シクロクロスやMTBを始めてからというもの自転車の環境が大きく変わった。特筆すべきはバイクコントロールの向上だろう。しかし、それだけではない。ロードからMTBを始めて、次にシクロクロスという流れが良かったのかもしれないが多少の坂や木の根っこは怖くなくなった。
舗装路ばかり走っていては得られない「走りの引き出し」が増えたように思える。
それもこれも全て「悪条件のオフロード」を走ったからに他ならない。ロードで舗装路を走っていただけでは得られなかった事をまとめてみる。これを見てマウンテンやシクロクロス、密かなブームになりつつあるグラベルといったオフロードの魅力が伝われば嬉しい。
ロードのシーズンが終わってから二ヶ月程しか経ってないわけだが、この間に私が得た事をまとめてみたい。言うなれば二ヶ月あればだれでも感じ取れる内容だと言える。
バイクのどこに乗ってる?
マウンテンバイクに乗って思い知らされたことがある。数メートルの小さな坂が登れないということだ。小さなヒルクライムのレースで表彰台に登った事はあるが、坂が登れなくて足を着いたのは何年ぶりだっただろうか。それも一回ではなくて、毎周回同じところでである。
オフロードの坂の場合、ヒルクライムと違いパワーだけではどうしようもない。バイク、勾配、地球の重力がどこにかかってるのかを判断してペダルを踏み込まなくてはならない。次で少し触れるがガツンと踏んではだめだ。滑らないようにトラクションをかけなくてはならない。
もし、重心の移動がうまく行ったらどうだろうか。
サドルの先端よりほんの少し前に重心を移動するだけで途端に後輪がグリップし始め坂を登りはじめる。今までは前輪が浮いたり、滑ったりして登れなかったのにだ。意識的な重心移動と、前輪タイヤを押さえつけるような重心の移動で登れるか登れないかが決定される。
いわば、自然界の法則に沿って正しくバイクを操作すれば、実は難なく登りきれるのだ。その重心の位置と自然の法則と喧嘩せず、うまく走るのがテクニックと言える。ロードバイクの場合はやはり「漕いだら勝手に進む」乗り物と言えるだろう。
最高スピードはロードには勝てない。しかしロードバイクは、良い意味でも悪い意味でも未熟なバイクコントロールをいくらが補完(もしくは補助)してくれる。例え自分自身のテクニックが無くてもロードバイクの場合はごまかしが効いてしまうのだ。
だから、いつの間にか「自転車に乗れた気になってる」と勘違いするのも無理はない。
私も今だバイクコントロールは未熟であるが、テクニックを磨く練習が本当に楽しい。ロードにばかりのっていた頃よりも間違いなく操作性は向上している。突然、スタンディングができるようになったのも「重心が見えた」からだろう。
トラクションを脚で感じる
ロードでは「滑らせる」という概念がなかった。そして、常に高いグリップをしているロードバイクにとってどんなガチャ踏みでも進んでくれるマシンはトラクションという概念をいつの間にか無きものにしていた。
そんな状況から始めたから、まずオフロードで苦労したのはトラクションのかけ方だ。ロードの頃はガツガツ踏む走りをしていたのだなと反省した。ロードバイクとは本当によく出来た乗り物だと感心する。適当にこいでもグリップするし、進むし、ロスが本当に少ない。
しかし、オフロードの場合はそうもいかない。確かにフルサスペンションが補助してくれる場面も多い。しかしそれは機能として存在しているだけであって、人間がうまく使わないとなんら本来の能力を発揮しない。
ロードでペダリングモニターを使っているがオフロードのペダリングは12:00-2:30の間がキモなのだと体で理解できる。ペダリングモニターを見るよりも身体で感じられるペダリングの特性は理解しやすい。
トラクションのかけ方を具体的に表現することは非常に難しい。なぜなら、路面状況や勾配、マシン性能、その時の重心の位置で全くかけ方が変わってしまう。タイヤの空気圧やホイールと要素を言い出したら切りが無い。ただ、実際にオフロードを走ることで自然に養われて行く技術だ。
習うよりも慣れて感じろというのがトラクションのコツだろう。
コーナーの前で減速する
すごく当たり前のことを書いている。「コーナーに入る前で減速する」ということだ。ただ、実際に走るとどうだろう。曲がりきれないような速度でコーナーに進入していく。シクロクロスの場合コーナーが特に多い。初めての頃コーナーのインに突っ込んで行っていた。
そうするとコーナーリング中に減速せねばならず、緩急がかなりついた無駄なコーナーリングを行ってしまう。立ち上がりのスピードも遅く、コーナーを抜けるまでの平均スピードは結局遅くなる。
では、どうしたらコーナーリングを速いスピードで処理できるのだろうか。三船スクールやダイアテックのプロライダーさんの話を聞いてると、コーナーリング前でギリギリ曲がれる速度域まで減速し、コースを大きくつかう。立ち上がりから加速を加えれるようなコース取りをする。
重要なのは進入スピードや、立ち上がりの速度ではなく「一つのコーナーに突入して抜けるまでの平均速度を上げること」これに尽きる。分割した要所要所の話も重要だが、コーナーを早く抜けるための平均速度を上げるとが一番重要なことと言えるだろう。
これらの基本概念がわかっていればクリテリウムのオーバーランなんて遠い世界の話になるだろう。言い換えると、オーバーランするようではバイクの基本的な運動と操作が理解できていない。
なぜ飛び乗りをするのか
シクロクロスをはじめた時になぜ「飛び乗り」をするのかわからなかった。おそらくシクロクロスだけでは理解できないのが飛び乗りだ。そんな中気づかされたのはMTBだった。MTBをしていると「飛び乗りせざるおえない」状況に遭遇する。
例えば坂で転んだとしよう。そこから改めて乗車する場合は、飛び乗りで勢いをつけて乗らないと「坂道発進」できなかった。坂道でまたいで乗って、とやるとギアをいくら軽くしても重くて踏み切れない場合もあるし、乗れたとしてもズルッと滑ることがある。
その際、飛び乗りで勢いをつけて登る方法ならばクリートキャッチしやすく次に進むことが容易になる。
MTBの場合飛び乗りは、どちらかというと加速のために有効だと感じた。シクロクロスであれば減速させないための一つのテクニックだろう。別に出来なくても問題はないが、間違いなくタイムを削るための技術と言える。
機材はバイクコントロールのために
バイクセッティングにおいてロードバイクにありがちなのは「かっこよさ、優先」ということだった。体に合わない長くて角度の付いた水平ステム。踏み込みを妨げる高いサドル。コラムスペーサーもベタ底の方が「カッコイイポジション」だ。
ただ、これらのかっこよさは本当に正しいと言えるのだろうか。正直なところかっこよさ、見た目の良さのみを求めて行った場合、バイクコントロールがしにくいマシンになっていないか。ステム角度は起きていた方が扱いやすいし、あまりにも長いステムは、操作しにくい。
シクロクロスを始めてから17°の水平ステムを捨てた。あまりにも操作しにくく、メリットは私の場合無かった。ただ問題なのはそれらの事に気付かず乗り続けてきたことだ。おそらく、バイクコントロールのことを考えなければそのようなセッティングは今後も考えなかっただろう。
コントロール性能を求めて行った結果と、パワーを出しやすいセッティングこそが重要なのである。間違えても見た目に走ったカッコイイポジションではいけない。求められるポジションは、速く、巧く、バイクをいかにコントロールできるかにある。
まとめ:オフロードが私に教えてくれたこと
オフロードは私のような未熟なサイクリストに様々なことを教えてくれた。
オフロード競技歴は2ヶ月と非常に浅い。今年から本格的にやりはじめた。その間シクロクロスのレースにで続け、マウンテン専用パークで遊んだりした。その中で得られたことは、ロードバイクに乗っているだけでは得られなかったことばかりだ。
最後に全日本MTB選手権を制した與那嶺恵理選手の記した一文を紹介したい。
MTBの荷重移動は、ロードにもつながるし、ロードで鍛えられるフィジカルは、どれにも通用させることができる。
そして、たくさんの可能性を広げられる。
ロードだけでなく、オフロードと様々なことに挑戦するのは可能性を広げられる。ただ一つの種目に取り組むことも取り組むのも良いことだ。ただそれだけでは得られない事もある。自分とバイクの可能性を広げるためにはチャレンジしなくては得られないものもあるだろう。
ロードバイク人口が広がって行く中で身につけたいバイクコントロール。パワーを出していれば進む乗り物だが、自分のコントロール下に置いて思い通りの操作をすることも怠ってはならない。
マニュアルのスポーツカーを手に入れて、車庫入れができなかったりオーバースピードで曲がりきれなかったり、坂道発進できなかったりしたらこれほど恥ずかしいことはない。ロードバイクは自身の能力を補完してくれ、いつの間にか上級者の気にさせてくれる。
オフロードを走るということは自分自身の能力の無さを自覚させ、気づかさせてくれた。その一つのショック療法としてロード乗りこそオフロードを乗ってほしい。間違いなく自転車の可能性を広げ、自分自身の能力も広げてくれるだろう。
まずは何事も挑戦である。自分が思っているよりも自転車で出来ないことは以外と多いのである。まずは自分自身を知るためにオフロードを始めてみてはどうだろうか。
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