『弱虫ペダル1巻の使用機材インプレッション』に続き、今回も弱虫ペダルの機材にフォーカスして行く。サイクリストに「SCOTTに乗っている選手は?」という質問をしたら、こんな2通りの答えが帰ってくるかもしれない。「別府さん、サイモンゲランス」または「今泉君」と。前者はプロレースに興味を持っている感じだ。後者はアニメが好きなのかな?と想像できる。
私は今弱虫ペダルを読んでいる。最初は名前は知っていたものの(スペースゼロポイントさんのスポンサーだった為)読もうとは思わなかったし、テレビがないのでアニメも見ていなかった(放送してるのも知らなかった)。
しかしここで謝らねばならない。本書は泣けるのだ。私は今実業団で自転車競技をしている。メンバーで毎回レースを走ったりすると毎回ドラマが生まれる。弱虫ペダルの内容に自分自身を重ね合わせる。あそこまでドラマチックではなく、むしろ罵声が飛び交うロードレースだが、大筋読み物として面白い。
余談だが、読み物といえば論文か技術書、サイクル雑誌を主に読むので「漫画の読み方」がわからなかった。これは慣れの問題だろう。さて、弱虫ペダルのはじめに出てくる今泉氏のマシン「SCOTT CR1」についてだ。SCOTTというメーカを元にして、どのようなフレームだったのかを振り返っていきたい。
SCOTTはスイスの企業
なぜ「振り返る」という単語を使ったのかというと、現在CR1はFOILやADDICTにその座を奪われてしまい、フラッグシップとしては御役御免になった。しかし2004年のCR1発売当時は「軽量」や「高剛性」という触れ込みで登場しており、CANNONDALEのSUPER SIX EVOが登場した時と同じような衝撃度だった。
SCOTTというメーカーについてだが、私は長らく米国企業だと勘違いしていた。なぜなら私が中学生の頃、お年玉で買ったカーボン製のスキーストックにこう書かれていた「SCOTT USA」と。その頃から何十年も「SCOTT = USA」という図式が頭のなかに潜在していた。
しかしよくよく調べてみるとどうやらSCOTTは、精密な製品を生み出すスイスの企業だ。創業者は先程のスコット・モンゴメリではなく、エド・スコットだ。もともとスキー用のストックやゴーグルが強いメーカであった。
余談だがキャノンデールを創業したジョー・モンゴメリの息子は、スコットの副社長スコット・モンゴメリだ。なおスコットと付いているがSCOTT社には関係ない(私も誤解していた)。本田技研工業に本田さんが何十人もいる(はず)のと一緒の話しである。
その辺については当ブログで相当前に書いた。その点も踏まえ、振り返りつつSCOTT CR1を紹介したい。
当時の最軽量SCOTT CR1
SCOTTが自転車の世界に進出したのは1986年頃。3年後にツール・ド・フランスで初勝利をおさめることになる。SCOTT社は2000年前半「世界初」だとか「世界最軽量」というNO.1の物を目指していた。当時は自転車のフレームは1kg超えの物が当たり前だったが、1kgを切ったフレームを開発したのもこの頃だ。
その数年後、CR1が「世界最軽量フレーム」として登場した。自転車のフレーム機材メーカとして「マイナー」だったSCOTTは「CR1」で一躍、卓越したカーボン技術を持つ企業として認知され始める。
CR1は発表当時こそハイエンドなバイクであったが、その後「アディクト」がリリースされた。このアディクトは純粋なレースフレームとしてリリースされることになり、CR1との住み分けをしなければならなくなった。
アディクトとの差別化
CR1は2011年に方向転換をする。これまでの方向性は高剛性と軽量化であったが、それてば特徴がかぶってしまう。そこで与えられた役割はコンフォート性能だった。スペシャライズドのターマックとルーベがあるようにレーシーなバイクとコンフォートという住み分けをした。
従って初期のCR1のコンセプトを今に明確に受け継いでいるのはアディクトと言える。
カーボンの違い
スコットのモデルは使用されているカーボンで価格帯が異なる。HMF-SL、HMF、HMXの3種類が存在している。
どのような違いがあるのかというと、使われているカーボンの繊維の細さが違う。細ければそれほど密度を上げられるが、高度な技術と手間が必要となる。上位ほど同じ厚みでも密度を上ることにより高剛を確保することが可能になる。
今泉君の使用機材
今泉君のアッセンブルは、おおよそその外観で予想をつけた。大きくは外れていないと思う。しかし物がモノだけに、生暖かい目で見て欲しい。どうやらシマノ7700シリーズをメインコンポとし、シマノの軽量ホイールを使っている。一番気に入ったのはハンドルがクラシックな「丸ハンドル」という点だ。
- フレーム:scott cr1 team issue
- ブレーキ:BR-7700
- STI:ST-7700世代
- タイヤ:シュワルベ RightRun
- ホイール:WH-7700
- ステム:ITM
上記のように判断した理由は以下の絵から判断した。フレームはフォークからSCOTT CR1 TEAM ISSUEではないかと推測している。では実際にCR1にアッセンブルされているコンポーネントを見ていこう。
ブレーキはBR-7700
1巻91p参照。始めに言っておきたい。名品中の銘品DURAACEのBR-7700と予想している。形状から当時の美しき(今では考えられない)曲線美が当時のシマノには有った。今のBR-9000には無い艶やかな光を放つBR-7700を今泉君のコンポーネントに確認することができる。
初め見た時はBR-7700かと思ったが「余計なくぼみ」が無いからBR-7600で大筋間違っていないだろう。銘品を高校生ながら使うとはこれまた裕福な家庭である。発売は1996年。
タイヤは以外なSCHWALBE RIGHT RUN?
1巻34p参照。意外だったのは使用しているタイヤではないだろうか。恐らくSCHWALBEのRIGHT RUNと予想している。どちらかと言うと練習用のタイヤでありハイエンドとは言えないが、通学で減るのが速いタイヤに高級タイヤは不要だ。
ホイールはWH-7700
1巻34p参照。今泉君が使うホイールはハブの形状からWH-7700と予想される。このホイールは通常のニップルは外周に位置するが、センターのハブ側にニップルが位置している。このため外周の重さを減らすことができ、当時としては画期的であった。2005年頃発売。
自転車界(シマノホイール歴史の中でも)では黒歴史とされるWH-7700も今泉君が使えば人気が今後出るかもしれない。
現在のSCOTTプロダクト
現在のSCOTTのラインナップを確認する。SCOTT好きでCR1からの乗り換える場合の参考にしていただけたら嬉しい。レースシーンで使われているSCOTTのマシンといえば、FOIL、ADDICT、PLASMAだ。それぞれに特徴があるので紹介したい。FOILは私も乗っていたフレームだ。そしてADDICTは私のメカニックが乗っており実際試乗した。
PLASMAはタイムトライアルバイクで一般的にはお見かけできないが、シェルボ奈良のおーちゃんが乗っていた。当時私と同じチームで走っていた時に実業団の「南紀白浜タイムトライアル」で優勝した時もこのバイクだ。なかなか造形がエグいバイクである。
ADDICTは2009年頃コロンビアハイロードが使っていた。確かウリ文句が軽量フレームのADDICTでもスプリントが行けると。記憶が曖昧なのだが、当時海外サイトの記事で所属していたスプリンターのカヴェンディッシュのADDICTは「専用設計」だったとされている。
1800W(選手が出せるパワー)を超えるスプリンターにとって、薄いカーボンで作られた軽量マシンADDICTは柔らかかったらしい。そのためADDICTの長所である軽量性を犠牲にし、カーボンの厚みを増し、剛性を高めていたモデルが存在していたようだ。
UCIの規定か何かで、販売してないフレーム乗っちゃダメよ、という規定があったはずだが、SCOTTはたまに「選手仕様」のフレームを販売する。実のところ私が乗っていたFOILは通常のFOILではなくオリカ・グリーンエッジの選手が乗る剛性を上げたモデルだった。
SCOTT FOIL
2012年の9月頃選手仕様FOILは、ゴールドウィンがSCOTTの国内代理店の際、日本に25台だけ入ってきた。その内のXSサイズを店にお願いして入れてもらった。当ブログを継続ウォッチされている方はご存知のことと思うが、すぐに売ってしまった。あまりにも硬かった。
それからあまりFOILには良いイメージが無いが、現在使用している選手を思い出すと、当チームのMさんや、JPTのVC福岡のM原選手を思い出す。乗る人が乗れば良いフレームである。なお、FOILは空力特性が非常に優れており、剛性値も高い。
少し脱線するが、フレームを選ぶ際にプロ選手を参考にしないほうがいいかもしれない。提供を受けていない選手が身銭を払って何を買っているのかの方が、よほど参考になる。例えば、TIMEを愛する盆栽自転車店の店主さんや、有名なサラリーマンライダーの方という具合だ。
話は戻り、SCOTTのFOILについて以前当ブログで紹介した、SCOTT FOILの剛性値とエアロダイナミクスのデーターを再掲しよう。
FOILについて第三者機関が公表した「AERO REVISITED」という資料。以下のメジャーエアロロードを数値解析した資料だ。
- SPECIALIZED VENGE
- SCOTT FOIL
- CERVELO S5
- LITESPEED C1
上記エアロロードの空力特性、剛性、のテストを行った結果はどうなるのか。BB周りの剛性のテスト方法は100kgの負荷をかけた時、どれくらいのたわみが発生するかを数値で示されている。
- 0.71mm SCOTT FOIL
- 0.89mm LITESPEED C1
- 0.96mm CERVELO S5
- 1.35mm SPECIALIZED VENGE
見ての通りFOILが一番剛性があるとのの結果が出ている。続いて時速40kmで通常の丸パイプと比べてどの程度出力がセーブされるのかについてだ。
- 20.5w CERVELO S5
- 14.1w SPECIALIZED VENGE
- 11.7w SCOTT FOIL
- 9.8w LITESPEED C1
yaw angleが+-5~+-25ではFOILとVENGEの性能差は大きく見られない。テストスコアはFOILが唯一の80ptでダントツという結果だった。FOILは総合的なバランスがとれたエアロロードで剛性もあり、空力も考慮したマシンと言える。
最後に:SCOTT CR1は過去の名車なのか
今でこそCR1はセカンドグレード(FOILやADDICTと比べて)になってしまったが、それでも名車中の名車として今でも愛されている。現在のカーボン技術は恐ろしく進み650g台で軽量かつ高剛性のカーボンフレームも珍しくない。そんな中でCR1の優位性が目立たなくなったのも事実だ。
しかし、我々ホビーサイクリストにとってはCR1は十分なスペックと言える。2004年に発売され、最近では価格も安く購入できるようになった。マイナーチェンジを繰り返し金型代も回収できたのだろう。中古市場にも溢れているので、今買うなら良い買い物だといえる。
確かに「今泉君が乗っているフレーム」ではあるのだが、軽量化競争の先駆けのフレームはただ軽いだけのフレームではなく、オールラウンドに使える名車と呼ばれている1台だ。そういう意味では今泉君は登れるオールラウンダーと聞いているので、まさに本人にあった一台だろう。
一時代を築いたCR1という名車を、一度試してはどうだろうか。
追記: 私の周りのガチサイクリスト達には全く興味のない記事らしい(笑 暇があれば個人的なまとめで、細細と書くつもりだ。