「汚れていない」と思っているチェーンは、本当にきれいなのだろうか。
日常のライド後にウェスでチェーンを拭く。表面は銀色に光り、指先にも大した汚れは付かない。だから「まだ大丈夫だ」と判断する。しかしその判断は、チェーンの外側だけを見た感覚にすぎない。
ローラーとインナープレートの間、ピンの周囲、リンクの奥底には、潤滑油が走行中に集めた微細な摩耗粉や路面のダスト、雨水が運んだ不純物が堆積し、粘度を増したヘドロ状の油泥として固着している。
肉眼では見えないその汚れが、駆動効率をむしばみ、チェーンの寿命を縮め、変速性能を鈍らせている。
CHEPARK(チェパーク)のBIC-110 超濃縮オイル汚れ洗浄剤を超音波洗浄機と組み合わせて使用したとき、その「見えない汚れ」が茶色いヘドロとなって洗浄液中にどっと溶け出してきた・・・。
目視で「まだ大丈夫」と判断していた自分の甘さを、洗浄槽の茶色い沈殿物が無言で否定したのである・・・。
濃縮、という設計思想
BIC-110は120mlの小型ボトルに収められた濃縮タイプの洗浄剤だ。
水で希釈して使用する前提で設計されており、標準希釈比率は「洗浄剤1:水3」。つまり120mlのボトル1本から、最大約480mlの洗浄液を生成できる計算になる。希釈前の数字だけ見れば120mlは小容量に見えるが、実運用上のコストパフォーマンスは高い。
用途はフレーム全体の洗浄ではなく、チェーン、スプロケット、チェーンリング、ディレイラープーリーといった駆動系パーツに限定される。油泥が最も集中するパーツ群を明確なターゲットとして定め、そこに特化した洗浄性能を追求した製品だ。
フレーム洗浄には同社のバイクウォッシュや洗浄剤が別途用意されており、用途に応じた製品の棲み分けが行われている。
希釈液を作る際の標準配合は以下のとおりだ。
| 必要な洗浄液量 | BIC-110 | 水 |
|---|---|---|
| 40ml | 10ml | 30ml |
| 80ml | 20ml | 60ml |
| 120ml | 30ml | 90ml |
| 200ml | 50ml | 150ml |
| 480ml | 120ml | 360ml |
あらかじめ希釈液を作り置きしておくと、洗浄のたびに計量する手間が省ける。ダイソーで手に入るはちみつ用ボトルに希釈済みの液を入れておけば、思い立ったときにすぐ洗浄作業に取りかかれる。
こうした日常運用の小さな工夫が、洗浄頻度を上げ、結果として駆動系の状態維持につながる。
ブラシから超音波まで
BIC-110は、洗浄手段を選ばない汎用性にある。ブラシを使った手洗い、チェーン洗浄マシンへの充填、そして超音波洗浄機への使用まで、公式に対応が明記されている。
超音波洗浄機との組み合わせは、チェーン内部の洗浄において特に高い効果を発揮する。
超音波洗浄の原理は、液中に発生するマイクロバブル(微小な気泡)がチェーンの金属表面に衝突して崩壊するとき、その衝撃波が付着汚れを物理的に剥離させる「キャビテーション」という現象にある。
私が使用している超音波洗浄機は以下で紹介している。

ブラシでは物理的に到達できないローラー内部やピン周辺の隙間に、洗浄液ごとエネルギーを届けられるのが超音波洗浄の本質的な利点だ。
セラミックスピード社やFriction Facts、イズミチエンといったチェーン性能に精通するメーカーが推奨する洗浄方法にも、超音波洗浄が共通して含まれている。
超音波洗浄はもはやマニアの趣味ではなく、駆動系メンテナンスにおける合理的な選択肢として定着しつつある。家庭用の超音波洗浄機は数千円から入手可能であり、導入障壁は高くない。
ただし注意点もある。シマノは純正チェーンについて超音波洗浄機での清掃を推奨していない。その理由は、超音波で内部の工場出荷時グリスまで除去した場合、手作業による注油ではリンク内部まで潤滑剤が行き届かないためとされている。
超音波洗浄後は、超音波注油やドリップ式ワックスなど内部まで浸透する方法で確実に再潤滑することが前提となる。
洗ってみた
今回の洗浄手順は以下のとおり行った。
- チェーンをミッシングリンクで切り離す。
- 超音波洗浄機の槽に入る長さに折りたたむ(巻くとよい)。
- BIC-110を1:3の比率で水に希釈し、チェーンが浸る量を槽に注ぐ。
- 数分間の漬け置きで油泥を膨潤させる。
- 超音波洗浄機を稼働させる。
- 洗浄後、水でしっかりすすぐ。
- エアブローで水分を飛ばし、乾燥させる。
漬け置きの段階で、すでに洗浄液が茶褐色に濁り始める。超音波洗浄を開始すると、チェーンの隙間から茶色い油泥がもやもやと立ち昇り、透明だった液がみるみる茶色く変色していった。
目視では「あまり汚れていない」と思っていたチェーンから、これほどの汚れが出てくるという事実は、頭では理解していても実際に目にすると衝撃がある。
洗浄後のチェーンは、ローラーを指で回すと抵抗なく回転し、プレート表面は金属本来の光沢を取り戻していた。再注油後にクランクを回すと、洗浄前と比べて明らかに駆動音が静かになり、ペダリングの軽さにも体感できる違いがあった。
「きれいにする」とは、美観の話ではない。駆動系の機能回復の話である。
無臭の価値
BIC-110で最も気に入っている特性のひとつが、無臭であることだ。
石油系ディグリーザーの多くは、有機溶剤特有の刺激臭がつきまとう。ガレージや屋外で作業するならまだしも、マンションのベランダや室内で超音波洗浄機を稼働させる場面では、生活空間に臭いが侵食していく。
BIC-110は水溶性で無臭のため、室内環境で使用してもストレスがない。本製品には生分解性が備わっており、環境面でも一定の配慮がなされている。
洗浄剤の選択において「臭わない」ことは些末な要素に見えるかもしれない。
しかし、メンテナンスの頻度を上げるためには、その作業が日常に組み込めるかどうかが重要になる。強い臭いのせいで換気を気にし、家族の目を気にし、結果として洗浄作業を先延ばしにする。
そんな消極的なサイクルを断ち切る力が、無臭という特性にはある。
ディグリーザーか、クリーナーか
製品名は「洗浄剤」だが、その実態は表面を軽く拭くタイプのクリーナーとは異なる。
古くなった潤滑油とそこに捕集された摩耗粉や塵埃の混合物、いわゆる「油泥」を積極的に分解・除去する製品であり、性格としてはディグリーザーに近い。
ただし、石油系溶剤を使わず水希釈で使用する点で、従来のディグリーザーとも一線を画す。
つまりBIC-110は、ディグリーザーの洗浄力と、水溶性クリーナーの安全性・環境適合性を両立させた、駆動系専用の濃縮洗浄剤という独自のポジションを占めている。
特徴的なメリット
- 高い洗浄力:目視では確認できないチェーン内部の油泥まで効果的に除去する。超音波洗浄機との組み合わせで、その能力が最大限に引き出される。
- 濃縮設計による保管性と経済性:120mlのボトルから約480mlの洗浄液を生成可能。保管スペースを取らず、1mlあたりのコストも抑えられる。
- 用途の明確化:チェーン、スプロケット、プーリー、チェーンリングなど駆動系に特化し、対象が明確。
- 洗浄手段の自由度:ブラシ、チェーン洗浄マシン、超音波洗浄機のいずれにも対応し、ユーザーの設備環境を問わない。
- 無臭かつ生分解性:石油系の臭気がなく、室内作業が可能。環境負荷にも配慮された設計。
注意点としては、フレーム全体の洗浄には不向きだ。駆動系以外にはバイクウォッシュ系製品を別途用意する必要がある。洗浄後は必ず水ですすぎ、エアブローや自然乾燥で水分を完全に除去してから再潤滑すること。
金属パーツの防錆のためにも、乾燥と注油を怠らないようにしたほうがよい。
超音波洗浄で内部のグリスまで除去した場合、表面塗布型のオイルでは内部まで潤滑が行き届かない可能性がある。ドリップ式ワックスや超音波注油など、内部浸透性の高い方法で再潤滑することを推奨する。
見えない汚れに
サイクリストの多くは、機材の性能を上げることには熱心でも、その性能を維持するためのメンテナンスにはどこか無頓着なところがある。
ホイールやタイヤ、コンポーネントのアップグレードには数万円を費やしても、チェーンの内部洗浄には手間をかけない。しかし、駆動系の清浄さが走行抵抗と寿命に直結するという事実は、多くのチェーンメーカーの技術文書や摩擦研究が裏付けている。
CHEPARK BIC-110は、1,000円弱で約480mlの洗浄液を得られる経済的な製品であり、超音波洗浄機やチェーン洗浄マシンとの組み合わせで真価を発揮する。
無臭であることが日常的な洗浄習慣の定着を助け、濃縮ボトルの小ささが保管場所の制約を取り払う。
「きれいに見える」ことと「きれいである」ことは違う。
BIC-110と超音波洗浄機が暴き出す茶色いヘドロは、その差を可視化してくれる。私たちは走ることには一生懸命になるが、走った後に機材がどのような状態に置かれているかには、あまりにも鈍感だ。
見えない汚れに向き合うことは、機材への優しさであり、走りの質を根底から支える行為でもある。
現在、アマゾンが売り切れになっていますが、公式から注文できます。
https://shop.jroad-cycling.com/products/bic-110-超濃縮オイル汚れ洗浄剤











