シューズは合う合わないの差が激しい。
これまでシマノ、トレック、GIRO、フィジーク、SIDI、リンタマンと様々なシューズメーカーを履いてきたが、ここ数年はシマノに落ち着いていた。理由は5つある。
- スタックハイトが低い
- シューズのベロが無い
- アッパーがしなやか
- クリート取り付け幅が広い
- ワイド対応
シマノのシューズはひとつひとつがとても良く考えられている。自分の足に合うためロードもMTBやCXもシマノを使用していた。わたしは、ビジネスシューズで4Eをはくほどの幅広な足型のため、ワイドサイズがラインナップされていることが重要だった。
これからも一生シマノのシューズをはくだろう、そう思ってマチューも使っている新型のSH-RC903を最近購入した。ところが、あるシューズを履いたあとSH-RC903を手放すことにした。
そのシューズは、スイスのSUPLEST(スープレスト)だ。
suplestは、スイスの高精度な技術と職人技に裏打ちされたプレミアムシューズブランドだ。suplestは「すべてのサイクリストに最高の履き心地を」という理念を掲げている。
軽量性、フィット感、耐久性のすべてにおいて妥協しないシューズ作りは、長時間のライドでも足への負担を軽減する。こうした品質への徹底したこだわりは、質の高いシューズを求める愛好家や競技者に受け入れられている。
シマノRC9よりもさらにフィット感が増したこと、踏み込んだ時に面積の広いフラットペダルを踏んでいるかのような面圧がハッキリしたこと、クリート調整位置がシマノと同じくらい前に出せたこと、この3つが決め手だった。
今回は、SUPLESTのROAD PROシューズをインプレッションしていく。新型のシマノSH-RC903と両方試した末に、SUPLESTを選んだ理由とは。
SUPLESTはスイスで誕生
スイスといえば、時計や工具が有名だ。ロレックス、オメガ、ブレゲ、IWC.と名をあげれば切りがないだろう。工具であればPB SWISS TOOLSが有名だ。ASSOSもスイスである。高品質、高精度、それゆえお値段も高い。だが、納得できる。スイスで生み出される製品の共通認識だ。
SUPLESTはスイスのベルンでロバート・ゲーリッグとダニエル・バルマーによって2007年に設立された。履き心地のよさ、デザイン性、革新性をあわせ持ったハイエンドシューズ開発し続けている。
SUPLESTが特別なのは「プレミアムシューズ」と明確に定義していることにある。
ライダーが細かいことを気にする必要がなく、ライディングに集中し、最高の走りを楽しむことに専念できるシューズを生み出す事に専念している。
SUPLESTの名の由来は、「しなやかな」「弾力性のある」「曲げやすい」という意味の形容詞”supple”に由来している。ロゴにあしらわれたクマは、強さ、意志、力、そして持久力を象徴している。
シューズを支える技術
FLEX ZONE
数ある機能の中でも、このFLEX ZONEが決め手になった。
この機能を語らずしてSUPLESTシューズの良さは語れない。親指と小指の根元の2か所に、FLEX ZONEという伸縮性に富んだ生地が配置されている。足の幅が最も広くなるこの部分に薄く柔らかい生地を使うことで、足幅のスペースを広げているのだ。
FLEX ZONEのメリットは3つある。
- 踏み込み時の足の膨らみに対応する
- あたりを和らげる
- 幅広に対応する
地面に立ってシューズを履いたままスクワットすると、FLEX ZONEが柔軟に広がることがわかる。踏み込んだ時に足の肉が横方向につぶれるように広がるため、あえて幅の広い部分だけを逃がすように生地が広がってくれる。
シマノシューズのワイドしか合わないような幅広の足であっても、履きやすい仕組みになっている。もちろん、通常のナローな足型でも必要以上に広がらないので快適さは変わらない。
アナトミックラップ
解剖学を元に設計されたのがアナトミック(解剖学)ラップだ。様々な足の形や幅に対応するように計算されており、シューズの中で足の居場所を最大限確保できるような構造に設計されている。
アッパーの構造は、素材が直線的に分かれており、左右から2枚の生地が重なり合うようにしてシューズの中で足が優しく包まれるようなフィット感が生まれる。シューズを履いたときに、ほとんどシワにならないような仕組みにもなっている。
アッパーの素材自体は、パンチング処理が施されており通気性もある。3Dメッシュには薄い熱可塑性ポリウレタン層がコーティングされている。しなやかながらも、耐久性に優れた快適な履き心地を引き出している。
コンペティションラスト
特別に作られたSUPLESTのサイクリング専用ラストは、パフォーマンス志向のサイクリストのために設計されておりSUPLESTシューズの核になっている。
木型のことを英語で「ラスト」という。生地や素材など材料の選定は別として、靴の良し悪しに、最終的な影響を及ぼすのがこのラスト、靴型である。SUPLESTのコンペティション・ラストのコンセプトは、快適な靴の形とフィット感を定義している。
極端に狭くなく、極端に幅広くもない。足がシューズの中で快適でいられるように計算されたラストだ。
3Dヒールカウンター
かかとを最大限ホールドし、足の滑りを最小限に抑える仕組みが3Dヒールカウンターだ。自然なホールド感に優れており、脚の土台・基礎となる足がぶれないため、ペダリングの際の脚の軌道を最適化してくれる。
カーボンシールド
甲の部分に配置されたカーボンシールドは、BOAの締め付けを薄いカーボン層が受け止め均一に分散することで、足の甲を上から面で抑えるようなフィット感を提供する。
これまでのシューズはBOAのワイヤーが食い込んで、生地が波打つことがあったがその心配がない。
あわせて、ペダリングのアップストローク中のパワー伝達のロスを防ぐ効果もある。甲は確実にホールドするが、足の幅広い部分はあえて逃がすという、適材適所、必要とされる要素に応じて設計を変える作り込みになっている。
ソールスターインソールを標準搭載
SUPLESTは2016年からSOLESTARと提携している。
ニュートラルな足のポジションに配置するというコンセプトが、SUPLESTのコンセプトと合致したためだ。パワーを失わず、最高の履き心地と最高の安定性が、ソールスターインソール特徴だ。
ソールスターインソールはSUPLESTのシューズに標準装備されている。
インプレッション
SUPLESTがレースと世界最高峰のレーサーの要求のために特別にデザインした「ROAD PRO」を試した。
これまで数多くのシューズを試してきたが、シューズは履いた瞬間に合う合わないがすぐにわかる。ビジネスシューズ、ランニングシューズであれ、自分に合わなければ、すぐさま「違和感」として認識できる。
実はSUPLESTを履いた瞬間、若干の違和感があった。しかし、漕ぎ出してしばらく走り出すと違和感が消えた。これとよく似た体験をしたことがある。同国スイスのASSOSのウェアだ。
ASSOSのウエアのどれもが、自転車に乗っていない状態で着ると、着心地がとても悪い。しかし、いざバイクで走り出すと「ウェアが消える」のだ。ASSOSは乗車状態を想定して、生地の接続パターンやカッティングを計算している。
SUPLESTも恐らく、ペダリング中の足の膨張や変化などを計算に入れているのか(は定かではないが)漕ぎ出していくと足元からシューズが消えてしまった。履いた時の違和感が無くなるのだ。
シマノシューズの足型(ラスト)にしか絶対に合わないと信じてきた思い込みがこの瞬間、一気に崩壊した。
特にFLEX ZONEの存在が大きかった。最も幅広になる部分に薄い生地が配置されており、ペダルの踏み込み時に足が横方向に潰れて膨張しても生地が追従してくれる。他社製品は生地が一枚ものになっていて、柔軟性に欠けるものがほとんどだ。
小指や親指の根本で出っ張っている骨があたって痛い方は、FLEX ZONEを一度体験してみたほうが良いだろう。地面に立ってスクワットをすると、FLEX ZONEが柔軟に変形していることがわかるほどだ。ただし、必要な力は逃がさぬよう、くるぶしから甲部分のホールド性は高い。
シマノのワイドしか合わないと思ってきた人生だったが、FLEX ZONEという技術が全てを解決してくれた。
さて、シューズを変えたことによって「出力が上がった!」なんてことを言えたら良いのだが、そんなことは一切ない。シューズレビューで稀に見かけるが、何を基準として上がったのか意味不明だ。プラシーボか、気持ちが上がって単純に出力が上がっただけだろう。
それでもSUPLESTが明確に違っていたのは、同一のパワーをかけ続け易くなったと感じた。面積が広いフラットペダルを踏んでいるかのような安定感がある。パワーをうけとめるエリアが広く感じられるため、垂直に踏めない場合でも補正されながらペダルに十分な力を伝えられる感覚がある。
ダッシュを伴うようなインターバル中が最も顕著だった。雑に踏んでしまいがちな時でもしっかりと補正してペダルに力を与えてくれるような懐の深さがある。
物は試しと、左足はシマノSH-RC903、右足はSUPLEST ROAD PROを履いて違いを確かめた。まず明確に違うのはスタックハイトだった。SH-RC903は数あるシューズの中でも特にスタックハイトが低い。ROAD PROは相対的にやや高く感じた。高いといっても、両方履き比べて注意しなければわからないほどの誤差である。
SUPLEST ROAD PROは、足全体をぴったりと包み込むようなフィット感がある。3Dメッシュを薄いTPU層でコーティングした独自のサンドイッチ構造は、外側の生地を内側に入れ込むようにして抑えこんでくれる。
シマノのラップ方式とも似ているが、重なり合う領域が少なく、余計な生地も少ない。かといってホールド性が弱いわけではない。甲の部分に配置されたカーボンシールドが圧を均一に分散することで、足の甲を上から面で抑えるようなフィット感を提供してくれる。
これまでのシューズは、BOAを締め付けすぎると生地に食い込んで段差が生じていたが、SUPLESTのシューズは薄いカーボン層がBOAのワイヤーを受け止めて力を分散してくれるため、甲のホールド性がとても高く感じた。
高剛性カーボンソールは同社のシューズで最も硬い10だが、特別硬くは感じなかった。高剛性を謳うSH-RC903やS-WORKSのシューズと相対的に比較してみても、硬い、柔らかいという差は無い。ソールの反りも適度でSPD-SLの形状にぴったりと合う。
ヒール部分のホールドは強くも無く弱くもない。どちらかと言えば、ソフトな印象で上部はランニングシューズのようなしなやかさがあるが、奥のカップ部分はしっかりとかかとをホールドしてくれる。
作り込みの部分に関しても、インソールを取り外してシューズ内部を見ると品質の高さがすぐわかる。縫い目、裁断、つなぎ目と段差の無さ、ボルト穴をふさぐ布、刻印、カーボンソールは高級フレームのように美しい。丁寧に作られていることが伝わってくる。
重量もインソール抜きで217gとBOAや細かな作りこみを含めると軽量シューズと言える。
なにより、足にぴったりとフィットするのがいい。踏み込んだ時に大きな面圧が感じられ、力を入れやすいシューズだ。
まとめ:スイスが生んだ名品
今回のシューズは、たまたま私の足にあってしまったものだから、良い内容のインプレッションになってしまった。辛辣な事をもっと書きたかったのだが、正直なところあえて書くことがない。いや、一つだけあるとしたら値段だ。
価格は72,000円と数あるシューズの中でも特に高いプライシングになっている。もしかしたら日本の代理店が高値で売っているのかと思い、本国のサイトを確認してみた。420ユーロでおおよそ69,000円である。国内が高いわけではなく、本国と同等だ。
スイスの製品は高品質、高精度、それゆえお値段も高い。スイスで生み出される製品の共通認識はSUPLESTにも当てはまるようだ。それゆえ、プレミアムなロードシューズとしての位置づけになるだろう。あとは価格に納得できるかがカギだ。
最適なフィット感、ペダルへの完璧な動力伝達が印象的だ。いまよりも、さらにワンランク上の良いものを求める方は一度試してみてほしい。
SUPLESTのROAD PROシューズは、高価ながらも最大限のパフォーマンスを発揮するための効率性と快適性を兼ね備えていた。
販売店舗はまだ少ないが、オンラインショップ以外では以下の店舗が取り扱っている。
カトーサイクル 〒457-0007
愛知県名古屋市南区駈上2-8-2
0528113741
ニコー製作所
〒462-0059
愛知県名古屋市北区駒止町1-116
0529810170