ロードの機材「としては」新しい技術である「スルーアクスル」構造のフレームが密やかに登場し始めてきている。主にシクロクロスとロード用のディスク仕様車である。今現在販売されているディスク仕様マシンの多くはそれらには該当していない。
そもそもスルーアクスルが何を示すのかというと、ホイールを固定するための構造を指す。今はクイックリリースがロードバイクやシクロクロスの主流機材であろう。クイックを緩めるだけで簡単にホイールを外すことができ、締めるだけでホイールが固定されるすぐれものだ。
ディスク仕様のマシンにおいてこのクイックリリースに取って代わるかもしれないのが、今回注目する「スルーアクスル」だ。MTBやDHといったオフロード系の方からしたら「何を今更・・・」感は満載なのだがロード乗りからすると「なんだそれは」という方も多い。
少なくともいろいろな機材(ロードだけであったが)を見てきた私は、MTBをやるまで「スルーアクスル」なんて知らなかった。お恥ずかしい話であるが、使わないし必要が無いのであれば知識として入ってくることはないのである。
ただ、オフロード機材を使った後に、シクロクロスのディスクブレーキを使って思ったのは「スルーアクスル」方式をなぜ採用しない!?という事だった。
これらスルーアクスルの恩恵を受けるべき機材(シクロやロードのディスク仕様車)がいまだクイックリリースを使用している状況だ。今回はスルーアクスル方式とそれらを採用しつつ有るメジャーメーカーの機材について見ていく。
そもそもスルーアクスルとは何か
スルーアクスルとクイックリリースを並べてみると一目瞭然だ。ただ、その太さだけに目が行きがちだがそもそもハブを支える構造が異なっている。もともとスルーアクスルはMTB等のオフロードにおいて負荷に耐えるために考案された。いくつかの規格が乱立していたが主に15mm(CX)や20mm(DH)といったところだろうか。
通常のロードバイクは9mmのクイックリリースを採用している。これはほぼ100%と言って良い。ではスルーアクスルと何が違うのだろうか。スルーアクスルで重要なのはこの経と相まって「ハブの支え方」が異なると言うことだ。以下の画像を見て欲しい。
これは、コルナゴの最新バイクV1-Rのディスク仕様車である。一見なんの変哲もないフロントフォークだがよく見て欲しい。このフォークには、おなじみのハブシャフトを引っ掛けるための溝が切られていない。ツメと呼ばれる部分は全て塞がっている。
通常のロードホイールといえばフォークをハブにチョコンと乗せるだけだろう。そして固定する際は横からハブを締め付けるのだ。対してスルーアクスルはそのような機構が無い。ホイールのハブを支えるのはスルーアクスルのシャフト自体だ。
横から入れられたシャフト自体がハブ全体を支えることになる。スルーアクスル式の場合フォークとハブが重なる部分がない。ということは、スルーアクスルのシャフトが無ければホイールとして機能しない。
ロード用のクイックリリース式であればフォークのツメにハブシャフトが引っかかってさえすれば、クイックを抜いても走ることはできる。ただ、ウイリーやカーブは無理だろうが。ただこれらハブが担っていた部分を、スルーアクスルはシャフトとハブの合わせ技で支えているのである。
確かにこれは剛性が高くなる。
スルーアクスルはDISCこそ必要
私はディスクブレーキ仕様車を使ってきたが、やはりマウンテンのスルーアクスルに慣れてしまうと今のロードやシクロクロスのディスクブレーキ仕様に違和感がある。それは、先ほども違いを述べたがフォークにツメがあるクイック式でディスクローターを使うめんどさだ。
正直なところ、取り付けてしまえばそれまでなのだが取り付ける際にクイック式はシャフトがわすがながらも垂直に入らないようなものならディスクローターが擦れる。シャフトを締める時にわずかでも隙間ができて傾いたりすればそれだけで再調整だ。
スルーアクスルであれば、あらかじて決められたフォークの穴とシャフト、ハブが確実に一直線に並び面倒な取り付けに感じることは皆無だ。剛性も重要だがディスクブレーキとディスクローターを使うのなら利便性を考えてもスルーアクスルはマストといえる。
フロントフォークやリアエンドのツメの位置を把握し確認しながら、ディスクローターをブレーキ部のパッド内に入れるという曲芸などスルーアクスルには必要ないのだ。
次は、スルーアクスル対応のフレームを見て行く。
スルーアクスル搭載フレーム
まだ、ロードやシクロクロスのバイクにとってスルーアクスルはメジャーではない。ただ大手メーカーは既に開発し販売し始めている。そのラインナップを見ていこう。
COLNAGO V1-R DISC
早くからロード向けディスクブレーキフレームを手がけてきたコルナゴ。COLNAGO V1-Rはフロントに15mmのスルーアクスル方式を採用した。おそらく模索中なのだろうが、天下のコルナゴが採用したスルーアクスル15mmの意味は大きい。
このようにクイックリリースタイプの9mmと太さが違うことが一目でわかるだろう。また、結果的にフロントフォークの剛性確保にも寄与している。ディスクブレーキのローターを支えるためには必要な機構と言えるだろう。
TREK DOMANE 6.9 DISC
私がディスクブレーキ仕様のフレームの本命だと思っているのがトレックのドマーネだ。おそらく規格の先を見て買うならこのマシン一択だ。来年のシクロクロスで使えるなら使ってみたい。理由はそのエンド規格にある。
フロントリアともにスルーアクスルだが、その幅がフロント100mm、リア142mmだ。これはMTBで普及している規格そのものである。そして、乱立しているリアエンドは様々な規格に対応している。
STORCK AERNARIO DISC
まさに特種規格を突っ走るのが、STORCKのマシンだ。このSTORCKは日本ではあまり馴染みのないフレームかも知れない。ただ、海外のTOUR誌等で最高の評価を得たフレームメーカーという事もありフレームとしての性能は折り紙つきだ。このフレームのスルーアクスル経は面白い。
フロント9mm、リア10mmのスルーアクスル方式を採用している。理由はMTB等で使用される12mmや15mmのスルーアクスルは「重く」「高剛性」であり、ロードにはそこまでの剛性が要らないという結論からだった。確かに理にかなっている。
たしかにロードの機材はあまりショックを受けないで走るのでそこまで剛性は必要ないかもしれない。ただこの「独自規格」の悩みは変えホイールの幅が狭まることだ。これらSTORCKの例を見ても分かる通り、いまだロード界では規格の乱立が目立つ過渡期といえる。
まとめ:スルーアクスルの普及と課題
スルーアクスルはオフロードで普及してきたように、今後ロードでもディスク仕様車を中心に普及してくることだろう。ただ気になるのは、どの規格がデファクトスタンダードになるのかと、ロードにスルーアクスル程の剛性が本当に必要なのか、その二点である。
シマノは26インチのオフロード向け機材を捨て27.5(650B)の機材に注力し始めたが、このように大手機材メーカーやフレームメーカーの思惑が規格を動かして行くのだろう。しばしば、シマノが先陣を切らず市場が落ち着いてから舵を切るのは、自社が大きな影響を及ぼすことを知っているからだろう。
規格は規格で思惑がある。そして、そもそもロードにスルーアクスル程の剛性が必要なのかとも。ただ少なくともディスクローターを使うなら剛性は必要だろうし、利便性もスルーアクスルが有利と感じている。
リドレーが来季2016のシクロクロスバイクに15mmのスルーアクスルのフォークを採用することが決まった事からも、ディスクブレーキを使用するカテゴリにおいてはスルーアクスルが標準になって行くことだろう。
今はまだ過渡期といえるロードやシクロクロスのディスクブレーキ仕様だが、規格が固まるまで注目しつつ待ちたい。今後もしかしたらスプロケ多段化の波に押され、ロードの機材にもエンド幅の拡張や、スルーアクスル化は訪れてもおかしくはないのだ。
河出書房新社
売り上げランキング: 130,063