達成した。
これは現行一体型コックピットの中でも極めて軽量な部類である。
| コンポーネント | 重量 |
|---|---|
| HollowGram R-SL 50 | 1,520g(ペア) |
| HollowGram R-SL 64 | 1,630g(ペア) |
| SystemBar Road | 375g |
| SystemBar Road SL | 265g |
| C1 Conceal Stem | 214g |
| SAVEシートポスト C1 Aero 40 V2 | 約221g |
完成車重量
LAB71 SL構成で6.35~6.4kgというUCI最低重量を下回る領域に到達している(DT Swiss ARC 1100 Spline 38、SRAM Red AXS、TPUチューブ、ペダル・ボトル無)。
標準のLAB71 Dura-Ace Di2 + Reserve 57/64構成では6.95kg。Hi-MOD Ultegra Di2は7.31-7.69kg、Carbon系は8.1kg程度。
余談だが、Gen 4世代でLAB71が6.5kgを記録している。UCI規制が緩和されればさらに数百g削れる潜在能力を秘めていることが分かる。
SAVEシートポストは初代Synapse由来の25.4mm丸断面から、第4世代以降は15mm幅の極細ブレードカーボンへ刷新され、Di2バッテリーをBBエリアに移動することで薄型化を実現した。
細い見かけによらず、しなやかに思えるが安定している。
「One Bike To Rule Them All」を実証
第4世代SuperSix EVOがEF Education-EasyPostに供給されてからの2024-2025シーズン、SystemSixはほぼ役目を終えた。EFの選手がシーズン中にSystemSixに乗ったのは2回だけだという(主に平坦で使われていたようだ)。
SuperSix EVOがベストバイクであることは変わりなく、新EVOはSystemSixに迫るエアロ性能、スプリント、ダウンヒルでもよく曲がるとEFの選手は評している。結果として第5世代でSystemSixは正式に廃番となり、SuperSixがCannondaleの単一フラッグシップに統合された。
批判的視点と課題
EVO Gen5はとても良いバイクだ。だからあえて批判的かつ課題を提示する。
第5世代の最大の批判は「変化が小さく、Gen 4ユーザーのアップグレード推奨が難しい点である。Gen 5ではなくEvo 4.5というのが妥当かもしれない。
具体的な(重箱の隅をつつくような)デメリットを(苦し紛れに言うと)テールライトマウントが不可能な細さ(これもこれで良い)、機械式変速完全非対応だ。
タイヤクリアランスは公称32mmだがグラベル40mmは不可能で、フロントディレイラーマウントはリベット止めで除去できない(1xセットアップはチェーンガイドのみ)。
クラス最強と言える特化分野はないが、オールラウンダーとして高水準といえる。最速エアロでも、最軽量でもなく、最剛でもない。しかしどれも上位水準で、TOUR Magazinが言うように「世界最高ロードバイクのひとつ」と評する総合バランスの完成度を持っていることは確かだ。
インプレッション
SuperSix EVOは初代から乗ってきたが、当時はAethosのような軽量バイクだった。時代とともに軽量とエアロの境界線が薄くなり、EVOも軽さにエアロを求めてきた。Gen.4も購入し使用したが、見た目も変わらないGen.5になぜか惹かれた。
実際に自分のポジションで乗り込み、その真価を見極めた。
失敗した、と思った。
EVO5をおろしたての瞬間、「これは、失敗した。」と思った。
違和感の正体は、バイクの極端な動きの悪さだった。フロントタイヤが手前側に張り出して接地しているように感じ、バイクの重心が前方向にズレているような操作感。コーナーへ進入すると、自分が描きたいラインの外側を、タイヤ幅にして2つぶんほど大回りしてしまう。
下りでも同じだった。バイクが意図に対してわずかに遅れて反応し、反応した後にも余計な回転が残る。
Gen.5のジオメトリ変更を疑った。
第5世代のSuperSix EVOは、全サイズでスタックを10mm低下させ、その代償としてリーチが約4mm延長されている。標準の56cmサイズで言えば、Gen.4のスタック575mm/リーチ389mmに対し、Gen.5は565mm/393mm。
ヘッドアングルは73°のまま据え置かれ、シートチューブアングルは0.2°だけ急になっている。フロントセンターとホイールベースもサイズによっては延びている。
EFプロサイクリングのベン・ヒーリーやカスパー・アスグリーンといった、Tarmacから移籍してきたライダーたちのフィードバックを反映した、より攻撃的なポジションへの再設計だ。
つまり、Gen.5のフロントエンドは、構造的に「より低く、より遠く」を要求する設計に変わった。これがネガティブに作用したのではないかと、最初は疑った。
しかし、これはバイク側の問題ではなかった。セッティングの問題だった。
スタックが10mm低下したぶん、ハンドル位置を以前と同じ高さに合わせようとすれば、相応のスペーサーを積み増す必要がある。私は当初、ポジションを試行錯誤しながら詰めていく前提で、コラムに25mmものスペーサーを積んでいた。
EVOはDeltaステアラーを採用しているため、コラムカットは一発勝負になる。汎用の丸断面ではないので、切り過ぎたら二度と戻せない。だからこそ、慎重に判断したかった。
結果としてその慎重さが、バイクの素性を見誤らせた。25mmのスペーサーは、ステアリング系全体に遊びと鈍さ持ち込み、フロントセクションの応答を著しく鈍らせた。
Deltaステアラーはコックピット周りの前方部分を削減して空力的な効率を稼ぐ独自設計だが、スペーサー積み増しによって、なぜか操作感の解像度を落とす。コーナリング中、ステアリング軸の微小な遅れが、私が感じていた「タイヤ幅2つぶん外側を走る」という違和感の正体だった可能性がある。
ポジションを煮詰めて、最終的にスペーサーは15mm。コラムは10mm切った。
結果はバッチリだった。パワーが素直に乗るようになり、操作系の応答が一気に研ぎ澄まされた。下りでの不要な回り込みは消え失せ、コーナーで描きたいラインがそのままタイヤの軌跡になる。
Tarmac SL8のレールに乗っているような気持ちよさと、なんら遜色がない操作感がそこにあった。
ただ、これは諸刃の剣だ。ポジションが出ていない状態のEVO5は、本当に「これは失敗したかもしれない」と思わせる危うさを抱えている。スタックが低下したことで、自分の手の置き場、お尻の位置、上体の落差を、ミリ単位で再構築する必要がある。
Gen.4までのSuperSixが持っていたエンデュランス寄りの寛容さは、Gen.5では明確に削がれている。
ポジションが決まらないままレースに持ち込めば、間違いなくバイクの素性を呪うことになる。逆に、自分の身体寸法と相談しながら丁寧に詰めていけば、その先に「本当のEVO5」が姿を現す。
危ないところだった。バイクのせいにする寸前だった。
登る、登る。
とにかく登る。
SuperSix EVO Gen.5は、登りに関してはほとんど別格と言っていい。ポジションが完全に出ていない試走段階でも、いつもの峠でツキ位置からシーズンベストタイムを記録した。その2日後、単独走で同じ峠を登ってシーズンのFTPを更新した。これにはさすがに驚いた。
体感としていちばん印象的なのは、ペダリングの下死点に向かう局面の動きだ。するん、と引っ掛かりなく足が通過していく。クランクの円運動の中で、最も力が入りにくく、最もぎこちなさが出やすいのが下死点付近の処理だが、Gen.5はここで一切のストレスを感じない。
剛性感は、良い意味で希薄だ。「硬い」と感じる場面が皆無。それでいて、踏んだぶんだけきちんとリアタイヤから推進力として返ってくる。これは矛盾するようでいて、実はGen.5の設計思想を端的に表している現象でもある。
Cannondaleのエンジニアリングチームは、Gen.5の開発において、フレーム全体の素材量を増やすのではなく、各チューブの形状最適化によって剛性と軽量性を同時に追求するアプローチを採った。
Series 0カーボンを用いたLAB71フレームは56cmサイズで728gという数値を実現しており、Gen.4比で約150gの軽量化を達成している。完成車重量はLAB71 SLビルドで6.35kgまで落ちる。フォーククラウンのスリム化、シートポストの極薄ブレード化、トップチューブとシートチューブの薄型化が連鎖的に効いている。
つまり、形状で剛性を出すという哲学だ。
卵の殻が薄いにもかかわらず縦方向の荷重に対して驚異的な強度を発揮するのと同じ原理で、断面の曲面構造が荷重を効率的に分散する。素材を厚く積むのではなく、形を最適化することでパワーを受け止める。これがGen.5の登坂性能の正体だと、踏みながら理解した。
都合の良い表現になってしまうが、本当にクセのないバイクになった。Tarmac SL8の登坂性能を超え、Aethosと肩を並べ、いやそれ以上かもしれない、と私は感じる。Aethosの軽快感を、レースバイクの剛性とジオメトリで体現したような感覚だ。
ダンシングしてもトルクをかけて踏んでも、脳内の「これだけ回したらこれだけ進む」という予測の、ほんの少しだけ先までバイクがサポートしてくれる。この「ほんの少し先」が大事なのだ。
レースの終盤、もうこれ以上は出ないというところから、あと一段だけ踏める感覚。それが、登りで何度も繰り返されると、結果として大きなタイム差として刻まれる。
ヒルクライム専用機として一台だけ選べと言われたら、私は迷わずSuperSix EVO Gen.5を指差すだろう。
登りが、本当に気持ちよすぎる。
前後のバランスが良い
驚いたのは、前後バランスの均衡の取れ方だった。
ポジションが出るまでのGen.5は、体の下でバイクを動かしづらいと感じる場面が多かった。私はMTBやシクロクロスにも乗るので、刻々と変化する路面状況や勾配に対して、バイクを体の下で振り回し、操る感覚を重視している。
狙ったライン、狙った傾き、縦・横・前後にイメージ通りバイクを動かす必要がある場面で、ジオメトリや設計が破綻しているバイクは、この操作がとてもしにくい。
EVO5は、ポジションが決まった瞬間から、体の下でコントロールすることが極めて容易なバイクに変貌した。とりわけ前後の接地感、前後への荷重移動の手応え、フロントタイヤとリアタイヤに「乗っている感」の解像度がとても高い。
ようするに、前後バランスがとても良いのだ。
前作Gen.4やTarmac SL8は、私の感覚ではやや前荷重に寄ったバランスを持つバイクだった。もちろん個人のジオメトリ設定やポジションの問題も大きいのだが、ベース設計として前傾を強める方向にチューニングされている印象があった。
Gen.5は、スタックを下げてレーシーなポジションを要求しながらも、前後バランスはむしろ均衡を取り戻している。フロントの設置感に対するリアの追従が同じ位相で来る。これは設計の妙としか言いようがない。
意図した操作が、まさに手のひらの上で転がすように出力できる。ジオメトリ変更によってGen.4より明確にレーシーになったにもかかわらず、操作性の良さはむしろ増している。普通、レーシーにすれば操作はシビアになる。Gen.5はその常識をひっくり返してくる。
Cannondale側の公式アナウンスでは、味付けは大きく変えていないとされている。ヘッドアングルは73°のままで、ハンドリング特性の根幹は維持したと開発エンジニアは語っている。
しかし、フロント剛性の向上と、フォーククラウン・ヘッドチューブまわりのリプロファイルの効果は、実走では明確な違いとして現れる。Cycling Weeklyのテスターも、Tarmac SL8と背中合わせで乗り比べたGen.4で感じていたフロントエンドの応答の差が、Gen.5では完全に解消されたと評している。
私の体感も、これと一致する。
サイズごとに異なるカーボンレイアップを施すプロポーショナル・リジディティの思想も、ここに効いている。私の体格・体重に対して、必要な剛性が必要な箇所に分配されているという感覚。バイクが体の延長として馴染む、というのはこういうことを言うのだろう。
素晴らしいバイクになった。
ずっと一緒に走っていたい
良いバイクとはどんなバイクかと問われたとき、私には確実に言えることがひとつある。
「ライドの終わりが、寂しく感じるバイク」。
これは、若かりし頃、好意を寄せる人と一日遊んで、駅の改札で別れる瞬間の感覚に似ている。もう少しだけ一緒にいたい、もう一駅だけ送らせてほしい、そういう、引き止めたいけれど引き止められないあの感覚だ。
バイクにも、それとよく似た瞬間が訪れることがある。
良いバイクには、必ずこれがある。もう少し走らせていたい。どこか遠くまで連れて行きたい。そして、ずっと一緒に走っていたい。
レースバイクは本来、感情移入する対象ではないのかもしれない。
CdAを削り、ワット数を稼ぎ、勝利のためのツールとして機能することが、その第一義だ。実際、Gen.5の風洞テストでは、Gen.4対比で着実な空力改善が報告されており、45km/h相当の走行で約10ワットのドラッグ削減が示されている。
フロントエンドのプロファイル再設計とハンドルバー幅の最適化が、この数値の主な貢献者だ。
だが、レースバイクの価値が単一のスペックシートで測れるものではないことを、Gen.5は静かに証明してくる。Tarmac SL8のような数値的な圧倒性はない。Series 0フレームの728gという重量も、SL8の685gには及ばない。
それでも、200kmを超えるレースの終盤、ライダーの身体に残されたパフォーマンスマージンの大きさで、結果は決まる。Gen.5は、まさにそのマージンを最大化するために設計されている。
これまで様々な人と出会ってきたが、本当に好意を寄せた人は、そう多くはなかったはずだ。そして、そう感じさせてくれるバイクも、数えるほどしかない。
SuperSix EVO Gen.5は、そのうちの一台だ。
第5世代を選ぶ理由、選ばない理由
第5世代Cannondale SuperSix EVOは、エンジニアリング的には「漸進的改良の典型」である。
Series 0カーボンの728gフレーム、TOUR実測でBB剛性63N/mmという最高評価、CdA -0.003m²の地味だが正直な空力改善、サイズ別最適化されたProportional Response、Innegra繊維による落車後の耐破損性、これらが完成車6.4kgというパッケージに統合されている。
Tarmac SL8のような絶対軽量、Cervélo S5やFactor ONEのような絶対空力には及ばないが、TOUR総合グレード1.5という数字が示す通り、勝てる領域の広さでは他を凌ぐ。
EF Education-EasyPostがCarapazの山岳賞、TdFステージ単独勝利・マイヨジョーヌという多様な戦績を一台で達成した事実は、「One Bike To Rule Them All」が単なるマーケティング標語ではないことの実証である。
プロが「ハンドリングは変えるな」と要求し、Cannondaleがそれを守った事実も、第5世代の信頼性を裏付ける。
一方で、純粋なエアロ志向のスプリンター、登坂特化の山岳ハンター、Gen 4からのアップグレードを検討する既存ユーザーには、より特化したバイクや見送り判断が合理的な場合もあるだろう。
私のようなアマチュアホビーレーサーが第5世代を選ぶべき場面は明確だ。年間カレンダーにヒルクライム、ロードレース、エンデューロ、グランフォンドが混在する場合、機材を一台に絞るならこれが最適解になる。
メカニックやエンジニアの視点では、Delta Steererの整備性課題(専用ウェッジ、ベアリング軋み、シール性不足)を理解した上で、サイズ別ジオメトリ・剛性データを活用して個別の最適化を図る余地が大きい。
特にハンドル高のセッティングがシビアで、かなり長めにコラムカットした後、ライド後に3回切り直して15mmスペーサー+ハンドル専用台座5mmを取り付けている。Gen.4よりも15mm高いセッティングだ。
Series 0グレードの予算が確保できないなら、Hi-MOD(781g)がLAB71の70%価格で90%の性能という卓越したコストパフォーマンスを提供する。
EVO Gen.5に興味がわいたなら、まずは最寄りのCannondale取扱店で実車のサイズフィッティングと試乗をしてほしい。
可能ならGen 4とGen 5の両方を比較試乗し、スタック10mm低下・リーチ4mm増加が自身のレーシングポジションに合致するかを身体で検証することを強く推奨する。筆者はこのスタック低下で最もセッティングに時間を要した。
データに基づく判断こそが、機材選定における最大のアドバンテージである。
まとめ:このバイクは誰のためにあるのか
最後に、整理しておきたい。
Gen.5は、ポジションを正確に詰められる経験と知識を持ったライダーにとって、過去最高のSuperSixである。スタックの10mm低下は、Tarmac SL8と同等のレーシングポジションを可能にし、フロントセンターの最適化はハンドリングを犠牲にせずレース志向を強める。
形状最適化によるフレームは、登りで圧倒的な気持ちよさを生み、平坦でも前後バランスの均衡が長距離での疲労蓄積を抑える。
逆に、初めて本格的なレースバイクに乗るライダーや、ポジション調整を煮詰める時間が取れないライダーには、Gen.4のほうが幸せになれるかもしれない。Gen.5は、ライダーに対して正確さを要求するバイクだ。その要求に応えられる者にだけ、その本当の姿を見せてくれる。
ポジションを出すまでの試行錯誤を厭わず、自分の身体とバイクの対話に時間を投じられるライダーであれば、Gen.5は必ず応えてくれる。逆に言えば、その対話を省略しては、このバイクの真価には絶対に到達できない。
道具と人間の関係とは、結局そういうものなのかもしれない。簡単には心を開いてくれないが、向き合った時間に比例して、深い場所まで連れて行ってくれる。
SuperSix EVO Gen.5は、そういうバイクだ。





















































