ホイールで4万円と聞くと廉価版ホイールと感じるのではないか。特にカーボンを使っている場合前輪だけで最低10万円してもおかしくない。例えカーボンのカウルをかぶせたマビックのコスミックカーボンですら同じくらいの値段である。Duraのアルミカーボンのようなモデルでも18万ほどとホイールとは非常に高額な商品だ。
そんな中、フロント4万円台という値段で展開するFLO ホイールについて今回は紹介したい。先日当ブログでお伝えした際に購入された方がいらっしゃったようだ。そして幸運なことにメカニック経由で(ありがたいことに)お借りすることができた。今回は、いまだ未知数のFLO ホイールについて紹介したい。
はたして、安かろう悪かろうなのだろうか。
FLO ホイールとは
FLOのホイールを知らない人のために改めて紹介したい。FLO CYCLING社は2009年に発足したばかりの企業だ。自転車業界に蔓延する高級ホイールに技術と価格で対抗しようとホイール開発を始める。
FLO CYCLINGは風洞実験室と流体力学を駆使し、様々な形状のホイールをテストしている。流体力学を用いたテストでは、CD-adapco社のスターCCM+数値流体力学ソフトウェアを用いて様々なテストを実施している。
開発手法は科学的である。ソフトウェア上で「仮想的な風洞環境」をモデリングする。次にCADで様々なリム形状を「開発」する。これらのメリットは何か。風洞実験室はメーカー自前で持つと多額の費用がかさむ。レンタルだとしても、実験時間に比例して多額の費用がかかる。
そのため仮想風洞実験室をソフトウェア上に用意した。自転車に受ける風は多岐にわたるため、風速やヨー角を変更し何度もテストを繰り返した。最終的には、サイクリストが外で実走するというプロセスを経て、FLOホイールを作り上げている。
FLOのリムはMAVIC?
FLOのリムを製造しているメーカーはいったいどこなのか。気になる点だが「マビックのリムによく似ている」とメカニックは言う。当然ながらメーカーが公表していない情報である。しかし、FLO自体はアルミを得意とするメーカーでもないし、かといってカーボン繊維を得意とするメーカーでもない。
どちらかというと、エンジニア集団なので空力特性等を解析する科学的な面に長けている。とするとアルミリムもカーボンも外注している事は容易に想像できる。やはり餅は餅屋なのだ。まず気になるのはリムが黒いということだ。黒を用いることにより、ルックス的にカーボンホイールと間違えてしまうほどである。
パッと見るとマビックの「エグザリット加工」かと勘違いしてしまいそうだが、何かしらの化学反応で黒くしているだけのようだ。ブレーキの効きはアルミの感覚と変わらない。決定的に違うのはブレーキングの際、やはりエグザリットのような「ピュー」という音はしない。
ただ気になるのは、ブレーキを重ねるごとに黒いアルミリムの状態はどのように変わっていくのだろうか。もし粗悪な加工であればブレーキ面自体が削れ、すぐにアルミの銀色が出てくるだろう。このFLOのホイールを使い続けないとわからないことだが今後非常に気になる点である。
FLOホイールのスポークの作り込み
スポークはSAPIMのCX-RAYを使っている。通常のCX-RAYのスポークといえばニップル付近まで平らな形状をしている。当然エアロ効果を狙って平らにしているわけだ。しかし円のスポークよりも構造的に強度は落ちる場合が多い。
FLOホイールのスポークを見て「あれ?」と思った点がある。もともとエアロスポークを採用しているが、それは「カーボンフードより外の部分」の話しであって「カーボンフードの中90mm分」は円形のスポークを採用している。
何が言いたいのかというと、空気を切り裂く部分はエアロスポーク形状を採用し、カーボンフード内は空気の影響を受けないので円形のスポーク採用し、強度の確保を備える作りになってる。
正直なところ、見えない部分なので既成品のスポークを採用すれば良い。しかし90mm分は円形スポーク、その先はエアロスポークという特注品をSAPIMに作らせてしまう点は素晴らしい。FLOが開発に手を抜いていないという姿勢は好印象である。
FLOホイールのスポークテンション
スポークテンションはしっかりと張られている。よくいう「ヌルいホイール」の部類ではない。しっかりとフロントもリアもスポークテンションが高められており、握った感覚も「あ、張ってるな」という感覚だ。
実際の組み方は普通のタンジェント組である。目新しい技術は存在しない。
FLOホイールのハブと構造
FLOのハブは見た目NOVATECかと思ったがCHOSENのハブのようにも見える。リムと同じくFLOはハブメーカーではない。従ってどこかのハブメーカーが本製品を作っているはずだ。ハブは至って普通のハブでこちらも目立った特徴はない。
ただFLOのホイールを選択する際に通常の鉄球ベアリングと回転が良いとされているセラミックベアリングを選択できる。私が試乗したFLO90はセラミックベアリングであった。所有しているROVALのCLX40もセラミックスピード社のベアリングを搭載していた。
どちらがよく回るかと聞かれれたら「わからない」と答えることだろう。正直ベアリングの抵抗はハブ自体の剛性に影響を受ける事が最近わかってきた。したがって、ホイールが無負荷の状態でゆらりゆらりと回しても意味が無い。人間が乗った際にどれほどたわむかでベアリングの内部抵抗は変わってしまう。
FLOホイールのカーボンフード
FLOのホイールを使って率直に感じたのは「フードの幅」だ。今まで見たことのないような幅の広いフードとして作られている。そのフードは、ハブに向かって徐々に太くなり断面図は「涙型」の形状になっている。FLOは元々空力特性を考えてホイールをデザインしている。
シミュレータで仮想の風洞実験室を作り最適なリム形状パターンを幾通りも「作成」した。その数多くの実験の中からベストな結果がこの幅広いフードなのだろう。これら空力特性を考慮した結果、このような形状と幅広いリム形状になったのだと推測する。
このカーボンフードはコスミックカーボンと同様に押すとへこむ。やや手荒に扱うと壊れてしまいそうだが、落車でもしない限りは気にすることもなさそうである。
カーボンアルミクリンチャーのメリット
ビート部だけアルミでフードはカーボンという構造はコスミックカーボンと同様だ。シマノのC50やC35も同様にブレーキ面はアルミで作られている。MAVICのCOSMIC40Cも外周はアルミで出来ておりブレーキ面までカーボンで作られている。しかし制動性を考えるならば、正直ルックス以外のメリットはない。
なぜそのような構造をとっているかといえば、コストや製造技術といった側面が有る。以前書いた「「他社より6倍失敗例ある」レイノルズのカーボンクリンチャー開発者」の中でも紹介しているように、フルカーボンクリンチャーの場合強度の問題が存在している。チューブラーの場合はリム形状はそこまで複雑ではない。しかしカーボンクリンチャーというとビート部までカーボンである。
この特殊な形状からか、ブレーキ中の温度上昇によりブレーキ面に大きな負担がかかる。高温になればなるほど破損しやすくなる。現在のカーボンクリンチャーはその点を改良してきてはいるだろうが未だ潜在的な問題として切っては切り離せない問題なのだ。
FLOホイールインプレッション
FLOホイールは主に平坦で使うホイールだといえる。そこで早速チームの実業団練習におじゃました。「お邪魔した」という表現についてだが、今私はオフロードが楽しすぎてロードを全く乗っていない。チームのロング練習をサボり、もっぱらMTBやシクロクロスに興じている。
いまチームの実業団の連中は、冬場のトレーニングで木津川を永遠と一定ペースで走っている。当然巡航速度は上がる。関西在住の方はご存知だと思うが、今の冬の時期は河川敷に強い突風が吹く。テスト当日の木津川は風速11mであった。環境としては最高のテスト環境といえる。
まず、踏み出しは90mmというリムハイトにビビっていたが、わりと普通で重さを感じさせない。確かにキシリウム等のローハイトよりも反応は鈍いがかと言ってめちゃくちゃ重いわけでもない。この点は評価できる。理由として考えられることはその構造にあるのではないか。
FLOのホイールに共通しているのは、外周がアルミリムというのが共通だ。そしてカーボンのフードのハイトだけ異なる。要するにカタログ重量は差がでてるが外周部のアルミ重量は変わらない。フードが高くなればなるほど重量が増す。
はじめ巡航しているうちはやや風を受けて怖かった。吹きさらしの横風でも操作できるがやや突風が吹くと振られる。以前FFWDのF6Rで怖い思いをしたが、不思議とFLOの90mmの方が使いやすいと感じる。おそらくフードの形状が横風を上手く逃してくれていそうだ。
一つ怖いと思ったのはローテーション中の風向きの変化だ。先頭交代をする際に前へ出た時ドラフティングによる効果は無くなるが、その際に一気に強い風が吹くと完全にハンドルが取られる。その辺を事前に考慮しつつコントロールに気を使わなくてはならない。
急激な風の変化はディープホイールにとってやはり苦手な部類である。今回は相当な強風であったため振られるという表現を使ったが、FFWDのF6Rで感じた「横風の怖さ」はFLO90では感じなかった。ゆるやかに風を逃がしながら振られる感じだ。この辺は評価できる。
正直90mmという幅に対してやや疑いの目を持っていた。重いんだろうし、回らないんだろうし、空気抵抗も多そう、という事である。しかし、FLO90の癖がわかってくれば怖くない。慣れの問題なのかもしれないが、解析上優れたエアロダイナミクスは横風をうまく対処してくれた。
この日の練習を見ていたチーム員のTさんが私の走りについてこう言っていた「楽そうやなあんまり漕いでいない」と。確かに慣性の法則が働いているのか巡航中に減衰する動作が少ない。ローテで左から下がっていく際にはほとんどこがなくても良い。
他のメンバーはローハイトであったが明らかに私は「脚を残せた」と言って良いと思う。チーム練習の最終局面では河川敷の道幅が広い所で掛け合いになる。その際に単独で3分間ほど抜けだして逃げ切って先着した。オフロードばかり乗っていてロードの練習をしていないのにもかかわらずである。
最後にチーム員が放った言葉が印象的だ。「その機材は卑怯だ」と。確かに平坦で風が強く単独で走る場合には向いている機材といえる。そう考えるとタイムトライアルやトライアスロンに非常にマッチしたホイールではないだろうか。私はFLO60よりもFLO90をおすすめしたい。おそらく重量によるデメリットはそこまで無いだろう。
それなら空力特性が優れたFLO90をおすすめする。
ブレイクタイム:FLOホイールの意外な購入層
話は少し変わるが、ディープリムとディスクホイールと言えばタイムトライアルや平坦を早く走りたいサイクリストに限られた機材であった。ところが私のTwitterやFacebookでの反応を見ていると、FLOホイールに求める期待は違うところに持っている人もいるようだ。
その見逃せない潜在的な購買層は、最近アニメの効果か自転車に絵を書きたいユーザーだ。2次元のアニメが描かれた「痛ディスク」を作りたいがディスクホイールは高嶺の花だ。しかしFLOディスクホイールは約5万円と「空力」「価格」「重量」共に兼ね備えた手の届く機材でベストバイと考えているのだろう。
次に重要な早く走りたい熱心なサイクリストの購買層も考えてみる。ディスクホイールはほしい、しかしあまり使わないのに高額(10万円~)という値段設定に躊躇している人も多いはずだ。そこにFLOのディープホイール90mmやディスク前後セットで10万程度なら買っても良いかな、と言える価格設定である。
まとめ:FLOはホイール界のキャニオンか
使って断言できる事がある。FLO ホイールは粗悪品などではない。実物とホイールとして緻密に考えられて作られたホイールだということがわかる。正直なところ90mmのリムハイトは予想以上に風の影響を受けなかった。
正直なところFLOホイールは簡単に個人輸入できる商品である。しかし国内の代理店が取り扱い、積極的なマーケティングを行えば売れるホイールではないかと私は考えている。個人的な意見としては、ニッチな機材を積極的に取り扱うトライスポーツさんにどうか代理店をやって欲しいとラブコールを送りたい。
トライスポーツさんはコリマの完組からリム、ENVEの完組からリム販売まで手堅く行っている。さらにENVEとTNIのハブの組み合わせで自社オリジナル構成のホイールも作っているのでFLOのリムバラ売りや、オリジナル構成(ハブ等を変更した)のFLOホイールなんて事も十分にありうる。
そもそもFLOは直販がメインの会社で代理店を持たない主義かもしれないが、私のTwitterやFacebookでの反応を見ているとFLOホイールに興味を持っている人が大勢いるようだ。FLOホイールは、今までディープリムのホイールを買いたが手の届かなかった方に最適なホイールだと言える。
「見た目がかっこいい」「空力特性を得たい」「安く揃えたい」「痛ディスクをつk(略」という様々なニーズに答えてくれるFLOホイールは高級路線を突き進んできた自転車業界に一石を投じるメーカーなのかもしれない。
河出書房新社
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