自転車競技における機材の進化は、常に「空気抵抗」、「重量」、「転がり抵抗」、そして「剛性」という相反する物理的パラメータのトレードオフの中に存在してきた。
過去数十年間、ホイール設計者は一つの要素を改善するために他の要素を犠牲にするというゼロサムゲームを強いられてきた。
しかし、Rovalが発表した「Rapide Sprint CLX」は、この古典的な妥協を拒絶し、複合材料工学と流体力学の最前線を融合させることで、新たな性能基準を打ち立てようとしている。
今回のレビューは、単なる製品レビューの枠を超え、Rapide Sprint CLXが提示する技術的テーゼ、その工学的妥当性と実走性能における価値を詳細に分析していく。
特に、Arris Composites社との協業による熱可塑性カーボンファイバースポークの導入、前後異径リムプロファイルの空力論理、そして「FlatStop」ビードフックによる安全性への回帰といった主要な技術トピックについて探っていく。
エアロダイナミクス・アーキテクチャ:非対称性の論理
前後異径プロファイルの空力学的必然性
Rapide Sprint CLXの最も視覚的かつ機能的な特徴は、フロントホイールのリムハイトを63mm、リアホイールを58mmとする「逆転」した構成にある。
伝統的なホイールセットの設計思想では、操舵風圧の影響を受けやすいフロントを低く、気流の整流効果とフライホイール効果(慣性)を期待するリアを高く設定するのが定石であった。
しかし、Rovalのエンジニアリングチームは、自社風洞施設「Win Tunnel」における膨大なCFD(数値流体力学)解析と実走データに基づき、この常識を覆した。
フロントホイール:支配的なリーディングエッジ
自転車とライダーにおいて、フロントホイールは清流に最初に接触する「リーディングエッジ(前縁)」として機能する。
空気抵抗の発生源として、フロントホイールは極めて支配的であり、Specializedの研究によれば、ホイールセット全体の空気抵抗低減効果の約90%はフロントホイールに依存しているとされる。
Rapide Sprint CLXがフロントリムを63mmまで深化させた理由は、この「90%」の領域において最大の空力ゲインを獲得するためである。深いリムは、タイヤから剥離しようとする気流を長時間リム表面に付着させ(コアンダ効果)、後方への乱流の広がりを抑制することで圧力抗力を低減する。
コアンダ効果とは、空気や水などの流体(噴流)が、曲がった物体の表面に沿って流れ続けようとする性質、流体が壁面に引き寄せられる現象のこと。これは、流体の粘性によって周囲の流体を引き込み、その部分の圧力が低下することで発生する。
35mm外部幅がもたらす横風安定性のメカニズム
60mmクラスのディープリムをフロントに採用する場合、最大の懸念事項は横風(Yaw Angle)に対する操舵安定性である。
横風を受けた際、リムの側面は翼として機能し揚力を発生させるが、同時にステアリング軸周りに回転モーメント(操舵トルク)を生じさせる。これが突発的なハンドルの取られにつながり、ライダーの出力を低下させる要因となる。
Rapide Sprint CLXは、フロントリムの外部幅を35mmという極太設計にすることで、この問題を解決している。幅広のリム形状は、横風を受けた際の圧力中心の変化を穏やかにし、失速現象を遅らせる効果がある。
これにより、横風環境下でもステアリングトルクの急激な変動が抑制され、ライダーはエアロポジションを維持したまま踏み続けることが可能となる。これは、純粋な抗力(CdA)の低減以上に、実戦における「速さ」に直結する要素である。
リアホイール:ウェイク領域における役割の再定義
一方、リアホイールはライダーの脚、フレームのダウンチューブやシートチューブによって撹拌された乱流の中に位置している。この「汚れた空気(Dirty Air)」の中では、リムハイトを極端に高くしても整流効果の向上幅は限定的である。
Rapide Sprint CLXがリアリムを58mmに留めた理由は、空力効果の飽和点を見極め、回転慣性重量の低減を優先したためである。
スプリントやアタックの局面において、ライダーがペダルに入力したトルクを瞬時に加速へ変換するためには、ホイール外周部の質量を最小限に抑える必要がある。58mmという高さは、必要十分な剛性と整流効果を維持しつつ、鋭いレスポンスを実現するための最適解として導き出されたものである。
| 比較項目 | フロントホイール | リアホイール | 工学的意図 |
| リムハイト | 63mm | 58mm | フロントでの空力最大化とリアでの慣性低減のバランス |
| 外部リム幅 | 35mm | 34.4mm | 横風安定性の確保とタイヤとの空力的一体化 |
| 内部リム幅 | 21mm | 21mm | 26-28mmタイヤの断面形状最適化と転がり抵抗低減 |
マテリアル・レボリューション:Arris Compositesと熱可塑性スポーク
最大の技術的飛躍は、Arris Composites社との共同開発による「MTO(Made To Outperform)」カーボンファイバースポークの採用である。これは、従来の金属スポークや熱硬化性カーボンスポークとは一線を画す、次世代のマテリアルサイエンスの結晶である。
熱可塑性 vs 熱硬化性:複合材料のパラダイムシフト
従来の多くのカーボン製品は、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂(Thermoset)をマトリックスとして使用している。これらは一度硬化すると形状が固定され、脆性破壊の挙動を示す傾向がある。対して、Arrisが提供するスポークは、高性能熱可塑性樹脂(Thermoplastic)を使用している。
振動減衰特性
熱可塑性マトリックスは、分子構造レベルで粘弾性的な挙動を示すため、振動エネルギーを熱エネルギーに変換して散逸させる能力(減衰能)に優れている。
これは、高剛性なカーボンディープリムホイールや、カーボンスポークが抱える「乗り心地の硬さ」や「路面追従性の悪さ(跳ね)」という課題を劇的に改善する。
スチールスポークと比較して、高周波振動の伝達を抑制し、ライダーの疲労を軽減すると同時に、タイヤの接地感を向上させる「トラクション・コントロール」のような役割を果たす。
破壊靭性と安全性
熱可塑性複合材料は、衝撃を受けた際のエネルギー吸収能力が高く、クラックの進展を食い止める性質がある。これは、集団落車や路面の異物との衝突リスクが避けられないレース機材として、極めて重要な安全マージンを提供する。
Arrisのスポークは、スチールスポーク(DT Swiss Aerolite等)と比較して20%高い引張強度を持ちながら、重量は約半分の1.9g程度に抑えられており、システム全体で約100g近い軽量化と強度の向上を両立させている。
Arris MK4ニップルとメンテナンス性
多くのフルカーボンホイールがスポークとリムを一体成型し、修理不可能な構造を採用する中、Rapide Sprint CLXはメンテナンス性を放棄していない。
専用設計の「Arris MK4」アロイニップル(6mm)と、スポーク端部に設けられたチタン製エンドピースにより、従来のホイールと同様の振れ取りやスポーク交換が可能である。
これは、プロメカニックの作業性を確保するだけでなく、高価なホイールセットを長く使用したい一般ユーザーにとっても大きなメリットとなる。
Arrisの技術は、スポークを単なる「線」ではなく、複雑なエアロフォイル形状(翼断面)を持つ「構造体」として成形することを可能にし、回転時の空気抵抗を極限まで低減している。
トライボロジーと駆動効率:DT Swiss 180 EXPハブ
ホイールの回転中心であるハブには、DT Swissのフラッグシップモデル「180 EXP」の内部機構が採用されている。ここでは、Roval独自の「Low Flange Aero Hub」シェルと、DT Swissの精密機械工学が融合している。
Ratchet EXPシステムの機械的優位性
フリーボディ機構には、特許技術である「Ratchet EXP」が搭載されている。
従来のスターラチェットシステムでは、2つのスプリングが2つのラチェットリングを押し合う構造であったが、EXPシステムでは内側のラチェットがハブシェルにねじ込まれて固定され、可動パーツは外側のラチェットと1つのスプリングのみとなっている。
部品点数の削減により、ベアリング間の距離(ベアリングスパン)を広げることが可能となった。
これにより、ハブ軸(アクスル)のたわみが抑制され、スプリント時の強大なチェーンテンションがかかった状態でも、ベアリングが正常な回転軸を維持しやすくなる。結果として、パワー伝達効率と耐久性が向上している。
標準で36T(歯)のラチェットが採用されており、10度のエンゲージメント角を提供する。これは、ペダリングの掛かりの良さと、高速巡航時の空走抵抗(ドラッグ)低減のバランスを考慮した設定である。
SINCセラミックベアリング:極限の転がり抵抗
回転体には、DT Swiss純正の「SINCセラミックベアリング」がインストールされている。
使用されるセラミックボール(Si3N4)は、鋼球よりも硬度が高く、熱膨張率が低く、真球度が極めて高い。セラミックベアリングの性能を左右するのは、ボールを受け止めるレース(軌道輪)の材質と精度である。
SINCベアリングは、セラミックボールの硬さに負けないよう特別に硬化処理されたスチールレースを使用しており、システムとして最適化されている。これにより、極めて低い転がり抵抗と、長期間にわたるスムーズな回転性能を実現している。
構造的完全性:レーシングパターンとハンドビルド
ホイールの剛性と耐久性を決定づけるのは、単なる構成部材だけでなく、それらをどのように組み合わせるかという「組み方(Lacing)」にある。
Rapide Sprint CLXは、ディスクブレーキと多段スプロケットによる左右非対称なオチョコ量(Dish)に対応するため、高度に計算されたパターンを採用している。
2:1 レーシングパターンの力学
Rovalは長年、スポーク配置において「2:1」比率を採用している。これは、負荷が高い側(リアのドライブ側、フロントのディスクブレーキ側)のスポーク本数を、反対側の2倍に設定する手法である。
- フロント(18本): ディスク側12本 / 反ディスク側6本
- リア(24本): ドライブ側16本 / 反ドライブ側8本
この配置により、左右のスポークテンションの不均衡を是正し、金属疲労の原因となるスポークの緩みや破断を防いでいる。
ハイブリッド・クロス・パターン:1x / 3x の解析
特筆すべきは、リアホイールのレーシングパターンである。「One-Cross / Three-Cross (2:1)」という極めて特殊な組み方が採用されている。
通常、駆動トルクを伝達するドライブ側(DS)は、ハブフランジに対してスポークが接線方向(タンジェンシャル)に近づくよう、交差数を多くする(3クロス等)。
一方、ノンドライブ側(NDS)はラジアルや1クロスが一般的である。
Rapide Sprint CLXにおいて、この1クロスと3クロスの組み合わせ(具体的な左右の割り当てはDSとNDSのフランジ径や設計思想によるが、一般的にはトルク伝達効率と横剛性のバランスを取るための措置)は、Arrisカーボンスポークの高い引張剛性を前提とした独自のチューニングであると推測される。
この複雑な組み方は、スプリント時の「ウィンドアップ(ねじれ)」を最小限に抑え、ペダル入力に対する即応性を最大化するための構造的ソリューションである。
ハンドビルドの重要性
Rapide Sprint CLXは、熟練した職人による「手組み」で製造されている。大手ブランドで手組は珍しい。
機械組みでは、スポークのねじれや、初期馴染みの工程を完璧に行うことは困難である。特に、断面形状を持つエアロスポークにおいては、微細なねじれが空力性能を損なう原因となる。
手組みによる厳密なテンション管理と振れ取りは、ホイールの真円度と耐久性を保証し、極限領域での信頼性を担保する。
安全性とタイヤインターフェース:FlatStopビードフック
近年、軽量化と製造コスト削減の観点から「フックレス(Hookless)」リムが流行しているが、RovalはRapide Sprint CLXにおいて「ビードフックあり(Hooked)」を選択し、さらにその機能を強化した「FlatStop」テクノロジーを導入した。
FlatStopによるリム打ち耐性の向上
「FlatStop」とは、リムのサイドウォール上端(ビードフック部分)の幅を広げ、頂点を平坦化した形状を指す。
鋭利な突起物やポットホールに高速で進入した際、タイヤがリムと路面に挟まれて発生するパンク(ピンチフラット/スネークバイト)は、リムの鋭いエッジがタイヤを切断することで起こる。
FlatStopの広い接触面は、衝撃荷重を分散させ(応力=荷重/面積)、タイヤへの攻撃性を大幅に低減する。実験データによれば、ピンチフラットに至るまでの必要荷重が39%増加しており、荒れた路面や石畳(パヴェ)を含むコースでの生存率を飛躍的に高めている。
フックドリムの戦略的選択
フックレスリムには、ETRTO規格による最大空気圧制限(通常5bar/72.5psi以下)や、タイヤ適合性の厳格な制約が存在する。Rovalがあえてフックドリムを採用した理由は、プロ選手やシリアスライダーに対する「選択の自由」と「絶対的な安全性」を保証するためである。
フックドリムは、チューブレスタイヤだけでなく、TPUチューブやラテックスチューブを使用したクリンチャーシステムとも完全な互換性を持ち、高圧設定(最大110psi等)も許容する。
これは、路面状況やライダーの体重、好みに応じて最適なタイヤシステムを選択できることを意味し、機材の汎用性を最大化する。
インプレッション:数値を超えた官能的領域
ここまでの技術的分析を踏まえ、Rapide Sprint CLXが実際のライドにおいてどのようなフィーリングを提供するかを評価していく。
加速の鋭さと「軽さ」の質
1,395gというシステム重量は、60mmハイトクラスのディスクブレーキホイールとしては異次元の軽さである。
しかし、重要なのは静止重量ではなく、質量分布である。リアリムを58mmに抑え、軽量なArrisスポークを採用することで、ホイール外周部(リム周辺)の慣性モーメントが大幅に削減されている。
これにより、コーナー立ち上がりやアタックの瞬間、ペダルを踏み込んだ瞬間にホイールが「跳ねる」ように加速する感覚が得られる。重いディープリム特有の「よっこらしょ」という初動の重さは皆無であり、まるでロープロファイルホイールのような軽快さと、ディープリムの伸びが同居している。
巡航と横風のバランシング
時速40km/hを超えた領域から、フロント63mmリムの空力効果が顕著になる。また、35mmの極太フロントリムは、横風を受けた際に「押される」感覚はあるものの、ハンドルが急激に取られる「切れ込み」現象が驚くほど抑制されている。
これにより、ライダーは強風下でも恐怖心を感じることなく、リラックスしてバイクをコントロールできる。エネルギーをバイクの制御ではなく、推進力に全振りできる点は、長距離レースの後半で大きなアドバンテージとなる。
ライドクオリティ:剛性と快適性の融合
Arrisの熱可塑性スポークとSINCセラミックベアリングの組み合わせは、独特の走行感を生み出す。
剛性は極めて高く、スプリントでもたわみを感じさせないが、路面からの不快な微振動(高周波系のノイズ)は綺麗にフィルタリングされる。これは、インプレッションで使い古された言葉「魔法の絨毯」と形容されるような浮遊感に近い。
路面の凹凸を「いなす」能力が高いため、タイヤの接地圧が安定し、コーナリング中のグリップ限界が分かりやすい。硬いだけのホイールは限界を超えると唐突にグリップを失うが、Rapide Sprint CLXは限界付近の挙動がおだやかであり、強烈でないためライダーに補正の余地を与える。
SPRINTか、RAPIDE IIIか。
登り、平たんとオールラウンドに使うならRAPIDE III、多少の振りの重さと軽快さに目をつぶり(それでも軽い)ゴール前でのアドバンテージを高めたい(RAPIDE IIIより有利に)のならSPRINTが適任になる。
レースシーンでは、「ゴール前まで残れる自信があるのなら」SPRINTのほうが勝負への賞賛を高められる機材としてのアドバンテージは高いだろう。
RAPIDE IIIは、あらゆる地形を速く走れる。なんとかゴール前まで優位にレースを運びたいのならRAPIDE IIIだ。登りも、平坦も、なんでもこなせる。もはやヒルクライムでも軽量ホイールを持ってくる必要はない。1300gの重量をみればわかる。
使い分けは、ライダーの趣向やレース戦略による。ハイスピードでの勝負に持ち込まれる(持ち込む)可能性が高いのならば、SPRINTを選ぶほうが合理的だ。
どちらを使っても「脚あたりの良さ」はARRISスポークが生み出してくれる。あとは、トップスピードに入った時に他のライダーよりも「もう1mm先へ」と願うのならSPRINT以外は考えられない。
| コンポーネント | 仕様詳細 | 主な利点・特徴 |
| フロントリム | 63mmハイト / 35mm外幅 / 21mm内幅 | 空力効率の最大化、横風安定性、Rule of 105準拠 |
| リアリム | 58mmハイト / 34.4mm外幅 / 21mm内幅 | 回転慣性の低減、加速性能、剛性確保 |
| スポーク | Arris製 熱可塑性カーボン (F18/R24) | 振動減衰、高靭性、軽量 (1.9g/本)、空力形状 |
| ニップル | Arris MK4 アロイ (6mm, 外部) | メンテナンス性確保、専用設計による空力統合 |
| ハブ | Roval Aero (DT Swiss 180 EXP内部) | 高剛性アクスル、軽量化、空力形状のフランジ |
| ベアリング | DT Swiss SINC Ceramic | セラミック球と最適化レースによる極低抵抗 |
| リム形状 | FlatStop Hooked Bead | 耐パンク性能(+39%)、高圧対応、タイヤ適合性 |
| 重量 | 1,395g (セット) | クラス最高レベルの軽量性 (テープ・バルブ込) |
| 適合タイヤ | 24mm – 38mm (26-28mm最適化) | 現代のワイドタイヤトレンドに対応 |
SPRINT(前) x RAPIDE III(後) という第三の選択
筆者は、RAPIDE CLX IIIが最も気に入っているものの、Sprintの空力性能はやはり気になっている。そこで、フロントにSPRINT、リアにRAPIDE IIIという組み合わせを試した。この構成にした理由は3つある。
- 空力性能はフロントが支配的である
- リアは重量増を抑えたい
- フロントSPRINT、リアRAPIDEはわずか40gの増加である
Specializedは、Rapide Sprint CLXを使用した場合、従来のRapide CLX IIと比較して、時速60km/h超のスプリントにおいて250m区間で18cmのアドバンテージが得られると主張している(自分ができるかどうかは別として)。
これは微差に見えるかもしれないが、トッププロのスプリントにおいて18cmはタイヤ半個分に相当し、勝敗を分ける決定的な距離である。この数値は、主に63mmフロントリムによる高速域でのドラッグ低減効果と、カーボンスポークによるパワー伝達効率の向上から算出されている。
実際に使用すると、「フロント:Roval Rapide Sprint CLX (63mm) / リア:Roval Rapide CLX III (48mm)」という非対称構成は、現代のロードレース環境において極めて合理的かつ高性能なソリューションの可能性がある。
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空力の最大化: 「フロント90%ルール」に基づき、63mmディープリムをフロントに配置することで、TTバイク並みの空力効率を獲得している。35mm幅による横風対策も理論的・実証的に裏付けられている。
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加速の最適化: リアを48mmに抑えることで回転慣性を低減し、クリテリウムやアタック合戦における「キレ」のある加速を実現している(たぶん)。
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ライドフィールの向上: Arris熱可塑性カーボンスポークの採用により、63mmながら高い剛性と振動減衰性を両立し、長時間のレースでも脚を残せる快適性を提供している。今までの60mmハイトリムではありえない。
この構成に適したユーザー像は以下の通り。
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やや平坦基調のロードレースやクリテリウムに参加し、独走力とスプリント力の両方を求めるライダー。
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最新のエアロダイナミクス理論に基づき、機材によるマージナルゲイン(18cmの差)を追求するシリアスレーサー。
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横風に対する一定のスキルを持ち、35mmワイドリムに対応した最新フレームを所有しているユーザー。
この「マレット」構成は、単なるパーツの組み合わせではなく、物理法則に基づいた意図的なチューニングであり、次世代のスタンダードとなりうるポテンシャルを秘めている。
その一方で、フロント63mm / リア48mmの組み合わせは、独特のハンドリング特性を生む。なお、この構成をテストしたのは冬の風が強い時期であったため、よりハンドリングが機敏に感じられた可能性がある。
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直進安定性: 高速域ではフロントホイールのジャイロ効果が強く働き、直進安定性が増す。35mm幅のタイヤ接地形状も相まって、下り坂での安心感は高い。
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回頭性: コーナーへの進入時、フロントの重さを感じる場合があるが、リアが軽いため、車体の倒し込みや切り返しは軽快である。フロントが「レールに乗ったような」安定感を提供し、リアがそれに追従して素早く反応するという、レースに適した挙動を示す 。


肝心の「速いかどうか」については、理論上は空力性能が向上する可能性が高い。スペシャライズドが行った実験データーでも証明されているが、残念ながら明確な違いは感じられなかった。
しかし、機材として確かに「速い機材が足元に存在している」という心理的なアドバンテージはあると思う。
まとめ:Roval Rapide Sprint CLXの市場的・技術的位置づけ
Rapide Sprint CLXは、エアロダイナミクス、構造力学、材料工学の各分野における最新の知見を、妥協なく統合したシステムである。
熱可塑性カーボンという次世代マテリアルの可能性を実証し、フックドリムによる汎用性を維持した、エンジニアリングの理に適った傑作と言える。
そして、所有欲を満たす圧倒的な造形美と性能、高価ではあるがメンテナンス性を考慮した設計による長期的なパートナーになってくれるだろう。
SPRINTは、単に「速い」だけでなく、「速さを維持しやすく」「疲れにくく」「安全である」という、現代のロードレースが求める全ての要素を高次元でバランスさせている。
特に、フロント偏重の空力設計とリアの軽量化、そして熱可塑性スポークによる振動制御の組み合わせは、今後のホイール設計の新たなベンチマークとなるであろう。
Rapide Sprint CLXは、自転車ホイールの歴史において、「剛性・空力・重量・快適性」の四要素が初めて高いレベルで融合した特異点として記憶されるべきプロダクトである。

































