同一ギア比比較では、フロントダブル(2X)のほうが”駆動効率では”明確に優る。7年前に以下のポストをしたが、プロや国内強豪選手たちが1xを取り入れてきており、空力性能と駆動抵抗の損益分岐点はどこにあるのかを調査した。
ギアの組み合わせ抵抗データー。48×10(4.8)と53×11(4.8)は約6Wも違う。MSW、ラテックス、エアロソックス、エアロフレームのメリットを一気に吹っ飛ばすレベル・・・。1xだとオフセットさせているのでたすき掛けのロスも少ないはずだから、単純にフロントはとにかくでかいのをつかうほうがよさそうです pic.twitter.com/6jPSMVfWUU
— IT技術者ロードバイク (@FJT_TKS) November 12, 2019
VeloNewsとCeramicSpeedの2019年5月試験では、2Xは全ギアで1X(SRAM 48TシングルXシンク)より摩擦損失が小さく、平均で1Xが12.24W(全11ギア)、2Xが9.45W(最適15ギア)、その差は約2.8Wであった。
一方、1X化によるフロントディレイラー削除の空気抵抗低減は、時速45kmで概ね1〜2W、プロスプリンターが到達する時速60km以上でようやく3〜4Wという水準にとどまる。
したがって、駆動抵抗と空気抵抗のワット収支を突き合わせると、平坦・登坂を問わず「純粋な効率」で見れば2Xがやや有利な場面が多い。
実戦的視点では、高速平坦のクリテリウムやTT、あるいはチェーン脱落リスクの高い荒れたレースでこそ1Xの価値が立ち、繊細なケイデンス管理を要する長い登坂では2Xが優る。
- 同一ギア比の効率比較では2Xが有利。CeramicSpeed試験で1X平均12.24W・2X平均9.45Wの摩擦損失(差は約2.8W)、最大差はトップギア(48×10T対53×11T)で約6W。これは1Xがより小さいスプロケで屈曲角・チェーン張力・チェーン速度が増すため。
- 1X化の空気抵抗低減はフロントディレイラー削除が主因で、時速45kmで1〜2W、60km以上で3〜4W程度。速度が上がるほど空気抵抗の比重が増すため、高速域ほど1Xが相対的に有利になる。
- 損益分岐は概ね高速スプリント・TT域(時速55〜60km超)。ヒルクライムは空気抵抗寄与が小さく効率面では2X有利だが、軽量化メリットが残る。ただしXPLRのフルマウントは重量増になる可能性。総合的には「用途で選ぶ」が正解。
たすき掛けの摩擦損失
チェーンが生む摩擦は主に4要素に分解される。
- チェーンの横方向角度(たすき掛け角)
- チェーン張力
- チェーンの屈曲角度
- チェーン速度
たすき掛けでは左右のプレートがスプロケに対して斜めに擦れ、プレート同士がより強く擦れ合うことで摩擦抵抗になる。Friction Factsの試験では、極端なたすき掛け(小×小)は大×大より損失が大きく、摩耗も速いことが示されている。
重要なこととして、CXやMTBで主流のナローワイド(1X用チェーンリング)自体はたすき掛け時に標準歯より摩擦を増やさないことがわかっている。つまり1Xの不利は歯形状ではなく、チェーンラインとスプロケの経に起因する。1Xがカセット両端でチェーンをより極端な角度に引くことは事実だ。
大きいチェーンリング+大きいコグが摩擦を減らす
大径のチェーンリングとコグは、同一ギア比でも摩擦が小さい。
理由は2つ。
第一に、チェーン張力はチェーンリング半径に反比例する。トルク=力×半径であり、同一パワーx同一ケイデンスなら、小さいリングほどチェーン張力(力)が高くなり、ピンとローラーへの荷重が増える。
第二に、大径コグほどチェーンが各リンクで曲がる角度(屈曲角)が小さく、屈曲に伴う損失が減る。Friction Factsは、ほぼ同一ギア比の39×11Tは53×15Tより約1.5W摩擦が大きいことを実測している。
SILCAも「53×11と48×10はほぼ同じだが、53×11のほうが6W抵抗が低い」と、大径の効き目を端的に示している。これがプロが54T以上の大径リングを選ぶ物理的根拠であり、1Xでも大径化(52〜56T)がトップ側の効率を改善する。
1X化による空気抵抗低減の定量データ
で、ここが最も気になるところだ。
1Xの空力メリットはフロントディレイラーとインナーリングの削除が主因だ。複数の風洞データは概ね一致し、時速45kmで1〜2W前後に収束する。
Swiss Sideは公式に「空力メリットは主にフロントディレイラー削除から生じる。時速45kmで約2W、時速35kmで約1Wの利得」と実測を報告している。

Classifiedはアイントホーフェン工科大学の風洞で「フロントディレイラーとインナーリング削除で1%のパワー節約=300W入力時に3W」と報告している。

Tour誌の風洞試験ではフロントディレイラー単体を「約1.5Wのドラッグ」と評価し、Factor Oneの単一変数試験では198.2W→196.8W(1.4W削減、時速45km・標準ペダリングダミー)を実測している。

AeroCoachはARC 1xエアロチェーンリングで「時速48km(30mph)で1〜4W」、より進んだAtenで「時速45kmで4〜7W」を主張(ディレイラーの大きさに依存)。プロ用途に関してAeroCoachは、時速60km以上で3〜4Wに拡大すると述べている。


直接的な1X対2Xの風洞比較として、San Diego Wind TunnelでのPremierBike/ERO Sportsのデータがある。

同一バイクでインナーギア、フロントディレイラー、ディレイラーマウントを外し、時速48km/hで計測。0度ヨーで約15g、ヨー角が大きい非ドライブ側では最大58gのドラッグ低減が得られた(ライダー無し)。
0度ヨーの15gは概ね1.5W前後、CdAに換算すると約0.0015m²に相当する(この換算は概算であり、公表値ではない)。
重量面では、SRAM Red AXSで1X化すると約200gの軽量化になる(フロントディレイラーとバッテリーで157g、ダブルチェーンリングをエアロシングルに替えて78g減、チェーンキャッチャー追加で約30g増)。
SRAMのフロントディレイラー単体はバッテリー抜きで145gである。参考までに、完全なRED XPLR AXS 1×13速グループはパワーメーター込みで2,476gで、フロントディレイラーとチェーンリングを省いた分、再設計RED AXS(2,496g)より20g軽い。
速度域別のワット収支と損益分岐点
これは結構明快だ。
空気抵抗パワーは速度の3乗に比例する(P=0.5×ρ×CdA×v³)。
時速25kmを超えると空気抵抗は全抵抗の8割超、TTの時速45kmでは9〜9.5割を占める。したがって空力メリット(ほぼ一定のCdA低減)は高速ほどワットとして大きく現れる。
逆に駆動摩擦損失は、高いギア比(=高速)で最大化する1Xの弱点であるトップギアでの損失増(48×10Tで約19W対53×11Tで約13W)と、空力メリットの拡大が同じ高速域で衝突する構図だ。
要するに、1Xが空力で稼ぐ数ワットは、同じ高速域でトップギアの摩擦不利によって相殺されやすい。損益が1X側に傾きはじめるのは、空力メリットが3〜4Wに拡大する時速55〜60km超の領域である。
この領域で勝負するとき1xの性能がはじめて生きてくる。
ギア使用割合とワイドレシオ化の影響
平坦レース・クリテリウムでは高速維持のためカセット中〜高速側(トップから数枚)を多用し、クロスレシオで最適なケイデンスを保ったほうが効率が良い。ヒルクライムは低速側の大ギアを長時間使う。
1X化でワイドレシオカセットを要すると、ギアステップが拡大する。

AeroCoachの試算では、Shimano 11-34Tのインナーで17/19/21Tを使う登坂では2T刻み=6〜7rpmのケイデンス変化にとどまるが、大径SRAM 1X(50〜52T)でカセット上部の4T刻み(24-28-32-36)に入ると11〜12rpmも変動する。
「決定的場面で大ギアで踏めない、あるいは小ギアで飛び出せない」事態を招きうる。ここが1Xの実戦的な最大の弱点になる可能性がある。
シーン別の結論
- ロードレース(平坦・アップダウン):高速平坦区間では1Xの空力+チェーン保持が効くが、アップダウンでケイデンス管理が要る場面では2Xのクロスレシオが優る。効率単体ではおおむね互角〜2Xが若干優れる。
- ヒルクライム:低速のため空気抵抗の寄与が小さく、1Xの空力メリットはほぼ消える。効率では2Xが有利(アウター×小スプロケに頼らずインナー×中スプロケで屈曲を抑えられる2Xの利点が生きる)。ただし軽量化は残るため、UCI重量制限に近づけたいエアロバイク運用では1Xの価値がある。
- スプリント・TT:時速55〜60km超で空力メリットが3〜4Wに拡大し、トップギアの摩擦不利(最大6W)を上回るかは僅差。ただしTTでは大径エアロシングル+適切なチェーンラインで摩擦不利を最小化でき、ここが1Xが最も正当化される領域だろう。
1x vs 2x 一覧表
CeramicSpeed/VeloNews 2019年試験の摩擦損失(250W・95rpm)
| 項目 | 1X(SRAM 48T + 10-42T) | 2X(Shimano 53/39T + 11-34T) |
| 平均摩擦損失 | 12.24W(全11ギア平均) | 9.45W(最適15ギア平均) |
| 効率レンジ | 96.0%〜92.4%(平均95.1%) | 96.8%〜94.8%(平均96.2%) |
| トップギア損失 | 48×10Tで約19W | 53×11Tで約13W |
| 最小損失付近 | 48×42Tで約10.4W | 53×19T付近で約9W(最小) |
| 平均差 | 約2.8W(2Xが低摩擦) | |
| 同一ギア比の差 | 最小約1W(48×21T対53×23T)〜最大約6W(48×10T対53×11T) | |
1X化による空気抵抗低減
| 出典 | 速度 | 節約ワット | 手法 |
| Tour誌(一般値) | 約45km/h | 約1.5W | 風洞 |
| Tour誌(Factor One実測) | 約45km/h | 1.4W(198.2→196.8W) | 風洞 |
| Swiss Side | 35 / 45km/h | 1W / 2W | 風洞 |
| AeroCoach ARC 1x | 48km/h(30mph) | 1〜4W | 自社試験 |
| AeroCoach Aten 1x | 45km/h | 4〜7W | 自社試験 |
| AeroCoach(Disley、プロ速度) | 60km/h以上 | 3〜4W | 推定 |
| PremierBike/ERO(1X対2X直接比較) | 48km/h(30mph) | 0度ヨー約15g(≒1.5W)、高ヨーで最大58g | San Diego風洞・ライダー無し |
シーン別のワット収支
| シーン | 速度域 | 1Xの空力メリット | 1Xの駆動デメリット | |
| ヒルクライム | 15〜25km/h | 0〜0.5W | 効率で2X有利(ただし僅差) | 効率は2X、軽量化次第で1Xに理あり |
| 平坦ロード/アップダウン | 35〜45km/h | 1〜2W | トップ側で1〜数W不利、ケイデンス段差 | 効率はほぼ互角〜2X微優、保持・簡潔さで1X |
| クリテリウム | 40〜50km/h | 2〜3W | コーナー加速でギア段差が痛い場面 | 高速維持と保持で1X有力、要ギア設計 |
| スプリント/TT | 55〜65km/h | 3〜4W(以上) | トップギア摩擦は大径エアロシングルで最小化可 | 1Xが最も正当化される領域 |
で、1x使うの?
ここまでの実験データから1xを導入するか否かの判断基準をまとめた。ただし、ライダーの趣味趣向やパワーや体格などで変動するので参考までに。
- 平坦TT・フラットなクリテリウム中心なら1Xを積極採用。時速50kmを常時上回る高速域では空力メリットがトップギア摩擦不利を相殺しはじめる。
- 1Xにするなら大径エアロシングル+可能な限り詰まったカセットを選び(と言っても限られているけど)、トップ側の屈曲損失と空力を同時に最適化したい。ワイドレシオ(10-36T以上)はギア段差が11〜12rpmに達しうるため、登坂主体では避けたい。
- ヒルクライムでは、効率単体は2Xだが、UCI重量下限(6.8kg)に近いエアロバイクを常用し軽量化を取りたい場合のみ1Xを検討、XPLRはまた別だけど。
- チェーン脱落リスクが高い荒れたレースでは、効率の数ワットより完走・トラブル回避が優先。1X+チェーンキャッチャー(またはClassifiedとか)を使う。
- 純粋な効率を追うなら、駆動系はまず「大径リング×中コグでチェーンラインを直線化」「良いチェーン+ワックス系潤滑」を優先。ここだけで数ワット動く。
平均レース速度が時速50kmを超えるかが一つの分岐点になるようだ。
データの注意
CeramicSpeed/VeloNews試験は1XにSRAMチェーン、2XにShimanoチェーンを使っており、Shimanoチェーンのほうが低摩擦なので、差の一部はチェーン差に起因する可能性があるかもしれない。
第二に、空力の節約ワットの多く(AeroCoach、Swiss Side、Classified、EZ Gains)はメーカー・ベンダーの主張値であり、自己利益やプロモーションを含んで居ると思う。たぶん、彼らが売りたい製品があると思ったほうがいい。
独立性の高いのはTour誌の実測、Cyclingnews、PremierBikeだ。
これら差はいずれも数ワットの限界的利得(ようはマージナルゲイン)であり、AeroCoachが「時速60kmでは空力だけを気にすべき、低速では重力・転がり・駆動効率を見よ」と述べているる通り、速度域で優先順位が入れ替わる。
で、実走ではライダーの空力ポジション・発汗による体重変化・路面が数ワットを容易に上回るため、機材選択は効率の絶対値より運用性で決めるのが賢明かもしれない。
ロードを走って痛いほどわかっていることは、ワット収支の帳尻を1枚のスプレッドシートで合わせても、勝負を決めるのは最後の登りで脚が残っているかどうかだ。という問いを、忘れるべきではない。
勝つやつは、1xだろうが、2xだろうが、勝つ。






