2020世界選手権TTを制したホイールPRINCETON WAKE 6560とは?

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Photo: Princeton-Carbonworks

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フィリッポ・ガンナと謎のホイール

フィリッポ・ガンナ(イタリア) photo:Kei Tsuji

フィリッポ・ガンナ(イタリア) photo:Kei Tsuji

フィリッポ・ガンナは、2019年の4km個人追抜で一日のうちに世界新記録を2回も達成し話題になった選手だ。世界新記録は平均速度60km/hに迫る4分1秒934という大記録を樹立している。そして、2020ロード世界選手権男子エリート個人タイムトライアルで初優勝した。

毎年開催される世界選手権において、選手たちが使用する「サポート外の飛び道具機材」の話題が飛び交う。フィリッポ・ガンナが使用した機材もまさにそうだった。フィリッポ・ガンナが使用していた機材は以下の通りだ。

  • フレーム:PINARELLO BOLIDE TT Carbon T1100 1K
  • フロントホイール:PRINCETON CARBON WORKS WAKE 6560 CARBON TLR
  • リアホイール::PRINCETON CARBON WORKS BLUR 633 CARBON TLR
  • DHバー・形状:MOST Sベンド
  • タイヤ:コンチネンタル GRAND PRIX TT クリンチャー
  • コンポーネント:シマノ
  • ブレーキシステム:リムブレーキ
  • センサー固定方法:ラテックスチューブでエアロ化
  • ボトル:なし
  • エアロシューズカバー:CASTELLI
  • エアロヘルメット:KASK BAMBINO PRO

注目すべき機材は、謎のホイールだ。真っ黒でロゴやブランドすら確認することができない。そして、「世界チャンピオンが使った謎のホイール」という時点で、どこのホイールなのかと話題になっていた。一見するとZIPPのNSWホイールのように見えるが、実はそうではなかった。

現地で取材と撮影を行っている辻啓氏によると、この謎のホイールの正体は「PRINCETON CARBON WORKS」のWAKE 6560(フロント)とBLUR 633(リア)というホイールだという。日本では販売もなく、知名度はおろか存在を知る人は殆どいないホイールブランドである。恥ずかしながら、私自身もこのホイールについて深く知らなかった。

PRINCETON CARBON WORKSは「PRINCETON」という名前にもある通り、創設者のCFO Marty Crottyは名門のプリンストン大学でコーチを行っており、自身もトライアスリートでサイクリストでもある。そのMarty氏が立ち上げたホイールのブランドがPRINCETON CARBON WORKSだ。

Marty氏は、プリンストン大学で学士号を、オックスフォード大学で大学院の学位を取得している。自身もサイクリストながら、世界トップクラスの大学に携わっている秀才が開発したPRINCETON CARBON WORKSのホイールには、どのような秘密が隠されているのだろうか。

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動的断面変動 – WAKE –

Photo: Princeton-Carbonworks

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PRINCETON CARBON WORKSのホイールで最も特徴的で目を引くのはリム形状だ。航空宇宙工学の技術を盛り込んだ波打つ特殊な形状は「動的断面変動」と呼ばれている。最大リム高65mmと最小リム高60mmが交互に24の波打ったリム形状が特徴的である。一見するとお飾りのようにも見えるが、この独特の形状は計算と応力解析から導き出された末のデザインだ。

波打った形状は数値計算から導き出されたシヌソイド(正弦曲線)で、滑らかで反復的な振動を表す数学的に計算された曲線を描いている。そして、このリムプロファイルは、構造面、空力面、重量面の3つのメリットと深く結びついている。

動的断面の可変性(WAKE)の構造をうまく利用しているのは、スポークのテンションが最もかかるポイントだ。スポークホールはリム内側の最深部である凸部に配置してある。対して、凹部分(リムハイトが低い)は逆に張力で引っ張られる。いわば、凸部分のリムはスポーク側に引っ張られ、凹部分はタイヤ側にリムが押し込まれるような応力分布が発生している。

Photo: Princeton-Carbonworks

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一般的なリムハイトが均一な形状(画像下)は、スポークホール周辺にスポークがリムを引っ張る力が一点集中しているが、動的断面変動WAKEの構造はスポークがリムを引っ張る力を分散する(力をリム全体で支える)ような働きをする。

スポークホールはカーボンリムに穴を開ける必要があるため構造的に弱くなってしまう(ENVEは穴が開いた状態で成形されている)。動的断面変動WAKEはスポークホール以外のリム部分(スポークホールとスポークホールの間付近)に応力が分散される構造によって、リム全体で応力を支え合い、より硬く、より反応性に優れたホイールに仕上がるという。

さらに、風洞実験によるとエアロダイナミクスの観点からみても空気抵抗が削減できるという結果が出ている。ノースカロライナ州ムーアタウンにあるA2風洞でのテストで行った風洞実験では、動的な断面変動はすべてのヨー角で抗力が減少することが実験で明らかになった。

Photo: Princeton-Carbonworks

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異なるリムハイトが交互に空気を切り裂くことで、空気の渦が拡散してしまう影響を最小限に留める効果がみられた。PRINCETON CARBON WORKSは、A2風洞実験室に投入する前に、試作品をCFDモデリングで何度もシミュレーションした。実世界での検証でもその効果が実証されたことになる。

また、応力分布を解析した結果、リムボディ全体の負荷も均一に仕上げることに成功している。そして、カーボンレイアップを必要な場所に最低限配置することによって軽量なリムを生み出すことに成功している。60mmのハイプロファイルホイールにおいて、WAKE6560は最軽量のホイールだ。65/60mmの動的断面変動WAKEを備えたWAKE 6560はの重量は1,437gである・・・。

軽い。非常にかるい。特殊なリム形状と、スポーク本数前後24HでCX-RAYというパーツ構成ながら1437gという重量は異常に軽い。この軽さの秘密は単純にリムの重量から来ていると分析している。確かにTUNEやホワイトインダストリーのハブは軽いのだが、CX-RAYという鉄スポークを使用して1400g台を達成するためにはリム重量が440~450g程度に仕上げなくてはらなない。

ROVAL CLX50のリム重量がおおよそこの重量に収まっているが、65mmで440~450gは非常に軽い部類と言える。PRINCETON CARBON WORKSが生み出した動的断面変動WAKEは速さ、強さ、軽さという全てを手に入れた夢のリムと言っていい。

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リムプロファイル

Photo: Princeton-Carbonworks

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WAKE 6560とGRIT 4540のリムスペックは以下の通りだ。

  • WAKE 6560(ハイプロファイル)
  • リム重量:非公開
  • リムハイト:65,60mm(断面変動)
  • リム外幅:26.0
  • リム内幅:18.0mm

PRINCETON CARBON WORKSのメインとなる製品は65mmハイトで1400gのWAKE 6560だ。モデルナンバーは最大リムハイトと最小リムハイトを表している。リム幅は思いの外細く、リム内幅も狭い。

    Photo: Princeton-Carbonworks

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  • GRIT 4540(ミディアムプロファイル)
  • リム重量:415g (Disc), 430g (Rim)
  • リムハイト:45,40mm(断面変動)
  • リム外幅:29.9mm
  • リム内幅:21.0mm

いわゆるミドルハイトのGRIT 4540は非常に良いリム形状だ。リムハイトは最大45.0mm、リム外幅は29.9mm、リム内幅は21.0mmだ。最近「ITLAB 45」というホイールが日本のどこかで登場したらしいが、リムプロファイルはリムハイト45.5mm(+0.5mm)、リム外幅30.0mm(+0.1mm)、リム内幅21.0mm(±0mm)というPRINCETON CARBON WORKSのリムと酷似している・・・。

Photo: Princeton-Carbonworks

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  • BLUR 633(リアディスクホイール)
  • リム重量:非公開
  • リムハイト:ディスク
  • リム外幅:非公開
  • リム内幅:非公開

最も謎が多いのがディスクホイールのBLUR633だ。2020年に25本のみ制作されたディスクホイールは、ホワイトインダストリーズのハブに、ホールレスチューブレスリム、そして内部はSapim CX-Rayスポークという特殊な構造を備えている。いわゆるフードを被せたディスクホイールだ。

BLUR 633は全てBillMoldがハンドメイドで制作している。動的にバランスを取り、タイヤ、チューブ(またはタイヤとバルブが取り付けられた状態で全ての動的バランスまで計算されている代物だ。

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まとめ:SUCCESS BREEDS SUCCESS

Photo: Princeton-Carbonworks

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PRINCETON CARBON WORKSのページには「SUCCESS BREEDS SUCCESS(成功は成功を生む)」と記されている。創設者のCFO Marty Crotty氏は2016年に初めてWAKE形状のプロトタイプを発表した。それから4年の研究開発ののち、フィリッポ・ガンナと共に世界最速へと上り詰めた。

動的断面変動WAKEという、今までにない特殊な形状を生み出したことに成功し、さらに世界最速のタイトルを獲得するという成功も収めるに至ったのだ。

気になるのは、価格と日本への発送である。なんと、日本へは送料無料でWAKE 6560の前後セットがpaypal決済で30万円(ほぼちょうど)だった。65と60mmの断面変動を備え、重量も1,437gと軽く、数日前の世界選手権でアルカンシェルを獲得したホイールが購入できるのである。

普段は1437gのロード用のホイールとしても使え、タイムトライアルではフロントホイールとして活躍する。こんな夢のようなホイールは今までなかった。

TTスペシャリストのみならず、エアロダイナミクスに優れたホイールを探されている方は必須の機材になりそうだ。フィリッポ・ガンナと共に世界最速で走り抜けたPRINCETON CARBON WORKSのホイールで、確実な速さを手に入れられることは間違いない。

Princeton CarbonWorks
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CYCLE SPORTS (サイクルスポーツ) 2019年2月号
CYCLE SPORTS編集部(著), CYCLE SPORTS編集部(編集)
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