今回の記事は、チタンの鎧施工元のクレストヨンドさんから頂いた回答を掲載します。
消費電力5%低減の内訳
Q1.モーターの消費電力=負荷装置の抵抗+チェーンの駆動抵抗だと思います。
A1.その通りです。両者の和が投入エネルギーとなります。
- 30km/h想定の実験において、消費電力が5%低減した。
- 1は「負荷と駆動抵抗の合計」が5%減っている。
- 1と2から、「駆動抵抗自体」が5%減ったわけではない。
2と3を「結びつけた」理由が不明確であるため解説をお願いできないでしょうか。
- 定電圧電源から電流量だけを可変して DC モーターを駆動している。
- 評価対象のチェーンリング、チェーン、スプロケを通して走行タイヤを目標速度まで回転させる。
- このとき、疑似路面の鉄車輪も同じ速度で回転する。重りと鉄車輪の重量を合わせた 30kg が走行タイヤを疑似路面へ押し付け、一定の走行抵抗を生んでいる。なお、 1 輪 30kg は自転車の 2 車輪で 60kg の人が走行していることを想定している。
- 一定速度になったときの電流値を電流計(電圧は5Vで一定のため、消費電力の変化率は電流変化率で観測できる)で測定する。タイヤの回転運動により、短時間で電流値が変動するため、変動範囲を求めた。
- 走行速度 30km/ hr における投入電流値幅から施工品と非施工品との差分を検討した。
チェーンリング、チェーン、スプロケにチタンの鎧を施したもの、しないものを用い、一定速度の走行を維持するのに必要な投入エネルギーを比較します。
- 非施工品:a
- 施工品:b
- 負荷装置の抵抗:R1
- チェーンの駆動抵抗:R2
- 投入エネルギー:P
とすると、
- R1a+R2a=Pa (1)
- R1b+R2b=Pb (2)
両者の走行速度を同じになるように電流量(電力量)を調整しているため、 R1a=R1b となります。
(1)-(2)=R2a-R2b=Pa-Pb (3)
式は駆動抵抗の減少量が投入エネルギーの差分になることを示しています。時速30km での走行では、駆動抵抗の減少分(0.5W) が投入エネルギー(10W)の5%相当でした。
チタンの鎧のカタログなどに出てくる「10W」という数字の計算は正しいのか?
実験で得られた結果:駆動抵抗R2の低減効果は 0.05P、但し速度は30km/hr
- 自転車の上級者は 200W 相当のエネルギーを出せる。
- 投入エネルギー 200W の 5 %にあたる 10W 相当 を低減できる。
上記の考え方が成り立つのかを考察しました。まず、チェーンに作用する力を考えます。(上図参照)
チェーンには、抵抗力と駆動源によるトルクTが作用しています。両者は釣り合っているため、
T=負荷抵抗力 F1+駆動抵抗力 F2
となります。
駆動抵抗は、チェーンとチェーンリング・スプロケとの接触面(赤線で図示)で発生します。摩擦力は摩擦係数と表面の水平方向に作用する力との積となります。すなわち、摩擦抵抗力F2 がトルク T に比例します。トルクは投入エネルギーPに比例しているため、摩擦抵抗力 F2 は投入エネルギー P に比例します。
F2∝P (1)
駆動抵抗損失R2=F2×速度V(単位時間当たりの長さ )(2)
(1)(2)よりR2∝Pが導かれます。施工の効果が R2 の一定比率で作用していると仮定すれば
低減効果αはPに比例した式で表現できる、と考察できます。
α=KP (K:定数)
結論:低減効果 α は投入エネルギー P に定数を掛けた式で表現可能と考えられる。但し、0.05 という数字の精度はDCモーターの効率等を考慮していないため、もう少し低い値になると考えられる。
インプレッション
まず、チタンの鎧の性能を最大限に引き出すためには、チェーンリング、チェーン、スプロケット、プーリー全てに施工する事が公式に推奨されている。チェーンだけでも良いと思うのだが、小さな抵抗を削減するという1つ1つの積み重ねが、結果的に大きな抵抗削減となってライダーに恩恵をあたえる。
効果を最大限に引き出すためには、一切の妥協を排除する必要がある。今回のインプレッションでもドライブトレイン全てにチタンの鎧を施工した。
結局、私を含めた読者が知りたかったことは「チタンの鎧を施工した機材は、体感できるほど違いが生じるのか」ということだ。実際に使用し体感できたことを書いておく。体感しているギアの重さと、実際にチェーンがかかっているスプロケットの位置関係に誤差が生じる印象だった。別の言い方をすると、想像しているギアの位置よりも実際には重いギアがかかっていた。
21Tにかかっていたと思っていたが実際には19Tにかかっているという感覚の誤差が生じる。いわゆる使い古された言葉の「ギア一枚軽い」というやつであるが、この表現は使いたくないもののチタンの鎧に関してはこの表現が最も適切だった。通常のインプレッションであれば「数値的な表現ができないため感覚的な話になるが」という一文が付与されるが、今回は違う。
STRAVAのタイムが短縮しただとか、峠のタイムが短縮したというような都合の良い話は一切ない。しかし、自浄効果は本当で汚れがほとんど着かなくなる。200~300km乗っても洗浄後のチェーンのままだ。チタンの鎧は摩耗も減らす効果があるのかもしれない。機材を長持ちさせるために施工するという事も十分ありだ。
一見すると、オカルト的な要素があるチタンの鎧であるが実際にトルクをかけたときに実際のギア比よりも軽く感じる。ただ、残念なのはチタンの鎧を自分自身で使わなければ「怪しい、怪しい」の範疇からは出られなかったということだ。
チタンの鎧に興味がある人は、まずは騙されたと思って(当然チタンの鎧は騙すような技術ではないのだが)物は試しで一度使ってみることが話が早い。皆が使っていない今だからこそ、相対的に機材のアドバンテージがある。皆が皆VENGEを使ったことによって、機材の空力性能に大きなアドバンテージが得られなくなったことと同じように、チタンの鎧が普及していない今だからこそメリットがある。
もう一つ、チタンの鎧の効果を表現するための実験方法についてだ。もう少しユーザーよりに落とし込んだ内容であっても良いのではないかと思っている。単純に、「ケイデンス90rpm、40km/h一定速度でホイールを回転させる条件において、施工チェーンと未施工チェーンを比較した場合5Wの差が生じた」のような内容だけでサイクリストは一瞬で飛びついてくれる。
電流計を用いた測定は、より高精度で確実な方法であるかもしれない。ただし、サイクリストは様々な知識レベルの方が居るため誰にでもわかりやすい実験内容のほうが受け入れられやすいと思う。そういう意味では、一部の理解したサイクリストのみにしかチタンの鎧の効果は響いていないのかもしれない。
私自身、チタンの鎧を施工した機材はなめらかに「感じる」と素直に書いておきたい。ただ、感覚的な話はプラシーボ効果や思い違いもある(その日の調子なども影響する)ので正確ではない。サイクリストにチタンの鎧の効果を知らしめるためには、セラミックスピードのUFOやMoltenSpeedWax、AbsoluteBlackのオイルを検証したおなじみのZeroFrictionFactsで検証するのが最も手っ取り早いだろう。
ある意味、日本に限らず世界に知らしめる最も簡単で確実な方法である。チタンの鎧を信じるか信じないか、その後押しをできる余裕はまだ残されている。
チタンの鎧の効果は、実際に自分で試して感じ取る必要がある。私自身もまだチタンの鎧の効果を探りながら運用中である。読者の方で、チタンの鎧を施工された方がいらっしゃったら、効果があるなしにかかわらず率直な感想を寄せて頂けると幸いだ。