DT Swiss ARC 1100ホイール SWISS SIDEの開発コンセプトでわかった最速ホイールの秘密【前編】

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Photo: DTSwiss ARC 1100

SWISS SIDEとDTSWISSが生み出した新型ARCホイールは、最速のホイールである可能性がある。ドイツのTOUR MAGAZINEのテストでARC1100の50mmが、ROVAL RAPIDE CLXよりも優れた空力性能を備えている結果が出た。

世界最速のロードバイクCANYON AEROAD CFRを生み出したSWISS SIDEは、DTSWISSと技術協力し新ARCホイールの開発を行った。新ARCの開発コンセプトはREBORN FASTER(より速く生まれ変わる)だ。

新ARCのデザインは、これまでSWISS SIDEがつちかってきたエアロダイナミクスの開発技術の集大成といわれている。新ARCデザインは、製品開発プロセス、空力開発プロセス、パフォーマンスの最適化を突き詰めて開発を行った。

SWISS SIDEがホイールの最適化を模索し続けた結果、リムブレーキ式を排除しディスクブレーキモデルのみラインナップするという結論に至った。足かせになっていたリムブレーキの設計制限が解放されることで、より自由度が高く、より高性能なホイール設計が可能になった。

DTSWISSとSWISS SIDEは、まったく新しいリム、まったく新しいスポーク、まったく新しいハブを開発し、それぞれを最適に組み合わせることでホイールのデザインを再構築した。その結果、「REBORN FASTER」のとおりARCは新たな速さを手に入れた。

今回の記事は、DTSWISSとSWISS SIDEが協力して作り上げたDTSWISS ARCシリーズの技術資料から、どのような開発手法や技術改善が行われたのかを探る。またDTSWISS ARC 1100の50mmと62mmを実際に使用しインプレッションを行った。

究極のエアロホイールを

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Photo: DTSwiss ARC 1100

3年前DT Swissは、「クラス最高のパフォーマンスを目指すのならば、ホイールは特定の目的を掲げ開発する必要がある」という信念に基づきARCホイールの開発をスタートした。

現代のロードバイクのコンセプトは、前面だけの空気抵抗、横風だけの影響、転がり抵抗の最適化だけに焦点を当てるだけでは不十分だ。それはDTSWISSもわかっていた。そこで、空力性能に加えて、ハンドリング時の動作感、乗り心地や効率性なども含めて、ホイール全体を再構築する必要があった。

DTSWISSとSWISS SIDEが新ARCホイールの開発で新たに掲げた目標は、「究極のエアロホイールを作る」ということだった。

究極のパフォーマンスを実現するためには、ディープリム化による重量増やエアロダイナミクスといった相反する要件に対し、バランスを取る最適化の工程が重要だ。もちろん、重量面、エアロダイナミクス面でそつなく性能を発揮するオールラウンドホイールも開発できないことは無い。

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Photo: DTSwiss ARC 1100

しかし、とがった性能を得るためには、1つの特徴をとことん高めることが重要になってくる。DTSWISSとSWISS SIDEが掲げた開発目的は、ディスクブレーキ、チューブレス、ワイドタイヤといった現在のトレンドを取り入れた最新のエアロホイールを設計することだった。

新型ARCホイールの開発では、「スピードを上げる」というただ1つの目標を目指した。それがDTSWISSが掲げる「AERO+」だ。AERO+は、

  1. 並進抗力
  2. 回転抗力
  3. ステアリングモーメント
  4. 転がり抵抗

以上の4つのパラメーターから成り立っている。

ホイールに生じるこれら4つの抵抗を低減し最適化することで、ホイールが持つ性能を最大限引き出すこと手法がとられた。これらは、DT SwissとSWISS SIDEが考える最先端のエアロホイールのコンセプトだ。では、これらの4要素はどのようにして高められていったのか。

並進抗力

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Photo: DTSwiss 並進効力

並進抗力とは、進行方向にとは逆向きに働く空力的な力を示している。並進抗力が増すことによって、バイクのスピードは落ちていく。ライダーとバイクに生じる並進抗力は、サイクリストの正面が約75 %、ロードバイクとコンポーネントが約25 %を占める。

この並進抗力を最小限に抑えるためには、ライダーとバイクシステム全体の表面積を減らす必要がある。そして、ライダーとバイクシステム全体を限りなく流線形(NACAプロファイルのような)形状にする必要がある。

速度とこれらの効力は比例関係にある。速度が増せば増すほど、抗力が指数関数的に増加する。そのため、ライダーとバイクシステム全体の空力抗力を減らすことが速度向上のカギになる。空気効力は、なにも高速域に限った話ではない。

わずか時速15 km以上で、空力抗力は最大の抵抗となる。そして、フロントホイールが抗力全体の8 %にも及ぶことから、フロントホイールは特に抗力を考慮しなければならない。

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Photo: DTSwiss セーリング効果。

コラム:味方にもなる抗力のセーリング効果

ロードバイクの風洞実験を行うと3方向の力を計測することができる(厳密にはねじるような力も発生するがここでは割愛)。おなじみのDrag(後ろ方向に引っ張られる力)や、横力(横方向にあおられるような力)、そして揚力(浮き上がる力)の3つだ。

特にDragはホイールやロードバイクの風洞実験で頻繁に登場する。物体の進行方向に対して、逆向きに働く力であり、速度を上げることを阻害する力だからだ。そして横風は、バイクやホイールの安定性に影響を及ぼす。横風にあおられてヒヤッとする場面に遭遇する場合は横力が影響している。

これらの力は、一見すると悪影響ばかりに思えるがうまく付き合うことによって味方にもできる。ここで、自転車の話から頭を一旦離してヨットが風を受けて前進する事を想像してみよう。ヨットが風を受けて前進するのはセーリング効果という力が生じているためだ。

セーリング効果は、帆の表面を流れる風(空気の流れ)によって生ずる揚力を利用してシステム全体を前に推し進める。DTSWISSやSWISS SIDEのホイール開発では、これら横力を最小限に抑えつつセーリング効果を最大化するホイール(リム)を開発した。

DTSWISSとSWISS SIDEは、帆が風を受けヨットを前進させるヨットと同じことを、ホイールを使って実現しようとしたのだ。

ホイールのリムの形状を最適化することによって、ヨットと同じ効果が得られる。空力性能が高められたホイール(リム)は、0°~20°のヨー各の適度な横風条件下では、並進抗力によって速度が落ちるのではなく、ヨー角が増えることによって「抗力が減る」というメリットが得られることがわかっている。

リムハイトとリムシェイプによっては、この抗力の減少が「負のワット≒前に押し出される力」に達する場合もある。この抗力は前方への推進力として味方になる。横風によるセーリング効果は、18°までのヨー角で発生する。それを超えると、どのホイールも急激にDragが増加する傾向にあることがわかっている。

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抗力の本質とは、敵であり味方でもあるということだ。風の影響を最も受けやすいフロントホイールについて考えると、異なる風向きでさまざまな影響が及ぼされる。図は、風に対するフロントホイールの挙動を示すモデル曲線を表している。

X軸はフロントホイールに風が当たる角度(ヨー角)を示している。Y軸は抗力値(ワット)を示している。向かい風(0°)やわずかな横風(1~5°)の条件では、抗力によって速度が落ちる。ワット値は正の値(赤色の線の上、ヨー角+/-14°)であり、大きな抗力が生じている。

しかし、横風に高いリムプロファイルが組み合わさると、ライダーにとってプラスの力に転じる。ワット値が負の範囲に達すると(赤色の線の下、ヨー角15~20°)、ホイールのセーリング効果による推進力が得られる。

このセーリング効果が生じるようにリムプロファイルの形状を突き詰めていったのが、ARCホイールのリムだ。

Dragを100g減らすと何秒タイムを稼げるか
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どちらが空力が良い?なぜDragに重み付けをすべきなのか。
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風洞実験はプロモーションのためなのか?
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回転抗力

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Photo: DTSwiss, 回転抗力。

バイクには様々な回転部品が付いている。ペダリングという回転運動をホイールの回転に変換するまでには、複数の回転部品が連携し伝達しあうことで回転運動を生み出している。これらの回転の組み合わせによる一連の流れの中で、回転パーツは回転抗力による影響を受けている。

ホイールの回転抗力を考えてみると、リムやスポークやハブが空気中で回転することによって生じる摩擦が抵抗になっている。リムとハブをつなぐスポークは回転抗力のなかで極めて重要な存在だ。空気抵抗の影響を考慮すると、特にスポークの回転抗力を軽視することはできない。

重要なポイントとしては、リムの高さが低くなるほど、セーリング効果の影響が少なくなる。したがって、「低いリムプロファイル」で「スポークが長い」という組み合わせほど、回転抗力が大きくなる。ARCホイールにおいて、80mm、62mm、50mmの順で回転抗力が小さい。

理由はスポークが短くなるため、その分空気をかくはんする抵抗が小さくなる。ローハイトリムでスポークが長いホイールは空気抵抗も増すのだ。そして、ARCホイールではさらに新しい形状のエアロスポークを開発し搭載している。

DTSWISSがARCホイールのためだけに新スポークを生み出した(他社への展開はおろか、小売りもしていない)。この新スポークについては、次回公開予定の空力データーを踏まえた記事で紹介する。

ステアリングモーメント

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Photo: DTSwiss, ステアリングモーメント。

ディープリムを使ったことがある方ならば、だれしも1度はフロントホイールが横風にあおられて怖い思いをしたことがあるはずだ。理由は急激にフロントホイールに横力が発生するためだ。走行中のサイクリストは、激しい横風や、横を通るトラックによって引き起こされる横力を感じる。

これらの力はホイールに悪影響を及ぼすだけでなく、ライディング性に影響を与える場合がある。サイクリストにとって予測ができない動きをする「風」と「ライダー」は危険な存在だ。

したがって、強い横風や向かい風、変化する風といった外的な気象条件に左右されず、安全で予測可能なハンドリングができるホイールを実現する必要がある。目的の速度で安全に走るため、「ステアリングモーメント」が小さくなるようにAERO+リムは改良された。

AERO+リムは、サイクリストにとってみれば予測可能なホイールといえる。つまり、ライダーの制御下におかれた操作ができるというメリットがある。その結果、余計な操作に気をとられることが少なくなるため、より長期間ストレスが少なく走ることができる。

これらは、ふらつかずに「まっすぐ走る」という小さな積み重ねによってスピードアップが見込めることも意味している。

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Photo: DTSwiss, 横力のばらつき。

ステアリングモーメントの物理的な説明について少しだけ触れておく。ステアリングモーメントは、ホイールに作用する横力のばらつきによって生じる。

横風が強い条件下では、自転車のリムとフレームに生じる横力のばらつきが顕著だ。この横力のばらつきにより、ステアリングアクシス(ステアリング時のホイールとフォークの回転軸)の周囲に、モーメント(ステアリングモーメント)が発生する。

新しいAERO+リム形状の開発では、計算流体力学(CFD)および風洞試験を採用することで、ステアリングアクシスに対して均一な横力分布が最小限になるよう設計が施された。

1 横力分布(カラースケールで表示)
2 ステアリングアクシス(白い線で表示)

転がり抵抗

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Photo: DTSwiss, 転がり抵抗。

ARCホイールのリム内幅は前作と比べて3mm増加した。タイヤの転がり抵抗はリムの内幅次第で大きく変わる。BONTRAGER AEOLUSは23mm、ROVALは21mmと内幅はより広くなっている。ARCのリム内幅は控えめな20mmだ。この内幅のサイズは現代のリムとしては標準的なサイズである。

内幅が広がることに加え、25Cのタイヤを使用することを前提にARCホイールは設計された。ワイドタイヤ、ワイドリムは転がり抵抗を小さい傾向にある。タイヤ内のエアボリューム(体積)が大きくなるため、接触面が横方向に「長く」なり、縦方向に「短く」なる。

そのため、ヒステリシスロスが低下し転がり抵抗も減少する。

【なぜ?】タイヤ空気圧を上げ過ぎると、転がり抵抗が増す【実験結果あり】
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転がり抵抗を比較 23Cと25Cのタイヤは違うのか?
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前半まとめ:AERO+というコンセプトのもとに

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Photo: DTSwiss, ARC 1100.

前半の記事は、DTSWISSとSWISS SIDEがどのようなコンセプトでARCホイールを生み出そうとしたのかを探った。いわば設計思想の部分、どのようにして空力性能と運動性能を備えたホイールを生み出すのかという、考え方の部分だ。

DTSWISSとSWISS SIDEは、ホイールに生じる4つの抗力を明確に定義し、1つ1つの効力を最大限減らす開発を行った。それらの積み重ねは、実際の第三者機関でも並み居るホイールよりも優れた空力性能を備えていることが証明された。

次回の記事では、実際にリム、ハブ、ホイールといった部品部分にフォーカスしていく。そして、CFD解析や風洞実験結果を交えたデーターを紹介する予定だ。

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