この記事を公開するまで「SACRAホイールどう?」といろんな方々にさんざんに聞かれた。実際に走っている時もそうだし、SNSでDMを送ってくれた人もいた。ただ、なぜそこまでSACRAホイールが注目され、皆が気になっているのか私は不思議でならなかった。私の中でSACRAホイールを一言で言ってしまえば「ただの手組ホイール」である。
だから私は、「言うても、手組ホイールですよ」と質問してきた人たちに回答した。
メーカーが生み出すような、ハブからリムまで一貫して専用の設計で作られた完組みホイールとは異なり、SACRAホイールはどこにでもあるパーツで、誰でも知っている組み方で成り立っている。SACRAホイール自体が、手組ホイールという事実に変わりはない。ただ、リムに関しては解析ソフトを用いエアロダイナミクスに優れたリムシェイプを有しているので、リム単体の性能はどうか?という見方もしなくてはならない。
「開発者は元シマノのエンジニア」という冠も、サイクリストの心をつかんでいる。信頼のブランドシマノの元エンジニアとあれば、嫌でも性能を期待してしまう。一流企業だし、90年代と比べてみても株価の上がり方も倍以上だ。堺市に莫大な税金を収めており、毎年ツアー・オブ・ジャパンの初日は、シマノのお膝元の堺市で行われるのも頷ける。
ただし、シマノという企業があって説明がつく話だ。一人のエンジニアが企業をスピンアウトして、プロダクトを生み出すとしたら、個人としてやりたかった事を最大限に押し出した製品を作ってくるはずだ。自分が求めるプロダクトを世に送り出すためにスピンアウトする場合は、何かしらアイディアや思いがある場合が多い。このような前置きをしつつ、私はこんな問を投げかける。
「SACRAホイールの設計思想は何か。」
先般の「GT-ROLLER Q1.1 インプレ 4本ローラーが導く室内トレーニングの未来」でも触れたように、魅力的なプロダクトには何かしらの設計思想があった。グロータックの四本ローラーの出発点は、決して初めから四本ローラを作りたいわけではなかった。「室内に居ながらにして、永遠に終わらない道を作る」という思想の元、たどり着いた結果がGT-Roller Q1.1という四本ローラのカタチだった。
私はSACRAホイールの中に「設計の想い」を探った。しかし、SACRAホイールにはその機材の特性上か、私の情報収集の範囲、公開されている技術情報の範囲では、明確な思想部分を読み取ることはできなかった。対してアピールしているのは、「何」に対する部分、機能であったり空力性能だった。
人々がSACRAホイールに期待してることは、一体何なのだろう。少なからず手がかりを探すために、私は実際にSACRAホイールを使い、自分の脚で確認していく作業にとりかかることにした。思想部分は読み取れないにしろ、幸運な事にSACRAホイールを制作しているSACRA Cyclingの代表、田中氏は本を出版している。
今回の記事は、田中氏の書籍「ロードバイク 本音のホイール論」と「SACRAホイール」を交えながら詳細に迫っていく。
本記事は4万文字です。ブックマークボタン置いときました。
記事の要約
今回は記事の構成をよみやすく変更した。やや文章のボリュームが増えてしまったため、先にまとめを記すことにした。時間のない人や、長文を読むのが退屈な人と、様々な人がいると思うので、私のSACRAホイールに関する結論を先に書き記す。本章だけ読めば、ある程度の概要をつかむことができる構成にしてある。
(※その後は具体的に細かい話を書いた。)
今回SACRAホイールの50mmを試した。50mmというリムハイトを使うのなら、最近の製品はもう少し軽いリムが出てきている。その為多くの方から、リム重量513g(実測)というSACRAのリムをあえて使用する意味を問われていた。
自転車機材であえて重いものを使う必要は無い、と考えている私にとって難しい質問だった。
エアロダイナミクスと重量をトレードオフにする前提、普段使いや日々の練習での使用であればSACRAホイールは良いと思う。どうしてもカーボンクリンチャーを試したいが価格面を抑えたい場合も、1つの良い選択肢だ。確かにリム自体は硬かったが、リアホイールは掛かりが良いと、自信を持って言える走り方を感じられなかった(詳しくは後述した)。
あまり気の利いた事を言えない理由は、SACRAホイールの比較対象として用いたホイール側にある。私が普段使っているホイールは、新型ROVAL CLX50の軽量リムだったり、BORA35、Lightweightマイルシュタインクリンチャーといったようなハイエンドのホイールだった。結果、相対的にSACRAホイールは私の中で低い評価になってしまった。
それらをふまえ、SACRAホイールに関する率直な印象を箇条書きにし、以下にまとめる。
剛性面
- フロントは縦方向に硬く感じ、地面からの突き上げを大きく感じる。
- 私の中で硬いホイールに属する。
- リアは確かに「硬い」と感じるが、かといって「進むことに繋がる硬さ」の感覚とは別物のように感じる。
- リムは確かに硬い(はず)、スポークパターンを駆動剛性重視の左右タンジェントで組んだらさらに化けるかも。
構造面
- この価格でリアリムをしっかりオフセット(11Sでは必須)している点は良い。
- 「ニギニギ感」のスポークテンションはCLX50やBORAよりも高い。
- 実際のスポークテンションは150kgf程のようだ。
- リムの剛性からもっとテンションを張れる可能性はある。しかし、組み方、スポークから、張ることのできる上限(これ以上は意味がない)まで張られている(かといってリムの限界値ではない。)
重量面
- 漕ぎ出し時にリムが重く感じる(相対的に)
- ゼロスタートでもっさりと進みにくい(相対的に)
- 重量を気にする人は、リム重量が許容範囲であるか確認してほしい。
- 以前使ってたGOKISOのリムも同様に重かったが、GOKISOの方がよく走る印象。この謎は何なのかもう一度試したい。GOKISOのハブで1本一度組んでみたくなった(本気で)GOKISOハブF20H,R24or28Hを譲ってくれる人募集・・・
エアロダイナミクス
- バンクでCLX50とSACRA50mmを使ったが空力面で大きな違いはない。
- 高速巡航時にCLX50と大きな違いはない(フロント)。
- 巡航が速くなってからのもう一発の加速はCLX50。
使用面(レース、使用用途、適したシチュエーション)
- ヒルクライムには重量面から別の手段を検討する(質問の回答)
- ヒルクライムならReynoldsのAttackのリム(CL: 390g)を選択する(質問の回答)
- 緩斜面で低スピードの場合引きずられるように重く感じる(CLX50やBORA35と比べ)
- 低速域から高速域を繰り返すようなシチュエーションには、もう少し軽いホイールを選択したい
- 広島森林公園のコースでは使いたいが、路面の悪い群馬CSCでは使いたくない。
- 私ならリムだけ買って駆動剛性重視のスポークパターンに変える(質問の回答)
- BORAやROVAL、MAVIC、ZIPP、ENVEのカーボンクリンチャーを持っているなら、あえてSACRAホイールを追加で買う必要はない(質問の回答)
- 練習用のカーボンクリンチャーなら1つの良い選択肢になる。
価格面
- カーボンクリンチャーを初めて使う人にとって値段的に一つの良い選択肢に。
- ebayやaliexpressに売っている中華リムを買うならSACRAリムのほうが安心(質問の回答)
総評
価格を考えてみると練習用ホイールで頑丈なカーボンクリンチャーと捉えれば選択しても良い。また、初めてのカーボンクリンチャーを使うとしたらヘタな中華リムを掴まされるより、安心して使える頑丈なSACRAリムのほうが良い。
SACRAホイールをシマノのグレードで例えるなら「ULTEGRAグレードのカーボンクリンチャー」と言える。
(※ただしリムのみで、スポークやハブはコストダウンしており、必ずしも良品とはいえない。また、スポークパターンは駆動剛性重視のほうが良いと思う。)
これが本記事、私のSACRAホイールの結論だ。
これからSACRAホイールに関する詳細を記載するが、結論はここまで記した内容とへと結びついていく。まずは、田中氏の書籍『ロードバイク 本音のホイール論』から見ていこう。
ロードバイク 本音のホイール論
本書について語る前に、「事実」という概念について考えてみたい(もう読む気失せた人も多いかもしれない!)。今まで仕事にかぎらず様々な論文や資料を読みあさってきたが、その中で知った事実とは「今、現在において判明した最も確からしいこと」という1つの解だった。
「事実」と「真実」という言葉は、しばしば混同されやすい日本語だ。文章レベル、説明レベルに落とし込む時に「事実」と「真実」は次のように分ける事ができる。
- 事実:現実に起こった事、存在する事
- 真実:嘘偽り無く、本当のこと
一見すると「事実」と「真実」は似ているようで、全く異なる意味を持っている。「事実」はあるがまま、客観的に見た出来事を表す。もうすこし強い文章で記すと「誰が見ても揺るがない、現実に起きたこと」と言い表せば通りが良い。対して「真実」とは、どのような意味を持つ言葉なのか。
「真実」とは人間の主観に基づき導いた、1つの結論である。だから複数の真実が存在していてもおかしくはない。むしろ複数の解釈が存在しているからこそ「真実」なのだ。よって、複数の真実が存在してしまう場合もある。真実は主観的であるから、ひとりひとりの人の中に「真実」が存在している。
これに対比するように「事実」ということばを解釈すると、「現実に起こった事、存在する事」と言い表せる。客観的に見た事柄であり、誰が見ても揺るがない、現実に起きていることを示している。
私がなぜこのようなことを書いているのかと言えば、本書『ロードバイク 本音のホイール論』を読み進めていく上で、「真実」と「事実」を明確に切り分けて考えなくてはならない、と考えたからだ。本書籍は、元シマノホイール開発者の田中良忠氏と、サイクルジャーナリストの吉本司氏の共著である。
ホイールは自転車機材の中でも特に、理論や解説が乱立している。それもそのはず、明らかになっていない部分、メーカーが技術情報を一般向けに公開していない部分がいまだに多い。そこでホイールという機材に対してメスをいれるべく、本書は書かれた。そして、書籍カバー部分の帯には次のような一文が記されている。
サイクルジャーナリストと元シマノ技術者がホイールの真実を解き明かす!
と。ホイールに関するインプレッションを執筆するサイクルジャーナリストと、工学的観点でホイールや自転車機材に関する真実を解き明かすという、魅力的な内容だ。私はここから本書を読み進めるわけだが、一人の読者として、また畑は違うがエンジニアとして両名の記事内容を次のように定義し、読み進めることにした。
- 吉本司氏の章:「真実」の内容で、主観的である
- 田中良忠氏の章:「事実」の内容で、客観的である
というように読み進める。定義を設けた理由は、解釈にブレを生じさせない為だ。読み進めていくうちに自分自身の考え方にブレが生じ初めたら、今記した定義にいつでも戻ってこれるようにと。考え方の軸を記したもう一つの理由は、本書の構成にもある。以下の通り本書は、執筆担当を章ごとに分けて構成している。
- 1章:ホイールの基礎知識:吉本氏
- 2章:ホイールの作り方:田中氏
- 3章:ホイールのウソ・ホント:田中氏
- 4章:よりよいホイールに出会う:田中氏
- 5章:ホイールを使いこなす:吉本氏
したがって、吉本氏の内容には真実の切り口(主観的な意見)として捉え、田中氏の内容には事実の切り口(客観的である)として捉える。
事実と真実が渦巻く自転車界
私も様々な機材を使うのが好きで、個人的な感想をいくつか記している。多くのサラリーマンと同じように、自分のお金で機材を買い、自分の「主観的な感想」を述べている。ときには間違っていることもあるし、たまに面白かったと言ってもらえることもある(こちらは稀だ)。
人間が記すインプレッション(印象)は「相対的な評価」を下す。人間は測定器ではないから、目の前で起こっている事や、体感している事象に対し絶対的な評価を下すことはできない。どうしても「BORAとくらべて硬い」だとか「KSYRIUMとくらべて軽い」という域から抜け出せだすことができない。
しかし、工学的な議論(本書が目指す所)に持ち込むならば話は変わってくる。人間の主観的なバイアスが工学的な観点の邪魔をしないように、測定器だとか、実験結果、物理的にどうであるかという「数値を用いた結果」で工学や数学は物事を美しく表現する。評価という「事実」を示すために、工学や数学という道具は素晴らしい存在だ。
本書が目指す工学的という観点であれば、評価も「数値として表すこと」ではじめて事象の意味を説明できる。多くの論文や解説書がそうであるように、工学的という表現をすると数値がモノを言う。私が、いつまで経っても書籍の感想を述べずに、「事実」だとか「真実」といった話を記している事に、読者は不思議に思っているかもしれない。
それには理由がある
言ってしまえば私達消費者が、お金を払って買う自転車関係の書籍や、解説書の内容自体に不満がある。もうすこし辛辣な事を申し上げれば、お金を払って得られる情報の「信憑性」がどの程度担保されているのか疑問だ。
sacraさんの本をサクっと流し読み。(読み物として面白かったですよ。)とりあえず気になったのは発売が25日のsacraさんの本は結線は意味なしと書いてあり、20日発売のCS誌には剛性をあげるなら結線だ!もっとあげるならねじり組みだってなってる所が面白い。
— キクちゃん@問い合わせ対応(遅れ気味 (@chankiku) 2017年4月26日
同一月(2017年4月)に出版された自転車関係の書籍内容で矛盾が生じていたのでツッコみが入った。ホイールビルダーとして誰もが知っているキクちゃんは、少しばかり”優しめ”にこのような指摘をしているが、裏を返せば「メディアによって言ってることちゃうやんけ!」と熱心なサイクリストからクレームが来てもおかしくない。ユーザーの立場から見れば「情報が乱立」しているのである。
情報源(しかも同月の)となる、お金を払って買う書籍や解説書がこうであっては消費者として本当に困る。ただし、見方を変えてみれば、それぞれの書籍(各社)の言い分を、次のように解釈することもできる。
「どれも、真実なのです。」
と、、、
自信を持って「事実」とは言いがたいが、主観的な「真実」であって、真実は複数あるのです、と(これが冒頭の事実と真実に枠を割いた理由だ)。要するに解釈の問題であって、切り口の分だけ真実は用意されている(と受け取られてもしょうがない)。これではホイールに関する様々な情報が「オカルト」的な内容として成り下がってしまう理由も頷ける。そしてホイールとは、宗派であり宗教になってしまう。
そしていつしか消費者たちは、メーカーやメディア、輪界の重鎮たちの終わらない宗教戦争に巻き込まれ、「いったい何が事実なのかさっぱりわからない」と思い悩むのだ。メーカーや書籍、雑誌は「真実」を語るかもしれないが、私が知りたいのは「事実」ただ1つだ。
小休止…
ただ、宗教戦争に巻き込まれる消費者たちが皆が皆、工学的な知識や、ホイール組みに関する知識を必ずしも持ち合わせているわけではない。書籍を読む私達消費者は、「本や書籍として売られているのであれば信用できるだろう」と思う事は当然である(実際そうであってほしい)。しかし肝心の雑誌や書籍が「真実」で揺さぶりをかけていては元も子もない。
言ったもん勝ち、自転車業界に何かしらの権威を持った人達が言う「真実」がまかり通る事は、消費者として避けて通りたい。私自身も一定の情報を発信している以上、読者を悩ましていたのかもしれないと実は反省した。その上でどうすれば良いのだろうかと、まずは自身で考えてみることから始めてみた。
今回、本書「ロードバイク 本音のホイール論」は色んな意味で良い機会だった。私はここまでさんざん説明したような宗教戦争を終わらせてくれるような、工学的かつ数値データーに溢れた書籍を期待していた。しかし、読み進めていくと、私が収集してきた様々なデーターとやや異なる解釈が多く見受けられた。
解釈の相違が見られた場所は、なぜそのような解釈をすることが正しいのかを興味深く再考することにした。この機会に丁度都合が良いのだが、私自身が持っているホイールに関する様々な情報(論文、実験データー、書籍)から数値的な「事実」も合わせて紹介してみたい。私が今から記すのは各社の実験データーや論文、計算から得られた「事実」だ。
様々な書籍や論文が登場するが、明確に数値や計算式が登場しないものについては「事実>真実」という優位性を持って示す。あらゆる情報が登場してくるが、言葉だけで言い表した記述(実験データーや数値的な証明をしていない)については「言ったもん勝ち」になりかねないので、参考情報として扱うに留める。
今回「ロードバイク 本音のホイール論」から取り上げるホイールの話題を幾つか抽出する。特段本書で章立てられていないが、解説から関連している箇所を拾い上げている。そして個人的に、私自身も本書を読む前に知りたかった「事実」と関係している。
- スポークパターンと横剛性・縦剛性・駆動剛性
- リム重量の意味
- ライトウェイトについて
- 結線の意味
私が知りうる限りの資料を総動員して、順を追って一つ一つ内容を追いかけていく。これらの話題と、これから記載していく内容は、SACRAホイールという手組みホイールの理解を深める事へとつながっていく。
スポークパターンと横剛性・縦剛性
この話題を初めに持ってきたのには理由がある。面白いことに「ロードバイク 本音のホイール論」と「ロードバイクの科学」との間には「剛性」に関する全く異なる「真実」が記されていた(この時点では真実という言葉をあえて用いた)。各書籍に記されている内容をそのまま載せてみよう。
ラジアル組の特徴は、スポークが短くなるため、横剛性が高いことです
ロードバイク 本音のホイール論(田中良忠著)
ラジアル組は縦に硬く、トルクは受けられず、横剛性は低い
ロードバイクの科学(ふじいのりあき著)
ラジアル組は横剛性が「高い」、「低い」という2つの「真実」が展開されている。
しょっぱなから、真っ向から違う2つの「剛性論」に困惑してしまった。私が最も知りたかったスポークパターンの違いによる剛性について、全く異なる2つの「真実」が存在していた。なお『ロードバイクの科学』は(株)本田技術研究所で自動車の開発・設計に携わる技術者の ふじいのりあき氏 が記した、ベストセラーの書籍である。
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話を進める前に、論点や認識の相違を最小限に留めるために、1つ整理しておきたい。「剛性」という言葉についてだ。この「剛性」という言葉を用いる時に「横剛性」「縦剛性」「駆動剛性(トルクを受ける)」といったように、”何の剛性”について述べているのか、文章中で明確に記述する必要がある。
そうしないと、「どの方向の剛性に関する話をしているのか?」と解釈が不明確になってしまう。したがって、記事を書きすすめる上で、度々この剛性が登場してくるので、先にアンカーとして残しておきたい。
さて、「横剛性」に関して相反する記述が両書に存在している。実際の数値データーではどのように示されているのだろうか。まずは『ロードバイクの科学(ふじいのりあき著)』の実際の実験データーから見ていくことにしよう。
ホイールに5kgfの横荷重をかけた結果を紹介します。私の持ち物で最も弱いと思われる、#15×16本ラジアル組と、最も強いと思われる#15×36クロス組ラージフランジの比較では、前者(ラジアル)が0.55mm、後者(クロス=タンジェント)が0.3mmたわみました。ちなみにカーボンの5スポーク(MAVIC IO)は見た目はごついですが、横剛性は意外になく、1.0mmのたわみでした。
引用元:ロードバイクの化学:p159 組み方のパターンと基本的なこと
たしかに実験上は、クロス(タンジェント組)のほうが0.3mmしかたわまず、横剛性が優位に高いと示している、、、が、もしも公平かつ正確な実験をするのであれば、「#15×16ラジアル組」と「#15×16のタンジェント組」で同一スポーク数、同一ハブ、同一リムという条件下で横剛性を比較すべきだ。
本実験は、タンジェント組が有利になる実験試料を用意した、とホイール好きから指摘されかねない(まさに炎上案件だ)。
対して、「ロードバイク 本音のホイール論(田中良忠著)」はどうだろうか。115pの章「スポークパターン:横剛性のラジアル、駆動剛性のタンジェント」には剛性に関する数値データーは無い。実験データーも無く、文章の説明のみが記載されていた。これだけでは工学的な観点とは言い難く、説明を読み解くことが出来ない。
残念ながら数値データーや、実験データーが無いため、事実ではなく真実として扱い話をすすめる。その上で書籍内の記事を読んでみると次のように記されていた。
ラジアル組の特徴は、スポークが短くなるため、横剛性が高いことです。しかしトルクを伝える駆動剛性は高くありません。したがって、ラジアル組はフロントホイールにしか適応できません。一方のタンジェント組は、駆動剛性は高いのですが、横剛性が少し下がります。フロントをタンジェント組にしたホイールがまずないのは、そのせいです。
引用元:ロードバイク 本音のホイール論:p115 スポークパターン
実際、「タンジェントとラジアルどちらが横剛性が高いか?」という基本的な問いに対し、両者の意見は真っ向からぶつかっている。しかし、互いに公平性のある実験条件や、実験データー、数値データーから「○○の組み方のほうが横剛性が高い」と明らかに言えていない点がもどかしい。そこで、私は様々なホイールの実験データーと照らし実際の数値データーを確認していくことにした。
まずは、当ブログで2013年12月22日に公開した「完組ホイールのベンチマークテスト硬さを表す剛性値 ロープロ編」で用いた実験データーをご紹介したい。この実験はドイツの基幹紙TOUR MAGAZINEのオープンバックナンバー2011年の実験データーである。
私が様々なホイールをテストする中で、感覚と数値データーの近似性を確かめるために度々使っている資料だ。曖昧なホイールという機材の性能を、数値として示した実験データーとして大変貴重な資料である。個人的な思いを吐露すると、こっそり自分だけにとどめておきたい、、、のだが、ここで皆さんにもぜひ見て頂きたい(中には知っているという人も大勢いるとは思うが、知らない人も中にはいるだろう)
まぁ、何がスゴイって「ありとあらゆる自転車機材の性能を数値化したった」というみんなが知りたかった実験データーが載っている(フレーム、ホイール、チェーン、クランク、etc,,,)。さすが工業立国ドイツである。「話は数値化してからな」という真っ当な工学的アプローチをしており大変好ましい。しかもホイールに限らず、フレームの剛性(BB、シートポスト、フォークetc)と様々な角度から検証している。
チェーンのテストではULTEGRAより105の方が良い数値データーが出ていたりと大変面白い(日本ならメーカーの都合の悪い情報なんて大問題に発展する!)。実際に全てのページで様々な機材データーが見られるので、これだけでも相当面白い。日本にもこのような雑誌が存在してくれればよいのだが、是非TOUR MAGAZINE日本語版もリリースしてほしい。
さて、TOURMagazineのデーターには様々なスポークパターンのホイールや、ディスクホイールと、ワクワクするような数値データーが掲載されている。もちろんみんな大好きLightweightや、シャマル、レーゼロ、コスカボ、シマノ、ZIPP、コリマと様々なブランドのデーターが掲載されている。やや型は古い機材も存在しているが、2011年からそれほどスポークパターンは劇的に変わっていない(2017年現在、リム設計に関しては相当進化した)。
さらに興味深いのは、今回の記事の要でもある手組みホイールについてのデーターだ。海外のホイールビルダーの手組ホイールがテストにかけられている(←ここ重要)要するに誰でも買えるようなパーツで、海外の著名なビルダーが組んだホイールも、剛性テストにかけられてしまっている。手組みホイールと完組(しかも究極の回転体Lightweigtさんも登場)、はたまたディスクホイールも同一条件の実験にかけられ、克明に数値化されている。
で、肝心の横剛性のテスト結果(リムをある量をたわませるのに、どれくらいの負荷N/mが必要だったか)で一番横剛性が高かったのは、、、と、やっとここで先日実施したTwitter上のアンケート結果をご紹介したい。早速、実際の集計結果を振り返ってみよう。
以下のFホイールのうち、最も横剛性が高い物はどれだと思いますか?
1.Lightweigt G3 16H
2.SHIMANO C35 アルミ
3.CHRIS KING 32H(tan) DT RR585
4.WHITE INDUSTRIES 32H(tan)x Open Pro— ITさん(FJT) (@FJT_TKS) 2017年5月12日
Twitter民が予想した横剛性が最も高いホイールは、圧倒的過半数を得たLightweight G3だった(おめでとう)。次いでラジアル組のシマノC35アルミバージョン、次いで手組みのCHRIS KINGのタンジェント組(なめられたもんだ)、ホワイトインダストリーのタンジェント組(これはこれでマニアック)であった。結果はTOURmagazineにも記載されているように、おおかたの予想とは全く異なる結果が出ている。
※なお3番のCHRIS KINGは32Hではなく、正しくは4本少ない28Hが正しかったようです。そしたら順位は4位のホワイトインダストリーよりも下がっていたかもしれません・・・。という補足事項を含めつつ、実際の結果がどうだったかというと・・・。
最も「横剛性(横方向に変形しにくい)」が高かったのは、なんと「CHRIS KINGのハブとDTSWISS RR585リムをタンジェント組28本で組んだ手組みフロントホイール」の80N/mだった。正解は3番。間違いないように言っておくと、次に横剛性が高かったのが完組ホイールの究極の回転体Lightweightの67N/mである。
Lightweightのフロントホイールは一見するとラジアルに見えるが、一本のカーボンスポークがハブフランジ側面を通過し、タンジェント組で構成されている。フロントのスポーク本数は”見かけ上16本”に見えるが、実際には8本のカーボンスポークだ。では、次に横剛性が高かったのは・・・・
シマノC35の16Hスポークホイールの63N/mだった。次いで、、、
「WHITE INDUSTRIESのハブとMAVICオープンプロのリムをタンジェント組32本で組んだ手組み」のフロントが62N/mだった。これには私も驚いた。単純に横剛性だけで勝負するのならば、究極の回転体Lightweightよりもはるかに横剛性が高いフロントホイールを手組で実現できるのだ。
上記のアンケートの結果、TOUR Magazineの実験データーにもあるとおり以下の順で横剛性が高いフロントホイールということになる。
- CHRIS KING 28H(タンジェント) DT RR585:80N/m
- Lightweigt G3 16H(タンジェント):67N/m
- SHIMANO C35 アルミ(ラジアル)16H:63N/m
- WHITE INDUSTRIES 32H(タンジェント)x Open Pro:62N/m
- MAVIC COSMIC CARBONE SLR (タンジェント):61N/m
他のデーターを見ていくと、ラジアル組のホイールが続いている。シマノのホイールは全体的にフロントの横剛性が高い。横剛性が低いと思っていたZIPPのカーボンリムのフロントはやはり低かった。実験結果で興味深いのは、ホイールが組まれた状態において、「横剛性とリムハイトには相関関係が見られない」という点である。
これは私が今まで使ってきたホイールもそうであったから、感覚は間違っていなかった。しかし、『ロードバイク 本音のホイール論:p82』において「横剛性が高いホイールとは?」では次のように書かれている。
横剛性が高いホイールには、どのような特徴があるのでしょうか。まずはリムを見てください。リムハイトが高く、幅が広いほど、横剛性は高い傾向にあります。スポークパターンにも影響するのですが、詳細はわかっていません。
一概には言えないが、ZIPPのような軽量化を目指したリムの場合、横剛性が他のホイールよりも劣っている(のかもしれない)。かといって、アルミのローハイトでもディープリムを凌駕するような横剛性を備えているホイールも確かに存在する。CHRIS KINGの28Hのタンジェントのように、組み方やスポークの太さによって横剛性が変化することも実験データーから読み取れる。
実際に組んでみないことには、必ずしも「リムが高いホイール=横剛性が高い」と言い切れないようだ。データーを見てもその傾向は見て取れる。私が好きなコリマさんはそのロープロファイルに似合わず高い剛性と高い空力性能を備えている。こっそり書かれているコリマさんのデーターを、実際に見ていただければその性能に驚くはずだ。
ZIPPに至っては、ハブ、スポークが同一という条件において、横剛性は以下の結果になってしまっている。
- 57N/m, ZIPP 101, アルミリム32mm
- 48N/m, ZIPP 404, カーボンリム58mm
- 46N/m, ZIPP 808, カーボンリム82mm
oh… zipp…
先程のTOURMagazineにおいて、同一条件(ハブ、スポーク)においてリム高さだけが違うのがZIPPのテストだった。横剛性が逆転している原因は触れていないが、ホイールによって「味付け」が異なるのかもしれない(もっと剛性をあげられる可能性はあるが、可能性の話だ)。実際に、TOURの情報からは田中氏が主張するリム高と横剛性の傾向は確認できなかった。
もしかしたら別メーカーのリムハイトが異なるリムの場合(例:ENVE2.2, 3.4, 5.6, 8.9)はリムハイトに比例して、ホイールが組まれた状態の剛性は比例するのかもしれない。しかし、TOURMagazineの実験データーからは確認できず、田中氏の書籍からも数値データーを読み取ることができなかった。
結果、実験データー上は特に横剛性が高いホイールの組み方上位2つが「タンジェント」であり、田中氏側の主張とは大きく異なっていた。
剛性面からすこし話題をずらし、重量面や、エアロダイナミクスという、実際にホイールを使う上で重要になってくるであろう別の議論も忘れてはならない。しかし「横剛性」という一点で数値データーを見た時、Lightweightよりも横剛性が高いアルミリムのホイールを作り出せるのは驚きである。
他のホイールに関する横剛性のデーターは腐るほど、TOUR MAGAZINEが検証してくれているので実際に見てほしい。ただ、これだけ見ると最も硬い80N/mを要した手組みホイールと、3番目に硬い62N/mのホイールとでは、同一スポーク本数でタンジェント組なのだが、ハブと、リムが異なることで大きく横剛性が変わっている。
ただ、これだけではタンジェント組とラジアルの組の横剛性の議論に対して決着がついたと証明するには少しばかり乱暴であり、解決になっていない。ホイールに使われている試材が同一条件ではないため、公平性にかける。
確かに「CHRIS KINGのハブとDTSWISS RR585リムをタンジェント組32本で組んだ手組みフロントホイール」がTOURMagazineの実験上、最も横剛性が高かったと結論付けられるが、
「CHRIS KINGのハブとDTSWISS RR585リムをタンジェント組32本で組んだ手組みフロントホイール」と「CHRIS KINGのハブとDTSWISS RR585リムをラジアル組32本で組んだ手組みフロントホイール」を比較した結果、前者(タンジェント組)の方が横剛性が高かった。従って、タンジェント組のほうが横剛性が高い結果が得られた。
と、結論付けることはできていない。
何から何まで同じ試材を用い、スポークパターンのみを変えたホイールを用意して双方を比較する。実験として確からしさを追求するのなら、前提条件を整えておく必要がある。確かにラジアルとタンジェントならば、当然スポーク長が変わるので、組み方以外の要素が横剛性に影響を及ぼしている事も十分に考慮しなくてはならない。
ここまでのデーターはリムも、ハブも、スポークパターンも全くバラバラのホイールに関する横剛性の数値データーだった。肝心のパーツが統一されたデーターはないのだろうか。もう少し別の角度の実験データーとして検証したものを・・・。
田中氏の書籍内でも書かれていたように「スポークパターンにも影響するのですが、詳細はわかっていません。」とあった。
そこで、私が知りうる資料の中に、スポークパターンと材質の疲労を検証した論文が思いあたる。米国Duke Universityの論文である。本大学は、ノースカロライナ州ダーラムの米国私大。大学部門で全米第8位、ビジネススクール部門で全米12位、ロースクール部門で全米8位、メディカルスクール部門で全米8位、バイオ工学部門で全米4位にランキングされている。
そのDuke大学のラボ(Structural Dynamics and the Seismic Response Control Laboratory)で公開されている論文「Bicycle Wheel Spoke Patterns and Spoke Fatigue」が興味深い。(※他にも多くのResearch Paperが見られる!)
本論文が興味深いのは、 スポークパターンが及ぼす金属疲労への影響を調査するために、スポークにパワーメーターでお馴染みの「ひずみゲージ」を取り付けて実験を行っている。本研究では「ぼくがかんがえた、さいきょうのほいーる」的なノリではなく、スポークパターンの違いは、スポークの金属疲労、ホイールの寿命にどのような影響を及ぼすのかを調査している。
最も興味を引かれる内容はスポークの交差数の違いによる「横剛性」「縦剛性」「駆動剛性」の違いを、ひずみゲージを用いて正確に計測している点だ。論文の実験結果を早く見たいという、結果を急いでしまう気持ちもわかるのだが、その前に使われている用語の整理をしたい。
これからデーター中に出てくる用語は、以下のように示される。
- radial wheel stiffness:縦方向の剛性
- lateral wheel stiffness:横方向の剛性
- torsional wheel stiffness:ねじり方向の剛性
その上で、スポークパターン「2クロス」「3クロス」「4クロス」の違いによる「縦剛性」「横剛性」「駆動剛性」の実験結果がこちらだ。
まずは縦方向の剛性である。縦軸(Y)はホイールの縦剛性、横軸(X)はリム単体の剛性である。Spoke Dia.(mm)はスポークの太さを示している。2x,3x,4xはクロスの数だ。結果は、スポークが太く、交差数が少ない組み方が最もヨコ剛性が高い。
続いて横方向の剛性である。同じく縦軸(Y)はホイールの縦剛性、横軸(X)はリム単体の剛性を示している。こちらもスポークが太く、交差数が少ない組み方が最もタテ剛性(ホイールをタテから押し潰す時に、どれほどホイールの変形を抑えることができるか)が高い。
最後に駆動剛性(ねじり方向にどれだけ強いか)である。カカリの良さに関係してくる剛性で一番気になる剛性だ。予想通り、交差数が多い4xかつスポークが太い構成が最も駆動剛性が高い。となると、私が以前のむさんに組んでもらった駆動剛性重視のホイール、ドライブサイド側をDTコンペの太めのスポーク、反ドライブサイドをCX-RAYは、構造的に間違っていなかったようだ。
ふじいのりあき氏の『ロードバイクの科学』では「タンジェント組は横剛性が増す」とあるが、実際の実験結果はよりラジアルに近づくほど「縦剛性」と「横剛性」が落ちている。この論文から結果を見ると、田中氏の主張は正しい、
かのように思われるが、物理と自転車に詳しい友人にたまたまこのデーターを見せたところ、とても面白い回答が返ってきた。
まず、実験データーからクロスが減り、ラジアルに近づくほどヨコ剛性とタテ剛性が優位に向上している。ただ、このままラジアル組にした場合、想像の延長上にはタテ・ヨコ共に剛性が向上すると「推測」できるが、実験データーが存在していない為、結論づけることはできない。このタンジェント組がラジアルに向かう想像の過程には、BORAのG3スポーク組(同一方向にDS側とNDS側から3本伸びている)のような「同一方向に2本のスポークが伸びるタンジェント構成」を経て、最終段階で全方向に放射状に広がるラジアル組に達すると考えるほうが通りが良い。そうすると(ここからは想像の延長上だけど)、ヨコ剛性、タテ剛性に関して言えばG3スポーク組のような同一方向に2本伸びている「ラジアルっぽいタンジェント組」が最もタテ・ヨコ剛性が高くなるかもしれない。そして、ラジアルの場合は逆に2本が1本になるわけだからタテ・ヨコ剛性はラジアル組が最も低くなってしまうかもしれない。いづれにせよ、実験してデーターを取得できるまでは「想像の延長上の結果」なので断言することはできない。
ラジアルに近づけばヨコ・タテ剛性が増していく・・・。と想像したが、想像の延長上に結果を求めるなと、遠回りで指摘されてしまった。本記事で最も注意していた実験データーありきという事を私はすっかり失念していた。そうするとホンダのエンジニアのふじいのりあき氏の『ロードバイクの科学』の内容もあながち間違いだとは言えない。
論文内には肝心のスポーク数やリム高についてのデータは記されていないため、参考情報としては有効だが、安直に結論付けることは難しい結果となった。
TOUR紙によるテストを思い出すと、タンジェント組のCHRIS KINGハブとアルミリムが最も横剛性が高い得られている。この相反する結果をどのように捉えればよいのだろうか。まずホイールとはあらゆる要素(スポーク、リム、ハブ)から成り立つ集合体である。
その事実をふまえた上で、スポークパターンによる「縦剛性」「横剛性」「駆動剛性」の違いは確かに事実として存在しているが、使用するスポークの太さ、ハブの設計、リム、スポークパターンの選択が異なれば組み合わせの数だけ「剛性」が存在する。
私のトラック用のリアホイールのように「駆動重視」なら左右タンジェント組が「真実」だろうし、シュータッチしないような横剛性を求めるならばもしかしたら反ドライブ側はタンジェント組が「真実」として扱われる。
ただ、実際に売られているホイールをテストしているという観点、そして比較対象の多い生のデーターを正とするならば、我々サイクリストはTOUR Magazineのデーターを今後参考にして、数値と感覚の誤差を知るほうがより現実的である。
実際に組み上げたデーターを見ると、横剛性を最も高められる可能性のあるフロントホイールの組み方は、「太めのスポークで、スポーク本数もできるだけ多く、タンジェント組」という結果が得られている。何を最も優先にするのかは人によってそれぞれだが、単純にヨコ剛性を高めたいのであればタンジェント組は有効だと言える。
リム重量の意味
本書「ロードバイク 本音のホイール論」のp88~93にはリム重量の軽量化は、人間を含めた重量のうち100g軽くしても軽量化の効果は0.6%だと算出している。これは重量だけで見た場合の紛れもない事実だ。また、エネルギー論的には、「軽量化の効果が意外と小さいのは間違いない」と結論づけている。
そしてリムの軽量化は、フィーリング重視ならば効果的とある。
では、実際にエネルギー論的にリムの軽量化、もしくは軽量なホイールはどれほどエネルギー論的に効果が小さいのか確認してみよう。このエネルギー論の観点でも先程のTOUR Magazineのラボでテストが行われていた。
実際のテストをザックリと要約すると、0km/hから30km/hに加速していく過程で、どれくらいの仕事量を必要とするかを数値で示している。少ない仕事量で加速できるホイールならそれだけ脚を残せるし、身体へのダメージも少ない。仕事量はパワーメーターを使っている人ならお馴染みのJ(ジュール)で示されている。
先程、最も横剛性が高かった「CHRIS KINGハブとアルミリム」はこのテストで140Jを必要とした。対して、究極の回転体Lightweightはあらゆるホイール中、一番仕事量を必要としない98Jであった。Lightweightのフロント重量は531g/643g、CHRIS KINGの手組は891g/1054gと重量差は相当違う。
単位に騙されないように、数値データーを丁寧に示すと、パワートレーニングで用いているJ(ジュール)はKJ(キロジュール)である。先程の140Jは1/1000の世界での話であり、キロジュール(KJ)に直すと0.14KJだ。98Jは0.098KJである。
仕事量の差は微々たるものかもしれないが、やはり重量は加速時に消費する仕事量に(わずかに)影響する。ほんの少しの差が勝敗を分ける自転車競技なら、なおさら良いデーターが得られるホイールを使いたいはずだ。CHRIS KINGの手組は剛性は高いかもしれないが、その重量から加速の際に消費する仕事量は大きい(Lightweightと比べて)。
このリム重量に関しては、このあと記すインプレッション内で詳しく記載した。
Lightweightについて
田中氏の書籍内でLightweightについても触れられている。Lightweightは剛性が高いか、についてである。田中氏の主張は「Lightweightの剛性はそこまで高くない」という。しかし、私はさんざん「Lightweightは硬すぎる」と記事で書いてきたから双方の主張は全く異なることになる。
実際、土井雪広選手も自身の書籍内で「Lightweightは硬い」と言っているが、「言った言わない」の話の世界からいっこうに抜け出せない。
ただ、これだけでは「怪しいIT技術 VS 元シマノ技術者」が互いに主張を言い合うのだから、世の中の大半は「元シマノ技術者」を全面的に信用するだろう。
私は少ない望みをかけて、有効なエビデンスをもって証明しなくてはならない。と、思ったら先程のTOURMagazineでその宗教戦争は終わりを迎えていた(始まる前に冒頭で終わっていた)。やはりLightweightは数あるホイールの中でも特に横剛性が高かい。
駆動剛性や縦剛性に関するデーターを確認することはできなかったが、数あるホイールの中で特に硬い。唯一、Lightweightよりも横剛性が高かったのは先ほども紹介したCHRIS KINGの手組みホイールである。何と比較して硬いかと言われれば、様々な「真実」があるにせよ、やはり数値データー上もLightweightの横剛性は高い究極の回転体なのである。
さて、Lightweight話が出てきたところでホイールに関する「結線」について少し触れてみよう。
結線
手組みホイール界における宗教戦争で最も活発な論争といえば、「スポーク結線に効果はあるのか」という議論である。結線は「効果がある」「効果がない」と多くのユーザーたちが様々なエビデンスを持って論争を(今でも)続けている。
(※本記事の公開が遅れた原因も、炎上が鎮火して落ち着いてから・・・、と思っていたのは言い訳で、実際はGWや堺クリテで書くのが遅れたと白状しておく。)
元シマノホイール開発者の田中氏は「結線否定派」の立ち位置を明確に示している。対して、のむラボホイール愛用ユーザー達は「結線肯定派」の立ち位置がほとんどだ。対して、宗教戦争で何を信じたらよいかわからなくなってしまった人たちは「もうどっちでもいいや」という立ち位置へ移行し始めている。
私の手組みホイールは全てのむラボ製であり、もちろん結線済みだ。もっとも硬すぎるホイールはダイアコンペの左右タンジェント組のピスト用で、全て結線済みである。まぁとにかく頑丈で、今まで使ってきたホイールの中で最も硬く感じる。とすると、私も結線肯定派に片足を突っ込んでいるわけだが、そもそも両足を突っ込む前に、少しだけ踏みとどまって、次のような問を自分に問いたい。
「そもそも、結線にどのような効果を期待しているのか」
と。「横剛性向上」「縦剛性向上」「駆動剛性向上」「スポークが回り対策」「スポークがスレ対策」「スポーク飛び対策」といったように、結線することで期待する効果は人によって違うのかもしれない。私が期待した効果は「駆動剛性の向上」ただ1つだ(あなたは何だろうか。)
先程のスポークパターンの実験結果で示された通り、交差数が増えるほどトルクを受け止める性能は向上した。例えば、2クロス結線が、4クロス結線無しよりも駆動剛性が向上すると仮定すれば、2クロス結線のほうが縦剛性、横剛性が秀でつつ、駆動剛性も4x並というバランスの良い組み方を実現できる。
4クロス結線の場合は、さらに駆動剛性重視という考え方もできるだろう。
しかし、実際にスポークを結線することで性能が変わるという数値データーは私の知る限り見当たらない。それでも、「結線することは意味がない」と書かれている資料のほうが実は多い。実際によく知られている資料『The Bicycle Wheel』(Jobst Brandt、1993)や、WEBページの「Tied and Soldered Wheels」などは結線は意味なしと否定している。
実際にひずみゲージを使用して結線の優位性を試すべく実験を行った。その中で得られた結果は「測定器の誤差以外は明確な違いを得ることはできなかった」とある。数値データーが無いのでなんとも言い難いのだが、実験上も「結線に意味は無い論」が優勢になっている。
ただ、ここで「結線肯定派」は伝家の宝刀を鞘から抜き出す。「ではなぜ究極の回転体Lightweightは結線しているのか?」という宝刀だ。
この問いに対する「結線否定派」の盾は、「カーボンスポークが擦れるのを防ぐため」という回答を常に用意している。終わりのない宗教戦争の始まりである。
先程、「そもそもあなたは、結線にどのような効果を期待しているのか」という話でも指摘したように、「横剛性向上」「縦剛性向上」「駆動剛性向上」「スポークが回り対策」「スポークがスレ対策」「スポーク飛び対策」の中から、「スレ対策」を選択していた人は「スレ対策において、結線は効果あるじゃないか」という主張は当然成り立つ。
ただ、議論の大半は「結線することで駆動剛性を優位に向上させる効果が有るのか」の「事実」が知りたい。決して「真実」という解釈を知りたいわけではない。この宗教戦争はもはや、全く同じ条件のホイールを2つ用意し、全てのスポークテンションをできるだけ均一にし、極限まで双方のホイール誤差をなくしたのち、結線有り、無しを準備して、測定器にかけなくてはどちらが正しいとも言えない。
今後もまだまだ結線に関する議論は終わりの兆しが見えないが、私はどうしても工業立国ドイツの勤勉なエンジニア集団が作ったLightweightの結線に意味があるのではないかと淡い期待を持っている。もはや居ても立ってもいられなくなり、このさいLightweightの中の人に一番近い人に聞いてみた。
ということらしいです(滝汗)
一言でLightweightの「結線の決戦」の行く末を一蹴してしまった。Lightweightの結線の理由はどうやら「剛性重視」という結論だった。この点に関して「結線否定派がアップをしはじめました」という状況になるのだが、本元がデーター有るなしに関わらず「剛性重視」と言ってしまえば元も子もない。
「結線否定派」がしばしば持ち出す資料は、公開された時代がやや古く、測定の際の実験条件、ホイール構成(スポーク数、リム等)の情報を拾い上げることが難しい。ただ、Lightweightも数値データーとして示しているわけではないから、ここでも複数の「真実」が存在している。
Lightweightの結線の意味を、所有者として考えてみる。LightweightG3クリンチャー黒、チューブラー黒、チューブラー白、G4と呼ばれる現行のクリンチャー、LIGHTWEIGHT AUTOBAHN、4セット合計8本+ディスク1枚のLightweightを個人的に自費購入し、使ってきた結果と考察だ。
Lightweightのホイールは「マジ軽いし、マジ硬ぇ」と、一言で言えばそこに行き着く。という冗談(いや、事実なのだが)はさておき、Lightweightというホイールをくまなく見ると一つの気づきがある。ハブ~スポーク~リム、全てカーボンで全てが一体化しているのだ。
Lightweightは修理できないことで有名だ。スポークが飛んだら「ホイール自体が終わり」だ。スポークもリムと一体化している。そしてスポークはハブと一体化している。Lightweightはリム~スポーク~ハブと全てがバラではなく1つの集合体としてホイールを構成している。
Lightweightの非の打ち所の無い構造の中で、最後のツメがスポークとスポークの交差するポイントだったのかもしれない。剛性面、スレ防止(摩擦防止)と理由は多々あるが、Lightweightが究極の回転体にたどり着くために結線は必要な構造なのだろう。
今後も「剛性面の主張」、「スポークスレ防止」といった様々な主張が出てくるかもしれない。ただ、それぞれの主張を深く読み解くと、「スポークのスレを防止するために結線をする」という主張は、「駆動剛性は結線で向上しない」という答えになっていない。なぜなら互いに異なる観点で物事を話し合っているからだ。
「結線することで駆動剛性は向上しません、なぜならスレ防止だからです」
という剛性に着目した議論の最中、脱線した議論が展開されていたとしたら、私達消費者はそうそうに宗教戦争から逃げ出したほうが良い。といった一方で、「結線することで駆動剛性は向上しません、なぜなら同一条件下のホイールを2つ用意し、結線有り、無しで実験し比較したところ、結線有り90N/mmと結線無し90N/mmという結果が得られ、双方の間に明確な駆動剛性の違いは認められませんでした。」
という説明であれば、Lightweightのエンジニアも、結線肯定派も納得するだろう。「工学的である」という前提で話をすすめるのであれば、この機会に「結線の宗教決戦」を終わらせるべく実験をしたらどうであるのか、このタイミングでSACRA Cyclingが実験してみても良いだろう。
もしも実験する場合、PAXサイクルのキクちゃんが組んだホイール、のむラボのノムさんが組んだホイール、SACRAホイール、はたまた完組のホイールと数パターン用意して結線の実験するのが望ましい。もしも、どこかの会社や大学で実験環境(あるのかしらんけど)を貸して頂き実験できるのであれば、ホイールは当ブログで用意し提供する。
結線の宗教戦争は、数値的な事実が出てくるまでもう少し長引きそうだ。
インプレ
いよいよ後半戦だ。冒頭のまとめで脱落せず、このインプレの章までたどり着いただけでも敬意を表したい。ただ、残念なことにここから記載している内容は、まとめに記した内容を落とし込んだ内容ではない。冒頭のまとめは撒き餌みたいなものだ。
まとめで書ききれなかった事を詳細に記載していく。
どのような物事でも共通しているのは、細部を知らずして全体像はつかめないということだ。物事を深く理解するということは、木を見つつ、時には森を見る。まとめは森に相当するが、なぜ森が形成されたのかは、一つ一つの木を知らねば理解できない。
ここまで記してきた内容を振り返ると、個人的な感想というよりも「事実」としてどうであるかという点にこだわってきた。「リム重量が他メーカーとくらべて重い」という事実であったり、「リム内径幅が18mmとやや狭い」等、事実としてどうであったかを、なるべく客観的な事実として表現できるように注意しながら記載した。
私がこれから記載していくインプレッションの内容は、私個人が率直に感じたことを素直に記載している。メーカー側の立場になって考えてみると、指摘されたくない点も書いている。良いことも悪いことも、そのまま思ったことを記さないと、全く文章が降ってこないからだ。
私自身が消費者として率直に感じた事実を記してしまうと、どうしても角が立ってしまう。自転車製品に限った話ではないのだが、多くの製品(例えばiPhoneだったり車でもよい)が毎年アップデートされていく中で、消費者の声は確実に反映され改良されていく。改善好んで繰り返す企業の場合、消費者の声はとても重要になってくる。
消費者の不満を違う角度から見れば、製品に足りていない部分であり改善することで(内容にもよるが)製品として次第に洗練されていく。どの世界であれ、開発を進めていく以上、トライ・アンド・エラーはつきものだ。後はエラーをいかに改善して製品にフィードバックできるかは開発者の力量と、開発スピードに左右される。
もしも開発者の方が当ブログを見てくださる機会があるのならば、私はこのような思いの元、インプレッションを記していると伝えたい。その上で話を戻そう。言い方は悪いが、インプレッションとは、私という偏った人間のバイアスを通し、生み出された文章の集合体だ。
という前置きをしつつ―――。
SACRAホイールを使用した一般的なライダーや、各ショップの看板店長たち、雑誌のライターは軒並みSACRAホイールに良い評価を下していた(本当にそうなのだろうか?という疑問も持ちつつ)。良さを表す方向性はそれぞれだが、良い面や内容についてはそれらの情報を見ていただきたい。
そうすると、私に課せられた課題はなんだろう。プロでも何でもない消費者の私が、同じ方向性で物事を語って書いてもしょうがない。SACRAホイールという機材に対して書かなくてはならない内容とは一体何だろう。実際いくつか書きたい内容は浮かんでくるが、1つ疑問なのはSACRAホイールがなぜ注目されているのか、理由がよくわかっていない。
流行のような一過性なのか、はたまた新しもの好きのサイクリスト達の心をたまたま掴んだのか。だから私はその手がかりを探し、そして購入者たちが不安に思っていることを、私という切り口でわかりやすい文章表現で示そうと思う。
前もって断っておくが、私がSACRAホイール実際に使って、その感じ得た感覚を実際に文章に落とし込もうとしたとき、「ラジアルだからリアの横剛性が高い」だとか、「ドライブ側のタンジェント組がトルクを受け、僅かにハブがねじれながら、ラジアルスポークに伝わりタイヤへと伝達されていくようだ」というような表現など到底無理だ(文章としては書けるが)。
人間は測定器ではないため、数値的な表現や、クランクに及ぼす踏力でタイヤが地面を蹴るまでの伝達過程を体感する、といったような芸当はできない(もしやるなら各パーツにひずみゲージを使った測定が必要だ)。ただ、使って「硬い」だとか「風で煽られない」や「使ってい怖い」といった、ライダーが率直に感じる部分に関しては、文章として伝わるように落とし込む。
また、今まで自分が使ってきたホイールとの比較であれば、もちろん文章に文字として落とし込むことはできる。これらの点を踏まえ、私が実際にSACRAホイールを使用した全てを記そう。
まずは、SACRAホイールを使う上で重要なテスト環境について確認していく。
インプレッション環境
実際に自分自身でテストする際に、一つ重要な定義を設けることにした。SACRAホイールはリアとフロントはそれぞれリムの作りが異なる。具体的にいえば、リアリムのスポークホールはオフセットしている。その為、前後でホイールの作りが異なっている。フロントはフロント専用のリム、リアはリア専用のリムが用意されている。
フロントはリムに対して(当たり前だが)中心にスポークホールの穴が空けられている。対して、リアホイールは反ドライブ側(いわゆるNDS側)にスポークホールが3mmオフセットして空いている。オフセットしたスポークホールを備えたリムは、ハブの左右フランジからリムまでの距離をできるだけ均衡する目的が有る。
結果的に、オフセットリムは左側(NDS)のスポークテンションを上げることができる。このオフセットリムの狙いは11速化によるハブフリー延長に対応するため、完組ホイールで採用されてきた仕組みだ。手組でリムを選ぶならば、DTスイスのRR440アシンメトリックがオフセットリムを採用している。
シマノホイールでも、リムハイト50mm未満の後輪はすべてオフセットリムを採用している。このような理由からSACRAホイールにおいて、リアホイールとフロントホイールを分けてテストすることにした。
まずフロントホイールをテストしたのは、関西サイクルスポーツセンターの400mmバンクである。リアホイールはARAYAのディスクホイールを用い、フロントは比較用に新型のROVAL CLX50、BORA35、MAVIC IOを用意した。SACRAホイールを含め、すべてのタイヤ(IOは除く)に新品のビットリアのラテックスチューブ、新品のコンチネンタルGP4000S2の23Cを取り付けている。
空気圧はパナレーサーのデジタルゲージで測定した。SACRAホイールに充填してある空気圧を基準(7.5bar)とし、それぞれのホイールに対しても空気圧7.5barに設定、誤差は±3%程に収まるように調整している。
リアホイールのテストは、いつもの練習コースで、何度も走っている関西では定番の道を選んだ。この際に使用したフレームはいつものTIME ZXRSと、フロントはCLX50。あとは、家から近い河川敷にホイールを持ち込んで、とっかえひっかえ試した。実際に試した条件は以上だ。まずは、フロントホイールからその性能を試していくことにした。
フロントホイールのエアロダイナミクス
SACRAホイールにおいて最も注目されている点といえば、メーカーも押しているエアロダイナミクスの性能だ。SACRAホイールは風洞実験やCAEを用いエアロダイナミクスに優れたリムシェイプを備えている。エアロダイナミクスの性能の良し悪しについては、誰しもが気になっている点だろう。
昨今のリムは、エアロダイナミクスを追求していった結果、リム幅が広がってきている。特にエアロダイナミクスに優れているとされるROVAL CLX50は29.7mm、ENVE3.4は27mmのリムシェイプを有し、リム幅を広げ空気抵抗を減らしている。この点はSACRAのリムも同じ傾向だ。
リムの話が少し出てきたところで、カーボンクリンチャーのリム世代について少し記したい。カーボンクリンチャーという機材を黎明期から見てきたが、進化の過程でおよそ3つの世代に分かれている。
- 1世代目:アルミリムを模したカーボンクリンチャー。リム内径幅15mm~17mm程
- 2世代目:エアロ形状、ブレーキトラックの改良、ワイドクリンチャー。リム内径幅18mm~20mm以下。
- 3世代目:リム軽量化、エアロ形状、更にワイドクリンチャー化。リム内径幅20mmオーバー。
世代ごとのホイールを列挙すると、
- Lightweight CL、ハイペロンCL、ENVE ROAD25、アイオロスの白ハブ。
- ROVAL CLX40、BORAクリンチャー、ZIPP FC、アイオロスの黒ハブ、FLO、GOKISO系、MAVICカーボンCL系、ENVE SES(SMARTロゴ世代)
- 新型ROVAL CLXシリーズ、ENVE SES(新SESロゴ世代)
(※)なお、、、オフロードの世界からすると「え、まだ10mm台・・・」というリアクションかもしれない。あちらの世界は内径幅20mmオーバー、30mm、40mmが当たり前になっていきている。そしてロードのシャフトがF100mm、R130mmで進化を止めてしまっている間に、どんどんシャフトは太く長くなりBOOST規格(F110mmの15mmスルーアクスル、R148mmの12mmスルーアクスル)がスタンダードになろうとしている。
話はそれてしまったが、SACRAホイールはカーボンクリンチャーの世代で言うと2世代目である。3世代目に突入すると、クリンチ幅20mmオーバー、リム幅が30mm近い超ワイドクリンチャーと、ワイド化に伴う恩恵としてエアロダイナミクスの向上も得られている。
関西CSCのバンクでSACRAホイールのフロントを試したのだが、やや標高の高い所にバンクがあるため、風は刻々と変化する。白線をトレースする際に、少しでもフロントが風の影響を受けてしまえば、とたんにラインを外してしまうから、ロードでテストするよりも風の影響を受けた場合の挙動を判定しやすい。
以前、明石のバンクでBONTRAGERのアイオロス9D(2世代目)の90mmディープを使ったのだが、まともにまっすぐ走れなかった。私の後ろを走っているチームメイトから見ても「フロントが取られている」とわかるほどだった。風をもろに受けるバンクにおいてはフロントホイールの選択がシビアになってくる。
フロントホイールにとって性能差が出やすい環境下、まずはCLX50から試すことにした。CLX50は販売されているホイールの中で、特にエアロダイナミクスに優れたホイールである。リムハイトも50mmで、今回テストするSACRAホイールも50mmだ。スペシャライズドの公式データーによると50mmハイトながらZIPP808相当の空力性能を備えているという。
海外メーカーはこのようにライバルメーカーのプロダクトをモロに比較する。そして、モロに実験データーを出すところが面白い。ライバルメーカーを晒して「うちのプロダクトのほうが優れているんだぜ!」と数値データーを打ち出してくる。国内のメーカーでもこのような敵対心丸出しの実験結果を公表できたら良いのだが、日本という国柄を考えるとなかなか難しい。
今回使用している今年発売したCLX50についても、現在インプレッションを書き進めている。CLX50はリム重量が軽く、エアロダイナミクスに優れたカーボンクリンチャーであり、金に糸目をつけないのであれば、今最も使える50mmのカーボンクリンチャーだ。
CLX50はリムハイトと相反する軽量性と、エアロダイナミクスの高い性能備えており、軽さと空力を実際に体感している。私は登りレースの伊吹山ヒルクライムで使用した程だ。むしろ、高速系のヒルクライムにおいて、エアロダイナミクスを備えたCLX50は、軽量系リムと比べると僅かな重量増こそあるが、タイム短縮のアドバンテージがあると考えている。ヒルクライムで高速系のレース展開になるようであれば、エアロダイナミクスを追求したホイールを使用したほうがタイムは縮まる。
ある程度のバンク周回を重ねていくと、様々な事がわかってくる。第一コーナ、第二コーナー、第三コーナー、第四コーナー・・・と、様々な角度から風を受けるとホイールは様々な挙動を見せる。実際には「40km/hで巡航したときに何ワットセーブできた」なんて数値的な比較ができれば一番良いのだが、バンクには他の選手も周回練習をしていたので実現できなかった。
SACRAホイールよりも先にテストしたCLX50の性能が良かったのかは定かではないが、バンクを高速周回してもハンドルを取られるような挙動もなく何の不満もなかった。この感覚を体に残しつつ、フロントホイールをSACRAホイールに変えてみた。
取り付けのときに思ったのだが、フロントハブはバイテックスかノバテックのハブで少し安っぽい。性能面では問題がないのだが、CLX50専用に開発されたエアロハブと見比べてみると、やはりSACRAのハブは見劣りする印象を受ける。ハブはコストダウンしやすいところだが、やや残念なハブだ。
フロントを交換して一瞬でわかった事がある。フロントホイールの縦方向の硬さだ。具体的には路面からの突き上げが増した。これは誰しもが気づくレベルで大きく変わった。バンクに入る時に、関西CSCの古くなったコンクリートの割れ目を通り過ぎると、コツコツと路面状況が大きく伝わってくる。
これは低速で移動している時に地面からの突き上げる感覚が変化したから、誰でもわかる程に感じられる。この剛性面の話題については後述する。エアロダイナミクスの話の途中で剛性の話に脱線してしまったが、フロントの縦剛性(というよりもリム側に原因があると思う)の違いを一番最初に感じた。
実際にフロントホイールだけ変えて走ってみると、高速域に達してもCLX50との明確な差は感じられない(これはこれで凄いことだ)。別の角度から2つの製品を見比べてみれば、CLX50とSACRAフロントホイールはエアロダイナミクスの性能に体感できるほどの差異はない、という見方もできる。
CLX50は前後で29.8万円、SACRAホイールは前後セットで13.8万円と価格は半値以下だ。その点を踏まえて見れば、CLX50と遜色のないエアロダイナミクス(体感上)を備えているし、フロントホイールとして価格面でいえばSACRAのフロントホイールは優れている。
もしも、どちらのホイールを付けているのか知らされずバンクを周回したとしても、フロントホイールの挙動からどちらのホイールを使っているのか判断することは難しい。
BORA35も使ったのだが、どうも高速域に達してからの巡航が苦手なようだ。風がもっと強い日には、風の影響を受けにくいというメリットを活かして、BORA35を選択する判断も間違えてはいない。風の強い日に、スクラッチやケイリンの種目を走るのなら私はBORA35を選択する。
ただ、巡航の楽さという話題で話を制限してしまえば、CLX50やSACRAフロントの勝ちだ。SACRAフロントホイールのエアロダイナミクスや高速巡航時の挙動は、CLX50と大きな差異は見当たらなかった。価格面を考えてみてもCLX50と遜色がないとあれば、SACRAホイールのフロントに限って言えば、エアロダイナミクス性能は好印象である。
フロントホイールの剛性
次は、フロントホイールの「剛性」に関してだ。SACRAのフロントホイールは路面の突き上げをモロに感じる。これは「縦方向の剛性」によるものが最も支配的だが、安直に縦剛性のみで全て話しを片付けてしまうのは少し乱暴かもしれない。
SACRAフロントホイールの「路面情報をライダーに余計に伝えすぎてしまう」という原因は、リム側に原因があるのではないかと推測している。スポークの種類や、スポークテンション、ハブフランジ幅でも乗り心地が変わってしまうが、CLX50とSACRAリムにはそもそも大きな違いがある。
SACRAリムはリムのブレーキトラック面以外のリム部分を押してもヘコんだりはしない。対して、ROVALの軽量リムは押すとわずかにヘコみ、カーボンがとても薄いことがわかる。CLX40時代に比べれば幾分マシになったが、CLX50はリムの軽量化を目指し、ブレーキトラック面以外のリム部分のカーボンを薄く仕上げている。
それぞれのリムの作りの違いが、地面からの突き上げをダイレクトに伝えるか、そうでないかの違いとして現れているのかもしれない。
次に、バンクで思いっきりもがいた時に、ヨレてしまったり乗っていて剛性に不安になったりするような感覚がないかいろいろと試した。バンクではSACRAホイールを用い発送機で0-200mを測った。
バンクで発走機を使うと、重心を後ろから前方に送り出し、フロントホイールに覆いかぶさるようにエネルギーを受け止め、リアホイールを発走させる。フロントホイールには体重が乗り大きな力がかかるが、私の程度のパワーではSACRAホイールをたわませる程のパワーはかけられなかったし(当たり前だ)、不安を感じるほどの剛性の低さ感じない。
発走後のダンシングのフルもがきでも、フロントホイールの挙動は至って普通で、剛性の低さや高さも感じられず、特に特徴がない印象だった。0-200mの酸欠寸前の世界での出来事だったが、性能の低さや、目立った剛性の特徴も無かった。
このフロントホイールの特性から、ロードレースで使用するシチュエーションを考えてみる。
路面の良い広島森林公園や鈴鹿の高速コースならSACRAフロントホイールを選択するが、路面が悪い群馬CSCのコースであればSACRAフロントホイールを選択することはない。これは個人的な感覚かもしれないが、ライトウェイトのような全方向に硬いホイールにおいても、同様の意見を持っている。
ただ、注意しなくてはならないのは「路面情報をライダーに余計に伝えすぎてしまう」という感覚は、人によって受け取り方が異なるようだ。良い方向、悪い方向、それぞれの解釈について考えてみよう。もしも、私がSACRAホイールのフロントを良い方向に書くのなら、
「SACRAホイールのフロントは、ロードインフォメーションをはっきりとライダーへと伝えてくれる。縦剛性が高いホイールである。」
対して、ネガティブな面を書くのならば、
「SACRAホイールのフロントは、地面からの突き上げ感が他のホイールと比べて大きい。縦剛性が高い証拠なのかもしれないが、荒れた路面のコースで使用すると走りのロスや、ロングライドの場合は疲れにつながる。」
「何かを得ることは、何かを失うことだ」とはよく言ったものである。
私はあまり剛性が高いフレームやホイール(Lightweight)を好まない。しかし、世の中には剛性至上主義のライダーもいるので、何を重要とするかで、ホイールという一つの機材の価値は増したり、減ったりする。
実際に自分で機材をテストしつつ問い続けていたのが、「では実際にどれだけ剛性があればよいのか?」という疑問である。とにかく剛性剛性と言うが、あまりにも剛性が高すぎると、弾かれるような感覚を顕著に感じてしまうし、好みではない。
かと言って剛性が低すぎるのも問題なのだが、市販のホイールならある程度の剛性を備えているから安心してもよい。実際に試さないと本当に自分似合う剛性というものはわからない。私の一番好きなホイールを上げろと言われれば、やはりBORA35だ。
感覚的に硬いフロントホイールを順番に列挙すれば、Lightweight > SACRA > ROVAL CLX50 > BORAだ。これは数値的な順序性ではなく、感覚的なものであるため正確ではない。各個人で体重も、ライディングスタイルも異なるから、様々なホイールを試して自分似合う剛性を探すのが良い。
もしも剛性がほしいと思うなら、硬い部類に入るSACRAホイールのフロントは良い選択肢になる。続いてリアホイールを見ていく。
リアホイール
先に言っておくと、フロントホイールと違ってリアホイールのエアロダイナミクスを感じ取ることは難しい。ディスクホイールと比較すればタイム短縮という形で違いが現れるかもしれないが、リアホイールに関してはエアロダイナミクスについて判別が付きにくいので触れない。
その代わりに、使った時の加速の良さや、強く踏み込んだ時の駆動剛性に関しては何らかの気づきを見つけられるかもしれない。そんな思いでリアホイールを使うことにした。
今回は前提条件でも述べたが、空気圧も比較対象と同一にしてある。ちょっと話は脱線するが、サイクルモードだとか試乗会でロードバイクをテストする時、初めから付いているホイールと、空気圧には注意したほうがいい。あざといメーカーは、バイクの走りを「軽く見せかけるために」空気圧をカンカンに入れている場合がある。そのほうがバイクの感触も良いし、走ると錯覚させることもできる。機材の評価が難しいのは、ホイール1つ取り上げてもチューブ1つで全く乗り心地が変わってしまうことだ。
「良い」と感じている理由が「チューブ」なのか「ホイール」なのか「空気圧」なのか、はたまた走っている「コンクリートの質」なのか本当にわけがわからない(バンクがコンクリなのか木板なのかでも全く違う)。だから出来るだけ機材や環境差分を無くすため、普段走り慣れている練習コースでテストする事もおすすめする。
ただ、家を出る瞬間、その一発目が本当に機材の評価の場合重要になってくる。
「違う」と思っている感覚は、慣れてしまえばその違いがよくわからなくなる。例えば口臭や体臭がそうで、本人は慣れてしまって気づかない(スメハラなんて言われることもある!)。匂いは、第三者からするととても臭うなんてこともある。部屋の匂いもそうで、人の家に行くとやはり生活臭がする。
自分の家なら生活臭はしないのだが、友人が遊びに来たらあなたの家には「人ん家の匂い」を感じてしまうだろう。機材も同様で、乗り続けてしまうとその特性に慣れてしまい、よく違いがわからなくなる。だから私は、クリートをはめて最初の一歩を踏み出す時に神経を尖らす。
SACRAホイールのひと踏み目は、私の中で
「硬いが、自分が進め易いと思うような硬さではない。」というホイールだった。
その硬いと感じた初期段階での印象は、「リムが重いから」なのか「オフセットされたリム」の結果なのか判別はつかない。よくわからない感覚を持ちつつも、いつも登っている山へ向かことにした。河川敷のデコボコした道を通っていると、やはり感じるのはリア側が縦方向に跳ねるような感覚を受ける(フロントはCLX50でリアのみSACRA50)。
フロントはROVAL CLX50なのだがそこまでの突き上げは感じない。リアもCLX50やBORAを使っている時は、ここまで突き上げを感じないから、やはりSACRAホイールは縦側方向の剛性が高い(と、予想している)。しかしこれを良い方向へ捉えるか、悪い方向へ捉えるかは人によって違う。
以前、シクロクロス用にENVEのXCをCX-RAYとCHRIS KINGのハブでカンカンに組み上げた。実際にトレイルに入ったり、ガレ場を下ったりするとかなり衝撃が体に来て疲れる事に気づいた。その時にいつもホイールを見てもらっているのむラボのノムさんに、「ノムさんがあげられると思う最大テンションの5%減程に落としてほしい」とオーダーした。
その後は好みの使いやすいホイール(汎用的な表現で言えばマイルド)になったが、やはり剛性が高すぎるということは、メリットでもありデメリットにも変わることを覚えておいたほうが良い。
感覚を確かめながら、5~8%の登りに入っていく。ちょっと酷な話だが、500g級のリムを使ったホイールに対して、ウソでも上りに使えるとは言えない。登りに入れば、予想以上にリム重量とホイール重量を感じる。スピードに乗ればこのリム重量も慣性が働き有利に傾くだろうが、登りは加速の連続だから、SACRAホイールの50mmを登りで使う事は考えないほうが良い。
空力性能はたしかに良い。しかし、ヒルクライムで検討しているなら使うのは止めたほうが良い(SNS質問への回答)。ヒルクライムにおいてもしも私がリムを選ぶのなら、400g-430gほどのリム。300gは軽すぎて減衰スピードが早いので、ペダリングのテンポに合わない。かといって、500gに近づくと想像以上、重量以上に重く感じる。
登りでこれ以上SACRAホイールに関してテスト攻めするのは酷だとわかった。次は趣向を変えて、得意な平坦路でその価値を試してみることにした。
普段の練習中、いつも270-300W程で引き続ける区間がある。その時によくわかるのがロープロファイルのホイールとディープなら、もちろんディープリムの方が惰性で進んでくれる。高速で巡航しながらもう一発ギアをかけて加速する場合、SACRAホイールは伸びない感覚を受けた。こちらもCLX50とくらべてという前置きが有るのだが。
そこで、一度帰宅しROVAL CLX50のリアを持って、私がインターバルでダッシュ練をよく行う場所へと移動する。田舎の車の通らない道だ。ここでよく試すのはゼロスタートで全開のようなパターン。どちらかと言えば、クリテリウムの直角コーナーで立ち上がる時を思い浮かべてもらえらばいい。
実は、このゼロから高速域に加速していく際、ホイールによって消費する仕事量(ジュール)が異なる。実際に先程紹介したTOURMagazineの中でKJの表記があったと思う。あのテストは0km/hから30km/hに加速していく中でどれほど仕事量を要するかを数値として示している。
加速時の仕事量が少なければそれだけ脚を残せることに繋がる。TOUR Magazineのデーターによると0km/hから30km/hに加速していく中で最も仕事量が少なく加速できるホイールはLightweigtだった。リム重量も軽く、剛性も高い。だから小さな力で加速させやすいのだろう。
実験結果を頭に入れつつ、SACRAホイールでも0km/hからダッシュを繰り返す。次のレースがTOJ併催の実業団堺クリテリウムということもあって、ダッシュを繰り返し行うには丁度よい機会だった。
まずはつけっぱなしのSACRAのリアホイールで何本かダッシュ練習を行う。リムの重さは感じるものの、進ませるという観点で考えると、変わらず進ませにくい印象が残る。しかし、重量を考えたらこんなもんだろうという感じだった。
5~6本ダッシュしてからROVAL CLX50に変える。先程も記したが、”家を出る瞬間、その一発目が本当に機材の評価の場合重要になってくる。”と同じように、変えた瞬間の一発目の感覚はとても重要だ。
ROVAL CLX50はSACRAのホイールと比べると柔らい(リムか駆動部分かはわからない)のだが、かかりも良いし、回しも軽い。価格も違うし、リムにかけられてる開発コストも違うから純粋に比較すると差を明確に感じる。ゼロスタートからの立ち上がりを考慮するなら、SACRA50mmよりも35mmハイトのホイールや、アルミのロープロファイルのリムが良い。
リムは確かに硬く、突き上げは他のホイールよりも明らかに感じるのだが、どうもかかりの部分、走りの部分、踏み込んだ時に「これぐらい進むだろう」という感覚の部分に、少し違和感がある。私が今まで使ってきた様々なカーボンクリンチャーの50mmハイトと比べ、走りの部分の印象が強く残らない。
感覚の部分を数値で表すなら、自分の入力10に対して10進んでくれるようなホイールというよりは、入力10に対して9.5進むようなホイール。だからSACRAのホイールを自分のイメージで10走らせたいとしたら、自分の入力を10.53にしないと走らせられない、素直にリアホイールの印象を書いてしまうとそんな感覚だ。
この原因は、やはり人間の相対評価が影響していると推測している。今まで使ってきたカーボンクリンチャーが、Lightweightのマイルシュタインクリンチャーであったり、リムが軽いRovalCLX50、CLX40、BORA35、ENVE SES2.2と、何かしらリムや駆動面に一味あるホイールを使い続けてきたから、それに慣れてしまっているのも理由の一つかもしれない。
それらのハイエンドホイールと比較してしまうと、どうしても重量の部分や、駆動面、走りの軽さの部分で劣ってしまう。そもそも比較してしまうのが間違いかもしれないが、絶対評価ができない以上、このような相対評価の記述になってしまうことをお許し頂きたい。
ブレーキ性能
ブレーキ性能を一言で言ってしまえば、普通に効く。私はカンパニョーロの赤ブレーキシューをどのカーボンホイールでも好んで使う。オールラウンドに使う場合、雨天での使用を考慮しなくてはならないが肝心のテストはできなかった。
いままで使ってきたホイールの中で、最も優秀だったのはBORAだ。シューがカンパニョーロという事もあってベストパフォーマンスを引き出している可能性も否定できないが、やはりBORAのブレーキ性能は高い。対して、初期型のGOKISOリムは雨天での使用は本当に怖かった。GOKISOリムというよりも、エキノックスのリムと言う方が正しいが。
GOKISOのハブはもう一度使ってみたいと思うほどに良い。あとはリムを何にするかで大化けする可能性がある。私はエキノックスのリムを使う気は毛頭ないから、できればENVEかそれ以外のしっかりとしたリムを使いたい。もちろんSACRAのリムでもよいのだが、重量次第だ。
SACRAのブレーキ性能を他のホイールで例えると、1世代前のROVAL CLX40と似ている。あのホイールとカーボンの作りもどこか似ている。SACRAの公式ツイッターで過去にリムを作っている工場について触れられていて「S社と同じ」と書かれていたが、あれは「SHIMANO」じゃなくて「SPECIALIZED=ROVAL」の工場ではないかと推測している。
推測の域を出ないが、ブレーキのタッチはROVALの一世代前のCLX40と近い。ただ、限界までブレーキを掛けた時のもうヒト止まりはやはりBORAは秀でていると感心する。ブレーキの効きはBORA>CLX50>SACRA≒CLX40という印象だ。
なお、カーボン専用のブレーキシューじゃなくても使えるという点はXentisがそうだったし、懐かしいところではLEWのカーボンホイールも同様である。
ラテックスチューブの使用について
メーカーに確認したところ、チューブメーカーに確認してほしいということだった。回答の結果的に見ても、SACRAの開発側でラテックチューブとSACRAリムの相性のテストはしていないだろうから、正確なことははっきりと言えないのだろう。
もしもチューブメーカーに使用可否を確認したとしても「カーボンクリンチャーの放熱特性に左右される」という回答が返ってくることが予想されるから、SACRAホイールでラテックチューブを使用することは「自己責任」となる。
私のように夏のダウンヒルでカーボンクリンチャーでブレーキを掛けすぎて、ラテックスチューブを溶かすような危険な真似をしてほしくない。よって、当ブログ内では「SACRAホイールでラテックスチューブを使用することは推奨されていない」と電化製品の説明書のような記述を残さざるおえない。
カラーバリエーション
SACRAホイールの良い点は、ホイールの色を指定できるという事だ。大手メーカーでは絶対に不可能な、一人ひとりに対応したきめ細やかな個別対応。海外ではENVEもデカールカラーの変更を受け付けているが、ホイールシステムは30万円近い。
しかもENVEはデカールなのでいわゆるステッカーだ。対してSACRAホイールは塗料を使った手の込んだ仕様でリムと塗装の一体感がある。各ユーザーにとってバイクの色と合うホイールというのはなかなか無いから、自分の好みの色に変更できる点は嬉しい。
私がテストした色はゴールドなのだが、これは結構アタリだった。ライトウェイトのゴールドエディションのようなブラックとゴールドは意外と合う。ゴールドは趣味が悪いような気もするが、黒ベースのフレームの場合、逆にホイール周りが引き締まって落ち着いた印象を受けた。
ベースカラーの白も良いのだが、せっかく無料でカラーオーダーが可能なのだからご自身のバイクに合わせて好きな色を選択してほしい。
1つSACRA Cyclingに提案したいのだが、ユーザーはどんな色がどんなバイクに合うか相当悩んでいると思う。そんな時はInstagramを使って実際にユーザーにハッシュタグをつけてもらって、実際のホイールとバイクの写真をアップしてもらってはどうだろうか。ハッシュタグは #sacrawheel が良いと思う。
SACRA 38mm
SACRAホイールは50mmの他に38mmのリムハイトもラインナップしている。実際にオールラウンドに使うなら38mmで良いのではないかと思う。50mmと38mmを比べると38mmのエアロダイナミクスは低いかもしれない。
ただし、ホイールとしてのバランスは一番良いのではないかと期待している。汎用的に、どんなシチュエーションでも使える38mmは個人的なおすすめだ。今回は残念ながらテストすることはできなかったが、もしも、38mmを使う機会があったらこの項目に追記する予定だ。
– – – 建設予定地 – – –
質問への回答
ここからは当ブログに寄せられた質問への回答をしたい。記事内でも回答と近い内容を記述をしているのだが、一つ一つ回答していこうと思う。
のむラボホイールとSACRAホイールどちらが良いでしょうか
この質問は相当多かった。ノムさんには私のロード系機材を全て見てもらっているから、この質問が多かったことも頷ける。この質問に対する回答は、条件によって様々な回答を考えることができる。のむラボホイールもSACRAホイールも両方手組みホイールである。
そうすると、ホイールビルダーの腕がとても重要になってくる。同じリム、スポーク、ハブを使ったとしても、実は組み上げる時にビルダーさん達は私達の気づかないようなほんの小さな「配慮」を施している(配慮は配慮でもペンギンの配慮さんではない)。
完成されたホイールを見た時にそのような点は気づかないのだが、組み上げを実際に目の前で見ていると「そんなことしてたのかよ」という事をのむさんは実施している。関西のヒルクライマー(乗鞍や伊吹山、大台ケ原で表彰台の常連達)や競輪選手、トラック選手が好んでのむラボのホイールを指名することもわかる。
圧倒的に多くのホイールを組んでおり、アマチュア、プロ問わず使用者からのフィードバックも相当多い。だから「手組みホイール」の良さを少しでも感じたいのならば、ビルダーが誰であるかも気にしたい。そして、自分が望むスポーク、スポークパターン、ハブを組み合わせてオリジナルのホイールを試してほしい。
この質問への回答は、SACRAのリムが気になるならお気に入りのビルダーに、自分が「真実」とするスポークパターン、スポーク(DS:CX-RAY、NDS:Competitionが最高)とSACRAのリムで組んではどうだろう。実際、のむラボにはSACRAのリムがいくつか転がっている・・・。
「最高の牛を生産できても、最高のステーキを焼けるとは限らない」
メーカーホイールにも同様の事が言える。私からすると、SACRAは良いリムを作るメーカーかもしれないが、既製品のハブとリムを集めてきて最適なホイールを作るというノウハウはまだまだこれからだ。だから、ユーザーは右から左に流れてくるホイールをただ使うだけではなく、自分がどのようなホイールを求めているか明確にする必要がある。
そしてお気に入りの1本を手にしてほしい。手組みホイールとは自分自身の思いを具現化できる機材の1つだ。
手組みホイールを組むならSACRAリムを使いますか
予算がいくらなのかによって、手組みホイールを作る時のアッセンブルは変わる。もしも予算が限られている中でカーボンクリンチャーを組むならSACRAリムを使っても良いと思う。ただ、もしも「ぼくがかんがえるさいきょうのほいーる」的なノリならば、第三世代のENVE SES 3.4(SESロゴ)を選択する。
ENVE SESはSMARTロゴも有るが、リム内径幅が異なるので注意しよう。見た目は全く区別がつかない。ハブはCHRIS KINGを選択したいところだがGOKISOで組んだENVE3.4のホイールを組んでみたい。フロントはCX-RAYでリアのNDSはタンジェントのCX-RAY、DS側はコンペ。
結線するかしないかは、まずはしないで乗ってみてあとは気分で結線をしたい人はするも良し(意味有るなしに)。あとはタイヤをチューブレス(Corsa sp)にする。我が家にはロードのクリンチャーホイールよりもチューブレスリムのオフロードホイールの方が多くなってしまったのだが、ビードがしっかり上がるのがENVE(わたしのはM60)だった。それもそのはず、特殊なビードの形状をしており、事実上カーボンクリンチャーでまともなチューブレスリムはENVEぐらいだ。
あとはアルミはNOTUBEのリムぐらい。たしかにROVALのコントロールseriesのビードフックレスも優秀なのだが、やはりENVEのチューブレスリムを知るとあえてそれ以外を使う理由はない。あと、、、あえてSACRAリムを紹介している中で載せようかと迷ったのがオフロードリムで有名なlightbicycleのロード用リム。
第三世代のリムで、ビード有り、無しを選べることに加え、リム内径幅は21mmとトレンドをしっかり抑えたロード用リムもラインナップしており、重量はクリンチャーながら460gと軽い。さらに価格は$180程度と非常に安い。あとは自己責任なのだが、今後ロード用のカーボンクリンチャーも「リムクリンチ幅20mm以上、リム重量450g付近、ビードフックレスでチューブレス対応」の時代が来ると私は予想している(要するにこれからオフロード機材で当たり前の構造を追いかけ始めることになる)。
オフロード機材ではチューブレス(もしくはレディ)が主流だから、いずれロードの世界もスタンダードになっていくことだろう。とはいいつつも、チューブレスの使い勝手はタイヤとリムの構造双方が重要だ。というのもMTBやCXでいろいろなチューブレスリムを試したが、ロードはまだ過渡期だ。
BORAとSACRAを比べるとどうか
SACRAを知るための比較対象として、BORA35を重宝した。私にとってカーボンクリンチャーの一つの到達点はBORA35だ。第二世代であるものの十分なクリンチ内径幅、雨天でも十分に使えるブレーキ面、セラミックベアリングと、美しきG3スポークパターン。
どれをとっても十分にホイールとして満足の行く機能を備えている。BORA35は海外通販でとても安く買うことができる。また、中古市場に多く出回っている。もしも程度の良いBORA35が海外通販やヤフオクで同一価格帯で出ているのなら、はじめの一本はやはりBORA35をおすすめしたい。
確かに50も魅力的なのだが、35の汎用性やホイールを何本も所有できない人にとっては登りから平地まで幅広く使えるBORA35をおすすめする。BORA35を買ってから飽きやすい私が何シーズンも雨の日も、レースでも使い続けている事からもわかるように、本当に頑丈だし、ブレーキもよく効く。
私がBORAの乗り心地が好きなこともあるが、もしも転勤で自転車1台しか持っていけないとしたら、私はTIME ZXRSとBORA35の組み合わせを選ぶ。なにより壊れにくいし、ハブ、スポークも、スポークパターン、リムも良い。
SACRAのリムはUDカーボンだが、BORAは12kカーボン(TIMEの編み込みカーボンと似ている)で高級感も有る。SNSで頂いた質問への回答は、私のバイアスがモロにかかっているが、本音を書き示すことがよほど有益だ。もしかしたら、質問者の意図にそぐわない回答であったり、SACRAホイールの開発者を落胆させる内容であるかもしれないが、事実は事実として書き残したい。
ただ、ホイールには性能面、価格面と様々な切り口で選択するための材料が有る。その選択の理由はそれぞれのサイクリストの中に無数にあり、真実は1つではないのだ。
まとめ:SACRAホイールという手組みホイール
いよいよSACRAホイールのまとめに入っていく。気づけば4万文字、原稿用紙100枚を超えている。ここまで様々な角度からSACRAホイールについて考えてきたが、詰まるところ私の中では「SACRA Cyclingが開発したリムを用いた手組みホイール」の域を出ない。要するに良くも悪くも手組みホイールなのだ。
スポークパターンも決まっているし、ハブも既製品(バイテックスやノバテック)である。あとは「誰が組んだか」の違いしかない。製品としては「SACRAホイール」なのだが、私は「SACRAリム」を基準にSACRA Cyclingが良いとした構造で作成した手組みホイールが「SACRA ホイール」なのだと結論付ける。
SACRA CyclingがPC上でのシミュレーションや、風洞実験から最適なリムシェイプを生み出し、結果的にホイールとして組み上げた。その要はやはりSACRAリムにある。
別の角度から見れば、プロモーション観点で大いに成功している。短期間にここまで知名度が上がったメーカーはそう無い。SACRAのリムを知っていても、メカニコのリムを知っているサイクリストのほうが今では少数ではないのか。
のむラボホイールが広まって行ったスピードよりも、遥かに早いスピードでSACRAホイールは多くのサイクリストに認知されていった。プロモーション観点から見れば、他のメーカーが見習わなければいけないほどに成功している。この短期間でこれほど知名度を上げているのだから(広まり方は色々あったが)1つの成功例なのだろう。
もしも、SACRAホイールの組み方が気に入らなかったり(おそらくリアのNDSがラジアルなのが気に食わない人が多い)する場合は、自分が求める組み方で、別のビルダーにオーダーしたほうが良い。しかし、SACRA ホイールの次の一手はここに隠されているようにもみえる。
「駆動剛性重視」だとか「横剛性重視」だとか、スポークパターンを選べるようにしてはどうだろう。皆が皆、スポークパターンを理解し、自転車機材に詳しいわけでもない。カラーオーダーも今までにない取り組みだが、剛性も数値化してしまい、ユーザーが選べるようにしたら面白い。
SACRAホイールを購入を検討しているユーザーは、「SACRAホイールに何を求めているのか」を明確にする必要がある。価格なのか、それともエアロダイナミクスなのか、人と違う製品を使いたいのか、カラーオーダーなのか。まずは自分が望むべきホイールとは何かを定義しなくては、選べるホイールも選べない。
私は過去に、とある機材に対してこんな文章を書いた。「自転車界とは関係のないパイオニアが生み出したペダリングモニターは、固定はタイラップだし、おにぎりみたいだし、初物はこんなもんなのだろう。だからこれからに期待したい。」と。
あの頃ボロクソにパイオニアペダリングモニターをこき下ろした事に対して、開発者は私を恨んでいるかもしれない。しかし、今のパイオニアペダリングモニターの活躍はどうだろう。
この記事を書き終える頃、息抜きでジロ・デ・イタリア2017のTTを見ていた。そこには”昨年に続き”ジロ・デ・イタリアのマリア・ローザと共に走った日本製のパワーメーターが取り付けられていた。発売当時、だれが今日の活躍を想像できただろう。
きっとSACRAホイールも、これから多くのユーザーの手に製品が行き渡り、様々なフィードバック(良いも、悪いも)がもたらされてくる。そのフィードバックはサイクリストが真剣であるか、そうでないかにかかわらず「フィードバックは宝」なのだ。
中には酷評もあるだろうし、皮肉や、敵対心を持った内容を投げかけられるかもしれない。しかし、それら一つ一つを汲み取り、改善し、製品に反映することでより良い製品へと進化していく。SACRAホイールは、価格面で大きなアドバンテージがあるのは確かだ。
その価格の上で、絶え間ない研究開発(技術力は確かなはず)と面倒な日本ユーザーの生の声を拾い、製品へ反映していってほしい。今後、私がSACRAホイールに期待するのはどの会社をあまりやりたがらない、自社製品の数値化だ。
もしも工学的観点という事実を引き合いに出すなら数字が必ず必要になる。エアロダイナミクスもそうだし、議論になりやすいスポークパターンと横剛性、縦剛性、駆動剛性の違い。どのメーカーもやりたがらないし、唯一実験し数値として公開しているのはドイツのTOUR紙ぐらいだ。
本記事内でDUKE大学のホイール剛性に関する論文を紹介した。ホイールの横剛性、縦剛性、駆動剛性の実験方法も掲載されているので同様のテストは可能だ。また、ここまで複雑な方法を用いなくても、27.5と29erのホイールの剛性テストをした「THAT’S REAL MTB! 3 (エイムック 2702)」のように簡単な方法で剛性を測定することも可能である。
ホイールという世界はいまだに謎が多い。その中で議論が空中戦にならないように、実験データーと数値を持って自社製品をユーザーに伝わるように地道にアピールしてほしい。そうすればSACRAホイールは、「事実」としてより多くの人に受け入れられるはずだ。
ユーザーがSACRA Cyclingに期待している課題は「真実」を語ることではなく、実験と数値データーを用いた無機質な「事実」かもしれない。
また、書籍「ロードバイクの本音」も第二弾を期待している。第一弾の内容は、工学的な観点という目線で見ると、実験データーや、数値データーが不足している。内容は正しいかもしれないが、図解や数値の情報が無いため説得力にかける内容だった。
結果、Amazonのユーザー評価も低い(多くのレビュアーの意見に大筋同意している)。そういう意味では残念な結果になってしまったが、もしかしたら難しいことを気にしない初学者向けの内容だったのかもしれない。
最後に、SACRAホイールは値段を考慮すれば、市場に出回っているカーボンクリンチャーの中でも性能の割に安く、練習から常時使える万能ホイールだ。位置づけとしては、シマノで言うところのアルテグラグレード相当のホイールである。
SACRA Cyclingの開発力は、DHクローザー、可変クランク、低フリクションのチェーンといった製品を見ても魅力的な開発力を備えている。その中で第二弾、第三弾のSACRAリムを開発・改良し続けてほしい。現在嘆かれている様々なフィードバックをクリアし、「リムならSACRA」と言われる日を期待している。
なお、FACEBOOKページに本記事に関するコメントを書き込むことができます。「建設的」で「忌憚のない意見」をSACRA Cyclingに届けてください。私を含め、匿名ではなく記名でコメントが残ることになりますが、それだけで価値があります。(いいか、荒らしはダメだぞ、約束だ。)
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参考文献
Bicycle Wheel Spoke Patterns and Spoke Fatigue