MOVINGSPORTSが送り出す超軽量カーボンスポークホイールセット「SL1200cs」。50mmディープリムで実測重量1251gという1200g台を達成しながら、$1,149という極めて競争力のある価格設定を実現した。
多くのホイールセットが未だ1300g台に留まるなか、SL1200csは素材選定、構造最適化、CAE解析によるレイアップ設計、そして自社内の厳格な試験体制を通じて、1グラム単位の軽量化を積み重ねている。
今回は、MOVINGSPORTSのSL1200csについてレビューしていく。
MOVINGSPORTSブランドについて
MOVINGSPORTSは、10年以上にわたる自転車業界での経験を持つチームによって設立されたブランドである。小さなワークショップからスタートし、数多くのグローバルブランド向けに製品を製造してきた実績を持つ。
「Understand the ride, Love the ride, Create the ride(乗り物を理解し、乗り物を愛し、乗り物を創造する)」をスローガンに掲げ、製造から創造へ、R&Dから実際のライドへ、工場からレース現場へと進化を遂げてきた。
同社の最大の強みは、500m^2のQCラボと100万ドル以上の試験設備を自社内に保有している点にある。すべての試験を社内で実施し、そのデータを直接製品改良にフィードバックする体制を構築している。
複数のサードパーティラボにプロジェクトを分散させたり、受託製造業者からの試験結果の開示制限を受けることなく、一貫した品質管理を実現している。
ULW1.0 RIM:軽量性と高剛性の両立
ULW(Ultra Lightweight)テクノロジーの概要
SL1200csのリムには、MOVINGSPORTS独自のULW(Ultra Lightweight)1.0テクノロジーが投入されている。
CAE最適化を活用して最も効率的なカーボンレイアップ構造を設計し、Toray T800およびT1000カーボンファイバーをベースに、独自のレジンシステムとポイント補強設計を組み合わせている。
この技術により、積層の重なりと接合部を最小限に抑え、軽量化と高剛性の両立を実現した。使用するカーボンファイバーとレジンの量を削減しながらも性能を向上させるという、サステナビリティの観点からも先進的なアプローチを採用している。
ULW1.0テクノロジーによって達成された成果は、50mmリム単体で400gという驚異的な軽さであり、ホイールセット全体で1200g台を実現している。
MOVINGSPORTSはこれを始まりに過ぎないと位置づけており、次世代のイノベーションがすでに進行中であることを示唆している。
リムスペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| ホイールサイズ | 700c |
| タイヤ互換性 | クリンチャー / チューブレス |
| ビードタイプ | フック付き(Hooked) |
| リムハイト | 40mm / 50mm / 65mm |
| 内幅 | 21mm |
| 外幅 | 28mm |
| 対応タイヤ幅 | 700 x 25-38C |
| 50mmリム単体重量 | 400g |
3種類のリムハイト(40mm、50mm、65mm)を用意することで、純粋なヒルクライムからオールラウンドなエアロダイナミクスまで、さまざまなライディングシナリオに対応している。
25-38Cのタイヤ幅に最適化されており、安定性、ハンドリング、パフォーマンスのバランスを確保している。
素材と製法の技術
プレミアムカーボンファイバー
SL1200csのリムには、Toray製プレミアムグレードのT800およびT1000高弾性カーボンファイバーが採用されている。
この最上級素材は、優れた剛性と強度を発揮し、高負荷下でもホイールセットの変形を抑え、走行安全性と安定性を保証する。T800は高い引張強度と弾性率のバランスに優れ、T1000はさらに高い強度を実現するトップグレード素材である。
シングルポイント補強設計
応力が集中する重要箇所にシングルポイント補強設計を適用している。この設計により、ホイールセットの耐久性が効果的に向上し、複雑な路面状況や頻繁な応力負荷においても、最適なパフォーマンスと長寿命を維持する。
一般的なカーボンホイールが全体均一の積層で強度を確保するのに対し、MOVINGSPORTSは応力解析に基づいて局所的に補強層を追加するアプローチを採用している。
衝撃試験
MOVINGSPORTSは、リムへの重量物落下による放射状衝撃試験と、縁石への側面衝突をシミュレートする横方向衝撃試験を実施している。これらの試験は極端なライディング条件を再現するもので、以下の3点を評価している。
- 安全閾値を超えるリムの変形が発生しないか
- ハブベアリングまたはスポーク接続部の緩みが発生しないか
- 長期耐久性を損なうカーボンファイバー層間剥離が発生しないか
UCI規格が求める衝撃エネルギーは40Jであるのに対し、MOVINGSPORTSの社内基準は85Jに設定されている。UCI基準の2倍以上という厳格な自社基準は、実走行で遭遇し得る予期せぬ衝撃に対する大きなマージンを確保している。
| 試験項目 | UCI基準 | MOVINGSPORTS社内基準 | 基準比 |
|---|---|---|---|
| 衝撃エネルギー | 40J | 85J | UCI基準の212% |
ストレスリリーフ工程
ストレスリリーフ(応力除去)は、ホイールセットの長期的な構造健全性を確保するために不可欠な工程である。組み立て時、Jベンドスポークのハブフランジ接合部やカーボンリム内のニップル着座部など、各接触点は完全なアライメントを欠くことが多い。
MOVINGSPORTSでは、制御された高圧荷重を加えることで、これらのコンポーネントを最終的な安定位置に「着座」させている。この工程により、スポーク内部の残留応力が同時に中和され、完全な「慣らし」サイクルをシミュレートする。
結果として、テンションを維持し、完璧な振れ精度を保ち、早期疲労から保護されたホイールが完成する。
| 項目 | 業界標準 | MOVINGSPORTS |
|---|---|---|
| ストレスリリーフ圧力 | 100~120kg | 150kg(最大170kg) |
業界標準が100~120kgの圧力を適用するのに対し、MOVINGSPORTSは常時150kg、最大170kgの圧力を使用している。この高圧ストレスリリーフにより、出荷後の振れ発生リスクを大幅に低減している。
なお、すべての製品はDT Swissのテンションメーターで出荷前にスポークテンションの確認を実施し、ストレスリリーフ工程の完了を保証している。
120kg ライダー体重制限
超軽量設計でありながら、SL1200csはライダー体重制限を120kgに設定している。1251gという軽量ホイールセットにおいて120kgの耐荷重を確保している点は、ULW1.0テクノロジーとシングルポイント補強設計の構造的信頼性を示すものである。
Aero+ カーボンスポーク:剛性と軽量性の最適解
SL1200csには、MOVINGSPORTS独自開発のAero+カーボンスポークが搭載されている。幅4.5mm、平均重量わずか3.2gという仕様で、スチールスポーク仕様のSL1200から14gの軽量化を達成した。
細径カーボンスポークや従来のスチールスポークと比較して、Aero+スポークは優れた横剛性とねじり剛性を発揮する。これにより、ダンシングでのスプリント時における瞬時のパワー伝達が保証され、ラグの発生を低減しているという。
軽量構造とハイパフォーマンス出力のバランスにより、競技レースや高ワット出力シナリオにおける「スイートスポット」を体現している。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| スポーク幅 | 4.5mm |
| スポーク平均重量 | 3.2g / 本 |
| SL1200(スチール版)との重量差 | -14g(ホイールセット合計) |
| 主な特性 | 高い横剛性、優れたねじり剛性、瞬時のパワー伝達 |
W-minus ハブ:軽量性とラチェットシステム
軽量ハブ設計
W-minusハブは、あらゆる部分において軽量化と最適化を施すことで、280gという重量を達成している。この重量はDT Swiss 180ハブに匹敵するレベルでありながら、大幅に競争力のある価格帯で提供されている。
スターラチェットシステム
W-minusハブは、従来のパウルシステムに代えてスターラチェットシステムを採用している。ラチェットシステムは、より先進的かつ信頼性の高いハブドライバー構造として広く認知されており、以下の利点を備えている。
- より大きな係合面積による優れた荷重分散
- 卓越した耐荷重性能
- 高速なエンゲージメント速度
- 優れた耐久性と信頼性
- 工具不要のメンテナンスによる容易なサービス
さらに、パフォーマンスの向上を追求するために、標準の36Tラチェットから45Tまたは54Tラチェットへのアップグレードが可能となっている。ラチェット歯数の増加により、競技レースにおけるさらに即座のパワーレスポンスを実現できる。
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| ハブ名称 | W-minus |
| ハブ重量 | 280g |
| 駆動方式 | スターラチェットシステム |
| 標準ラチェット | 36T |
| アップグレードオプション | 45T / 54T |
| メンテナンス | 工具不要(ツールフリー) |
競合比較
SL1200csを同クラスの海外ブランド製カーボンスポークホイールセットと比較すると、重量と価格の両面で際立った競争力を示している。以下の表は、市場における主要な海外ブランドとの比較である。
近年急成長を遂げている中国ブランドのカーボンホイールセット市場においても、SL1200csは明確なアドバンテージを持っている。
中国ブランドとの比較において、SL1200csは重量と価格の両面で優位性を示している。
競合の中国ブランド群は$1,299~$1,699の価格帯で1220g~1300gの重量分布であるのに対し、SL1200csは$1,149で1251gを達成している。最も安い中国ブランドの競合製品($1,299、1300g)と比較しても、SL1200csは$150安く、かつ49g軽い。
MOVINGSPORTSが中国ブランドの競合に対して価格・重量ともに優位性を確保できている背景には、自社ファクトリーの存在がある。
生産能力、R&D、テストの面で自社工場のサポートを受けることで、生産コストをより効率的に管理できる。さらに、OEM管理規定による情報開示制限を受けることなく、工場と機密情報を共有して製品開発に活用できる点も大きなアドバンテージである。
この製造と開発の統合的アプローチにより、一貫した製品品質の維持を実現している。
アフターセール
3年間保証
MOVINGSPORTS公式ウェブサイトを通じて購入されたすべての新品ホイールセットには、3年間の保証が付帯する。
インプレッション
実際に走らせてみた。少々厳しい意見が並ぶが、これまで中華系からハイエンドまで様々なホイールを使ってきた上での、率直な感想として受け止めていただきたい。
一言で言うと、全てが薄められたホイールである。
軽いが走りが希薄
カーボンリム、カーボンスポーク、軽量なハブとトレンドを押さえてはいる。言い方は悪いが、最近よく見かけるどこにでもある仕様のホイールである。スペックもいたって普通だ。
実際走らせてみるとどうだろうか。1200g台の軽量性と50mmリムハイトを兼ね備えてはいるものの、走りの質がどこか薄い。ただ漫然と回転しているだけで、走るだとか、駆け上がっていくだとか、そういう高揚感が感じられない。
「ペダルを踏んだ瞬間にスッと前に出る加速感」も、「50mmリムが生む中高速域での巡航の伸び」も、どちらも中途半端で明確なキャラクターが立っていない。
どちらかというと、フィーリングが合わない。レース機材ならもう少し剛性方向に振るか、エンデュランス方面に振って巡航性を際立たせるか、方向性を明確にした方がホイールとしての存在意義がはっきりするだろう。
リムの径が小さい
SL1200csのリムが明らかに小さい。計測はしていないのだが、今回テストで6セットのホイールを用意して試していたところ、同じタイヤを流用してリムにはめ込んでいくとSL1200csだけタイヤがカパカパはまる。
タイヤがはまった後も、リム内側のショルダー(肩)部分でタイヤがリムの上で浮いているような感じになる。最外周と内側エッジの径が確実に小さいようである。
この時持ち込んでいた比較対象のホイールがROVAL、DT SWISS、Nepestなど比較的リム設計で精度が出ているリムだったが、SL1200csのリムは前後ともタイヤがカパカパはまるから恐らく径が小さい。
今回クリンチャータイヤをテストしたため、フックが付いていれば問題はないのだが、チューブレスタイヤの場合はリムテープを3周ぐらい巻かないとビードがしっかりとリムに収まらない可能性がある。
チューブレスはビードとリムの気密性が命であり、Hooked+チューブレス対応を謳う以上、ビードシート径の公差管理は次期ロットで改善すべき最優先課題である。
かなり硬めの脚当たり
走りは硬めである。50mmにしては減衰スピードが早く感じられ、あまり伸びない。Aero+カーボンスポークの4.5mm幅がもたらす横剛性はダンシング時のパワー伝達に寄与している(はずだ)が、巡航時の乗り心地を犠牲にしている。
軽さが悪さしているのか、回っている感覚が希薄であるのと相まって少々回しづらいと感じてしまった。この手のホイールが好きなライダーもいるかもしれないが、もう少し慣性というか、踏み込んだ時の伸びが必要なホイールだと感じた。
次回作では、リムの振動減衰特性とスポークの組み合わせによるシステム全体の乗り味チューニングに踏み込んでほしい。CAE解析の技術基盤を持つのであれば、硬さと伸びのバランスを最適化できるはずである。
あえて選ぶ理由が薄い
カーボンリムとカーボンスポークを使ったホイールだと考えれば非常に安いとは思うが、金額を考えると10万円を出す意味、あえてSL1200csを選ばなければならない理由が薄い。
全体的に、ホイールの主張が薄く何か特徴が感じられにくいホイールであった。少々厳しい指摘が多いホイールであったが、もう少しお金を出してNepestやYoeleoのホイールを検討することをお勧めしたい。
ただし、これは現行モデルへの評価である。自社工場とQCラボを持つMOVINGSPORTSは、OEM依存のブランドと比べて設計変更を即座に試作・検証・量産へ反映できる強みがある。
リム精度の向上、レイアップ最適化による乗り味の改善など、改善すべきポイントは明確に見えている。次のモデルでは、スペック上の数字だけでなく「走りの質」で勝負できるホイールへの進化を期待したい。
SL1200cs 主要スペック一覧
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| ホイールセット重量 | 1251g(50D、チューブレスバルブ・リムテープ除く) |
| リム | Toray T800+T1000、ULW1.0テクノロジー |
| リム単体重量(50mm) | 400g |
| リムハイト | 40mm / 50mm / 65mm |
| リム内幅 / 外幅 | 21mm / 28mm |
| ビードタイプ | Hooked(フック付き) |
| タイヤ互換性 | クリンチャー / チューブレス、700 x 25-38C |
| スポーク | Aero+ カーボンスポーク、4.5mm幅、平均3.2g / 本 |
| ハブ | W-minus、280g |
| 駆動方式 | スターラチェット 36T(45T / 54Tアップグレード可) |
| 衝撃試験基準 | 85J(UCI基準40Jの212%) |
| ストレスリリーフ | 150kg(最大170kg) |
| ライダー体重制限 | 120kg |
| 保証 | 3年間 + Ride-Onプログラム |
| 価格 | $1,149 |
まとめ
MOVINGSPORTS SL1200csは、自社ファクトリーならではの垂直統合型製造体制と、10年以上の業界経験の末、誕生したホイールである。
ULW1.0テクノロジーによるリム単体400g、Aero+カーボンスポークの4.5mm幅設計、DT180クラスのW-minusハブ、UCI基準の212%を達成する衝撃試験基準、業界標準を大幅に上回るストレスリリーフ工程など、各コンポーネントにおいて技術的な裏付けが明確に存在する。
海外ブランドの同クラス製品が$2,179~$4,399で展開されるなか、SL1200csは$1,149で同等以上の軽量性を実現している。
また、急成長する中国ブランド市場においても、重量・価格の両面で優位性を確保している。自社工場を持つことによる生産コスト管理と品質管理の一貫性が、この価格設定を可能にしている。
走りや、乗り心地に関してはイマイチの評価だったが、今後の改善に期待したい。


























