潤滑剤の最終回答?CHEPARK チェーンワックス「汚れなきドライブトレイン」と静けさの正体

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CHEPARK(チェパーク)のチェーンワックスをテスト。

「ワックス系潤滑剤は性能は良いが、プーリーやチェーンリングにカスが溜まるのがイヤ」

台湾のケミカルメーカーCHEPARKが開発したBIC-60Pセラミックチェーンワックスは、乳化ワックス技術と固体潤滑剤「窒化ホウ素(BN)」を融合させこの悩みを解決した。ワックス系の低フリクション性能はそのままに、ワックスの”カス”がギアに溜まらない先進的なドリップ式チェーン潤滑剤である。

本インプレッションでは、この潤滑剤の核心技術である乳化ワックスと窒化ホウ素の科学的特性を深く掘り下げ、既存のトップ製品群との性能差を実践的に分析する。これにより、CHEPARKが利便性だけでなく、真の高性能を達成しているのかという問いに、結論を導き出す。

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CHEPARKチェーンワックスの技術的解剖

本章では、CHEPARK BIC-60Pの製品仕様と、その性能を支える核心技術について詳細に分析する。乳化ワックスという媒体の選択と、窒化ホウ素という固体潤滑剤の採用が、この製品の特性をいかに規定しているかを科学的見地から明らかにする。

製品概要と基本仕様

CHEPARKは2003年に台湾で設立された自転車用ケミカル製品の専門メーカーである。同社はワックス、ドライ・ウェットタイプの潤滑剤、クリーナー、グリスといった包括的なメンテナンス製品群を開発・製造しており、その製品ラインは多岐にわたる。

特に、多くの世界的なトップブランドに対して製品供給(OEM/ODM)や共同開発を手掛けており、アジア市場における自転車メンテナンス製品のリーディングカンパニーとして確固たる地位を築いている。

本レポートで焦点を当てるBIC-60Pは、同社の潤滑剤シリーズの中でも「セラミックチェーンワックス」として位置づけられる高性能製品である。その基本仕様は以下の通りである。

  • 製品名: CERAMICS CHAIN WAX
  • 製品コード: BIC-60P
  • 容量: 120ml(市場では30mlのBIC-60PS、5mlのBIC-60Tといったバリエーションも存在する)
  • 主成分: パラフィンワックス(Paraffin Wax)、窒化ホウ素(Boron Nitride)
  • 形態: 液体(乳化ワックス)
  • 製造国: 台湾

これらの仕様から、BIC-60Pがパラフィンワックスをベースとし、セラミック粒子として窒化ホウ素を添加した、液体塗布タイプのワックス潤滑剤であることがわかる。

乳化ワックスと窒化ホウ素

CHEPARK BIC-60Pの性能と独自性は、主に「乳化ワックス」という媒体と、「窒化ホウ素」という固体潤滑剤の組み合わせによって定義される。これら二つの技術的要素が、塗布の容易さ、走行中の清潔さ、そしてドライブトレインの保護性能にどのように貢献しているのか。

乳化ワックスの科学

CHEPARKは公式に、本製品が「乳化技術(emulsification technology)」を利用していることを明記している。

これは、水と油(この文脈では溶融したワックス)のように本来は混じり合わない二つの液体を、界面活性剤(乳化剤)の力を借りて安定的に混合させる技術である。

乳化剤は、一つの分子内に水に馴染みやすい「親水基」と、油(ワックス)に馴染みやすい「疎水基(親油基)」の両方を持つ。この両親媒性の性質により、乳化剤分子が微細なワックス粒子の周囲を取り囲み、水中に安定して分散した状態、すなわちエマルション(乳濁液)を形成することが可能となる。

フラワーパワーワックスは乾くと固まってしまう。CHEPARK チェーンワックスは固まらないワックス潤滑剤だ。

チェーンへの塗布後、キャリア(媒体)である水分が蒸発する過程で、分散していたワックスと固体潤滑剤の粒子が凝集し、金属表面に均一で連続した薄膜を形成する。このメカニズムにより、固形のワックスをスロークッカーなどで高温に加熱して溶かすホットメルト方式の手間をかけることなく、ワックスベースの潤滑層を形成できる。

この乳化ワックスという技術的選択は、製品の使用感に直接的な影響を与える。塗布後もカチカチに硬化せず、サラサラ系のセミウェットな感触であり、ワックス特有の剥がれ落ちるワックス片が出ない。これは、乳化ワックスが形成する被膜の特性に起因すると考えられる。

ホットメルト方式は手間がかかるうえに、完全に固まってしまう。

溶剤にワックスを溶解させるタイプのドリップワックス(例:Silca Super Secret Lube)が、溶剤の揮発後に硬く脆いドライな被膜を形成するのに対し、乳化ワックスは乳化剤の一部が被膜に残留するため、より柔軟で密着性の高い、わずかに湿潤感を伴う被膜を形成する傾向がある。

この柔軟性が、硬化ワックスのような剥離や飛散を防ぎ、静粛性の向上にも寄与している可能性がある。

固体潤滑剤:窒化ホウ素(h-BN)の特性

hexagonal Boron Nitride, h-BN

CHEPARKが潤滑性能を向上させるための主要な添加剤として採用しているのが、六方晶窒化ホウ素(hexagonal Boron Nitride, h-BN)である。

h-BNは「白い黒鉛(White Graphite)」という通称で知られ、黒鉛(グラファイト)と同様に、原子が六角形の網目状に配列された層が積み重なった層状(ラメラ)構造を持つ先進的なセラミック材料である。この特異な構造が、潤滑剤として優れた特性をもたらす。

h-BNのトライボロジー(摩擦・摩耗・潤滑の科学)的特性は以下の通りである。

  • 低摩擦係数: 層と層の間の結合が弱いため、外部から力が加わると層が容易に滑る「へき開」が生じ、低い摩擦係数を実現する。
  • 高硬度と耐摩耗性: 層内は強い共有結合で結ばれたセラミック材料であるため、粒子自体は非常に硬い。この硬度が金属表面に強固な保護膜を形成し、金属同士の直接接触を防ぎ、摩耗(アブレシブ摩耗)を効果的に抑制する。
  • 化学的安定性と耐熱性: h-BNは極めて化学的に不活性であり、多くの酸やアルカリに侵されない。また、酸化雰囲気中でも約900℃まで安定しており、この耐熱性は黒鉛(約500℃)や二硫化モリブデン(MoS₂、約400℃)を大きく上回る。
  • 電気絶縁性: 黒鉛が導電性を持つのに対し、h-BNは優れた電気絶縁体である。これは、高トルクがかかるE-Bikeのドライブトレインにおいて、潤滑剤を介した意図しない電食のリスクを低減する上で有利に働く可能性がある。

高性能潤滑剤市場では、各社が特色ある添加剤を競っている。Silcaは二硫化タングステン(WS₂)の極めて低い摩擦係数を、AbsoluteBlackはグラフェンの耐久性と低摩擦性を、そしてかつてのMolten Speed WaxはPTFE(テフロン)とMoS₂の組み合わせを性能の核としていた。

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CHEPARKがh-BNを選択したことは、単に実験室レベルでのワット数削減競争に参加するのではなく、耐摩耗性、化学的安定性、そしてコンポーネントの長寿命化といった、より長期的で実用的な性能を重視した開発思想の表れと解釈できる。

この選択は、製品を「究極のスピード」よりも「究極の保護と清潔さ」を求めるユーザー層に訴求するものとしている。

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性能評価と市場での位置付け

潤滑性能が高い順番に並んでいる。上位は全てピンク色のスロークッカーを使用したWAX系。続いてUFO Dripなどの緑色のWAX Dripが続く。Data元:zerofrictioncycling

本章では、CHEPARKチェーンワックスの性能を、主要な競合製品と比較分析することで、その市場における位置付けを明確にする。独立した第三者機関によるテストデータは存在しないものの、成分と構造からそのポテンシャルを推し量ることは可能である。

潤滑性能と効率性

自転車用潤滑剤の性能評価におけるゴールドスタンダードは、かつてのFriction Facts(現在はCeramicSpeedが所有)や、オーストラリアの独立試験機関Zero Friction Cycling(ZFC)によって確立されたテストプロトコルである。

これらのテストでは、主に二つの側面が評価される。一つは、清浄な環境下での初期摩擦損失(ワット数)であり、もう一つは、砂や水といった汚染物質を付加した状態での摩耗進行度である。

後者は、潤滑剤が実世界の過酷な環境でいかにコンポーネントを保護し、性能を維持できるかを示す重要な指標となる。CHEPARK BIC-60Pに関するこれらの独立したテストデータは、現時点では公表されていない。しかし、その成分から性能を類推することは可能である。

Photo: Ceramicspeed

ベースとなる乳化ワックスは、同じくワックスエマルションであり、ZFCのテストで良好な結果を示したSquirt Lubeと類似の挙動を示す可能性がある。Squirt Lubeは、ホットメルトワックスに次ぐ低摩擦性能と、優れた清浄性を両立した製品として評価されている。

添加剤であるh-BN粒子の役割は二重的である。まず、その低い摩擦係数は、初期のワット数損失を低減することに貢献するはずである。しかし、その真価は、ZFCの摩耗テストにおける汚染ブロックで発揮されると推測される。

硬質なh-BN粒子がチェーンのローラー、ピン、ブッシュといった摺動部に介在し、外部から侵入した研磨剤(砂や塵)が金属表面に直接接触するのを防ぐ物理的な「バリア」として機能する。

これにより、潤滑被膜が薄くなった状態でも、金属部品の摩耗を最小限に抑える効果が期待できる。

耐久性と汚染耐性

潤滑剤の性能は、実験室の理想的な環境だけでなく、実世界の多様なコンディションで評価されなければならない。特にワックス系潤滑剤にとって、乾燥した埃っぽい環境と、湿潤な環境は大きな挑戦となる。

乾燥条件下において、CHEPARKが形成するセミウェットな被膜は、Molten Speed Waxのような完全に乾燥して硬化する固形ワックスと比較した場合、理論上は微細な塵や砂を表面に保持しやすい可能性がある。

しかし、ZFCのテストでは、同じく液体ワックスであるSilca Super Secret Dripが、乾燥汚染ブロック(Block 2)で記録的な低摩耗率を達成しており、液体ワックスであっても極めて高い汚染耐性を実現可能であることが示されている。

CHEPARKのh-BN粒子を含んだ柔軟な被膜も、汚染物質の内部への侵入を効果的に防ぎ、摩耗を抑制することが期待される。

一方、ウェットコンディションは、あらゆるワックス系潤滑剤にとって最大の弱点である。雨水はワックス被膜を物理的に洗い流し、潤滑性能を著しく低下させる。CHEPARKの乳化ワックスもこの点では例外ではない。

ZFCのウェット汚染テスト(Block 4)では、多くの高性能潤滑剤でさえ摩耗が急増する結果となっており、雨天走行後には速やかな清掃と再塗布が必要となる。

乾燥路面における再塗布間隔、すなわち耐久性については、300kmを走行した後でもドライブトレインの汚れが穏やかであった。一般的な高性能ドリップワックスとして十分、あるいはそれ以上の性能を持つことが示唆される。

ZFCがトップクラスのホットメルトワックスに対して、ドライコンディションで約300kmから400kmごとの再塗布を推奨していることを考慮すると、CHEPARKはドリップ式でありながら非常に高いレベルの耐久性を実現している可能性がある。

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競合製品との比較分析

CHEPARK BIC-60Pの市場における立ち位置を理解するため、主要な競合製品との比較を行う。比較対象として、アプリケーションと技術的アプローチが異なる代表的な高性能潤滑剤、Silca Super Secret Lube(ドリップ式)、Molten Speed Wax(浸漬式)、AbsoluteBlack GRAPHENwax(浸漬式)を選出した。

特性 CHEPARK α-BN (BIC-60P) Silca Super Secret Lube Molten Speed Wax (MSW) AbsoluteBlack GRAPHENwax
適用方法 ドリップ式(乳化液) ドリップ式(溶剤系) 浸漬式(ホットメルト) 浸漬式(ホットメルト)
主要添加剤 窒化ホウ素 (h-BN) 二硫化タングステン (WS₂) 二硫化モリブデン (MoS₂) / WS₂ グラフェン (Graphene)
公称性能 高い潤滑性と平滑性 究極の低摩擦 低摩擦、高耐久性 低摩擦、長寿命
ZFC摩耗テスト データなし 非常に低い 非常に低い 非常に低い
価格帯 (120ml換算) プレミアム (約3,500円) プレミアム (約4,000円) 中~高 (約1,150円) プレミアム (約4,000円)
長所 簡便な塗布、高い静粛性、優れた清浄性 塗布が容易、証明された低摩擦 証明された最高レベルの性能と耐久性、経済性 証明された高性能、静粛性
短所 独立した性能データ欠如、ウェット性能は未知数 高価、完全な乾燥時間が必要 塗布プロセスが煩雑 塗布プロセスが煩雑、高価

この比較から、CHEPARK BIC-60Pのユニークなポジショニングが浮き彫りになる。それは、浸漬式ワックスの性能(特に清潔さと静粛性)を、ドリップ式の利便性で提供する点にある。

技術的にはh-BNという独自の添加剤を採用し、媒体には乳化液を用いている。最大の弱点は、競合他社がZFCのような第三者機関のテストデータを積極的に公開し、性能を客観的に証明しているのに対し、CHEPARKにはそのデータが欠けている点である。

この点が、専門家やデータ重視のユーザー層への訴求において、現時点での大きな課題となっている。

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インプレッション

性能評価に加え、実際の体験は、製品の実用的な価値を測る上で不可欠である。本章では、塗布プロセスから実走性能、メンテナンス性に至るまでのインプレッションをおこなっていく。

塗布プロセスと使用感

CHEPARK BIC-60Pの塗布プロセスは非常にシンプルで、一般的なドリップ式潤滑剤と同様の手順で行うことができる。まずボトルを十分に振り、内容物を均一に混ぜ合わせる。その後、チェーンの各ローラーに1滴ずつ丁寧に塗布していく。

液体の粘性(コンシステンシー)については、サラサラしており粘度は高くない。しかし、一般的な低粘度オイルのようにすぐに垂れ流れてしまうことはなく、チェーンの表面に留まる適度な性質を持っている。

エフェットマリポーサのフラワーパワーワックスでのハックと同様に、塗布後に指で液体をチェーン全体に馴染ませることで、より均一なコーティングが得られる。塗布後は、数分から数時間放置し、キャリアである水分を蒸発させてから走行する。

特筆すべき点として、良い匂いである。これは、無臭または強い溶剤臭を持つ他の多くの高性能潤滑剤とは一線を画す特徴である。この心地よい香りは、メンテナンス作業の満足度を高める要素となり得るが、約100kmの走行後には薄れていく。

実走レビュー:清潔さと静粛性

実走において、最も一貫して高く評価できるのが、ドライブトレインの「清潔さ」である。

数十キロメートル走行した後でも、チェーン、カセットスプロケット、ディレイラープーリーは新品のような輝きを保ち、オイルベースの潤滑剤で典型的に見られる黒い油汚れがほとんど付着しない。

手でチェーンに触れても汚れが付かないレベルであり、これは手間のかかるホットメルトワックスで得られる最大の利点の一つに匹敵する。

走行中の「静粛性」もまた、高く評価できるポイントである。チェーンノイズは効果的に抑制され、潤滑性能は良好で、変速もスムーズに行われる。特に、ワックス系潤滑剤に時折見られる初期の硬さや異音といった問題はなく、塗布直後から滑らかな走行感を提供する。

さらに、ホットメルトワックスを施工したチェーンに見られることがある、硬化したワックスの破片(カス)が走行中に剥がれ落ちる現象が本製品では発生しない。

これは乳化ワックスが形成する柔軟な被膜の特性を裏付けるものであり、フレームや周辺コンポーネントを汚さないという点で、メンテナンス性をさらに向上させる重要な利点である。

長期使用とメンテナンス性

長期的な視点での性能維持とメンテナンスの容易さも、この製品の価値を決定づける重要な要素である。300kmを走行した後でもドライブトレインの汚れ方は非常に穏やかであり、高い耐久性を持つことが示唆されている。

これは、高性能な液体ワックス潤滑剤として、市場の期待に応える十分な性能と言える。日々のメンテナンスは極めて容易である。走行後に乾いた布でチェーンを軽く拭くだけで、清潔な状態を容易に維持できる。

従来型のオイルベース潤滑剤のように、定期的に強力なディグリーザーを用いてドライブトレイン全体を分解洗浄するような、時間と手間のかかる作業の頻度を劇的に減らすことが可能である。

ただし、使用上の注意点もある。セミウェットな被膜の性質上、塗布量を誤って過剰に塗布すると、余剰分が硬化・乾燥せずに走行中に遠心力で飛散し、ホイールのリムやフレームに付着する可能性がある。

これは、被膜が完全に硬化してドライになるタイプではないことを裏付けており、最適な性能を得るためには、各ローラーに1滴ずつという適量を守ることが重要である。

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メリットとデメリット

これまでの技術分析、性能評価、そして実用レビューを総合し、CHEPARK BIC-60Pセラミックチェーンワックスのメリットとデメリットを以下にまとめる。

メリット

  • 卓越した清浄性: ドライブトレインを長期間にわたってクリーンに保つ能力は、最も高く評価できる。これにより、メンテナンスの手間と時間を大幅に削減できる。
  • 高い静粛性: チェーンノイズを効果的に抑制し、非常にスムーズで静かな走行感を提供する。ワックス系でありながら、塗布直後から滑らかな性能を発揮する。
  • 簡便な塗布プロセス: ホットメルトワックスのようなスロークッカーを用いた煩雑な準備が一切不要である。ドリップボトルから直接塗布するだけで、手軽に高性能なワックス潤滑を施工できる。
  • ワックス片の不発生: 乳化ワックスの特性により、硬化したワックス片が剥がれ落ちることがない。これにより、フレームや周辺部品を汚さず、クリーンな状態を維持できる。
  • 理論上の高い耐摩耗性: 主要添加剤である窒化ホウ素(h-BN)のセラミック粒子としての硬度と潤滑性により、チェーンやスプロケットといった高価なコンポーネントの長寿命化が期待できる。

デメリット

  • 客観的な性能データの欠如: Zero Friction Cycling(ZFC)のような信頼性の高い第三者機関による摩擦・摩耗テストのデータが公表されていない。そのため、SilcaやMolten Speed Waxといった競合製品に対する性能の優位性が客観的に証明されていない。
  • ウェットコンディションでの性能: 他のワックス系潤滑剤と同様に、雨天走行時には水によって潤滑被膜が洗い流され、性能が著しく低下する可能性が高い。ウェットコンディションでの耐久性は限定的と考えるべきである。
  • 高価格帯: 120mlで3,500円という価格は、潤滑剤市場においてプレミアム価格帯に属する。一般的なオイル系潤滑剤と比較して、初期投資は高くなる。
  • 過剰塗布による飛散リスク: セミウェットな被膜の性質上、塗布量を誤ると余剰分が走行中に飛散する可能性がある。最適な性能を得るためには、丁寧な塗布が求められる。
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まとめ:ホットメルトワックスに匹敵する清潔さと静粛性

CHEPARK BIC-60Pセラミックチェーンワックスは、乳化ワックス技術と窒化ホウ素(h-BN)というユニークな技術的アプローチを採用した、現代の高性能潤滑剤市場において注目に値する製品である。

その最大の提供価値は、多くのサイクリストが求める「ホットメルトワックスに匹敵する清潔さと静粛性を、ドリップ式の手軽さで実現した点」に集約される。この価値提案が単なるマーケティング上の主張ではなく、実用レベルで達成されていることを強く裏付けている。

メンテナンスの手間を極力排除しつつ、クリーンで高性能なドライブトレインを維持したいと願う熱心なサイクリストにとって、これは極めて魅力的な選択肢となる。

技術的な観点から見ると、主要添加剤としてh-BNを採用したことは、絶対的な低摩擦性能(ワット削減)の追求よりも、長期的な耐摩耗性とコンポーネント保護を重視した、実用主義的な設計思想の表れと解釈できる。

これは、数ワットの差を競うプロフェッショナルレーサーよりも、機材を大切にし、日々の快適なライディング体験を重視する、より幅広い層のシリアスサイクリストに響くアプローチである。

今後の展望として、高性能潤滑剤市場は、「手間を惜しまず究極性能を求める層(ホットメルト派)」と、「利便性と高性能の両立を求める層(高性能ドリップ派)」への二極化がさらに進むと予想される。

CHEPARK BIC-60Pは、この後者の市場セグメントにおいて、そのユニークな技術的背景と実証された使用感により、強力な競争力を持つ製品である。

今後の課題は、その優れた実用性能を裏付ける客観的なデータの提示に尽きる。

もし、ZFCのような第三者機関による独立したテストで、SilcaやAbsoluteBlackといったトップティアのドリップワックスに匹敵する、あるいはそれを上回る耐摩耗性や汚染環境下での耐久性が証明されれば、CHEPARKは単なる「便利なクリーン系ルブ」という評価から、「性能でも選ばれるトップ製品」へとその地位を確立するだろう。

乳化BNワックスという技術は、今後のドリップ潤滑剤開発における一つの重要な方向性を示唆しており、その市場での成功は、業界全体の技術トレンドに影響を与える可能性を秘めている。

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