CDJビッグプーリーV3 PLUSは、実験で裏付けられた抵抗軽減、純正品に肉薄する変速性能、スーパエンプラを使った高耐久性プーリー、そして日本で製造される品質の高さを備えていた。これまでビッグプーリーに懐疑的だった方や、1%でもフリクションロスを減らしたい方には良い選択になる。
- 純正品に迫る変速性能
- 高耐久スーパエンプラのプーリー
- とにかく、静か
- フルセラミックベアリング
- 絶妙な12/17Tの組み合わせ
- 高トルク域の高速シフトは苦手
ビッグプーリーは各社玉石混交の状況にあるが、日本メーカーかつ国内製造のカーボンドライジャパン(以下、CDJ)のCDJビッグプーリー V3 PLUSを長らく愛用している。実験で証明されたその性能の高さもさることながら、プーリーの耐久性の高さ、耐摩耗性が高く高寿命である点もポイントだ。
以前はBURNER、RIDEA、TNIと試してきたがどれも一長一短だった。かろうじてセラミックスピード社のビッグプーリーが常用に耐えうる性能を備えていたが、CDJビッグプーリーを今ではメインで使用している。今回の記事は国産ブランドのCDJビッグプーリー V3 PLUSを試した。国産の作り込みの良さとアフターメンテナンス、実験データからCDJビッグプーリー V3 PLUSに迫った。
CDJビッグプーリーを選んだ理由
これまで様々なビッグプーリーを試してきたがCDJのビッグプーリーを長らく愛用し続けており、最もしっくりきている。2010年にBERNERが登場し、その後セラミックスピード社、RIDEA、TRIPEAK、TOKEN、KOGEL、そしてTNIまでもがビッグプーリーをリリースしてきた。
その中でもCDJのビッグプーリーを”あえて”使う理由がある。その理由は以下の通りだ。
- プーリーが樹脂
- 絶妙なプーリーサイズ
- フルセラミックベアリングの性能劣化がほとんどない
- 日本製
- 保守パーツの入手が容易
CDJのビッグプーリーを選ぶ1番の理由は、プーリーが純正品と同じ樹脂であるということだ。他社のアルミプーリーの場合は金属と金属が接触するため干渉音がする。純正と同じく樹脂の場合は作動音が静かだ。
さらにCDJのプーリーはスーパーエンジニアリングプラスチック(エンプラ)を使用した「オーラム+カーボンファイバー30」選べる。この素材は、耐摩耗性が高くて高寿命である。実際にほとんど摩耗することはなかった。この特殊なエンプラを使ったプーリーに関しては別の章で紹介する。
プーリーのサイズも絶妙だ。V3PLUSプーリーセットは12Tと17Tで構成されている。プーリーの構成は各社の設計思想が現れる部分であるが、スプロケに近いほうのプーリがあまりにも大きいと、変速性能が劣ることを経験している。
以前、RIDEAの16-20Tを使用していたが変速性能がどうしても気に入らずにCDJのビッグプーリーに戻した経緯がある。セラミックスピードの13-19Tも変速性能に問題は無かったが、プーリーがアルミであるため表面の処理が削れ、干渉音が大きいというデメリットがあった。
完全とはいわないにせよ、CDJのビッグプーリーは絶妙なプーリーの大きさとカーボンファイバーを混ぜ込んだ樹脂製プーリーであるため、望む仕様に最も近い(完全に達成している)ビッグプーリーだった。
そして、フルセラミックベアリングの回転は注油をするとほとんど劣化しなかった。こちらも別章で取り上げる。そして、なによりも日本製がゆえの安心感、固定ビス1本をなくした時にわずか数百円で部品を送ってきて頂けたことも大きい。
到着まで2日前後、海外であれば送料のほうが高く何日でも待たされてことだろう。その点、日本製、愛知に本拠地があるというメリットは大きい。では、実際にCDJビッグプーリーの性能や使い勝手、変速性能について探っていこう。
抵抗削減の効果
CDJは、ビッグプーリーキットの抵抗軽減率を数値化する為に独自の測定装置を開発し検証をおこなった。実験では非常に高精度なブラシレスモーターを使用し、装置と測定条件を変えずにリアディレイラーのケージ部分のみを交換して駆動部分の負荷率を測定している。
装置 | 条件 | ||
測定用モーター | オリエンタルモーター BLM230HP | 定格出力 | 30 W |
測定用コントローラー | オリエンタルモーター BMUD30-A2 | 定格トルク | 0.096 N・m |
接続ケーブル | オリエンタルモーター CC01HBLB | 減速比 | 5 |
主要コンポーネント | SHIMANO 105 | ケイデンス | 100 rpm |
リアディレイラー | SHIMANO 6800 | リアホイール | 無負荷(空中) |
リアスタンド | QUATTROトレーナー | 測定範囲 | モーター負荷率 40%~140% |
固定機材 | NICオートテック | 測定場所 | 室内 |
値は負荷率が小さいほど抵抗が小さいことを意味している。軽減率は通常の負荷率と比較した差異を示している。
実験結果を確認すると、V3フルセラミックの仕様が最も軽減効果が大きいことがわかる。ビッグプーリーの黎明期は、軽減効果について疑問があったが実験によって軽減効果があることが判明している。
ワットで表示されているわけでないため、イメージがつきづらいがCDJビッグプーリーに変更することによって確実に抵抗軽減効果が見込めることがわかる。
重要:チェーン長の影響
CDJのビッグプーリーにかぎらず、ビッグプーリーにとって「チェーン長の設定」が最も重要なセットアップだ。この初期セットアップを守らないとビッグプーリーの性能を引き出せない。したがって、純正のプーリーゲージで調整したチェーン長をそのままビッグプーリーで使用するのは避けたほうがいいというのが結論だ。
物は試しと、「長さそのまま」と「長さ調整+2リンク」それぞれ両方を試したが、純正プーリーゲージで調整した長さのままCDJビッグプーリーを使用すると「ぱっつんぱっつん」の状態になり、特にアウターとローの組み合わせでは、わかるほどの変速性能の悪化と抵抗増が感じられた。
シングルスピードやトラックバイクを所有している人はイメージがつきやすいが、リアホイールの位置決めの際、チェーンのたるみを僅かながら持たせる位置で固定する。あまりにもチェーンテンションを張りすぎると、ものすごく大きな抵抗になるからだ。
CDJのビッグプーリーも同様に、チェーンのコマを指示通りに+2リンク追加しないと本来の性能を100%引き出せない。変速しないこともないが、特にチェーンが最大限張られるシチュエーションにおいて、変速性能の低下と抵抗の増加が感じられた。
したがって、まずはチェーンの長さを2リンク追加することを必ず守る必要がある。
変速調整とエンドアジャストボルト設定
変速性能うんぬんの前に、純正のプーリーゲージからCDJビッグプーリーに交換すると必ず変速調整が必要になる。調整方法は純正品と同様の方法を採用しているため、必ず変速調整を行なってから使用するようにしよう。
変速調整が行われたCDJビッグプーリーは、ぱっと見は正確無比に変速しているようにみえる。変速が上がらなかったり、下がらなかったりといった動作不良はみられなかった。ただし、これは乗車時の負荷がかかっていない状態での話だ。
メンテナンススタンドにバイクを乗せて後輪やチェーンに「負荷がかかっていない状態」の変速性能と、実際に乗車した際の「負荷がかかっている状態」の変速性能を同様に扱ってはならない。確認すべき性能は乗車時であるため、インプレッションでは両方のパターンを試している。
エンドアジャストボルトの調整も行う必要がある。最大スプロケットとガイドプーリーとの隙間を、使用するカセットサイズを元に以下の寸法を調整する必要がある。
- 11-30T:14mm
- 11-34T:6mm
R9250には、付属のGG調整ゲージが同梱されている。GG調整ゲージを用いると、エンドアジャストボルトを簡単にひと目で調整できる。図のようにGG調整ゲージをプレートにセットし、エンドアジャストボルトで最大スプロケットの刃先をラインに合わせるだけでよい。
変速性能:チェーン長変更前
まずは、純正プーリーゲージで使用していたときと同じチェーン長を用いた。セッティングとしては不完全であるためCDJビッグプーリーの本来の性能を引き出していないことを記しておく。
コンポーネントの構成は、フロント53/39と11-30Tの組み合わせだ。変速性能で感じたことを速度別にまとめた。最高に変速性能が素晴らしい新型DURA-ACE 12速のR9250の純正のプーリーゲージから変更したため、その性能差がよくわかった。
平坦のゼロスタート~低速域は、R9250で感動した「いつ変速したかわからない」程の変速性能から、「変速した」ことがわかるようになった。純正品の気持ち悪いほどの「ヌルっ」とした変速性能から「ガチャッ」とした変速に変わった。
低速域~中速域の変速時でも同じく、ヌルっとした変速からガチャッとした変速に変化している。R9250の純正プーリーゲージの変速性能には及ばないが、R9150よりは良いかな、という印象だった。その根本はCDJのビッグプーリーによるものではなくSHIMANO RD-R9250の飛躍的な変速性能が寄与していると考えられる。
この時点で、プラス2リンク足して万全の状態にしたいと思っていた。しかし、何事も試して性能差を相対的に理解することが大事であるため注意深く変速性能と向き合った。
次に登りでの変速性能だ。チェーンが短いと顕著なのは、ローギアの30Tと28Tの行き来の動作があまり良くないことだった。30T→28Tの場合は変速性能の違いが感じられないが、28T→30Tの場合は僅かながらもたつくようなガチャンとした変速になる。
フロントをインナーに入れている場合はまだましだが、フロントの53Tにかけたまま28T→30Tを使用するとかなりの抵抗と、若干のもたつきが感じられた。また、スプリントのような高トルクをかけながら素早く変速すると引っかかるような感じを受けた。
と、ここまでがカーボンドライジャパンが推奨するチェーンをプラス2リンク足していない場合の間違った使い方の場合だ。純正品と比べると、当然ながら変速性能は劣化する。そればかりか、軽さも感じられないため何のためにビッグプーリーを搭載したのかわからなくなる。
したがって、ポン着けするだけでなく、チェーンの長さを適正にしビッグプーリーの性能を100%引き出す設定が必要だ。
変速性能:チェーン長変更後プラス2リンク
チェーン長をプラス2リンクしてCDJビッグプーリーの本来の性能を引き出した場合の変速性能について確認した。ひとことで言えば、純正R9250のプーリーゲージとの変速性能に限りなく近づくが、使い方によってはややもたつくことがあった。
CDJビッグプーリーの性能が体感できるレベルで変化したため、チェーン長が非常に重要であることを痛感した。まず、トルクをかけていない時は純正のプーリーゲージとくらべてもほぼ差がわからないような性能に変化する。R9250で劇的に変わった変速性能の速さと「いつ変速が行われたのかわからない」という領域に限りなく近づいた。
ただし、完全に純正品の到達したわけではなく、特にフロント53に入れたまま28T→30Tは若干ながら変速性能が劣る(ガチャンと変速する)感じを受けた。特にトルクがかかった登坂でこの変速性能の低下が顕著で(とは言っても9150よりも遥かに上)数回変速がもたつくことがあった。
そもそもアウターに入れながら30Tを使うシチュエーションが少ないが、例えば広島森林公園の三段坂頂上から、一気に下りに入る時のようなシチュエーションの際には多用する。そのようなシチュエーションで僅かながら違和感を感じるかもしれない。
どうしても、高トルク域でのシフトチェンジはダウン、アップともに苦手なようだ。特にスプリント時の変速は純正にはおよばない。ややスプロケットに引っかかるような変速をするため、R9250特有のヌメヌメとした変速性能には到達していないと感じた。
それ以外の使用用途では不便を感じさせない変速性能を達成していると言っていい。
ビッグプーリーに変更することで、変速性能の低下を気にする人であったとしても、高トルク域を除いては、純正品と近い性能を備えていた。
AURUM+CF30
CDJビッグプーリーが魅力的なのは、「AURUM+CF30」を使用していることだ。CDJのビッグプーリーを使いたい理由の1つが、このAURUM+CF30のプーリーを組み込みたいからだ。
AURUM+CF30は、三井化学が独自開発した熱可塑性ポリイミド樹脂のAURUMにカーボンファイバーが30%含有された素材だ。航空機のエンジン部品や自動車のスラストワッシャーに採用されている。
そして、非常に軽く高強度で耐摩耗性が高いという特徴がある。さらに静音性に優れており摺動抵抗が小さいという、プーリーにとって最高の素材だ。AURUM+CF30はCDJの完全独自開発の部品である。
摺動抵抗が小さいというメリットは、静音性に優れているということと直結している。実際に使用してもプーリーの干渉音はほとんどせず、無音に近い。他社のアルミプーリーの場合は、干渉音が気になるものが多かった。
RIDEAもカーボンファイバー製のプーリーを採用しているがあちらはナローワイドの構造になっているため、やや癖のあるビッグプーリーだった。その点CDJビッグプーリーはスタンダードなプーリー構造をしており使い勝手も良い。
そして、なにより耐摩耗性が驚くほど高い。実際にR9150で長年使っていたがほとんど新品の状態を維持したままだった。削れや欠け等は皆無で、若干表面がテカテカと均された程度で状態を維持していた。
非常に高い耐久性、摺動性など、どれをとってもプーリーに適した素材だ。
R9250専用モデルの変更点
CDJビッグプーリーはR9150用とR9250用が分かれているが、R9250はいくつかアップデートされている。
- スプリングの支持穴が4つ→2つに
- プーリーのカバーが変更
スプリングの先端を引っ掛ける穴が4つから2つになった。スプリングのテンションを変更するために4つ程設けられていたがR9250では2つになった。前作と比べるとテンションが強めに設定されている。スプリングが劣化してきた場合は、もう一方に移動するという仕組みだ。
また、プーリーのカバーにも変更が施されている。色が赤に変わっただけのようだが厚みや構造に変更が施されている可能性がある。
取り付けは簡単
取り付けは簡単だ。箱の裏の動画を見ながら簡単に交換することができる。トルクスレンチのT10が必要になるが、アマゾンで数百円で売っている。あとはシマノ純正グリースを塗るだけだ。実際に動画を見ながら行なったが30分もあれば簡単に交換できた。
アフターパーツが入手しやすい
日本製ならではだと通関したのはアフターパーツの価格と入手性の良さだ。以前ボルトをなくしたためメールで問い合わせたところ、ボルトはわずか数百円で購入でき、送料も80円程度、そして2日弱で届いて感動したことを覚えている。
海外通販に慣れきっていたため、余計にそう感じてしまったわけだが海外のプーリーの場合は国内に保守部品無いと長く待たされるばかりか、送料が数千円なんてことある。CDJは愛知に本拠地があるため、国内で保守部品の調達から発送まで対応できる。
実際にボルトをなくして途方に暮れていたとき、この対応を受けてさらにCDJビッグプーリーの良さを実感した。必ず摩耗していくプーリーも交換できる。そして、万が一カーボンゲージの破損等にも対応できることは大きなメリットだ。
メカに自信の無い方は有償でCDJメンテナンスサポートが受けられる。¥3,300(税込)でベアリングの清掃、点検、給油、アタッチメントの点検、カーボンケージの点検をしてくれる。フルオーバーホールを受ければその分安心して使用でき、寿命も伸びるだろう。
仕様
- AURUM+CF30の次世代樹脂(スーパーエンプラ)を使用したCDJオリジナルプーリーを装着。アルミ材に匹敵する高強度ながら約半分ほどの重量しかない超軽量。摺動抵抗に優れ、静音性が格段に向上。
- ガイドプーリー12T、テンションプーリー17Tのコンビネーションから更なる抵抗軽減を実現。変速性能も全く問題なく、安心して使用可能。
- テンションプーリーの大型化に合わせて適正なポジションを割り出してから新たなケージデザインを設計。
- 6色(マット、クリア、レッド、ブルー、イエロー、グリーン)のプーリーケージフィニッシュにより、様々なバイクにマッチするカラーリングが選択可能。
- リアカセット34Tまで対応可能。
- 対応機種:SHIMANO R9250・R8150
- プーリーケージカラー:マット、クリア、レッド、ブルー、イエロー、グリーン
- プーリーカラー:12T/17TのプーリーカラーはAURUM+CF30の素地で深緑色のマーブルカラー。
- ベアリングオプション:標準はハイブリッドセラミックベアリング。フルセラミックベアリングは+6,600円(税込)にて選択可能。
まとめ:性能から保守まで安心の国産ビッグプーリー
これまで様々なビッグプーリーを使用してきたが、実験で裏付けられた性能、プーリーに適したAURUM+CF30の素材、アフターメンテナンス、製造と組み上げは国内で行われておりCDJビッグプーリーは全方位で抜け目のない製品だ。
特に抵抗軽減データーが揃っていることや、カーボンファイバーに知見のあるメーカーであるため、プーリーゲージやプーリーへの信頼感は非常に高い。また、プーリーの歯数構成も絶妙でレースやシビアな条件でも十分使用できる性能を備えていた。
変速性能は、純正部品に肉薄する十分な性能を備えているがギアの構成で一部苦手な部分があることは確かだ。しかし、それらを差し引いたとしてもメリットのほうが大きいビッグプーリーといえる。
上側のプーリーを大口径化したり、ナローワイド化することで他社との差別化を図るブランドも存在しているが、CDJビッグプーリーはスタンダードかつ堅実な構成が印象的だった。ある意味、保守的な日本製といえばそれまでなのだが、それゆえ安心感と純正品に近い安定性があった。
CDJビッグプーリーは、抵抗軽減、純正品と近い変速性能、高耐久性、そして補修部品等の心配をなくしたい方にとって、これ以上にないビッグプーリーだ。