クランク長を変更した理由としては「165mmが短く感じてきた」という単純かつ感覚的な理由だった。変更するまでにさまざまな論文を漁り調査をおこなったが明確な判断材料はほとんどなかった。
結論はクランク長に最適解はないということだった。RETULやidmatchや個人のフィッティングなど様々な調整方法を試してきた。RETULは165mm、idmatchは170mm、とあるフィッティングは160mmだった。どれが正解なのかは宗教と同じで無数に「正解」が存在している。
いわば何を信じるかだ。
他に論文や文献を読み漁ったが答えは出ず、最後は「165mm短いな、2.5mm伸ばしてみるか」という安直な思いで伸ばすことにした。サドルの高さのようにミリ単位で細かく調整することがクランクはできない。そのため、「やや短く感じる」という感覚を頼りに最も増加幅が小さいプラス2.5mmの167.5mmを選択した。
165mmから5mm伸ばし170mmでも良かった。しかし、実際使ってみると長いと感じた。165mmであれば「短い」、170mmであれば「長い」では間を取って167.5mmというのが結論だ。
今回の記事は、クランク長を決めるに至るまで調査した文献や論文を紹介する。12年ぶりに変更し、大きな変化があった。はじめに断っておくが、どこまで読んでもあなたに最適な「答え」などない。選択できるクランク長には(165mmや170mmといった)かぎりがあるからだ。もしかしたら166mmなんてクランクがベストかもしれない。
それでも、製品としてリリースされているサイズの中から最適なクランク長を選ぶ手がかりを載せた。何を求めるかは人によって異なっているかもしれないが、ひとつの判断材料として本記事を読んでいただきたい。
idmatch
いま、最も確実にクランク長が出せる可能性があるのがidmatchだ。マチュー・ファンデルプールが自宅に購入し毎週ポジションを出しているということでも話題になった。私も受けたが、実際算出された結果は合わなかった。
170mmのクランク長が最適だと出たが、正直使っても長く感じ膝の痛みが出た。したがって、私には合わなかった。idmatchで出したポジションもどこかしっくり来なくて、RETULで算出したデータに戻してしまった。
idmatchを行なうと最適なクランク長が算出される。この値は、バイクを実際にこぎながら、サドル高さやハンドル位置が自動的に調整されていくという仕組みだ。合う合わないには個人差があり、170mmは長いと感じたためidamtchを受けた時点では165mmに戻している。
RETUL
RETULで算出した適正クランク長:165mm
RETULもクランク長を可変できるフィッティングデバイスを使用することでポジションが出せる。RETULで算出した適正クランク長は165mmだ。この値はすでに使い続きてきた165mmを裏付ける結果であった。RETULで算出された際のアドバイスとしては、もう「少し長めでも良い」というものだった。
今から振り返ってみれば、自分の感覚と最も近いのがRETULだった。
実際には、「いま165mm付けているからこれでもポジションがだせます。」というもので、ベストなポジションをRETULで出すことを考えた場合は167.5mmが適正だったのかもしれない。いまから思えばそう思えるが、測定結果としては165mmと167.5mmどちらでも良いという結果だった。
問題は、165mmか167.5mmどちらがいいかという観点だ。どちらでもいい、という答えは求めておらず、常々1%でも最適なポジションを出したいと考えているため私は答えが欲しかった。この時点でも、機材の入手性の問題で165mmを選択している。
BGフィット
BGフィットで算出した適正クランク長:165mm
2009年に受けたBGフィットで算出されたクランク長は165mmだった。当時はidmatchやRETULのようなシステムはなく、膝の角度を図る際には分度器のようなメーターを使用して手で計測していた。アナログな測定方法であるが、フィッターが直接体に触れることができるため意外と正確な測定方法だといる。
実はこのとき、このときは167.5mmを使っていた。トラックバイクも165mmを使っていたためロードも165mmにしてみようかなと軽い気持ちで165mmに変更した。あれから12年経ってさまざまな経験をしてきたが、165mmが体に一番なじんでいた。
論文
クランク長の話をする際に最も有名な論文は「Determinants of maximal cycling power: crank length, pedaling rate and pedal speed」だ。
時代がやや古いが、いまでも事あるごとにさまざまなサイトで引用されている。
論文をざっと要約すると、
120、145、170、195、220 mmのクランク長を使用して「最大サイクリングパワー」、「最適ペダリング速度」、「最適ペダル速度」にどのような影響があるのかを明らかにした。最大出力は、220mmクランクの1149(20)Wから145mmクランクの1194(21)Wの範囲であった。
145mmと170mmクランクの出力は、120mmと220mmクランクの出力より有意に(P < 0.05)大きかった。最適ペダリング速度は、120mmクランクの136rpmから220mmクランクの110rpmまで、クランク長の増加とともに有意に減少した。
逆に、最適ペダリング速度はクランク長の増加とともに有意に増加した。120mmクランクの1.71m/sから220mmクランクの2.53m/sとなった。脚長に対するクランク長、脛骨長に対するクランク長の比率は、それぞれ最大出力のばらつきの20.5%、21.1%を占めた。
最適なクランク長は脚長の20%または脛骨長の41%であった。これらのデータは、ペダル速度(筋短縮速度を拘束する)とペダリングレートが、サイクリング中の筋パワーに影響を与える異なる効果を発揮することを示唆している。
最大サイクリングパワーはクランク長に大きく影響されたが、標準的な170mm長のクランクを使用すれば、ほとんどの成人において最大パワーを大きく損なうことはないはずである。
というものだ。しかし、この論文は最大パワーにフォーカスしすぎていると感じている。というのも、クランク長を長くしたことによって何を得たいかは人によって異なっているからだ。私は「疲れない」「痛みが出ない」「長距離乗れる」ということを主眼においている。
この話は別の章で記す。
bikedynamics
bikedynamicsのサイトにも適正なクランク長の記載がある。このサイトは膝の痛みを緩和することに主眼においているため、ショートクランクを推奨する傾向にある。したがって、比較的短い結果が掲載されている。
身長 | Crank Length(cm) |
---|---|
182.8cm | 177.5mm |
180.3cm | 175mm |
177.8cm | 172.5mm |
175.3cm | 170mm |
170.2cm | 165mm |
165.1cm | 160mm |
平均的な日本人の身長であれば165mmが適正だという。しかし、股下は千差万別であるため参考程度に留めておいたほうが良いのかもしれない。とすると、クランク長が165mmや170mmといった5mm刻みでしか選べないことも問題だと思うが、ラインナップが限られている以上その中から選ぶ他無い。
2.5mm伸ばした
これまで165mmを使ってきたが、最近(2022年)になってどうもクランク長が短いと感じてきた。回転はピストであれば調子の良いときは200回転いく。これは短いクランクを使用してきたので回すペダリングが身についているのだろう。
しかし、いざロードレースに使用するとダンシングしたり、スプリントしたり、登坂したりとさまざまな使い方をする。ピストのようにずっと座っているわけではない。さまざまな使い方を考慮したときに、下ハンドルを持って巡航するときは良いが、ダンシングしたときにどこか詰まるような感覚をずっと感じていた。
同じ時期にシマノレーシングの天野プロが165mmから167.5mmに変えた際に、バイクを乗らせてもらい好感触だったた。そこで、思いきって167.5mmに変更した。ただ、いざ乗り換えたときは異常なほど違和感があった。
クランク長を変更したことによる変化
その違和感は以下のとおり。
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回転が落ちる
-
疲れやすくなる
-
脚が売り切れやすくなる
逆に良い変化もあった。
-
パワーが出しやすい
-
ダンシングがしやすくなる
-
思ったよりも小さな力で進む
この傾向は、與那嶺選手のnote「165 と170」でも書かれていた内容と非常に近しい結果だった。與那嶺選手は170mmから165mmにしたところ、
回しやすくなった分、ケイデンスが少し上がって、大きい回すものが短く(小さく)なったので、ひとペダルごとの仕事量は減って、回転数が増えたというわけです。
注) 何度も言いますが、これも客観的なデータ、数字であって、主観的には回しやすくなったとか、ケイデンスが上がったとか、全く感じていません🙈 あくまでデータの話です。
つまり、大きなパワーを出したいスプリンター系の選手、もしくはそもそも大きなパワーを持っている体重のある選手、大きな選手は、重めのケイデンスを好む選手は、クランクは長い方がいいのです。
パワーが大きければ大きいほど、もちろんバイクは進みますからね。
ただ私のような、そもそも体重もないし、重いのを踏むのもあまり得意じゃない、どちらかというとケイデンスでチョリチョリ回すのが好きな選手、160cmしか身長のない小柄な選手、にとってはやっぱり短い方が「回しやすい」のです。ただ、最大パワーは落ちます。
165 と170 |與那嶺 恵理/Yonamine Eri今日は珍しく機材のお話📝 自転車のことはよくわからない、私のNoteを読んでくださってる方には、かなり「?」な記事になっちゃいます🙇🏻♀️ 悪しからず。 というわけで、「165」と「170」 何の数字かわかりますか? おそらく、レースしてる方や自転車(機材)好きな方は、すぐわかるんですよね😲 (ちなみに私は、そんな数字だけ言われても、もちろん何の、どの話をしてるか全くわかりませんwww🙈) ...
與那嶺選手は感覚系の選手なのかな、と勝手に思っていたのだが思い違いだった。日本でも有数の有名大学を卒業しており、ふわっとした文章の中に的確かつ鋭い本質的な部分をとらえてうまく言語化している。與那嶺選手の脚質と特性を見極めて機材変更したコーチの嗅覚も鋭い。
私は與那嶺とは逆に伸ばす方向、165mmから167.5mmに変更した。この場合、與那嶺選手が感じていたこととまったく逆のことが起こった。ここでいったん整理しておきたいことは、「クランク長を変化させたことによって何を得たいのか」を明確にしておくことだ。
私の場合は、
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パワーを上げたい
-
脚を温存したい
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疲れにくくしたい
-
回転数を上げたい
-
ダンシングを楽にしたい
-
空力性能をあげたい
などなど。二兎を追うものは・・・、と思ってしまうが、何を求めるかによってクランク長のを決定する方向性が異なる。すべてがパーフェクトなクランク長はなかなかない。私の場合は、いまの回転と脚へのダメージの少なさにプラスしてアベレージパワーを上げたかった。アベレージパワーであるため、最大パワーではない。
パワーを上げることを考えた場合、「トルクx回転」という単純な公式の上に成り立っている。したがって、クランク長を短くして回転を上げて稼ぐことでもパワーは上げられる。対して、トルクを上げて回転はそこそこでも同様のパワーを稼げる。
あとは自分自身の脚質と相談になるのだが、私自身は回転が得意だから多少回転を落としても少しだけトルクがかけやすいクランク長が良かった。それが167.5mmだった。あとは、165mmをずっと使っているうちに体が変化してきて短く感じるようになった。
感覚的な部分は曖昧である一方で、意外と「体の声」として尊重している。「疲れた」や「だるい」と同じように体から発するシグナルを素直に受け入れると意外と良い結果になることが多い。
変更した直後は非常に違和感がある。回しにくくて戻そうと思った。ただ、それは体が変化に対応するまでの移行期間(抗体ができるような)だ。3週間ほど乗り込めば体がなじんでくる。
結局、165mmに戻した。
2022年の初めに長年連れ添った165mmから167.5mmを使ってみたが、数ヶ月使ってみてやはり慣れずに165mmに戻した。戻した理由は以下の通り。
- 167.5mmは長距離で疲れた。
- 167.5mmはパワーは出るが脚にきた。
- 後半踏める(パワーが出せる)のは165mm
- 主に大腿四頭筋が疲れやすくなった
- 持続力が落ちた。
- ケイデンスが2rpmほど落ちた
クランク長を伸ばすと確かにパワーが上がる傾向にある。ただ、瞬間的なパワーは上がるのだが、レース後半になるとそのパワーがかけられなくなる。とにかく長くすると脚がつかれるのだ。180km程練習で走り、ラストの登りでどっちがかかるか試したが自分の場合は165mmだった。
毎日の練習がピストの165mmというのも理由にあるのかもしれない。今は、ピスト、ロード、シクロクロス、マウンテンバイク、ママチャリ全て165mmだ。
2022年は165mmでニセコクラシック150kmも優勝できたしまぁ、あっていたんだろう。
ではこの記事を読んでくださっている読者の方はどうやってクランク長を選べばよいのだろうか。正解は無い、かもしれないが、正解に近づく方法やサービスはある。ただ、ここまで紹介してきたように考え方は様々であり、受けるサービスによっては結果は様々だった。
12年間165mmを使い続けてきた。結局良いときもあれば、悪いときもあった。それでも、体は与えられたセッティングに慣れていき、順応していく。住めば都ではないが、使い慣れればそれが最適なのかもしれない。
167.5mmに変更した際、なれるまで3週間を要した。1週目は合わなくて本気で変えようと思った。2週目はだんだんと体になじんできた。3週目はいままで使ってきたクランクと同じような感覚で振り回せるようになってきた。なれて使いこなせれば167.5mmのほうがパワーは出せる。ただ、続かない。
クランク長を変更する方は、最低でも1か月さまざまなシチュエーションで使ってみてから判断した方がいい。そして、その際はサドルの高さを変えないほうがいい。クランク長を変更し慣れてきたときにそれでも「サドルの高さを調整したいな」と思ったら変えたほうがいい。
私の場合は、クランク長を変更してもまだサドルの高さに違和感がなく変更していない。これから使っていくうちに徐々に、「サドルが低いな」だとか「サドル高いな」だとか思うかもしれない。
そのときの心の声を参考に調整する予定だ。ただ、まだ自分の中に感覚的なものが存在していない場合はidmatchやRETULといったバイクフィッティングサービスを受けたほうが良いだろう。ある程度の知識を持ったフィッターが、ある程度の最適解を出してくれる。
そこで、一つ頭の片隅においてほしいのは、フィッティングというのは宗派があり、宗教と近い。数カ所のフィッティングを受けてもすべて同じフィッティング結果になることはまずない。
そして、どのフィッティングサービスも自分の「宗教」が最も正しいとあなたにアピールをしてくる可能性がある。何もしらない人はそれを信じ込んでしまって、宗教に入り込んでしまうかもしれない。だからこそ、自分自身の中に「ある程度確からしい感覚」を持っておいた方がいい。
その感覚は、信憑性がなく科学的にも裏付けが無いかもしれなが、「この位置踏みやすい」というのは意外自分にあっていたりする。それでも正解は無いし、自分が出した答えには正解の後ろ盾がないから不安にも思うかもしれない。