ツール・ド・フランスのモン・ヴァントゥーで軽量バイクとエアロロードどちらが速いのか?

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2021年ツール・ド・フランスの第11ステージ(モン・ヴァントゥーを2回も越える山岳ステージ)において、軽量ヒルクライムバイクと、重いエアロロードバイクのどちらが最速のセットアップなのか。

SWISS SIDEは、TdF第11ステージを想定して詳細なシミュレーションを行なった。

2021年7月7日、このステージでワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)が逃げ切り勝利したことでも記憶に新しい。ツール・ド・フランス第11ステージは、「魔の山」と呼ばれる単独峰モン・ヴァントゥーを2回登ったあと、22kmのダウンヒルが待っている。獲得標高差は4,600mにも達する。

ロードレースのコースの中でも特に厳しく、伝説の峠がおり込まれた人気のコースだ。

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レースは、画家のピカソがかつて拠点を置いたソルグからスタートする。はじめに登場するのは4級山岳が2つだ。平坦からでも目の先には、「プロヴァンスの巨人」の姿が常に見え隠れする。

ステージ半ばに登場する1級山岳を超えると、いよいよヴァントゥへ突入する。しかし、上りが終わったとしてもレースは終わらない。2度目の山頂通過後に22kmの長いダウンヒルが待っているのだ。

伝説の峠モン・ヴァントゥーを2度登り、そして22km下る全長198.9km、獲得標高4,600mの非常に厳しいコース。SWISS SIDEは実際にこのコースを用いて、最も速くゴールするための機材とチーム戦略についてシミュレーションを行なった。

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空力 vs 重量 モン・ヴァントゥシミュレーションの概要

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「TdF第11ステージにおいて、軽量ヒルクライムバイクと、重いエアロロードバイクのどちらが最速か」

この問いに答えるため、SWISS SIDEは5つのシナリオをシミュレートした。

  1. 全てのコースをソロライダーが走る場合(軽量バイク vs エアロロード)
  2. 全てのコースを2人のライダーが強調した場合(両方エアロロード)
  3. 登りのみを単独走行した場合(軽量バイク vs エアロロード)※コースマップの赤色で示したラストの登り坂が対象。
  4. チーム(2名)で登りのみを走行。(軽量バイク vs エアロロード)※コースマップで示した青のラスト下り坂が対象
  5. 単独で最終の下りを走る場合。(軽量バイク vs エアロロード)※

シナリオ4では、最後の登り(赤色)のみをシミュレートしている。これは、エースライダーがアシストと一緒に、登り手前のアプローチまで走り、その登りでレースの勝負所(決戦)が展開される現実的な想定を行なったためである。

シミュレーションは、SWISS SIDEのパフォーマンスシミュレーションツールで行われた。以下の関連要素をすべて考慮した上で、コースを走り切るために必要な時間をシミュレートしている。

  • 物理的要素:重量、コース形状、エアロダイナミクス、転がり抵抗、ドライブトレイン損失
  • 環境要素:気温、気圧、密度、風
  • 生理学的要素:ライダー限界出力(CP)、Wprime(W’)

シミュレーションは、1人のライダーだけでなく、複数のライダーがチームとして参加する。エースライダーが最短時間でトップに立つために、最適な仕事(ローテションや風よけなど)を分担する。集団のシミュレーションは、低速でも決して無視できないドラフティング効果も考慮されている。

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シミュレーションのセットアップ概要

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  • コース:2021年TdF第11ステージ。わかりやすくするため、天候は風が穏やかで乾燥している日とした。
  • 典型的なグランツールライダーの生理学的特性として、体重は63kg、クリティカルパワーは360Wを用いた。
  • 軽量バイクは、UCIが定める最低重量である6.8kgとした。
  • エアロロードは、+1kg重い7.8kgとした。
  • 空気抵抗は、ライダーの典型的な数値をもとに、エアロロードのCdAは0.260、クライミングバイクのCdAを0.280とした。空気抵抗は、ライダーのポジションや速度に応じて調整した。例えば、エアロポジションで下ったり、急な登りでダンシングすることを想定した。
  • チームのシミュレーションでは、単純化のため2人のライダーだけを考慮した。エースライダーには、1人のアシストが割り当てられており登りでサポートを受けた。アシストのパワー戦略としては、山頂の3km手前で利用可能なエネルギーをすべて使い切る(W’=0)。その後、エースライダーは登りのピークまで単独走行をおこなう設定にした。ドラフティングの空気抵抗低減も含めた。
  • ラストの22kmの下りでは、エアロロードとヒルクライムバイクのタイムロス/ゲインをシミュレートし、エアロロードが下りで高速になり、タイムが回復するかどうかを判断した。
  • 転がり抵抗係数(Crr)は、両者とも0.0033に固定した。グランツールの場合、軽量なクライミングバイクは転がり抵抗の大きいチューブラータイヤを装着している場合が多い。この効果を定量化するために、転がり抵抗の感度調整も行った。
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結果

ソロライダーによる全コースの走行した場合

  • 軽量クライミングバイクを使用したソロライダーの場合、コース全体を走行するのにかかった時間は5時間23分24秒、平均速度は36.5km/hとシミュレートされた。
  • エアロロードの方が、全行程で-3m16秒(トータルタイム-1.0%)速く、平均速度は36.9km/hだった。

2人のライダーが全行程で協調した場合

  • 二人のライダーは、より速いエアロロードのセットアップを使用した。
  • 2人のライダーが全行程を走破するのに必要な時間が最小になるように、パワーを最適化した方法でライダーが仕事を分担した。
  • 単独で走った場合と比較して、2人で走った場合の時間短縮はソロライダーと比較して-4m46s(-1.5%)。平均時速37.5kmだった。

単独で上りのみを行う場合

  • ソロライダーが軽量クライミングバイクに乗った場合、最後の上りをカバーするのにかかった時間は58m53s、平均速度は21.5km/hとシミュレートされた。
  • エアロロードの場合、最後の上りで+19秒遅く、平均速度は21.4km/hだった。

チーム2名で登りのみ

  • 2人のライダーが軽量なクライミングバイクを使い、パワーを最適化した場合、最後の登りにかかる時間は57m51s、平均速度は21.9km/hとシミュレートされた。これは、軽量クライミングバイクを使用したソロのライダーよりも1分2秒速いタイムだった。
  • 同じ2人のライダーがエアロロードを使用した場合、最後の登りでは+22秒遅くなり、平均速度は21.8km/hだった。

最終の下り

  • 最後の下りでは、軽量クライミングバイクよりもエアロロードを使用したソロライダーのほうが24秒速かった。つまり、軽量クライミングバイクの登りでのアドバンテージは、下り坂で無効になる。
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転がり抵抗の影響

本研究における転がり抵抗(Crr)は、軽量バイク、エアロロードバイクそれぞれ0.0033で統一されている。しかし、現実にUCIの最低重量6.8kgを達成するためには、チューブラーホイールとチューブラータイヤを使用することが想定される(イネオスのDOGMA F12 x Lightweightといったように)。

エアロロードのセットアップは、クリンチャータイヤを使用し転がり抵抗が軽減されている。対して、チューブラータイヤは、明らかに転がり抵抗が増加することがわかっている。タイヤ銘柄にもよるが、クリンチャータイヤ比で30%増におよぶ場合もある。

この転がり抵抗の効果を定量化するために、転がり抵抗の感度調査も行われている。Crrを0.0043(+30%)に増加させると、以下のようなタイムロスが生じる。

  • コース全体:+2分45秒
  • 最後の上り坂:+33秒

以上の結果から、軽量クライミングバイク&チューブラータイヤと、エアロロードバイク&クリンチャータイヤを比較した場合、純粋な上り坂であったとしても軽量クライミングバイクの優位性は「転がり抵抗の増加」により全て失われてしまう可能性が高いことがわかる。

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まとめ:重量よりも空力が勝る

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ツール・ド・フランス第11ステージのモン・ヴァントゥーを2回登るコースにおいて、最速のセットアップは「エアロロード」だ。しかし、山頂でフィニッシュする他のコースでは、軽量なクライミングバイクが最後の登りで戦略的なアドバンテージをもたらすかもしれない。

しかし、このステージ11では、モン・ヴァントゥーの最後の登りと同じ標高差のロングダウンヒルがあり、登りでの軽量化によるアドバンテージはスポイルされてしまう。クライミングバイクがエアロロードに対して優位に立てるのは、純粋な登りだけといえる。

しかし、これは両バイクが同じ転がり抵抗のホイールとタイヤの組み合わせを使用することを前提にしている。転がり抵抗の感度調査から、この効果は無視できないことがわかった。

軽量クライミングバイクでチューブラータイヤを、エアロロードがクリンチャータイヤを使用した場合、軽量化によるクライミングバイクの優位性は、チューブラータイヤの転がり抵抗の増加により無かったことにされる可能性がある。

以上の結果から、軽量クライミングバイクよりも1kg重いエアロロードのほうが、全行程を速く走れることがわかる。

さらにもう一歩踏み込んだ機材選定を行う場合、UCI規定の6.8kgを遵守するレースに出場するための機材選定において、できるだけ空力性能に優れたエアロロードの重量6.8kgに近づけ、転がり抵抗が小さいクリンチャータイヤを用いるということが最適解といえるだろう。

以下、関連記事として空力のスペシャリストデイモン・リナード氏も同様に軽量クライミングバイクとエアロロードの比較実験を行なっている。今回はモン・ヴァントゥのステージを想定したが、以下の記事では勾配の変化と速度に応じたエアロロードと、軽量クライミングバイクの比較が行われている。

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ジェイムズ ウィッツ(著), 西薗 良太(監修), 西薗 良太(翻訳)
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