スポークテンションは剛性に影響しない、結線も効果なし。 ディモン・リナードのホイール論

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"Damon Rinard" photo:cyclist.com

“Damon Rinard” photo:cyclist.com

エアロダイナミクスの話題を追いかけていると、決まって登場するのがエアロダイナミクスエンジニアのデーモン・リナード氏の名前である。リナード氏の名を知らずして、現代の「エアロロード」は語れない。リナード氏が現代のエアロロードを作り上げたと言っても過言ではないのだ。

リナード氏は、元Cerveloのエアロダイナミクスエンジニアだ。リナード氏が歩んできた「エアロロード(エアロを追求してきた道のり)」は実に華々しい。トレックでスピードコンセプトの開発に始まり、Cerveloで数々のエアロダイナミクス設計に携わった。リナード氏が携わった頃のトレックとサーベロのバイクは、2015年Lava誌の「Kona Bike Count」において1位と2位の座に輝いた。

CerveloやTREKで世界最速のバイクを作り上げたのち、キャノンデールへ引き抜かれた。そしてCannondaleのSISTEMSIXで世界最速のバイクを生み出した。ドイツのツアーマガジンのテストにおいて、2020年現在その記録はいまだ破られていない。リナード氏の歩んできた「エアロロード」そのものが「最速の道」だった。

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エアロダイナミクスの研究と並行して、リナード氏はホイールについても様々な研究と実験を行っていた。謎が多いホイールに対し、リナード氏は実験を繰り返しデーターを集めた。今回の記事は、その中でも特に有益と思われるホイールに関する疑問や考え方をリナード氏の資料から紹介する。

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ホイールの剛性とは?

ホイールを固定しリムのたわみを測定した実験器具。重りを引っ掛けて、ダイヤル測定器で測定する。 photo: sheldonbrown

ホイールを固定しリムのたわみを測定した実験器具。重りを引っ掛けて、ダイヤル測定器で測定する。 photo: sheldonbrown

ディモン・リナード氏の回答:「剛性」とは変形のしづらさの度合いのことだ。ある力に対して変形が小さい時は剛性が高い(大きい)という。対して、変形が大きい時は剛性が低い(小さい)という。ホイールの「横方向の剛性」とは、ホイールにある荷重が横方向から加わった際にたわむ変形の度合いだ。数学的な表現をすると、剛性は柔軟性の逆数になる。

剛性について私たちが誤解しがちなのは、「剛性と強度はイコールの関係ではない」ということだ。剛性と強度は別の話題として扱う必要がある。実験やメーカーのカタログに登場する数値や測定データーが「剛性」の話なのか「強度」の話なのか注意深く読み取る必要がある。

ライダーがしばしば疑問に思うことの中に、「ホイールの剛性は高いほうが良いのか」という議論がある。ホイールの剛性はどれだけ高ければよいのか。そもそも、リムが割れる一歩手前の限界までスポークテンションを高める必要があるのか。初歩的な質問であるものの「ホイールの剛性は高ければ高いほど良い」という一般的な考え方を、いったんどこかにおいやって見つめ直す必要がある。

それでも、「ホイールの剛性」を気にかけているライダーはとても多い。考えるべき基本的なこととして、「バイクパフォーマンスの総量に対し、ホイール剛性はどれぐらいの割合で影響を与えているのか」ということだ。まず、バイクのパフォーマンスに最も大きな影響を与えているのは空気抵抗だ。高速域になると8割以上を占める。

リナード氏は、SYSTEM SIXの開発の際に「速度の違いによる機材抵抗の変化」をわかりやすくグラフ化している。以前の記事で紹介した内容を再掲する。

【最終結論!】エアロロードと軽量バイクどちらが速いのか? エボ VS システムシックス
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速さとはいったい何だろうか。単純な話をすると、ライダーが生み出したすべてのパワーを推進力に変えられたらいい。しかし、現実的に考えても無理な話であり、あらゆる抵抗が邪魔をしてくる。「抵抗」とひとくくりに言ったとしてもその種類は、空気抵抗、転がり抵抗、摩擦抵抗とさまざまだ。

抵抗は税金と似ている。稼いだお金(パワー)は税金(抵抗)としてどこかに消えていく(たいてい何に使われているのか知ることはできない!)。手元にはわずかな貯金(推進力)が残るだけだ。貯蓄は収入と支出のバランスで表されるように、「速さ」も同じようにパワーと抵抗の引き算で示される。抵抗の要素をさらに細かく分類していくと、次の6つに表すことができる。

  • 空気抵抗
  • 転がり抵抗
  • ベアリング抵抗
  • 高度抵抗
  • 加速抵抗
  • ドライブトレイン抵抗

抵抗の要素は、ライダーやバイクに対してどのような影響を及ぼすのだろうか。

サイクリストたちにお馴染みなのは「空気抵抗」だ。「空気抵抗は速度に比例して増えていく」という誰しもが知っている自然界の法則がある。速度が上がれば上がるほど、ライダーを押し返す力は高まっていく。駆動抵抗や転がり抵抗と比べても、空気抵抗は速度に比例して顕著に増加していく。

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Figure 1は横軸が速度、タテ軸がパワーを示している。速度(km/h)が増せば必要なパワー(グレーの線)も比例して増加することが読み取れる。グレーの線は必要なパワーの総量だ。グリーンのAEROは空気抵抗、レッドは転がり抵抗やベアリング抵抗である。速度が増せば空気抵抗(AERO)が支配的になる。駆動抵抗よりも、転がり抵抗よりも、空気抵抗(AERO)の割合が増えていく。

ここで見落としてはいけないポイントがある。

ロードバイクはさまざまな速度域で移動する乗り物だ。したがって、「高速域だけが重要」という考え方だけでは不十分である。キャノンデールはSYSTEMSIXの開発において、この重要なポイントを見落とさなかった。エアロダイナミクスに対して現実的なアプローチをするためには、「速度の違いは抵抗の割合にどのような変化をもたらすのか」という話からスタートする必要があった。

いったいどういうこと?

スクリーンショット 2018-07-13 8.10.02

Figure 2のグラフから確認してみよう。ヨコ軸が「速度(km/h)」で、タテ軸が「パワーの割合(%)」である。抵抗とひとくくりに言っても、転がり抵抗や空気抵抗が存在しており、抵抗全体にしめる割合に違いがある。まずは速度が0(km/h)のポイントから注目してみよう。

0km/h地点では、転がり抵抗(Rolling Resistance)とベアリング内部抵抗(WB)にほとんど埋め尽くされている。理由としては、ゼロスタート時点では速度が遅いから、空気抵抗の影響を受けることがない。現実世界において私たちライダーが体で理解していることだ。

言われてみれば当たり前なんだけど、この考え方をしっかりとグラフで表してわかりやすくしたことがスバラシイと思う。

グラフで見落としていけないポイントは、「線がクロス」している部分だ。速度が増していくと、空気抵抗は増加し、転がり抵抗(RR)やベアリング抵抗(WBR)の「割合が小さくなって」いく。線がクロスしているポイントは、「それぞれの抵抗がちょうど50対50で均等になる速度域」だ。

スクリーンショット 2018-11-18 5.38.57

補足:『スピードが上がっても、転がり抵抗(RR)やベアリングの抵抗(WBR)の「絶対値」は小さくなっていない。抵抗全体に対してRRとWBRの「割合」が変化している。』

空気抵抗と転がり抵抗が50:50の割合になる速度域はおよそ「15km/h」だ。スピードが増せば、抵抗全体にしめる空気抵抗の割合も増加していく。速度40km/h以上では、抵抗全体のほとんどが空気抵抗に支配されてしまう。タイヤの転がり抵抗やベアリング抵抗の「割合」は、速度が上がるほど減っていく。トップスピードに達すると、もはや空気抵抗の割合が支配的だ。

あらためて言っておきたいのは、抵抗全体に対する割合が小さくなったとしても、絶対的な抵抗自体は小さくなってしまうわけではない。空気抵抗が抵抗全体にしめる割合に幅が利きすぎているため、摩擦抵抗や転がり抵抗の割合は相対的に減少していく。各抵抗における絶対的な抵抗自体は変わることはなく(わずかには変動するにせよ)、常に駆動抵抗や転がり抵抗は存在している。

したがってエアロダイナミクスがいかに優れていたとしても、抵抗の小さい機材を使うことは無駄ではない(1つ1つの引き算が大切だ)。この時点でまず理解しておきたいポイントは、「速度の違いは抵抗の割合に変化をもたらす」という傾向だ。

ここで、ホイール剛性に話を戻そう。ある程度の剛性が備わったホイールであれば速さにはそれほど影響しないということになる。バイクが進む上で抵抗となる要素のうち、ホイール剛性が影響するのはほんの僅かだ。それよりも、エアロダイナミクスや重量を減らす事によって速さを手に入れたほうが賢い選択と言える。

ご存知の通り、空気抵抗は速度に比例して増していく。そのため、スピードが上がれば上がるほど、エアロダイナミクスを改善することで速く走ることができる。タイヤが変形することによって生じるヒステリシスロスや、バイクが路面の凹凸で持ち上げられることで生じるインピーダンスロス、チェーンやドライブトレインのフリクションロスといったパラメーターもバイクパフォーマンスに影響を及ぼしている。

速度が増せば増すほど、バイクパフォーマンスの総量に影響を与える割合はエアロダイナミクスが支配的になっていくが、ヒステリシスロスやフリクションロスは(絶対値として存在するものの)割合は小さくなっていく。

さらにパラメーターを厳密に突き詰めていくと、ライダーが行うトレーニングも1つの要素として扱う必要がある。トレーニングはエンジンの出力性能に直結するため、重要なパラメーターとして考慮するべきだろう(速いやつはどんな機材でも速い、というやつだ)。このように様々なパラメータがバイクを速く進ませるために登場する。

これら、自転車を進ませるために考慮すべき様々なパラメーターと比較し「ホイールの剛性」というものがパフォーマンスに占める割合は非常に小さい(もちろん、ある程度しっかりと組まれたホイールであれば)。トータルでバイクパフォーマンスを向上させるためには「ホイールの剛性」はある程度備わっていればじつはそこまで神経質に気にかけるほど重要ではない。

では、「ある程度」の程度はどこに存在しているのか。剛性に影響を及ぼす(とされている)スポークテンションについて、リナード氏は実験を行っている。

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スポークテンションで横剛性は変化するか?

Wheel Flexibility as a Function of Spoke Tension: sheldonbrown

Wheel Flexibility as a Function of Spoke Tension: sheldonbrown

ディモン・リナード氏の回答:”スポークが完全にたるんでいない限り”スポークテンションによってホイールの横剛性が大きく変化することはない。
1.Does stiffness vary with spoke tension?(Damon Rinard)

Wheel Stiffness Test
Measurements of the lateral stiffness of many bicycle wheels

これは衝撃的な事実だ。

スポークの張力を上げまくってもホイールの横剛性に有意な差は発生しない。リナード氏が実施した実験内容は、フライス盤にハブを掴ませて荷重に対する変位を測定している。実験で明らかになったのは、「スポークテンションが上がると横剛性があがる」というのは間違えた理解・認識だということだ。このような机上の空論は、1つの実験でいとも簡単に否定される。

「机上の空論」とはよく言ったもので、計算上は「そうなるはず」なのだが実際に実験をすると様々な要因が複雑に絡み合って計算通りにはいかない。実験ではよくある話だ。そして、実際に実施した実験と得られたデータの方が机上の空論よりも信憑性がある。

「スポークテンションが高いとホイールの横剛性も高い」と安易に考えたがるホイールビルダーやライダーは一定数いる。リナード氏の実験では、そのような傾向やデータは得られなかった。スポークが完全にたるまない限り、スポークテンションによってホイールの剛性は、大きく変化しない。

実際にフライス盤を用いて行った実験は次のとおりだ。スポークを1/4単位で徐々に緩めながらホイールの横方向のたわみを測定する。スポークが非常に緩んで完全にたるんだ状態になるまでは、ホイールの横剛性に大きな変化は見らない。

ただし、スポークが非常に緩んで一部が完全にたるんだ状態になると剛性が下がる。逆の考え方をすると、ホイールの柔軟性が向上する。下の最後の2つのデータポイント、9と10は、スポークが非常に緩んでいてホイールがほとんどたるんでいるときに得られたデーターだ。これは予想通りで、スポークがたるんでいるとホイールに剛性を加えることができない。

ホイールを圧縮した際には簡単に座屈する。座屈とは構造物に対して加える荷重を次第に増加すると、ある荷重で急に変形の様子が変化し、突然大きなたわみが生ずることだ。走行中にスポークがたるんだホイールは、スポークがたるんでいるとリムを支えることができないため、弱いホイールになる。

これは、スポークテンションを高くしたホイールを作成することで、ある程度回避することができる。最初にスポークテンションを高くしておけば、スポークがたるむ前に高い荷重に耐えられるため、データポイント9と10に示すような急激な柔軟性の増加は起こりにくくなるというメリットがある。

ただ、実際にはスポークテンションを上げると「硬くなった」と感じる事はある。この場合横剛性が増したというよりも、縦剛性が増している可能性はある(この考え方も机上の空論で、実験データーとしては得られていない)。

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スポークの太さや形状は剛性に影響を与える?

ディモン・リナード氏の回答:すべてが同一のモデルと定義した場合、太いスポークはホイールの剛性を高める。2.0mmのスポークで作られた典型的な32本スポークのホイールは、2.0-1.45mmのスポークで作られた同様のホイールよりも約11%も硬くなる。

実験では、ハブ、スポーク数、リムを統一している。構造上の違いはスポークだけだ。結果は、スポークが細いホイールは、フロントで1.30mm、リアで1.70mmの偏向が発生した。スポークが太いホイールは偏向が少なく、フロントでは1.17mmだった。

リアは1.40mmしか偏向しなかった。これは、太いスポークのホイールの剛性が11%増加したことを意味している。興味深いことは、「ホイール剛性」はスポーク太さだけが支配しているわけではないということだ。リムやその他の要因が複合的に混ざり合いながら剛性を形成していく。

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ホイールの剛性を決定する要素は?

ホイールは複数の部品の集合体である。それらが組み合わさり1つのホイールを構成している。では、ホイールの剛性はどのような要素が決定しているのか順番に並べてみよう。

  • スポーク本数
  • スポークの太さや材質
  • リムのハイト、材質、重さ
  • ハブフランジの間隔

スポーク本数の数によって剛性は変化する。何本ものスポークが連動して互いに支え合っているからだ。先程も述べたとおり、スポークの太さや材質も剛性に影響する。リムハイトや重さも影響する。

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まとめ:実験から判明する事実

リナード氏の実験からわかることは、ホイールは1つの要素ですべての性能が決定されるわけではないということだ。スポークテンションを高めれば高めるほど、ホイール全体の剛性が向上するというのは間違えた認識だった。対して、太いスポークや、スポーク本数を増やすほど剛性は高まる。

ホイールは、ハブ、スポーク、ニップル、リム、フランジ幅といった様々な要素から成り立っている。それらを複合的に扱うことで1つのホイールが完成する。現在もエアロダイナミクスで世界最速のバイクを生み出すリナード氏のホイール実験は興味深い。その他にも結線について触れており、一見の価値がある内容だ。

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ジェイムズ ウィッツ(著), 西薗 良太(監修), 西薗 良太(翻訳)
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