2026 ツール・ド・ふくしま 140km 40-45 9位

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レースには二つの時間がある。

実際に走っている時間と、走り終えてから何度も反芻する時間。後者のほうが遥かに長く、そしてたちが悪い。

昨年のツール・ド・フクシマは、登りで簡単にちぎれて終わるという惨憺たる結果だった。公道を使ったダイナミックなレイアウトで140kmを走り、平均時速は40km/hを超える。

昨年は、ロード復帰戦と位置づけて臨んだはずが、集団から千切れていく自分の姿を、レース後の時間が何度も再生した。だからこそ、2回目のフクシマには別の意味で挑戦した。

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ツール・ド・フクシマのレイアウト

ツール・ド・フクシマは特徴的な構造がある。

序盤の平坦区間で40km/h超のハイペースが続き、位置取りと集団内での振る舞いを問われる。そこから後半にかけて登りが散発的に繰り返され、ひとつ越えるたびに集団は少しずつ小さくなっていく。

平坦をこなすだけの脚では残れないし、登りだけ速くても、平坦で消耗して終わる。両方の能力を、140kmという距離の中でどう配分するか。それがこのレースの本質だと思う。

昨年は参加者が少なかったが、今年は状況が一変していた。ニセコで開催される世界選手権への出場権をかけて上位25%に入る必要があるため、エントリーは昨年の3倍以上に膨れ上がった。

名の知れた強豪レーサーの名前がスタートリストに並ぶ。

小林選手、南選手、高杉選手、市村選手、板子選手。登れるし走れる玄人選手が揃っている。CX枠では吉田さん、佐川さんの名前もある。CX全日本MMで負けている相手にロードでも負けるわけにはいかないよなぁ、と考えていた。

ただ、そうした意気込みとは別に、これは昨年のような甘いレースにはならないだろうという現実は嫌でも見えていた。

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ブランクを埋める6ヶ月

ロードには2年のブランクがあった。2年という時間は、身体だけでなく感覚も鈍らせる。ペダルを踏む力そのものより、集団の中で呼吸するように位置を変えるあの感覚、風の壁の中で誰かの後ろにぴたりと収まるあの距離感。それらを取り戻すには、走り込むしかなかった。

2025年の年末からまずはロードで距離を踏んだ。身体に「ロードの時間」を思い出させるための期間だ。3月頃からは、この日カテゴリ別で優勝することになる松木さんとほぼ毎週ハードなトレーニングを積んだ。

10年以上レースを共にしてきた松木さんとの走り込みは、単なるフィジカル強化ではない。お互いの限界値を知っている人間と走ることで、自分のコンディションが今どこにあるのか、言葉ではなく脚が教えてくれる。

目標はもちろん表彰台だった。

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機材と補給:白い粉の儀式

補給戦略

140kmを走り切るために、補給は勝負の一部だ。2019年頃からデュアルソース(複数種の糖質を組み合わせた摂取法)をレースやトレーニングで運用しており、どれくらいの量を、どのタイミングで、どれくらいの時間をかけて飲むのか、ほぼ確立できている。

レース前日 糖質 400g
スタート3時間前 糖質 150g
スタート1時間前 糖質 50g、カフェイン 150mg
レース中ドリンク モルテンドリンクミックス 320(80g)+ 40g / 720ml × 2本
レース中補給食 糖質 150g(クラスターデキストリン20%、マルトデキストリン50%、パラチノース20%、果糖10%)+ カフェイン 100mg

前日からレース当日にかけてのカーボ摂取量は合計約840g、約3,360kcal。これは7年近い試行錯誤の結果であって、微調整を重ねた上でうまく回っている数字だ。

胃腸のトラブルは一切ない。前日の食事すら「白い粉」で構成されている。松木さんからは今回も「人間辞めてるw」と言われたが、慣れてしまえばこれが日常だ。ただ、粉を少しこぼしてしまい車内にアリが侵入してきたのは想定外だった。

念のため付け加えておくが、この補給量と構成は私の体質と経験に最適化されたものであり、安易に真似することは推奨しない。糖質のソース配分、カフェインのタイミング、水分量のバランスは個人差が大きく、段階的に試すことでしか自分の最適解は見つからない。

機材構成

機材はいつもと変わらない。Cannondale SuperSix EVO Gen.5 LAB71、ENVE SES 4.5 PRO、PIRELLI P-ZERO SL-R 28C。靴下は新型のエアロソックスを使用した。信頼できる機材に迷いはない。レースの変数はすでに十分すぎるほど多い。機材くらいは定数でありたい。

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Tour de Fukushima RR 140km 40-44 ― 9位

レース前の頭の中

明らかにフィジカルは強豪どころと比べて劣っている。

だから特別な作戦はない。

いや、正確に言えば「立てない」のではなく「立てても意味がない」。ロードレースはXCやシクロクロスと比べて不確定な変数が圧倒的に多い。風向き、集団の意思、他カテゴリとの混走、誰がいつ動くか。計画は最初のアタックで瓦解する。

だから方向性だけ決めて、時間とともに身に降りかかるイベントをどのように解決していくか。

問題に対して最適解を瞬時に決断し、行動に移す能力が求められる。ロードレースとは、走る意思決定の連続だ。医者や金融の世界に強いオジさんレーサーが多い理由は、あるいはそこにあるのかもしれない。

ひとつだけ明確だったのは、昨年のように無様にちぎれる惨めなレースだけは避けたいということ。そうなると、自然と「最終集団に残る」という道筋になる。ただ、誰かに逃げられた場合に集団を統率できるほどの力はない。それが悩みどころだった。

例年であれば一斉スタートでごちゃ混ぜのままセレクションがかかっていくが、今年はカテゴリ2分差のウェーブスタート。

この方式には特有の現象がある。前のパックに追いつき、合流して雲隠れし、「誰にも知られぬ間にゴールする」というやつだ。できればそうした展開は避けたかったが、結果的にまさにそれが起こってしまった。

序盤 ── 平坦の静かな駆け引き

レース序盤は平坦が続く。

序盤は落車のリスクもあるため、いつも通り集団の前方でローテーションに加わった。平坦区間では多くの選手が引きたがらない。後半の登りに脚を残すためだろう。

だがパワーメーターを見ると、前で引いていても後ろに下がっていても出力にそれほど差はなかった。ならば視界が開けて安全な前にいるほうが楽だ。序盤から最後まで、ずっと先頭付近でローテに参加し続けた。

2分差でスタートした前のカテゴリの集団が視界に入り、散発的にアタックのようなものも見られる。しかし、まだ早い。本格的な展開が訪れるのは70km付近を過ぎてからだろう。それまでは、この高速巡航の中で無駄な脚を使わないこと。

それ自体がひとつの仕事だった。

登りの始まり

小さな登りが現れると、やはり富士ヒルで好タイムを出していた板子選手が積極的に前に出てくる。

別に小林選手をアシストしているわけではないだろうが、登りを綺麗なペースで牽引する。辛いが、ペースが一定であるぶん身体の対応はしやすかった。辛いけれど楽、という矛盾した感覚。レーサーなら誰もが知っている、あの状態だ。

この日、際立って強いと感じたのが湾岸の市村さんだった。登りに入ると単独で先頭を牽き、後ろが軒並み苦しむというパターンが全ての登りで繰り返された。前半から後半にかけて衰えを見せず、積極的にレースを動かし続ける。

最終的に単独で逃げ切ったのだから、力の差は明白だった。

ただ、市村さんのペースにそのまま追従すると自分がやられる。それはわかっていた。だから見える範囲で捉えつつ、下りと平坦で追いつくという走り方に切り替えた。

他の選手も同じ判断をしていたようで、登り区間に入るたびにこの「離れて、追いつく」というやり取りが繰り返された。追いつけるうちは、まだ勝負の中にいる。

アゼリアの登り

アゼリアから始まる登りは、コースレイアウトが「ここから登りです」と宣言しているような区間だ。ペースアップは確実に来る。ただ、一気にドカンと上がるのではなく、じわじわとペースが上がっていく。それが6分弱にわたって続く。

310W、320W。心拍が張りつき、呼吸が荒くなっても脚を止めるわけにはいかない。辛い時間だが、「6分だけ我慢すればいい」と自分に言い聞かせた。去年よりは走れている。その手応えが、気持ちを少しだけ軽くしてくれた。

そこからもう一発、登りが続く。

2つ目の登りは勾配の問題ではなく、すでに削られた脚で踏むという問題だ。1本目を耐えた身体に、2本目は別種の苦しさをもたらす。この頃になると他カテゴリの選手も合流してきて、阿鼻叫喚の様相になる。

できるだけ同カテゴリの選手のゼッケンを見ながら走った。残っているのは、事前にマークしていた選手たちばかりだった。

ピークでチェーン落ちしたとき、押してくださった方ありがとうございました!あのあと無事に集団に戻れてなんとか最後まで走りきれました。

下り ── 86km/hは恐怖

登りが終わり、下り区間に入る。ここが鬼門だった。下りの最高速度は86km/h。この速度域では、コケたら死ぬ。冗談ではなく、それが現実としてブレーキレバーを握る指先に伝わってくる。

SuperSix EVO Gen.5はホイールベースとフロントセンターが先代から長くなっており、高速域での下りの安定感がかなり増している。下りに苦手意識がある人にはEVO Gen.5を勧めたい。安定感がありながらも空力も良いので、下りで差を詰めやすいという二律背反を両立している。

ただ、この下り区間で何度も危険な場面に遭遇した。他カテゴリの速度差がある選手がノールックで合流してくる。大声で存在を知らせて回避したが、来年の開催に向けて、他カテゴリやトレインとの混走を回避するための注意喚起は必要だと感じる。

まとまらない意思

カテゴリが混走する中で、誰が逃げているのか判然としなくなっていた。下りきったところで、別カテゴリの知り合いから情報を得る。「3分差で先に数名の逃げがいる」。集団内に伝えるが、後半になると各選手の思惑がそれぞれ異なり、うまくまとまらない。

上位25%に入れば世界選手権の切符が手に入る。完走が目的の選手、集団の頭を狙う選手、何事もなくゴールすればいい選手。それぞれが異なる変数を抱えているのだから、意思統一などできるはずがない。

ロードレースの集団は、共通目的を持たない一時的な共同体だ。協力するのは利害が一致する瞬間だけで、その瞬間は思いのほか短い。

ただ、ハイペースで進んでいたこともあり、あわよくば追いつくという淡い期待はあったのだろう。事実、市村さんの姿は見えていた。「集団であれば追いつくと思っていた」というロードレース特有の楽観は、追う側が共有する一種の幻想だ。

だが逃げる者はそんな幻想に付き合ってはくれない。

残り4km

残り4kmで小林選手がアタックした。ついていくべきだった。頭ではわかっていた。だが、身体が動く前に迷いが入った。その迷いの数秒が、判断を鈍らせた。結局、集団が小林選手を吸収する形になったが、逃げに追いつくのはもう難しいという空気が漂い始めていた。

最終集団は同カテゴリで9名弱。ラストは登りからのロングスプリント。これは自分が最も苦手とするパターンだった。仕方ない。得意なフィニッシュだけ都合よく訪れるほど、レースは優しくない。

ラストの小高い丘に差しかかる手前で前に出た。正直なところ、勝ち負けだけがレースの全てではないと、その瞬間だけは思っていた。

ラインレースでスタートした場所に戻ってくるとき、最後の直線で見える景色。まだレースは終わっていないけれど、最終集団に残ってここまで戻ってこれた。昨年のあの惨めなレースとは違う感じでいまゴールに向かう。

そんなことを考えている間に、登りの勝負が始まった。先頭はすでにゴールしていたようだ。前だけを見て、鳥居を目指した。

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9位という答え

結果はカテゴリ9位。3名の逃げを追う最終集団に残りながら、集団内での順位争いで沈んだ。目標の表彰台からは程遠い。

レースは結果が全てで、1位以外は負けだ。その論理に異論はない。ただ、どこか自分の中に「やりきった」という感覚と、2年のブランクがあったにもかかわらず「意外と最後まで走れるじゃないか」という小さな喜びがあったことは否定できない。

なにか特別なことをしたわけではない。

なにか劇的なものを残せたわけでもない。「ただ流れと状況に対応した結果が9位」。それが今回のレースの正確な総括だ。序盤から先頭でローテに加わり、登りで耐え、下りで追いつき、最後のスプリントで力が及ばなかった。それ以上でも以下でもない。

本音を言えば、表彰台というカタチにしたかった。

だが今の実力では、上位との力の差は明確だった。市村さんの登りの強さ、小林選手の勝負勘。あの領域に届くには、まだ足りないものがある。2週間後の全日本選手権マスターズではさらに強いメンバーが揃う。いまの状況を考えればかなり厳しい戦いになるだろう。

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それでも走るわけよ

それでも、いまはロードが楽しい。走るモチベーションが高い。

これは、2年のブランクを経て戻ってきたからこそ得られた感覚かもしれない。勝てないことは悔しいが、勝てないことが走らない理由にはならない。自分がどこまでやれるのか、その問いに向き合い続けること。それ自体が、競技を続ける動機になっている。

競技との距離感という点では、いまが一番良い状態だと思う。結果に執着しすぎず、かといって諦めてもいない。その中間のどこかに、自分にとって最も健全な立ち位置がある。

次は地元新潟での全日本選手権。娘を連れて初めての2人旅も兼ねているのでとても楽しみだ。レースの前日に娘と移動する間だったり、2人で歩いている自分を想像すると、それだけで走る理由になる。

やれるところまでやって、出し切って、今年の前半戦を締めくくりたい。

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