昨今のパワーメーター市場は、熾烈な低廉化競争の波が押し寄せている。日本のパワーメーター市場は次第に飽和状態へ近づいていると感じているが、いまだ誰しもが手の届く自転車機材とは言いがたい。そんな中、またもや新たなパワーメーターの登場である。ペダル型のパワーメーターbePROだ。
開発元はFavero ELECTRONICS(ファヴェーロエレクトロニクス)社だ。聞きなれないメーカーだが自転車のメッカであるイタリアから世界に向けて新型パワーメーターを販売する。ペダル型というとその規格が気になるところだが、LOOKクリートのみ対応となっている。
Made in ITALYと聞くとなにやら高級なイメージが有るがパワーメーターの価格としては安い€499だ。プロダクトして性能が気になるが、やはりその価格程度の製品なのだろうか。最近新型のパワーメーターの話題が少なかったので退屈していたが、いつも通り詳しく見ていくことにしよう。
bePROパワーメーターとは
bePROはLOOK専用ペダル型パワーメーターだ。もちろん他のクリートには互換性は無い。本音を言わせてもらうと、そこまで数が売れないパワーメーターにとってサイクリストが使えるか、使えないのかわからない規格を縛るのは如何なものなのか。
とはいうものの、おそらくパテントの問題だと思う。LOOKは比較的自社の製品を使ったプロダクトには寛容な様子だ。おそらくシマノのSPDSLも作りたかったとは思うが、パテントの問題が絡み難しいのだろう。苦肉の策でLOOKのペダル型パワーメーターという雰囲気が漂う。
辛口な文章の応酬が続いているがLOOKクリートユーザーも多いと思われるし、軽量なペダル型を望む人も中にはいるだろう。実はこのbePROは後発ということもあり、よく考えられた機構を持つパワーメーターなのだ。
USB充電式を採用
パワーメーターの心配事と言えば「バッテリー」だ。電子回路が組み込まれている関係上、リチウムイオン電池だったり、ROTORの単3だったり、SRMのハンダ付けされた電池と様々なタイプが販売されている。これらは正直な所すこし古臭い印象だ。
サイコンやライト、そしてスマートフォンといえばUSB充電が当たり前になってきている。そんな時代に「電池交換」はもはや過去の構造とも言える時代になった。bePROは後発のパワーメーターの利点を活かし、上手く他のプロダクトの弱点を研究している。
同じ競合製品のガーミンベクターとの違いといえば、バッテリー部分だろう。ガーミンベクターはコイン形電池のCR2032を使用していた。しかし、ガーミンベクターはバッテリーケースがむき出しになる形を採用しており、これらが不安要素として残されていた。これは頻繁に走るサイクリストや競技者にとって死活問題でさらに電池の交換も必要になり、非常にランニングコストがかかる代物だった。
その点bePROは、USB充電式を取り入れこの根本的な(しかし非常に重要な)問題を解決している。
といってもランニングコストの部分だけであり、実際の動作時間は「30時間」しか動作しない。ガーミンベクターの動作時間は175時間だ。正直な所30時間毎に充電が必要なbePROと、毎回コストはかかるが175時間持つガーミンベクターどちらが良いのかは意見が分かれるところだろう。
製品仕様 測定精度2% -10℃
気になる測定精度は「横並びの2%」だ。パワーメーター各社がこぞって1.5%〜2%を公言している。ただ高性能なパワーメーターが普及してきた今「測定誤差」は過去の話になった(むしろ話題にならない)。私がPower2Maxを日本に初めて持ち込んだ頃は、まだそんな内容で一喜一憂出来た時代だった。
当時、信頼できるパワーメーターと言えばパワータップで温度変化にも強いとされていた。「PowerTapとくらべて誤差はどれほどか?」という話がウケたが、それはパワーメーターの過渡期の話だ。今はもう時代が違う。だからbePROの測定精度は2%、それだけだ。
ただ、後発ということも有りひずみゲージが一番影響を受けやすい「温度変化」にはちゃんと対応している。日本の冬は厳しいがマイナス10℃〜60℃まで対応しているようだ。ちなみにパイオニアペダリングモニターはマイナス10℃〜50℃とペダリングモニターより優秀!と言いたいが、そんな暑い中では走りたくない。
どちらかと言うと問題はマイナスの世界であり、プラスの方はあまり気にしないほうが良い。もっと突っ込んで行くとbePROは「動作します」というだけにとどまっている。かたやペダリングモニターは「補正」が効く。気温変化とひずみゲージの特性から補正が入る。ここは細かい作りこみの日本メーカーの技術が光るところだ。
「ある温度で動作」することと「気温に応じて補正する」ことは、電子機器において全く別の事を言い示している。
パッケージ内容
パッケージ内容は上記のとおりだ。なにやら鉄のようなモノがあるが取り付け時に使うらしい。そう考えただけでも面倒くささを感じる。ペダリングモニターなら取り付けはメーカーと店がやってくれるし、さらに国内で全部完結している。そう考えると非常に面倒だ。
手に入れたマニュアルを見ると、さらにその難易度は想像できる。
なにやら双方のクランクをつなげ、取り付けを行い・・・・。
きちんとしたトルク管理(ここでガーミンベクターの悪夢が蘇る)の元、取り付けが必要とのこと。先ほどのパッチのようなものがしっかりとライン上に揃わないといけない。見ているだけでも非常にめんどくさそうだ。モノ好きなら出来ないこともないが、ペダル型パワーメーターの宿命だろうか。
注意すべきは「片売り」と「取り付け」
このbePROであるが注意しておきたい点を列挙したい。まずは€499で販売されているのは片側だけだ。要するにステージパワーと同じく片側計測モデルが€499だ。ただし安心して欲しい。なんとセンサー無しの「ただのペダル」も(嬉しい事に?)付属してくる!
これはステージパワーよりもアドバンテージだ。ペダル(パワー計測できない)が1つ着いてくるからだ。では左右測定したい人はどうすればよいだろう。こちらも安心して欲しい。こちらは€749(10.1万)でお買い求め出来る。下がそのセットだ。
ようするにペダル型のステージパワーと言えば察しがつくだろうか。片側計測(恐らく2倍)のペダル型センサーがbePROだ。後発の良いとろ取りをとことん追求したペダル型パワーメーターと言える。
まとめ:後発の利点をそなえたパワーメーター
パワーメーターは過渡期から円熟期に突入している。いまパワーメーター界が狙うのは初心者や、高くて手が出せないサイクリスト、そして2台目需要だ。そんな中で€499で買えるパワーメーターは安いだろうか、それとも高いだろうか。私は後発機ということもあり、安かろう悪かろうとは思わない。
ただパワーメーターは「宗教」と言える。要するにそのパワーメーターの測定精度や、信頼(もちろん日本メーカーが好きだ)を持って使うことが何よりの幸せだ。値を疑いながらPowerTapと比べる様では時間の無駄かもしれない。買って、信頼して、使う。そこに本来のパワーメーターの使い道がある。
パワーメーターは無機質なただの「測定器」だ。それ以上でもそれ以下でもない。この新型パワーメーターを信頼出来るならば、€499でも買いだろう。本製品はFaveroオンラインショップから€41で日本への発送も可能なことを確認している。できるだけ安く、LOOKペダルで、軽いパワーメーターが必要な人は買いだと言える。
パワーメーターは今や手の届きやすい機材になった。ただ本質はトレーニング用の測定器であって「値を見て楽しむ」ものでは決して無い。数字を見て苦しみ、客観的に己の能力を知る。そしてトップとの壁を感じる無機質な「指標」にしかすぎない。
その「指標になる機材」としてbePROはひとつの選択肢となるだろう。2台目需要を見込んだ後発のパワーメーターは、円熟期に突入している市場にどう食い込んでいくのだろうか。
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