ポガチャルやガンナが秘密裏に使用した「最後のマージナルゲイン」Rule28 エアロベースレイヤーとは?

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image: Rule28

ポガチャルが非公式で使用し勝利、フィリッポ・ガンナがTTで採用、INEOS Grenadiers、アメリカ、イギリス、フランス、ニュージーランド、アイルランドといった名だたるトラックナショナルチームが採用、最速を競い合うトラックとロードの世界選手権で何度も優勝しているが、あまり話題に上がっていない装備がある。

Rule 28のエアロベースレイヤーだ。

Rule28は、ライダーのポテンシャルを最大限に引き出すためのウェアを製造している。興味深いのは、Rule28が作るすべてのエアロ製品は、マーケティングを一切行っていない。

image: Rule28

Rule28が絶対の自信を持つ製品には単純な1つのメッセージだけが込められている。「テストデータは全て公開されているので、どれだけ速くなれるか、ご自分の目で確認してください」というシンプルな表現だけだ。

Rule28は、サイクリストに可能な限り最大のアドバンテージを提供するために、広範囲に渡る風洞テストを行っている。そして生み出されたのが、今回紹介するエアロベースレイヤーだ。「最後のマージナルゲイン」といわれているエアロベースレイヤーについて見ていこう。

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エアロの新時代を切り拓く。

image: Rule28

サイクリングウェアのエアロダイナミクスは、ライダーが発生させる抵抗をいかに減らすことができるかが重要だ。

根本的な問題として、人間の身体は、空気力学を考慮して設計されていない。ライディングポジションを変えることである程度は空気抵抗が小さくなるように適応させることはできるが、それでも抗力係数(CD)が高い形状が身体には数多く存在している。

そのため、ライダーが身につけるエアロウェアは、いくつかの異なるプロセスによってCDA(空気抵抗係数×前面積)の低減を試みている。

  1. 最も簡単なのは、余分な抵抗を与える可能性のあるウェアの緩みやシワのある布地を減らすこと。
  2. 背中など空気の境界層が残っている部分には、できるだけ肌摩擦の少ない生地を使用すること。
  3. 最も重要なのは、腕のような円柱のような形状によって高い圧力抵抗が発生する部分の改善。これは、腕の前面で圧縮された空気が腕の周りを流れるときに境界層が剥がれ、腕の後ろに低圧の領域が発生することに起因する。この高圧と低圧の領域が連動して、空気が腕を押したり引いたりする。圧力抵抗が問題となる場合、ファブリックで表面に粗さをつけることによって改善する。境界層が分離する前に何かしらのエネルギーを与えることによって、流れを意図的に乱れさせ、境界層の分離点をより下流に移動させることで、腕の後方部の低圧領域を減らすことによって、全体の抵抗を結果的に下げることができる。
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空気抵抗が大きくなるのは、円柱のような形状だ。人体のいち部分である腕もいびつな円柱としてとらえることができる。では、円柱に生じる気流と効力が発生する様子を確認してみよう。

腕や脚の周りの気流を表現し、抗力が発生する様子を表したもの。(image: Rule28)

次に、生地の形状で生じる空気抵抗の特性は以下の3つの領域に分けることができる。

  1. 毛並み
  2. 微細構造
  3. マクロ構造

一般的かつイメージしやすい形状としては、毛足の長い生地は、空気抵抗が増し、余分な表面摩擦抵抗をもたらす。したがって、このような生地はエアロスーツでは避ける素材だ。例えば、毛足の長い生地の例として、起毛したフリース、ウール、フェルトなどが挙げられる。

生地の毛並みを断面図で表現した例 (image: Rule28)

微細構造の粗さは、生地の編み方や反り方に手を加えることで生じる。リブやくぼみのある生地は、乱流を引き起こすためエアロスーツの開発ではできるだけ使わないことが望ましいとされている。これら表面の粗さは、表面摩擦を伴い空気抵抗が増す。

ファブリックの微細構造を断面図で表現した図。(image: Rule28)

マクロ構造は通常、抗力低減のために使用されることはない。実際の風洞実験では、空気抵抗の低減にほとんど効果がないことが示されている。しかし、別の考え方としてマクロストラクチャーを「表面層の下に配置する」ことによって、流れを層流から乱流に変化させ、抗力低減を実現することができる。

ファブリックのマクロ構造を断面図で表したもの。(image: Rule28)

この効力低減が判明したのは、NTNU1のCamilla Fydrych Sæterが行った、アスリートの手足を縦に走る帯状のマクロ構造の粗さが、滑らかな表面層の下に置かれたときに、レイノルズ数を大幅に減少させ、結果としてCDを低下させることにつながるという研究から得られた空気抵抗の改善方法によるものだ。

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研究から得られた表面層の相互作用

リブ付きベースレイヤーと表面層の相互作用 (image: Rule28)

Rule28は、2019年後半にマクロストラクチャーを「表面層の下に配置する」ことによって、流れを層流から乱流に変化させ、抗力低減を実現するコンセプトの研究を開始した。

この出発点には、NTNU1のCamilla Fydrych Sæterが行った、アスリートの手足を縦に走る帯状のマクロ構造の粗さが、滑らかな表面層の下に置かれたときに、レイノルズ数を大幅に減少させ、結果としてCDを低下させることにつながるという研究があった。

Sæterの研究では、サイクリングよりも目標速度が遅いランニング用のスーツを作ることに焦点を当てたものだった。 実際の実験では、UCI規則ではルール違反とされる加工を施し、空力学的改善がどれくらい達成できるかが検証され、結果的に大幅な空力性能の向上が確認された。

また、最も効果的だったのはストリップサイズの幅と高さが1mm×1mmであった。幸いなことに、この構造の生地はUCIのウェア規定に準拠していた。

さらに実験が行われ、目標速度に対して最も効果的なストリップの間隔について得たテスト結果に基づき、Rule28は実際のTTの速度領域に対して最も抗力が低減する間隔を突き詰めていった。そして、間隔を狭くしたものや、間隔を広くしたものを作り、風洞でテストを繰り返した。

これらの生地は、クロップド丈のベースレイヤーの腕に付けて使用した。そして、このベースレイヤーに新しいプロトタイプのスーツを組み合わせて実験が行われた。テストは、シルバーストーン・スポーツ・エンジニアリング・ハブの風洞実験施設で行われ、1つのスキンスーツを用いて、性能を比較した。

 

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テストプロトコル


風洞実験では、時速35~60km、5km刻みで、TTレースで想定される速度の大半を視野に入れたテストが行われた。 ヨー角は0°と5°を選択し、横風が強い日以外のTTレースでよく見られるヨー角度でテストが行われた。

テストライダーはエリートサイクリストであり、すべてのテスト走行で一貫したポジションとケイデンスを保った。テスト項目以外の装備はすべて一定に保たれている。

エアロベースレイヤーによる性能の変化を理解するために、3つのベースレイヤーと一緒にテストされ、さらに単体でもテストが行われた。

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テストデータ

YAW 0
Suit Name (Power)35kph40kph45kph50kph55kph60kph
R28 2021 TT (W)133.3194.7272.3371.6494.4637.4
Narrow (W)130.9193.6272.6368.7483.6622.7
Mid (W)129.7190.6269.5365487.4617.1
Wide (W)131192.6269.2368.2487.1630.2
No Base layer (W)134197.5278.4376.2495.2629.5

テストの結果、エアロベースレイヤーを使用することでドラッグの低減に明らかな効果があることが明らかになった。ヨー角0度で、エアロベースレイヤーを使用した場合、スーツ単体と比較して、時速50kmにおいては最大6Wの改善が得られた。

ヨー0度では、テストした速度範囲において、Mid(中幅)の生地が最も大きな抗力低減を実現している。

YAW 5
Suit Name (Power)35kph40kph45kph50kph55kph60kph
R28 2021 TT (W)136.1197.2275.4369.4490.3629.7
Narrow (W)134.7194.7271.4366.9480.8618.8
Mid (W)133.7193.6267.9362.4473.5607.6
Wide (W)134.3196.5276.4365.9485.9626.9

Mid幅のファブリックの性能は、5度のヨーテストでさらに向上した。あらゆる速度で節約効果を発揮し、速度が上がるにつれてそのリードを広げている。時速60kmで、22.1Wの節約を実現した。

これら、様々な丈の比較から、Mid幅が最高のパフォーマンスを発揮するストリップ間隔であるため、製品版のエアロベースレイヤーにはミドル幅が選定されている。

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論文:Development of a low drag suit for sprint races

本論文では、100mスプリンターの空気抵抗を低減するカスタムスーツを設計することを目的とした研究が行われている。

異なる表面粗さがボディの周りの流れ場を変えることができることから、異なるタイプの表面粗さを分析し、ストリップを適切に配置することで空気抵抗を低減する方法を提案している。

実際の風洞実験では、異なる表面粗さを持つストリップを組み合わせた生地の抗力測定が行われ、円筒モデル、楕円、テーパー、円筒の抗力測定を小型風洞で行い、実寸大のマネキンの抗力測定を大型風洞で行っている。

また、フォースプレートやピトー静電プローブなどの機器を使用して、空気抵抗に関するデータを収集している。

これら風洞実験により、ストリップの形状が性能に与える影響が評価された。最終的に、既存のスーツのカスタムアンダーレイヤーが設計され、アディダスが提供する既存のスーツと比較して、全体的な空気抵抗を低減することが証明されている。

本研究は、アディダスがスポンサーとなり、スプリント競技用衣服の最適化に関する研究に携わる機会を得たことから始まった。

Development of a low drag suit for sprint races

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レビュー

ここまで記した通り、ノルウェー科学技術大学のエネルギープロセス工学研究所の研究者や、Rule28のエンジニアの叡智が結集し開発されたエアロベースレイヤーについて、わたしなんぞが「レビュー」や「インプレッション」なんてすることは、そもそもおこがましい。

しかし、一般人が実際に入手し、使用してみた記事は海外にも、無論日本国内にもみあたらなかった。だからこそ、おこがましいと思いつつもRule28エアロベースレイヤーについてめておきたいと思う。

まず、ジャージを着る前にエアロベースレイヤーを先に着る。「着る」というよりも、腕を通すというほうが正確だ。スポーツブラジャーのような感じであるが、圧迫感はなくインナーウェアに近い。

ただし、腕周りは非常に窮屈だ。ただ手を通すだけで着用することはできず、何回か袖をずらしながら丁寧に着用しよう。

サイズは、身長と体重から最適なものを選ぼう。わたしは身長169.5cm、体重58kgだがXSを選択した。そのため腕がやや窮屈に感じてしまったのかもしれないが、決戦用と割り切れば体重は55kg~56kgの間で調整するのでギリギリXSサイズといったところだ。

image: Rule28

エアロベースレイヤーを身に着けたあとは、ジャージを着用する。ジャージを身に着けてもエアロベースレイヤーはずり上がることがない(ほどに、ピッタリと身体に密着する裁断だ)。

実際に走ると、思いの外エアロベースレイヤーの存在は感じられない。では、空力性能はどうだろうか。

正直なところ、エアロベースレイヤーを身に着けても違いなんてわからないだろうと思っていた。しかし、実際に使用してみると首周りがやけにスースーする。空力が何ワット改善されたのかはわからないが、これまで胸から首元で感じていた「空気の圧」のようなものがなくなったと、

「はっきりと感じた」

のだ。

実際に処理が施されている腕部分だ。しかし、空気の圧が感じられなくなったのは胸から首元である。もはや実際に試して頂いて、「この不思議な感覚」を実際に感じてもらうしか伝えようがない程に、はっきりと感じて”しまった”のだ。

これまで確かに存在していた「胸周りの空気の圧のようなもの」がすっきりなくなってしまった。この、胸周りスースー感は、スピード域がある程度上がると感じられるが、低速域だとまったく感じられない不思議な感覚だった。

ところで、そもそもの疑問として、エアロベースレイヤーの凹凸加工がなぜ「腕だけ」なのか?ということが気になっていた。

Rule28の公式見解によれば、スキンスーツの下に布があると、スキンスーツの性能が変わってしまう。円柱に近い腕部分には凸凹が必要になるが、胴体や背中には、できるだけ滑らかな布地を保ったほうが空力性能が向上するという。

このベースレイヤーは、スキンスーツだけではなく、広く普及しているあらゆるジャージに適応するという。ようするに、今あなたがお持ちのジャージの下に入れさえすれば良いわけだ。
ただ、最も空力改善を見込む場合、Rule28エアロベースレイヤーとセットで購入できるネオスーツと併用することで、最も良い結果を得ることができるという。

半信半疑であったのだが、エアロベースレイヤーはたしかに空力性能を改善している可能性がある。いや、「可能性」ではなく論文や風洞実験の数値データーを見ても明らかなように、大幅な改善が行われる。

2023年の初頭のレースでポガチャルが非公式で使用し勝利、フィリッポ・ガンナがTTで必ず身につけ、INEOS Grenadiersも採用、そしてアメリカ、イギリス、フランス、ニュージーランド、アイルランドといった名だたるトラックナショナルチームが採用しているのだから、その効果を疑うほうがバカバカしい。

確かに数値上は論文や風洞実験で裏付けがされている。そのうえで、プロチームや莫大な資金が投じられているトラック競技の世界で採用され、何度も優勝しているのだからこれは本物なのだろう。

名だたる選手達が非公式で使用し、プロモーションが行われていない(行えない)のだから、余計に「最後のマージナルゲイン」というタグがこのRule28のエアロベースレイヤーに付けられても何ら疑問に思わない。

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最後のマージナルゲインとして

image: Rule28

Rule28のエアロベースレイヤーは、確かな論文と風洞実験によってその性能が実証された確実に効果が見込める空力改善のウェアだ。名だたるプロチームや、世界最高峰の選手が秘密裏に使用し結果を出してきた。

現代の考えられるマージナルゲインを1つ1つ積み上げ、ありとあらゆる改善がやりつくされていくなか、このエアロベースレイヤーの存在意義はこれまで開拓されていなかった新しい領域に踏み込んでいくアイデアと科学技術の進歩と言っていい。

本製品はもちろん、日本から簡単に購入することができる。日本から注文しても1週間も経たないうちに手元に届いた。価格は2万円以上もするが、その効果たるや昨今の高騰している自転車フレームで得られる空力性能の利益に比べれば圧倒的に「安い」と感じた。

とはいえ、もちろんウェアとして考えると高額た。しかし、秘められた空力性能のリターンを考えると安いのではないか。Rule28のエアロベースレイヤーの存在自体を理解すれば、価格に見合った性能を備えていることがわかるだろう。

TTやヒルクライム、ロードレースと少しでも空力を改善し1秒でもタイムを削減したいサイクリストにとって、このエアロベースレイヤーは非常に強力な存在になる。

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