- 実重量は134g!
- (注)サイズ感が異なる。
- シューズの軽量化は予想以上。
軽量機材はいわゆる「ソノ手のブランド」が扱うことが当たり前だった。dash、EXTRALIGHT、AX、Lightweightと軽量化をウリにするメーカーは、大手メーカーが販売できないような「スレスレの軽量機材」をリリースすることで差別化を図っていた。大手メーカーは保守的である。多少の重量増に目をつぶりつつも安心と安全を備えた製品をリリースしたがる。
それらが身に着けるウェアやシューズであればなおさらだ。しかし、スペシャライズドは世界最軽量を謳うS-WORKS EXOSシューズをリリースした。NASAがパラシュート用に開発した素材Dyneema(ダイニーマ)を使用し、カーボンフレームで培った技術をふんだんにアウトソールに盛り込んだ。最先端の素材と最高のカーボンを用いて、耐久性と軽さを両立した異次元のシューズを生み出したのだ。
今回の記事は、オーダーカーボンシューズを除く既製品のシューズでは世界最軽量のS-WORKS EXOSシューズを実際に試した。S-WORKS 7シューズとの比較や、通常のシューズとは異なるサイズ感など細かくチェックした。そして「カタログ重量」をどれほど達成できているのか実測重量も公開する。
134g
自転車機材のカタログ重量はほとんどがまやかしである、はずだった。40.5サイズでインソールを抜いた実測重量はわずか134gだった。人によってインソールは異なるため今回は省いて計測を実施したが、EXOSのインソールは、たった9gだ。合計143gである。もしも、お手持ちのスマホがiPhone8(148g)ならちょうどいい。ほとんど同じ重量である。
信じられない話だが、限定500足のEXOS99の重量は99gだ。EXOS(無印)のBOAを外してDyneema素材をさらに使用すれば達成できそうな重量ではある。今回インプレッションしているシューズは通常ラインナップのEXOS(無印)だが、手に取るとそれでも”超”軽い。
驚きと共にS-WORKS EXOSシューズを手に取ったが、ほとんど「タビ」である。カッコイイロゴの入った、タビである(二度目)。この超軽量化を達成するために特殊な素材が選ばれた。Dyneemaという強靭な繊維である。DyneemaはNASAがパラシュート用に開発したそうだが、本来はアメリカのDMS社の商品名で、高密度ポリエチレンファイバー(HDPE)が本来の名前のようだ。
Dyneemaはとても薄い繊維のあつまりで、以下の特徴を備えている。
- 引っ張り強度が強い
- 折り曲げに強い
- 紫外線に強い
- 瞬間的な荷重に強い
- 伸び縮みが柔軟
野外で使用するサイクリングシューズの素材としては最高の素材だと思うが、シューズ用途でカーボンとDyneemaを合わせた製品はこれまで存在しなかった。スペシャライズドはパワー伝達も損なわず150gという驚異の軽さのシューズを達成するために、既存の製造技術で実現できないものがあれば自社で開発することにした。
フレームもそうだが、軽量化と高剛性化はトレードオフの関係にある。シューズも同じように軽量化してしまうと剛性は当然落ちてしまう。そこでS-WORKS EXOSシューズは、ライダーが生み出したパワーの伝達をできるだけ損なわないように新しいカーボンアウトソールを開発した。カーボンフレーム開発にも利用されている有限要素法と圧力マッピングを駆使し、不要なカーボン素材を極限まで減らした。そして剛性を担保しつつ軽量化を達成した。
EXOSのソール剛性値は13.0である(S-WORKS 7シューズの剛性指数は15.0)。S-WORKS7との剛性差はインプレッションでお伝えする(先に言っておくと剛性の差は判別できない)。最先端の素材Dyneemaと最新の技術で作りこまれたカーボンアウトソールが融合し、超軽量と高剛性という相反する性能を持つS-WORKS EXOSが生まれた。
次章からは実際に使用したインプレッションに移っていく。ここまで確認した最先端の技術と素材が使われた軽量シューズは、いったいどのような使い心地なのだろうか。
インプレッション
1つ気にしていたことがある。手に取った軽さから感じられる耐久面や剛性面での不安だった。しかし、ツアー・ダウン・アンダーでプロ選手達がガシガシ踏みつけても問題なかったように、それらは無用な心配だと実感した。私よりも大柄で圧倒的なパワーを備えたプロ選手達がEXOSを使っているのだから、私程度ではEXOSの性能を最大限引き出しているのかすら怪しい。
先に言っておくと、私は自転車に乗り始めてからずっとスペシャライズドのシューズを使用している。ロードでは7世代スペシャライズドのシューズを使ってきた。シクロクロスもマウンテンバイクもスペシャライズドのシューズを使用している。というのも私は膝が入る癖があって、その癖を和らげてくれるのがスペシャライズドのシューズだった。
EXOSを使ってすぐに分かったのは、軽量化をしつつもBody Geometryの潮流をしっかりと受け継いでいるということだった。軽量化を追い求めすぎて、肝心の履き心地や使い心地が犠牲になってしまっては本末転倒である。EXOSは軽量化と高剛性を達成しつつも人間工学に基づいたデザインも忘れてはいなかった。
Body Geometryソールとフットベッドが秀逸なのは、腰、膝、足を正しく配置してくれることだ。膝が入ってしまうとその分パワーが逃げてしまうばかりではなく、怪我のリスクも高まってしまう。実際に踏み込んで感じることは、既存のS-works ROAD 7とは異なり、足裏とペダルの距離が短く(薄く)感じ、ペダルに足裏が直接接触しているかのような印象を受けた。
また、EXOSのほうが足裏全体で踏んでいる感覚が強い。おそらく足裏で接触している面積に違いはないはずだが、インソールが薄いためそのように感じてしまうのかもしれない。そして、S-WORKS ROAD7とEXOSを比べてみてもソールの厚みや面積の違いはそれほどない(にもかかわらず軽い)。軽量化を考えると肉抜き以外にもわずかな厚みの変化はあるかもしれないが、「ソールの剛性が不足している」とは誰も思わないはずだ。
履き心地で気になるのは新しい素材Dyneema(ダイニーマ)を使用していることだ。Dyneemaは新型のオフロードシューズS-works XCでも採用されているとても強い繊維の集合体だ。冒頭でも記したとおり、DyneemaはNASAがパラシュート用に開発した素材だ。本来はアメリカのDMS社の商品名で、高密度ポリエチレンファイバー(HDPE)が本来の名前である。軽く、薄く、そして引き裂きにとても強い。
ダイニーマの履き心地は独特だ。適度な伸縮性があり、触るとぺラっと柔らかいが履けばしっかりと「硬い」のだ。今回のEXOSは(いままでの)S-WORKSシューズと比べると、よりタイトな作りになっている。私が普段使用しているシューズサイズは40.0を使用しているが、EXOSは40.5がちょうどよかった。おそらくハーフサイズかワンサイズアップをしないときつくて足が入らないと思う。
とは言うものの、個人差があるため可能であれば試し履きをしてから買うことをおすすめしたい。
ところで、EXOSはなぜこのような「タイトさ」を求めた設計にしたのだろうか。おそらくBOAを1つにしたことと、軽量化と関係しているのではないかと推測している。EXOSはBOAを締めなくとも、足を入れると途中(ちょうど脚の真ん中部分)で引っかかってロックされるような履き心地だ。「あえて足が途中で止まるように」シューズを狭めた設計に感じられた。
どういうことだろう?
足がシューズに入っていき、あるポイントで止まる。止った場所でちょうどヒール部分を上げられるようになる。結果的に足の前後移動は極限までなくなる。そして最後は、BOAで締め付けるだけで十分なホールド性が確保できる。対して、通常のS-WORKS ROAD 7シューズはBOA2つを使って閉め込む。そしてつま先部分のベルクロを横から締め付けるようにホールドする。
EXOSはBOAを1つ減らした代わりに、シューズそのものの設計で「足をシューズの奥に進ませない」仕組みを作りることでホールド性を高めた(と推測している)。いわば「設計がBOAの代わり」なのだ。EXOSのBOAはアッパー部分を締め付ける担当をしている。EXOSにおけるBOAの存在は縦方向の一体感を高めることを目的としていると感じた。ホールド性を高めるアプローチがBOAなのか、作りこみで実現するのかEXOSは脚をホールドするための仕組みを明確に役割分担している。
BOAが1つだからと言って「ペダリングがぶれる」わけではない。それは自身のペダリングが悪いわけであって、機材の責任範囲ではない。EXOSの履き心地をまとめると、横方向のサポートはDyneemaが、縦方向のサポートはBOAが、そして前後移動のサポートはEXOSのシューズの作り自体が合わさって、シューズと足のホールド性を支えている。EXOSは非常に高度な作りこみと設計、最新の素材で軽さとホールド性を高めた新しいスタイルのシューズと言る。
「一体感」という言葉が適切なのは、S-WORKS ROAD7よりもEXOSのほうだと断言できる。Dyneemaのメッシュは非常に薄いためフィット感も高まる。結果的に一体感が得られるのだ。その一方でEXOSが面白いのは、足のつま先の広い範囲は「一枚布」でふにゃふにゃになっている。足幅が広い私の足であっても、十分なゆとりがある。
「クリート取付け位置」について少し触れておきたい。クリートナットの初期位置は前方方向に寄せられて取り付けられている。クリートをカカト方向に寄せる場合、クリートナットを回転させることで、クリート取付け位置を5㎜後方に移動することが可能だ。私はクリートを後ろに移動した状態で使うことを好んでいるため、後方に移動する機能はうれしい。
重量
EXOSの実測重量は136gだ。以下にS-WORKS 7シューズとの実測重量比較を記載した。
- S-WORKS 7:片側210g(インソール無)、左右420g
- S-WORKS EXOS:片側136g(インソール無)、左右272g
- シマノクリート:36g
もともと軽いS-WORKS 7と比べ左右セットで148g軽くなる・・・。もしもご自身のシューズをお持ちならばクリートの重量を引いてどれくらい差があるのか確認してみてほしい。148gと言ってバカにしてはいけない。7.0kgのフレームが6.85kgになるのと一緒だ。重量減は1つ1つの積み重ねである。
軽さ
軽いシューズの恩恵はどれだけあるのだろうか。私はある記事を思い出した。MTBライダーのホセ・ヘルミダ選手が語った記事である。バイクジャーナルの記事でホセ・ヘルミダ選手が「100gのスマホだって何千回も上げ下げしたら疲れる」と言っていた。確かに軽いiPhone8(ちょうどいいことに重量148g)だって何千回も上げ下げしたら疲れるに決まっている。
ペダリングは回転運動だが、脚の上下運動を結果的に回転運動へ変換していると言っていい。平均ケイデンス90rpmでレースを1時間走ると5400回シューズを上げ下げする。レースが2時間であれば10800回上げ下げする。当然、重さを持つ物体が上下に激しく移動するわけだから、その都度エネルギーも消費している。EXOSのシューズを履いて思うのは、
「まるで全裸のような軽さ」
…。
と表現したい。真面目な文章が続き、いきなりこのようなことを書くと電車の中で笑いが止まらなくなってしまうかもしれないが、EXOSを初めて使った時は同じように笑うはずだ。あまりにも軽すぎる。人間は身に着けるもの、持つものの重量や大きさに対してとても敏感に反応する。ただ、手で感じる重量と足で感じる重量にはイメージの差があるらしい。
というのも足よりも手のほうが感覚器官としては優れているようで、その分重量に対するセンサーも鋭い。
簡単な例で言うと手に持つスマホがそうだ。iPhone 8よりもiPhone 8 Plusは幅が10.8mm、高さが20mm、奥行きが0.2mm、重量は54g重い。サドルの高さが10mm変われば誰だっておかしいと思う。スマホだって「わずか54g増」しただけで重さの違いを感じてしまう。
この「感覚の鋭さ」の話をする時に、以前フィッティングの際に教わった体のセンサーの話を思い出す。たとえば、目の前にあるスマホに「手を伸ばして取る」イメージをしてほしい。次に「足を伸ばして取る」も同じようにイメージしてほしい。おそらく足でスマホを取るイメージはなかなかしづらいはずだ。
この「イメージ」で重要なのは、「スマホに到達するまでどれほど詳細にイメージできたか」だ。この細かさの違いは、一般的に手のほうが細かくイメージできる。たとえばパラパラ漫画の枚数が多い少ないの違いとよく似ている。紙(イメージ)の枚数が多ければなめらかなイメージとして現れる。少なければ少しカクカクしたイメージだ。
さらにスマホを(足や手で)取り上げて、操作するイメージをしたらどうだろう。
もはや足ではそのイメージすらつかなくなる。「イメージできないのは、足でいつもスマホを操作していないから」と思われるかもしれない(私もそう思っていた)。そこで、地面を足でつかんで歩くイメージと、手で地面をつかんで歩くイメージ両方を想像してほしい。その場合いつもは四つんばいにならない人であっても、手は確実に地面をつかむイメージをすることができる。
それだけ手の先のセンサーは非常に優れているため、重量にも敏感に反応する。スマホの50gは重たいと感じるが、仕事に行く時の革靴とスニーカーとではそれほど軽さの違いが感じられないのも無理はない。実際のところ、知らぬ間にシューズのわずかな重量は脚の運動や疲れやすさに影響を及ぼす。私はローラーでEXOSを使用してからS-WORKS 7に戻したのだが、
「これは、あかんやつや・・・。」
と思った。どういうことかと言うと、シューズの重みはペダリングの回転運動を妨げてしまうことがすぐさま理解できた。これは体験せねば理解できない世界であった。たとえば、バイク重量の違いは「登りの進みやすさ」に明らかな影響を及ぼす。その一部の要素としてシューズの重量も影響してくるはずだが、シューズの場合はさらにペダリングの運動にも影響を及ぼしてしまう。
EXOSという強烈な軽量シューズを使うことで改めて理解したことだ。軽量化は身に着けるものにこそ、こだわるべきだと。私が古くから愛用しているサンボルト社のウェアも特に軽い。身に着けるヘルメット、グローブ、シューズ、ソックス、インソール(EXOのインソールは9g)と、すべては総合的な引き算なのだ。
まとめ:回転部分の軽さは正義
「回転部分はできるだけ軽く」
ロードバイク乗りならば、リムを軽くしたり、タイヤを軽くしたり、チューブを軽くしたり、はたまたリムテープを・・・、と軽量化にやっきだ。いままでの「回転部分」は主にホイールだった。しかし忘れてはならないのは、すべての始まりはペダリングにある。シューズが左右で150g以上(場合によってはそれ以上)削減されることを想像したらどうだろう。
最後にEXOSの価格についても触れておかねばならない。EXOSの価格は51,800円だ。私はこの価格を「安い」とは言い切ることはできない。しかし、ここまで書いてきたとおり、最先端の素材と軽さを備えたシューズはほかに存在していない。値は張るが、EXOSシューズが自身のライディングにどれくらいメリットがあるのか想像してみよう。
たとえばポタリングやカフェライドにはEXOSは向いていない。買わないほうがいい。そればかりか、むしろ歩きやすいSPDシューズがいい。登りのロードやクリテリウムといったレースであれば私はEXOSを選ぶ。インターバルがかかるクリテリウムにおいて、ケイデンスが高くなるのでシューズの軽さも生きる。
そしてヒルクライマー達にとってこれ以上のシューズはないと思う。文句なしに買いだ。「食べ物や排泄物の重量すら気にする狂気に満ちた選手」であればEXOSを使わない理由などない。乗鞍や各地のヒルクライムレースにEXOSシューズがあふれる光景が目に浮かぶ。その上でこの価格を考えると、
「買う理由が値段なら止めておけ、悩む理由が値段なら買っておけ。」
という言葉を思い出す。価格が安いから買うという場合はたいてい「安物買いの銭失い」になる。良いものはたいてい高い。そして「良いんだけど値段がなぁ」となる。その場合は思い切って買ってしまうと製品に満足する場合が多い。EXOSはどう考えても後者だ。安いものを複数個持つよりも、良いものを少しだけ。これは特に自転車機材に当てはまる。EXOSシューズの値段に対して私は以上のような考えを持っている。
自転車機材の乗り物としての軽量化は飽和状態にある。これからは身に着けるウェア類の軽量化にシフトしていくのだろう。サンボルトの軽量クライミングウェアがそうであるように、さらなる軽量化の波はシューズにまで及び始めた。「超軽量機材」というカテゴリはどこかスレスレな危ないイメージがあったが、スペシャライズドは最先端の素材と技術で、新たなカテゴリに軽量化の波をもたらすのかもしれない。
S-WORKS EXOS 究極の軽さがもたらす速さ(Specialized)