2021年3月1日追記:ホイール仕様変更によりスペックと内容を加筆修正しました。
ITLAB Engineeredは軽量オールラウンドホイールのITLAB45を限定発売します。
速さに軽さを。
ITLAB 45はリムハイト45.5mm、重量1,228g(誤差±0.8%)を達成したカーボンチューブレスクリンチャーホイールです。1,200g台の軽量ホイールといえば、ヒルクライムや登り向けに設計されたローハイトホイールばかりでした。ヒルクライムホイールは軽量ですが、デメリットとしてリムハイトが低く25mm~33mm程度のためエアロ性能とのトレード・オフの関係にありました。
ITLAB 45ホイール開発の背景にはプロデュースした開発者の原体験があります。当時、開発者はニセコクラシックに出場するためにホイールの選択に悩まされていました。走行距離140km、獲得標高2300m、登りも平坦もこなさなければならないコースレイアウトに対して、適切なホイールはほとんど存在していませんでした。
140kmを高速で走破することを考慮した場合、エアロ性能を優先した50mmリムハイトが優位です。しかし、重量が1400~1600g台と重さが気になるホイールが多いのが現状です。そして、獲得標高2300mで登り区間が3箇所、長いところでは20分以上の登りが続く事を考慮した場合は、32mmハイトで1300g前後のヒルクライムホイールの軽さが有利です。
このように、それぞれのホイールには一長一短があります。レースの途中でホイールを変える事はプロでもない限り不可能です。
山岳が多く登場するロードレースに重点を置いてITLAB 45は開発されていますが、ヒルクライムホイールとしても多分に性能を発揮します。近年の日本のヒルクライムレースは高速化の一途をたどっています。乗鞍ヒルクライムも例外ではなく、序盤でハイスピードな展開が繰り広げられておりエアロダイナミクス性能に優れたホイールの優位性はますます高まっています。
富士ヒルクライムも同じく、平坦や緩やかな斜面は高速化が進みドラフティングの影響が大きくなってきています。そして、ゴール前の直線で高速スプリントが繰り広げられるような最終局面ではエアロ性能が欠かせません。ITLAB 45はZIPP105%の法則に則ったエアロ性能を備えつつ、1,248g(誤差±0.8%)の軽量さを生かして山岳を駆け上がることができます。
ITLAB 45は、SPECIALIZEDのTARMAC SL7のように「エアロ」と「軽量」が融合したホイールです。複数のホイールを所有する必要がなくなるため、機材投資のコストを抑えることもできます。すべてを1つのホイールで走るために生み出されたのがITLAB 45です。レースによってホイールを使い分ける必要は、もうありません。
ホイールシステムとして最適化
ITLAB45は、リム、リムテープ、ニップル、スポーク、ハブ、ハブシャフトを1つの単位として設計しました。リム単体を設計するのではなく、ハブ側スポークホールとリム側スポークホールが一直線になるように設計しています。専用のスポークホールサイズとホールアングルのため、スポークの性能を最大限に引き出しています。
【小ネタ】チューブレス対応のためリムのBSDは621.95 +-0.5mmで作成しました。ビットリア、コンチ、スペシャのタイヤ経は微妙に違うのでタイヤにフィットするリムテープの厚みを実際にテストしてます。メーカーによって厚みバラバラなのを逆手に取ってタイヤによってリムテープの厚みを変えます。 pic.twitter.com/iQsjwVfp5O
— IT技術者ロードバイク (@FJT_TKS) August 4, 2020
リムはチューブレスタイヤに対応しています。設計はETRTO準拠の621.95 +-0.5mmです。推奨チューブレスタイヤは、「Vittoria Corsa G2.0 TLR」、「Vittoria Corsa SPEED G2.0 TLR」、「Continental GP5000 TL」、「S-Works Turbo RapidAir」の3種類です。タイヤの取り付けテストしたところ、微妙にタイヤの経が異なっていていたため厚さが異なる6種類のリムテープから、ユーザーが使用するタイヤに合うリムテープを貼り付けて最適化しています。
名前があがっていない他社メーカーのチューブレスタイヤも使用できますが、その場合は純正のDT SWISSチューブレステープを使用します。DT SWISSリムテープは、高耐性接着剤でチューブドクリンチャー用リムテープ、エアシールとして機能します。リムの内側の幅に完全に一致するように設計されています。
- おすすめ度 10/10:GP5000 TL:品質や精度が最も高く、かつ転がるTLタイヤ。
- おすすめ度 8/10:S-Works Turbo RapidAir:Dクイックステップと共同で開発したタイヤ。
- おすすめ度 8/10:Corsa G2.0 TLR:世界最速のタイヤ。
クリンチャータイヤはGP5000を推奨します。
DT SWISS EXPテクノロジー
SINC CERAMICテクノロジー
ハブを構成するベアリングはすべてSINC CERAMICテクノロジーを採用しています。DTSWISSの最高峰ハブであるDT180EXPだけに搭載される最高のベアリング技術です。DT240ハブ(Lightweight、ROVAL、CADEX、BONTRAGER、MAVIC)には採用されていません。転がり抵抗の低減、耐久性、高寿命のメリットがあります。
SINC CERAMICは、非常に丈夫で耐摩耗性と耐腐食性のあるセラミック材料である窒化ケイ素(Si3N4)製のボールを採用しています。ボールを支える軌道上のボールレースや球受けもDT SWISSが特別に開発した鋼合金から作られています。使用する特定のセラミック材料の特性に合わせて精密に研磨されているため、鋼合金側の削れもほぼありません。
このボールレースとセラミックボールの組み合わせにより、転がり抵抗が最小限に抑えられ、従来のボールベアリングよりも優れた耐久性が保証されます。
そして、SINC CERAMICテクノロジーが「システム」として考えられているのはセラミックベアリング単体だけではありません。数千分の1ミリ以内の許容差と、DTスイスハブベアリングシートの許容差がハブ設計と合わせて正確に調整されています。結果として、SINCセラミックベアリングの潜在能力を最大限に引き出すことが可能になりました。
SINC CERAMICシステムの利点は、DTSWISSハブに取り付ける事を想定して専用設計されていることです。セラミックボールとボールレースの間の最適な距離(クリアランス)は、ハブボディに取り付けられる事を計算し確保されています。これにより、転がり抵抗が最小限に抑えられ、ベアリングの摩耗がしにくくなります。
セラミックベアリングと鋼製のベアリングリング(ハイブリッドベアリング)の組み合わせにより、ボールとリング間の腐食が起こりません。そのため、ベアリングの寿命が大幅に向上します。ボールを所定の位置に保持するベアリングケージは、セラミックボールの材料に最適な材料で構成されており、各ベアリングサイズ用に特別に開発されています。
ITLAB 45 製品情報
- リム高さ:45.5mm
- リム横幅:30.0mm
- リム内幅:21.0mm
- リムスポークホールサイズ:非公開
- リムスポークホールアングル:非公開
- リムフック:あり
- リム材質・規格:東レT700+T800, ETRTO準拠621.95 +-0.5mm
- ハブ:DT SWISS 180EXP
- ベアリング:DT SWISS SINC セラミック
- ローターマウント:センターロック
- フリーハブ:シマノ(SRAM XDに変更も可)
- フロントアクスル:100mm x 12mm
- リアアクスル:142mm x 12mm
- スポーク本数:Front 24本, Rear 24本
- スポーク材質:チタン
- スポークカラー:ブラック
- リムガラスコーティング(オプション):3年耐候
- リムテープ(オプション):DTSWISS, Notube, Taya, EffettoMariposa, Mavic, ENVE
- ロゴ仕上げ:水圧転写
- 重量:1,228g(誤差±0.8%)
- リム製造:台湾
- 組み立て:日本
- 推奨TLタイヤ:
- Vittoria Corsa G2.0 TLR
- Vittoria Corsa SPEED G2.0 TLR
- Continental GP5000 TL
- S-Works Turbo RapidAir
- 推奨CLタイヤ:なし
- テストはContinental GP5000で実施。
- 推奨シーラント:
- EffettoMariposa CaffeLattex
- Notube
- スペシャライズド RapidAir
リム内部写真
リム内部の仕上げにもこだわっており、重量増や異音につながる残留物が一切ない空間が広がっています。表からは見えませんが、一番気に入っている部分です。
他社比較データ
開発記
まとめ:ITLAB45というホイール
ホイールで最も神経を使ったのが重量です。カタログ重量は1,248g(誤差±0.8%)です。実際にすべてのリム重量を計測したところ数グラムの誤差が生じます。一度リム重量を測定し、重いリムと軽いリムを並べます。重いリム(と言っても+3~4g程)は重量が軽いフロントホイール側に使用します。軽いリムはリア側に使用するという一手間を加えています。
最終的に前後をシャッフルし、できるだけカタログ重量を下回るようなペアを作ります。DT SWISSのハブは本当に精度と品質管理が恐ろしく高く、誤差は0.5gあるか無いかです。グリスの量すら機械で正確に充填されているようです。重量は私が最もこだわった部分です。自分自身が1g単位で機材を見ているのでITLAB45にもその細かさを追求しました。
結局開発をスタートしたのが、ニセコクラシックが終わった2019年の7月、288gのサンプルリムを関西シクロクロスに投入したのが11月、リム設計が終わったのが翌年2020年の4月、リムの第一号は2020年6月にオーダーして出来上がったのが8月、組み上げてスポークテンションなど実走テストしたのが9月と1年以上かかった計算になります。
海外企業とは、設計やデーターやり取りなど指示をすべて私のつたない苦手な英語で行いましたが、本当に開発よりもこちらのほうが苦労しました。取引をするのにPI(proforma invoice)という略語すら理解していないヤバイレベルでしたが、今ではなんとかやり取りができています。
また、paypalやvisaで支払うことはほぼありません。海外送金できる口座を用意しなくてはならないです。そのため、マルチカレンシー口座であるtransferwise.comを使用しました。一度の送金で100万円近く支払いが生じるため手数料もバカになりません。transferwise.comは手数料が安いので継続的に利用しています。
このように、1つのホイールを生み出すために様々な経験が副産物として得ることができました。8月分は完売、10月分も完売しています。当面は知り合いのみの販売になります。一般販売は今の所決定しておりません。とはいえ、設備投資や開発費がかさんでいるので、一般販売はいつかしなければと考えています。
このホイールのコンセプトが気に入って、使っても良いよという人の元で走り始める時こそが、本当の完成なのかもしれません。