PINARELLOは、フィリッポ・ガンナがUCIアワーレコードに挑戦するために使用するトラックバイク「Bolide F HR 3D」を発表した。Bolide F HR 3Dは、世界初の3Dプリント構造を採用している。
3Dプリント構造を採用することにより、既存のカーボンファイバー構造技術では再現が難しい断面変動や新構造を採用している。
Pinarello Bolide F HR 3Dは、英国に拠点を置く3Dプリントのスペシャリスト、メトロン・アドバンスト・イクイップメントとのパートナーシップで製造された。メトロンが最近発売したミトス・エリックス3Dプリントステムと同様に、Pinarello Bolide F HR 3DフレームセットとシートポストはScalmalloyで作られている。
Scalmalloyは、積層造形用アルミニウム合金粉末と呼ばれており、高強度・高延性を特徴としたアルミニウム合金だ。5000(Al-Mg)系合金にスカンジウム(Sc)とジルコニウム(Zr)が主に添加されている(Al-4.5%Mg-0.7%Sc 0.3%Zr)。
Sc を添加したアルミニウム合金は、従来の鋳造材や押出材において熱処理により高温安定かつ微細な析出相を形成して高強度化でき、熱処理型の 3D 積層造形用アルミニウム合金を実現できる。
フレームは5つのパーツに分割され、エポキシ樹脂で接着されている。3Dプリントされたチタン製のナロー・ブルホーンのハンドルバーと、ガンナのタイムトライアルバイク「Bolide F」と同じエアロエクステンションをで構成されている。
また、「フォークヘッド」も3Dプリントされたチタンで構成されている。ガンナのフレームセットは、ドイツの大手自転車試験機関であるEFBEで試験が行われた。EFBEはコンポーネントの機械的試験のためのラボだ。
EFBEは、ドイツのWaltropと台湾の台中に拠点を置き、1995年以来、自転車とコンポーネントの機械的試験のための主要な試験所として活動している。 Bolide F HR 3Dは、EFBEで疲労、衝撃、ねじりなどのさまざまな試験に準拠した独立した試験が行われた。
Bolide F HR 3Dで最も特徴的な構造は、間違いなくシートチューブとシートポストの断面変動構造だ。断面変動はザトウクジラのヒレからインスパイアされた。断面変動構造はプリンスンカーボンワークスやZIPP NSWのホイールに採用されており、空力性能が向上する効果がある。
断面変動が施されたシートチューブとシートポストは、バイク全体の空気抵抗の39%を占めている。ライダーの脚の動きによって発生する乱流によって、気流の制御が特に難しい部分だ。そのため、シートチューブとシートポストの全面にバンプ(断面変動)を追加することで、剥離抵抗と圧力抵抗を減らし、空気抵抗を減らす効果があるという。
この断面変動による抗力低減は、バンプの間の谷に流線渦を発生させ、後方に流れていく空気の流れをより密着させる(剥離抵抗が減少する)ねらいがある。
また、 Bolide F HR 3Dは新UCIレギュレーションに対応した。UCIが最近削除した3:1ルール(フレームチューブとフォークは幅の3倍までしか長くできない)の制約を超えてチューブプロファイルを長くしている。
Bolide F HR 3Dのチューブ比率は明らかになっていないが6:1あるいは8:1の翼型を採用しているという。ホイールハブやボトムブラケットも大幅に狭められ、2015年にブラッドリー・ウィギンズがアワーレコードで使用したBolide HRと比較して、さらなるエアロダイナミクスの向上が図られている。
フロントハブは100mm、リアハブは120mmからそれぞれ69mm、89mmと幅が狭くなっている。一方、ボトムブラケットの幅は70mmからわずか54mmに狭められた。
Bolide F HR 3Dのワンオフで作成され、価格は未定。フィリッポ・ガンナがUCIアワーレコードに挑戦するために制作された特別な一台は、世界記録を塗り替えることができるのか注目が集まる。