SWISS SIDEが検証! 1165gのLightweightと1600gのエアロホイールどちらが速いのか?

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「軽量ホイール」と「エアロホイール」どちらが優れているのか。

SWISS SIDEは、エアロホイール(HADRON Ultimate 625)と軽量クライミングホイール(Lightweight Meilenstein)を用いて、風洞試験データおよび実際のコースデーター、風向きを元に、タイム短縮と損失時間のシミュレーションをおこなった。

SWISS SIDEのシミュレーションが興味深いのは、「空力性能」、「重量削減」、「回転重量(慣性)」がどのように「速さ」に影響するのかを割り出したことにある。SWISS SIDEは、風洞実験、コースシミュレーションなど、さまざまな先進のツールとノウハウを駆使してこの問いに答えた。

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シミュレーション概要

使用したホイールとシミュレーションの条件は以下の通り。

  • タイヤ及び、転がり抵抗(Crr)は同一
  • SWISS SIDE HADRON Ultimate 625:1600g
  • Lightweight Meilenstein :1165g
  • HADRON Ultimate 625とLightweight Meilensteinにおいて空力性能(Aero)、重量(Mass)、回転重量(Rotation Mass)を独立させ、4つのコンフィギュレーション(A、B、C、D)を段階的に変更した。
  • それぞれのコンフィグを3種類のコース(登り、TT、クリテリウム)にあてはめ、各コースに要する時間を算出した
  • 実際のライダーのパワーと、バイクシステムウェイトを用いた
  • 各コンフィグと各コースについて、無風、風速5km/h(全方向の加重平均)、風速10km/h(全方向の加重平均)のさまざまな風の状態と空力効果を考慮した

風速についてだが、日本では「風速◯メートル毎秒(m/s)」のほうがイメージが付きやすいため以下にメートル毎秒(m/s)換算を記した。

  • 5(km/h) → 1.39(m/s)
  • 10(km/h) → 2.77(m/s)

風速3m/sがどのくらいの風かというと、「風見鶏が動くか動かないか」や「顔に風を風を感じる。木の葉が揺れる」や「ゆっくりとママチャリにのるぐらい」といった強さで、物を動かす力としては弱い。今回の実験でも”ひじょうに弱い風”で検証している点が興味深い。

加重平均計算についての記事は「どちらが空力が良い?なぜDragに重み付けをすべきなのか。」を参照のこと。

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Photo:SWISS SIDE

それぞれのシミュレーション結果において各行に時間差が示されている。それらの時間差は、前のコンフィグレーション(BならA、CならB、DならC)との相対的な差である。

つまり、コンフィグレーションAはベースとなる基準(HADRON Ultimate 625)だ。コンフィグレーションBは、重量削減によって得られる時間差だ(ただし、回転重量の効果は含まれていない)。

コンフィグレーションCは、コンフィグレーションBと比較した結果だ。回転重量の効果による時間差を示している。外周重量が軽ければ加速は良いが、減衰もその分大きい。対して外周重量が重ければ、巡航時の速度維持はしやすいが加速は鈍いといえる。

そして、コンフィグレーションDは、構成Cと比較した空力効果による時間差を示している。

最後のTotal D-Aは、HADRONのエアロホイールからLightweightのホイールに変更した場合の総合的な効果の時間差だ。現実世界の条件と同様に、あらゆる要素(空力性能、重量、回転重量)を総合的に考慮した結果として算出している。

Dragが減ることによって何秒タイムを削減できるかについての算出方法は「Dragを100g減らすと何秒タイムを稼げるか」を参照のこと。

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結果:ヒルクライム

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Sa Calobra

ヒルクライムを想定したシミュレーションは”Sa Calobra”を用いて行われた。Sa Calobraで歴史的なレースが行われた実績はないが、ブラッドリー・ウィギンズが2012年のツール・ド・フランスで優勝するために、ここでトレーニングを積んだ。

平均勾配約7%、全長10kmの山岳(六甲山逆瀬川ルートとよく似た)は、アルプスやピレネーほどの難易度はない。しかし、実に素晴らしい登りで、マヨルカで最も有名な登り坂であることは間違いない。

側壁には、石灰岩の断崖絶壁がターコイズブルーの海まで続いている。ごつごつとした月面のような地形を縫うように走るこのコースは、26のヘアピンカーブ、息をのむような景色、背筋の凍るような下り坂は、多くのサイクリストの心を掴んできた。

  • コース:Sa Calobra
  • 全長:9492m
  • 平均時速:18.2km/h
  • 平均斜度:7.1%
  • 平均出力: 322W
  • 合計時間:31分19秒
  • 電力感度:-5.0sec/W(出力1W追加あたりの時間短縮)

以下結論。

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Photo: SWISS SIDE
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Photo: SWISS SIDE
  • B(重量の軽減)の結果では、Lightweight Meilensteinを用いた場合6.7秒速い。
  • C(回転重量の軽減)の結果では、Lightweight Meilensteinを用いたとしてもごくわずかな時間差0.05秒未満しか生じない(結果の数値は丸められているほどに)。
  • D(エアロダイナミクスのみ)の結果では、Lightweight Meilensteinは風速0 km/hで+2.3秒”遅く”、風速10km/hで最大+14.8秒”遅い”。
  • 総合的なTotal(D-A)の結果では、Lightweight Meilensteinは風速0 km/hで4.4秒速い。風速10km/hではセーリング効果がなくなり最大8.0秒遅い。
  • Lightweight Meilensteinによる回転重量の軽減は、ほとんど効果がない。

『Lightweight Meilensteinに謝れ!』

という、SWISS SIDEへの謝罪要求が日本国中から聞こえてきそうな結果だ!

という話はさておきサイクリストが「こうであってほしい」「こうであるはずだ」という思い(≒バイアス)はいともかんたんに覆されてしまった。

結果を改めておさらいしていこう。

結論としては、Total(D-A)が全ての条件を用いた結果を表している。風速 0km/hであればLightweight Meilensteinが4.4秒速い。しかし、風速5 km/h~10 km/hであればSWISS SIDE HADRON Ultimate 625のほうが速い。それは、重量や回転重量(慣性)を考慮してもだ。

それぞれのホイールの間には重量差が435gある。この重量差は一見すると大きいが、エアロダイナミクスの性能が支配的でHADRON Ultimate 625のほうが5 km/h以上の風が吹いている場合は速く走ることができる。

無風のレースはこの世に存在しないため、Lightweight MeilensteinよりもHADRON Ultimate 625のほうがヒルクライムには有効だといえる。

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結果:タイムトライアル

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Photo: SWISS SIDE
TT_Course_Results_grande
Photo: SWISS SIDE
  • 全長:40.259 km
  • 平均時速:49.2km/h
  • 平均斜度:-0.3
  • 平均出力: 282W
  • 合計時間:49分04秒
  • 電力感度:-3.9sec/W(出力1W追加あたりの時間短縮)

次にフラットな40kmのコースを想定した結果だ。

「Lighうえぃtnあやまr」

  • B(重量の軽減)の結果では、Lightweight Meilensteinの軽量化により、TTコースで0.3秒速い。
  • C(回転重量の軽減)の結果では、Lightweight Meilensteinを用いたとしてもごくわずかな時間差の0.05秒未満しか生じない(結果の数値は丸められているほどに)。
  • D(エアロダイナミクスのみ)の結果では、Lightweight Meilensteinは、風速0 km/hで29.5秒遅く、風速10km/hで最大+105.7秒遅い。
  • 総合的なTotal(D-A)の結果では、Lightweight Meilensteinは風速0 km/hで29.3秒遅く、風速10km/hで105.3秒遅い。
  • Lightweight Meilensteinによる回転重量の軽減は、ほとんど効果がない。
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結果:クリテリウム

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Photo: SWISS SIDE
Criterium_Course_Results_grande
Photo: SWISS SIDE
  • 全長:42.817 km
  • 平均時速:40.2km/h
  • 平均斜度 0%
  • 平均出力:235W
  • 合計時間:63分52秒
  • 電力感度:-5.1sec/W(出力1W追加あたりの時間短縮)

次にフラットな40kmのコースを想定したクリテリウムの結果だ。

  • B(重量の軽減)の結果では、Lightweight Meilensteinの軽量化により、2.4秒速い。
  • C(回転重量の軽減)の結果では、Lightweight Meilensteinを用いたとしても0.7秒速いという非常に小さなタイム短縮しか得られない。
  • D(エアロダイナミクスのみ)の結果では、Lightweight Meilensteinは、風速0 km/hで20.5秒遅く、風速10km/hで最大81.2秒遅い。
  • 総合的なTotal(D-A)の結果では、Lightweight Meilensteinは風速0 km/hで17.4秒遅く、風速10km/hで78.2秒遅い。
  • Lightweight Meilensteinによる回転重量の軽減は、ほとんど効果がない。

「Lighうえぃtnあやまr・・・」

(m´・ω・`)m ゴメンヨ…

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まとめ:Aero is Everything

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結果で非常に興味深いのは、回転重量(慣性)の効果が小さく無視できるということだ。これは、スピードの加減速に乏しいタイムトライアルやヒルクライムでは予測できたことだが、加速とブレーキングを繰り返すクリテリウムでは意外な結果といえる。

クリテリウムでは、435gの軽量化されたホイールセットによる回転重量の減少が、63分52秒のレースタイムにおいて-2.4秒のタイム短縮(0.06%)程度というわずかな時間短縮にすぎない。しかし、これには空力的な効果は含まれていない。したがって、空力効果の方がはるかに大きいことがわかる。

しかし、さらに詳しく分析していくとその理由は明らかだ。重いホイールでは、加速時にエネルギーが失われにくい。このエネルギーは、フライホイールのようにホイールに蓄積されていく。このエネルギーが失われるのは、多くはブレーキング時と空気抵抗だけである。

クリテリウム競技においてブレーキングが行われるタイミングを分析すると、その割合は走行時間の2%未満だ。さらに、ホイール間の相対的な重量差は比較的小さく、この”小さな”回転重量の減少は、走行時間の2%未満しか利益をもたらさない。

したがって、ホイール慣性に対する感度が非常に小さく、シミュレーションによって予測される時間短縮がわずかであることは、なんら驚くことではない。また、回転重量の効果は、登坂や加速による全体的な(静的な)重量効果よりも 1 桁小さい。

時間短縮のための空力の効力は、これらのシミュレーションによって、圧倒的に優位であることが浮き彫りになっている。ヒルクライム中でさえ、空力効果、特に風の存在によるセーリング効果が、支配的な性能パラメータであることを示している。

ホイール、広くは機材の選定においてこれらの観点を考慮した場合、明確な順位付けを行うことができる。

  1. エアロダイナミクス (1次効果)
  2. 重量。(2次効果)
  3. 回転重量。(3次効果、ほとんど無視してかまわない)

補足だが、「SWISS SIDE HADRON Ultimate 625」はジェネリックのDTSWISS ARC 1100 62だ。両者が共同開発して中身はどちらも同一のモデルである。ARC 1100は世界TOP3のエアロロードに標準装備されている。

現代のエアロロードはARC 1100 62を搭載しなければ、最速の称号を勝ち取ることが非常に難しくなってしまった。それほど空力性能に優れたホイールなのだ。

今回のシミュレーションはHADRON Ultimate 625とLightweight Meilensteinを比較したわけだが、例えばROVAL RAPIDE(1400g)と比較した場合は結果が異なるだろう。

「空力」と「重量」のバランスの落とし所を探るのは、非常に難しく、組み合わせが無数にあり、答えがない問題だ。ただ、ヒルクライムを走る場合は1gを削ってまでローハイトのホイール、軽量バイクのAETHOSやSUPER SIX EVOといったモデルを使うことは、必ずしも合理的な判断とはいえない。

もちろん、「空力」と「重量」のバランス次第であるが6.8kg制限があるのならば空力性能よいCANYON AEROAD CFR、PINARELLO DOGMA F、VENGEといったモデルにできるだけ空力性能がよく、軽量なホイールを取り付ける組み合わせのほうがタイム短縮への寄与度は高い。

今回の結果は、回転重量は思っている以上に重要ではなく無視しても良いこと、風が強くなれば強いほどエアロ効果が重量差をスポイルすることなど、「軽い=速い」という思い込みが見事に崩れ去る結果だった。

もちろん「空気抵抗の大部分はライダーがー」という話はこの記事を読んでいる方のほとんどが知っている既知の事実であり、今回のシミュレーション結果の内容とは議論の観点が異なるためふれない。ライダーの空気抵抗”も”減らす事によってさらに速く走れることは周知の事実であり、機材の話とは別の観点として議論する必要がある。

いずれにせよ、SWISS SIDEが行ったシミュレーションの結果は今後の機材選定に大きな影響を及ぼすだろう。重量を気にしつつできるだけエアロ効果を優先し、そこから総合的な軽くしていくことが、機材選定の合理的なアプローチといえそうだ。

CYCLE SPORTS (サイクルスポーツ) 2023年 7月号

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