「着けていることを忘れる―――。」
なにやら、色んな意味にとらえられてしまいそうなヘルメットがある。OGK KABUTOのFLEX-AIRだ。「軽量」というわかりやすい開発コンセプトを具現化したこのヘルメットは、Sサイズで185gという驚異的な軽さを実現している。
安全性を確保しつつも、軽さを追求するために極限まで肉抜き加工を施してその身を絞りこんでいる。軽量化の飽くなき追求は、一部の外装を排除して、発泡体が丸見えになる部分を意図的に作り出すなど、表面積にまでこだわって軽量化を追求している。
肉抜き加工は、最先端のCFD解析を活用して空気の流れを考慮したホール設計だ。ライディングポジションとホールの角度を最適化している。空気の流れに沿ったより自然なエアルート設計により空冷性能向上を実現した。
「軽量」と「冷却」のそれぞれを最大限に高めたのがFLEX-AIRだ。
今回の記事は、OGK KABUTOの軽量ヘルメットFLEX-AIRをインプレッションする。ヒルクライムやロードレースに有利な軽さと、暑い時期に活躍する冷却性能を合わせ持った至高のヘルメットを紹介する。
軽く、軽く、とにかく軽く。
FLEX-AIRの開発コンセプトは「軽量」だ。
軽さは古くからライダーを魅了してきた。それは、バイクや機材問わず身につけるウェアにまで及んでいる。FLEX-AIRはOGKが持つ様々なヘルメット開発技術が用いられ、とことん軽量化が行われた。その技術を見ていく前に、先に結果としてFLEX-AIRの実測重量を見ていこう。
- XS/S(185g):実測181g
- S/M(195g):実測192g
- L/XL(215g):実測210g
なんと、OGKが公開している参考重量よりも軽かった。特にL/XLは5gも軽い。重量詐欺がまかり通る自転車機材界において非常に優秀な重量だ。もしかしたら、「公表重量よりも重い!謝罪しろ!」なんてクレームを付ける輩への対策なのかもしれない。
ワイみたいなヤツやな
この軽さはどのようにして生み出されたのか。JCF公認ヘルメットということと、OGKという信頼のブランドということもあって、ヘルメット本来の目的である衝撃から頭部を守る保護性能は間違いない。それゆえ、トレードオフとなる軽量化はどのようにして行われたのか。
FLEX-AIRの軽量化のアプローチは大きくわけて2つある。
- 球体をベースに極限まで部材を排除
- シェル面積を削減
軽量化の究極の形は「無」だ。この何もない状態に近づけるためにFLEX-AIRは、まず球体から可能な限り部材を排除していった。強度を確保しつつも無駄な贅肉を削ぎ落としていくようなアプローチだ。結果的に強烈な肉抜き加工が行われた。
そして、肉抜き加工だけではなくシェル自体の面積を減らしている。ヘルメットの表面の外装部分を減らした。一部分の発泡体が丸見えになっている。1g、いや0.1gを削るために可能な限り外装をも減らす作り込みを行っている。ここまでくると、軽量化の執念は狂気にすら感じられる。
さて、この肉抜き加工はただ単に軽量化のためだけではない。空気の流れを最適化するように計算されたエアホール(空気の抜け穴)の役目もあるのだ。
空気の流れを最適化
軽量化のためだけに、やみくもに軽量化をおこなったわけではない。
OGKは最先端のCFD解析(数値流体力学のこと流体解析ともいう)を行い、ライディングポジションにおけるヘルメットの角度を計算し、空気の流れが最大化するように最適化したエアフローデザインを採用している。
具体的には、ライディング中のポジションにおけるヘルメットの位置や角度を元にエアホールの形状を最適化した。ヘルメットに空気が入る、通る、抜けるといった一連の流れがスムーズに、より自然になるようなエアルート設計になっている。
この空気の流れの最適化は、ヘルメット内部の空冷性能の向上にも一役買っている。
あえてヘルメットを”浮かす”
FLEX-AIRがユニークなのは、頭頂部でヘルメットを浮かせていることにある。
頭頂部に設置された3点固定の「エアフローパッド」は、頭部からヘルメットを浮かせることで隙間を生み出し、風の通り道を作り出している。たとえば、ヘルメットと頭部が密着した状態だと、いくらエアホールが最適化されていても空気が詰まってしまうため、空気が後方に抜けなくなる。
エアフローパッドの構造もよく考えられている。前方方向が細く、後方で2つに分岐する「Y字形状」で頭部への接触面積を減らし、さらに通気性の向上に貢献している。また、エアホールをあえて避けるように計算された配置になっている。
実際に使用してみると、ヘルメットはたしかに浮いているが、頭頂部が圧迫される感じはまったくない。むしろ、適度な縦方向のクッション性があるため頭上でヘルメットがホバリングしているかのようだ。
空気の抜けを助けるばかりか、フィット感も向上する一石二鳥の機能だ。
BOAとヘッドレストで頭にフィット
最近のOGKのヘルメットといえば、フィット感を高める後頭部のアジャスター周りの作り込みが非常に優れている。AERO-R2でも採用されたBOAと新機構のヘッドレストは左右(X軸)、上下(Y軸)、奥行き(Z軸)と3方向に変幻自在に動き頭にフィットしてくれる。
左右方向の調整は、新機構のヘッドレスト(PAT.)が採用された。両サイドに2段階の調整が可能なヘッドレストで幅を2段階で調整可能だ。締め付けの度合いだけではなく、様々な後頭部の形状に合わせた調整が可能になっている。
上下方向は、アジャスターアームで調整を行う。頭頂部から後頭部にかけて上下に4段階の調整が可能で細かくフィッティングを行うことができる。
奥行きは、BOAフィットシステムを使用した「KBF-2」アジャスターで行う。ミリ単位のきめ細かな調整と均一な締め付けを行うことができる。指掛かりのよい大径ダイヤルを採用しており、片手で瞬時に調整が可能だ。
これら、3つの調整機能でどんな頭の形でも確実にフィットするように設計されている。
ウェットパッドで汗から目を守る
ウルトラスウェットパッドは、ひたいから流れてくる汗をせき止めるパッドだ。ヘッドバンドのHALOのようにラバーが施されており、額の左右に汗を誘導する。
スェットパッドはフローティング構造になっている。ヘルメットに密着せず浮いた状態になっているため、額部分に負荷がかからない。若干の遊びと余裕をもたせた構造になっているため、着けているときの圧迫感も少ない。
インナーパッドは3種類
インナーパッドは3種類だ。
- エアフローパッド
- A.I.ネット
- ウィンターインナーパッド
これらのパッドは、用途や気象条件に合わせて選べる実用性の高いインナーパッドだ。主に通気性、虫の侵入抑制、寒さ対策など、季節や用途に合わせ取り替えることを想定している。
エアフローパッドは、空気の排出が最も優れている。FLEX-AIRの快適性や空冷性を最大限に発揮できるインナーパッドだ。
A.I.ネットは、メッシュ構造を採用して虫の混入など防ぎながらも、空気の排出ができる汎用的なパッドだ。
ウィンターインナーパッドはエアホールを塞ぎ、空気の入りを抑制する。そのため冬の寒い時期でもFLEX-AIRを使用することができる。
インプレッション
1グラム。
されど、1グラム。
FLEX-AIRを使って真っ先に感じたことは、頭にかぶるヘルメットの重量は思っていたよりも、その重さを実感できるということだ。FLEX-AIRの実測210gとAERO-R2の実測270gを頭に乗せて比べてみるとかなり違う。
結構違う。いや、めちゃくちゃ違う。
わずか60gといえど、AERO-R2は重たいモノが乗っかっている感じがするし、FLEX-AIRはヘルメットをかぶっている感じがほとんどない。この60gという重量は自転車機材の重量よりもはるかに体感できるのだ。
ライダーとバイクを総合的に見ると、ヘルメットは最も高い場所に位置している。ダンシングをしたとき、スプリントポジションで低姿勢になったとき、ヒルクライムでわずかに左右に揺れ続けているとき、ヘルメットの重さは意外なほどライダーに主張してくる。
軽量なヘルメットのメリットは首や肩の疲れにくさにも現れた。長時間のライド後に首や頭が疲れるようなことが多々あったがライドの疲れだと思っていた。しかし、FLEX-AIRを使用した場合は、首周りや頭の疲れが減ったように感じた。
もちろん、プラシーボなのかもしれないが数十グラムの重さが何時間もずっと乗っかっていると多少は違いが出てくるのだろう。ヘルメットの重量なんて、とFLEX-AIRを使用するまでは本当に思っていた。しかし、ヘルメットこそ「軽さが正義」だと思わされた。
一方で空力性能についてはAERO-R2よりも確実に劣る。スピード域が上がるようなシチュエーションで1ワットでも無駄にしたくない、少しでも早く走りたいという場合はAERO-R2がいいだろう。
しかし、AERO-R2とFLEX-AIRで体感できるほど違うのかと問われたら、私は明確な答えを持ち合わせてない。
FLEX-AIRの快適性についても触れておく。ポイントは3つだ。
- 涼しい
- 空気がよく抜ける
- 軽い
FLEX-AIRはとにかく涼しい。走っている際に空気が勢いよく入って頭を冷やしてくれる。怒りやすいオッサンや、レース中に熱くなりがちなライダーにも頭を冷やす意味で最適かもしれない。それでいて空気がよく入り、よく抜けていくためヘルメットの中に熱がこもらない。
この空冷機能のよさは間違いなくエアホールとエアフローパッドの組み合わせによるものだろう。
頭頂部とヘルメットの間にスキマを意図的に作り出すことで、風の通り道を作り出す。空気が入りこんだあと、このスキマを通り、ありとあらゆる方向に空気が抜けていく。散髪屋さんで頭を洗ってもらったときのような、スッキリとした風通しの良い気分を味わえる。
暑い時期は間違いなくFLEX-AIRを使ったほうがいい。
フィット感も素晴らしい。「OGK頭」とよばれるほど、OGKのヘルメットは日本人のたまご形、丸型の頭形状にぴったりだ。FLEX-AIRもその例に漏れず、OGKが合う方は全く違和感なく着用できると思う。
さらに、X,Y,Z方向に変幻自在にフィット感を調整できるアジャスターアームが素晴らしい。調整方法もユニークで、部品の変形を利用している。最小限の部品から構成されているにも関わらず高いフィット感が得られる。
BOAダイヤルもミリ単位で調整が可能であり、緩める、締めるが快適に行える。フィット感で不自由を感じることはほとんど無いだろう。
AERO-R2から密かに「これは神」と思っている機能がスウェットパッドだ。私はこれまでHALOバンドという額に流れる汗を左右に排出するバンドを付けていた。しかし、OGKのヘルメットにスウェットパッドが採用されてから必要なくなった。
スウェットパッドを使いたいがためにAERO-R2やFLEX-AIRを使っているといっても過言ではない。これがないと、夏や高強度のトレーニング、シクロクロス、マウンテンバイクは走れない。ヘルメットにこの機能を盛り込んだOGKに拍手である。
総じて、FLEX-AIRはこれからの暑い季節や、1グラムでも軽量化したいライダーにとって重宝するヘルメットだ。特に、ヒルクライムではかなりのアドバンテージになる可能性がある。速度域がそこまで上がらないにもかかわらず、高強度がずっと続く競技の特性を考えると軽量性と空冷性の良さは大きなメリットだ。
まとめ:軽量と空冷が優れた快適なヘルメット
バイクの軽量化よりも、身につけるヘルメットのわずか数十グラムの軽量化のほうが体感できることを知ったのは収穫だった。
バイクという存在は、走るときは身体と分離している。したがって重量増がそのまま身体にのしかかるわけではない。しかし、ヘルメットはそのままその重量が身体に重しとなってのしかかり続けている。ライディング中ずっとだ。バイク重量と、身につける装備の重量はまったく別物として扱う必要がある。
という気付きが得られるほど、FLEX-AIRの軽さは際立っていた。空力性能と軽さを天秤にかけた場合はAERO-R2かFLEX-AIRを使うか悩むところだ。しかし、ヒルクライムのような低速域ながら高強度の負荷がかかるようなシチュエーションであればFLEX-AIRを選択するのが合理的だ。
さらに重量も軽くできる。そうなってくるとFLEX-AIRを選ばない理由が見当たらない。また、これからの季節気温が上がってくるとエアロ系ヘルメットはエアホールが少ないため、ヘルメット内の湿度や温度が上昇する。
こうなってくると、頭部の温度が上がってしまい走るどころじゃなくなってしまう。FLEX-AIRのような空冷に優れたヘルメットであれば、このような心配も減らすことができる。
総じて、FLEX-AIRは軽量性、快適性、空冷性に優れたヘルメットだ。最近ずっとエアロ系ヘルメットを使用してきたのだが、エアロ性能が体感できるほど違いがなかったこと、そして何よりも身につけていて快適すぎることなどから、FLEX-AIRがメインのヘルメットになっている。
FLEX-AIRはロードレースでも問題ない空力性能と、ヒルクライムにおいては特に軽さと快適性がアドバンテージになるヘルメットだ。いまあなたのヘルメットの重量を測ってみてほしい。
- XS/S:181g
- S/M:192g
- L/XL:210g
このFLEX-AIRの実測重量よりも軽ければ問題はないが、重ければFLEX-AIRを使う価値、軽量化の余地が十分にある。少しでも軽さと快適性を追求したいライダーにFLEX-AIRは非常におすすめできるヘルメットだ。