GOKISOホイールに興味があるサイクリストは多いだろう。理由として国内のレースでの露出度が最近高いことも影響してきている。乗鞍ヒルクライムやツール・ド・おきなわといったビックレースでの結果と相まって、高度な技術が詰め込まれた究極のハブは、おのずと注目度も高くなってくる。
ただ、GOKISOホイールに興味のあるサイクリストが気になっていることは「他のホイールとどれほど違うのか?」という事ではないだろうか。ある種得体の知れないホイールとして存在しているようにも思えるGOKISOホイールを使ったなら「別の世界を見せてくれるのでは?」と期待してしまうかもしれない。
そこで実際にGOKISOホイールをトレーニングからレースまで実戦投入し知り得た全ての情報と感触を余すところ無く書き記したい。前半は構造的な面について感じたこと、後半は実際に使ってみて感じた事を記した。
本当にGOKISOホイールは思っているような「魔法の道具」なのだろうか。
GOKISOハブとホイール
一つ明確にしておきたいことが有る。実際に使って思ったのは「GOKISOホイール」と「GOKISOハブ」は別物だとまず定義しなくおかなくてはならない。何が言いたいのかというと「GOKISOホイール」としてとらえた場合と「GOKISOハブ」ととらえた場合とでは全く機材に対する考え方が異なる結論に至った。
いきなり抽象的な言い回しになってしまったが理由はこうだ。GOKISO(株式会社近藤機械製作所)はホイールメーカーではない。主な業務内容は、航空機エンジン用軸受け部品の加工、超精密機械部品製作、超精密金型製作、金型設計製作と会社情報にある。これらの情報はご存じの方も多いことと思う。
要するに「軸受け部品加工」や「超精密機械」に関して高い技術を持つ企業だ。
したがって今回本記事を書く際に「GOKISOホイール」としての総合的(ハブ、スポークリム)な話と「GOKISOハブ」のいち部品的な話を分けて考えることにした。前置きが長くなったがまずは「GOKISOホイール」として考えてみたい。
良くも悪くも手組ホイール
まず私が使用したモデルは38mmのワイドクリンチャーモデルだ。
GOKISOホイールをニュートラルに捉えてみると、価格や性能を何も知らなかったとしてGOKISOホイールを見たとしたらただの手組ホイールだ。ビルダーは公開されていないが世間の物好きたちは知っている様子だ。スポークはSAPIMのCX-RAY、リムは初期型は台湾のGIGANTEXだ。
当初GOKISOのホームページ上にもGIGANTEX製リムを使用と書かれていたが今は消されている。どのような理由が有ったのかは定かではないがGIGANTEXのややチープなイメージ(性能は高いが)は戦略的には宜しくなかったのかもしれない。
GIGANTEXのホームページをリンクで貼り付けたがいきなり「EQUINOX」のロゴも飛び込んでくる。カーボンリム好きならEQUINOXは知っていることだろう。このように誰でも手に入れられる素材を使いGOKISOホイールは一つ一つ手組で作られている。
要するにだれでも手に入れられる素材を使用して作る手組ホイールがGOKISOホイールだ。完組みホイールのような一つ一つ専用設計(例えばCampagnoloのG3のような)ではない。はじめは本当に「ただの手組ホイールだな」という印象だった。
と、ここまではなんら他の手組ホイールと変わりない印象だがGOKISOハブはよく考えられていた。
CX-RAY専用設計の意味
実際にGOKISOのホームページ上を確認するとハブがCX-RAYに最適化されているらしい。
GOKISOホイールにはSAPIM #14 CX-RAYスポークを標準として使用している。そのスポークに特化したフランジ幅と穴形状を構成している。要するに他のメーカーのように、様々なスポークの使用を想定した汎用的な形状ではないようだ。
構造的にはGOKISOハブのフランジとスポーク穴の両端はスポークがぴったり寄り添うようにR形状が付けられている。結果的にスポークの首折れ部に無理な応力がかからないという設計になっている。超ワイドフランジハブ等はスポークの角度も急になりいくらかストレスがかかっている場合もある。
それらがどれほど強度的な面に影響を及ぼすのかは定かではないが、GOKISOハブはスポークの変形を最小限に抑え、耐久性向上に寄与しているのは間違いない。
先ほど「ただの手組ホイール」という第一印象を書いたが、GOKISOホイールはCX-RAYに最適化した「完組ホイールに近い手組ホイール」という位置づけになるだろう。完組ホイールは専用設計によるトータル的な性能が有る。それに対しGOKISOホイールはCX-RAY専用設計にすることにより完組ホイールに近づいている。
GOKISOは究極の回転体なのか?
最近値下げしたLightweightは「究極の回転体」と呼ばれているホイールだ。それもそのはず全てカーボンでできたホイールだ。スポークもリムもハブも全てカーボンだ。ハブはDTSWISSだから回転性能的な面で言うとDT240Sとさほど変わらないかもしれない。
Lightweightが「総合的」な究極の回転体だとするとGOKISOハブは「究極の回転部」と呼びたい。もしもLightweightのDTSWISSのハブ部分がGOKISOに変更されたのならば正真正銘「究極の回転体」と言えるだろう。というわけでGOKISOハブは「究極の回転部」には間違いないのだが、私の中でGOKISOホイールは「究極の回転体」ではなった。
理由としてホイールのトータルバランスを考えるとリムがやや見劣りする。個人的な主観が相当入っているが究極の回転部とCX-RAYに対し、あのリムは一つ見劣りする印象だと率直な印象を書きたい。確かに実験上の転がり抵抗の低さは優秀かもしれないが実際に使うと、リムは今ひとつという印象だった。
それらは後半のインプレッション部分で記すことにするが、速い話がGOKISOホイールのリムは変えたいと思ってしまった。GOKISOホイールにも究極の回転体としての位置付けを求めるならばリムはまだまだ改良する余地がありそうだ。リムはシマノが昔採用していたリム穴をプラスチックで一つ一つ留めるタイプだ。
リムテープという選択肢もあったはずだろうが外周の重量を気にしてリムフラップにしたと推測している。正直このGIGANTEX製のリムは古臭く感じてしまった。今手元にあるBORAクリンチャーのリムは穴がないタイプだ。そのままチューブレス化できる。
一世代前のリムに感じてしまう(性能は高いかもしれないが)このGOKISOのリムは高いお金を出して買ったサイクリストに対して、正直満足させることが出来るか非常に難しいところだと思う。性能を極限まで突き詰めたハブに対し、畑違いのカーボンリムは確かにトレンドの内径のワイド化がなされているものの「リム単体」としてみるとまず私は選択しない。
ベタな選択かも知れないが、ENVEの1.45のやSMART3.4のクリンチャー(リムテープ必須だが)あたりで組み直す方が良さそうだ。ハブ単体で発売もしているから究極の回転体を目指すのならば、性能を度返ししても私は別のリムを選択したい。
ここまでが実際に手にとって使うまでに触れて感じた印象だ。では実際に使うとどんな感触が得られたのか記していきたい。
GOKISOホイールインプレッション
GOKISOホイールをただ眺めて手にとってああだ、こうだ考えるよりも使ってみるほうがより多くの情報を得られる。実際に使ってみて私が感じた事を余すところ無く記していく。まずは他のホイールでは感じられない「精度」の部分だ。
GOKISOハブの精度
GOKISOハブにスプロケットを着けた時のことだ。はじめ取り付けられなかった。なぜか。今までにスプロケットなんてスポッと入るものだと思っていたが、GOKISOのフリー部分はほぼスプロケットと密着する。取り付けた時にほとんど隙間がない位に精度が高い。
製品の精度を人間が感じられるほどに高められた機材は初めてだ。GOKISOハブは究極の回転を備えているがスプロケットが取り付けられるフリー部分にも手を抜いていない。細かな部分の精度も並大抵のものではないと感じられた。
なかなか「取り付け」という作業自体に感動はしないものだが、GOKISOハブは違っていた。スプロケをフリーに取り付けるという時点でGOKISOハブは他のハブとは一線を画するのだ。この点は製品としての満足度は高い。確かに高い回転性能という恩恵をサイクリストにもたらすのがハブの目的かもしれない。
ただ、製品としてのGOKISOハブの精度は価格相応の価値があると感じられた。フリー部分でコレほどまでに人間がわかる精度なのだから内部の構造と精度も容易に想像できる。では実際に使ってみるとどうだろうか。
走行ノイズの少なさ
まず乗ってみて感じたことは「ノイズが少ない」ということだ。回転中にわかるほどヌルヌルしている事がわかる。これはネットやソーシャルでよく見られた表現だ。実際私はそれを見て「それ勘違いでは?」と思っていた。ところが単純に使った印象は「ノイズが少ない」や「ヌルヌル」と思ってしまった。なぜこのように感じるのだろうか。
おそらく最近の完組ホイールのハブ重量が関係していそうだ。聴く所によるとBORAのハブは100gに満たないらしい。対してGOKISOハブは重量(フロント240g・リア455g)が有る。かなり重い。外周部の重さよりも回転中心部に重みが有ることはデメリットではない。
むしろ構造上必要な重さといえる。ただ、どのような構造なのだろうか。GOKISOハブは軸受のまわりに弾性体サスペンション構造を設けている。そして、ハブのボディと軸受けの間は0.5mmのすき間を開けている。構造的に浮かせることで衝撃荷重を吸収しているのだ。
この0.5mmのすき間によりハブボディの歪みも直接軸受には届かない。結果として軸受の回転に影響を与えない仕組みになっている。この構造が人間に感じられるかというと、乗ると容易く感じられると言って良い。ノイズの少なさと、どこか「サスペンションのような感覚」があるのだ。
眉唾ものではなく間違いなくこの「サスペンションのような感覚」は感じられる。なぜならBORAクリンチャーのCampagnoloハブに乗り換えた途端消え去ったからだ。当然BORAに限った話ではないと補足するが「機材は相対評価」という事もやはりこのようにすぐさま機材を変える事により知ることが出来る。
ラチェットのかかりの良さ
他のハブには真似ができない部分は他にも有る。ラチェット数の異常なまでの多さだ。ラチェット機構は爪式を採用しており、4本の爪で92等分という非常に細かなラチェットを備えている。一番気に入ったのはこのラチェットの多さだ。なによりガツンとかかりの良さがすぐさま感じられる。
LightweightのDTのスターラチェットは最大32だ。他にラチェット数が多いメーカーはCHRIS KINGが思い浮かぶ。CHRIS KINGのラチェット数はClassicハブが72でR45は45だ。事実上92というのは類を見ない。ここまでくると変速が良くなったと錯覚してしまうほどのかかりの良さが感じられる。
脱線してしまうが、90年代後半にシマノの釣具リールにSHIPという技術が搭載された(現行はX-SHIP)。それまでのリールはハンドルを止めると一瞬逆転する遊びがあった。シマノのSHIPはこのすこしの遊びを排除したのだがあの遊びのない感覚に似ている。
今のハブは脚を止めて漕ぎだすと僅かながらラチェットが噛むまでに遊びがある。GOKISOのハブはあの遊びが極限までに絞りこまれた感覚があるのだ。この感覚はDURA−ACEのハブでも感じることはできないだろう。
フランジ幅の狭さ
ホイール好きなサイクリストの間では「フランジ幅が狭い=良くない」というなにか宗教的な考え方が定着している。私ももれなくその考え方であったが何が問題なのか。おそらく横剛性が下がってしまうことを懸念しているのだろう。ただこのフランジ幅からくる横剛性の心配はさほど気にしなくても良いかもしれない。
3月に行われた広島森林公園で開催された西日本チャレンジでGOKISOホイールを使った。下りの最高速度は60km/hをゆうに超える。そのなかで曲がるわけだがまったく不安はなかった。ヨレる感覚もなければ怖いといった感覚もない。横剛性を気にしている人は思い過ごしだと言える。
また、このフランジ幅の狭さはリム自体を左右に引っ張らない配慮から来ているようだ。フランジ幅が広いハブを使用した場合リムを左右に引っ張ってしまう。この場合リムの剛性が高ければ問題はないが、リムの剛性が低いとウェーブしたような「〜」この記号のような状態を作り出してしまう。
この状態が結果的に駆動損失を及ぼすらしい。この辺は実験データーが無いため詳しくはわからないが「フランジ幅至上主義」に一石を投じる理論といえるだろう。広ければ広いほど良いと思っていたハブのフランジ幅はそこまで広くなくても全く気にしなくて良い問題かもしれない。
このフランジ幅が狭いと縦剛性が強くなるのでは?という推測をしている。実際に下りの時はよく進む印象だ。チーム員とのロング練習でダムの下りを走っていると明らかに先行する。よく回転するという恩恵はそれだけこがなくて済むから脚を残せる。
GOKISOホイールの一番の強みはその伸びだろう。フランジ幅を気にしていたサイクリストは一度試乗してみて確認して誤解や思い込みを払拭して欲しい。
デメリットはリム
ハブはこのように最高の「究極の回転部」には間違いない。ただ「GOKISOホイール」として考えた時の問題は「リム」これにつきる。ハブ自体が単体販売が開始されたので書きたい。このリム(クリンチャー)はまだ「雨天での」実用には耐え難い。
雨天においてあまりにも制動しない。これはカーボンホイールの相対評価でLightweight、ENVE、ZIPP、ROVAL、と使ってきて特にブレーキが効かない。ブレーキシューが問題かと思っていろいろ試したが雨天時におけるブレーキの効きはフルブレーキングしてやっと止まるそんな感じだ。
雨天時のホイールテストをやっておきたかったので、雨でも使ったが町中を走る速度で信号が赤になり止まるのがイヤになるほど。この点は書き記しておきたいとおもう。要するに究極の回転を止められないリムというポジティブな?書き方もできるが雨天では使うのは辞めたほうが良さそうだ。
唯一の不満はやはりリム。ハブやスポークが最高だけに余計に悪く見えてしまうのがこのリムといえる。したがってやはりお気に入りのリムで組み上げるのが吉と言えるだろう。
まとめ:GOKISOホイールは買いなのか
GOKISOホイールは買いではない、しかしGOKISOハブは買いである。冒頭にこう記した。
一つ明確にしておきたいことが有る。実際に使って思ったのは「GOKISOホイール」と「GOKISOハブ」は別物だとまず定義しなくてはならない。何が言いたいのかというと「GOKISOホイール」としてとらえた場合と「GOKISOハブ」は分けて考えなくてはならない。
全ての結論はここにつながる。ハブとしてはこれ以上ないほどに性能が突き詰められたハブだ。出来ることならLightweightのハブをGOKISOにして欲しい。やや現実的ではないため、実際に使うとするならばリムは別のものを用意したほうが良さそうだ。
ここまでGOKISOハブのことを書いてきたが一つ書こうか迷っている事がある。いまだ整理の付いていない事だ。サイクルサイエンスのハブのページを見て欲しい。その中に書かれている内容はある種「ハブの回転なんてどうでもいい」といえる内容だ。
「タイヤのヒステリスロスに比べるとハブの内部抵抗なんて無視して良い」と要約できる。本当に元も子もない事を書いてしまったが、理論上はそうらしい。タイヤの転がり抵抗で何ワットも違うことは「25Cと23Cを比較転がり抵抗が小さいタイヤはどちらか」の記事でも触れている事だ。
大きな損失を及ぼすタイヤの抵抗に比べたらハブの内部抵抗なんて無視できるとサイクルサイエンスには書かれている。このような事実も把握しつつGOKISOの回転性能にも感動した結果では有ったが、タイヤの抵抗を減らしつくし、ハブの内部抵抗も減らした先に究極の回転体が存在しているのかもしれない。
サイクルサイエンスにはそのように書かれているが、この紹介動画を見るとハブの内部抵抗もここまでくると重要ではないかと思わされる。そしてハブ自体の精度も。
GOKISOハブはそういう意味でも感性に訴えてきた初めての機材だった。数値上では表せられない独特の感覚をサイクリストに与えてくれるGOKISOハブは、間違いなく「究極の回転部」と呼ぶにふさわしい機材だ。
GOKISOハブを用いた究極の回転体と呼べるものは、サイクリスト一人ひとりが作り上げるホイールなのかもしれない。
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