新型 YOELEO QianKun CS50 50mmで1,185g!革新はハブの中に

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現代の高性能ロードバイクホイール市場は、大きな変革の時代を迎えている。

かつては欧米の伝統的なトップブランドが技術と価格の両面で市場を支配していたが、近年、中国を拠点とするダイレクト・トゥ・コンシューマー(DTC)ブランドの台頭がその勢力図を急速に塗り替えつつある。

この動きは単なる低価格競争ではなく、技術のコモディティ化と、性能対価格比を重視する消費者動向の変化を背景に、技術的にも欧米ブランドに比肩、あるいは凌駕しようとする野心を持った挑戦に他ならない。

Winspace、Elitewheels、Farsports、Nepestといったブランドは、カーボンスポークや先進的な空力設計など、これまでハイエンド製品の専売特許であった技術を、よりアクセスしやすい価格帯で提供し始めている。

QIAN KUN(チェンクン)と読む。

このような市場背景の中、2025年に登場したのが「QianKun(チエンクン)」である。QianKunは、2007年の創業以来18年にわたりカーボン製品のOEM製造と自社ブランド「YOELEO(ヨーレオ)」の展開で実績を積んできた企業が、その技術の集大成として市場に投入したハイエンド・パフォーマンスブランドである。

これは、単なる製品ラインの追加ではなく、自社技術の粋を集め、性能を最優先するトップパフォーマンス市場へ本格的に挑戦する意志の表明である。今回のレビューはYOELEO QianKunを試す。実際の走りや、特徴的なハブの内部構造など、多角的に検証した。

本記事は2万文字で構成されているため、何回かに分けて読むことをおすすめします。

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  1. QianKunの登場と市場の差別化
  2. ブランド哲学と設計思想
  3. QianKun CS50の技術
    1. リム:空力性能と素材科学の融合
    2. ハブシステム:動力伝達の心臓部
  4. QianKunのハブが魅力的である理由
    1. 従来型ポールシステムの限界
    2. DT Swissスターラチェットの登場と業界標準化
    3. 新たな潮流:角度付き(コニカル)ラチェットシステムの台頭
    4. Yoeleo QianKunハブ:Q-ANGULAR36エンゲージメントの構造
    5. 「エンデュラスプリング」の正体:ウェーブスプリングの可能性
  5. 競合技術のベンチマーキング
    1. Princeton Carbon Works – Tactic Racing TR01
    2. Orbea OQUO Q10:SHARKRATCHETとCrest-to-Crestスプリング
    3. non plus component:設計思想の原点
  6. 比較分析:角度付きラチェットシステムの設計思想と性能評価
    1. 設計思想の分岐点:力の伝達と管理
    2. 性能のトレードオフ:エンゲージメント速度 vs. 耐久性
  7. Yoeleo QianKunハブの技術的ポジショニング
  8. カーボンスポーク:剛性と軽量化の鍵
  9. 実測重量
  10. インプレッション:実世界のパフォーマンス
    1. 軽量性(ヒルクライムと加速性能):
    2. 剛性:パワー伝達とハンドリング
    3. 空力性能:高速巡航
    4. 耐久性と信頼性:
  11. 総評と課題
  12. 市場におけるポジショニングと競合製品比較
    1. vs. 中国DTC競合 (Winspace, Elitewheels):
    2. vs. 欧米トップブランド (Zipp, Roval, ENVE):
    3. 長所と短所
  13. まとめ:サイクリングヒエラルキーにおけるQianKun CS50の現在地

QianKunの登場と市場の差別化

YOELEOが既存の「NxT」シリーズ(コストパフォーマンス重視)に加え、新たに「QianKun」シリーズ(ハイパフォーマンス志向)を立ち上げた事実は、中国DTCブランド内部で市場の細分化とブランドの階層化が進んでいることを示唆している。

Yoeleo ホイール インプレッション SAT DB PRO NxT SL2 C35,C50,C60を徹底検証
Yoeleoのホイールには抵抗があった。回転抵抗の話ではなく、Yoeleo(ヨーレオ)というブランドそのものへの抵抗だ。昨今の中国系ブランドは、巧みなプロモーションと、考えられないような低価格で自転車機材を数多くリリースしている。中国ブランドの機材はいまだ玉石混交の状況にある。サイトの作りや写真の見せ方がうまいだけに、手に取るまで製品の善しあしがわかりにくい。そして、使い物にならない製品の方が実際...

製品ラインナップを見ると、NxT SL2が「快適で信頼性が高く、多用途な日常使いのホイール」と位置づけられているのに対し、QianKun CSシリーズは「beast-mode performanceを必要とする要求の厳しいライダー向け」と明確に差別化されている。

この戦略は、単一の「安価な中国製ホイール」というステレオタイプから脱却し、異なる価格帯と性能要求を持つ多様な消費者層へアプローチしようとする、より洗練されたブランド戦略への移行を意味する。

UCI承認はもちろん取得済みだ。

同時に、UCI(国際自転車競技連合)認証の取得やプロチームへの機材供給は、もはや単なるマーケティングツールではなくなっている。これらは、中国ブランドが技術的信頼性と製品の安全性を国際基準で証明し、過去の「安かろう悪かろう」というイメージを払拭するための戦略的投資である。

中国系ブランドが、北米や欧州のホイールメーカーに追いつけ追い越せと、対等に戦うために時代が変わりつつある。

QianKunがUCIインターコンチネンタルチームの選手によるテストを公表しているのは、製品がプロの過酷な使用環境に耐えうる品質を持つことを客観的に示し、専門家や競技者層からの信頼を勝ち取るための重要なステップといえる。

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ブランド哲学と設計思想

易経

QianKunというブランド名は、中国の古典『易経(えききょう)』に登場する八卦(はっけ)の中の二つ、「乾(Qian)」と「坤(Kun)」に由来する。「乾」は天を象徴し、強さや剛健さを、「坤」は地を象徴し、柔軟さや受容性を意味する。

この二つが調和することで万物が生成されるという古代中国の思想が、ブランドの根幹を成している。この哲学は「BALANCE IS THE NEW SPEED」というブランドスローガンに集約されている。

これは、空力性能、軽量性、剛性といった単一の性能指標を極端に追求するのではなく、これらの要素が完璧な調和(synergy)を保つことで、ホイールセット全体の総合的なパフォーマンスが最大化されるという設計思想を示している。

QianKunでカギとなるのがこの特殊ハブ。後ほど紹介。

具体的には、軽量な空力リム、高剛性なカーボンスポーク、そして精密なハブシステムが相互に作用し合う一つの統合された「システム」としてホイールを捉えている。

各コンポーネントが単独で優れているだけでは不十分であり、それらの相互作用によって初めて最高の性能が引き出されるという考え方は、現代の高性能ホイール設計における最先端のアプローチの一つである。

例えば、高剛性なカーボンスポークは、それを受け止める高剛性なリムと、スポークテンションを適切に支えるハブフランジ設計があって初めてその真価を発揮する。このシステムアプローチこそが、単に軽量なパーツを組み合わせただけのホイールとの差別化を図るための重要な概念である。

しかしながら、この哲学的なアプローチは、具体的な性能を求める層にとっては課題も提示する。

「バランス」という概念は、ともすれば「曖昧で抽象的な表現」に陥る危険性をはらんでいる。実際に、『より剛性が高く』とは具体的にどういうことか、『超高速パワー伝達』という表現も曖昧であり、定量的な数値データが欠如している。

ブランドが掲げる壮大なコンセプトと、技術的実体を結びつける客観的なデータ(例えば、TOUR誌やシルバーストーンなどの第三者機関による風洞実験の結果や剛性テストの数値など)の提示は、今後のブランドの信頼性構築における重要な課題となるだろう。

競合であるWinspaceが日本の風洞施設でテストを実施し、具体的なワット削減値を公表しているように、哲学を語るだけでなく、その哲学がもたらす性能上の優位性を具体的な数値で証明することが、トップブランドの仲間入りを果たすためには不可欠である。

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QianKun CS50の技術

QianKun CS50は、ブランドの哲学を具現化するために、素材科学、空力学、機械工学の各分野における先進技術を結集して設計されている。本セクションでは、まずホイールセットの全体仕様を概観し、続いてその性能を決定づける主要コンポーネントであるリム、ハブ、スポークを個別に分析する。

表1:QianKun CS50 詳細スペック一覧

カテゴリ 仕様
リム  
ハイト 50 mm
内幅 23 mm
外幅 32 mm
素材 HI-MOD T1000 カーボンファイバー
タイプ フックあり、チューブレスレディ
単体重量 375g
ハブ  
モデル QianKun Hub
ベアリング セラミックシールドベアリング
ラチェット 36T
アクスル規格 フロント:100 x 12 mm, リア: 142 x 12mm, スルーアクスル
フリーハブ Shimano HG 11/12-speed, SRAM XDR, Campagnolo N3W
スポーク  
素材 高弾性率カーボンファイバー
形状 エアロ断面、T-Head形状
ホイールセット  
総重量 1,185g
推奨タイヤ幅 28c (空力最適化)
対応タイヤ幅 25c – 45c
価格 ¥238,000

リム:空力性能と素材科学の融合

CS50のリムは、軽量性、空力性能、そして耐久性を高次元で融合させるための設計が随所に見られる。

素材と軽量性

リムの素材には、航空宇宙産業でも使用される高弾性率(HI-MOD)のT1000カーボンファイバーが採用されている。この素材は卓越した強度重量比を誇り、50 mmというエアロ性能を意識したリムハイトでありながら、リム単体で375 gというクラス最高レベルの軽量性を実現する基盤となっている。

リムプロファイルと空力設計

リムの寸法は、内幅23 mm、外幅32 mmという現代のトレンドを完全に反映したワイドプロファイルである。この設計の核心にあるのが、空力性能を最大化するための「105%ルール」の適用である。

このルールは、リムの最も広い部分の幅が、装着されたタイヤの実測幅の少なくとも105%であるべきだとする経験則である。

CS50は28cタイヤ装着時にこのルールに準拠するよう最適化されており、タイヤからリムへと空気がスムーズに流れ、気流の剥離を抑制することで空力抵抗を低減する効果が期待される。

外幅32 mmという設計は、28cタイヤの実測幅が約30.5 mmになることを想定したものであり、空力性能を重視するユーザーに対する明確なメッセージとなっている。

ただし、この効果はタイヤのモデルや空気圧による実測幅に依存するため、最適な空力性能を得るにはタイヤ選択が重要となる。

構造と汎用性

フックドリムを採用している。

CS50は、最新トレンドであるフックレスではなく、伝統的なフックあり(Hooked)リムを採用している。これは、単なる技術的選択以上の戦略的な意味を持つ。フックレスリムは、特定のタイヤとの互換性や使用可能な最大空気圧に制限がある場合が多く、安全性への懸念も一部で指摘されている。

フックあり設計を採用することで、CS50は25cから45cまで幅広いクリンチャーおよびチューブレスタイヤとの互換性を確保し、ユーザーに「選択の自由」と「実績のある信頼性」を提供している。

一時は、フックレスリムが主流になるかと思われたが、安全性や、タイヤの保持性などの問題から、ROVALやENVEはフックドに回帰している。おそらく、ロード用ホイールでフックレスは無くなっていくと予想されている。CS50のフックドの方針は間違っておらず、正しい方向へ向かっている。

また、別の角度からみると、新興ブランドとして、過度に急進的な技術のリスクを避け、まずは市場での信頼を確立しようとする堅実な姿勢の表れとも言える。

耐久性:

軽量化を追求する一方で、構造的堅牢性も確保されている。メーカーは、UCI基準の3倍以上に相当する120 Jの衝撃試験をクリアし、各スポークホールは最大600 kgfの引張力に耐える設計であると公表している。

これは、製品がレースのような過酷な条件下での使用に十分耐えうることを示している。

ハブシステム:動力伝達の心臓部

QianKunのホイールにおいて、最も特筆すべき点はハブにある。

他のどのパーツよりもハブの仕組みが際立っている。QianKun専用の新しいハブを開発したのだ。特徴的なのは、エンゲージメントアングルに10°の角度が着いた設計になっている。ラチェットとラチェットのはめ合いが斜めに接触する。

これまで中華系ホイールで積極採用されているDTSWISSの特許切れ技術を流用したラチェットタイプは、エンゲージメントアングルが0°で面と面で接触する方式が主流だった。

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DTSWISS スターラチェット左が特許切れ、右がEXP、面で接触する構造。

エンゲージメントアングルが着いているラチェットは摩擦抵抗が低く、摩耗にも強いとされている。しかし、この構造を持つハブは限られており、プリンストンカーボンワークスが開発した高級ハブTactic Racing TR01や、オルベア OQUO Q10ハブ、ドイツのnon plus component hubに限られる。

OQUOに搭載されているスプリング。

10万円~20万円のハイエンドハブに採用されている仕組みが、QianKunのホイールに搭載されているのは異例だ。スプリングもOQUO Q10と同じ方式を採用している。あえて見えないラチェット部分にまで手を抜かない姿勢は、QianKunの本気度がうかがえる。

ハブだけでも単体販売しないかと思えるほどの構造と出来だ。

内部機構と反応性:

内部には36Tのラチェットシステムが搭載されている。これにより、エンゲージメントアングルは10度(360° / 36)となり、ペダルを踏み込んだ際の迅速な動力伝達を実現する。

36Tという歯数は、DT Swissの信頼性の高いハブでも採用実績があり、極端な多ノッチシステムが持つ可能性のあるドラッグ増加や耐久性の懸念を避けつつ、ロードライディングにおけるほとんどの状況で十分な反応性を提供する、まさに「バランス」を重視した選択と言える。

ベアリングと回転性能:

標準でセラミックシールドベアリングが装備されており、「超低転がり抵抗」が謳われている。セラミックベアリングの採用は、ハイエンド製品としてのスペックをアピールする上で効果的である。

しかし、その実用的なメリットと、スチール製に比べてデリケートで、汚染に弱く、高いメンテナンス性が要求されるというデメリットについては議論が尽きない。

この採用は、競合であるWinspace HYPERやElitewheels DRIVEも同様であり、この価格帯のハイパフォーマンスホイール市場におけるスペック競争上の必然的な選択であったと推測される。

独自設計と耐久性:

ハブシェルはCNC加工されたアルミニウム製で、「two spoke heads in one hole hub flange geometry」という独自のフランジ設計が採用されている。これは、ハブの軽量化とスポークの支持剛性を両立させるための工夫である。

また、「Pro-Fit TA System」は、スルーアクスルの締めすぎによるベアリングへの過剰な与圧を防ぎ、スムーズな回転と長寿命化に貢献する。メーカーは、230 Nmのトルクで52,000サイクルという過酷な耐久試験をクリアしたとしており、長期的な信頼性に対する自信を示している。

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QianKunのハブが魅力的である理由

ハブの話が出たところで、QianKunに搭載されているハブがいかに魅力的であるかを、ハブの基本原理からひとつひとつ確認していきたいと思う。

自転車のリアハブに内蔵されるフリーハブ機構は、駆動系における極めて重要なコンポーネントである。その工学的な基本要件は、ペダリングによって生じるトルクを一方向(前進方向)にのみ伝達し、逆方向(ペダリング停止時)にはホイールの自由な回転、すなわち空転を許容することにある。

この一方向クラッチ機能を実現するため、自転車の歴史を通じて主に二つの機械的ソリューションが主流となってきた。一つは、スプリングによって爪(ポール)をラチェットリングに噛み合わせる「ポールシステム」、もう一つは、二つの歯車状のリングが直接噛み合う「フェイスラチェットシステム」である。

従来型ポールシステムの限界

image: DTSWISS

長年にわたり多くのハブで採用されてきたポールシステムは、構造が比較的単純である一方、機械的な限界も内包している。このシステムでは、トルクが数個のポール(通常2個から6個)に集中して伝達される。

高トルクが入力された際、各ポールが完全に同時にラチェットリングにエンゲージしない場合、特定のポールに過大な応力が集中し、破損のリスクが増大する。

また、エンゲージメント速度を向上させるためにポールの数を増やすと、機構が複雑化し、各ポールのスプリングテンションを均一に保つことが困難になるという設計上のトレードオフが存在する。

これらの限界から、より高い信頼性とトルク伝達能力を求めるハイエンド市場では、新たな解決策が模索されることとなった。

DT Swissスターラチェットの登場と業界標準化

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この課題に対する画期的な解決策として登場したのが、DT Swiss社のスターラチェットシステムである。この機構は、対向する二つのスターラチェットリングが、スプリングによって互いに押し付けられる構造を持つ。

ペダリングトルクがかかると、ラチェットの歯が全て同時に噛み合い、トルクを伝達する。この「全面同時エンゲージメント」により、接触面積が劇的に増大し、応力がシステム全体に均等に分散される。

結果として、従来のポールシステムとは比較にならないほどの高い信頼性と耐久性を実現し、スターラチェットは瞬く間に高性能ハブの業界標準(ベンチマーク)としての地位を確立した。Lightweight、ROVAL、BONTRAGER、CADEXなどほとんどのハイエンドホイールに採用されている。

新たな潮流:角度付き(コニカル)ラチェットシステムの台頭

Tactic Racing、NonPlus Componentsのハブは円錐の一体型ラチェットを採用している

DT Swissが確立したフェイスラチェットの優位性は、同社の基礎特許によって長らく保護されてきた。しかし、2020年頃にその主要な特許が失効したことで、市場の状況は一変した。これを契機として、多くのコンポーネントメーカーがフェイスラチェット機構の開発に参入し、技術革新の波が訪れた。

単なる模倣に留まらず、オリジナルのスターラチェットを超える性能を目指す中で生まれた最も重要な進化が、ラチェットの噛み合い面を平面から傾斜させた「角度付き(アングルド)ラチェット」または「円錐状(コニカル)ラチェット」である。

この新しいジオメトリは、ラチェットの中心を自動的に調整する作用、アライメントの改善、より効率的な力の伝達、そして独自の応力管理といった理論的な利点を持つ可能性を秘めている。

この新潮流を代表するYoeleo QianKun、Princeton Carbon Works Tactic Racing TR01、Orbea OQUO、そしてnon plus componentの各ハブシステムを詳細に解析し、その技術的優位性と設計思想を比較評価していく。

Yoeleo QianKunハブ:Q-ANGULAR36エンゲージメントの構造

製品名「Q-ANGULAR36」は、その機構的特徴を明確に示唆している。これは、36個の歯(36T)を持ち、その歯面が角度(Angular)を持つフェイスラチェットシステムであることを意味する。

この仕様から、エンゲージメントアングル(フリーハブが回転してからラチェットが噛み合うまでの最大角度)は、10°(360/10)と算出される。この10°という値は、DT Swissの標準的な36Tアップグレードキットと同等であり、パフォーマンス志向のライダーにとって十分に応答性の高い数値である。

しかし、Tactic Racingの60T(6°)やOQUOの45T(8°)といった競合製品と比較すると、最速の噛み合いではないことがわかる。ここには重要な設計上のトレードオフが存在する。同一径のラチェットリングにおいて、歯数が少ない(36T)ほど個々の歯はより深く、より堅牢になる。

これは、特に高トルク下での耐久性や摩耗耐性において有利に働く可能性がある。Yoeleoは、極端なエンゲージメント速度を追求する代わりに、信頼性と耐久性のバランスを重視した設計を選択したと推察される。

「エンデュラスプリング」の正体:ウェーブスプリングの可能性

QianKunハブのもう一つの特徴である「Endura Spring」は、その名称が「Endurance(耐久性)」を想起させることから、長期的な信頼性に寄与する特別なスプリング部品であることを示唆している。

「ウェーブスプリング(波ばね)」の採用は、Zipp社のCognitionハブなど、他のハイエンドコンポーネントにおいて、ベアリングのプリロード調整用にウェーブスプリングが採用され、その有効性が認められている。

第二に、OEM供給プラットフォームにおいて、スターラチェットとウェーブスプリングを組み合わせたアップグレードキットが流通しており、これはアジアの高性能コンポーネント製造サプライチェーンにおいて、この技術がトレンドとなっていることを示している。

工学的に見ても、ウェーブスプリングはコイルばねに対して明確な利点を持つ。一定の圧縮範囲においてより均一な軸方向の荷重を発生させることができ、省スペース性にも優れる。

さらに、コイルばねに見られるような軸方向の傾き(カント)が発生しにくいため、ラチェットリングを常に平行に保ち、長期にわたる安定したエンゲージメントと信頼性の向上に貢献する。これらの点から、Yoeleoのエンジニアリング戦略は、全く新しい機構を発明したわけではないことがわかる。

ハイエンドOEMサプライチェーンから出現しつつある最も効果的な新技術(角度付きラチェットとウェーブスプリング)を賢明に採用・統合し、Tactic RacingやOQUOなど、より高価な「イノベーター」ブランドに匹敵する性能を、競争力のある価格で実現することにあると考えられる。

これは、基礎研究開発に多額の投資を行うのではなく、有望な技術を迅速に製品化する「スマート・アダプション(賢明な採用)」モデルであり、QianKunハブを画期的な新技術というよりは、実用的な高性能の選択肢として位置づけている。

言い方は賛否両論あると思うが、中国企業が他社の技術を真似てスピーディーに市場に製品を投入する例がここでも垣間見える。

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競合技術のベンチマーキング

Princeton Carbon Works – Tactic Racing TR01

Tactic Racingハブは、ドイツのnon plus component社と密接な技術的関係を持つ。「姉妹会社」とされ、その設計の多くはNonplusから借用されている。

筆者も長らく愛用していた初代TR01ハブは、「ConicalFace Gear」と名付けられた45Tの円錐状ラチェット(エンゲージメントアングル8°)を特徴とし、市場に登場した。

分解図から確認できることは、この機構はスプリングで付勢された可動式の円錐状ラチェットが、フリーハブボディに固定された対のラチェット面に押し付けられる構造である。

最新版のTR01 V2では、この機構が「Helical Drive System (HDS)」へと劇的に進化した。歯数を60T(エンゲージメントアングル6°)に増加させると同時に、ラチェットを駆動させるスプラインを直線状から螺旋状(ヘリカル)に変更した。

このヘリカルスプラインの採用は、技術的に極めて重要である。ペダリングによってトルクが加わると、螺旋状のスプラインがネジのように作用し、二つのラチェット面を能動的に引き寄せてクランプ力を増大させる。

これは「自己倍力効果(セルフエナジャイジング)」と呼ばれる原理であり、Chris King社のRingDriveなどでも利用されている高度な技術である。

この効果により、スプリングの荷重を最小限に抑えることが可能となり、結果としてフリーホイール時の抵抗(ドラッグ)を大幅に低減できる。V1からV2への進化は、単なる歯数の増加ではなく、機械的洗練度における大きな飛躍を意味する。

Orbea OQUO Q10:SHARKRATCHETとCrest-to-Crestスプリング

Orbea社のホイールブランドであるOQUOが開発したQ10ハブは、「SHARKRATCHET」と呼ばれる45Tの角度付きラチェットシステムを核としている。これにより8°のエンゲージメントアングルを実現し、ハブシェルやフリーハブボディには航空宇宙グレードの7075 T6アルミニウムが使用されている。

Q10ハブにおける最大の技術的特徴は、独自開発の「Crest-to-Crestスプリング」である。一般的なスプリングが平坦な面からラチェット全体を押すのに対し、このスプリングはその名の通り、ラチェット歯の背面にある頂点(Crest)同士を支持するような形状を持つと。

その目的は「軸方向の応力をより効果的に管理する」ことにある。

これは、単にエンゲージメントのための荷重を加えるだけでなく、ハブ軸のたわみやねじれといった複雑な実世界の負荷がかかった状態でも、二つのラチェットリングの同心性と平行性を完璧に維持し、噛み合いのズレや意図しない抵抗を防ぐための設計思想と解釈できる。

このアプローチは、極限状況下での絶対的な信頼性と堅牢性を最優先するものである。

オルベア製のハブ!OQUO Q10 徹底解析:バスクが生んだシャークラチェットシステムの革新性
スペイン製OQUO Q10ハブの技術仕様、独自機構、実走レビューを徹底分析。専門家向けに、その性能、メリット・デメリット、競合製品との比較まで、多角的な視点から深く掘り下げた完全レポート。

non plus component:設計思想の原点

ドイツのnon plus component社は、前述のTactic Racingハブの製造元であり技術的源流だ。非常に製品品質が良く、芸術的な仕上がりになっている。クリスキングを凌ぐハブメーカーともその設計思想は同社の「5つの約束」として体系化されている。

その中核をなすのが「NON ABRASION」と名付けられた特許技術である。従来のラチェット歯の背面が「点」で接触するのに対し、Nonplusの歯は「線」で接触するように特殊なジオメトリが与えられている。

これにより接触面積が大幅に増大し、摩耗(Abrasion)が劇的に抑制される。この革新的な耐久性向上により、ラチェットを含む主要部品の全てを軽量なアルミニウムで製造することが可能となった。

さらに、「NON STOP」はフリーハブボディのスプラインからハブシェルのスプラインまで、歯と歯が1対1で対応するダイレクトな動力伝達を保証し、伝達ロスを最小化する。

これらに加え、温度変化による内部の負圧発生を防ぎベアリングへの水分侵入を阻止する「NON VACUUM」換気システムや、自己調整式のベアリングプリロード機構「NON PLAY」など、単なるラチェット機構に留まらない。

システム全体としての長期的な耐久性を追求する包括的なアプローチが特徴である。

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比較分析:角度付きラチェットシステムの設計思想と性能評価

各ハブシステムの定量的特性を明確にするため、主要な技術仕様を以下の表にまとめる。

表1: 角度付きラチェットハブの技術仕様比較

特性 Yoeleo Qianqun Tactic Racing TR01 V2 Orbea OQUO Q10 non plus component
機構名称 Q-ANGULAR36 Helical Drive System (HDS) SHARKRATCHET NON ABRASION Bevel Gear
エンゲージメント原理 角度付きフェイスラチェット ヘリカルスプライン角度付きラチェット 角度付きフェイスラチェット ベベルギア式ラチェット(ヘリカルスプライン)
歯数

36T

60T

45T

45T

エンゲージメントアングル (°) 10°
スプリングシステム Endura Spring (ウェーブスプリング)

改良型コイルスプリング

Crest-to-Crest Spring

円錐コイルスプリング (特許情報) 

主要な独自技術 システム統合 Helical Drive System (HDS) Crest-to-Crest Spring NON ABRASION 線接触歯面
ラチェット/フリーハブ材質 アルミニウム

70系アルミニウム

7075 T6 アルミニウム

硬質アルマイト処理アルミニウム

公称重量(セット)

約 207 g

約 279 g (F:104g/R:175g) 

約 204 g (F:63g/R:141g) 

製造国 中国

ドイツ

バスク国

ドイツ

設計思想の分岐点:力の伝達と管理

比較対象となる4つのハブは、角度付きラチェットという共通項を持ちながらも、エンゲージメントにおける力の伝達と管理に関して、明確に異なる3つの設計思想を体現している。

思想1:自己倍力システム(Tactic V2, Nonplus)

このアプローチは、ヘリカルスプラインを利用して駆動トルクそのものをラチェットのクランプ力に変換する、最も機械的に洗練されたソリューションである。

トルクがかかるほど強く噛み合うため、スプリングの役割は初期の噛み合わせを補助する程度に抑えられ、フリーホイール時のドラッグを最小化できる。これは機械効率の最大化を追求する思想である。

思想2:応力緩和・制御システム(OQUO)

このアプローチは、あらゆる負荷条件下でコンポーネントの完璧なアライメントを維持することに主眼を置く。

独自のCrest-to-Crestスプリングは、単に力を加えるのではなく、力を「正しく方向付ける」ことで、軸のたわみ等によって生じるオフアクシス負荷(軸外からの力)による噛み合い不良や摩耗を防ぐ。これは絶対的な堅牢性と信頼性を追求する思想である。

思想3:最適化された従来システム(Yoeleo)

このアプローチは、角度付きラチェットという基本設計を踏襲しつつ、スプリングという要素部品を最新の高性能品(ウェーブスプリング)に置き換えることでシステム全体を最適化する。

力の加え方そのものを変革するのではなく、より優れた部品を用いてその方法を完成させることを目指す。これは信頼性の高い性能と製造効率のバランスを追求する思想である。

性能のトレードオフ:エンゲージメント速度 vs. 耐久性

エンゲージメント速度は、Tacticの6°が最も速く、次いでOQUO/Nonplusの8°、そしてYoeleoの10°と続く。この速度は歯数と直接関係するが、歯数と個々の歯の大きさ・深さには逆相関の関係がある。

Tacticの60Tラチェットは、必然的にYoeleoの36Tラチェットよりも歯が浅く小さくなる。現代の材料工学と加工技術はこの設計を可能にしているが、同時に製造公差やアライメント精度に対して極めて高い要求を課すことになる。

この高歯数化に伴う耐久性の課題に対し、Nonplusの「NON ABRASION」技術は直接的な解決策を提示する。歯の接触面を「線」にすることで摩耗を大幅に低減し、オールアルミニウム構造でありながら高い耐久性を確保している。

これはプロモーション用の誇大表記ではなく、実際にTR01をかなり乗り込んだ後、中のアルミ製ラチェットを確認したが摩耗が見られなかった。これは他のアルミニウム製ラチェットシステムに対する明確な優位点となり得る。

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Yoeleo QianKunハブの技術的ポジショニング

もう少しだけQianKunの素晴らしいハブの話をしよう。

Yoeleo QianKunハブは、革命的な新機構を搭載しているわけではないが、業界の最先端トレンドを巧みに、そして知的に実装した非常に完成度の高い製品であると結論付けられる。

その設計は、角度付きラチェットやウェーブスプリングといった、先進的でありながらもアクセス可能な製造技術を活用し、重量、エンゲージメント、信頼性といった主要な性能指標においてトップクラスの製品と競合する性能を実現する戦略を体現している。

その真の革新性は、これらの要素を一つの「まとまり」かつ、コスト効率の高いシステムとして統合した点にある。角度付きラチェットシステムが現在の主流となりつつある中で、ハブ技術の次なるフロンティアは、さらなる低抵抗化と力の伝達方法の革新にあると考えられる。

Onyx Racing Productsが採用するスプラグクラッチ

Onyx Racing Productsなどが採用するスプラグクラッチは、瞬時のエンゲージメントと無音のフリーホイールを実現するが、重量とコストが課題となっている。

Lauf Cyclingが開発中のコンセプトハブ

また、Lauf Cyclingが開発中のコンセプトハブに見られるような、エンゲージメント時の衝撃を緩和する「ランプド(傾斜した)」または「ソフト」エンゲージメント機構は、ドライブトレイン全体の負荷を軽減し、コンポーネントの軽量化を促進する可能性を秘めている。

これらの技術が成熟し、市場に投入される時、高性能ハブのパラダイムは再びシフトしていく。

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カーボンスポーク:剛性と軽量化の鍵

CS50の際立った特徴の一つが、高弾性率カーボンファイバー製スポークの採用である。カーボンスポークは昨今のハイエンドホイールで標準になっている。本章では、重要なQianKunに搭載されているカーボンスポークファイバーについて詳細にみていく。

素材と性能

重量は2.9g

カーボンスポークは、同等の強度を持つスチールスポークに比べて大幅に軽量でありながら、高い引張強度と剛性を持つ。

これにより、ホイール全体の軽量化、特に回転質量の削減に大きく貢献すると同時に、ホイールの横剛性を高め、スプリントやコーナリング時の反応性を向上させる。「ultra-fast power transfer」というメーカーの主張は、この高い剛性に裏打ちされたものである。

最近ではしなやかなカーボンスポークが主流になったが、QianKunは硬めのカーボンスポークを採用している。カーボンスポークのフレックスを硬めか、柔らかめかどちらを選ぶかはユーザーの趣味趣向による。ラーメン屋で麺の硬さを選ぶのと一緒だ。カーボンスポークも好みによる。

QianKunに搭載されているスポークは硬いため、おのずと乗り味も硬くなる。

構造とメンテナンス性:

CS50のスポークは、ハブ側にT-Head形状のヘッドを持ち、機械的に固定される構造を採用している。これは、かつてリムやハブに直接接着されていた初期のカーボンスポークとは異なり、スチールスポークと同様に個別の交換や振れ取り調整を可能にする「第二世代」の設計である。

このメンテナンス性の向上は、カーボンスポークが持つ最大の欠点を克服し、レース専用機材から日常的な使用も可能なコンポーネントへとその位置付けを大きく変えるものである。

剛性と快適性のトレードオフ:

カーボンスポークがもたらす高い横剛性は、パワー伝達効率を向上させる一方で、乗り心地を硬化させる可能性がある。スチールスポークが持つわずかな「しなり」が吸収していた路面からの微振動が、よりダイレクトに伝わりやすくなるためである。

この点に対し、CS50は内幅23 mmのワイドリムと28c以上の太いタイヤを低圧で運用することを前提としている。

タイヤの大きなエアボリュームがサスペンションとして機能し、カーボンスポークによる高い剛性と、乗り心地の良さという相反する要素を両立させる、システム全体での「バランス」を意図した設計であると考えられる。

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実測重量

テープとバルブ込みでフロント558.5g、リア674gで合計1,232gだ。

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インプレッション:実世界のパフォーマンス

各コンポーネントの技術仕様を統合し、QianKun CS50が実世界の走行においてどのようなパフォーマンスを発揮するかを評価していく。

軽量性(ヒルクライムと加速性能):

公称値1,185g ±3%というホイールセット重量は、50 mmハイトのディスクブレーキ用ホイールセットとして市場で軽量な部類に入る。特に、回転質量の大部分を占めるリムが単体で375 gと極めて軽量であることは、性能に決定的な影響を与える。

これにより、ゼロからの加速やコーナーからの立ち上がり、そしてヒルクライムといった、慣性モーメントの小ささが直接的にアドバンテージとなる場面で、メーカーが謳う「爆発的な加速(explosive acceleration)」を生み出される。

このスペックは、CS50を単なるエアロホイールではなく、「エアロ性能を持つ本格的なクライミングホイール」という新しいカテゴリーに位置づけるものである。ROVAL RAPIDE CLX IIIもこの方向性に向かっており、市場の最新トレンドの流れを汲んでいる。

このように、伝統的に相反すると考えられてきた「超軽量」と「エアロ」という二つの特性を極めて高いレベルで両立させており、起伏の激しいコースプロフィールを持つグランフォンドや山岳ステージレースにおいて、その真価を最大限に発揮するだろう。

剛性:パワー伝達とハンドリング

高弾性カーボンスポークと、T1000カーボンを用いた高剛性リムの組み合わせは、優れたパワー伝達効率をもたらす。ライダーがペダルに込めた力は、ホイールのたわみ(フレックス)によって失われることなく、即座に推進力へと変換される。

これは、ゴール前のスプリントやアタックといった、一瞬の反応性が勝敗を分ける状況で大きな武器となる。また、高い横剛性はコーナリング時のハンドリングにも好影響を与える。ホイールがヨレにくいため、ライダーは狙ったラインを正確にトレースでき、高速でのダウンヒルにおいても安定した予測可能な挙動をする。

空力性能:高速巡航

50 mmのリムハイトと、28cタイヤに最適化された幅広のリムプロファイルは、平坦路での高速巡航時に空気抵抗を削減するために設計されている。特に「105%ルール」に準拠した設計は、タイヤとリムが一体となってスムーズな翼断面を形成し、気流の乱れを最小限に抑えることを目的としている。

耐久性と信頼性:

メーカーは、衝撃、トルク、引張強度に関する厳格な社内テスト基準を公表しており、製品の耐久性に対する自信を示している。さらに、3年間のグローバル保証とクラッシュリプレイスメントプログラムの提供は、ユーザーにとって重要な安心材料となる。

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総評と課題

QianKun CS50は、重量、リム寸法、素材といった「測定可能な静的スペック」において、多くの高価格帯の競合製品を凌駕する、極めて優れた製品である。

しかし、その一方で、空力性能(特定のヨー角におけるドラッグ係数)や剛性(N/mm単位での変形量)といった「動的な実証データ」に関しては、メーカーの定性的な主張に留まっている。

競合のトップブランドが風洞実験データなどを通じて性能を客観的に証明しているのに対し、QianKunのデータは現時点では不足している。この「スペックシート上の優位性」と「独立した実証データの不在」という非対称性は、ブランドが今後、ライダーからの完全な信頼を勝ち得る上で乗り越えるべき課題である。

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市場におけるポジショニングと競合製品比較

QianKun CS50の真価を評価するためには、市場に存在する主要な競合製品との比較が不可欠である。本セクションでは、$1,650という価格設定を基軸に、同じく50 mmハイトクラスの主要なホイールセットとスペックを比較し、CS50の独自のポジショニングを明らかにする。

表2:主要50mmハイト級カーボンホイールセット比較分析

製品名 (ブランド) 公称重量 (g) リム寸法 (内/外, mm) リムハイト (mm) スポーク素材 ハブ機構 特記事項
QianKun CS50 1185 23 / 32 50 Carbon Ratchet (36T) フックあり, セラミックベアリング
Winspace HYPER 3 D45 1334 23 / 28.4 46 / 54 Carbon Ratchet

フックあり, セラミックベアリング

Elitewheels DRIVE 50D II 1300 23 / 31 50 Carbon Ratchet (50T)

フックあり, セラミックベアリング

Zipp 303 Firecrest 1408 25 / 30 40 Steel Ratchet (66 POE)

フックレス

Roval Rapide CLX III 1308 21 / 35(F), 31.3 (R) 51 / 48 Carbon Ratchet (DT 180, 36T)

フックあり, セラミックベアリング

ENVE SES 4.5 1432 25 / 32 50 / 56 Steel Ratchet

フックレス

vs. 中国DTC競合 (Winspace, Elitewheels):

Winspace HYPERシリーズやElitewheels DRIVEシリーズは、CS50の最も直接的な競合相手である。これらのブランドは、カーボンスポーク、セラミックベアリング、ワイドリムといった先進的な仕様を$1,500前後の価格帯で提供し、市場を席巻してきた。

比較すると、Elitewheels DRIVE 50D IIは1300 gとCS50に迫る軽量性を持ち、Winspace HYPER 3 D45も1334 gと非常に軽量である。リム寸法も各社23 mm前後の内幅を採用しており、設計思想は酷似している。

この中で、CS50の1185 gという重量は頭一つ抜けており、特に軽量性を最優先するユーザーにとって決定的な差別化要因となる。

vs. 欧米トップブランド (Zipp, Roval, ENVE):

欧米のプレミアムブランドと比較すると、CS50の価値はさらに際立つ。

Zipp 303 FirecrestやENVE SES 4.5は、フックレスリムを採用し、最先端の空力設計を追求しているが、重量ではCS50に200 g以上の差をつけられている。また、価格は$2,500を超え、CS50とは大きな隔たりがある。

Roval Rapide CLX IIは、横風安定性を追求するために前後で全く異なるリム形状を採用するという非常に高度なアプローチを取っているが、その代償として重量は1520 gに達し、CS50との差は300 g以上にもなる。CLX IIIでは1300gと非常に軽量で軽量化が図られたが、それでもCS50よりも100g以上重い。

この比較から浮かび上がるのは、QianKun CS50が「重量」という極めて分かりやすく、かつライダーが性能として体感しやすい絶対的な指標において、市場全体に対して破壊的な優位性を持っているという事実である。

サイクリング、特にヒルクライムにおいて、回転部分の重量削減は加速性能に最も直接的に影響する。CS50のスペックは、他の要素(ブランドの歴史、微細な空力データの差)を覆しうるほどの強力な訴求力を持つ。

これは、DTCブランドが特定の性能指標にリソースを集中投下することで、既存の市場秩序を再編する典型的な戦略である。

さらに、$1,650という価格設定は、従来の市場構造そのものを変革する力を持つ。これまで、カーボンスポークや1200 gを切るエアロホイールは、$3,000を超えるプレミアム製品の領域であった。

QianKun CS50は、ElitewheelsやWinspaceと共に、かつての「エントリーカーボン」と「プレミアム」の間に存在した広大な価格帯に、「フルスペックのハイパフォーマンスホイール」という新たな「ミドルハイ」市場を創出した。

これにより、消費者は欧米ブランドのミドルグレード製品の価格で、DTCブランドのトップグレード製品を手に入れることが可能になり、選択基準が「ブランドの権威」から「絶対的な性能対価格比」へと大きくシフトしつつある。

長所と短所

これまでの分析を総合し、QianKun CS50の長所と短所を総括し、このホイールセットがどのようなライダーに最も適しているかを定義する。

  • 圧倒的な軽量性: 50 mmハイトのディスクブレーキホイールとして1185 gという重量は、市場における絶対的なアドバンテージであり、登坂性能と加速性能を最優先するライダーにとって比類なき価値を提供する。
  • 先進技術の採用: T1000カーボンファイバー、高剛性カーボンスポーク、セラミックベアリングといった、通常はより高価格帯の製品に採用される技術を標準装備している。
  • 現代的な設計思想: 内幅23 mm/外幅32 mmのワイドリムは、28cタイヤとの組み合わせで空力性能を最適化する現代的な設計である。
  • 卓越したコストパフォーマンス: 上記の性能と技術を$1,650という価格で実現しており、性能対価格比は市場で最高レベルにある。

短所および潜在的懸念事項

  • 実証データの不足: メーカーの主張を裏付ける、独立した第三者機関による風洞実験データや剛性測定値が公表されておらず、性能の客観的な評価が困難である。
  • 長期信頼性の未知数: セラミックベアリングやカーボンスポークといったコンポーネントは、スチール製に比べてデリケートな側面があり、長期的な耐久性やメンテナンス性については実績の蓄積を待つ必要がある。
  • ブランドの確立: QianKunは新興ブランドであり、長年にわたりトップレベルのレースで性能と信頼性を証明してきた欧米ブランドが持つ無形の資産(ブランド価値、実績)はまだない。

推奨ライダープロファイル:

  • 競技志向のクライマー/オールラウンダー: ヒルクライムレースや山岳グランフォンド、起伏の多いロードレースでアドバンテージを求める競技者。軽量性と空力性能の両立は、このようなシナリオで最大の効果を発揮する。
  • 合理的なアーリーアダプター: 確立されたブランド名よりも、絶対的なスペックと性能対価格比を重視する、技術に精通した経験豊富なサイクリスト。新しい技術やブランドを積極的に試し、自らその価値を評価することに喜びを見出すタイプ。
  • アップグレードを検討する中級以上のライダー: 純正のアルミホイールやエントリークラスのカーボンホイールからの大幅な性能向上を、現実的な予算内で実現したいと考えているライダー。

慎重な検討を要するライダー:

  • メンテナンスを外部に委託するライダー: カーボンスポークやセラミックベアリングのメンテナンスは、専門的な知識を要する場合がある。このホイールの性能を長期間維持するためには、ユーザー自身にある程度のメンテナンススキルがあるか、信頼できる専門ショップへのアクセスが重要となる。
  • 絶対的な信頼性とサポートを求めるライダー: ブランドの歴史や、確立されたディーラーネットワークを通じた手厚いサポート体制を最優先するライダー。
  • 横風への耐性を最優先するライダー: 横風安定性に関する客観的なデータが不足しているため、常に強風に晒される沿岸部などを主な走行ルートとする軽量なライダーは、実績のある他社製品と比較検討することが望ましい。

結論として、QianKun CS50は、その先進的なスペックと魅力的な価格設定から、新しい技術を積極的に試す「アーリーアダプター」層に最も強く訴求する製品である。

製品の真価は長期的な使用によってのみ証明されるため、現時点での購入は、ある種の「賭け」の要素を含む。このリスクを受け入れ、最先端の性能をいち早く手に入れることに価値を見出すライダーこそが、現時点での理想的なユーザー像と言えるだろう。

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まとめ:サイクリングヒエラルキーにおけるQianKun CS50の現在地

QianKun CS50は、現代の高性能ホイール市場において、無視できない強力なインパクトを持つ製品である。その核心は、特に「重量」という一点において、既存の市場の常識を覆すほどの圧倒的なスペックを実現したことにある。

50 mmハイトのエアロホイールでありながら1200 gを切るという数値は、数年前までは数倍の価格の超高級ブランドでしか達成できなかった領域であり、それを$1,650という価格で市場に投入したことは、技術的かつ商業的な達成と言える。

このホイールセットは、T1000カーボン、カーボンスポーク、ワイドエアロリムといった、現代の高性能ホイールを構成する要素をすべて盛り込みながら、「フックありリム」の採用によって汎用性と信頼性にも配慮するなど、極めて戦略的に設計されている。

これにより、QianKun CS50は「スペックシートの王者」として、性能対価格比を最優先する合理的な競技者や熱心なサイクリストにとって、極めて魅力的な選択肢となっている。

しかし、その地位を不動のものとするためには、まだ乗り越えるべきハードルが残されている。第一に、メーカーの主張を裏付ける、独立した第三者による客観的な性能データ(風洞実験、剛性テストなど)の開示である。

第二に、市場での長期的な使用を通じた、耐久性と信頼性の証明である。これらは、新興ブランドがトップティアへと駆け上がるために不可欠なプロセスである。

現時点において、QianKun CS50は、確立されたブランドの権威に挑戦する「強力な挑戦者」であり、サイクリング機材における価値の序列を再定義する可能性を秘めたゲームチェンジャー候補である。

その評価が今後どのように定着していくかは、市場での実績の蓄積と、ブランドが発信する情報の透明性にかかっている。間違いなく、QianKun CS50の登場は、高性能ホイール市場の競争を新たな次元へと引き上げ、消費者にとってはより多くの選択肢と価値をもたらす、歓迎すべき出来事ではないだろうか。

10月31日までは先行セールで238,000円から15%OFFで202,300円になる。クーポンコード「yo10off」でさらに10%OFFになるため、182,070円で購入可能になっている。10月31日までのセールなのでお早めに。

QianKun CS50
QianKunは、T1000カーボンリムのパワー、新型ラチェットハブのスピード、カーボンスポークの剛性を融合し、最高のパフォーマンスを発揮する現代的なエアロホイールセットです。
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