ついに50mmで1,100gの世界へ!Particle RCX Ultralight 50 ホイールインプレッション

4.0
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Particle RCX Ultralight 50は、50mmハイトで1,100gという驚異的な軽量性を実現したロードホイールセットである。重量、空力、剛性、快適性という相反する要素を高次元で調和させた「統合的システム設計の具現化」だ。 性能の核となるのは、第4世代カーボンスポークの採用、軽量性を持ちながら、高い引張剛性としなやかさを両立させた。これにより、鋭い加速性能と優れた快適性の融合を可能にしている。

Particleは、業界標準(UCI 40ジュール)の2倍以上にあたる90ジュール垂直衝撃テストを課すことで、軽量化と耐久性の両立を定量的に証明している。また、セラミックベアリングの摩擦低減効果が全体摩擦のわずか0.3%であると正直に公開し、技術的透明性をブランド戦略の基盤としている。 初速の鈍さがあるものの、回り始めれば慣性が働き、登りでも十分な性能を発揮するオールラウンドホイールである。本ホイールは、登坂性能と加速性能を最大化したいライダーにとって理想的な機材である

50mmで1,100gの時代が来た。

現代の高性能ロードバイクホイールセット市場は、単一の性能指標、特に重量の追求から、より複雑で多面的な性能評価へと移行している。空力特性、剛性、快適性(コンプライアンス)、そして重量という、しばしば相反する要素をいかに高次元で調和させるかが、技術的優位性を決定づける時代である。

この文脈において、Particle RCX Ultralight 50は、単なる1,100gのホイールセットとしてではなく、それぞれの構成要素が特定の性能目標に向けて最適化されている。「統合的システム設計の具現化」として位置づけられる。

今回はParticle RCX Ultralight 50をレビューする。構成するコンポーネント技術の分析から始め、その性能を支える基盤技術、特に第4世代カーボンスポークの革新性に深く踏み込んでいく。

さらに、Particleが採用する3種類の製品戦略と、その信頼性を担保する厳格な品質管理体制を解明していく。本レビューを通じて、RCX Ultralight 50が、単なる製品スペックの羅列を超え、Particleの工学的思想と市場戦略を体現するフラッグシップモデルであることを明らかにしていく。

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なぜ軽い?RCX Ultralight 50

Particle RCX Ultralight 50の卓越した性能は、個々のコンポーネントが持つ先進性と、それらがシステムとしていかに巧みに統合されているかに起因する。本章では、ホイールセットを構成する主要な4つの要素であるリム、ハブ、スポーク、ベアリングに焦点を当て、それぞれの技術的特長を詳細に分析していく。

Ultralight Rimsと空力プロファイル

Ultralightという極限の軽量化リム製造方法を核としている。image: PARTICLE

RCX Ultralight 50のリムは、その名の通り「Ultralight」という設計思想を核としている。この極限の軽量化についてParticle社は企業秘密としているが、「高度で複雑なカーボンレイアップ」と表現している。

具体的なこの製造プロセスは、カーボンファイバーの積層方向、厚み、使用するプリプレグの種類を部位ごとに最適化するものであり、単純なレイアップと比較して製造コストを大幅に増加させる要因となる。しかし、その結果として得られるのは、単なる軽さだけではない。

特筆すべきは、この軽量リムが、同社のより重く頑丈なLightバージョンやTeamバージョンと全く同じ、Particle社独自の90ジュール垂直衝撃テストに合格している点である。

PARTICLE社は独自にUCI規定の倍以上の衝撃テストを課している。 Image: PARTICLE

これは、業界標準であるUCI(国際自転車競技連合)の40ジュールテストの2倍以上のエネルギー量に耐えることを意味し、軽量化が構造的完全性の犠牲の上に行われていないことを定量的に証明している。

さらに、Ultralightリムは、Particleのラインナップの中で最も「コンプライアント(しなやか)」であると明記されている。これは、カーボンレイアップが強度重量比の最大化だけでなく、路面からの微振動を吸収し、乗り心地を向上させる方向にもチューニングされていることを示唆する。

この特性は、長距離や荒れた路面での疲労軽減に直接的に寄与し、ライダーのパフォーマンス維持に貢献する重要な要素である。このように、Ultralightリムは、軽量性、耐久性、快適性という三つの要素を高度に両立させた、洗練されたエンジニアリングの産物である。

極少、20本スポーク

前後ともに20本のスポークで構成されている。

Particle RCXのスポーク数はわずか20本だ。

一体、スポークはどこまで減っていくのだろうか。長年、ホイールの進化をつぶさに見てきたが、ディスクブレーキ用ホイールの黎明期は28本が標準だった。それが24本になったかと思えば、最近ではNepest Novaの21本、RAPIDE CLXの18本と、どんどん少なくなっていった。

ROVAL RAPIDE CLXのフロントが18本、リア24本という構造からフロントは18本が下限というという事はおおむね見当が着くが、それでもParticleの前後20本は非常に少ないスポーク本数である。組み方は前後左右共にクロス組だ。

多くのホイールメーカーがノンドライブ側をラジアル組にして、左右のスポークテンション差を是正する方針を取っている。しかしParticleの組み方は伝統的な左右タンジェント組であり、駆動方向やブレーキングに対して有効な構造になっている。

一方で、スポークテンションは左右差が生じやすいが、Particleは別の方法でこの問題を解消することを試みている。

AR1ハブとオフセットホール

スポークホイールには角度がついており、リム側と直線的に接続する。

AR1ハブのスポークホールは直線的ではなく、少し振ったような角度が着いた構造になっている。その角度の先には、点と点を線でつなぐようにリム側のスポークホールが位置している。そして、リム側のスポークホールも、中心からややズラして配置されており、角度が着いた穴で構成されている。

AR1ハブのスポークホール、リム側のスポークホール、それぞれが微妙な角度で調整されている理由は、スポークを直線的につなぐためだ。最短経路かつ、無用な曲がりを限りなく排除しているため、スポークを直線的に引っ張る事ができ、スポークテンションが上げやすくなる。

リア側もスポークホールが振られた形状を採用している。

AR1ハブはRCXのリム、さらにカーボンスポークの性能を最大限に引き出せる様な構造になっている。前述した、左右タンジェント組によるスポークテンションの左右差は、これらハブ、リム、スポークの三位一体が合わさることで、少なからず是正される。

各部品要素が最適化されるため、ホイールシステムとしての性能を向上させる主な理由になっている。

Precision Ratchet Hubs

製品名に冠された「Precision Ratchet Hubs」は、このホイールセットの心臓部における技術を示している。ラチェット式フリーハブシステムは、従来の爪(ポール)式システムと比較して、いくつかの構造的優位性を持つ。

ラチェットシステムでは、2つの歯車状のリングが噛み合うことで駆動力を伝達する。この方式の最大の利点は、トルク伝達の接触面積がポール式に比べて格段に広いことである。これにより、応力が分散され、特定の点に負荷が集中することを防ぐため、高い耐久性と信頼性を実現する。

特に、スプリント時や急な登坂で発生する爆発的なトルク入力に対して、ラチェットシステムは滑りや破損のリスクが低く、安定したパワー伝達を保証する。また、構造が比較的シンプルなため、メンテナンス性にも優れる傾向がある。

ParticleがRCX Ultralight 50にこのシステムを採用したことは、軽量性を追求しつつも、動力伝達の根幹をなすハブの信頼性と耐久性を一切妥協しないという、ブランドの設計思想を明確に反映している。

第4世代カーボンスポークの採用

Particleに採用されているカーボンスポークもしなやかだ。いわゆる、VONOA第四世代のカーボンスポーク系統である。

RCX Ultralight 50の性能特性を決定づける最も重要な要素は、間違いなく第4世代カーボンスポークの採用である。このスポークは、ホイールセット全体の重量を劇的に削減する上で中心的な役割を果たしている。

実際に、RCX Ultralightシリーズのホイールセット重量は1030gからという驚異的な数値を実現しており、これは第4世代カーボンスポークの貢献なくしては達成不可能である。

というわけで、曲げてみました。

このスポークは、単に軽いだけでなく、高い剛性と、後述する特有のコンプライアンスを併せ持つ。このユニークな特性の組み合わせが、Ultralightリムの持つ「しなやかさ」と相乗効果を生み出す。手で曲げると「グニャリ」と簡単にしなる。

剛性の高いリムがパワー伝達のロスを最小限に抑え、鋭い加速性能を実現する一方で、スポーク自体が持つコンプライアンスがリムと共に路面からの衝撃をいなし、トラクションと快適性を向上させる。VONOAの名前は刻印されていないが、現状このカーボンスポークを作れるのは少数だ。

このように、第4世代カーボンスポークは、RCX Ultralight 50の設計思想を実現するための「キーストーンテクノロジー」と位置づけられる。その詳細な技術的革新性については、第2章でさらに深く掘り下げる。

ベアリングシステムの選択肢:スチールとセラミック

Particleは、RCX Ultralight 50の購入者に対し、スチールベアリングとハイブリッドセラミックベアリングの選択肢を提供している。多くのブランドがセラミックベアリングを単純な「アップグレード」として高価格で提供する中、Particleのアプローチは極めて技術的かつ誠実である。

同社が公開する情報によれば、ベアリング全体の摩擦抵抗のうち、ボール自体の変形に起因するものは約3%に過ぎず、セラミックボール化による摩擦低減効果は、そのさらに10%程度、つまり全体のわずか0.3%であるとされている。

これは、ベアリングの摩擦の大部分(約60%)がシールに起因するという物理的事実に基づいた分析である。以前当ブログで紹介した内容とほぼ同一の結果であり、ベアリングに対する性能に関して真に正しい情報を提供している。

セラミックベアリング論争の終焉、鉄球との差0.03W 第三者機関の試験で
記事の要点。ベアリングの効率は設計と素材の質に基づいている。素材の種類(セラミックやスチールなど)で決定しない。ベアリングに生じる摩擦抵抗のうち60%がシール、28%がグリースと潤滑油、7%がレースやリテーナー、3%がボールの割合である。総摩擦損失は「シールと潤滑油ロス > ベアリングロス(ボールとレースの相互作用摩擦)」の関係にある。最高性能のセラミックと最高性能のスチールの摩擦損失を比較すると...

この分析は、ベアリングの選択が、微細な性能向上と、長期的な耐久性やメンテナンスサイクルとのトレードオフであることを示唆している。セラミックボールはスチールレースより硬いため、長期間の使用でレース側を摩耗させ、結果的に回転抵抗を増加させる可能性がある。

したがって、Particleが提供する選択肢は、単なる性能の上下関係ではなく、ライダーの優先順位(レース一発の性能か、長期的な安定性か)に応じた合理的な選択を促すものである。このアプローチ自体が、同社の技術志向の姿勢を物語っている。

image: PARTICLE

これらのコンポーネント分析から浮かび上がるのは、RCX Ultralight 50が、個々のパーツのスペックを単純に足し合わせたものではないという事実である。

コンプライアントなリムに、同じくコンプライアンスを持つ革新的なカーボンスポークを組み合わせるという選択は、偶然の産物ではない。これは、軽量性と応答性を極限まで高めつつ、過度な硬さによる乗り心地の悪化を避け、むしろ快適性を向上させるという、明確な設計意図の表れである。

このシステム全体での「チューニング」こそが、RCX Ultralight 50を他の軽量ホイールと一線を画す存在にしているのである。

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第4世代カーボンスポークの革新性

散々当ブログで第4世代カーボンスポークについて紹介してきたが、再度4世代のカーボンスポークにふれながらRCXの特徴と交えて紹介していく。Particle RCX Ultralight 50の性能を理解する上で、その核心をなす第4世代カーボンスポークの技術的特性を解明することは不可欠である。

このスポークは、単なる軽量化素材の採用に留まらず、ホイール設計における長年の課題であった「剛性」「快適性」「重量」のトレードオフ関係を打破する可能性を秘めた、革新的なコンポーネントである。

第4世代カーボンスポークとは

第4世代カーボンスポークの優位性は、主に重量、剛性、そしてコンプライアンスという3つの側面から評価できる。

圧倒的な軽量性

Particle wheelのスポークは横幅3.14mm

厚みは0.94mmだ。

第4世代カーボンスポークの最も顕著な特徴は、その驚異的な軽さである。ニップルを含めた1本あたりの重量は約2gであり、これは高性能スチールスポークの代表格であるSapim CX-Ray(約4.4g)の半分以下である。

この大幅な軽量化は、スポークの主要部分に先進的なカーボンファイバーを使用することに加え、ネジ山部分やスポークヘッドにチタン製部品を採用することで達成されている。

回転部分の重量、特にホイール外周部の重量削減は、慣性モーメントを低減させ、加速性能の向上に最も効果的であるため、このスポークの軽さはホイール全体の応答性を劇的に高める上で決定的な役割を果たす。

高い剛性とパワー伝達効率

カーボンスポークは、同等のスチールスポークと比較して「著しく剛性が高い」とされている。この高い引張剛性は、ライダーがペダルに込めた力をホイールの回転運動に変換する際のエネルギーロスを最小限に抑えることを意味する。

スポークの伸びが少ないため、ホイール全体の横剛性が向上し、コーナリング時やスプリント時のホイールのたわみが減少し、ダイレクトな操舵感と鋭い加速感をもたらす。第3世代から継承された機械的固定方法は、スポークのねじれを防ぎ、空力性能の維持にも貢献する。

革新の核心:コンプライアンス(振動吸収性)

第4世代カーボンスポークが真に革新的である理由は、前述の高い剛性と、それに相反するはずの「コンプライアンス」を両立させている点にある。このスポークは、「かなりの量の追加のコンプライアンスを提供し、これによりスチールスポークのような乗り心地特性を実現している。

これは、ホイール設計におけるパラダイムシフトと言える。従来、高剛性なカーボンコンポーネントは、微細な振動を減衰させる能力に乏しく、乗り心地が硬質で「過酷」になるという課題を抱えていた。

しかし、第4世代スポークは、素材の内部構造や繊維の編み方を工夫することにより、高い引張剛性を保ちながらも、路面からの衝撃を効果的に吸収・減衰する能力を獲得した。

これにより、ライダーは高剛性ホイールの利点である優れたパワー伝達を享受しつつ、スチールスポークに匹敵する快適な乗り心地を得ることができる。この特性は、路面追従性を高め、トラクションを向上させる効果も期待でき、特に荒れた路面での安定性やコントロール性の向上に寄与する。

カーボンスポークの引張試験

PARTICLEのカーボンスポーク引張試験の様子。

Particle社はカーボンスポークの引張試験も実施している。カーボンスポークはCX-RAYを凌ぐ結果が出ている。

  1. (Red) 3.5g, carbon spoke
  2. (Blue) 2.1g, carbon spoke 
  3. (Dark Purple) Sapim CX-Ray spoke
  4. (Light Purple) Titanium spoke A
  5. (Green) Titanium spoke B

技術比較と性能

第4世代カーボンスポークの特性をより明確に理解するため、高性能スチールスポークとの比較を以下の表に示す。

表1: 第4世代カーボンスポーク vs. 高性能スチールスポーク 技術仕様比較

指標 Particle 第4世代カーボンスポーク Sapim CX-Ray (参照) 性能への影響
重量 (1本あたり) 約2g 約4.4g 50%以上の軽量化。回転慣性を大幅に低減し、加速性能を劇的に向上させる。
剛性 非常に高い 高い パワー伝達効率が向上し、ダイレクトな加速感と高い横剛性を実現する。
コンプライアンス 高い(スチールスポークに類似) 基準 高剛性と高快適性を両立。疲労軽減とトラクション向上に貢献する。
耐久性評価 スチールスポークと同等 実績があり高い信頼性 交換可能な設計により、信頼性と安全性が確立されている。

この比較から明らかなように、第4世代カーボンスポークは、単一の性能指標で優れているだけではない。それは、ホイール設計における根本的なトレードオフを解消する技術である。

従来、ホイールをより剛性を高くすれば、快適性が損なわれるか、重量が増加した。快適性を追求すれば、剛性や重量で妥協が必要であった。しかし、このスポークは、軽量でありながら、高い剛性と高いコンプライアンスを同時に提供する。

この技術的ブレークスルーこそが、Particle RCX Ultralight 50の製品コンセプトを可能にしている。

つまり、山岳コースでの登坂性能を最大化するための圧倒的な軽さと、平坦路での高速巡航やスプリントに応えるための高い剛性、そして長時間のライドでもライダーのパフォーマンスを維持するための優れた快適性を、一つのホイールセットに凝縮することを可能にしたのである。

このスポークは、単なる部品の進化ではなく、高性能ホイールのあり方そのものを再定義する、破壊的技術と評価することができる。

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セラミックベアリングとスチールベアリングの性能衡平

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Particleは、コンポーネントの選択において、マーケティング上の誇張を排し、工学的な事実に基づいた情報を提供することで、知識豊富な消費者からの信頼を構築している。その姿勢が最も顕著に表れているのが、セラミックベアリングとスチールベアリングの選択肢に関する同社の技術解説である。

本章では、その内容を詳細に分析し、ベアリング性能の真実と、Particleのブランド戦略について考察する。

構造と摩擦源の分解

Particleの解説は、まずベアリングの構造と摩擦の発生源を物理的に分解することから始まる。これは、性能差を議論する上での科学的基盤を確立するアプローチである。

内部構造の差異

  • 高品質スチールベアリング: 硬化スチール製のボール、内外輪(レース)、そしてボールの間隔を保持するリテーナー(ケージ)で構成される。Particleが言及する高品質なものでは、プレスされた金属製ケージが採用されており、これは製造コストが高いものの、摩擦を低減し剛性を高める効果があるとされる。
  • ハイブリッドセラミックベアリング: 自転車業界で「セラミックベアリング」と呼ばれるもののほとんどは、ボールのみがセラミック(窒化ケイ素など)で、レースはスチール製の「ハイブリッド」構造である。ケージには、一般的にスナップイン式の複合材やゴム製のものが使用される。

この構造の違いは、性能に微妙な影響を与える。特に、ケージの設計は摩擦特性に関わり、高品質スチールベアリングに採用される金属製プレスリベットケージは、セラミックベアリングに多いスナップイン式ケージよりも摩擦が少ない場合がある。

摩擦源の定量的分析

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Particleが提示する最も重要なデータは、ベアリング全体の摩擦抵抗の内訳である。

  • シールによる摩擦: 約60%
  • グリスの粘性抵抗: 約30%
  • ケージ、ボール、レースの変形など: 約10%

この分析によれば、ベアリングの回転抵抗の実に90%がシールとグリスに起因する。ボールとレース自体の寄与は全体の10%程度に過ぎない。

そして、セラミックボールを使用することによる摩擦低減効果は、この10%のうちのさらにごく一部(ボール変形に起因する摩擦の約10%)であり、ベアリング全体の摩擦に対してわずか0.3%程度の削減にしかならないと結論づけられている。

これは、セラミックベアリングがもたらす回転性能の向上は、体感することが極めて困難なレベルであることを示唆している。これらの事実をParticle社が自社のホイールに添えて具体的にデータとして公開しているのは、企業として誠実さがうかがえる。

耐久性と長期的な性能変化

性能評価は、初期状態だけでなく、長期的な使用における変化も考慮する必要がある。この点において、セラミックベアリングとスチールベアリングの特性は大きく異なる。

セラミックボールは、スチール製のレースよりも著しく硬度が高い。そのため、ベアリングに負荷がかかると、硬いセラミックボールが、より柔らかいスチールレースに微細な摩耗や圧痕を生じさせやすい。この摩耗が進行すると、ベアリングの回転は滑らかさを失い、時間とともに回転抵抗が増加していく可能性がある。

一方、高品質なスチールベアリングでは、ボールとレースの硬度が近いため、摩耗がより均一に進行する。結果として、長期間にわたって安定した低い回転抵抗を維持する傾向がある。

Particleは、この事実に基づき、「長寿命と長期的な低回転抵抗を求めるならスチールベアリングを推奨し、わずかな性能的優位性のために頻繁な交換を厭わないのであればセラミックベアリングが選択肢となる」という、非常に現実的な結論を提示している。

消費者のウケを狙って「何が何でもセラミック」というメーカーが多数ある中、Particleの誠実さがここでも表れている。

Particleの設計思想とブランド戦略

Particleは、自社のベアリングに、外側に接触型シール、内側に非接触型シールを組み合わせたハイブリッドシールシステムを採用している。これは、外部からの汚染物質の侵入を防ぐ保護性能(接触型)と、回転抵抗の低減(非接触型)という、相反する要求を両立させるための合理的な設計である。

表2: ハイブリッドセラミックベアリング vs. 高品質スチールベアリング 特性比較

特性 高品質スチールベアリング ハイブリッドセラミックベアリング Particleの推奨
内部構造 スチールボール、スチールレース、金属製プレスリベットケージ セラミックボール、スチールレース、複合材スナップインケージ 用途に応じた選択
主要な摩擦源 シール (約60%)、グリス (約30%) シール (約60%)、グリス (約30%) シール設計の最適化が重要
初期回転抵抗 非常に低い 僅かに優位 (理論上-0.3%) 性能差はほぼ同等
長期的な摩耗 均一な摩耗、安定した性能 レースの摩耗が進行しやすい 長期安定性ではスチールが優位
最適な用途 長寿命、メンテナンスサイクルの長さ、安定した性能を重視する場合 決戦用など、僅かな性能差を追求し、頻繁な交換を許容する場合 ライダーの優先順位による

このベアリングに関する一連の技術解説は、単なる製品情報提供以上の意味を持つ。

自転車業界には、セラミックベアリングの利点を誇張するマーケティングが溢れている。そのような中で、Particleは自社のデータを用いてその神話を体系的に解体し、物理法則に基づいた冷静な評価を顧客に提示している。

これは、短期的な利益を最大化する目的であれば非合理的な行動である。高価なセラミックベアリングを積極的に推奨する方が、売上は向上するだろう。しかし、Particleはそうしない。彼らが選択したのは、顧客を「教育」し、信頼関係を構築するという長期的な戦略である。

「セラミックベアリング」という商材を用いて、企業の利益を拡大するには、何も知らない消費者を丸め込んで「良く回る(と期待できる)セラミックベアリング」を高い値札をつけて売ればいい(プロチームに使わせればさらに良い!)。

これは、根拠が無い”壺”を売るような霊感商法と何ら変わらないのだが、様々な技術が進んだ現代でも、サイクリストが泣いて喜びながら大金を落としてくれる。壺とセラミックベアリング、それぞれの販売方法に共通しているのは「信じ込ませること」それが最も重要なのだ。

話がそれたが、Particleのラディカルなまでの技術的透明性は、同社のターゲット顧客である専門家や知識豊富なサイクリスト層からの絶大な信頼を勝ち取るための、極めて高度な「トラスト・マーケティング(信頼販売)」と言える。

Particleは、ハードウェアを売るのと同じくらい、あるいはそれ以上に、「誠実さ」と「技術的権威」をブランドの核として販売しているのである。

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Ultralight, Light, Teamバージョンの比較

Particleの製品ラインナップは、Ultralight, Light, Teamという3つのバージョンで構成されている。この階層構造は、単なる価格や性能による「松竹梅」の序列ではない。

それぞれのバージョンが、特定のライダープロファイルと用途に合わせて、重量、剛性、快適性、そして耐久性といった複数の性能パラメーターを意図的にトレードオフさせた、洗練された製品セグメンテーション戦略の現れである。

各バージョンの特性とターゲットライダー

各バージョンは、異なる製造プロセスと設計思想に基づいており、明確な個性を持っている。

Ultralight Version

  • ターゲットライダー: 究極のパフォーマンスを追求し、特に登坂性能と加速性能を最大化したいサイクリスト。システム重量(ライダー、バイク、装備の合計)が100kg未満の比較的軽量なライダーに最適。
  • 主要な利点: 圧倒的な軽量性。RCX Ultralight 50の重量は1,100gと、市場で最も軽い部類に入る。回転質量の削減により、極めて低い慣性を実現し、鋭い加速を可能にする。
  • 性能特性: 3つのバージョンの中で最もコンプライアント(しなやか)であり、優れた快適性を提供する。一方で、システム重量制限は100kgと控えめに設定されている。
  • 製造プロセス: 最も高度で複雑なカーボンレイアップを使用しており、これが高い製造コストに繋がっている。

Light Version

  • ターゲットライダー: 究極の軽量性よりも剛性を重視するライダーや、より高い体重制限を必要とするライダー。強力なスプリンターなど、高いパワーを受け止める剛性を求める層にとっての「良い中間点」。
  • 主要な利点: Ultralightバージョンよりも高い剛性と、120kgまでのシステム重量に対応する堅牢性。
  • 性能特性: 重量も依然として非常に競争力があるレベルに抑えられており、性能と耐久性のバランスに優れる。
  • 製造プロセス: Ultralightほど複雑ではないが、効率的な製造プロセスを採用。

Team Version

  • ターゲットライダー: 剛性を最優先事項とするライダー。2000ワットを超えるような出力を出すトラック選手やスプリンター、または体重の重いライダー。
  • 主要な利点: 最高の横剛性を持ち、最大のパワー入力にも耐えうる。システム重量制限は140kgと最も高い。$999からという価格設定で、カーボンスポークホイールとして最高のコストパフォーマンスを提供する。
  • 性能特性: 重量的なペナルティはあるが、その分、圧倒的な剛性を誇る。快適性は他のバージョンに比べて低下する。名称は、UCIの最低重量規定6.8kgをクリアするために、敢えて重量を増やす必要があるプロチームのニーズに由来する。
  • 製造プロセス: より伝統的なカーボンファイバーレイアップを使用し、製造が比較的シンプル。

共通の安全基準と戦略的意味

この3つのバージョンを比較する上で極めて重要な点は、それらがすべて同じParticle独自の90ジュール垂直衝撃テストに合格していることである。これは、最も軽量なUltralightバージョンでさえ、最も堅牢なTeamバージョンと同等の基本的な衝撃耐性を確保していることを意味する。

Particleは、性能特性(剛性や快適性)を調整するためにカーボンレイアップを変更しているが、安全性に関する基準は一切妥協していない。この事実は、消費者がどのバージョンを選んでも、一定水準以上の信頼性が保証されているという安心感を与える。

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製品戦略の分析

このセグメンテーションを一覧化することで、Particleの戦略的意図がより明確になる。

表3: Particleホイールセット バージョン別 性能特性比較

性能指標 Ultralight Version Light Version Team Version
ターゲットライダー クライマー、軽量ライダー オールラウンダー、スプリンター パワースプリンター、高体重ライダー
主要な利点 超軽量、高快適性 高剛性、高耐久性 最高剛性、最高コストパフォーマンス
重量 (相対) 最軽量 軽量 重い
横剛性 十分 高い 最高
垂直コンプライアンス 最高 低い
システム重量制限 100 kg 120 kg 140 kg
製造プロセス 複雑・高コスト 中間 シンプル・低コスト

この表が示すのは、単純な優劣関係ではない。例えば、Ultralightは最も高価で軽量だが、剛性や重量制限ではTeamに劣る。Teamは最も剛性が高いが、重量と快適性ではUltralightに劣る。

つまり、どのホイールが「ベスト」かは、ライダーの体重、脚質、主な使用用途、そして快適性に対する要求度によって相対的に決定される。

この戦略は、ホイール市場における「非コモディティ化」の試みと解釈できる。多くのブランドが重量やリムハイトといった単一の指標で競争する中、Particleは評価軸を多「次元化」している。

これにより、消費者は単なるスペック比較から脱却し、自身のライディングスタイルや身体的特徴を分析し、それに最適な「ソリューション」を選択するという、より深い関与を求められる。

このプロセスを通じて、ライダーはブランドが自分のニーズを「理解してくれている」と感じ、結果としてより強いブランドロイヤルティが醸成される。Particleは単にホイールを販売しているのではなく、個々のライダーに「最適化されたパフォーマンス体験を提案している」のである。

これは、専門知識を持つ層をターゲットとするプレミアムブランドにとって、極めて効果的な戦略である。

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Particleの製品テストと品質管理体制

image: PARTICLE

Particle RCX Ultralight 50のような、1,100gという極限の軽量性を誇る製品に対して、消費者が抱く最大の懸念は「耐久性と安全性は確保されているのか」という点である。

Particleはこの問いに対し、曖昧な言葉による保証ではなく、体系的かつ定量的なテストデータと、厳格な品質管理プロセスの公開という形で応えている。本章では、その信頼性の礎となる試験・品質管理体制を詳細に検証する。

結論から行くと、非常に厳格な性能試験、耐久性試験、品質検査を行っている。

業界基準を凌駕する製品テスト

image: PARTICLE

Particleの全てのホイールは、UCI、ISO、ENといった国際的な安全基準を「遥かに超える」レベルで設計・試験されている。その内容は、10種類以上に及ぶ性能、信頼性、安全性テストから構成される。

Particle標準垂直衝撃テスト (90ジュール)

最も象徴的なのが、Particle社独自の垂直衝撃テストである。プロレース機材の安全性を担保するUCIの基準が40ジュールの衝撃エネルギーを想定しているのに対し、Particleは90ジュールという、2倍以上のエネルギー量でのテストを全ホイールに課している。

この事実は、特に重要な意味を持つ。これは、同社の製品が、レース中の偶発的なアクシデントだけでなく、日常的な使用における予期せぬ強い衝撃(例えば、深いポットホールへの進入など)に対しても、十分な安全マージンを確保していることを示している。

包括的な性能・耐久性試験

衝撃テストに加え、以下のような多岐にわたる試験が実施されている。筆者自身も過去にホイールのインパクト試験を実施し、UCIから承認を得た経験がある。どのような試験が行われるかを以下に紹介する。

  • 剛性テスト: リム単体およびホイール全体での横剛性・ラジアル剛性を測定し、設計通りの性能が発揮されているかを確認する。
  • スポーク穴引張強度テスト: スポークテンションに対するリムの強度を検証し、破損のリスクを評価する。
  • 疲労テスト: 10,000kmの荒れた路面での走行をシミュレートするテストや、トルク疲労テストを通じて、長期間の使用における耐久性を検証する。
  • その他: 最大タイヤ空気圧テストや高速安定性テストなど、実使用環境を想定した多角的な評価が行われる。

製造プロセスにおける徹底した品質管理

高性能カーボンリムは、その特性上、手作業による工程が多く、品質のばらつきが生じやすい。Particleは、これを抑制するために、製造の各段階で厳格な品質管理(QC)チェックを実施している。

リム生産時のQC項目

image: PARTICLE

リムの成形から仕上げまでの各工程で、Particleでは以下のようなチェックが行われている。

  • 重量管理: 製造の各段階でリムを計量し、最終的な重量誤差を±15g以内に収める。
  • 内部構造検査: X線検査などを用いて、強度に影響を及ぼすボイド(空隙)や、積層のしわがないかを確認。
  • 熱処理: 耐久性を高めるため、高温での長時間の再加熱(ポストキュア)を行う。
  • 穴加工精度: 各スポーク穴に樹脂の詰まりやしわがないことを確認。
  • 寸法精度: リムの真円度を精密に測定し、規定値内に収まっていることを確認。

最終組付け時のQC項目

ホイールとして組み上げられ、出荷される前の最終段階でも、Particleでは細部にわたるチェックが実施されている。

  • 重量管理: ホイールセットとしての最終重量が、公称値から±30g以内であることを確認する。
  • 振れ取りと応力除去: ホイールの振れを横・縦ともに0.25mm以内に収める。さらに、スポークテンションを安定させ、初期の振れを防ぐために、応力除去(ストレスリリービング)と再振れ取りを行う。
  • 耐圧テスト: フロントおよびリアホイールに最大140 PSIの空気圧をかけ、150 PSIの圧力下でもホイールの変形(横振れ)が0.25mm以内であることを確認する。

これらのテストと品質管理プロセスは、単なるコンプライアンス遵守以上の意味を持つ。

image : PARTICLE

Particleは、この情報を積極的に公開することにより、潜在的な顧客が抱くであろう「Particleのこれほど軽いホイールは本当に安全なのか?」という、まだ声に出されていない問いに先回りして答えているのだ。

特に、UCI基準の2倍以上という90ジュールの衝撃テストデータは、技術的な優位性と安全思想を雄弁に物語る、強力なマーケティングメッセージとなる。

これは、エンジニアリングによる実証をブランドの信頼性の核に据え、プレミアム価格を正当化するための、極めて計算された戦略である。消費者は、データに裏打ちされた安心感を得ることで、初めて究極の性能を追求する製品に信頼を寄せることができるのである。

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インプレッション

TARMAC SL8と合わせてテストを行った。

Particleホイールの仕様を初めて見た時、心配になった。理由は単純で50mmリムハイトで1,100gというホイールはこれまで走らせた試しがない。そして、「Particle」という無名のブランドであることも不安を増幅させた。

ホイールの設計もスポーク本数が前後20本と下限を攻めており、カーボンスポーク、そして軽量ハブにせよ、50mmのリムは1本400g前後ということを考えると、1,100gという軽量性に驚くよりも先に心配になったのだ。

という感情的な部分はさておき、実際にはUCIのインパクト試験の2倍以上に耐える堅牢性を備えていることはテスト済みであるという。この話を信じるしかないが、命を預けるホイールだからこそ、嘘ではないことを願いたい。

Patrick氏からは、ホイール製造に関する様々な情報をもらった。

しかし、願うだけでは原始的な雨乞い、神頼みと一緒だ。そこで、Particle社の代表Patrick氏に直接連絡を取って、試験方法やテストデータのRawデータを頂戴した。情報を読み進めていく限りは、問題はない製品に仕上がっていそうだ。

香港のParticle社がやっていることは単純だ。日本のブリヂストンが中国の”良い工場”に設計図を出してRP9のカーボンフレームを作ってもらって、自社のブランドロゴを入れて販売する方法となんら変わりない。

ポイントは、星の数ほどある玉石混交の中国工場からどこを選ぶのかと、依頼元のメーカーがどこまで高い基準を求めているかだ。Particleはこのレベルが比較的高いと見受けられる。

細かな製造方法まで公開してくれた。

とはいえ、同社はほとんど無名のブランドである。私のように「ブランド名も知らないし、この重量で大丈夫か?」という事を懸念される方が多いと思っている。そこは、Particle社側も理解しているようで、信頼性や製品テストと品質管理体制の説明に力を入れている。

粗悪な中国製品の場合は、「信頼」や「品質管理」すら嘘で塗り固めてしまうこがあるが、Particleの代表は香港に在住しているアメリカ人で製造拠点を中国に置くスタイルだ。

もちろん、アメリカ人だからと言って信用できるという話ではないが、色々とやり取りを通じてわかったことは、開発に対して非常に真摯な姿勢があることだった。

使用するカーボン繊維の原材料に至るまで妥協がない。

1,100gという極限の軽量性を誇る製品に対して、消費者が抱く最大の懸念は「耐久性と安全性は確保されているのか」という点である。Particleはこの問いに対し、曖昧な言葉による保証ではなく、体系的かつ定量的なテストデータと、厳格な品質管理プロセスの公開という形で応えた。

セラミックベアリングに関しても、「その効果は低い」と言い切ってしまうところが気に入った。セラミックベアリングは、工学的に無知な消費者を丸め込んで、「金を巻き上げる素晴らしいシステム」だ。こんな辛らつな言い方をしないまでも、Patrick氏はスチールの利点も正しく説明している。

利益だけを上げるなら、いちいち言わなくてもよいことだ。しかし、そこをあえて言ってしまうところに、どこかエンジニアとしての不器用さも見え隠れする。

ここまでホイールの話とは別の、得体の知れない「Particle」というホイールメーカの体質を述べてきたが、私の第一のハードルであったホイールへの「不安」は、Patrick氏とのやり取りの中で解消されて行った。

少々前置きが長くなったが、RCX Ultralight 50のインプレッションを記そう。

そう、第四世代。

VONOA第四世代は大きなパラダイムだった。最近のカーボンスポークしか使ったことのライダーには全くわからない話かもしれないが、黎明期から様々なカーボンスポークを試してきた筆者としては大きな変化だった。

LEW Racing PRO VT-1「トリプルフランジ」カーボンスポークホイールのハシリだ。

20年近く前にLEW Racing PRO VT-1やReynoldsにLEWが買収された後のR2R(トリプルフランジのアレ)を縁あって使わせてもらう機会があったが、あれが第一世代だったらしい。全てが完全剛体、他にはLightweightやCOSMIC CARBON ULTIMATEも何本も購入して使っていたがとにかく硬かった。

このカーボンスポーク特有の硬さは、第三世代まで続くことになる。第2世代は円柱のカーボンスポーク交換式、第3世代は交換式エアロスポーク(エアロと言っても円柱を削っただけのスポークも存在していた)、そして第四世代はスチールスポークのしなやかさ(コンプライアンス)を手に入れた。

この技術の移り変わりは、バイクフレームが歩んできた進化と似ている。初めは丸パイプをつなぎ合わせたフレーム、次はエアロの時代、そして現代は乗りやすさ、コンプライアンスへと移り変わった。スポークも同じ道を辿って来たのである。

Particleのホイールに採用されているスポークは、しなやかさがある。手で曲げてみてもほとんど抵抗せず、スチールスポークのように簡単に曲がってしまう。VONOA製かどうかはわからないが、いま世界で第四世代を作れるメーカーは数少ない。

さらに、ニップルの接合部分はチタンだというから察しが付くだろう。

乗り心地については、第四世代特有のしなやかさが感じられる。スチールスポークに近い乗り心地で、第三世代の硬くてバネ感のない、嫌な乗り心地は微塵も感じさせない。とはいえ、LightweightやCOSMIC CARBONを使ったことが無く、第四世代から使った方は「何だこんなもんか」と思うかもしれない。

しかし、カーボンスポークを黎明期から使ってきた身からすると、カーボンスポークを「やっと使ってもいい」と思えるレベルに仕上がってきたのだ。Nepest NOVAでその考えは確信に変わった。

気づいたのは、第四世代のカーボンスポークを使ったホイールはどれも似たような走りをすることだ。方向性としてはRCXもNepest NOVAと同じ傾向である。

1,100gはどこにある

50mmハイトで1,100gという圧倒的な軽量性がウリのRCXだが、ホイール重量のほとんどが外周に集中している。リムが390g~400gだとすると、72%が外周部分の重量であることがわかる。重量がホイールの中心に集中していると軽快に回転するが、逆に外周部分に重量が移動してしまうと回すときに重さを感じる。

ここまでは単純な物理法則の話だが、RCXを回した時の感覚はこれと近い。初速こそ鈍さを感じるものの、回り始めれば慣性が働いてずっと回ってくれるような動きをする。ROVAL CLX 50に近い動きをするが、全体的に250g以上軽いことを考えると、高速域からもう一枚かけた時の軽快さは確かに感じられる。

1,100gという重量だけみれば、これまでクライミングホイールしか成し得なかった重量だ。これは50mmリムハイトで実現しているのだから、技術の進歩に驚くしかない。では、実際の登りはどうなのか。

ヒルクライム性能:境界線が曖昧に

オールラウンドにホイールを使うのならば、もはや用途が限られたクライミングホイールなど使う必要はないのだろう。RCXの50mm、1,100gという重量がそれを物語っている。40分のヒルクライムを行うために六甲山へ向かった。

結論としては、RCXの登坂はもたつかず、重さも感じない。登りでの走りも軽やかで、10%以上の坂でも良く進んでくれる感覚を受けた。私の場合、クライミングホイールのような減衰スピードが早いホイールはどうも脚に合わないからこれくらいの慣性が働いた方が好きだ。

ある程度の慣性をもって回り続け、エネルギーをため込むような走り方をするホイールの方が上り坂でも合っている。RCX 50はこの手のホイールだ。ROVAL CLX50がそうであったように、純粋なヒルクライムには向かないものの、登りでも十分な性能を発揮してくれる。

平坦こそ

平坦を走らせると、ROVAL CLX50とよく似ている。ただし、全体的な軽さがあるから、高速域からもう一発かけると、階段を登っていくように速度が増していく。面白いのは速度が上がっていっても、路面のバンプに寛容であったことだ。

ROVAL RAPIDE CLX IIIは内幅21mmだったが、現代のタイヤを考えると23mmが妥当だと思う。これは、メーカーの設計思想が大きく影響しているが、タイヤ内部のエアボリュームは多ければ多いほど良いとされている。

話は若干それてしまったが、平たんでの伸びや、高速域からの速度の上げやすさはROVAL CLX50と非常によく似ている。懐かしい感じもするが、スチールスポーク特有のしなやかさの中に、50mmハイトで1,100gという理解しがたい重量を備えた恐ろしいホイールだ。

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まとめ:RCX Ultralight 50の総合評価と対象ライダー

ここまでの多角的な分析を通じて、Particle RCX Ultralight 50は、単に「軽量なクライミングホイール」というカテゴリーに収まる製品ではないことは明らかだ。

それは、相反する複数の性能要件軽量性、剛性、快適性を、システムレベルの設計思想と革新的技術によって極めて高い次元で統合した、高性能ホイールシステムである。

その性能特性の核心には、第4世代カーボンスポークの存在がある。このスポークは、スチールスポークの半分以下の重量でありながら、高い引張剛性と、スチールに匹敵するほどの優れたコンプライアンスを両立させている。

この技術的ブレークスルーが、Ultralightリムの持つしなやかさと相まって、鋭い加速性能と、長距離での疲労を軽減する快適な乗り心地という、従来は両立が困難とされてきた特性の融合を可能にした。

さらに、Particleというブランドは、その製品戦略とコミュニケーションにおいて、際立った特徴を持つ。Ultralight, Light, Teamという3つのバージョンは、ライダーの体重、脚質、そして優先順位に応じて最適な選択肢を提供する、洗練されたセグメンテーションである。

これは、製品を非コモディティ化し、顧客との深いエンゲージメントを構築する高度な戦略と言える。

また、セラミックベアリングの性能に関する神話を自ら解体するほどの技術的透明性と、UCI基準を大幅に上回る厳格なテストプロトコルの公開は、知識豊富な消費者からの信頼を勝ち取るための強力な基盤となっている。

このホイールセットが最大の価値を提供する対象ライダーは、パフォーマンスを最優先し、特に登坂や繰り返される加速でのアドバンテージを求める、経験豊富なサイクリストである。

具体的には、以下の特性を持つライダーが理想的なユーザー像となる。

  • 体重が比較的軽く、システム重量100kgの制限内で余裕を持って運用できる。
  • 主なライド環境が山岳コースや丘陵地帯であり、登坂性能を最重要視する。
  • クリテリウムやロードレースにおいて、コーナーからの立ち上がりやアタック時の鋭い加速を武器としたい。
  • 剛性一辺倒の硬質な乗り心地よりも、長距離や荒れた路面での快適性とトラクションを重視し、疲労の蓄積を避けたいと考えている。
  • 製品の背景にある工学的な思想やデータに基づいた性能を理解し、評価することができる、見識のある消費者。

一方で、絶対的な横剛性を求める体重の重いパワースプリンターや、コストパフォーマンスを最優先するライダーは、それぞれTeamバージョンやLightバージョンの方が適している可能性が高い。

結論として、Particle RCX Ultralight 50は、特定の目的とライダープロファイルに対して、現代のホイールテクノロジーが到達しうる一つの理想形を提示している。

それは、最先端の素材科学とシステム設計思想が融合した、極めて専門的かつ高性能な機材であり、その価値を最大限に引き出せるライダーにとって、これ以上ない選択肢となるだろう。

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