2022年のツール・ド・フランスを制した新型Cervelo S5がついに発表された。国内で真っ先に話題になったのは、性能ではなくその価格だった。販売価格が200万円をついに超えてしまい、もはや誰もが購入できるバイクではなくなってしまった。
しかし、価格を抜きにして考えてみると、新型Cervelo S5は新しいUCI規定を最大限に採用した新世代のバイクだ。新と旧のUCI規定の間には、空力設計を行なう際の縛りに雲泥の差がある。
この新しい規定により、Cerveloはすでに市場で最速級のエアロバイクであったものの、さらにチューブプロファイルを深くすることができた。新型S5は、より深く、よりアグレッシブな形状のチューブを採用し、従来のS5と比較して「65グラム」のエアロドラッグを削減している。
旧型S5の風洞実験結果は、206ワットだった。
- 202W:CANYON AEROAD CFR(DTSWIS 1100 DICT 62mm)
- 203W:Cannondale SYSTEMSIX(KNOT 64)
- 206W:Cervelo S5 DISC(ENVE SES)
- 208W:S-WORKS VENGE DISC(CLX 64)
- 210W:S-WORKS TARMAC SL7 DISC(RAPIDE CLX)
- 212W:TREK MADONE DISC(AEOLUS XXX6)
- 227W:(参考)TREK EMONDA SLR DISC(RSL 37)
65グラムの空力改善の場合、200Wの壁を容易に打ち破る可能性がある。ただし、前作の風洞実験ではENVEのSESという非常に空力性能がよいホイールを取り付けた総合的な結果だった。新しいリザーブホイールがどれくらいの空力性能があるのかはまだ不明であるため、ホイールが足かせになる可能性も十分有り得る。
余談だが、SYSTEM SIXの開発も元Cerveloの空力エンジニアだった、デイモン・リナード氏の作品だ。もっと言ってしまえば、TREK SPEED CONCEPTの初代も同氏の空力作品である。
新しいUCI規定を採用したことによって、S5のフレーム表面積が広がった。確かに速そうに見えるが、一般的にはこのような大きなフレームチューブはより多くの重量が追加される。
旧型のS5は重いことで知られており、新しいS5も重くなると予想されていたが表面積が大きくなっているにもかかわらず、Cerveloは新しいS5を前モデルよりもわずかに軽量化することに成功している。
海外で計測された56cmのテストバイクは、シマノ・アルテグラ12速Di2とリザーブの新しい52/63ホイールセットで8.03kgだった。
チーム・ジャンボ・ヴィスマのプロ選手たちは、ツール・ド・フランスで新しいサーヴェロS5に乗っていた。少なくとも、レース中継では新旧のその違いにほとんど誰も気づくことはできなかったのではないかと思う。
簡単に言えば、今回のS5の「視覚的な変化」は非常に限られている。ある意味、前作のS5が高い完成度であったといえる。最近のエアロ系ロードバイクは性能が高止まりしており、新型S5を見て思ったのは新UCI規定を採用したとしてもその変化はわずかのようだ。
それでもCerveloは、UCIのデザインルールをフルに活用し、フレームのトライアングルをより「たいら」にしている。これは特にヘッドチューブとボトムブラケットをよくみると顕著だ。
また、チューブの形状も変化し、特にダウンチューブとシートチューブの部分がより鋭角的になっている。そして、フォークフロントやドロップアウトの形状も変化している。
これらの微妙な改善を見ると、新しいS5はマイナーアップデートと思ってしまう。しかし、フレームの至る所でチューニングされたこの微妙な変化の積み重ねが空力改善につながっていく。
前作のS5よりも速いことは間違いない。あとは、競合車種のAEROAD CFRよりも空力性能が優れているかだ。そう考えると、旧UCI規定の範囲で限界まで空力性能を高めたAEROADの空力開発は、現段階で最も成功していると言えるだろう。
新型Cervelo S5の風洞実験結果はまだ公開されていないが、これから各社から新UCI規定のエアロロードが続々とリリースされる可能性がある。性能の向上に伴い、開発費と材料の高騰など、製品価格が跳ね上がることも危惧されるが、これから各社がどのような方法で新しいUCI規定を採用していくのかが注目される。
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