2023年の世界選手権MTBのXCOの覇者は、男女エリート共にピナレロのバイクに乗ったトーマス・ピドコック(イギリス)とポリーヌ・フェランプレヴォ(フランス)が圧勝した。ピドコックはフルサスのドグマXC、フェランプレヴォはフルサスとハードテイルを試して女子で唯一ハードテイルのバイクでタイトルを掴んだ。
2023年の春に発表されたドグマXCはプロレースに投入されていたが、一般向け販売は行われていなかった。2023年のレースからのフィードバックを受けたドグマXCは2024年3月に製品版がやっと登場する予定だという。
ピナレロというブランドとMTBは似つかないが、同社の芸術的な造形はドグマXCにも受け継がれている。MTBバイクとしては、不思議なスタイリングをしているが、少なくとも設計やジオメトリを見る限りは、現代的かつ先進的で最新のショートトラベルのフルサスペンションバイクだ。
変更可能なリアショック
リアショックはユニークだ。「アジャスタブル・トラベル」と呼ばれるトップチューブの下にあるサスペンション接続ポイントを移動させることで、異なるトラベルのリアショック装着することができる。
ライダーはライディングの地形や条件に応じてバイクをカスタマイズすることができる。
- 190x45mm:フロント100mm、リア90mm
- 210x50mm:フロント120mm、リア100mm
参考までにピドコックのセッティングはフロント100mmのSRサンツアー、リアも190x45mmの同社製品で固めている。
リアショックはトップチューブの下に水平にマウントされる。シートチューブに取り付けられた小さなロッカーリンクと、リアショックアイレットに接続された短いアルミ製ヨークによって駆動する仕組みだ。
リアトラベルはXC用としては適切な短さだが、190x45mmはショートトラベルのピュアレーシング向けバージョン、210x50mmはより一般的なクロカン、SPECIALIZEDで言えばEPIC EVOのようなダウンカントリー寄りのバイクを想定しているのだろう。
メインとリンクのピボットは、ベアリングとブッシュを組み合わせている。ブッシングは、強い衝撃と低い回転力を吸収するのに十分な耐久性が求められる位置に使用された。ベアリングは、その逆の力(弱い衝撃/強い回転)がかかる位置に組み込まれた。
この結果、エネルギーの分散が抑えられ、リアエンドの反応性が高まり、システムの耐久性が向上したという。合わせて、駆動抵抗が抑えられ、かつ数グラムの軽量化と長期耐久性の向上を実現した。
スプリットリアトライアングル
ピナレロが特許出願中の構造が、リアトライアングルの構造だ。スプリットリアトライアングルと呼ばれるこの構造は、2本のピンがカーボンフレームに一体成型された独特の構造からなる。メインの回転ポイントには、2つの異なる形状のセミトライアングルが組み合わさっている。
現代の一般的なほとんどのフルサスバイクは、メインピボットに何らかのヨークを配置し、チェーンステイが独立して動かないように、ブリッジで成型されたワンピースの一体型チェーンステイを採用している。
一方、ドグマはブリッジのない2ピース構造を採用しているのが斬新だ。この構造のメリットは以下の通りだ。
- チェーンステー長を短縮
- ハンドリングと反応性を向上
- 泥溜まりを排除
- 幅広タイヤに対応
確かにチェーンステーは、他のバイクと比べると5~10mmほど短い。
これらの独創的な構造は、ピナレロらしい左右非対称リアトライアングルデザインを形成している。左側が強化され、ドライブトレインの反対側でバイクにかかる大きな力を相殺する効果がある。
MOST 一体型コックピット
カスタムデザインされた完全一体型のMOSTコックピットは、2ピース構造に比べて軽量化された。完全に統合されたケーブル・ルーティングや、ハンドルバーのねじれ過ぎを防ぐ60°の内部ストッパーを特徴とする特殊なヘッドセット・ベアリングも組み込まれている。
ジオメトリー
気になるのはジオメトリーだ。
MTBはロードよりもはるかに進んだ設計が盛り込まれ、規格やジオメトリーも3年すれば廃れてしまうほどだ。ピナレロは、ロード中心のイタリアンブランドであり、MTBの経験が浅いにもかかわらず、ドグマXCに現代的なジオメトリーを採用した。ハズしていない設計に仕上がっている。
サイズは4種類だ。
トレンドの長めのリーチで、スタックハイトはXCバイクとしては低い部類だ。レースバイクとして割り切ったジオメトリ設計が行われており、ライダーをアグレッシブなポジションに導く。
気になるヘッドチューブアングルはXCバイクとしてはかなり緩くSとMが67.5°、LとXLが68.0°だ。120mmサスペンションを取り付けた場合は、SとMが66.5°、LとXLが67.5°になる。実際にスペシャライズドのバイクに乗るライダーはEPIC EVO(66.5°)を操りWCを走っている。
ニノシューターのSCOTT SPARK RCも、67.2°の比較的ゆるいヘッドアングルを備えたバイクだ。XCバイクのヘッドアングルが緩んでいる傾向は、テクニックを要求される厳しいレースコースに理由がある。長いリーチと相まって、XCライクな敏捷性とトレイルバイク的な安定性が現代は期待されるようになった。
ドグマXCの比較的アップライトな75~75.5°のシートチューブ角は、急な登り坂を攻略するためにやや前寄りのペダリングポジションを作り出し、短いシートチューブはドロッパーシートポストのトラベル150mmまで対応する。
ピナレロ ドグマ XC スペック
- ピナレロ ドグマ XC FS
- UDH対応
- フロントディレイラー非対応
- GROUPSET:SRAM XX SL EAGLE AXS
- ホイール:DT XRC 1200スプライン
- フォーク:FOX 32 FACTORY SC 100mm
- リアショック:FOX FLOAT SL FACTORY KASHIMA 190×45
- シートポスト:FOX トランスファー SL 30.9mm, 100mm
- インテグレーテッド・ハンドルバー:インテグレーテッド・ハンドルバー・タロン・ウルトラXC
- タイヤ(フロント):MAXXIS rekon race 29×2.35 exo tr 120tpi
- マキシス(リア): MAXXIS rekon race 29×2.25 exo tr 120tpi
価格は日本円で13900ユーロ、日本代理店は180円計算しているので国内販売価格は250万円ほどになると予想される。
ピッドコックが使用しているSRサンツアーの電子制御ショックや、PrincetonカーボンワークスのMTBホイールP1を搭載したモデルは販売されない(価格がエグいから・・・)。
ピナレロ好き、ピナレロおじさんなら、間違いなくドグマXCが気になることだろう。トレイルやMTBのレースを走らないながらも、ピナレロ好きならばぜひとも手に入れたい1台だ。筆者も、新のピナレロおじさんになるべくドグマXCを注文しようか悩んでいる。