72,000円の投資に見合うか?Suplest GRAVEL XC PROシューズ インプレッション

スポンサーリンク

スイスのサイクリングシューズブランド、Suplestが世に送り出すGRAVEL XC PROは、シクロクロス、グラベル、クロスカントリーの領域で、一切の妥協を許さないライダーのために設計されたハイパフォーマンスモデルだ。

世界のトップレーサーたちが求める最高の基準を満たすべく開発されたこのシューズは、快適性、精度、そして最大の効率性という、ともすれば相反する要素を高度に融合させることを目標としている。

本レビューでは、Suplest GRAVEL XC PROの技術的な特徴を詳細に分析し、筆者自身の様々な実走経験に基づいたパフォーマンス、フィット感、快適性、さらには耐久性について深く掘り下げていく。

Suplestの製品ラインナップにおいて、「PRO」を冠するモデルは、最高級の素材と最新技術の粋を集めた、文字通りのフラッグシップとして位置づけられている。したがって、このXC/Gravel PROもその系譜に連なり、単に高性能であるだけでなく、ブランドの技術的到達点を示す象徴的な製品と言えるだろう。

その価格設定(72,000円)からも、卓越した品質と性能への期待は自ずと高まる。本レビューは、その期待に違わぬ実力を備えているのか、多角的に検証を行っていく。

スポンサーリンク

設計思想と先端技術

Suplest GRAVEL XC PROは、単に高性能なパーツを組み合わせた製品ではない。各技術が有機的に連携し、ライダーのポテンシャルを最大限に引き出すことを目指した、緻密な設計思想の結晶である。ここでは、その核心をなす先端技術について解説していく。

アッパー構造:快適性と堅牢性の融合

アッパーの設計は、オフロードサイクリング特有の厳しい要求、すなわち保護性能、通気性、そして均一な圧力分散という、快適性とパフォーマンスの三位一体を追求している。

まず、アッパーの基本構造として、通気性に優れた3Dメッシュを、薄いTPU(熱可塑性ポリウレタン)層で覆った特殊なサンドイッチ構造が採用されている。

この革新的な組み合わせにより、長時間のライドでも蒸れにくい高度な快適性と、テクニカルなトレイル走行にも耐えうる堅牢性および安定性が見事に両立されている。TPUスキンはアッパー素材としての革新性を体現し、シューズ全体に設けられた連続的な通気孔が、常に快適な足内環境の維持に貢献する。

グラベルやXCライドでは、通気性と保護性、柔軟性とサポート性といった相反する要素が同時に求められるが、このサンドイッチ構造は、そうした複雑な要求に応えるための重要な設計判断と言えるだろう。

フィット感の鍵を握るのが、AnatomicWrap と呼ばれるアシンメトリー(非対称)なタング構造だ。

これは、多様な足の形状や幅に対応し、最大限のホールド感を実現するために特別に設計されたものだ。足全体を均一かつ快適に包み込み、特定の箇所への圧迫感、いわゆるプレッシャーポイントを最小限に抑えることを目指している。

サイクリングシューズにおいてフィット感はパフォーマンスを左右する最重要要素の一つであり、AnatomicWrapは個々のライダーに最適化されたフィット感を提供する上で中心的な役割を果たしている。

さらに、BOAフィットシステムのワイヤーが配置されるアッパー部分には、CarbonShield という薄いカーボン層が内蔵されている。このCarbonShieldは、BOAダイヤルを締め上げた際に生じるワイヤーからの圧力を足の甲全体に均一に分散させ、より快適で安定したフィット感を提供する。

特に、細く強力な締め付け力を持つBOAシステムのワイヤーにおいて、圧力が一点に集中しがちなのを効果的に防ぐ。これは、BOAシステムの高い締め付け力を、不快感なく足全体に伝えるための巧妙な工夫であり、長時間の快適性とパフォーマンス維持に大きく貢献する。

AnatomicWrapとCarbonShieldの組み合わせは、BOAシステムのポテンシャルを最大限に引き出しつつ、ライダーの足への負担を軽減する、非常に洗練されたシステムと言えよう。単に高性能な部品を組み合わせるのではなく、各部品が互いの性能を高め合うようにシステムとして設計されていることがうかがえる。

Suplestは、フィット感と快適性を犠牲にすることなく、高いホールド力とパワー伝達を達成しようとしており、これは特に長時間のグラベルレースや過酷なXCコースでその真価を発揮するだろう。

フィットシステム:BOA Li2ダイヤル

Suplest GRAVEL XC PROのフィットシステムの中核をなすのは、2つの高品質な双方向調整が可能なBOA Li2ダイヤルだ。このLi2ダイヤルは、従来のBOAダイヤルと比較して軽量かつ薄型化されており、締め付け方向だけでなく、解放方向へも1クリックずつの微細な調整が可能になっている。

これにより、ライダーはあらゆるコーナー、登り、スプリントといった走行中の状況変化に応じて、ミリ単位での精密なフィット調整を瞬時に行うことができる。

このBOA Li2ダイヤルの採用は、単なる利便性の向上に留まらない。ライダーがシューズとの一体感を極限まで高め、ペダリング効率を最大化するための重要な要素なのである。

特に双方向調整機能は、従来の単方向調整ダイヤルでは締めすぎた場合に一度大きく緩める必要があったのに対し、Li2では締めすぎても僅かに緩めることが可能であり、走行中でも足のむくみやプレッシャーポイントの変化に即座に対応できる。

これにより、常に最適なフィット感を維持しやすくなり、パワー伝達の向上、快適性の維持、そして疲労軽減に繋がる。微妙なフィット感の違いがパフォーマンスに大きく影響する競技志向のライダーにとって、これは計り知れないメリットとなるだろう。

Suplestがターゲットとする「世界のトップレーサーの要求」 に応えるための、具体的な機能選択と言える。

BOAシステムに使用されるレースは、CS1レースと呼ばれるタイプで、49本もの極細ステンレススチールストランドをナイロンで包み込んだ堅牢な構造を持つ。これにより、高い耐摩耗性を実現するとともに、泥や細かな破片、水分などを排出しやすい特性を備えている。

これらは、過酷なオフロード環境での使用においても高い信頼性と耐久性を維持している。シューズの寿命と信頼性に直結する部分であり、重要なポイントだ。さらに、BOAシステムには生涯保証が付帯しており、その品質と耐久性に対する自信の表れと言えるだろう。

ソールテクノロジー:ERGO 360°カーボンソールとSUPtractionラバーの調和

Suplest GRAVEL XC PROの心臓部とも言えるソールには、ペダリング効率とオフロードでの実用性という、時に相反する要素を高次元で融合させるための技術が凝縮されている。

その根幹をなすのが、ERGO 360°カーボンアウトソールである。これは軽量でありながら超高剛性を誇る3Kカーボン素材で成形されており、Suplestのシューズラインナップにおいて最も硬い剛性指数10/10を達成している。

この圧倒的な剛性により、ライダーのペダリングパワーは一切のロスなくペダルへと伝達され、推進力へと変換される。また、ソールのスタックハイト(ペダル軸中心から足裏までの距離)は最小限に抑えられており、よりダイレクトなペダリングフィールとバイクコントロールの安定性向上に貢献する。

剛性指数10/10は、レース志向のライダーにとって不可欠な要素であり、ペダルへの入力に対する俊敏な反応を引き出す。

一方、オフロードでの歩行性能を左右するのが、スイスのラバーコンパウンド専門メーカーSUPtractionと共同開発したラバープロファイルである。

https://www.suptraction.ch/#!arbeiten.php?id=9&menuId=5

SUPtractionは、XC、トレイル、ロードなど、それぞれの用途に最適化された専用コンパウンドを開発しており、本シューズに採用されているラバーソールは、グラベルやXCコースでバイクを降りて歩いたり、担いだりする必要がある場面で、必要十分なグリップ力を発揮するよう設計されている。

特に前足部には、アッパー素材を保護するための非対称な形状のラバートレッドが効果的に配置されている。

ERGO 360°カーボンソールの極めて高い剛性と、SUPtractionラバープロファイルの確実なグリップ力は、ペダリング効率と歩行性能という二律背反しがちな要素を両立させようとするSuplestの野心的な試みである。

剛性10/10のソールは一切のたわみを許さずパワーを伝達する一方で、計算されたラバープロファイルは困難な地形での足元の安定を支える。XC/Gravel PROは短いオフロード区間での歩行も良好なグリップが期待できる。

しかしながら、このシューズの設計思想はあくまで「ペダリング効率最優先、ただし最低限必要な歩行性能は確保」というものであり、長時間のハイクアバイクにおける快適性は、より柔軟なソールを持つモデルには及ばない可能性が高い。

後述するFlexZoneがペダリング時の快適性向上を主目的としつつも、歩行時の前足部の屈曲性にも僅かながら貢献する可能性はあるが、基本的にはレース中の短い担ぎや、テクニカルなセクションでの足つきにおいて、SUPtractionのグリップが大きな助けとなる、という位置づけだろう。

これは、レースでの1秒を争うライダーや、テクニカルなコースを積極的に攻めるライダーにとって最適なバランスと言えるかもしれない。

さらに、泥や氷結した路面といった極めて滑りやすいコンディションでのグリップ力を大幅に向上させるため、つま先部分にはトゥースパイク(スタッド)の装着が可能となっている。

これは特にマッドコンディションが多いシクロクロスやXCレースにおいて、決定的なアドバンテージとなり得る機能である。

インソール:SOLESTAR

サイクリングシューズの性能を語る上で、インソールはしばしば見過ごされがちな要素であるが、フィット感、快適性、そしてパワー伝達効率に大きな影響を与える隠れた重要パーツである。

Suplest GRAVEL XC PROを含むSuplestの上位モデルには、サイクリング専用インソールのスペシャリストとして名高いSOLESTAR社のインソールが標準装備されている。これは、Suplestがシューズ全体のパフォーマンスを細部に至るまで追求していることの証左と言えるだろう。

SOLESTARのインソールは、ニュートラルな足のポジショニングという革新的なコンセプトに基づき、プロサイクリストとの共同開発によって生み出された。その最大の特徴は、パワーロスを限りなく抑えつつ、最大限の快適性と安定性を提供することにある。

具体的には、足のアーチを適切にサポートし、ペダリング時に起こりがちな足首の回内・回外といった不安定な動きを抑制する。これにより、足・膝・股関節のアライメントが整い、より効率的で安定したペダリングフォームが促進される。

結果として、パワー伝達効率が向上し、長時間のライディングにおける疲労蓄積の軽減や、オーバーユースによる怪我のリスク低減にも貢献する。

多くのサイクリングシューズに付属する標準的なインソールは、サポート機能が限定的で薄いものが多く、シリアスなライダーほどアフターマーケットの高機能インソールに交換するケースが少なくない。

その点、SOLESTARインソールが標準装備されていることは、購入後すぐに最適な状態でシューズを使用できることを意味し、特にパフォーマンスを最優先する層のライダーにとっては大きな付加価値となる。

ERGO 360°カーボンソールの極めて高い剛性が、ペダリングパワーを効率的に伝達するための強固な「土台」であるとすれば、SOLESTARインソールは、ライダーの足からその土台へとパワーを最適に伝達するための精密な「インターフェース」としての役割を果たす。

また、高剛性ソールがもたらしうる足裏への局所的なストレスを、適切なサポートによって分散・軽減する効果も期待できる。

Suplestは、シューズ本体の性能だけでなく、インソールという要素も含めてトータルでパフォーマンスを設計しており、高価なシューズに見合うだけの「完成されたパッケージ」を提供しようという明確な意図がうかがえる。

快適性への配慮:FlexZoneとHeelFitテクノロジー

Suplest GRAVEL XC PROは、究極の剛性とパワー伝達性能を追求する一方で、ライダーの快適性を決して犠牲にしないための重要な配慮が随所に見られる。

特に長距離・長時間の過酷なグラベルライドやXCレースにおいて、ライダーの疲労を軽減し、パフォーマンスを持続させる上で決定的な役割を果たすのが、FlexZoneとHeelFitという二つのテクノロジーである。

FlexZoneは、アッパーの前足部、特に母指球から小指球にかけての最も幅が広い部分に設けられた柔軟なエリアである。ペダルに力を加えるプレッシャーフェーズにおいて、このFlexZoneが足指の自然な動きや広がりを許容し、圧迫感を軽減する。

特に高剛性なカーボンソールを持つシューズの場合、前足部の柔軟性が不足すると、長時間の使用で圧迫感や痺れといった不快感の原因となることがある。

FlexZoneは、ソールの剛性を損なうことなくアッパーに柔軟性を持たせることで、この問題を効果的に緩和し、長時間のライドでもシューズの快適性を維持することに貢献する。

一方、HeelFit(または3Dヒールカウンター)は、ペダリング効率と安定性に不可欠な、踵の確実なホールドを実現するためのテクノロジーである。

精密に成形された3D形状のヒールキャップ、足の形状に合わせて最適化されたプレシェイプドフォーム、そして肌触りの良いマイクロファイバーライニングを組み合わせることで、踵部分をしっかりと包み込み、最大限のヒールホールドを達成する。

これにより、ペダリング中の足の不必要な滑りや浮き上がりを最小限に抑え、特に引き足を使った際のパワー伝達効率を向上させる。一部のSuplestシューズでは、さらにヒールスリップを防ぐために「キャットタン」と呼ばれる逆目生地がライニングに採用されることもある。

これらの快適性技術は、Suplest GRAVEL XC PROが単なる「硬いだけのレースシューズ」ではなく、長時間の競技や過酷なライドでもライダーをサポートする「総合的に高性能なシューズ」であることを目指している設計思想の表れだ。

確実なヒールホールド(HeelFit)が足全体をシューズ後方に安定させ、その上で前足部の適度な柔軟性(FlexZone)が快適性を提供する。この連携により、ライダーはペダリングに集中でき、持てるパワーを効率的に、かつ持続的にペダルへと伝え続けることが可能になる。

スポンサーリンク

インプレッション:Suplest GRAVEL XC PROとの一体感

ここでは、筆者が実際にSuplest GRAVEL XC PROを様々なシクロクロス、グラベル、XCコンディションでテストした際の体験に基づき、その性能、フィット感、快適性について詳細に紹介する。

フィット感:足を入れた瞬間の期待と現実

Suplest独自の「Competition Last」は、パフォーマンスを追求するサイクリストのために特別に設計されたラスト(靴型)であり、同ブランドのシューズ作りの核となるものだ。

このラストを基に、ERGO 360°コンセプトがシューズ全体の形状とフィットを定義している。Suplest GRAVEL XC PROに足を入れた瞬間に感じられるのは、適度なタイトさを伴う、レーシングシューズ特有の包み込まれるような感覚だ。

これは、シューズが足と一体化し、ライダーの意図をダイレクトにバイクへと伝えるための準備が整ったことを予感させる。

アッパーに採用されたAnatomicWrapタングは、そのアシンメトリーな形状によって甲全体を均一に包み込み、特定の箇所への圧迫感を効果的に軽減する。そして、2つのBOA Li2ダイヤルを操作することで、フィット感の微調整が始まる

このLi2ダイヤルは、締め付け方向にも解放方向にも1クリック単位での精密な調整が可能であり、走行中であっても容易に理想的なフィット感へと追い込むことができる。ワイヤーの圧力を分散するCarbonShieldの恩恵もあり、強力なホールド感と快適性が両立されている印象だ。

しかし、フィット感の評価は、足形は千差万別のため若干の差異があることは留意しておきたい。普段着用しているサイズ40で良好なフィット感を得ており、AnatomicWrapが様々な足型に対応する点は評価できる。

私は幅広である自身の前足部にもジャストフィットしている。EU40サイズでSidi、Giro、Lake、シマノといった主要ブランドの同等サイズと同様のフィット感だ。その上で、BOAシステム、CarbonShield、そしてAnatomicWrapが織りなす「第二の皮膚のようなフィット感」がある。

Photo: Aoi Lab

これらの評価を総合すると、Suplest GRAVEL XC PROの「Competition Last」とAnatomicWrap、BOA Li2システムの組み合わせは、非常に高いホールド性能とカスタマイズ性を提供する一方で、そのフィット感は万人に共通というわけではない。

個々の足型、特に特定の指の形状によっては、相性の問題が生じる可能性が示唆される。「Competition Last」という名称自体が、快適性よりもパフォーマンスを優先しているが、シマノワイドシューズしか合わないような筆者の足型でも窮屈さを感じなかった。

AnatomicWrapがこれを補完する形ではあるものの、ベースとなるラストとの相性が根本的に合わない場合、調整範囲を超えた問題(擦れなど)が発生しうる。したがって、購入を検討する際には、自身の足型をよく理解し、可能であれば試着を通じてフィット感を確認することの重要性が改めて浮き彫りになる。

剛性とパワー伝達

Suplest GRAVEL XC PROのペダリングパフォーマンスは、その核心技術であるERGO 360°カーボンソールの圧倒的な剛性によって特徴づけられる。

剛性指数10/10を誇るこの3Kカーボンソールは、ペダルを踏み込んだ瞬間に、その揺るぎない硬さを明確に伝わってくる。入力した力が一切のロスなくダイレクトに推進力へと変換されていく感覚は、まさにトップレベルのレーシングシューズそのものだ。

スプリントやヒルクライムでのアタックといった高強度が求められる場面で、その真価を遺憾なく発揮するだろう。

この卓越したパワー伝達をさらにサポートするのが、標準装備されているSOLESTARインソールだ。この高機能インソールは、足裏のアーチを適切にサポートし、ニュートラルな足の位置を維持することで、ペダリング中の足の不要なブレや沈み込みを効果的に抑制する。

これにより、安定した効率的なペダリングフォームが可能となり、高剛性カーボンソールとの相乗効果によって、よりスムーズで力強いパワー伝達を体感できる。

さらに、ソールのスタックハイトが低く抑えられている点も、ペダリングパフォーマンス向上に寄与している。ペダル軸中心から足裏までの距離が近いことで、よりダイレクトなペダリングフィールが得られ、バイクとの一体感が高まる。

これは、安定した足運びや効率的なアンクリング(足首の動き)にも繋がり、ペダリングスキルを最大限に活かすことを可能にする。

総じて、Suplest GRAVEL XC PROのペダリングパフォーマンスは、剛性、サポート、ダイレクト感という三拍子が揃っており、特に競技志向のライダーにとっては、レースやタイムトライアルにおける大きな武器となるだろう。

ただし、この極めて高い剛性は、長距離ライドにおける快適性とのバランスにおいて、ライダーの脚力やペダリングスキル、あるいは走行する路面状況によっては、諸刃の剣となる可能性も秘めている。

FlexZoneやSOLESTARインソールといった快適性向上機能がこれをどこまで緩和できるかが鍵となるが、基本的には短時間高強度のXCレースや、路面状況が比較的良好なグラベルレースでそのアドバンテージを最大限に発揮するタイプのシューズと言える。

非常に荒れた路面を長時間走行するようなエンデュランス系のグラベルライドでは、ある程度のソール柔軟性を持つシューズと比較して、疲労が早く訪れる可能性を考慮する必要があるだろう。ライダーの主な用途と好みによって評価が分かれるポイントである。

多様な路面状況への対応力

グラベルライディングの魅力は、舗装路から未舗装路、シングルトラックまで、変化に富んだ路面を走破する点にある。Suplest GRAVEL XC PROは、こうした多様な状況に対応するための能力を備えている。その鍵となるのが、SUPtractionラバーソールだ。

この特殊なラバーコンパウンドと計算されたトレッドパターンは、ドライコンディションの硬く締まったグラベルロードから、ウェットで滑りやすい泥道、さらには木の根や石が露出するテクニカルなシングルトラックに至るまで、様々な路面状況で信頼性の高いグリップを提供する。

特に、緩い砂利道での急な登坂や、タイトなコーナーリングといった場面で、そのトラクション性能と安定性がライダーに自信を与える。雨の菖蒲谷と八幡浜国際のXCで下車を強いられたが、「ウェットでも確かな足場を提供するスーパーグリッピーなコンパウンド」と表現したい。

さらに、Suplestは過去の製品からのフィードバックを活かし、トレッドデザインの改善にも取り組んでいる。以前のモデルでは角張ったトレッドブロック間に石や破片が詰まりやすいという問題があったが、新しいデザインではこれが解消されている。

また、トゥースパイクの取り付け位置をやや後方に移動させることで、泥や氷といった極めて滑りやすいコンディションでのグリップ力をさらに向上させている。こうした改善は、製品の成熟度と、ユーザーの実際の使用シーンへの深い理解を反映しており、実用性をより一層高めている。

高いホールド性能を持つアッパー、パワーをダイレクトに伝える高剛性カーボンソール、そして路面を確実に捉えるSUPtractionアウトソールの三位一体の連携によって、ライダーは荒れた路面でもバイクコントロールに集中できる安定感を得ることができる。

また、SUPtractionソールのトレッドパターンは、泥はけ性能も考慮されており、マッドコンディションにおいてもグリップ力の低下を最小限に抑える設計が期待される。

総じて、SUPtractionソールの性能は、グラベルライディングにおける多様な路面変化への対応力を高める重要な要素である。単に「グリップが良い」というだけでなく、「様々な状況で信頼できるグリップ」を提供することが、このシューズの大きな強みと言えるだろう。

快適性と通気性

Suplest GRAVEL XC PROは、レースでのパフォーマンスを最優先に設計されつつも、長距離・長時間のライドにおける快適性の維持にも配慮がなされている。その一つが、前足部に設けられたFlexZoneだ。

この柔軟なエリアは、ペダリング中に足指にかかる圧迫感を軽減し、特に長時間のライドでの指先の快適性維持に貢献する。高剛性なカーボンソールを採用しながらも、足指周りにはある程度のゆとりと柔軟性が感じられ、血流の阻害や痺れの発生を抑制する効果が期待できる。

アッパー素材の通気性も、長距離ライドの快適性を左右する重要な要素だ。3Dメッシュと薄いTPUコーティングを組み合わせたサンドイッチ構造のアッパーは、優れた通気性を確保し、シューズ内の蒸れを効果的に軽減するよう設計されている。

「連続した通気孔が快適な足内環境を確保する」とされており、快適な足内環境を確保するよう設計された通気孔に仕上がっている。

さらに、標準装備のSOLESTARインソールも、快適性向上に大きく寄与する。適切なアーチサポートにより足裏全体の圧力が均等に分散され、特定の箇所に圧力が集中して生じるホットスポットの発生を抑制する。

これにより、長距離での足裏の疲労軽減と快適性向上に繋がる。FlexZoneによる物理的な圧迫感の軽減と、SOLESTARインソールによる生体力学的なサポートが相乗効果を生み、長距離での快適性を高めている。

絶対的な通気性を最優先するライダーや、日本の夏のような極端な高温多湿環境での使用が多いライダーは、他の超軽量・高通気性モデルと比較検討する余地があるかもしれない。とはいえ、フィット感やサポート性を含めた総合的な快適性は高いレベルにあると期待できる。

耐久性:オフロードでの実用性

グラベルライドやXCレースでは、乗車したままでは通過できないセクションでバイクを降りて押したり担いだりすることが不可欠となる場面がある。Suplest GRAVEL XC PROは、こうした状況にも対応できる実用性を備えている。

その中心となるのが、SUPtractionラバーソールだ。このソールは、バイクを降りて歩く必要がある場面で、優れたグリップ力と安定性を提供する。ソール全体の形状が非サイクリングシューズのような自然な歩行感で、短いオフロードセクションでの歩行も良好なグリップがある。

しかしながら、剛性指数10/10という極めて硬いカーボンソールを採用しているため、長時間の歩行が快適であるとは言い難い。前述のFlexZoneが前足部の屈曲を僅かに助ける可能性がある。

しかし、その主目的はあくまでペダリング時の快適性向上であり、歩行性能への寄与は限定的と考えるべきだろう。したがって、このシューズの歩行性能は、あくまで短距離・短時間と割り切るべきであるが、その際のグリップ力は信頼に足るものと言える。

さらに、泥濘地や急勾配の担ぎといった困難な状況では、つま先部分に装着可能なトゥースパイク(スタッド)が強力な武器となる。トゥースパイクを装着することで、滑りやすい路面での推進力と安定性が格段に向上する。

アッパーの耐久性と保護性能もオフロードシューズには欠かせない要素である。薄いTPU層でコーティングされた3Dメッシュアッパーは、木の枝や岩との擦れ、細かな衝撃に対する十分な耐久性を持ち、オフロードでのタフな使用にも耐えうる堅牢性を備えている。

また、前足部に設けられた非対称のラバートレッドは、アッパーのつま先部分を効果的に保護する役割も果たす。

興味深い点として、ホワイトという汚れが目立ちやすいカラーリングでありながら、メンテナンス性が優れている。ホワイトのシューズが泥まみれになっても、ライド後に水拭きするだけでほぼ新品同様の美しい状態を保つことができる。

先ほどの泥も、洗うとこんな感じできれいになります。

高価なシューズを長く綺麗に使用したいと考えるライダーにとって、これは所有満足度を高める重要な要素となるだろう。「汚れるのが怖くて使えない」というジレンマを軽減してくれるかもしれない。

総じて、Suplest GRAVEL XC PROは「レースで勝つため、あるいは最速で走るため」に設計されており、歩行性能はその目的を達成するための補助的機能と位置づけられる。頻繁な長距離ハイクアバイクが予想されるアドベンチャーライドには不向きかもしれないが、レース中の短い担ぎ区間では十分な性能を発揮する。

スポンサーリンク

まとめ:Suplest GRAVEL XC PROは誰にとって最高の選択肢か

Suplest GRAVEL XC PROは、その技術的特徴と実走性能から、特定の目的を持つライダーにとって最高の選択肢となり得る一方で、万能シューズではない。その特性を深く理解し、自身のライディングスタイルやニーズと照らし合わせることが、購入を検討する上で極めて重要である。

本シューズの長所と潜在的な短所のまとめ

  • 長所:
    • 卓越したパワー伝達効率: 剛性指数10/10を誇るERGO 360° 3Kカーボンソールが、ライダーのパワーを一切ロスすることなく推進力に変換する。
    • 精密かつ快適なフィット感: デュアルBOA Li2ダイヤルシステム、AnatomicWrapタング、CarbonShieldの組み合わせにより、個々の足型に合わせた微調整が可能で、高いホールド感と快適性を両立する。
    • 優れた足のサポートと安定性: 標準装備のSOLESTARサイクリング専用インソールと、3Dヒールカウンター(HeelFit)が、ペダリング中の足の安定性を高め、効率的な動作をサポートする。
    • 多様なオフロード路面に対応するグリップ力: スイスのSUPtraction社と共同開発したラバーソールが、ドライからマッドまで様々な路面で信頼性の高いグリップを提供する。
    • 長距離ライドを考慮した快適性機能: 前足部のFlexZoneが、ペダリング時の圧迫感を軽減し、長時間の快適性維持に貢献する。
    • 高品質な素材と製造品質: スイスブランドらしい、細部にまでこだわった素材選定と丁寧な作り込みが感じられる。
    • オフホワイトカラーでも比較的容易なメンテナンス性: 汚れやすい白系のカラーでありながら、手入れによって美観を保ちやすいとの報告がある。
  • 潜在的な短所:
    • 高価格帯: 72,800円という価格は、サイクリングシューズ市場においてプレミアムセグメントに位置し、全てのライダーにとって容易に手が届くものではない。
    • フィット感が個々の足型に左右される可能性: 特に幅広の足を持つライダーにとって、フィット感に課題が残る可能性がある。試着による確認が強く推奨される。
    • 極度の高剛性ソールによる快適性の限界と歩行への不向き: 圧倒的な剛性はパワー伝達には優れるものの、超長距離ライドや極端に荒れた路面では足への負担が増す可能性があり、また長時間の歩行には適していない。

ターゲットユーザーへの適合性、推奨される使用シーン

  • 最適なユーザー:

    • グラベルレースやXCレースで最高のパフォーマンスを追求し、1秒でも速く走りたいと願う競技志向のサイクリスト。
    • テクニカルなオフロードコースを積極的に攻め、バイクコントロールとペダリング効率の両立を求めるライダー。
    • 最新のシューズテクノロジーや高品質な素材、緻密な設計思想を評価し、それらに相応の投資を惜しまない知識のある消費者や専門家。
    • シューズとの一体感、精密なフィット調整、そしてダイレクトなパワー伝達を最優先事項と考えるライダー。
  • 推奨される使用シーン:

    • グラベルレース全般(耐久レース、テクニカルなコース)。
    • クロスカントリー(XC)オリンピック、XCマラソンといったMTBレース。
    • ハイスピードなグラベルトレーニングや、テクニックが要求されるオフロードライド。
    • CXなど

Suplest GRAVEL XC PROの価格72,000円は、疑いなく高価格帯に属する。

しかし、その価格設定の背景には、3Kフルカーボンソール、デュアルBOA Li2ダイヤル、SOLESTARインソールの標準装備、スイスのSUPtraction社製ラバーソールといった最先端技術の採用、そしてスイスブランドとしての高い開発・設計品質がある。

これらの要素を総合的に考慮すれば、価格に見合うだけの根拠があると言えるだろう。

ただし、類似のSuplest製高性能シューズについて、その性能は認めつつも、最終的な価値判断は、ライダー個々の要求レベル、予算、そしてこのシューズが提供する特有のフィット感やパフォーマンス特性が、自身のニーズとどれだけ合致するかによって大きく左右される。

結論として、Suplest GRAVEL XC PROは、妥協のないパフォーマンスを追求し、そのための投資を厭わない特定の層のライダーにとっては、最高の選択肢となり得る可能性を秘めている。

しかし、その先鋭的な特性ゆえに、全てのライダーにとって万能なシューズではない。

購入を決定する際には、単なるスペック比較だけでなく、ブランドのフィロソフィーへの共感や、可能であれば試着によるフィット感の確認が不可欠である。高価なシューズであるが、いまメインシューズとして使う満足度の高いシューズに仕上がっている。

GRAVEL XC PRO
新しいPROは、高性能を追求し、世界のトップレーサーの要求に応えるために特別に設計されたレース向けシューズです。アッパーには、3Dメッシュに薄いTPU層をコーティングした独自のサンドイッチ構造を採用し、優れた履き心地を提供します。つま先部分にある新しいFLEX ZONEにより、ペダルを踏み込む際の圧力フェーズで快適性が向上します。BOA® Fit System Li2と3Dヒールキャップにより、足...
Ads Blocker Image Powered by Code Help Pro

広告ブロックが検出されました。

IT技術者ロードバイクをご覧いただきありがとうございます。
皆さまに広告を表示していただくことでブログを運営しています。

広告ブロックで当サイトを無効にして頂き、
以下のボタンから更新をお願い致します。