こんな質問をいただいた。
おそらく、ピークス・コーチング・グループが国内でSRMの販売を開始したことと、最近なにかと話題になっているMageneの激安パワーメーターPES-P505が登場したことによるものだろう。
- 高価でハイエンドなSRM ORIGIN
- 安価で普通に使えるMagene PES-P505
両者のパワーメーターは全く違う製品コンセプトながら、「パワーを計測する」ということに関してはまったく同じだ。では、何が違うのだろうか。
SRMが信頼されている理由
まず、質問の回答に入っていく前に整理しておきたいこととしては、SRMは会社名であってパワーメーターの製品名はORIGINだ。ORIGIN(オリジン)の名の由来は、パワーメーターにおける全ての部品をSRMが設計した「オリジナル」のパワーメーターという意味からきている。
という余談はさておき、
SRMは35年以上の長い歴史があり、パワーメータ市場で最も信頼性が高く正確な測定器として認知されていることは疑いの余地がない。また、プロが契約外で使用するパワーメータとして高い評価も受け続けている。
SRMは公式に「プロであれサポートはしていない」と明言している。そのため、プロ選手が使用していれば間違いなく自費購入だという。それ以外にもパワーメーターというニッチな市場で、SRMがプロに愛され信頼されている理由はいくつかある。
- ハンドメイド
- 測定が高精度
- 長持ち
- 細部の作り込みが良い
SRMのパワーメーターは技術者がハンドメイドで製造している。SRMがハンドメイドにこだわる理由は、高い精度基準で製品を製造するためであり、どのような環境条件においても正確で信頼できる製品を追求しているからだ。
SRMのパワーメータはすべて、ストレイン(ひずみ)ゲージを使用したトルク計測をおこなっている。SRMは他社パワーメーターとは異なり、カスタム設計した自社製のストレインゲージを使用している。ストレインゲージも手作業でスパイダーに配置されるため、オフセットの安定性が得られる。
SRMの安定したオフセットと自動温度補正の組み合わせは、過酷な条件下でも正確なパワー計測を可能にしている。そのため、SRMは世界で最も正確なパワーメータと言われており、マイナス10℃での低温オフセット校正、正確な質量に対するメカニカル校正など、複数の校正ステップを経て校正を行うことができる。
SRMが信頼されている理由の別の理由は、とても長持ちするパワーメーターだからだ。SRM製品は、可能な限り長持ちするように設計・製造されており、高品質かつ最も耐久性のある素材を採用してパワーメーターを製造している。
SRMの測定精度
肝心の精度については、研究用途で高い測定精度を持つCYCLUS 2 Ergometer for Professionalsのエルゴメーターで計測した実験データーが公開されている。
テスト条件としては、ワット数を昇順と降順の標準化されたプログラム(300W、100W、300W)を用いてケイデンスは90rpmで行われた。結果は以下のとおりだ。
最大誤差 | 平均誤差 | |
---|---|---|
KeoPower | -12% | -4.0% |
ROTOR POWER | +9.9% | +6.1% |
SRM アルミ | +3.9% | +0.5% |
SRMカーボン | -3.2% | -1.3% |
Quarq | -8.9% | +3.6% |
Power2Max | -5.8% | -2.2% |
Triathlon-Test_Wattmessgeraete
SRMはクランクアームがカーボン製とアルミ製がラインナップされているが、アルミとカーボンでは変形量や気温による特性が異なるため、同じスパイダーアームであっても同じ測定精度ではないことに注意が必要だ。
とはいえ、アルミクランクのSRMがダントツの測定精度である結果が出ている。同じくドイツのPower2Maxも高精度だ。私がトラック用に長年Power2Maxを使用している理由もこの測定精度の高さにある。
SRMとPES-P505
ここまではSRM推しで、今でもSRM以上に優れたパワーメーターが思い浮かばないほどだが、最近話題の4万のMagene PES-P505と比べるとどうだろうか。一覧比較した。
Magene PES-P505 | SRM ORIGIN | |
---|---|---|
価格 | 43,560円 | 30万前後(構成による) |
計測方式 | スパイダー | スパイダー |
パワー測定 | 両足 | 両足 |
パワーバランス | あり | あり |
BCD | 110 | 110 |
通信プロトコル | ANT+, BLE | ANT+, BLE |
測定精度 | +/- 1.5% | ±1% |
オートキャリブレーション | あり | あり |
バッテリータイプ | 充電式 | 充電式 |
バッテリーライフ | 200 時間 | 100 時間 |
ケイデンス測定 | あり | あり |
クランク長 | 165mm, 167.5mm, 170mm, 172.5mm, 175mm. | 150mm, 155mm160mm, 165mm, 167.5mm, 170mm, 172.5mm, 175mm. |
Q-ファクター | 147mm | 145.5 mm |
重量 | 650g | 664g |
修理 | 可 | 可 |
保証 | 2年 | 2年 |
このスペック上の比較だけでは、SRMの作り込みの良さや信頼性の高さ、耐久性の高さなどSRM特有の情報が表現できないのが残念ではある。純粋にスペック比較すると価格差だけが目についてしまい、なぜ30万円もするのかという理解が及ばない。
ハンドメイド、部品のひとつひとつをSRMが設計開発しているため高額になるのはしょうがない。クランク長やスピンドルの対応はSRMが豊富なラインナップを持っている。
最後に昨今の各社パワーメーター事情、時代背景などを総合的にみて、質問への回答を書いてまとめとする。
まとめ:コストか正確性か
SRMは長い歴史があり、パワーメーターのベンチマークだった。
とはいえ、今でもSRMがパワーメーターのベンチマークかと問われると、素直にそのとおりだ、と答えにくい時代になってしまった。というのも、他社の製品の性能が大幅にアップしているからだ。そしてどうやって作っているんだと思うほどに安くなった。
市場には正確なパワー計測ができる優れたパワーメーターがたくさんある。消費者はその中から選ぶことができる時代になった。35年前はブルーオーシャンだったが、今のパワーメーター市場はレッドオーシャンになっている。
SRMだけが優れていると主張するのは、少々難しい時代になったように思う。
また、パワーメーター問わず電子機器の性能向上はとてつもないスピードで進んでいく。半導体の性能が18ヶ月で2倍であることを提唱するムーアの法則のように、高性能かつ低廉化は止められない。10年、いや3年でもデバイスの進化と低廉化は進んでいく。
その結果、Magene PES-P505のように、廉価かつ優れた測定精度のパワーメーターが出てくることは何らおかしな話ではない。QUARQの修理を米国のQUARQ本社にEMSで送っていた私からすると、SRMやMageneともに保守や修理が国内で対応可能というのは驚くべき時代になったと感じた。
そうなってくると、
- コストを抑えてパワー計測をしたい方:Magene PES-P505
- 高精度の測定と長く使いたい方:SRM ORIGIN
というのが”現段階”での結論だ。現段階というのは、Mageneのパワーメーターは歴史が浅い。さらにドイツ製、中国製というとイメージの問題を差し引いても、耐久性に関していえば、Magene製品は今後経過観察が必要だ。時間とともに、もしかしたら故障が顕在化してくる可能性もありうる。一方で全く壊れなければ、SRMのように信頼を勝ち取っていくだろう。
現段階では、PES-P505の故障は認められない。しかし、どれくらい長く使えるのかはこれから試していくしかない。コストに関しても、Magene PES-P505の7倍近い価格を考えると7回買い替えたほうがオトクなのでは、という考え方もできる。
PES-P505は高い測定精度が実験で明らかになっている。精度精度もSRMと比べても申し分ない。むしろアマチュアが使うのならば十分すぎる測定精度だ。
やすかろう、悪かろうの商品は数多くある。ただ、PES-P505は安くて高精度という相反する性能を備えているため消費者にウケた。
「30万円のSRMと4万のMagene PES-P505は価格に見合う違いがあるのでしょうか?」
という「価格に見合う」という問に対しては、パワー計測だけにおいては価格をひっくり返すだけの大きな違いがない。ただし、品質面、使用している高価な部品、オフセット方法、細かな作り込みなどに価格相応の魅力を感じたのならばSRMは良い選択肢になりうるだろう。
ただし、コスト重視でパワー計測ができれば良い場合は、Magene PES-P505以外に最適解が見つからない。何を重視するかによって、答えは無数にある。今回の質問への回答がパワーメーター選びの参考になれば幸いだ。
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