偏心軸設計を採用し純正ケージ対応のプーリーシステム。チェーン屈曲角の最適化により、たすき掛け領域での駆動効率向上を図る。変速性能は純正と同等を維持し、使用時には「重さ」を感じさせない軽快な走行感を実現する。一方で、メンテナンス性や耐久性に課題があり、ワット削減の具体的な数値は非公表となっている。
- ➕️たすき掛け領域での顕著な効果
- ➕️純正と変わらない変速性能
- ➕️「重さ」を感じさせない走行感
- ➕️純正ケージに対応した設計
- ➖️雨や洗浄による耐久性の低さ
- ➖️ベアリング交換が不可能
- ➖️ワット削減効果の数値が不明
- ➖️偏心軸設計に限界
この偏心軸設計を考えた人は賢いなぁ。
TRIPEAK JETSTREAM PRO 2は、偏心軸設計により、純正プーリーケージをそのまま使いながらプーリー本体だけを12T/18T構成に交換できる、唯一無二のオーバーサイズプーリーだ。
メーカーは具体的なワット数削減値を公表していないが、Friction Factsのデータから推定すれば1~2W前後の駆動効率改善が現実的なレンジとなる。
JETSTREAM PRO 2の真価は数値ゲインそのものよりも、純正ケージ流用によるケージ交換に伴う変速トラブルリスクの回避、純正への復元容易性、そしてCeramicSpeedに対する圧倒的コストパフォーマンスにある。
偏心軸設計の技術: 純正ケージを使う
従来のビッグプーリーキットは何を犠牲にしてきたのか。この問いはTRIPEAK JETSTREAM PRO 2の設計思想を理解する上で重要な考え方になる。
従来のビッグプーリーキット(CeramicSpeed、Kogelなど)は、プーリーケージごと交換することで18~19Tの大径プーリーを保持するスペースを確保してきた。
この方式は理論上の最大ゲインを追求できる反面、シマノが長年磨き上げてきた純正ケージの剛性、位置精度、変速レスポンスを”手放す”ことを意味する。実際に、ケージ交換式ビッグプーリーでは変速の引っかかりや、チェーン落ちといったトラブルが少なからず報告されてきた。
偏心軸設計が解決した問題
Jetstream Pro 2の核心は、固定ネジ位置を中心から大きくオフセットさせた特許構造にある。これによりプーリー回転中心とケージへの取付ネジ中心が物理的に分離され、以下の利点が生まれる。
第一に、シマノ純正ケージのR81/R91/R92系をそのまま使用できるため、変速性能と剛性が純正のまま維持される。ケージとプーリーの横方向の位置関係は維持されるため、変速性能が落ちない。
第二に、チェーンの長さ調整が原則として不要である(ただしアウター×ローの組み合わせでは要調整の場合がある)。筆者は2リンク足しましたが。
第三に、プーリーキットだけで済むため価格が29,920円に抑えられ、ケージ交換式の半額以下となる。第四に、ベアリング不調時に純正ケージと純正プーリーに瞬時に戻せる保守性の高さがある。
さらに副次効果として、偏心構造によりプーリー本体内側に大きなボア径を確保できるため、純正プーリー(典型的に688Z系、内径8~10mm程度)より大幅に大きい外径のセラミックベアリングを使用可能となる。
ベアリング1球あたりのレース接触角が小さくなり回転抵抗が低下するメリットがある。
チェーン屈曲角の理論
チェーン屈曲角がなぜ重要なのか
チェーン駆動でリンクが歯車に巻き付くとき、各リンクが折れ曲がる角度(屈曲角)はθ=360°÷N(N=歯数)で与えられる。これは標準的に定義されている公式だ。
チェーンがプーリーに何度巻き付こうと屈曲角はプーリー歯数だけで決まる。この公式を適用すると、各歯数における屈曲角は以下のようになる。
| 歯数 | 屈曲角 | 用途 |
|---|---|---|
| 11T(シマノ純正DURA-ACE下プーリー) | 約32.73° | 純正基準 |
| 12T(Jetstream Pro 2 上プーリー) | 30.00° | ガイドプーリー |
| 18T(Jetstream Pro 2 下プーリー) | 20.00° | テンションプーリー |
つまり11T→18T化によって各リンクの屈曲角が約12.7°(38.6%)も減少する。チェーン駆動の摩擦損失はテンション、リンク屈曲角度、屈曲レート、横方向偏向(クロスチェーン)の積に比例するため、屈曲角の低減が摩擦低減に直結するという原理だ。
なぜ上プーリーを12Tに留めたのか
上プーリー(ガイドプーリー)を12Tに留めているのは変速精度の維持が主な理由だ。例えば、13Tのガイドプーリーを使うと、変速を丁寧に行わないとチェーンが外れることがある。
それ以上のサイズにすると、徐々に変速性能が落ちていく。12Tが変速精度と摩擦低減のスイートスポットであるという評価は、CeramicSpeed(上13T)やKogel(上12T)の設計思想とも整合する。
一方、下プーリー(テンションプーリー)は駆動チェーンのテンションを維持する役割であり、ここに掛かるチェーンテンションが摩擦損失の大きな要因となる。
Friction Factsの測定によれば、シマノDURA-ACE純正プーリーケージの下チェーンテンションは約14.19N(3.19lb)であった。下プーリーを大径化することで各リンクの屈曲角が緩やかになり、テンション下での摺動抵抗が低減されるという理屈は、物理的に妥当と言える。
NC Race G3セラミックベアリング
G3グレードセラミックとは何が違う?
TRIPEAK公式が公表するベアリングスペックは以下の通りだ。
G3グレード真円セラミックボール(窒化珪素Si3N4 Grade 3)を使用し、アウターおよびインナーレースにナノコーティングを施したNC Race仕様を採用している。メーカー公称値として動摩擦係数0.03、静摩擦係数0.07が示されている。
非接触ラビリンスシールであるZERO Contact Sealにより、グリス依存度を下げながら回転抵抗を増やさずに防水性を確保するとされる。公称耐久性は潤滑寿命300%以上の向上とされている。
ただし、これらの数値はTRIPEAK自社測定によるものであり、独立第三者機関による検証結果ではない点に留意が必要である。
従来とは異なるプーリーの構造
従来の多くのアルミ製プーリーと異なり、ベアリング外輪をガラス繊維強化ナイロンでインサート射出成形することで、ベアリングとプーリー本体間のガタを完全にゼロ化している。
これにより騒音低減(金属プーリーと比較した場合)、チェーン側板への摩耗負荷低減によるチェーン寿命の延長、ナローワイド歯形と相まったチェーン保持性の向上が期待される。
ケージ交換式との構造的な違い
競合製品との仕様・価格差
ビッグプーリー市場における主要製品の比較を以下に整理した。
| 製品 | 歯数(上/下) | 価格(税込/約) | ケージ交換 | 公称ワット節約 |
|---|---|---|---|---|
| TRIPEAK Jetstream Pro 2 | 12/18 | 29,920円 | 不要 | 非公表(推定1~2W) |
| CeramicSpeed OS(標準) | 13/19 | 約86,000~100,000円相当 | 必要 | 最低2.4W(メーカー公称) |
| CeramicSpeed OS(コーテッド) | 13/19 | 約100,000円以上相当 | 必要 | 同上 |
| CeramicSpeed OS Aero | 13/19 | 約110,000円相当 | 必要 | 2~4W+空力2.5秒/25km TT |
| Kogel Kolossos | 12/19 | 約58,000円相当 | 必要 | 2.5W |
| Kogel Kolossos ST | 12/19 | 約47,000円相当 | 必要 | 上記よりわずかに劣る |
| カーボンドライ Big Pulley V3 Plus | 12/17 | 38,500~46,000円 | 必要 | 2~5W(チェーンリング併用時) |
| RIDEA E60 | 16/20 | 約49,500円 | 必要 | 非公表 |
設計思想の根本的な違い
競合各社とTRIPEAKの最大の違いは、ケージ交換式かプーリー交換式かという構造的アプローチの差異にある。
CeramicSpeed、Kogel、RIDEAはいずれもケージを完全に置き換えることで、剛性や形状を一新して最大効果を狙う。その代償として、変速性能の再調整が必要になること、トラブル増加リスクがあること、そしてコストが高くなることが挙げられる。
一方、TRIPEAK Jetstream Pro 2はプーリー交換式(偏心方式)によって、シマノが磨き上げた純正ケージのジオメトリと剛性、リンクの寸法精度をそのまま温存しつつ、下プーリーだけを18Tにアップサイズする。
トレードオフとして、上プーリーが13Tではなく12Tに留まること、ケージ寸法に縛られるため19Tにできないことがあり、絶対値ゲインが理論最大値よりわずかに小さくなる可能性がある。
どちらが優れているかは一概に言えない。変速性能を絶対に犠牲にしたくないライダーにはTRIPEAK、最後の1Wまで絞り出したいタイムトライアリストやトライアスリートにはCeramicSpeed OSPWという棲み分けが、現時点では妥当な整理だろう。
駆動効率のエビデンス
ワット削減量は非公表
TRIPEAKは具体的なワット節約値を公表していない。
マーケティングコピーは「駆動摩擦を最小化しワットを獲得する」「チェーン偏向角を低減し回転抵抗を最小化する」という定性的な表現に留まっている。
CeramicSpeed(最低2.4W)やKogel(2.5W)と比較すると控えめであるが、逆に言えば、定量的根拠のない数値を掲げない誠実さとも解釈できる。
独立テストデータで推定

Jetstream Pro 2に特化した独立ベンチテスト結果は公開されていない。しかし参考となる先行データが複数存在する。

Figure 1: The highlights of the CeramicSpeed OSPW testing data are overlaid onto the pre-existing data from the original FF report.(Friction Facts)
Friction Factsは、250W負荷・95rpmの定常状態で同一ベアリングを使い10T、11T、13T、15Tプーリーを比較した。
その結果、最良(15T)と最悪(10T)の差はわずか0.49Wであり、近代的なディレイラーに一般的な11Tとの比較では0.25Wにまで縮小した。
これはプーリー径単体の寄与であり、ベアリング差やケージテンション差を含めると、Berner 13/15T対シマノDURA-ACE 11/11Tで1.76Wの差まで広がることも同テストで示されている。
CeramicSpeed OSPW 17T/17Tについては、Friction Factsで最低2.4Wの節約が主張されているが、別の独立評価では、最良の整備チェーンにおいて実測1~2W程度と公称値より控えめな数値が報告されている。
これらを総合すると、Jetstream Pro 2の12/18T構成は理論上、Berner 13/15Tを上回り、CeramicSpeed 13/19Tにわずかに及ばない範囲にあると推定される。
実走で体感できるレンジとしては1~2W前後が現実的であろう。ただしこの数値はあくまで推定であり、Jetstream Pro 2固有の第三者ベンチテストが待たれる。

学術的な裏付けは
チェーン駆動効率に関する学術文献(Spicer 2001年 “Effects of frictional loss on bicycle chain drive efficiency”など)および機械工学の教科書では、チェーン張力、潤滑状態、スプロケット径の3点を駆動効率の主要因としている。
下プーリー張力が低下するOSPW全般のメリットは、理論的に裏付けられた設計原理と言えるだろう。
インプレッション:「重さの不在」という逆説的な軽さ
Jetstream Pro 2を装着して走り始めたとき、最初に感じたのは「軽い」という感覚ではなかった。これは正直に記しておかなければならない。劇的な軽さが足に飛び込んでくるような体験は、少なくとも私のペダリングにおいては発生しなかった。
しかし、走り込むうちに気づいたのは、「重くなったことに気づかない」という、より本質的な変化であった。
わたしの走行スタイルでは、フロントギアをアウターに入れたまま、リアカセットだけをローギア方向に送っていくことが多い。このとき、アウター×ハイギア側のたすき掛け状態が深まるにつれて、駆動系に独特の「重み」が生じる。
これはパワーの問題ではなく、チェーンラインの歪みが生む抵抗感、脚が回す円運動のなかに、わずかな粘りや引っかかりとして知覚される感覚である。
通常、この「重み」を身体のセンサーが検知した時点で、「そろそろフロントをインナーに落とすべきかな」という判断が自然と下される。いわば、たすき掛けの「重み」が変速のトリガーとして機能していた。
Jetstream Pro 2を使用すると、このトリガーがいつまで経っても発動しなかった。
アウター54T×34Tという、本来であれば明確な「重み」を感じるはずのギアポジションに、気づかないまま到達していた。「あ、もうハイギアが無い」と、カセットの端にぶつかって初めて、たすき掛けの深さに気づく。これは奇妙な体験だった。
軽くないが、重くない
この奇妙な体験をもう少し考察してみたい。
「軽くなった」と表現することは、事実の一面しか捉えていない。より正確には、「たすき掛けが生む摩擦の増分が、身体の閾値を超えなくなった」というべきであろう。
人間の感覚には、変化を検知するための最小差異量が存在する。純正プーリーの状態では、アウター×ハイギアのたすき掛けが深まるにつれて摩擦が増大し、その増分がペダリングの「重み」として閾値を超えていた。
Jetstream Pro 2による摩擦低減は、その増分を閾値以下に抑え込んだと解釈できる。
これは「5W軽くなりました」という定量的な報告よりも、むしろ本質的な情報であると考えている。なぜなら、ライダーが実走で体感する変化とは、絶対値の変化ではなく、身体の閾値との相対関係だからだ。
パワーメーターが示す数値の差は微小であっても、その差がちょうど閾値を跨ぐか跨がないかで、体験の質は根本的に変わる。Jetstream Pro 2は、まさにこの閾値の「向こう側」に摩擦を押し込んだパーツと言えるだろう。
たすき掛け領域での効果の顕著さ
別の角度から。
この「重みの消失」は、チェーンラインが直線に近いギアポジションではほとんど意識されなかった。アウター×トップ付近の、チェーンラインが比較的揃った状態では、純正プーリーとの差は体感として明瞭ではない。
これはFriction Factsのデータとも整合する。チェーンラインが直線的な場合、もともとの摩擦損失が小さいため、プーリー大径化による削減量も限定的になる。
効果が顕著だったのは、やはりアウター×ハイギアのたすき掛け領域だった。チェーンが横方向にも縦方向にも大きく屈曲を強いられるこの領域で、Jetstream Pro 2は明確にその存在感を示した。
いつもなら身体が「そろそろインナーに」と警告を発するポイントを、気づかぬまま通過してしまう。この感覚は、複数回の走行で再現性をもって確認されが、次第にこの「重み」に慣れて無くなってしまった。
消えた「重み」はどこへ
12T-18T化で明らかに軽く回るようになり、普段よりギア1枚は重いギアを使うことが多くなった(気がする)。体感としてはハイエンドタイヤに交換したのと同程度にバイクが進む印象がある(気がする)。
最も重要なのは、純正ケージによる変速トラブルリスクの低さと、大口径ベアリングによる回転抵抗低減だ。
取付た段階で変速が非常にスムーズであることが確認している。純正と目視上は違いが見分けられないだろう。変速性能の高さとカラーカスタマイズの楽しさは、この手の機材としては肯定的に評価できる。
チェーン角度の緩和による摩耗と摩擦の低減は、目には見えないが理論上は抵抗が低下しているはずだ。セラミックベアリングの極めて滑らかな回転は目視でも確認できる。
また、Design & Innovation Award(DI.A)を受賞しており、内容として「偏心型オーバーサイズジョッキーホイールがチェーンフローを最適化し、よりスムーズで効率的なパワー伝達を実現する」との評価を受けている。
変速性能は純正と変わらない
ビッグプーリー導入に際して最も懸念される変速性能について、Jetstream Pro 2は実用上の問題を感じさせなかった。純正ケージを流用する設計であるため、シマノが最適化した変速タイミングやチェーンの受け渡しロジックがそのまま機能する。
一般に、ケージごと交換するタイプのビッグプーリーでは、ガイドプーリーが13T以上のサイズになると変速時にチェーンが外れるリスクが高まり、それ以上のサイズでは変速性能が大幅に低下する。
Jetstream Pro 2のガイドプーリー12Tという歯数設定は、変速性能と摩擦低減のバランスを意識した選択であるといえるだろう。
実走においても、Di2の変速は純正時と遜色のないレスポンスを見せた。特に急勾配での高負荷変速や、下りからの加速時のマルチシフトなど、変速に精度が求められる場面でも不安は感じなかった。
「ビッグプーリーは変速が犠牲になる」という従来の定説を覆す点で、Jetstream Pro 2の設計思想は高く評価できる。
注意すべき懸念点
実際に使用すると、十分な変速性能とハンドスピナーのような回転で、好意的な評価だ。一方で、いくつかの注意点もある。
チェーンノイズについては、ナローワイドの下プーリーに起因する初期のチャラチャラ音が生じる。このチャラチャラ音は時間の経過とともに無くなる。馴染みが出たことと、ワックスが堆積したことにより音は消えていったが、個体差があり得る事象だと思う。
ドライベアリング出荷にも注意が必要だ。本製品はベアリングに注油されない状態で出荷されユーザーの手元に届く。箱から出した直後は非常に滑らかに回転するが、同梱のSupra LV低粘度潤滑剤を装着前に必ず注油する必要がある。
この手順を省くとベアリング寿命が大幅に短縮される。
チェーン長については、ギア構成(特にアウター×ロー)によってはチェーンの長さ調整が必要になる場合があることが公式マニュアルに明記されている。私のセッティングでは、54×40 – 11-34Tの構成で+2リンク、116ピン(カットなし)使用した。
B-tension調整についても、シマノ純正R9200/R8100のB-tensionスペーサー調整が下プーリー大径化により再調整を必要になる場合がある。
購入前に考えていたこととして、適切なチェーン洗浄とワックス処理で10W近く節約できることを考えても、実験データが存在しない数ワットのために29,920円を費やすのかという悩みもあった。
これはJetstream Pro 2固有の問題ではなく、OSPWカテゴリ全般に向けられた費用対効果の議論だが、使ってみたい欲望に勝てなかったと白状しておく。
デメリットと課題
雨と洗浄で一発で終わる
オイルを使用している場合、雨のライド1回で全てのオイルが抜ける。そしてベアリングの性能はほぼ無くなってしまうことを確認している。
トライピーク雨一回でほとんどをオイル抜ける。 pic.twitter.com/EMJ7j1uytG
— IT技術者ロードバイク (@FJT_TKS) June 7, 2026
これは説明書にも書いてある通りの正直な仕様だった。このメーカーの正直さは逆に評価できる。
また、バイクのチェーン洗浄を行う場合も一発でオイルが抜ける。シールにはオイルが入り込む隙間がわざと空けられているため、一気にオイル類が抜け出る。これは回転性能とのトレードオフだ。したがって、雨天での走行、チェーン洗浄後には必ず注油が必要になる。
偏心軸設計に固有の限界
偏心構造の制約上、下プーリーは19T化ができず18Tに留まる。理論上、CeramicSpeed 13/19TやKogel 12/19Tよりわずかに効率面で劣る可能性がある。絶対的な駆動効率の最大化を追求する場合、この点は考慮に値する。
ベアリング交換はできない
公式マニュアルには、Jetstream PRO2はベアリング非交換設計であり、ベアリングに修復不能な問題が生じた場合はプーリーホイール全体を交換する必要があると明記されている。
ベアリング単独交換は不可であり、Kogel Kolossos(分解可能)と比較すると長期所有コストが高くつく可能性がある。ただし4年保証が付帯する点は一つの安心材料である。
ワット削減効果が依然不明
公称ワット数の不在は、マーケティング上の説得力においてCeramicSpeedやKogelに劣る要因となっている。独立テストデータが公開されれば、この製品の価値はより明確になるだろう。
互換性については、R9200用とR8100/R7100用でケージ寸法が異なり別SKUとなっている。誤発注に注意すべきである。
メンテナンス頻度は、6ヶ月毎または洗車後にSupra LV注油が推奨されており、純正シールドプーリー(基本メンテナンスフリー)と比較すると手間が増える。雨天走行や砂利環境での使用後は即時の注油が必要になる。
取り付けとメンテナンス
公式マニュアルに基づく取り付け手順は比較的シンプルだ。
リアホイールとチェーンを外し、上下プーリーキャップを外す。シールを剥がさずにSupra LVを1滴ずつベアリングに注油する。純正の上側プーリーをAOPW上プーリーに交換し、純正ネジで仮締めする。
純正の下側プーリーを外し、AOPW下プーリーキャップのSTOP PINをケージ指定位置に整合させて取り付ける。シマノ指定トルク値で本締めし、チェーンを再装着してナローワイド歯への嵌合を確認する。
ケージ交換式ビッグプーリーと比較すれば、純正ケージを外す必要がないため作業工程は少なく、ショップでの工賃も抑えやすい。自身でメンテナンスを行うホビーメカニックにとっても、敷居は低い部類に入る。
日常的なメンテナンス
メンテナンス周期は6ヶ月毎または洗車後が推奨されている。雨天走行や砂利環境後は即時の注油が望ましい。ベアリングは非分解(一体型)であるため、故障時にはプーリーアッセンブリ全体の交換となる。
高圧水洗は厳禁だ。専用Supra LV低粘度フルードでの注油が指定されており、一般的なグリスや高粘度オイルでは回転性能が損なわれる可能性がある。
オイルかグリスか
Jetstream Pro 2の最初期型はセラミックグリスの「ETERNA LV Fluid」が同梱されていた。現行最新のパッケージではオイルタイプの「SUPRA LV Fluid」が付属する。日本で流通しているほとんどが後者のSUPRA LV Fluidだ。
どちらを使うかは環境条件や抵抗をどこまで求めるかによって異なる。
私は普段はセラミックグリスを入れて、晴天のレース前はSUPRA LV Fluidという使い分けをしている。ただし、付属のセラミックグリスは粘度が高めだったため、AZの高回転用フッ素グリース 純度100% BGR-001を使用した。ほとんど回転性能を落とさず防塵性も高い。
合う人、合わない人
筆者自身、セラミックベアリングに懐疑的な立場だ。ベアリングの抵抗はシール抵抗と内部の潤滑剤抵抗が支配的であり、セラミックに変えたところで大幅な抵抗低下は望めない。本プーリーもオイルを使用する攻めた設計だ。
という前提を踏まえたうえで、合う人、合わない人をまとめた。
シマノR9200/R8100/R7100の12速ユーザーで、変速性能を絶対に妥協したくないがOSPWの体感ゲインと見た目を求めるライダーにとって、本製品は現在市場で最もコストパフォーマンスに優れた選択肢である。
チェーン交換頻度が高いレーサーにとっては、チェーン長調整が原則不要である点も大きなメリットとなる。10色展開はカテゴリ最多であり、見た目重視のカスタムビルダーにも訴求力がある。
絶対ワット数で3W以上を求めるライダーには、CeramicSpeed OSPW AeroまたはTRIPEAK上位機のAOPW-Aeroが推奨される。ベアリングの自己メンテナンスを重視する場合は、分解可能なKogel Kolossosの方が長期所有に向いている。
また、今回の話題とは異なるが、ワックスチェーンを未導入のライダーは立ち止まって考える価値がある。
ZFCの実測では、最良のワックスチェーンは250W走行で約4Wの摩擦損失であるのに対し、汚れた湿式ルブでは8~9Wに達する。良質なワックスへの切り替えで実測1~4Wの改善余地があり、29,920円を投じる前にチェーン管理改善のほうが先行投資効率として優れるケースがある。
駆動効率改善を段階的に進めるなら、第一段階としてワックスチェーン化(Maulten Speed WAXなど)で実測1~4Wの節約、第二段階としてJetstream Pro 2の導入で追加1~2Wの節約が期待できる。
第三段階をやるなら、CeramicSpeed UFO Racing ChainやTRIPEAK Jetstream Pro BBなどで追加2~3Wの節約、という順序が費用対効果の順だ。フルセットで10万円近い出費が生じる鬼ベアリングなどは、本当にやることが無くなってからでいい。
この手の製品は、費用対効果がとても悪いことを肝に銘じておきたい。今回私も悩んだ部分だ。
1Wあたり15,000円以上の支払い意欲がない場合は見送りが合理的であろう。Jetstream Pro 2は29,920円で1~2Wの推定改善であり、1Wあたり約15,000~30,000円の投資となる。
シマノ11速メカニカルを使用中で12速世代への移行が近い場合も、見送りが合理的な判断となり得る。
数値と体感の間にあるもの
ビッグプーリーの効果を議論する際、「たかが2〜3W」という批判は常につきまとう。250W出力時の2〜3Wは、パーセンテージにすれば1%程度の改善に過ぎない。しかし、この議論には重要な視点が欠落している。
第一に、摩擦損失はギアポジションによって一様ではない。たすき掛けが深い領域では損失が増大し、そこでのプーリー大径化の恩恵はより大きくなる。つまり、「平均2〜3W」という数値は、最も効果が必要とされる領域での体感を過小評価している可能性がある。
第二に、VeloNewsの試験が示したように、1xドライブトレインにおけるクロスチェーンの摩擦特性では、大きなリアコグを使用することで横方向の角度増大による損失増と、コグ大径化による屈曲減少の損失減がある程度相殺される。
2xドライブトレインにおいてアウター×ハイギアのたすき掛けを多用するライダーにとって、プーリー大径化の恩恵はカタログスペック以上に大きい可能性がある。
第三に、そして最も重要なのは、人間の身体は精密なパワーメーターではなく、閾値ベースのセンサーであるということである。2Wの差が体感として「無」であるか「有」であるかは、その差がどのギアポジションで、どのような負荷条件下で発生するかに依存する。
Jetstream Pro 2の体験が示したのは、たすき掛け領域という「摩擦が閾値に近いゾーン」で、ちょうどその閾値を下回らせるだけの効果があったということである。
速さの本質を問う
事実として、1~2Wという数値は、200Wで巡航するライダーにとっての全体出力の0.5~1.0%に過ぎない。これは向かい風の強さの変動、タイヤ空気圧の微細な違い、あるいはジャージのフロントジッパー開閉ひとつで容易に吹き飛ぶ規模の差である。
ビッグプーリーに限らず、いわゆるマージナルゲインの世界では、個々のアイテム単体で体感できる改善は極めて小さい。しかし、ロードレースやタイムトライアルの世界では、こうした微小な改善の積み重ねが最終的な順位を左右してきた歴史がある。
イネオスが提唱した1%ずつの改善という哲学は、タイヤ、チェーン、ベアリング、ポジション、栄養、睡眠のすべてを最適化することで総体としての差を生み出すというものであった。
Jetstream Pro 2はその文脈における一つのピースに過ぎないが、純正ケージの変速性能を維持しながら投入できるという点で、他のビッグプーリーにはない独自の価値を持っている。
あるいは、こう考えることもできる。29,920円を「速くなるための投資」ではなく、「自分のバイクを最適化する行為そのものへの投資」と捉えれば、その意味合いは変わってくる。
10色のカラーバリエーションから選び、自分の手で取り付け、走り出した瞬間にペダルが軽く回る感覚を得る。それが錯覚、思い込み、プラシーボ効果だとしてもその”体験の価値”は、ワット数の数字だけでは測れない。
製品仕様
主要仕様は以下の通りだ。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| プーリー歯数 | 上12T/下18T(ナローワイド歯形) |
| プーリー重量 | 上9g/下30g(合計39g) |
| ベアリング | NC Race G3セラミック(窒化珪素Si3N4 Grade 3) |
| ベアリングシール | ZERO Contact Seal(非接触ラビリンス) |
| プーリー本体 | PA+GF(ガラス繊維強化ナイロン)インジェクション成形 |
| キャップ材質 | アルミ6061 CNC削り出し(10色アノダイズ) |
| 付属オイル | Supra LV低粘度フルード(1本同梱) |
| 対応リアディレイラー | R9200/R8100/R7100(別品番でSRAM eTap 11s、GRX RX812等) |
| 価格(日本国内) | 税込29,920円 |
| 製造国 | 台湾 |
| カラー展開 | 黒/深青/金/緑/水色/オレンジ/ピンク/紫/赤/銀の10色 |
カラーバリエーションが10色に及ぶ点は、OSPW系で最多水準である。18T側フレームのみが着色される設計のため、バイク全体のカラーコーディネートにおけるアクセントとして機能する。
まとめ:「不在」を知覚するということ
TRiPEAK Jetstream Pro 2がもたらした体験を一言で表すなら、「不在の知覚」である。軽さを感じたのではない。いつもそこにあった重さが、消えていたことに気づいた。これは哲学的で、興味深い問いを含んでいる。
私たちは「あるもの」は容易に知覚できるが、「ないもの」を知覚することは本質的に難しい。
Jetstream Pro 2の効果は、まさにこの「不在の知覚」として立ち現れた。たすき掛けの「重み」という、いつもそこにあった基準点が消失したとき、初めてその存在に気づく。それは、空気の存在を意識するのが風が止んだ瞬間であるように、摩擦の存在を意識するのは摩擦が消えた瞬間なのである。
駆動系の摩擦低減パーツに対して「体感できない」という批判は多い。しかし、Jetstream Pro 2の体験は、「体感できない」こと自体が効果の可能性を示唆している。本来感じるべき「重み」が訪れない。
それは、数値の差が閾値を静かに跨いだことの、身体による証明なのだろう。
純正ケージ流用による変速性能の維持、29,920円という価格帯、そしてたすき掛け領域での明確な体感変化。Jetstream Pro 2は、ビッグプーリーというカテゴリが持っていた「高価・不安定・体感微小」という三重の壁に対して、設計思想のレベルで回答を出した製品だ。









































