これまで様々なインナーウェアを試してきた。インナーウェア専業メーカーから、アウトドアメーカーまで数十種類以上使ってきたが、インナーウェアは外気温や活動量に応じて向き不向きがある。
今回紹介するアソスのSPRING FALL LS SKIN LAYERは、秋から初冬向けに開発されたサイクリング専用のインナーウェアだ。あえて「サイクリング用」と書いたのは理由がある。アウトドアメーカーのインナーウェアは、登山やハイキングなどを想定しているため、サイクリングの活動量や特殊な環境を考慮していない場合がある。
サイクリングは複雑な環境で運動が行われる。例えば、長い峠を上り急激な活動量の増加で発汗したあと、すぐさま峠を一気に下り風を強く受ける。汗で濡れたウェアやインナーは気化熱で体温を奪い汗冷えにおちいる場合がある。
下る時間が長くなればなるほど、涼しさや気持ち良さを通り越して寒く感じてしまう。ロードバイクに乗っていると、このような状況はあたりまえだ。しかし、他のスポーツでこれほどまでに体感温度が変わるのはあまり例がない。
サイクリング特有の汗冷えをいかに防ぐかが、自転車用インナーに求められる重要な役割になっている。アソスのインナーウェアは、この特有の条件をよく理解し作られている。実際に使用してみると、汗を処理するスピードが他社ウェアと比べて圧倒的に早かった。
アソスはベースレイヤーで使用する素材や、裁断方法と製法をイチから見直しSPRING FALL LS SKIN LAYERを開発した。ロードバイクに求められるあらゆる性能において、従来のモデルとは比較にならないほど性能を高めたアソスのベースレイヤーをインプレッションする。
カーボンファイバー混紡繊維
素材となる繊維には、アソスが独自に開発したカーボンファイバー混紡繊維を採用している。この繊維の特徴は「軽さ」「耐久性」「抗菌作用」の3つだ。汗を素早く乾かす速乾性と、雑菌の繁殖を防ぐ抗菌作用に優れており匂いの原因となるバクテリアの発生を抑える働きがある。
素材以外にも繊維を折り込む製法の見直しも行われた。カーボンファイバー繊維の織り込み方法を改良し、耐久性をそのままに、前作よりも13%の軽量化を果たしている。インナーウェアを身につけていても、身につけている感じがしない。
サーキュラーシームレス製法と凹凸構造
チューブ状に編み込まれた「サーキュラーシームレス製法」は、体に対して均一なテンションで肌に馴染むようにフィットする。全体に施された細かいボーダーラインは、立体的な凹凸構造になっている。
肌と触れる最初の層に対して、この特殊繊維と空気層をあえて作り出すことで空気の断熱層を形成し保温性が向上した。肌と密着した部分には、汗の処理を促進しつつ、いかなる条件でもドライかつ快適な状況を作り出すことが可能になっている。
インプレッション:気温差が激しい時期に最適
普通にライドするだけインナーウェアは何だっていいと思う。
しかし、活動量が増えて汗をかいたあとに、一気に冷えるようなシチュエーションが多いなら話は別だ。例えば、峠を登っていると途中で暑くなってくる。登りはいいが、一気に下ると汗冷えで体温が奪われてしまう。
冬でも高強度のトレーニングを行うと、この下っている時間が寒くてつらい。SPRING FALL LS SKIN LAYERを身につけるとこの辛さがどこまで軽減されるか、峠や平地で強度を上げて実際に確かめた。
結論から先にお伝えすると、気温差が大きいほど効果がある。
SPRING FALL LS SKIN LAYER は他社のインナーウェアと比べても汗冷えしにくく感じる。秋は最もウェア選びが難しく、着込んだ真冬よりも汗冷えに遭遇する機会が多い。1時間でTSS 90に近いハードなトレーニングを積んだあとでも、発汗していることに気づかないほど快適だったことを付け加えておきたい。
そして、汗をかいた後のインナーの水っぽさ「びしゃびしゃ感」がほとんどない。汗を吸ったインナーでまとわりつくような、水っぽさが残る場合がある。あれがない。
秋は早朝が寒いわりに昼間に気温が上がるという気温差が大きい難しい条件にある。SPRING FALL LS SKIN LAYER は秋の気難しい気温変化であっても、暑すぎたり、肌寒く感じることなく、心地良い温かさをキープしてくれた。
主素材はポリプロピレンだが、カーボンファイバーを混紡することで高い断熱効果と汗の処理能力を発揮しているようだ。これまで、冬でも半袖インナーウェアを好んで使用していた。本製品は体幹部から腕の先まで覆われているため、上半身全体が心地良い温かさで包みこまれる感じが良い。
SPRING FALL LS SKIN LAYERは薄手だ。使える期間が短いのではないかと心配していたが、汗を大量にかく方、高強度トレーニング目的、太平洋側の温暖な地域の方には、冬も使えるベースレイヤーだと感じた。
というのも、アソスの本拠地であるスイスと比べたら、日本の寒さはそれほど厳しくない。アソスのウェアとしては日本の冬の寒さなど、スイスが冬に入る前の時期程度なのかもしれない。
SPRING FALL LS SKIN LAYERが他のアウトドアメーカーのインナーウェアと異なるのは細部の裁断や作り込みだ。アソスのベースレイヤーのどれもがハイネック仕様になっているが、内臓を冷やさない効果があるという。
サイクリング中は内蔵も使う。アソスは内臓のことも考えてハイネックのベースレイヤーに仕上げたという。また、身体のエンジンである心臓を守るために、首元を外気に晒さないことで血流を冷やない効果もある。
インナーウェアは画一的に男女同一のユニセックスモデルが多い。しかし、アソスの SPRING FALL LS SKIN LAYERは男女別々のサイズ展開とシルエットを採用している。実は、従来のアソスベースレイヤーもユニセックス展開だった。
改良されたSKIN LAYERシリーズは、男女別々のサイズ展開になっている。男女の骨格の違いを考慮して、メンズは肩の切り替えが直線的なボックスシルエットを採用している。一方でレディースは肩に丸みを帯びたラグランスリーブを採用した。
私がベースレイヤーに要求することは、人体の代謝機能を整えて、本来のパフォーマンスを引き出せる性能を備えているかだ。アソスは保温性と速乾性を併せ持つサイクリング専用ベースレイヤーを確実に生み出していた。
まとめ:最高の素材と最高のライドができるベースレイヤー
このウェアで困ったことがある。普段、機材のインプレをするときに「ここがダメだ」「ここが改良されれば」といろいろと”気づく”のだが、SPRING FALL LS SKIN LAYERを身に着けて走り出したあと、高強度の練習メニューを行ってそのまま何も考えずに家に帰ってきてしまった。
この「何も思わない」というのは、何気ないことのように思える。しかし、これは優れた性能の裏返しだ。秋口の早朝の寒さも気にならず、峠で汗をかき、下っているときも寒さが気にならない。気温が上がってきても暑くなりすぎず快適だった。だから何も思わない。何も不快な”刺激”を感じない。
特殊なサイクリングという活動量が変動する運動において、様々シチュエーションにインナーウェアが刻々と対応したのだ。インナーウェアなんてものは、機械的に変化するような代物ではない。だからこそ、繊維や細部のカッティングが織りなす芸術的な性能の賜物だと思う。
これまでアウトドアメーカーのインナーウェアを使用してきたが、サイクリングウェア専業メーカーのベースレイヤーは、ここまで考えられているのかと感動しながら走っていた。アソスは生産国にもこだわっておりイタリア製だ。少々お値段は高いが、そこはサイクリングウェア専業のハイエンドブランドのアソス。唸ってしまうインナーウェアだった。
ホンモノを知りたい方は、これからの時期にぜひ使ってみてほしい。