開幕戦へ。季節が巡るように、また泥の上に立つ日が来た。泥は無かったけどね。JCXシクロクロスの開幕戦、茨城シクロクロス土浦ステージへ。
もうシクロクロスの時期かぁ、と思いながら茨城へ向かう。ついこの間までロードで灼熱の中、汗をかいていたはずなのに、気づけば朝の空気は乾いていて、季節はこちらの都合などお構いなしに巡ってくる。
10年以上、開幕戦は関西シクロクロスを走ってきた。けれど、私はエンジンが掛かり始めるのが毎年遅い。だったら、エンジンが温まるのを待つのではなく、こちらから火を入れねば。そう考えて、今年は一足お先に関東の開幕戦へ。
もちろん、ポイントを取りに行きたいという現実的な理由もある。
そしてもうひとつ。刺激を入れること、そして「いまの自分がどれだけ走れるのか」を確かめること。シーズン最初のレースというものは、結果以上に、自分がいまどこにいるのか、現在地を測る測定器のようなものだと思っている。
昨年の記憶と、今年の備え
昨年のことを思い出す。当時は開幕まで誰にも言わなかったが、怪我をして自転車に乗れない時期が長く、正直メンタルをやられていた。なんとか身体と気持ちを戻して迎えたシーズンは、幸先よくここ土浦で優勝できた。
ところがその後がひどかった。インフルエンザ、肺炎、溶連菌のコンボで、シーズンは開幕2レース目で事実上終わってしまった。
勝った直後に全てを失う。あの落差は、勝利というものが永続しないことを、嫌というほど教えてくれた。勝ちは「状態」ではなく、ある一瞬の「出来事」に過ぎない。そして、その一瞬をシーズンに繋げられるかどうかは、レースの外側にある日常で決まる。
だから今年は、インフルエンザワクチンを打ち、予防してシクロクロスに挑む。うがい手洗い、地味だけれど、走れない冬をもう一度過ごすよりはずっといい。
トレーニングは、ツール・ド・おきなわに出る妖怪たちと、毎週180km~200kmオーバーを淡々と繰り返してベースを作った。思い返せば今年は5月ぐらいからずっと乗り込んでいた。シクロクロス専用の練習は1ヶ月前くらいから。
8の字から始めて、スタンディング、フロントアップ、リアアップといった基本動作を一つずつ確認する。MTBにも乗った。派手なことは何もしていない。ただ、基本を積み重ねただけ。準備はしてきた。あとは、それがどこまで通用するか。
土浦のコース
コースは例年と変わらず。レイアウトも何もかも同じ。若干ぬかるんではいるが、走りに影響するほどではない。
ただ、昨年よりもスタート直後の金網区間が狭く感じた。スタート直後にみんなが一斉に突っ込んでいくと危ないなぁと思っていたが、実際に走ってみると、そこまで気にする必要はなかった。
同じ場所でも、見る側の心持ちで狭くも広くも感じる。不安というのは、案外こうやってコースの幅まで変えてしまうものらしい。
このコースの特徴として難所がない、という難しさがある。
全体的にハイスピードなコースで、特別に難しいセクションはない。けれど、だからこそワンミスがそのまま差になる。ノーミスは前提。その上で、一つひとつのコーナーをいかに速く抜けるか。
休めるところがほとんどなく、ずっと踏み続ける必要がある。心拍はVO2max領域に入りっぱなし。難所で差がつくコースは技術が問われるが、難所のないコースでは「速度を落とさずに居続ける能力」そのものが問われる。
言い換えれば、ごまかしが効かない。
道路から歩道に入るところに、一段8cmくらいのギャップがある。去年はここで減速してしまっていた。たかが8cm、されど8cm。毎周回の小さなロスは、レース全体で見れば確実に積み上がる。
なので今年は、バニーホップではなくホッピングを練習して、ぴょこんと飛べるようにした。MTBでサスペンションを使うようになってから、地面を「プッシュする」イメージが身体に入ったのが良かったと思う。
異なる自転車で得た感覚が、別の自転車の上で生きる。遠回りに見える練習が、思わぬところで近道になることがある。
機材
今年もTCXで走る。シクロクロスのフレームは、最新機材である必要はないと思っている。結局のところ、ジオメトリが全てだ。
TCX🥹明日から茨城シクロクロス、いよいよ開幕です。 https://t.co/bdo8RaqkgU
— IT技術者ロードバイク (@FJT_TKS) October 2, 2026
ただ、TCXが無くなるかもしれない、という話を聞いて5台目のTCXを導入した。スペアのスペア。自分の身体に馴染んだジオメトリを、できるだけ長く手元に置いておきたい。
新しいものを追い続けることも一つの道だが、自分にとって「正解」の形を知っているなら、それを守り続けることもまた一つの道だと思う。まぁ、ずっとTCXで良いと思っている。
去年から変えたのはチェーンリング。3シーズンALUGEARを使っていたのだが、精度がかなり悪かった。上から見ると歪んでいるのがわかり、さらに歯の高さが揃っていない(もしくは真円ではない)ためか、回していると伸びたり縮んだりしているように見える。
こりゃダメだと思い、シングルチェーンリングを5枚くらい試した末にSTONEに落ち着いた。これが結構よくて気に入っている。STONEを使ってみると、もうALUGEARは価格も高いし精度も悪いし、使わないかなという結論になった。

使用機材一覧
- タイヤ:IRC SERAC CX
- タイヤインサート:Vittoria Air-Liner
- ホイール:PARTICLE GCX 45
- フロント空気圧:1.68bar
- リア空気圧:1.77bar
- 空気圧調整:パナレーサーデジタルゲージ
- バイク:GIANT TCX XS
- オイル:イナーメCXオイル
- レース前:ミトロング、飲む血液
- チェーンオイル:チェパークBIC-60Pセラミックチェーンワックス
チェーンワックスはいつもこれ。
実はレース前にスローパンクしていた。現地で👇これを使ったところ、30mlで塞がった。ホースも付属していて、マジで神。レース当日の朝のトラブルほど心を削るものはないが、それを一本のボトルが救ってくれた。
最近、ケミカルはチェパークばっかり。
レース:MM45-49 優勝
レースは混走で、MM35-39、MM40-44、MM45-49が一斉にスタートする。スタートリストを見ると、昨年の全日本チャンピオンの和田さん(MM35-39)、佐川さん(MM40-44)の名前がある。去年の混走で負けた別カテゴリの佐野さんも。
井上さんも強いし、今年ロードでヤバかった同郷の田崎さん(2021チャンピオン)もいる。強者の名前が並ぶスタートリスト、レース前にやっぱり出てくるかぁ、と内心思っていた。
混走とはいえ、このあたりの別カテの選手について行かないと話にならんなぁ、そう思いながらスタートリストを見直すと、昨年優勝したのにカテゴリが変わったので最後尾スタートだった(涙
混走にするなら、スタート順番も年代別じゃなくてランク順にしてほしい。
スタートは8列。選ぶ権利もなく、一番右側に並ぶ。ちょっと嫌な場所だなと思いつつも、ここは安全第一で行こうと決める。スタートのギアは上から3枚目。何回か試して、結局は普段と同じにした。迷ったときは、身体が覚えている選択がいちばん信頼できる。
号砲。スタート直後に特別な混乱はなかった。直線に入るところでフルもがきし、番手を徐々に上げていく。ホームストレートの曲がり角で7番手ぐらいか。
混走なので、誰が自分のカテゴリなのか全くわからない。でも、そんなことは関係ない。見えない敵と戦うより、目の前の背中をひとつずつ越えていくことだけを考える。とにかく前へ、前へ。
このコースは抜きどころが多く、ほぼ全ての箇所でパスできる感覚がある。キャンバー区間でも、イン側が空いていれば安全に差し込んでから抜けるほどだった。
茨城シクロクロス土浦ステージME1周目の全員のギャップ通過です。 見た感じ1-40人はノーヒットで飛んでるので今後もここ埋める必要はなさそうです。飛ぶ練習しましょう! なんでこんなこと書いているかというと去年わたしも飛べなかったのよ。 https://t.co/vAcTgkfqXV
— IT技術者ロードバイク (@FJT_TKS) October 5, 2026
序盤はいつも緩む感じがあまりないが、今回の体感は7割ぐらいのペース。このペースならちぎれることはまずない。ただし、中切れが発生しそうなところは自分で埋めていくように注意した。例の段差は高速で通過しようと試みたが、前が詰まっていてやや減速。
練習の成果を出せる場面が、いつも用意されているとは限らない。
前に何名か見える。別カテゴリの日の丸ジャージも見える。けれど意識はあくまで前へ。抜けるようであれば抜ける準備だけはしておく。一列棒状で誰がいるのかよくわからない。
雰囲気的には、チラッと見えるイナーメの佐野さん、和田さん、井上さんあたりがいるような気がした。あとから写真を見返したらこのメンバーで正解だったようだ。
集団が絞られる
2周目のホームストレートに出たところで確認すると、この4名に加えてもう4名ぐらいが直線上にいたと思う。ここまで絞れれば、あとは回せるメンバーでローテーションしたほうが効率は良い。だが、不要なトラブルは避けたい。風を受けてでも先頭を走ることにした。
効率よりも、自分でコントロールできる状況を選ぶほうが今日は良いだろう。先頭は結構風があたって苦しいが、少なくとも他人のミスに巻き込まれることはない。レースでは時に、最速の選択よりも、最も不確実性の少ない選択が正しいことがある。
静かな探り合い
走りながら、この手のスピードコースだと走力的に佐野さんに分がありそうだなと考えていた。ところが全体のペースは遅い感じがして、2~3周目でも体感7~8割。みんな様子を伺っている雰囲気。自分も一旦様子を見て、落ち着いて走る必要があるのか考えていた。
キャンバーセクションでは、集団で応援してくださる方々がいて、毎周回会話できるぐらいのペースだった。ありがたい時間だった。でも、ここは正直に反省しておきたい。余裕をこかず、もう少し全体のペースを上げるべきだった。
余裕があるのはよいが同時に、隙の入り口でもある。こういう気の緩みこそが、ミスを引き寄せる。レースの怖さは、苦しい時間よりも、むしろ楽な時間の中に潜んでいるとシクロクロスをやっていて思う。
キャンバー区間はほぼノーブレーキで行く。森林区間は木の根を通らないよう、イン側にラインを取った。ME1の松本選手のラインを後で勉強させてもらっていたのだが、結果的に同じラインを走っていた。これは正解だったのだろう。
自分で考えた答えと、トップ選手の答えが一致したとき、そこには妙な安心感がある。正解はひとつではないかもしれないが、少なくとも間違ってはいなかった、という確認ができた。
佐野さんの背中
途中、別カテゴリの佐野さんが前に出てくれた。有難く後ろにつかせてもらう。これが結構ペースが速く、休めず、逆にふるいにかけられてしまいそうなペース(汗。特に細かいセクションで置いていかれそうになる。でも我慢する。
去年は、ラストで佐野さんに離されてしまった。だから今年は同じことにならないよう、後ろからその走りをよく観察することにした。全体的に滑らかで、おそらくミスもしないだろう。というわけで、どこかで勝負をかけられるような隙もなさそうだ。
別カテゴリとはいえ、同時スタートなので関係なく、佐野さんの走力はこのスピードコースで強力なので、強調して走るほうが圧倒的に都合がいい。となれば、力負けしないように一生懸命食らいつくのみ。
1周ちょっとついていくと、先頭を促されたので前に出て走ることにした。どうやらメカトラブルだった模様。うーむ、残念。勝負というのは、相手が万全であってこそ意味がある。ゴールに向かうまで一緒に走りたかった相手が去っていく寂しさが残る。
その後は、井上(耕)さんと二人で走る。お互いの手の内を知り尽くした仲なので、走りやすい。後ろにいることに気づかないほど、ビッタリ付いてくる。
手の内を知っているということは、裏を返せば、相手もこちらの手の内を知っているということだ。奇策は通じない。勝負は、純粋な脚と、タイミングの読み合いになる。おそらく最後のホームストレートで勝負をかけてくるだろう、と思っていた(で、そうなった)。
後半が特に強い井上さん。キャンバーを過ぎ、木の区間を超えて、ホームストレートへ。これはもうスプリントになるの確定。砂区間から下ハンを持って準備する。
ホームストレートの立ち上がりから直線でフルもがき。距離が結構長いので、どこまで持つかわからない。直線は横並び。
と思った瞬間、目の前に別カテゴリのライダーがいた。ヤバい。進路変更。「あー、最短ライン取れずこれはまずい」と思った。一瞬、勝負が手からこぼれ落ちる感覚があった。それでも、もう一発踏み直す。最後はハンドルを投げてゴール。
僅差すぎて、二人ともどちらが勝ったのかわからない。周りもわからない様子。ゴール後の、あの宙ぶらりんの時間。全力を出し切ったのに、その結末を自分たちは知らない。結局、表彰式までどちらが勝ったのかわからなかった。
表彰式で名前を呼ばれたとき、やっと自分が勝ったのだとわかった。
タイム差は、わずか0.01秒だった。
0.01秒
おそらく計測センサーでは勝敗がつかず、動画判定かもしれないという話だった。
0.01秒。人間には知覚できない時間だ。瞬きよりもはるかに短い。走っていた当人たちでさえ、どちらが前だったのかわからなかった。勝敗は、自分たちの感覚の外側、カメラが切り取った一瞬の中で決まっていた。
そう考えると、勝利とは何なのだろう。1時間近く走って、二人の走りの価値にどれほどの差があったのか。おそらくほとんどない。
それでも順位はつき、片方が勝者になる。レースとはそういうものだし、だからこそ、その0.01秒をたぐり寄せるために、見えない準備を積み重ねて置く必要がある。
今回はエアロに振ったのが運が良かったのかもしれない。
レース後に色々と考えた。去年の教訓から、霞ヶ浦の風が強いことを見越して、今回はOGKエアロヘルメット、エアロシューズカバー、空力の良いサンボルトジャージ、エアロチェーンリングと、ゴリゴリにエアロに振った機材選定をしていた。
一つひとつの効果は小さい。単体で勝敗を決めるようなものではない。それでも、もしどれか一つが欠けていたら、あの0.01秒は向こう側に転がっていたかもしれない。
ひとつ詰めが甘いと思って悔やまれるのは、計測センサーを左足に付けていたこと。ハンドルを投げてバイクを押し出すとき、私は右足を前に出す。右足に付けていれば、その分センサーが前に出る。今回は左足に付けていたので、やっちまったかとかなり不安だった。
今後はセンサーを右足に付けるようにしたい。みんなは左側に付けてね!
こういう小さな積み重ねが、ギリギリの勝負になったときに勝敗を分ける。今回、マージナルゲインを積み重ねたことが功を奏したのかどうかは、正直わからない。因果関係を証明する術はない。
ただ、結果として0.01秒差という超僅差で、なんとか勝てた。証明できないからこそ、次も同じように、小さなことを疎かにしないでおこうと思う。
届かないと思っていた背中
MM40-44とは27秒差、MM35-39とは17秒差だった。昨年、二色浜の全日本選手権でラップタイムもろとも大差をつけられて負けてしまったお二人に、正直勝てる気はしていなかった。それでもなんとか逃げ切れたのは、ここまで練習してきたことが実を結んだのだと、思いたい。
今回はアウェイの茨城シクロクロスに参戦したが、応援がすごくて、走っている間めっちゃ楽しかった。声をかけてくださった皆さん、本当にありがとうございました。
自分が思っていたよりもリザルトが付いてきた。けれど、これに甘んじず、また練習しないといけない。
今週も、ツール・ド・おきなわに出場する妖怪たちと練習するのが楽しみだ。シクロクロスには必要のない200km近いトレーニングを毎週走っているのは、単純に、走るのが楽しいから。
目的のために走る時期もあった。勝つため、取り戻すため、証明するため。でも今は、”楽しい”というのが自分にはちょうど良い。何も気負わなくて良い。楽しいから走り、走った結果として、たまたまこういう日が訪れる。
順番を間違えないこと。それが、長く走り続けるための秘訣なのかもしれない。
あとは、怪我をしないように楽しく走って、無事に家に帰ること。帰宅は22:30になってしまったけれど、子どもが起きてきて、お土産を楽しそうに広げていた。
0.01秒の勝利も、この光景には敵わない。レースの結果は記録に残るが、家に無事に帰って誰かが待っていてくれるという事実は、どんなリザルトよりも確かな勝ちだと思う。身体が無事なのが一番。
次回は少し時間が空いて、いよいよME1の開幕戦へ。どこまでやれるかわからないし、強い選手も大勢出てくる。自分の力もたかが知れている。それでも、怪我せず、病気せず、程々に今シーズンも自分のできる範囲で走ろうと思う。





























